説明

測定装置及び測定方法

【課題】水準器やオートコリメータの特性を十分に生かすために静止状態で用いて、基準定規を反転の代わりに走査方向にシフトすることで、改良型反転法と同様の効果を上げ、センサを多くて2本、少なければ一本で測定システムを構成することで3点法のようなセンサのドリフト特性の不整の影響を受けにくい測定装置及び測定方法を提供する。
【解決手段】被測定面の形状を間隔D毎に測定してその差分を得るために、比較用の補助基準を測定走査方向に間隔Dだけシフトして、更に測定を行うことで、シフト前後の補助基準の変形の影響を最小限に抑えることができる。このシフトを使う方法では、シフト前後の補助基準の姿勢変化が測定形状の放物線誤差になるが、これを水準器やオートコリメータ等の傾きセンサで測定して、補正する手段をとるので、測定結果より放物線誤差を有効に排除できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサを被測定面に対して相対的に走査して形状を求める精密測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
大型加工物の加工精度向上に対する要求の高まりと共に、工作機械の移動真直度や加工面の真直形状の測定精度に対してもその向上が求められている。機械の移動真直度測定には直定規が基準として用いられる。加工物の形状測定には、機械の高精度の移動真直性が基準に用いられる。それらの基準の精度が不足するときには、反転法や多点法が用いられる。
【0003】
移動真直度のローリング測定には水準器が用いられ、ピッチングやヨーイング測定にはオートコリメータが用いられる。また、水平面内での長尺加工物の真直形状誤差の高精度測定には水準器や、オートコリメータによる測定が用いられる(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-317424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水準器には応答速度の低いことと、ヨーイング測定には使えないこと、オートコリメータにはローリング測定に使えないという弱点がある。オートコリメータの場合も工作機械上で用いるにはノイズ低減のために応答速度を落とさざるを得ないという難点がある。さらに、オートコリメータや水準器による逐次2点法では、2点の間隔を変更することが容易ではなく、特に狭い接点間隔を必要とする内挿が難しい。
【0006】
また反転法では、水平面内にある測定面が重力によるたわみの影響で正しく測定できない。長尺の対象物では、鉛直面内を対象にしても、反転前後の形状変化が問題になる。
【0007】
多点法の代表例である3点法におけるゼロ点問題の解決策が最近種々提案されているが、測定中のドリフトの問題などにまだ難しさが残っている。特に測定所要時間の長くなる長尺の対象物体では大きな問題になる。
【0008】
本発明は、掛かる問題に鑑み、水準器やオートコリメータの特性を十分に生かすために静止状態で用いて、基準定規を反転の代わりに走査方向にシフトすることで、改良型反転法と同様の効果を上げ、センサを多くて2本、少なければ一本で測定システムを構成することで3点法のようなセンサのドリフト特性の不整の影響を受けにくい測定装置及び測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の本発明の測定装置は、
被測定面の形状を測定する第1センサと、
被測定面に対応して相対移動可能に配置された補助基準面の形状を測定する第2センサと、
前記被測定面と前記補助基準面の相対移動に際して移動側の面の移動前後の傾きを検出する傾きセンサと、
感度軸が同一線上もしくは平行状態になるように前記第1センサ及び前記第2センサを保持するセンサホルダと、
前記センサホルダを、前記被測定面と前記補助基準面に対して、基準直線に沿って所定の間隔で相対的に移動するための移動手段と、を有し、
前記被測定面と前記補助基準面とを第1の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第1の差動出力群を取得し、
前記被測定面と前記補助基準面とを前記第1の相対位置から前記基準直線に沿った方向に相対移動させた第2の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第2の差動出力群を取得し、
前記傾きセンサの測定により、前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記被測定面及び前記補助基準面のうち実際に移動する側の面の相対傾きを求め、
