説明

測定装置

【課題】 試料中の特定物質と試薬とを結合させて固定化した後、この特定物質の定量測定を行う測定装置において、1回の測定で消費する試薬の量を必要最小限に抑え、且つ、高速な測定を可能とする。
【解決手段】 唾液等の生体試料中の特定物質に抗体や蛍光標識物質を結合させて当該特定物質の定量測定を行う測定装置1である。そして、試料を付着させて使用する標本スティックTと、微量の液滴を噴出する液剤ジェットヘッド13と、点状の範囲で蛍光検出を行う蛍光検出部14とを備え、標本スティックTの試料が付着された箇所に、液剤ジェットヘッド14により試薬を含む液剤を噴出して、この液剤の吐出点における特定物質に試薬を結合させて固定化した後、前記液剤ジェットヘッドによりこの吐出点に洗浄用液剤を噴出して、固定化されていない試薬の残りを吐出点の外側に流し出し、その後、この吐出点において蛍光検出部14により蛍光検出が行われるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば被験者のストレス、老化の度合い、歯周病、ピロリ菌感染等を調べる目的で、唾液などの生体試料に含まれる特定物質の測定を行う測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、過労被害を未然に防ぐために労働者が受けているストレスの度合いを短時間で手軽に計測できるストレスセンサの開発が進められている。そして、その計測の手法として、ストレスの度合いに応じて唾液への浸出量が変化する特定のタンパク質を、抗原抗体反応と蛍光検出とを利用して定量的に測定し、この測定値に基づいてストレス度を判定するという手法が正確な計測法として知られている。また、このようなストレスセンサと同様に、生体試料に含まれる別のタンパク質を計測することで、歯周病、ピロリ菌感染、老化の度合い等の判定を行うことも可能となる。
【0003】
一般的な蛍光検出測定では、唾液などの生体試料を溶液で薄め、抗体や蛍光標識などの試薬を混合してマイクロ流路に流すことで測定対象のタンパク質に抗体や蛍光標識を結合させ、その後、このマイクロ流路に励起光を照射して、そこから発せられる蛍光の光強度の検出を行うことで、測定対象のタンパク質を定量的に測定することを可能としている。
【0004】
また、本願発明に関連する先行技術として、次のような技術が特許文献1〜6に開示されている。すなわち、特許文献1には、生体試料の検査のためにガラス基板に凹状に形成された反応セルの中にインクジェットヘッドによりプローブ溶液を噴出してプローブスポットを形成する技術が開示されている。また、特許文献2には、バイオセンサにおいて基板に凹状に形成された反応ウェルの中にインクジェットヘッドによりサンプル溶液を噴出する技術が開示されている。また、特許文献3には、pH変化により体積を変化させるゲルを流路に詰めておき唾液などの生体関連物質を反応させてゲルの体積を変化させることで測定対象物質の測定を行うようにした技術が開示されている。また、特許文献4には、唾液検体中のアミラーゼ活性を化学反応による色変化により測定する測定キットが開示されている。また、特許文献5には、検体や試薬をマイクロ流路に流して途中のカンチレバーの歪みにより抗原抗体反応により生成された錯体の定量測定を行うようにした技術が開示されている。また、特許文献6には、光学顕微鏡においてスライドガラスの下面に簡単にマーキングを生成する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2003−287537号公報
【特許文献2】特開2003−322630号公報
【特許文献3】特開2004−264121号公報
【特許文献4】特開2004−267202号公報
【特許文献5】特開2005−140666号公報
【特許文献6】特開平07−333513号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した一般的な蛍光検出測定において、抗体となる試薬は、例えば800万円/gなどと非常に高価である。しかしながら、上述したマイクロ流路に生体試料と試薬を混合した液体を流して行う蛍光検出の方式では、一回の測定で消費する試薬の量が比較的多くなるという欠点があった。
【0006】
例えば、マイクロ流路が縦20μm×幅1000μm×長さ50mmの大きさで、試薬が試料の1/10の体積量が必要だとすると、マイクロ流路に流す分だけでも10μmの試薬が必要となり、更に、流路を一定速度で流れるような制御をかけるためには試料を余裕を持って溜めておく必要もあり、それにより必要な試薬の量も倍増する。このように見積もると一回の測定で消耗する試薬のコストは5000円を超えてしまい、手軽に測定すると云ったレベルにコストを抑えることは困難となる。
