説明

測定系調整方法

【課題】磁界発生部によって集められる磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置を略一致させることが可能な測定系調整方法を提供する。
【解決手段】本発明は、検査容器400内にて、抗体を結合した発光標識と、抗体を結合した磁気粒子と、被分析物質とを反応させて作製した反応複合体を、磁界発生部300から発生する磁場で捕捉し、捕捉部に光を照射し、反応複合体からの発光を光検出部500で検出する測定系の調整方法であって、検査容器400内の磁気粒子を磁場で捕捉する磁気粒子捕捉工程と、光を照射して磁気粒子由来の発光信号を測定する発光信号取得工程と、上記発光信号を利用して、前記磁界発生部の配置を調整する位置調整工程を有していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光やラマン散乱光などの光強度を検出することによって、抗体と反応した被測定物質の濃度を測定するための測定系の調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている抗原抗体反応を利用した免疫測定方法として、蛍光免疫測定方法がある。この方法では、まず、試料中の被測定物質(抗原)を、抗体が結合された蛍光体(発光標識)と、抗体が結合された磁気粒子に反応させて、反応複合体を作成する。そして、上記反応複合体に光を照射した時に発する蛍光強度を測定して、該試料に含まれる被測定物質の量を測定する。この時、反応複合体を磁石で集合させた上で、当該反応複合体に向けてレーザー光を照射することで測定精度を向上させる。当該反応複合体から発せられる蛍光の強度は、被測定物質の量に比例することを利用して、被測定物質を定量測定する。(特許文献1)
【特許文献1】特開平5−249114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
高い精度で被分析物質の定量測定を行うには、磁界発生部によって凝集した反応複合体(以下 反応複合体凝集体と呼ぶ)の中心位置と励起光の光スポットの中心位置とが略一
致していることが好ましい。この理由を以下に述べる。なお、反応複合体凝集体の中心位置とは、反応複合体凝集体において反応複合体密度の一番高い位置として定義する。また、励起光の光スポットの中心位置とは、励起光強度の一番強い位置として定義する。
【0004】
反応複合体を収容した検査容器を磁界発生部の近傍に配置すると、磁界発生部直下において磁界強度が最も強いため、反応複合体はこの磁界発生部直下を中心にして反応複合体凝集体を形成する。反応複合体凝集体の密度は、この磁界発生部直下で高く、中心から離れるにしたがって低くなる。
【0005】
よって、反応複合体凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とが略一致している時は、光スポット内に存在する反応複合体の数は多くなる。逆に、反応複合体凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とが離れているときは、光スポット内に存在する反応複合体の数は少なくなる。従って、光スポットの中心位置と反応複合体凝集体の中心位置とが離れていると、同じ試料を測定しても、光スポット内にある反応複合体の数は少なくなるため、反応複合体を構成する発光標識からの発光信号強度は弱くなる。そのため、検体に含まれる被分析物質の濃度測定精度を低く見積もることになる。
【0006】
このように、高い精度で被分析物質の定量測定を行うには、反応複合体凝集体の中心位置と励起光の光スポットの中心位置とが略一致するように測定系の組立て調整を行うことが好ましい。
【0007】
特許文献1では、反応複合体を磁界で集合させ、レーザー光を集光レンズで該集合点に照射し、蛍光集光用集光レンズで蛍光を集光すると、記載されている。しかしながら、反応複合体の中心位置と、励起光の光スポットの中心位置とが略一致していることを確認する方法については、記載されておらず問題であった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記のような課題を解決するためのものであり、本発明の測定系調整方法は、