前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記相対傾きを用いて、前記第1の差動出力群と前記第2の差動出力群の差分を補正することにより前記被測定面の形状を求めることを特徴とする測定装置。
【0010】
請求項2に記載の本発明の測定方法は、感度軸が同一線上もしくは平行状態になるようにセンサホルダにそれぞれ保持され且つ被測定面の形状を測定する第1センサ及び補助基準面の形状を測定する第2センサと、前記被測定面と前記補助基準面の相対移動に際して移動側の面の移動前後の傾きを検出する傾きセンサとを用いる測定方法において、
前記被測定面と前記補助基準面とを第1の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第1の差動出力群を取得するステップと、
前記被測定面と前記補助基準面とを前記第1の相対位置から前記基準直線に沿った方向に相対移動させた第2の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第2の差動出力群を取得するステップと、
前記傾きセンサの測定により、前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記被測定面及び前記補助基準面のうち実際に移動する側の面の相対傾きを求めるステップと、
前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記相対傾きを用いて、前記第1の差動出力群と前記第2の差動出力群の差分を補正することにより前記被測定面の形状を求めるステップとを有することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の本発明の測定方法は、ステージにより保持された被測定面の形状を、第1センサを用いて測定する測定方法において、
前記被測定面を第1の位置において、前記第1センサを基準直線に沿って所定の間隔で測定を行って、運動誤差と被測定面形状を含む第1の出力群を取得するステップと、
前記ステージと共に前記被測定面を前記基準直線に沿った方向に移動させた第2の位置において、前記第1センサを前記基準直線に沿って所定の間隔で測定を行って、運動誤差と被測定面形状を含む第2の出力群を取得するステップと、
傾きセンサを用いて、前記第1の出力群と前記第2の出力群の差分を補正することにより前記運動誤差の形状を求めるステップとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1,2に記載の本発明によれば、前記被測定面と前記補助基準面とを第1の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第1の差動出力群を取得し、前記被測定面と前記補助基準面とを前記第1の相対位置から前記基準直線に沿った方向に相対移動させた第2の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第2の差動出力群を取得し、前記傾きセンサの測定により、前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記被測定面及び前記補助基準面のうち実際に移動する側の面の相対傾きを求め、前記相対傾きを用いて、前記第1の差動出力群と前記第2の差動出力群の差分を補正することにより精度良く前記被測定面の形状を求めることができる。尚、「感度軸」とは、例えば変位センサならそのセンサが検出する点を通り、そのセンサが検出する変位の方向を指す軸を言う。本明細書で対象とする変位センサは全て被測定面の高さ方向を検出するために用いるので、複数のセンサの感度軸方向を揃えることが望ましい。「複数のセンサの感度軸方向を揃える」とは、感度軸を全て被測定面の高さ方向に揃えることを意味する。また、高精度な測定ではセンサの感度軸方向だけでなく、感度軸が同一直線上にあることが好ましい。
【0013】
請求項3に記載の本発明によれば、前記被測定面を第1の位置において、前記第1センサを基準直線に沿って所定の間隔で測定を行って、第1の出力群を取得するステップと、前記ステージと共に前記被測定面を前記基準直線に沿った方向に移動させた第2の位置において、前記第1センサを前記基準直線に沿って所定の間隔で測定を行って、第2の出力群を取得するステップと、傾きセンサを用いて、前記第1の出力群と前記第2の出力群の差分を補正することにより前記被測定面の形状を求めるステップとを有するので、精度良く前記被測定面の形状を求めることができる。
【0014】