【0007】
また、特許文献1,2に開示されるように、プレート上を小さく区切って凹状に形成された複数のウェルやセルにインクジェットヘッドによりプローブ溶液や試薬を噴出する方式を応用することで、試薬の使用量が低減出来ないかと考えられたが、抗原抗体反応により測定対象となる抗原に抗体や蛍光標識を結合させて蛍光検出を行う測定法では、ウェルやセル中で溶液を混ぜただけでは抗原と反応していない抗体や蛍光標識も測定箇所に浮遊しているためそのままでは正しい測定を行うことが出来ないと考えられた。
【0008】
また、従来のマイクロ流路に生体試料と試薬とを流して行う計測方式では、マイクロ流路を流れる試料や試薬の流動抵抗が大きく、高速な計測が行えないという課題もあった。
【0009】
この発明の目的は、1回の測定で消費する試薬の量を必要最小限に抑えることが可能であり、且つ、短時間で測定を完了することのできる測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するため、試料中の特定物質に試薬を結合させて当該特定物質の有無又は量を測定する測定装置において、前記試料を付着させて使用する標本スティックと、微量の液滴を噴出する液剤ジェットヘッドとを備え、前記標本スティックの前記試料が付着された箇所に、前記液剤ジェットヘッドにより前記試薬を含む液剤を噴出して、この液剤の吐出点における前記特定物質に前記試薬を結合させて固定化した後、前記液剤ジェットヘッドにより前記吐出点に洗浄用液剤を噴出して、固定化されていない前記試薬の残りを当該吐出点の外側に流し出し、その後、当該吐出点において前記特定物質の前記測定を行う構成とした。
【0011】
このような手段によれば、必要最小限の試薬だけで測定箇所における特定物質に試薬を結合させ、結合しなかった残余の試薬を測定箇所から流し出して特定物質の測定を行うことが出来る。さらに、マイクロ流路に試料や試薬を流す方式に比べて、非常に高速な測定が可能となる。なお、固定化とは、標本スティックの表面に固定されている物質と結合した状態や、結合形態等により流動抵抗が著しく高くなった状態など、標本スティックの表面から洗い流されにくい状態になることを意味する。
【0012】
具体的には、前記標本スティックの一部には前記特定物質と結合する第1試薬が予め固着され、この第1試薬が固着された箇所に前記試料を付着させて、当該箇所に前記試薬の噴出が行われるようにすると良い。
このような構成により、測定対象となる特定物質を確実に測定箇所に固定化し、洗浄用液剤の噴出により残余の試薬等のみを測定箇所から流し出すことが可能となる。
【0013】
なお、標本スティックの表面に第1試薬を吸着固定するような化学物質を、予めスティック表面の一部に塗布しておくことで、液剤ジェットヘッドにより第1試薬を噴出することで標本スティックの一部に第1試薬を固定化させることが可能であり、この場合には、予め第1試薬を標本スティックに固定化せずに測定を行うことが可能である。
【0014】
さらに具体的には、前記液剤ジェットヘッドから噴出される液剤には、前記特定物質に結合する第2試薬を含んだ液剤と、前記第2試薬と結合する蛍光標識物質を含んだ液剤と、固定化されていない残余の前記試料、前記第2試薬および前記蛍光標識物質を流す洗浄用液剤とが含まれ、前記液剤ジェットヘッドにより、前記標本スティックの前記第1試薬が固着された箇所の少なくとも一点に対して、前記洗浄用液剤、前記第2試薬を含んだ液剤、前記洗浄用液剤、前記蛍光標識物質を含んだ液剤を順次噴出させて、これらの液剤の吐出点に前記第1試薬と前記特定物質と前記第2試薬と前記蛍光標識物質とを結合させて固定化し、その後、前記吐出点に対して蛍光検出を行って前記測定を行うように構成すると良い。
このような構成により、測定対象の特定物質を必要最小限の試薬を用いて固定化し、蛍光検出により高速に且つ精度高く定量測定することが出来る。
【0015】
望ましくは、前記標本スティックには同一面中の複数の箇所に、結合する特定物質が異なる複数種類の前記第1試薬が固着され、これら複数種類の第1試薬に対してそれぞれ前記試料の付着と前記液剤ジェットヘッドによる液剤の噴出と前記特定物質の測定とが行われるように構成すると良い。
このような構成により、上記の複数種類の第1試薬と結合する複数種類の特定物質について並行してほぼ同時に測定を行うことが出来る。例えば、唾液中に含まれるIgA(免疫抗体)やEGF(上皮細胞増殖因子)を並行して測定し、それにより被験者のストレス度と老化度などの2種類の検査を行うことが出来る。
