説明

測定装置

【課題】試料液を流通させる微小流路が設けられてなる交換自在のセンサチップを用い、その試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、使用済みのセンサチップを使用することを防止する。
【解決手段】試料液Sを流通させる微小流路11が設けられ、この微小流路11内の一部に、試料液S中の物質Aと特異的に結合する物質13を固定したセンサ部14が配設されてなる交換自在のセンサチップ10を用い、微小流路11に接続させた配管32、33を介してポンプ34により試料液Sを吸引して流通させ、その試料液S中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、測定動作に入る前に、微小流路11における液体の有無を検出する検出手段50、52、40等と、該検出手段50、52、40等により液体が有ることが検出されたとき測定動作を中止させる制御手段41とを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料液中に含まれる可能性が有る被検出物質について測定を行う装置、特に詳細には、試料液を流通させる微小流路を備えたセンサチップを用いる測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
バイオ測定においては、抗原抗体反応などの生体分子反応を検出することにより、被検出物質である抗原(あるいは抗体)などの存在の有無、量を測定している。
【0003】
例えば、互いに特異的に結合する2つの物質の一方(抗原、抗体、各種酵素、受容体など)を基板上に固定化し、他方の物質(これは被検出物質そのものであってもよいし、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質であってもよい)を基板上に固定された固定層に結合させ、この結合反応を検出することにより、試料中における被検出物質の有無、量を測定することができる。具体的には、試料に含まれる被検出物質である抗原を検出するため、基板上にその抗原と特異的に結合する抗体を固定しておき、基板上に試料を供給することにより抗体に抗原を特異的に結合させ、次いで、抗原と特異的に結合する、標識が付与された標識抗体を添加し、抗原と結合させることにより、抗体―抗原―標識抗体の、所謂サンドイッチを形成し、標識からの信号を検出するサンドイッチ法や、標識された競合抗原を被検出物質である抗原と競合的に固定化抗体と結合させ、固定化抗体と結合した競合抗原に付与されている標識からの信号を検出する競合法などのイムノアッセイが知られている。
【0004】
なお上記サンドイッチ法においては、被検出物質である抗原が上記「他方の物質」に相当し、競合法においては競合抗原が上記「他方の物質」に相当する。後者の競合法においては、固定化抗体と結合した競合抗原の量が多いほど、被検出物質である抗原の量が少ないという関係があるので、この関係に基づいて、競合抗原の量に対応する標識からの信号レベルにより抗原の量を求めることができる。
【0005】
また、上述のようなバイオ測定に適用可能で、高感度かつ容易な測定法として蛍光検出法が広く用いられている。この蛍光検出法は、特定波長の光により励起されて蛍光を発する被検出物質を含むと考えられる試料に上記特定波長の励起光を照射し、そのとき蛍光を検出することによって被検出物質の存在を確認する方法である。また、被検出物質が蛍光体ではない場合、蛍光色素で標識されて被検出物質と特異的に結合する物質を試料に接触させ、その後上記と同様にして蛍光を検出することにより、この結合すなわち被検出物質の存在を確認することも広くなされている。
【0006】
さらに、このような蛍光検出法において、感度を向上させるため、プラズモン共鳴による電場増強の効果を利用する方法が特許文献1などに提案されている。この方法は、透明な支持体上の所定領域に金属層を設けたセンサチップを用い、支持体と金属膜との界面に対して支持体の金属層形成面と反対の面側から、全反射角以上の入射角で励起光を入射させ、この励起光の照射により金属層に表面プラズモンを生じさせ、その電場増強作用によって蛍光を増強させることにより、S/Nを向上させるものである。
【0007】