検査容器内にて、抗体を結合した発光標識と、抗体を結合した磁気粒子と、被分析物質とを反応させて作製した反応複合体を、磁界発生部から発生する磁場で捕捉し、捕捉された反応複合体に光を照射し、反応複合体からの発光を光検出部で検出する測定系の調整方法であって、検査容器内の磁気粒子を磁場で捕捉する磁気粒子捕捉工程と、前記照射された光に伴う磁気粒子由来の発光信号を前記光検出部で測定する発光信号取得工程と、上記発光信号を利用して、前記磁界発生部の配置を調整する位置調整工程を有していることを特徴とする測定系調整方法である。
【0009】
また、本発明の測定系調整方法は、前記発光信号取得工程においては、捕捉された磁気粒子凝集体の大きさが、光スポット径よりも大きく設定されることが好ましい。
【0010】
また、本発明の測定系調整方法は、前記位置調整工程では所定方向に磁界発生部を動かし得られた発光信号と、前記所定方向と反対の方向に磁界発生部を動かし得られた発光信号とに基づいて、前記磁界発生部の配置を調整することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の測定系調整方法によれば、磁界発生部によって集められる反応複合体凝集体の中心位置と励起光の光スポットの中心位置とを略一致させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第1実施形態に係る測定系調整方法が適用される測定系の模式的斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る測定系調整方法が適用される測定系の模式的断面図である。
【図3】検査容器の斜視図である。
【図4】(A)抗体が結合された発光標識、(B)被測定物質、(C)抗体が結合された磁気粒子を模式的に示す図である。
【図5】反応複合体を模式的に示す図である。
【図6】磁気粒子凝集体の位置と磁気粒子の発光強度の関係を示す図である。
【図7】磁気粒子凝集体の大きさが光スポット径に比べて小さい場合の、磁気粒子凝集体中心と光スポットの中心との位置関係を説明する図である。
【図8】磁気粒子凝集体の位置と磁気粒子密度との関係を示す図である。
【図9】磁界発生部300の移動に伴う磁気粒子凝集体の形状変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、第1実施形態を、図面を参照しつつ説明する。図1は第1実施形態に係る測定方法に用いる測定系の模式的斜視図であり、図2は第1実施形態に係る測定方法に用いる測定系の模式的断面図である。図1及び図2において、100は光源部、210は第1レンズ、220は第2レンズ、300は磁界発生部、400は検査容器、500は光検出部、600は演算部、700は磁界発生部調整機構をそれぞれ示している。
【0014】
第1実施形態に係る測定方法は、検査容器400内の抗体と反応した被測定物質(抗原)の濃度を測定するためのものである。測定をするための測定系は、概略、入射光学系と、検出光学系と、磁界発生部とを有している。
【0015】
入射光学系は、検査容器400に励起光を照射する。入射光学系からの励起光によって、検査容器400内の反応複合体から、蛍光もしくはラマン散乱光等が発せられる。
【0016】
検出光学系は、検査容器400内の反応複合体からの発光強度(スペクトル)を検出す
る。
【0017】
磁界発生部は、検査容器400内の反応複合体を所定位置に集める。
【0018】
次に、測定系の構成について、より具体的に説明する。
【0019】
入射光学系は、光源部100と、第1レンズ210を備える。
【0020】
光源部100は、例えばハロゲンランプ、水銀ランプ、レーザー、レーザーダイオード、またはLED等から構成される。
【0021】
第1レンズ210は、光源部100から発せられた励起光を測定領域に集光する。第1レンズ210としては、開口数(NA)の大きいものが好ましい。NAが大きいと、レーザースポット径を数10μm以下に小さくできる。ここで、後述するように、磁界発生部300によって、反応複合体を所定の狭い領域に集合させるため、光源部100からの光は狭い領域に照射されていることが好ましい。また、反応していない発光標識からの発光は、バックグラウンドノイズになる。従って、レーザースポット径を小さくすると、反応複合体を構成する発光標識のみ効率よく励起できるとともに、被測定物質と未反応の発光標識の励起を抑制することができる。