【0016】
好ましくは、前記液剤ジェットヘッドから噴出される液滴は10ピコリットル以下(より好ましくは2ピコリットル〜5ピコリットル)とすると良い。
これにより、使用する試薬量を抑えて測定のランニングコストを低減できるとともに、微細液滴の吐出を安定的に行って、特定成分の測定を精度高く行うことが出来る。なお、現在のインクジェットプリンタに使われている圧電素子を用いたピエゾ方式のインクジェットヘッドでは、3ピコリットル程度の微細液滴を吐出することが可能になっており、これと同様の構造を液剤ジェットヘッドに適用することが出来る。
【0017】
また好ましくは、前記液剤ジェットヘッドによる前記洗浄用液剤の噴出は、20個以上(より好ましくは30〜70個)の液滴を連続的に噴出するように構成すると良い。
このような構成により、固定化されていない残余の試料や試薬を確実に測定箇所から流し出すことが出来る。洗浄用液剤は廉価なものなので使用量が多くなっても測定のコストには影響しない。
【0018】
また具体的には、前記試料は唾液であり、前記標本スティックは、一方向に長いプレート形状で、プレート面に垂直な方向から見て先端部が丸みを帯びた形状にされていると良い。さらに望ましくは、前記標本スティックは、長手方向に5cm〜15cmの長さを有し、先端から2cmの範囲内に前記第1試薬の固着箇所を設けると良い。
このような構成により、唾液を試料とした場合に、標本スティックを舐めて唾液試料を採取するのに都合が良い。
【0019】
さらに具体的には、前記標本スティックの載置箇所を挟んで前記液剤ジェットヘッドの反対側に、励起光を照射して前記標本スティック上の試料から発せられる蛍光を測定する蛍光検出手段を設けると良い。
このような構成により、液剤ジェットヘッドによる測定対象の特定物質の固定や試薬との結合処理を行った後に、標本スティックを移動させることなく速やかに蛍光検出の測定を行うことが出来る。
【0020】
また、前記液剤ジェットヘッドを液滴の噴出方向と直交する方向に駆動するヘッド駆動機構を備えるとともに、前記蛍光検出手段には、前記標本スティックの前記測定箇所に励起光を集光させるとともに当該測定箇所から発せられた蛍光を受光する対物レンズと、この対物レンズを少なくとも当該対物レンズの光軸方向と前記液剤ジェットヘッドの駆動方向と同方向とにそれぞれ変位可能なレンズ駆動機構とを設けると良い。
このような構成により、標本スティックに複数の測定箇所を設ける場合に、これらの測定箇所を液剤ジェットヘッドの移動方向と同方向に並べて設けておくことで、液剤ジェットヘッドの駆動と上記対物レンズの駆動により、各測定箇所に液剤の噴出点を合わせたり対物レンズの焦点を合わせることが出来る。
【0021】
また、前記標本スティックをペルチエ素子により冷蔵して保存する冷蔵保存庫を備えるようにしても良い。標本スティックに第1試薬を予め固定化しておく場合に、冷蔵保存庫に保存しておくことで第1試薬の劣化を防ぐことが出来る。
【発明の効果】
【0022】
以上説明したように、本発明に従うと、例えば、唾液などの生体試料に含まれるIgAやEGF等の特定物質を、この物質を抗原とした抗原抗体反応により固定化して測定を行うような装置において、1回の測定で消耗する試薬の量を必要最小限に抑えることが可能であり、且つ、試料や試薬をマイクロ流路に流して測定をする方式に比べて、測定時間を著しく短くすることが出来るという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の実施の形態のサリバ測定装置の主要部を示した全体構成図、図2は、このサリバ測定装置の外観図である。
【0024】
この実施の形態のサリバ測定装置1は、人の唾液(saliva)を生体試料としてこの中に含まれるIgA(免疫抗体)やEGF(上皮細胞増殖因子)などのタンパク質を定量測定し、それにより被験者のストレス度や老化度等の判定を行うものである。IgAは人に与えられたストレス量に応じて唾液中に浸出される量が変化するものであり、EGFは老化がすすむほど唾液中に浸出される量が減ってくるものである。なお、測定するタンパク質の種類を変更することで、歯周病やピロリ菌感染の有無など種々の健康状態を検査することも可能となる。
【0025】