以上述べたようなバイオ測定においては測定時間の短縮化が望まれており、そこで、センサ部における反応を効率良く生じさせて、測定時間の短縮を図る方法が種々提案されている。例えば特許文献2には、交換自在の微小流路(マイクロ流路)型のセンサチップを用い、試料液を一定の高速で流下させることにより測定の高速化を図ることが提案されている。この種のセンサチップは、上述した蛍光検出による被検出物質の検出や定量分析を行うために適用することも可能である。
【0008】
この交換自在のセンサチップは、多くの場合、使い捨ての形で使用されている。またこのセンサチップを用いて被検出物質の検出や定量分析を行う測定装置においては一般に、例えば特許文献3に記載されているように、微小流路に接続させた配管を介してポンプにより試料液を吸引して、微小流路中に流通させるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平10−307141号公報
【特許文献2】特開2007−101221号公報
【特許文献3】特開2008−128906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように使い捨てされるべきセンサチップが誤って再使用されると、測定結果が不正なものとなる、測定装置が故障する、といった問題が生じる。以下、この点について詳しく説明する。
【0011】
前述したポンプの吸引量は、センサチップの試料液供給口に滴下されてから吸引された試料液が、センサチップ内の微小流路内に留まるだけの量に設定される。しかし、再使用センサチップにおいて残っている試料液は、前回の測定時に吸引されて微小流路の下流端近くまで進んでいるので、このような状態になっている再使用センサチップに対して試料液吸引操作がなされると、残っていた古い試料液が、吸引ポンプに接続している配管内や、最悪の場合は吸引ポンプ内まで進入してしまう。こうして吸引経路に進入した古い試料液は吸引異常を引き起こして、測定に供すべき新しい試料液が微小流路内のセンサ部に到達できない等の事態を招き、その場合は測定が不正になされてしまう。
【0012】
さらに、上記の配管やポンプ内に古い試料液が残っていると、再使用センサチップに代えて次の新しいセンサチップが用いられた際にも、正しい測定が不可能になる。また、こうして古い試料液が残ってしまった測定装置は、常に吸引異常が発生する故障品となってしまう。
【0013】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、使用済みのセンサチップを再使用して測定を行ってしまうことを防止できる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による測定装置は、
前述したように試料液を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部に、試料液中の物質と特異的に結合する物質を固定したセンサ部が配設されてなる交換自在のセンサチップを用い、
前記微小流路に接続させた配管を介してポンプにより試料液を吸引して流通させ、その試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、
測定動作に入る前に、前記微小流路における液体の有無を検出する検出手段と、
この検出手段により液体が有ることが検出されたとき、測定動作を中止させる制御手段とが設けられたことを特徴とするものである。
【0015】
なお上述の検出手段としては光検出によるもの、つまり、前記微小流路に光を照射し、該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量に基づいて前記液体の有無を検出するものが好適に用いられる。
【0016】
あるいは上述の検出手段として圧力検出によるもの、つまり、前記微小流路内に向けて空気を吐出し、そのとき該微小流路から戻って来る空気の圧力を検出し、その検出圧力に基づいて前記液体の有無を検出するものが用いられてもよい。なお、上述のように空気を吐出する手段としては試料吸引ポンプを兼用することができ、空気を吐出させるときはそのモータを、試料液吸引の場合とは逆回転させればよい。
【0017】
また、本発明の測定装置においては、
前記検出手段の一つとして、前記微小流路に光を照射し、該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量に基づいて前記液体の有無を検出する第1の検出手段が設けられ、