本発明の測定装置は、感度軸が同一線上にある2個のセンサSA、SBを保持するセンサホルダSHとセンサホルダを直線状に移動するためのガイドとそのガイドに沿うセンサの位置を検出するエンコーダとを有しかつ、センサSBで走査測定される補助基準面Reを移動の際の変形が最小限になるように保持する補助基準保持部が、センサSAで走査測定される被測定面上あるいは被測定面が置かれたステージ上に被測定面と所定の距離だけ走査方向に相対移動可能なように設置されて、前記基準保持装置の被測定面に対する前記相対移動前後の走査方向への傾斜姿勢変化を検出する姿勢検出系を備えている。
【0015】
本発明の測定装置は、感度軸が同一線上にある2個のセンサSA、SBを保持するセンサホルダSHとセンサホルダを固定保持するコラムHCと測定面を搭載して測定面に沿って直線状に移動するステージSXと、前記測定面のセンサSAによる走査測定と同時にセンサSBで走査される補助基準面Reと補助基準面の走査方向のセンサ位置を検知するための目盛を有していて前記ステージSXの静止時に走査方向に所望の距離だけシフトできる基準保持装置であって、前記シフト前後の基準保持部の走査方向の傾斜姿勢変化を検出する姿勢検出系を備えている。
【0016】
本発明の測定装置は、走査測定の際の走査運動誤差の繰り返し性が高い走査案内を有している場合には、上述した補助基準とそれを走査するセンサを省略してもよい。
【0017】
例えば、被測定面の形状を間隔D毎に測定してその差分を得るために、比較用の補助基準を測定走査方向に間隔Dだけシフトして、更に測定を行うことで、シフト前後の補助基準の変形の影響を最小限に抑えることができる。このシフトを使う方法では、シフト前後の補助基準の姿勢変化が測定形状の放物線誤差になるが、これを水準器やオートコリメータ等の傾きセンサで測定して、補正する手段をとるので、測定結果より放物線誤差を有効に排除できる。また単に水準器やオートコリメータ等だけを使う場合に比べて、シフト前後の2回だけ水準器やオートコリメータ等の読みをとればよいので、十分に時間をかけてそれらの性能の限界までの分解能での測定を可能にする。さらに、内挿点基準の合成法を応用することで、逐次2点法の横分解能の問題を解決できる。
【0018】
本発明によれば、比較測定用の補助基準の走査方向のシフトにより、被測定面の形状を間隔D毎に差分として得られるので、水準器、反射鏡とオートコリメータの組み合わせ、あるいは2本の変位センサによる従来からの逐次2点法よりも安定した差分値が多数のサンプリング点で迅速に得られる。
【0019】
本発明によれば、被測定面と補助基準の比較測定が、センサの感度方向が一直線上にあるいわゆるアッベ的な配置になっていれば、補助基準と被測定面との形状比較(両者の和または差の測定)が高精度に実現でき、結果として所要の被測定面形状の差分が高精度に求められる。
【0020】
本発明によれば、水準器やオートコリメータ等の傾きセンサが静止状態で限られた回数だけ用いられるので、十分長い測定時間をとることができ、それらの分解能を最大限に生かした測定ができる。傾きセンサとしては、特開2004-317424号公報に記載のものを用いることができる。
【0021】
本発明によれば、同じ測定手順を繰り返すだけで内挿点基準合成法を活用することができるので、高い横分解能での測定が容易になる。
【0022】
本発明によれば、傾きセンサとして角度センサを用いることで、被測定面の走査線に沿うローリング角度形状、ピッチング角度形状、ヨーイング角度形状を校正することができる。
【0023】
本発明によれば、2点法のプローブ間隔に相当する距離Dを、オートコリメータであればその差動距離の限界まで、水準器であれば任意の長さに設定できる。このとき、外乱振動の影響を受けず、また、補助基準の移動に伴う変形が生じにくいため、長尺の被測定面を比較的高精度に測定する手段を提供できる。
【0024】
本発明にかかる測定装置を、移動ステージや工具ホルダを組み込むことで工作機械と一体化することができ、工作機械の機上測定システムとしても、あるいは、工作機械を利用した測定装置の構築も容易になる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に沿って説明する。図1は、本発明の数学的原理構造を説明するための図である。走査方向(基準直線)がX方向にとられ、真直形状の高さ方向の凹凸がZ方向にとられている。第1センサSAは被測定面Msの形状を測定し、第2センサSBは補助基準の面Reを測定する。被測定面Msと補助基準の面Reの間に配置されたセンサホルダSHは、第1センサSAと第2センサSBとを感度軸を一致させて保持しており、且つ不図示のステージ(駆動手段)により被測定面Msと補助基準の面Reに対して相対的に移動可能となっている。尚、被測定面Msに対して、不図示のステージにより補助基準の面Reも相対的にシフト可能となっている。