このサリバ測定装置1は、図1に示すように、外部から差し込まれたサリバスティック(標本スティック)Tを所定の位置高さに保持する図示略のステージと、サリバスティックTの上方から複数種類の液剤をそれぞれ微細液滴にして吐出可能な液剤ジェットヘッド12と、この液剤ジェットヘッド12をサリバスティックTの上面と平行なX方向(図1の紙面に垂直な方向)に変位させるヘッドアクチュエータ13と、サリバスティックTの下方からサリバスティックTの上面側の測定点に対して蛍光検出処理を行う蛍光検出部(蛍光検出手段)14と、蛍光検出部14の出力を受けて唾液中の特定成分の定量分析を行う分析部15等が設けられている。
【0026】
また、サリバ測定装置1には、図2に示すように、その外側に、サリバスティックTを差し込む挿入口11や、測定開始操作等を行う操作ボタン16や、測定結果等を表示する表示部17などが設けられている。また、このサリバ測定装置1に併設されて、唾液採取前の複数のサリバスティックTを冷蔵保存しておく冷蔵保存庫2が設けられている。冷蔵保存庫2は、例えば、ペルチェ素子を用いて電気的に内部を冷却するコンパクトな形態をしており、例えば、内部を10℃以下(好ましくは4℃程度)にしてサリバスティックTの先端部分に固着されている第1抗体の劣化を防ぐものである。なお、このような冷蔵保存庫2はサリバ測定装置1と一体的に設けるようにしても良い。
【0027】
図3には、液剤ジェットヘッドと蛍光検出部の対物レンズの駆動方向を示す説明図を示す。
液剤ジェットヘッド12は、特に限定されるものではないが、その底面側に複数のジェットノズル12s,12s…が一列に並んで設けられ、これらから、IgAと結合する第2抗体(第2試薬)を含んだ液剤、EGFと結合する別の種類の第2抗体(第2試薬)を含んだ液剤、蒸留水などの洗浄液剤、これら2種類の第2抗体に蛍光標識を結合させるAmplex(登録商標)Redなどの試薬と過酸化水素水の混合液を、それぞれ3ピコリットル程度の微細液滴にして噴出可能なものである。液剤ジェットヘッド12の内部には、上記の液剤をそれぞれ蓄積する複数のタンクと、これらタンクと上記ジェットノズル12s,12s…との間で圧電素子の駆動により液剤を圧縮して液剤を噴出させるピエゾ方式の駆動部が設けられている。このようなヘッド構成は、インクジェットプリンタなどの分野において実現されているものであり、それと同様の構造を適用することが出来る。
【0028】
ヘッドアクチュエータ13は、例えばピエゾモータを用いた駆動により、液剤ジェットヘッド12をジェットノズル12s,12sの列に沿ったX方向に高い精度で変位可能としたものである。
【0029】
図4には、蛍光検出部14の内部構成の一例を示す。
蛍光検出部14は、蛍光発光の励起光となる例えば波長532nmのレーザ光を出力するレーザ出力手段21と、レーザ光をサリバスティックTの測定点に照射させるとともに測定点にて発光された例えば波長570nmの蛍光を受光する対物レンズ22と、この対物レンズ22を少なくともサリバスティックTの上面に平行なX方向とレンズの光軸方向とにそれぞれ変位させるレンズアクチュエータ23と、サリバスティックT等で反射した励起光と試料から発せられる蛍光とを分離するビームスプリッタとしてのダイクロイックミラー24と、蛍光波長の光のみを選択的に透過させるバンドパス特性を有したエミッタ(光学フィルタ)25と、ダイクロイックミラー24やエミッタ25を透過した蛍光を検出する光センサ26と、光センサ26の受光面に蛍光を集束させる集束レンズ27と、ダイクロイックミラー24を透過したレーザ光の漏れ光を検出してレーザ光の出力モニタを行う出力モニタ用光センサ28と、各光センサ26,28の出力を増幅するアンプA1,A2および蛍光の検出信号からレーザ光の出力ばらつきの影響を取り除く割算回路29と、レンズアクチュエータ23を制御する駆動制御回路30などを備えている。そして、割算回路29の出力が蛍光検出信号として分析部15に送られるようになっている。
【0030】
上記のレーザ出力手段21は、例えば、半導体レーザ励起YAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)の二次高調波レーザを適用することが出来る。
【0031】
対物レンズ22は、例えば、開口数がNA0.3〜NA0.9などの大きなものであり、集光率が高く僅かな発光を大きな割合で受光することで高感度の検出を可能としている。また、開口数NAが大きいことで検出点における解像度も高いものになっている。
【0032】
光センサ26は、例えば、アバランシェ・フォトダイオードやPINフォトダイオードなど高感度のセンサを用いと良い。また、ホト・マルチプライヤなども適用可能である。
【0033】