さらに前記検出手段の別のものとして、前記微小流路内に向けて空気を吐出し、そのとき該微小流路から戻って来る空気の圧力を検出し、その検出圧力に基づいて前記液体の有無を検出する第2の検出手段が設けられ、
それらの検出手段のうち第1の検出手段を先に作動させた後、その出力を利用して液体有無の判定を行い、この判定が不能であるときだけ次に第2の検出手段を作動させる液体検出処理制御手段が設けられることが望ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の測定装置においては、測定動作に入る前に、センサチップの微小流路における液体の有無を検出し、それにより液体が有ることが検出されたときは測定動作を中止させるように構成されているので、微小流路に液体が有るセンサチップ、つまり使用済みのセンサチップを用いて測定がなされてしまうことを確実に防止可能となる。
【0019】
なお上述の検出手段として、特に微小流路に光を照射し、該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量に基づいて液体の有無を検出するものが用いられた場合は、前述したように試料吸引ポンプを動作させて空気を吐出させる場合と比べると、液体有無の検出を迅速に実行できるようになる。したがって、このような検出手段は、多数の試料液についての測定を短時間内に行う上で有利なものであると言える。
【0020】
一方、上述の検出手段として、微小流路内に向けて空気を吐出し、そのとき該微小流路から戻って来る空気の圧力を検出し、その検出圧力に基づいて液体の有無を検出するものが用いられた場合は、該検出を上記のように光学的に行う場合と比べて、液体有無の検出をより正確に行うことができる。
【0021】
そこで本発明の測定装置において特に、
前記検出手段の一つとして、前記微小流路に光を照射し、該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量に基づいて前記液体の有無を検出する第1の検出手段が設けられ、
さらに検出手段の別のものとして、前記微小流路内に向けて空気を吐出し、そのとき該微小流路から戻って来る空気の圧力を検出し、その検出圧力に基づいて前記液体の有無を検出する第2の検出手段が設けられ、
それらの検出手段のうち第1の検出手段を先に作動させた後、その出力を利用して液体有無の判定を行い、この判定が不能であるときだけ次に第2の検出手段を作動させる液体検出処理制御手段が設けられた場合は、
液体の有無が容易に検出できる状況下では第1の検出手段だけを用いてこの検出を迅速に実行可能となり、第1の検出手段では液体有無の検出が難しい状況下では第2の検出手段も用いて、この検出を正確に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態による測定装置を示す概略構成図
【図2】上記測定装置に用いられる微小流路型センサチップを示す斜視図
【図3】図2のセンサチップにおける生体物質検出時の状態を説明する図
【図4】新しいセンサチップにおける試料液吸引の様子を説明する図
【図5】使用済みセンサチップにおける試料液吸引の様子を説明する図
【図6】図1の測定装置における、センサチップ内の液体検出に関連する処理の流れを示すフローチャート
【図7】図1の装置において微小流路を透過した検出光Ldの受光量変化例を示すグラフ
【図8】図1の装置における、試料液吸引系内の圧力の変化例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による測定装置の概略構成を示すものである。本実施形態の測定装置は、先に述べた通りの微小流路型センサチップ(以下、単にセンサチップという)10を用いて生体由来物質を検出する装置として構成されたものである。まず図2および図3も参照して、このセンサチップ10について説明する。
【0024】
図1および図2に示される通りセンサチップ10は、試料液が流される微小流路11を有する流路部材12と、微小流路11の一部であって、互いに特異的に結合する2つの物質のうちの一方の物質13を壁面に固定しているセンサ部14と、流路部材12の上に固着された上板部材17とを備えてなるものである。本実施形態では、抗原抗体反応においてサンドイッチ法によるアッセイを行う場合を例とし、そこで上記物質13が、被検出物質である抗原Aと特異的に結合する抗体であるとして説明する。
【0025】