【0026】
ここで、第2センサSBの出力として、補助基準の位置xにおける真直形状(Z方向の高さ)をf(x)で表し、第1センサSAの出力として、被測定面の位置xにおける真直形状をg(x)で表わすものとする。
【0027】
図1(a)は、補助基準の面Reと被測定面Msの原点を合致させて固定した状態(第1の相対位置)を示す。このとき、センサホルダSHに取り付けられたセンサSA、SBで同時に形状を走査測定すると、センサホルダSHの走査運動誤差が両センサには正負逆に作用するので、両センサSA,SBの出力の和即ち差動出力(第1の差動出力群)m1(x)には、走査運動誤差は含まれなくなる。その出力の和は次式で与えられる。なお、形状に関係ない一定のオフセット量は省略している。
m1(x)=g(x)+f(x) (1)
ここで、センサホルダSHを基準直線(X軸)に沿って移動させながら、x=x0に始まり、間隔Dで配置したx1、x2、...、xNの点でセンサの出力をサンプリングするものとする。
【0028】
つぎに、第2の相対位置を示す図1(b)のように、被測定面Msに対して補助基準の面Reを基準直線(X軸)に沿って距離Dだけシフトして、再度間隔D毎に測定を行うと、差動出力(第2の差動出力群)m2(x)は式(2)のように与えられる。
m2(x)=g(x+D)+f(x)+ZD (2)
【0029】
(2)式で、ZDは補助基準の面Reを基準直線(X軸)に沿って距離Dだけシフトした際に生じるZ方向のオフセット値である。なお、シフトの際にZ方向へのオフセットだけでなく、X方向への傾斜h(x)=αxも生じるが、これは後述する傾きセンサで角度αを検出して補正するので、省略してある。
【0030】
式(1)、(2)の差をとると、
m2(x)−m1(x)=g(x+D)−g(x)+ZD (3)
となり、測定目的の被測定面Reの形状を与える差分が得られる。この差分では、測定の際の走査運動誤差も、補助基準の形状誤差も理論上完全に除去されていることがわかる。
【0031】
g(x0)=0を初期値として与えると、g(x1)、g(x2) 、g(x3)、....、g(xN) 、g(xN+1)が逐次求められる。ただし、オフセット値ZDの影響で全体にx ZD/Dの傾斜が加わっている。これは、真直形状の表現で両端の高さを揃える、以上の例だとg(x0)=g(xN+1)とすることで取り除かれる。
【0032】
図2は、補助基準の面Reと被測定面MsがZ方向に関して同じ向きに配置される場合で、それ以外は図1の例と同様である。図2の例では、センサホルダSHに保持された両センサSA、SBにおける走査運動誤差の符号は同じになる。それを相殺するためには両センサSA、SBの差動出力をとる。両センサSA、SBの差動出力(第1の差動出力群)m3(x)は、式(4)で表わされる。
m3(x)=g(x)−f(x) (4)
【0033】
被測定面Msと補助基準の面Reを距離Dだけシフトして再度測定を行うと差動出力(第2の差動出力群)m4(x)は式(5)のように与えられる。
m4(x)=g(x+D)−f(x)−ZD (5)
【0034】
ここで、オフセット値ZDはシフトの際に両者が平行なまま、Z方向にも移動した量を示す。シフトの際の両者の相対傾斜は、後述する傾きセンサの読みで修正されているものとして式には含めていない。
【0035】
式(4)、(5)の差をとると、
m4(x)−m3(x)=g(x+D)−g(x)−ZD (6)
となり、測定目的の被測定面Reの形状を与える差分が得られる。以下、両センサSA,SBの出力和から得た差分の処理と同様の手順で、被測定面Msの形状を復元できる。
【0036】
詳細な形状を知るためには、例えば、d=D/K(Kは整数)となる距離dで最初の位置から補助基準の面Reをシフトして測定をする。このときも姿勢の変化は、傾きセンサでの測定結果を使って補正することにして、
m5(x)=g(x+d)−f(x) +Zd (7)
m3(x)−m5(x)=g(x+d)−g(x)−Zd (8)
となり、間隔DをK等分する点での内挿点が得られる。また、Z軸方向のオフセット値Zdの影響は、間隔Dの両端での値が一致するように間隔dでの高さの差(傾斜)を修正すればよい。なお、x=kd+nD k=0〜K、n=0〜N−1、での内挿点が得られる。一方、先に述べた間隔Dでの高さの差(傾斜)が、kをk=1〜K−1で固定してn=0〜Nの点を結ぶと、K−1個の傾きが異なる線分が得られ、これをつなぐことで折れ線形状が得られる。この折れ線の形は、同じ点を内挿で得た折れ線よりも偶然誤差の影響が少ないという意味でより正確な形をしている。しかしこれらの折れ線群とk=0、n=0〜Nの折れ線との相互の関係が不明である。そこでこの間隔Dのシフトで得た間隔Dの折れ線群を同じ測定位置で得た内挿点に最小自乗的にフィットさせて間隔Dの全折れ線群を相互に関係付ける。これは、内挿点基準の逐次合成法と呼ばれる手法である。このようにして、要求される密度までサンプリング間隔を高めた形状の表現が可能になる。