レンズアクチュエータ23は、例えば、電磁力の作用により対物レンズ22を、例えば±1.5mm程度の微小な範囲で焦点方向とX方向とに変位させるものである。対物レンズ22の変位方向のうち、サリバスティックTの面と並行な変位方向Xは、図3に示すように、液剤ジェットヘッド12の駆動方向と同方向になるように設定されている。
【0034】
このようなレンズアクチュエータ23は、例えば、対物レンズ22を保持するレンズホルダを4本など複数本のワイヤで片持ち支持させる一方、レンズホルダに2系統の電磁コイルを設け、また、固定フレーム側の上記電磁コイルの近傍位置に磁石を設けるなどして構成することが出来る。そして、上記のワイヤを介して上記2系統の電磁コイルにそれぞれ独立した2系統の電流を供給することで電磁コイルに電磁力が作用してレンズホルダをX方向と焦点方向とに微小変位させることが出来る。
【0035】
なお、このようなレンズアクチュエータ23の構造は、光ディスクにデータを記録再生する光ピックアップの分野において、レーザ光を光ディスクの記録面に集束させる対物レンズの駆動機構として種々のタイプが実現されているものである。従って、この分野で公知となっている種々の構造を、上記の蛍光検出部14のレンズアクチュエータ23として適用することが出来る。
【0036】
そして、このようなレンズアクチュエータ23による対物レンズ22の微小変位により、対物レンズ22の焦点をサリバスティックTの上面に合わせて、測定箇所から発光される蛍光を感度良く取り込めるようにすることが出来る。また、対物レンズ22のX方向の変位により、サリバスティックTの上面に複数の測定点を設定した場合に、それら複数の測定点をX方向に並べておくことで、全ての測定点に対して対物レンズ22の焦点を合わせることが可能となる。
【0037】
図5は、サリバスティックの具体的な一例を示した平面図、図6はその先端部分の拡大図である。
【0038】
サリバスティックTは、ガラス板などの透明な平板を一方向に長く形成して、その先端部分の平面形状に丸みをつけたスティック型のものであり、その先端部分を被験者が舐めることで唾液が採取されるようにしたものである。このような唾液の採取方法から、長さは50〜200mm、幅は8〜20mmに形成すると良い。
【0039】
また、サリバスティックTの上面先端部分(先端から3〜20mmの位置:望ましくは先端から5〜10mmの位置)には、幅方向に並んだ2箇所に2種類の第1抗体(第1試薬)をそれぞれ固着させた抗体固定スポット51,52が設けられている。そして、採取された唾液がこの部分に付着されるようになっている。
この第1抗体の固着は、例えば、サリバスティックTの一部にPDMS(Polydimethylsiloxane)系材料をコーティングして第1抗体を吸着固定させることで実現可能である。
【0040】
抗体固定スポット51,52は、特に限定されないが直径150μm程度の円形状に形成され、また、抗体固定スポット51,52の間隔は、それらが重なってしまうことがなく、且つ、蛍光検出部14の対物レンズ22が変位により抗体固定スポット51,52の各々に焦点を合わられる程度の長さ(例えば0.2mm)に設定されている。なお、対物レンズ22の変位可能距離を長く構成することで、抗体固定スポット51,52の間隔をより広げたり、抗体固定スポットを3箇所以上一列に並べて形成することも可能である。
【0041】
このようなサリバスティックTにおいて、液剤ジェットヘッド12から試薬や洗浄液剤が噴射されて蛍光検出測定の対象となるのは、図6に示すように、抗体固定スポット51,52の例えば中央部分の小さな点状の範囲51a,52aである。
【0042】
次に、上記構成のサリバ測定装置1の測定動作について説明する。
図7には、実施の形態のサリバ測定装置を用いた測定処理の手順を示すフローチャートを、図8には、サリバスティックTの表面に測定対象のタンパク質と抗体や蛍光標識が結合して固定化されていく状態を示す説明図を示す。
【0043】
測定を行うには、先ず、被験者がサリバスティックTの先端部分を舐めることで、抗体固定スポット51,52の含まれる範囲に唾液を採取する(ステップS1)。サリバスティックTの抗体固定スポット51,52には、第1抗体81…が固着されているので(図8(a)参照)、この部分に唾液が付着することで、図8(b)に示すように、唾液中に含まれるIgA又はEGFなどの測定対象の抗原タンパク質82が第1抗体81…に結合される(図8(b)参照)。
【0044】