なお、抗体13は直接微小流路11の壁面に固定されてもよいが、後述するように表面プラズモンによる電場増強により蛍光を増強する場合は、この壁面の上に金属膜(図示せず)が形成され、その上に抗体13が固定される。
【0026】
上記上板部材17は、図2に示されるように、上表面に開口した試料液流入口16aおよび試料液流出口16bと、試料液流入口16aと微小流路11の上流端とを連通させる開口15aと、試料液流出口16bと微小流路11の下流端とを連通させる開口15aとを有している。この上板部材17と流路部材12は、例えば超音波溶接により接合されている。
【0027】
流路部材12および上板部材17はポリスチレン等の透明な誘電体材料からなり、射出成型によりそれぞれ成型されている。微小流路11のサイズは、一例として幅が2mm、深さが2mm程度である。なお図1に明示される通り、本実施形態において、センサ部14はその前後における微小流路11よりも浅く、つまり深さが50μm程度に形成されている。
【0028】
また本例のセンサチップ10においては、図3にも示すように、抗体13が固定されている領域の上流側において微小流路11の内面に、標識抗体20が付着されている。標識抗体20は、被検出物質に対して、前述の抗体13とは異なるエピトープに特異的に結合する抗体23と蛍光標識22とから構成されたものである。ここでは蛍光標識22として、多数の蛍光色素分子Fと該蛍光色素分子Fを内包する光透過材料21とからなる蛍光微粒子が用いられている。
【0029】
上記蛍光微粒子の大きさには特に制限はないが、直径数十nm〜数百nm程度が好ましく、ここでは一例として直径100nmのものが用いられている。光透過材料21としては、具体的には、ポリスチレンやSiO2などが挙げられるが、蛍光色素分子Fを内包でき、かつ該蛍光色素分子Fからの蛍光を透過させて外部に放出できるものであれば特に制限されない。本例における標識抗体20は、蛍光標識22を、それよりも小さい抗体23により表面修飾して構成されている。
【0030】
次に図1に戻って測定装置について説明する。この測定装置は、上記センサチップ10が例えば屈折率マッチングオイルを介して載置されるプリズム30と、このプリズム30とセンサチップ10との界面に対して、全反射条件となる入射角で励起光L0を入射させる半導体レーザ等からなる光源31と、センサチップ10の試料液流出口16bにノズル32を介して一端が連通される配管33と、この配管33の他端に吸込口が接続された試料吸引ポンプ34と、配管33に介設された開放弁35と、センサチップ10のセンサ部14の近傍部分から後述するようにして発せられる蛍光Lfを検出する光検出器36とを備えている。なお励起光L0は、表面プラズモンを誘起するように、上記界面に対してp偏光で入射させる。
【0031】
さらにこの測定装置は、配管33の内部圧力を検出する圧力センサ40と、上記試料吸引ポンプ34および開放弁35の動作等を制御する制御部41と、光検出器36の光検出信号が入力される信号処理部42と、この信号処理部42が出力するデータを一時記憶するメモリ等からなる記憶部43と、この記憶部43からデータを読み出して所定の演算を行う演算部44と、この演算部44に接続された液晶パネル等からなる表示手段45と、制御部41に接続されて表示手段45と共にユーザインターフェイスを構成する、例えばキーボードやマウス等からなる入力手段46とを有している。
【0032】
なお上記の説明において「○○部」と表記された要素は、それぞれ個別の回路等から構成されてもよいし、あるいはコンピュータシステムの一部として、所定のプログラムによって機能するソフトウェアから構成されてもよい。
【0033】
さらにこの測定装置は、試料液を検出するための検出光Ldを発する発光部50と、連結部材51を介してこの発光部50と連結された受光部52と、発光部50を図中左右方向に移動自在に保持したレール53と、装置使用者の手操作により所定の位置にセットされたセンサチップ10を測定位置(図1に示される位置)まで送り込み、そしてこの測定位置から排出するチップ搬送手段60とを有している。なお上記発光部50は、検出光Ldを発する例えば発光ダイオード等の発光素子とともに、レール53に沿って往復移動する移動手段(図示せず)を内蔵している。また受光部52は、検出光Ldを検出する例えばフォトダイオード等の受光素子を内蔵している。
【0034】