【0022】
検出光学系は、第2レンズ220と、光検出部500を備える。
【0023】
第2レンズ220は、反応複合体から発せられた蛍光もしくはラマン散乱光等を光検出部500に集光する。この第2レンズ220としては、開口数(NA)の大きいものが好ましい。NAが大きいと、反応複合体から発せられた蛍光もしくはラマン散乱光等を効率よく集光することができる。
【0024】
光検出部500は、光の強度を測定(スペクトルを測定)する。光検出部500は、例えば分光器、光電子増倍管、フォトダイオード、フォトンカウンティング等から構成される。励起光の除去が必要ならば、干渉フィルタを光検出部500よりも光源部100側に配置することで、励起光の影響を除くことも可能である。
【0025】
磁界発生部300は、例えばネオジウム磁石や電磁石のような、比較的強力な磁力を有する磁石から構成される。磁界発生部300の先端に検査容器400を配することで、検査容器400内の反応複合体を集める。また、磁界発生部300の先端位置は、第1レンズ210の焦点位置及び第2レンズ220の焦点位置と略一致している。
【0026】
演算部600は、光検出部500の測定結果に基づいて、データの解析を行う。より具体的には、演算部600は、光検出部500により検出された光強度に基づいて、発光標識の数、被測定物質(抗原)の数を算出する。演算部600としては、データ処理用のコンピュータ等を用いることができる。また、演算部600は、信号を出力することで、磁界発生部調整機構700を制御する。
【0027】
磁界発生部調整機構700は、磁界発生部300を駆動する。すなわち、磁界発生部調整機構700は、光スポットの中心位置と反応複合体凝集体の中心位置とを略一致させるために、被分析物質の定量測定の前に、予め、磁界発生部300の位置の微調整を行う。より具体的には、磁界発生部調整機構700は、この磁界発生部300を図示X方向、Y方向、Z方向に駆動して位置調整を行う。磁界発生部調整機構700は、例えば磁界発生部300を搭載したX−Y−Zステージと、このX−Y−Zステージを駆動するステッピングモーター等から構成される。
【0028】
図3は検査容器400の斜視図である。この検査容器400は、マイクロリットルからミリリットル程度の試料を入れることができるプラスチック製のキュベットなどであり、例えばエッペンドルフチューブやマイクロチューブを用いることができる。なお、検査容器400の材質は、磁力を通すものであればよく、ガラス製等であっても構わない。また、検査容器400は、必ずしも測定系自体に、固定的に付属されるものではなく、使い捨てることもできる。
【0029】
検査容器400内に収容される試料について説明する。図4(A)は抗体が結合された発光標識、図4(B)は被測定物質(抗原)、図4(C)は抗体が結合された磁気粒子を模式的に示している。図5はこれらから生成される反応複合体を模式的に示す図である。図4(A)、(C)中における、Y字形状の物体が、抗体を示している。図4(A)、(C)に用いられている抗体は、図4(B)の被測定物質(抗原)と抗原抗体反応する。
【0030】
あらかじめ、検査容器400内などで抗体が結合された発光標識と、被測定物質(抗原)と、を抗原抗体反応させ所定の反応複合体を生成する。さらに、この反応複合体に、抗体が結合された磁気粒子を抗原抗体反応させることによって、図5に示すような反応複合体を作成する。このようにして生成される反応複合体が試料として検査容器400内に収容される。
【0031】
検査容器400が測定系にセットされると、磁界発生部300の磁気が、検査容器400内の反応複合体の磁気粒子部分に作用して、反応複合体が、所定の位置に集められる。より具体的には、反応複合体は、検査容器400の内壁部であって、磁界発生部300の磁力が強い箇所に集められる。
【0032】
上記の発光標識としては、光照射によって蛍光等を発するもの、もしくは、ラマン散乱光等を発生するもの、例えば、蛍光マイクロビーズやSERSナノタグが用いられる。
【0033】
蛍光マイクロビーズは、多くの製造業者によって提供されており、例えば、Molecular Probes社からは、488nm励起で515nm−660nmの蛍光を発するプローブ(フローサイトメトリーアラインメントビーズ)が提供されている。
【0034】