ここで、抗体固定スポット51,52に固着されている第1抗体81…の単位面積当たりの個数は、採取された状態の唾液に含まれる抗原タンパク質82…の単位面積当たりの個数よりも多く設定されている。そのため、全ての第1抗体81…に抗原タンパク質82…が結合されるのではなく、唾液中の抗原タンパク質82…の濃度に応じて抗原タンパク質82と結合される第1抗体81の割合が異なってくる。
【0045】
サリバスティックTに唾液を採取したら、このサリバスティックTをサリバ測定装置1の挿入口11から差し込んで測定処理を開始させる(ステップS2)。
すると、ヘッドアクチュエータ13および液剤ジェットヘッド12が動作して抗体固定スポット51,52内の所定点(例えば中央の点状の範囲51a,52a)に洗浄液剤を例えば50発ずつ噴出する(ステップS3)。これにより、この液剤の吐出点に付着していた唾液が稀釈されるとともに吐出点の周囲にそれらが押し流される。このとき、第1抗体81…に結合されている抗原タンパク質82…は押し流されることなくそこに留まっている。
【0046】
次いで、液剤ジェットヘッド12の第2抗体を噴出するジェットノズル12sが上記洗浄液剤の吐出点に合わせられ、液剤ジェットヘッド12が駆動してこの吐出点と同一の点に第2抗体83…を含んだ液剤を噴出する(ステップS4)。さらに、第2抗体83が反応するようにそのまま所定時間(例えば1秒間)放置する(ステップS5)。これらにより、第1抗体81と結合されている抗原タンパク質82に第2抗体83が結合する(図8(c)参照)。
【0047】
そして、再び、ヘッドアクチュエータ13および液剤ジェットヘッド12が動作して、上記第2抗体83の吐出点に洗浄液剤を例えば50発噴出する(ステップS6)。これにより、抗原タンパク質82と結合されていない残余の第2抗体がこの吐出点の周囲に押し流される。
【0048】
続いて同様に、液剤ジェットヘッド12の蛍光標識を結合させる混合液を噴出するジェットノズル12sが上記洗浄液剤の吐出点に合わせられ、液剤ジェットヘッド12が駆動してこの吐出点と同一の点に上記混合液を噴出する(ステップS7)。これにより、第1抗体81と抗原タンパク質82に結合されている第2抗体83に蛍光標識物質84が結合して固定化される(図8(d)参照)。
【0049】
そして、再び、ヘッドアクチュエータ13および液剤ジェットヘッド12が動作して、上記混合液の吐出点に洗浄液剤を例えば50発噴出する(ステップS8)。これにより、第2抗体83と結合されていない残余の蛍光標識がこの吐出点の周囲に押し流される。なお、ステップS3,S6,S8で行う洗浄液剤の噴出回数は目的の洗浄作用を得るために適宜変更可能である。
【0050】
上記のような液剤ジェットヘッド12による処理が完了したら、次に、蛍光検出部14が動作して、上記液剤の吐出点において蛍光検出処理を行う(ステップS9)。すなわち、レンズアクチュエータ23の駆動により対物レンズ22の焦点が上記液剤の吐出点に合わせられ、励起光の照射とそれによる蛍光の受光および蛍光の強度検出を行う。蛍光の強度は測定箇所における蛍光標識物質84の単位面積当たりの個数に応じて変化するので、この強度により第1抗体81と結合した抗原タンパク質82の量、すなわち、唾液中の抗原タンパク質の濃度を定量的に割り出すことが出来る。そして、蛍光の強度を示す信号が分析部15で分析されて、例えば、IgAの濃度からストレス度を、EGFの濃度から老化度を割り出してこれらが表示部17に出力されるなどして被験者に提示される。そして、1回の測定処理が終了する。
【0051】
なお、サリバスティックTには2つの抗体固定スポット51,52が設けられ、上記液剤ジェットヘッド12による各液剤の吐出と蛍光検出部14による蛍光検出までの一連の処理(ステップS3〜S9)は、2つの抗体固定スポット51,52の両方に対して行うことになるが、これら一連の処理を1つの抗体固定スポット51に対して全て行った後にもう1つの抗体固定スポット52に対して行うようにしても良いし、個々の液剤の吐出や蛍光検出の処理(ステップS3〜S9)を2つの抗体固定スポット51,52に対してそれぞれ交互に行うことで2種類の抗原タンパク質を並行して測定するようにしても良い。
【0052】
以上のように、この実施の形態のサリバ測定装置1によれば、試薬を液剤ジェットヘッド12から微細液滴にして噴出させることで、測定対象の抗原タンパク質に抗体や蛍光標識を結合させて測定を行うので、1回の測定で使用する試薬の量を非常に少なくすることが出来る。さらに、点状の範囲に液剤を噴出してこの範囲で測定対象の抗原タンパク質と第2抗体や蛍光標識を結合させ、同様に洗浄液剤を噴出して上記の範囲から残余の試薬や試料を流して測定を行う構成なので、マイクロ流路に試料や試薬を流す方式に比べて、非常に高速な測定が可能となる。