【0037】
一般の逐次2点法、3点法では内挿点を得るためにはセンサ間隔を変えて測定する必要があるが、本発明では単に補助基準のシフト量を変えるだけで内挿点が得られる。
【0038】
上述の説明では、被測定面の形状を求める説明をしたが、この結果を利用すれば、走査運動誤差を取り除くために用いた補助基準の形状も式(1)や式(4)から求められ、また単独のセンサの出力から既知の形状を差し引けば走査運動誤差も求められるのはいうまでもない。
【0039】
図1、図2では被測定面がX−Z面内にあるものとしているが、X−Y面内にある被測定面に対しても同様の測定システムが構築できる。
【0040】
発明の実際の基本構造例を模式的に示すと、図3のようになる。被測定面Msが定盤のように固定されたX―Y面内にあり、補助基準の面Re及び走査用ガイドGSを保持する補助基準保持部RHは、被測定面Msに対して走査測定線(基準線)に沿って不図示のステージにより相対移動可能となっている。補助基準保持部RH上には、被測定面Msと補助基準の面Reの相対移動に際して移動側の面(ここでは被測定面Ms)の移動前後の傾きを検出する傾きセンサとして水準器LVが固定されている。補助基準の面Reは、図2と同様に被測定面Msと同じ向きに沿って略平行に配置され、センサホルダSHの走査のための走査用ガイドGSも併設されており、また、走査用ガイドGS上にはサンプリング位置を決めるためのエンコーダの目盛Emも刻まれている。センサホルダSHは、不図示のステージにより走査用ガイドGSに沿って相対移動可能であり、即ち補助基準の面Reに対して走査測定線(基準線)に沿って相対移動可能となっている。更にセンサホルダSHは、感度軸を一致させたセンサSA、SBがそれぞれ被測定面Msと補助基準の面Reの走査ラインに向けられている。また目盛Emを読み取り、サンプリングトリガを発生するエンコーダの読み取りヘッドEyが、センサホルダSHに取り付けられている。
【0041】
センサホルダSHが搭載されたこの補助基準保持部RHを、被測定面Msの走査線に沿って所定の距離(図ではD)だけ移動して測定し、補助基準の長さあるいは被測定面の長さの範囲のxの位置でセンサの読みを得る。これを走査測定という。移動前後のかかる走査測定によって、(1)と(2)式、あるいは(4)、と(5)式に示すような第1、第2の差動出力群を得ることができる。補助基準保持部RHを移動する前後の傾斜が水準器LVで検出され、傾斜補正に使われる。あらためて式(2)をシフトの際の傾斜αの項h(x)=αxを加えて表わすと、
m2(x)=g(x+D)+f(x)+ZD+h(x) (2*)
となる。本発明ではαが補助基準保持部RHを移動する前後の水準器LVの読みの差から既知になっているのでそれを用いて、式(2*)の段階で{m2(x) −h(x)}として、傾斜を補正することができる。この補正した値を用いてあらためてm2(x)とすれば、式(2)に示したように、補助基準保持部RHを移動する際に傾斜が生じないのと同じ状態を計算上作り出せる。その結果、式(3)、式(6)などでも傾斜の影響を受けない差分が得られることになる。
【0042】
また、補助基準の形状f(x)も被測定面形状g(x)と同時に既知となるので、本発明の装置を用いて測定を繰り返すうちに補助基準の形状は高い確からしさをもって知ることができる。この基準形状f(x)が既知になれば、式(1)から直接g(x)を求めることができる。以上明らかであるが、傾きセンサの測定により、第1の相対位置と第2の相対位置における被測定面及び補助基準面のうち実際に移動する側の面の相対傾きを求め、第1の相対位置と第2の相対位置における前記相対傾きを用いて、第1の差動出力群と第2の差動出力群の差分を補正することにより被測定面の形状を求めることができる。
【0043】
図4は、補助基準の面Reを被測定面Msに対向させた形式を示す。図1の例に対応する図4の構造では、図3と異なり、センサホルダSHの走査用ガイドGSの裏面が補助基準の面Reを兼ねている。それ以外の構成は上述した図3の例と同様である。本例の走査測定によって、(3)式に示すような差分を得ることができる。本実施の形態では、センサホルダSHの走査方向の位置によって走査用ガイドGSのたわみ形状が変化し、補助基準の面Reの形状も変化することになるが、このたわみ形状の変化に十分の繰り返し性が保証されれば、測定結果への影響は限定的である。