また、SERSナノタグとは、光照射によって強いラマン散乱光が発生する直径数10nm〜数100nmの大きさを持つ粒子である。例えば、US7192778に掲載されており、800〜1800cm-1のラマン散乱光が発生する。たとえば、633nm励起光を照射すると670nm〜710nmのラマン散乱光を発生する。この構造は、約60nmのラマン活性レポーター分子を付着させた金ナノ粒子をポリマー、ガラスまたは任意の他の誘電性材料を含む被包シェルでシールドした構造である。ここで、発光標識は、化学的に安定であること、光源部100から発せられた光の波長で励起可能な吸収帯を有すること、発光標識と磁気粒子との非特異的な吸着が無い材質であることが望ましい。
【0035】
磁気粒子は、ポリスチレンビーズであり、磁性物質(Fe23)が一様に分布したコアが親水性ポリマーで被われた直径数100nm〜数μmの大きさを持つ粒子状の物体である。このような磁気粒子としては、例えば、ダイナビーズ(ダイナル社製)が知られている。また、本実施形態の測定方法で用いる磁気粒子としては、蛍光磁気粒子であっても構わない。この蛍光磁気粒子は、磁性物質のコアの周囲に蛍光色素が塗布されており、直径数100nm〜数μmの大きさを持つ粒子状物体である。例えば、nano−screenMAG(Chemicell社製)が知られている。なお、磁性物質は、磁石に引き付けられるのであって、磁気粒子自体や蛍光磁気粒子自体が磁力を発しているわけではない。すなわち、磁性物質は外部磁場がない時には磁化を持たず、磁場を印加するとその方向
に弱く磁化する常磁性体である。
【0036】
上記のように構成される測定系では、光スポットの中心位置と反応複合体凝集体の中心位置とを略一致させるために、磁界発生部300と入射光学系と検出光学系とが高い精度で位置調整される必要があり、この位置調整に本実施形態の測定系調整方法が用いられる。
【0037】
以下に、本実施形態の測定方法における調整工程について説明する。このような調整工程は、測定系の製造現場もしくは、定期的なメンテナンス調整で実施するものであり、以下(1)〜(3)まで3段階の工程から成り立つ。
(1)磁気粒子捕捉工程
純水で希釈した磁気粒子が収容された検査容器400を本実施形態の測光系にセットする。そして、検査容器400内の磁気粒子を磁界発生部300による磁場で捕捉する。
【0038】
なお、測定系の調整工程では、磁界発生部300と入射光学系と検出光学系との位置を調整できれば良いため、反応複合体ではなく、磁気粒子を用いて調整を行う。
(2)発光信号取得工程
捕捉した磁気粒子に、励起光を照射する。そして、光検出部500が、磁気粒子からの発光を検出する。
(3)磁界発生部の位置調整工程
図6に、磁界発生部300によって凝集した磁気粒子(以下、磁気粒子凝集体と呼ぶ)の位置と磁気粒子の発光強度の関係を示す。磁気粒子の発光強度は、磁気粒子凝集体の中心位置が光スポットの中心位置にある時点が最大であり、磁気粒子凝集体の中心位置が光スポットの中心位置から外れるに従って漸次減少する。
【0039】
磁界発生部調整機構700が、磁界発生部300を駆動すると、磁気粒子凝集体も同じ方向に移動する。このことを利用して、磁気粒子の発光強度が最大となる位置まで磁界発生部300を駆動させる。これにより、磁気粒子凝集体の中心位置が、光スポットの中心位置に略一致する。
【0040】
この磁界発生部300の位置調整工程について以下に詳しく説明する。磁界発生部300に対して検査容器400側をZ軸の正として、Z軸に垂直な方向をX、Y軸とする(図2参照)。まず、磁界発生部300を磁界発生部調整機構700によってX軸方向に動かす。この時、磁気粒子からの発光強度も同時に光検出部500により測定する。そして、磁気粒子からの発光強度が最大になる所に磁界発生部300を移動させる。次に、Y軸方向についても同様な調整を行い、磁気粒子からの発光強度が最大になる所に磁界発生部300を移動させる。最後に、Z軸方向について磁界発生部300を、検査容器400に接触する寸前まで動かす。磁界発生部300が検査容器400に接触すると、検査容器400を検査容器の保持部に抜き差しすることが困難になるため、磁界発生部300が検査容器400に接触する寸前まで動かす。基本的にこの調整はそれぞれの方向に1度ずつ行うが、位置精度を上げたい場合は、複数回調整を実施してもよい。
【0041】