【0053】
また、実施の形態で示したサリバスティックTの形状および抗体固定スポットの形成位置により、唾液を試料とした場合に、サリバスティックTを舐めて容易に唾液試料を採取できるようになっている。
【0054】
また、レンズアクチュエータ23により対物レンズ22の焦点位置を変位させることのできる蛍光検出部により、微小な測定点に対して感度よく蛍光を取り込んで精度の高い測定を行えるようになっている。また、測定箇所が複数箇所あってもサリバスティックTを固定したまま対物レンズ22の変位で対応できるようになっている。
【0055】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、例えば、実施の形態で具体的に示した細部構造や試料や試薬の種類並びに個々の処理の内容や順番などは、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0056】
この発明は、ストレスセンサなど唾液等の生体試料から被験者の種々の健康指標を測定する健康指標測定装置に利用できる他、測定対象となる物質と試薬とを結合させて測定を行う種々の測定装置に利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の実施の形態のサリバ測定装置の主要部を示した全体構成図である。
【図2】同、サリバ測定装置の外観図である。
【図3】液剤ジェットヘッドと蛍光検出部の対物レンズの駆動方向を示す説明図である。
【図4】蛍光検出部の内部構成の一例を示す構成図である。
【図5】唾液を採取するサリバスティックを示す平面図である。
【図6】サリバスティックの先端部分に形成された第1抗体の固着部と液剤ジェットヘッドから液剤が吐出される吐出点とを示す拡大平面図である。
【図7】実施の形態のサリバ測定装置を用いた測定処理の手順を示すフローチャートである。
【図8】サリバスティックの表面に測定対象のタンパク質と抗体や蛍光標識が結合して固定化されていく状態変化を表わした説明図である。
【符号の説明】
【0058】
1 サリバ測定装置
2 冷蔵保存庫
12 液剤ジェットヘッド
12s ジェットノズル
13 ヘッドアクチュエータ(ヘッド駆動機構)
14 蛍光検出部
22 対物レンズ
23 レンズアクチュエータ(レンズ駆動機構)
51,52 抗体固定スポット
81 第1抗体(第1試薬)
82 抗原タンパク質(測定対象となる特定物質)
83 第2抗体(第2試薬)
84 蛍光標識物質
T サリバスティック(標本スティック)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液などの生体試料に含まれる特定物質に対して蛍光標識物質を含む試薬を結合させた後、蛍光検出により当該特定物質の量を測定する測定装置において、
前記特定物質と結合する第1試薬が予め固着され、この第1試薬が固着された箇所に前記生体試料を付着させて使用する標本スティックと、
前記特定物質に結合する第2試薬を含んだ液剤と、前記第2試薬と結合する蛍光標識物質を含んだ液剤と、固定化されていない残余の前記生体試料、前記第2試薬および前記蛍光標識物質を流す洗浄用液剤とを、それぞれ10ピコリットル以下の微量の液滴にして噴出可能な液剤ジェットヘッドと、
前記標本スティックの載置箇所を挟んで前記液剤ジェットヘッドの反対側に配置され励起光を照射して前記標本スティック上の試料から発せられる蛍光量を測定する蛍光検出手段とを備え、
前記液剤ジェットヘッドにより、前記標本スティックの前記第1試薬が固着されている箇所に、前記洗浄用液剤を20回以上噴出して残余の生体試料をこの洗浄用液剤の吐出点の外側に流し出す工程と、
前記液剤ジェットヘッドにより、前記洗浄用液剤の吐出点に、前記第2試薬を含んだ液剤を噴出して前記第1抗体に結合されている前記特定物質に前記第2抗体を結合させる工程と、
前記液剤ジェットヘッドにより、前記第2抗体の吐出点に、前記洗浄用液剤を20回以上噴出して固定化されていない残余の前記第2抗体をこの吐出点の外側に流し出す工程と、
前記液剤ジェットヘッドにより、前記洗浄用液剤の吐出点に、前記蛍光標識物質を含んだ液剤を噴出して前記特定物質に結合されている前記第2抗体に前記蛍光標識物質を結合させる工程と、
前記液剤ジェットヘッドにより、前記蛍光標識物質の吐出点に、前記洗浄用液剤を20回以上噴出して固定化されていない残余の蛍光標識物質をこの吐出点の外側に流し出す工程と、
前記蛍光検出手段により、これら第2抗体や蛍光標識物質の吐出点に対して蛍光検出を行ってこの吐出点に固定化されている前記蛍光標識物質の量を測定する工程と、