【0044】
なお、図3,4の補助基準保持部を基準直線に沿って所望量だけ移動するために、前記補助基準保持部の設置される同一面上で基準直線に平行に保持できる案内棒(不図示)を準備して、案内棒に沿って前記補助基準保持部を移動する構造も好ましい。この案内棒には補助基準の移動量Dやdを決める目盛が付属していることも好ましい。なお、センサホルダの走査可能長さをLとすると、補助基準が一度に移動する量の最大値はLとなるので、この案内棒長さはこのLを考慮して決める。
【0045】
さらに、被測定面の形状が既知となると、第1のセンサの出力からその形状分を差し引くと運動誤差も明らかになる。従って、本発明の方法で種々の被測定面の形状を求めているうちに運動誤差の繰り返しの程度が高い確からしさで明らかになる。この繰り返し性が満足のいくものであれば、第2のセンサと補助基準の測定を省略して請求項3で記述した発明の形態に移行することができる。又、この形式では両面が構成する溝幅を測定することになるので、被測定面Msが鏡面であれば、下面Reに半透過膜を成膜した補助基準を用いて、図5のような原理の干渉計による測定を採用することもできる。即ち、図5に示すように、干渉計IFから投射した平行光束を、補助基準を介して被測定面Msに投射すると、補助基準の下面Reで反射した光束と、被測定面Msで反射した光束とが、同時に干渉計IFに入射するので、光束の波長と、下面Reと被測定面Msの距離の2倍だけ差がある光路長とに基づいて干渉が発生することを利用して、X方向に走査測定を行うことで、(3)式に示すような差分を求めることができる。
【0046】
図6は、被測定面Msと補助基準保持部RHがともにX方向の移動ステージXSに搭載され、センサホルダが固定されたコラムに固定される、別の実施の形態を示す。本実施の形態では、センサホルダSHが固定コラムFcに固定され、移動ステージXSに載置された被測定面Msと補助基準保持部RHがX方向に相対的に移動するようになっている。又、補助基準保持部RHは、移動ステージXS上で不図示のステージによりX方向に相対移動するようになっている。従って測定原理的には、上述した実施の形態と同様であるので、説明を省略する。サンプリングトリガ発生用のエンコーダシステムは不図示であるが、目盛Emと読み取りヘッドEyそれぞれが移動ステージXSと固定コラムFCに取り付けられてもよく、それぞれが補助基準の面Reの側とセンサホルダSHに取り付けられてもよい。
【0047】
図6は、工作機械上の加工されたワークWKを被測定面として本発明を適用するためのモデル的構造を示している。ワークWKがX方向に移動する移動ステージXS上にあり、センサホルダSHは、加工に用いる工具ホルダを兼ねる固定コラムFCに取り付けられる。比較用の補助基準の面Reは水準器LVとともに補助基準保持部RHに取り付けられて、補助基準保持部RHがワークWKに直接、またはワークWKの載せられた同一の移動ステージXSに載せられていて、必要な量だけX方向にシフトできるものとする。
【0048】
図7は、補助基準及び第2のセンサを省略して被測定面の形状(この図の場合は、運動誤差形状Ez(x)とワーク上にある測定面の形状f(x))を測定する測定方法の原理を示す図である。図7のように、被測定面Msを有するワークWKを2点で支持して、移動ステージXS上を移動してもたわみ形状が変わらないように保持する。第1のセンサSAは、センサホルダSHを介して固定コラムFCに固定されている。被測定面Msを移動ステージXS上で距離Dだけシフトする前後での走査測定の際における、第1センサSAの出力とその差は、次式で与えられる。但し、Ez(x)は位置xにおける移動ステージXSの運動誤差である。
SA1(x)=g(x)+Ez(x) (9)
SA2(x)=g(x)+ZD+Ez(x+D) (10)
SA2(x)−SA1(x)=ZD+Ez(x+D)−Ez(x) (11)
これは、移動ステージXSの走査運動誤差形状の差分値を与えるもので、式(3)などの場合と同様に、その形状が初期値を与えると復元できる。
【0049】
Ez(x)が決まれば、式(9)から形状g(x)も求めることができる。一般的に、工作機械で運動誤差の繰り返し性が高いものでは、この方式でも機械の持つ運動誤差Ez(x)も測定でき、同時に加工面の計測が機上でできることになり、有益な測定法となる。これにより傾きセンサを用いて、第1の出力群と第2の出力群の差分を補正することにより被測定面の形状を求めることができる。ワークWKそのものが必要な量だけシフトできるときは、図7のように、補助基準なしに運動誤差の再現性を前提に同様の測定ができる。この場合は、ワークWKに直接水準器LVを固定すると良い。