上記発光部50および受光部52の作動は前記制御部41によって制御され、また受光部52の光検出信号SLは制御部41に入力される。また、チップ搬送手段60の作動も、制御部41によって制御される。
【0035】
次に、この測定装置による被検出物質の検出について説明する。ここでは一例として、血漿である試料液Sに含まれる可能性のある抗原Aを検出する場合について説明する。まず、図1に示す試料液流入口16aに試料液Sが注入され、それとともに試料吸引ポンプ34が駆動されて、試料液Sがセンサチップ10の微小流路11内に導入される。なお、この試料液Sの吸入については、後に詳しく説明する。また開放弁35は、試料吸引ポンプ34の駆動に先立って、それまでの開状態から閉状態に設定される。
【0036】
微小流路11に導入された試料液Sは、図3に模式的に示すように、該流路11に吸着固定されている標識抗体20と混ぜ合わされる。それにより、抗原Aが標識抗体20の抗体23と結合し、さらに抗体23と結合した抗原Aが、センサ部14の抗体13と結合し、抗原Aが抗体13と抗体23で挟み込まれたいわゆるサンドイッチが形成される。
【0037】
このようにしてセンサ部14の部分に吸着した抗原Aは、以下の通りにして検出される。光源31から発せられた励起光L0は、プリズム30とセンサチップ10の界面に対して、全反射条件となる入射角で入射する。すると、この場合は抗体13と微小流路11の壁面との間に介在している金属膜(図示せず)上の試料液S中にエバネッセント波が滲み出し、このエバネッセント波によって金属膜中に表面プラズモンが励起される。この表面プラズモンにより金属膜表面に電界分布が生じ、電場増強領域が形成される。
【0038】
このとき、エバネッセント波の滲み出し領域内に蛍光標識22が存在すると、その蛍光標識22が励起されて蛍光Lfが発生する。ここで、エバネッセント波の染み出し領域とほぼ同等の領域に存在する表面プラズモンによる電場増強効果により、蛍光Lfは増強されたものとなる。光検出器36は、この増強された蛍光Lfを検出する。以上のようにして蛍光標識22の存在を検出することは、すなわち、抗体13と結合した抗原Aの存在を検出することになる。
【0039】
光検出器36が出力する蛍光検出信号は信号処理部42に送られ、そこで所定の時間間隔でサンプリングされ、またそのサンプリングされた信号は増幅やA/D変換等の処理にかけられて所定規格の蛍光測定データとされる。この蛍光測定データは、一旦記憶部43に記憶される。演算部44は記憶部43から上記蛍光測定データを読み出し、それらの蛍光測定データに演算処理を加えて、最終的な測定結果として出力する。この測定結果は、例えば測定時間とそれに対応した演算値(例えばセンサ部14における単位面積当たりの抗原Aの固定量など)の関係等である。
【0040】
なお微小流路11中には、固定されている抗体13と結合していない抗原Aや標識抗体20が浮遊しており、またセンサ部14には標識抗体20が非特異吸着している。これらを除去するため、蛍光Lfの検出前に、適宜洗浄液を流路に導入するようにしてもよい。
【0041】
また、例えば励起光L0として780nmに中心波長を有するレーザ光を用い、前述の金属膜として金(Au)膜を用いる場合、金属膜の厚みは50nm±20nmが好適である。さらに好ましくは、47nm±10nmである。なお、金属薄膜は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Ni、Ti、およびこれらの合金からなる群より選択される少なくとも1種の金属を主成分とするものが好ましい。
【0042】
次に、この測定装置において、使用済みのセンサチップ10を再使用して測定が不正になされることを防止する点について説明する。まず、この再使用がなされるときに生じる問題について、図4および図5を参照して説明する。なおこれらの図4および図5において、図1〜3中の要素と同等の要素には同番号を付してあり、それらについての説明は必要の無い限り省略する(以下、同様)。
【0043】
図4は、新しいセンサチップ10が使われるときの、試料液Sの吸引状態を示している。まず同図の(1)に示すようにセンサチップ10の試料液流入口16aに試料液Sが注入され、それとともに試料吸引ポンプ34が駆動されると、同図の(2)に示すように試料液Sが吸引されて微小流路11内に導入される。このときの試料吸引ポンプ34の吸入量は、試料液Sの前端がセンサチップ10の試料液流出口16bまでは到達しないで、微小流路11内に留まるだけの量に設定される。したがってこの場合は、試料液Sが図1に示した配管33や試料吸引ポンプ34に進入することはない。