このように磁界発生部の位置調整工程では、磁気粒子からの発光強度が最大となる位置に磁界発生部を動かすことで、磁気粒子凝集体の中心位置を光スポットの中心位置に略一致させる。
【0042】
本実施形態の測定系調整方法は、以下のような効果を奏する。磁気粒子の密度は、磁気粒子凝集体の中心部で一番高く、発光強度が強くなる。従って、磁界発生部調整機構700を使用して発光強度の強い方に磁界発生部300を移動すると、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とを略一致させることができる。これにより、調整後の平時
の測定系の使用において、磁界発生部300によって集められる反応複合体凝集体の中心位置と光スポットの中心位置を略一致させることが可能となる。
【0043】
また、本実施形態で取得している磁気粒子の発光は、光源部100からの励起光の波長と異なる。このため、光学系内部の励起光のフレア光や迷光等が原因のバックウンドノイズと、磁気粒子からの光と、を波長によって分離することができる。バックグラウンドノイズを除去することで、磁気粒子の発光を高いS/Nで検出できる。そのため、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とを略一致させることができ、正確に測定系を調整することが可能になる。
【0044】
次に第2の実施形態について説明する。第2の実施形態に用いる測定系の個々の構成については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第2実施形態が第1実施形態と異なる点は、第2実施形態では、上述した(2)の発光信号取得工程において、磁気粒子凝集体の大きさが、光スポット径よりも大きく設定される点である。すなわち、本実施形態では、磁気粒子凝集体の大きさと、光スポット径の大きさとの間に下記のような関係が成立するようにしている。
φm>φs
ただし、φmは磁気粒子凝集体の径であり、φsは光スポット径である。
【0045】
ここで、磁気粒子凝集体の径は、磁界発生部によって集められた磁気粒子凝集体を外接する円の直径で定義する。
【0046】
磁気粒子凝集体の大きさが光スポット径に比べて小さいと、磁気粒子凝集体の中心位置を正確に測定できないことを、図7を用いて説明する。図7は磁気粒子凝集体中心と光スポットとの関係を説明する図である。
【0047】
図7(A)は磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置が略一致している時、図7(B)は磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置が離れている時を示す。図7(A)、(B)において、ともに光スポット内に含まれる磁気粒子の数は同じである。つまり、磁界発生部300を用いて磁気粒子を動かしても、磁気粒子からの発光強度の最大値は変化しないため、磁気粒子の発光強度の中心位置を検出できない。
【0048】
逆に、磁気粒子凝集体の大きさが、光スポット径よりも大きい場合は、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置が略一致している時に、光スポット内の磁気粒子数が一番多くなるので、磁気粒子からの発光強度が最大になる。従って、磁気粒子凝集体の中心位置の検出を正しく行うことができるため、測定系の調整が可能になる。これにより、調整後の平時の測定系の使用において、磁界発生部300によって集められる反応複合体凝集体の中心位置と光スポットの中心位置を、略一致させることが可能となる。
【0049】
次に第3の実施形態について説明する。第3の実施形態に用いる測定系の個々の構成については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第3実施形態では、上述した(1)の磁気粒子捕捉工程において、磁気粒子凝集体の大きさと、光スポット径の大きさとの間に下記のような関係が成立するようにしている。
10φs>φm>φs
ただし、φmは磁気粒子凝集体の径であり、φsは光スポット径である。
さらに、上述した(1)の磁気粒子捕捉工程において、磁気粒子凝集体の大きさと、光スポット径の大きさとの間に下記のような関係が成立するとより好ましい。
3φs>φm>φs