【0050】
なお、式(10)のデータを距離Dだけシフトして読み取れば、
SA2(x−D)=g(x−D)+ZD+Ez(x) (12)
となるので、測定面の形状を式(9)と式(12)の差から求める形状の差分である次式から求めることもできる。
SA1(x)−SA2(x−D)=g(x)−g(x−D)−ZD (13)
【0051】
図8、図9は補助基準保持部の傾斜検出にオートコリメータを用いる場合の鏡AMの配置例を示す。図8においては、被測定面Msに対向する面Reを有する補助基準の端部に反射鏡AMを取り付けて、固定したオートコリメータACで、被測定面Msに対して補助基準の面Reが相対移動した際の反射鏡AMの傾きを光学的に求めることができる。
【0052】
図9においては、被測定面Msに対向する面Reを有する補助基準を保持する補助基準保持部RHの端部に反射鏡AMを取り付けて、固定したオートコリメータACで、被測定面Msに対して補助基準の面Reが相対移動した際の反射鏡AMの傾きを光学的に求めることができる。上述した(3)、(6)式において、シフト前後の補助基準の姿勢変化αがあるとその積分として得られる測定形状には放物線誤差として表れるが、これをオートコリメータACで測定して補正することにより、測定結果より放物線誤差を有効に排除できる。これは先に述べた水準器による場合と同様の効果である。即ち位置xにおける傾きに対応する高さh(x)=αxを式(2)の右辺に加減すると、式(3)、(6)でも傾斜の影響は現れない。
【0053】
図10、図11は、ピッチング、ローリングの一方または両方が相互に関連づけられている2個の鏡面M1、M2が設置され、外部に取り付けた角度センサによってシフト前後の姿勢変化を検出することで水準器の役割を果たすことのできるシステムを示す。X−Z面にある被測定面の測定に対しては、二つの鏡M1、M2はヨーイング、ローリングに関して相互に関連付けられていればよい。鏡M1、M2の傾斜を検出する角度センサKSは、最初の鏡M1の傾斜を読める位置の空間に固定されていて、補助基準保持部がDだけシフトされた時は次の鏡M2の傾斜を読むことになる。
【0054】
図1、図2などで被測定面、補助基準面の両方が鏡面で、変位センサがピッチング角(y軸回りの回転)あるいは、ローリング角(x軸回りの回転)を検出する角度センサであれば被測定面のピッチング角度形状、ローリング角度形状が測定できることになる。また、被測定面、補助基準面の両方がx-z面にある鏡面で、変位センサがヨーイング角(z軸回りの回転)を検出する角度センサであれば被測定面のヨーイング角度形状が測定できることになる。なお角度センサを用いる場合は、式に現れるオフセット量ZD、Zdは検出されないので省略できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の数学的原理を説明する図で被測定面と補助基準面が対向する場合を示している。
【図2】図1と同様に本発明の原理を説明する図で被測定面と補助基準面が同方向を向く場合を示している。
【図3】補助基準保持部が直接被測定面に置かれ、センサホルダが補助基準支持部にある走査案内に沿って移動する形態で、補助基準面が被測定面と同一方向に向いている形態(形態定盤の面形状測定に有効)を示す図である。
【図4】補助基準保持部と被測定面が一つの静止ステージに置かれ、センサホルダが補助基準支持部にある走査案内に沿って移動する形態で、被測定面と補助基準面が対向して配置される形態(直定規の校正に有効)を示す図である。
【図5】被測定面と補助基準面が対向する鏡面で、両者の間隔を干渉計で測定する場合の模式図である。
【図6】被測定面と補助基準保持部が移動ステージにあり、センサホルダ固定されている場合(工作機械での機上測定などの有効)を示す図である。
【図7】補助基準とそれを走査するセンサが省略される場合(直線運動の繰り返し性が高い機械で有効)を示す図である。
【図8】オートコリメータと反射鏡による傾斜検出系(水平面内の測定面の場合)を示す図である。
【図9】オートコリメータと反射鏡による傾斜検出系(鉛直面内の測定面の場合)を示す図である。
【図10】一対の鏡面による傾斜検出系(ピッチングとローリングの場合)を示す図である。
【図11】一対の鏡面による傾斜検出系(ヨーイングとローリングの場合)を示す図である。
【符号の説明】
【0056】
Ms 被測定面
Re 補助基準面
SH センサホルダ
SA 被測定面走査用の第1センサ (変位センサ、または角度センサ)
SB 補助基準面走査用の第2センサ (変位センサ、または角度センサ)
SL 走査線
GS 走査用ガイド
RH 補助基準保持部
Ey エンコーダ読み取りヘッド
Em エンコーダ目盛
LV 水準器 (傾斜検出系)