を順次行うように構成されていることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
試料中の特定物質に試薬を結合させて当該特定物質の有無又は量を測定する測定装置において、
前記試料を付着させて使用する標本スティックと、
微量の液滴を噴出する液剤ジェットヘッドとを備え、
前記標本スティックの前記試料が付着された箇所に、前記液剤ジェットヘッドにより前記試薬を含む液剤を噴出して、この液剤の吐出点における前記特定物質に前記試薬を結合させて固定化した後、前記液剤ジェットヘッドにより前記吐出点に洗浄用液剤を噴出して、固定化されていない前記試薬の残りを当該吐出点の外側に流し出し、その後、当該吐出点において前記特定物質の前記測定を行うように構成されていることを特徴とする測定装置。
【請求項3】
前記標本スティックの一部には前記特定物質と結合する第1試薬が予め固着され、
この第1試薬が固着された箇所に前記試料を付着させて、当該箇所に前記試薬の噴出が行われるように構成されていることを特徴とする請求項2記載の測定装置。
【請求項4】
前記液剤ジェットヘッドから噴出される液剤には、前記特定物質に結合する第2試薬を含んだ液剤と、前記第2試薬と結合する蛍光標識物質を含んだ液剤と、固定化されていない残余の前記試料、前記第2試薬および前記蛍光標識物質を流す洗浄用液剤とが含まれ、
前記液剤ジェットヘッドにより、前記標本スティックの前記第1試薬が固着された箇所の少なくとも一点に対して、前記洗浄用液剤、前記第2試薬を含んだ液剤、前記洗浄用液剤、前記蛍光標識物質を含んだ液剤を順次噴出させて、これらの液剤の吐出点に前記第1試薬と前記特定物質と前記第2試薬と前記蛍光標識物質とを結合させて固定化し、
その後、前記吐出点に対して蛍光検出を行って前記測定を行うように構成されていることを特徴とする請求項3記載の測定装置。
【請求項5】
前記標本スティックには同一面中の複数の箇所に、結合する特定物質が異なる複数種類の前記第1試薬が固着され、
これら複数種類の第1試薬に対してそれぞれ前記試料の付着と前記液剤ジェットヘッドによる液剤の噴出と前記特定物質の測定とが行われるように構成されていることを特徴とする請求項3又は4に記載の測定装置。
【請求項6】
前記液剤ジェットヘッドから噴出される液滴は10ピコリットル以下の液滴であることを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載の測定装置。
【請求項7】
前記液剤ジェットヘッドによる前記洗浄用液剤の噴出は、20個以上の液滴を連続的に噴出するように構成されていることを特徴とする請求項2〜6の何れかに記載の測定装置。
【請求項8】
前記試料は唾液であり、
前記標本スティックは、一方向に長いプレート形状で、プレート面に垂直な方向から見て先端部が丸みを帯びた形状にされていることを特徴とする請求項3〜5の何れかに記載の測定装置。
【請求項9】
前記標本スティックは、長手方向に5cm〜15cmの長さを有し、先端から2cmの範囲内に前記第1試薬の固着箇所があることを特徴とする請求項8記載の測定装置。
【請求項10】
前記標本スティックの載置箇所を挟んで前記液剤ジェットヘッドの反対側に、励起光を照射して前記標本スティック上の試料から発せられる蛍光を測定する蛍光検出手段が設けられていることを特徴とする請求項2〜9の何れかに記載の測定装置。
【請求項11】
前記液剤ジェットヘッドを液滴の噴出方向と直交する方向に駆動するヘッド駆動機構を備えるとともに、
前記蛍光検出手段には、
前記標本スティックの前記測定箇所に励起光を集光させるとともに当該測定箇所から発せられた蛍光を受光する対物レンズと、
この対物レンズを少なくとも当該対物レンズの光軸方向と前記液剤ジェットヘッドの駆動方向と同方向とにそれぞれ変位可能なレンズ駆動機構とが設けられていることを特徴とする請求項10記載の測定装置。
【請求項12】
前記標本スティックをペルチエ素子により冷蔵して保存する冷蔵保存庫を備えたことを特徴とする請求項1〜11に記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−113996(P2007−113996A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−304263(P2005−304263)
【出願日】平成17年10月19日(2005.10.19)
【出願人】(000201113)船井電機株式会社 (7,855)
【Fターム(参考)】