【0044】
一方、センサチップ10が使用済みのものである場合は図5の(1)に示すように、センサチップ10の微小流路11内に古い試料液S′が既に存在している。この状態下で試料吸引ポンプ34が駆動されて、規定の吸入量で試料液を吸引すると、上記の古い試料液S′が試料液流出口16bから流出して、配管33や試料吸引ポンプ34内に進入してしまうことがある。このような事態になると、測定が不正になされ、また測定装置の故障を招くことは先に詳しく説明した通りである。
【0045】
以下、この問題を防止する点について説明する。図6は、本装置における測定操作つまり、抗原Aの存在や存在量を検出する操作がなされるときの処理の流れを詳しく示すものであり、以下この図6を参照して説明する。まず処理が開始すると、例えば装置使用者の手操作によってセンサチップ10が所定の供給位置にセットされ(図6のステップSP1。以下同様)、次に図1の入力手段46が操作されて、制御部41に測定開始信号が入力される(ステップSP2)。
【0046】
すると制御部41は、チップ搬送手段60を作動させて、センサチップ10を上記供給位置から図1に示す測定位置まで搬送させる(ステップSP3)。次に制御部41は、発光部50の発光素子をON状態にさせるとともに、前述した移動手段を作動させて、それまでセンサ部14の側方に離れた待機位置で待機していたこの発光部50を、レール53のほぼ全長に亘って移動させる。それにより、発光部50の発光素子から発せられた検出光Ldが、プリズム30越しにセンサチップ10の微小流路11に沿って照射される(ステップSP4)。
【0047】
このとき、発光部50とともに移動する受光部52もON状態にされ、微小流路11を透過した検出光Ldがこの受光部52によって受光される。発光部50および受光部52の移動に伴って該受光部52から連続的に出力される光検出信号SLは、制御部41に入力される。制御部41はこの信号を所定の時間間隔でサンプリングし、サンプリングした信号に基づいて透過光量値を取得する(ステップSP5)。この透過光量値は例えば図7に折れ線a、b、cあるいはdで示すように、微小流路11の長さ方向に離散した複数位置の各々を透過した検出光Ldの光量を示すものとなる。
【0048】
なお、この光量検出は、1つのセンサチップ10について発光部50および受光部52を1回だけ片道移動させて行われる。つまり1回の光量検出では、図7中の1つの折れ線に沿った複数(同図の例ならば9個)の透過光量値が取得される。そしてこの透過光量値の取得後、発光部50および受光部52は元の待機位置に戻される。制御部41は次に、上述のようにして取得した複数の透過光量値の標準偏差σおよび平均値mを算出する(ステップSP6)。なお図7には、3つの折れ線b、cおよびdに沿った透過光量値の平均値mを併せて示してある。
【0049】
次に制御部41は、予め定めた標準偏差の閾値σと算出した標準偏差σとを比較し(ステップSP7)、σ<σであれば次にステップSP8の処理を、そうでなければ次にステップSP10の処理を行う。すなわち、σ<σとならないのは、例えば図7の折れ線aに沿ったような透過光量値が取得された場合であり、このようなときは透過光量値に基づく残存試料液の検出は不可能と判断して、より正確に残存試料液を検出できるステップSP10以下の処理を行うようにしている。
【0050】
σ<σであった場合、制御部41は次にステップSP8において、透過光量値の平均値mと、予め記憶している所定の閾値Th1とを比較する。なおこの閾値Th1は例えば図7に示すようなものである。また本実施形態では、それよりも大きいもう1つの閾値Th2も制御部41に記憶されている。
【0051】
m<Th1である場合は、検出した透過光量値が明らかに低レベルであって、後述する理由により、微小流路11に古い試料液S′は残っていないと考えられるので、制御部41は先に述べた通常の測定動作(抗原Aの存在や存在量を検出する操作)を開始させる(ステップSP12)。この測定動作が正常になされると、前述した通り図1の演算部44から測定値が出力され、その測定値が表示手段45において表示され、1つのセンサチップ10に関する処理が終了する。なお、測定終了後のセンサチップ10は、測定値が表示手段45に表示されたことを確認した装置使用者が、入力手段46から制御部41にチップ排出指令信号を入力してチップ搬送手段60を駆動させることにより、測定位置から排出される。あるいは、測定が終了したら自動的にチップ搬送手段60を駆動させて、センサチップ10を排出させてもよい。