IF 干渉変位計
D 補助基準シフト量
f(x) 被測定面の真直形状
g(x) 補助基準の真直形状
Ez(x) 走査運動誤差
ZD、Zd 補助基準面シフト時の形状高さ方向のオフセット量
XS 走査用ステージ
FC 固定コラム
AC オートコリメータ
AM オートコリメータ用反射鏡
M1、M2 測定目的方向の相互傾斜角が校正された一対の反射鏡
KS 傾斜検出用角度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定面の形状を測定する第1センサと、
被測定面に対応して相対移動可能に配置された補助基準面の形状を測定する第2センサと、
前記被測定面と前記補助基準面の相対移動に際して移動側の面の移動前後の傾きを検出する傾きセンサと、
感度軸が同一線上もしくは平行状態になるように前記第1センサ及び前記第2センサを保持するセンサホルダと、
前記センサホルダを、前記被測定面と前記補助基準面に対して、基準直線に沿って所定の間隔で相対的に移動するための移動手段と、を有し、
前記被測定面と前記補助基準面とを第1の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第1の差動出力群を取得し、
前記被測定面と前記補助基準面とを前記第1の相対位置から前記基準直線に沿った方向に相対移動させた第2の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第2の差動出力群を取得し、
前記傾きセンサの測定により、前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記被測定面及び前記補助基準面のうち実際に移動する側の面の相対傾きを求め、
前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記相対傾きを用いて、前記第1の差動出力群と前記第2の差動出力群の差分を補正することにより前記被測定面の形状を求めることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
感度軸が同一線上もしくは平行状態になるようにセンサホルダにそれぞれ保持され且つ被測定面の形状を測定する第1センサ及び補助基準面の形状を測定する第2センサと、前記被測定面と前記補助基準面の相対移動に際して移動側の面の移動前後の傾きを検出する傾きセンサとを用いる測定方法において、
前記被測定面と前記補助基準面とを第1の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第1の差動出力群を取得するステップと、
前記被測定面と前記補助基準面とを前記第1の相対位置から前記基準直線に沿った方向に相対移動させた第2の相対位置に固定して、前記センサホルダを前記被測定面と前記補助基準面に対して相対的に移動させながら前記第1センサと前記第2センサとで測定を行って、第2の差動出力群を取得するステップと、
前記傾きセンサの測定により、前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記被測定面及び前記補助基準面のうち実際に移動する側の面の相対傾きを求めるステップと、
前記第1の相対位置と前記第2の相対位置における前記相対傾きを用いて、前記第1の差動出力群と前記第2の差動出力群の差分を補正することにより前記被測定面の形状を求めるステップとを有することを特徴とする測定方法。
【請求項3】
ステージにより保持された被測定面の形状を、第1センサを用いて測定する測定方法において、
前記被測定面を第1の位置において、前記第1センサを基準直線に沿って所定の間隔で測定を行って、運動誤差と被測定面形状を含む第1の出力群を取得するステップと、
前記ステージと共に前記被測定面を前記基準直線に沿った方向に移動させた第2の位置において、前記第1センサを前記基準直線に沿って所定の間隔で測定を行って、運動誤差と被測定面形状を含む第2の出力群を取得するステップと、
傾きセンサを用いて、前記第1の出力群と前記第2の出力群の差分を補正することにより前記運動誤差の形状を求めるステップとを有することを特徴とする測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−256107(P2010−256107A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104777(P2009−104777)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(591238981)
【Fターム(参考)】