ここで、φm及びφsの定義は先のものと同様である。
【0050】
図8に磁気粒子凝集体の位置と磁気粒子密度との関係を示す図である。図8に示すように、磁気粒子凝集体の位置と磁気粒子密度との関係は、磁気粒子凝集体の中心位置付近の密度変化は小さくなっている。磁気粒子凝集体の径を10φsよりも小さくすると、磁気粒子凝集体の径が10φsの場合に比べて、磁気粒子凝集体の中心部分の磁気粒子の密度変化が大きくなる。そのため、磁気粒子からの発光強度が最大になる点を精度良く検出でき、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置との調整が行いやすくなる。これにより、調整後の平時の測定系の使用において、磁界発生部300によって集められる反応複合体凝集体の中心位置と光スポットの中心位置を、略一致させることが可能となる。
【0051】
次に第4の実施形態について説明する。第4の実施形態に用いる測定系の個々の構成については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第4実施形態は、上述した(3)の磁界発生部300の位置調整工程において、始め、始め磁気粒子凝集体が大きく形成し、磁界発生部の位置調整を行う。例えば、使用する磁気粒子の数を多くしたり、粒径の大きい磁気粒子を用いる。その後、磁気粒子凝集体が小さく形成される試料に変更して磁界発生部300の調整を行うことを特徴としている。
【0052】
磁気粒子凝集体が小さいと、磁気粒子凝集体の検出が困難で、磁気粒子凝集体を光スポット内に移動させるのに時間を要する。逆に、磁気粒子凝集体が大きいと、磁気粒子凝集体の検出が容易で、磁気粒子凝集体を短時間に光スポット内に移動させることができる。そのため、はじめに磁気粒子凝集体の大きい試料を使って、磁界発生部300の位置調整を行うことにより、調整時間の短縮が可能になる。さらに、磁気粒子凝集体の径を小さくして調整できるため、高い調整精度も可能になる。
【0053】
次に第5の実施形態について説明する。第5の実施形態に用いる測定系の個々の構成については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第5実施形態は、上述した(3)の磁界発生部300の位置調整工程において、まず、磁界発生部300をX軸の正の方向に、磁気粒子からの発光強度が最大になる位置に動かす。ここで、この時の、磁界発生部300の位置をX1とする。次に、磁界発生部300をX軸の負の方向(上記と反対方向)に、磁気粒子からの発光強度が最大になる位置に動かす。ここで、この時の、磁界発生部300の位置をX2とする。そして、X1とX2の中間の位置を、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とが略一致した位置とし、X1とX2の中間の位置に磁界発生部300を動かす。Y軸方向も、X軸方向で行った方法と同様の方法によってY1及びY2を求める。そして、Y1とY2の中間の位置を、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とが略一致した位置とする。
【0054】
磁界発生部300が静止している定常状態のときは、図9(A)に示すように磁気粒子凝集体は磁界発生部直下を中心の略円形になる。しかし、磁界発生部300を、例えば、左から右に動かすと、磁気粒子と検査容器400との間に生ずる摩擦の影響で、磁気粒子は磁界発生部300に引っ張られた形状(図9(B))になる。したがって、磁気粒子凝集体の中心位置は、磁界発生部300直下からΔX離れた位置になる。また、磁界発生部300を同じ速度で反対方向(右から左)に動かすと、磁気粒子は磁界発生部300に引っ張られた形状になる。この時は、磁気粒子凝集体の中心位置は、磁界発生部300直下から−ΔX離れた位置になる。
【0055】
磁界発生部300をX軸方向の正の方向に動かした時に磁気粒子からの発光強度が最大になる磁界発生部の位置X1と、磁界発生部を負の方向に動かした時に磁気粒子からの発光強度が最大になる磁界発生部300の位置X2との中間の位置は、磁気粒子と検査容器400の摩擦の影響(ΔX)をキャンセルした位置になる。この中間の位置を、磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置とが略一致した位置とすることで、調整後の平時の測定系の使用において、磁界発生部300によって集められる反応複合体凝集体の中