【0052】
上記ステップSP8においてm<Th1ではないと判定された場合、制御部41は次にステップSP9において、透過光量値の平均値mと、閾値Th1よりも大きい所定の閾値Th2とを比較する。ここでTh2<mである場合は、検出された透過光量値が明らかに高レベルであって、微小流路11に古い試料液S′が残っていると考えられる。つまり、微小流路11に古い試料液S′が残っていない場合は、検出光Ldが微小流路11と流路部材12との界面で多く反射するのに対し、古い試料液S′が残っていると検出光Ldは上記界面で反射し難くなるので、より多くの検出光Ldが微小流路11を透過するようになる。
【0053】
このようにTh2<mである場合、制御部41は次にチップ搬送手段60を駆動させて、センサチップ10を測定位置から強制的に排出させ、測定を中止させる(ステップSP14)。制御部41はさらに、センサチップ10に異常が認められて測定が中止されたことを示す情報を出力し、それを表示手段45に入力させる(ステップSP15)。そこで、表示手段45において異常を示す表示がなされ、装置使用者はその表示を見て状況を把握することができる。
【0054】
上記ステップSP9において、Th2<mではないと判定された場合、つまり透過光量値の平均値mがさほど小さくもなく、そしてさほど大きくもない場合、制御部41は、古い試料液S′の有無を検出するのは不能と判定し、次のステップSP10において、より精度の高い試料液検出を行わせる。すなわちここでは、試料吸引ポンプ34のモータが試料液吸引の場合とは逆転され、それにより、配管33およびノズル32を介して微小流路11内に向けて空気が吐出される。このとき配管33の内部圧力(正圧)が圧力センサ40によって検出され、その圧力検出信号Spが制御部41に入力される。
【0055】
圧力検出信号Spが示す上記内部圧力は、新しい正常なセンサチップ10におけるように、その微小流路11内に何も存在しない場合は、ほぼ一定の低い値を取り続ける。しかし微小流路11内に古い試料液S′が存在していると、その内部圧力(正圧)値Pは概略図8に実線eで示すように変化する。つまり、微小流路11内を上流側に進行する空気が、微小流路11内の古い試料液S′と時間Tcにおいて接すると、内部圧力値Pが急激に増大する。
【0056】
そこで制御部41は次にステップSP11において、予め定められた圧力(正圧)の閾値Pと、検出された内部圧力値Pとを比較し、それらの絶対値に関してP<Pでなければ古い試料液S′は存在しないと判断して、次に前述したステップSP12以下の処理、つまり通常の測定動作を行わせる。その一方、P<Pである場合は、微小流路11内に古い試料液S′が存在すると考えられるので、制御部41は次に前述したステップSP14、15の処理を行って測定動作を中止させ、またそのときの状況を表示手段45に表示させる。
【0057】
なお、図8に実線eで示すように内部圧力が変化するとき、その微分値は同図に破線fで示すように変化する。したがって、上記のように内部圧力値Pと閾値Pとを比較する他、上記微分値と所定の閾値とを比較し、その結果に基づいて試料液S′の有無を検出することも可能である。
【0058】
以上の説明から明らかな通り本実施形態においては、制御部41が、本発明における制御手段および液体検出処理制御手段を構成している。また液体有無の検出を光学的に行う発光部50、連結部材51、受光部52およびレール53は、本発明における第1の検出手段を構成しており、液体有無の検出を圧力検出によって行う試料吸引ポンプ34、配管33、ノズル32および圧力センサ40は、本発明における第2の検出手段を構成している。
【0059】
なお上述のような第1の検出手段および第2の検出手段の一方だけを設けて、それによって液体有無の検出を行うようにしてもよい。しかし本実施形態のようにすれば、液体の有無が容易に検出できる状況下では第1の検出手段だけを用いてこの検出を迅速に実行可能となり、第1の検出手段では液体有無の検出が難しい状況下では第2の検出手段も用いて、この検出を正確に行うことが可能になる。
【0060】
なお上記の実施形態では、表面プラズモンによる電場増強を利用して蛍光強度を高めているが、通常の落射法による光照射を適用してもよい。その場合は、センサ部14の部分に先に述べた金属膜を形成しておくことは不要になる。
【0061】
さらに、本発明の測定装置が対象とする被検出物質(アナライト)は抗原や抗体の他、遺伝子、細胞などの固層化して観察できる生体由来物質であれば、特に制限がない。遺伝子、細胞を検出する場合は、それらに特異的に吸着する物質を微小流路の内壁に固定しておけばよい。反対に、遺伝子、細胞に特異的に吸着する物質を本発明の測定装置によって検出することも可能であり、その場合は遺伝子、細胞を微小流路の内壁に固定しておけばよい。
【0062】
また、被検出物質、あるいは試料中で被検出物質と競合する競合物質と特異的に結合する物質は、センサ表面に直接固定されている必要はなく、自己組織化単分子膜(SAM)、SiO等の誘電体膜、カルボキシメチルデキストラン等の高分子膜などを介して固定されていてもよい。
【0063】
また、被検出物質、あるいはこの被検出物質と試料液中で競合する競合物質と、それと特異的に結合する物質との組合せも、上述した抗原と抗体に限られるものではなく、その他、アビジン・ビオチン反応、酵素・基質反応など、バイオアッセイに使われる反応により結合する物質の組合せが用いられる場合にも、本発明は同様に適用可能である。
【0064】
さらに、免疫アッセイを適用する場合は、先に説明したサンドイッチアッセイだけではなく、競合法を適用することも可能である。
【0065】
また標識物質は蛍光分子に限らず、蛍光ビーズ、金属微粒子など光応答性があるその他の物質からなるものも適用可能である。
【符号の説明】
【0066】
10 微小流路型センサチップ
11 微小流路
12 流路部材
13 抗体
14 センサ部
20 標識抗体
22 標識
23 抗体
30 プリズム
31 光源
32 ノズル
33 配管
34 試料吸引ポンプ
36 光検出器
40 圧力センサ
41 制御部
44 演算部
45 表示手段
46 入力手段
50 発光部
51 連結部材
52 受光部
53 レール
60 チップ搬送手段
A 抗原
Ld 検出光
0 励起光
Lf 蛍光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を流通させる微小流路が設けられ、この微小流路内の一部に、試料液中の物質と特異的に結合する物質を固定したセンサ部が配設されてなる交換自在のセンサチップを用い、
前記微小流路に接続させた配管を介してポンプにより試料液を吸引して流通させ、その試料液中に含まれ得る被検出物質に関する測定を行う測定装置において、
測定動作に入る前に、前記微小流路における液体の有無を検出する検出手段と、
この検出手段により液体が有ることが検出されたとき、測定動作を中止させる制御手段とが設けられたことを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記検出手段が、前記微小流路に光を照射し、該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量に基づいて前記液体の有無を検出するものであることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項3】
前記検出手段が、前記微小流路内に向けて空気を吐出し、そのとき該微小流路から戻って来る空気の圧力を検出し、その検出圧力に基づいて前記液体の有無を検出するものであることを特徴とする請求項1記載の測定装置。
【請求項4】
前記検出手段の一つとして、前記微小流路に光を照射し、該微小流路を透過した光を検出し、その検出光量に基づいて前記液体の有無を検出する第1の検出手段が設けられ、
前記検出手段の別のものとして、前記微小流路内に向けて空気を吐出し、そのとき該微小流路から戻って来る空気の圧力を検出し、その検出圧力に基づいて前記液体の有無を検出する第2の検出手段が設けられ、
それらの検出手段のうち第1の検出手段を先に作動させた後、その出力を利用して液体有無の判定を行い、この判定が不能であるときだけ次に第2の検出手段を作動させる液体検出処理制御手段が設けられたことを特徴とする請求項1記載の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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