心位置と光スポットの中心位置を、略一致させることが可能となる。
【0056】
次に第6の実施形態について説明する。第6の実施形態に用いる測定系の個々の構成については先の第1実施形態と同様のものを用いるので詳細な説明については省略する。第6実施形態では、第5実施形態における(3)の磁界発生部300の位置調整工程において、磁界発生部300をX方向及び−X方向に動かす際、磁界発生部300を等速度で動かすようにする。また、Y方向の位置調整においても、Y方向及び−Y方向に動かす際、磁界発生部300を等速度で動かすようにする。なお、上述の実施形態においては、X方向とY方向における磁界発生部300の移動を、等速度で動かすようにする必要は必ずしも無い。
【0057】
磁気粒子が液体の中で運動すると、運動を妨げる向きに抵抗力を受ける。この粘性抵抗は磁気粒子の速度に比例する(ストークスの法則)。そのため、磁気粒子の速度によって磁気粒子凝集体の形状は変化する。磁界発生部300は等速度で動かし磁気粒子は等速運動させると、磁気粒子凝集体の形状を均一にして動かすことができる。従って、集磁した際の磁気粒子凝集体の中心位置と光スポットの中心位置を、略一致させることができる。これにより、調整後の平時の測定系の使用において、磁界発生部300によって集められる反応複合体凝集体の中心位置と光スポットの中心位置を、略一致させることが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施形態において、個々の反応複合体を構成している被測定物質の数は、厳密には、一定でない。すなわち、厳密には、個々の反応複合体を構成している被測定物質の数は、ばらつきが存在する。例えば、ある磁気粒子は、被測定物質と、全く結合していない場合や、被測定物質が過剰に結合している場合もあり得る。
【0059】
しかしながら、反応複合体を複数集めて、反応複合体からの光をマクロ的に検出すれば、個々の反応複合体を構成している被測定物質の数のばらつきは統計的に平均化される。従って、上述した、「反応複合体」との記載には、実際には反応複合体を構成していない磁気粒子も含むものとする。
【符号の説明】
【0060】
100・・・光源部、210・・・第1レンズ、220・・・第2レンズ、300・・・磁界発生部、400・・・検査容器、500・・・光検出部、600・・・演算部、700・・・磁界発生部調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査容器内にて、抗体を結合した発光標識と、抗体を結合した磁気粒子と、被分析物質とを反応させて作製した反応複合体を、磁界発生部から発生する磁場で捕捉し、捕捉された反応複合体に光を照射し、反応複合体からの発光を光検出部で検出する測定系の調整方法であって、
検査容器内の磁気粒子を磁場で捕捉する磁気粒子捕捉工程と、
前記照射された光に伴う磁気粒子由来の発光信号を前記光検出部で測定する発光信号取得工程と、
前記発光信号を利用して、前記磁界発生部の配置を調整する位置調整工程を有していることを特徴とする測定系調整方法。
【請求項2】
前記発光信号取得工程においては、捕捉された磁気粒子凝集体の大きさが、光スポット径よりも大きく設定されることを特徴とする請求項1に記載の測定系調整方法。
【請求項3】
前記位置調整工程では所定方向に磁界発生部を動かし得られた発光信号と、前記所定方向と反対の方向に磁界発生部を動かし得られた発光信号とに基づいて、前記磁界発生部の配置を調整することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の測定系調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−256218(P2010−256218A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107883(P2009−107883)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(510005889)ベックマン コールター, インコーポレイテッド (174)
【Fターム(参考)】