測距装置
【目的】 SS方式による測距装置において、高速のクロックを用いることなくPNクロックのみを用いて距離測定の精度の向上を図ることにある。
【構成】 被測距側からのSS信号を受信すると、相関部14に相関をとり、その相関出力はピーク検出手段の遅延補正部21によって遅延補正される。これによりピーク点と相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジは等しくなり等価的にピーク点を検出できる。位相判定手段の遅延部26はPNクロック発振部1からのPNクロックをN分割し、夫々位相の異なるPNクロックを選択部25に出力する。遅延補正部21からの相関ピーク検出パルス信号は位相比較手段に入力され、位相制御されたPNクロックと比較して、その出力に基づき選択部25は位相誤差の少ないPNクロックを選択し、かつ位相選択情報を距離演算部28に与えて、距離の誤差を補正する。
【構成】 被測距側からのSS信号を受信すると、相関部14に相関をとり、その相関出力はピーク検出手段の遅延補正部21によって遅延補正される。これによりピーク点と相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジは等しくなり等価的にピーク点を検出できる。位相判定手段の遅延部26はPNクロック発振部1からのPNクロックをN分割し、夫々位相の異なるPNクロックを選択部25に出力する。遅延補正部21からの相関ピーク検出パルス信号は位相比較手段に入力され、位相制御されたPNクロックと比較して、その出力に基づき選択部25は位相誤差の少ないPNクロックを選択し、かつ位相選択情報を距離演算部28に与えて、距離の誤差を補正する。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はスペクトラム拡散通信方式を利用した測距装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】スペクトラム拡散(SS)通信方式の応用として、一般に測距方式が知られており、この測距方式を用いた従来技術として、図8に示すような測距側及び被測距側の構成がある。この測距方式は、SS信号(PN符号)を測距側と被測距側間において、折り返し送受信することにより、距離を測定するもので、以下、かかる従来の方式の測距装置の各部のブロックの動作について説明する。
【0003】まず、図9(a)に示すように、測距側のPNクロック発振部1より周期t1のPNクロックを発生させ、これをもとにPN符号発生器2からは、図9(b)に示すようにPNクロックの立上りエッジと同期して、PN1チップ長t1、周期t4のPN符号と、図9R>9(c)に示すようなPN符号のスタートパルスを出力する。
【0004】かけ算部3は、PN符号発生器から出力される図10(a)に示すような電力スペクトラムをもつベースバンドのPN符号と、局部発振部4から出力されるキャリアf1とのかけ算を行なうことで、PN符号の高周波スペクトラム拡散変調を行なう。これにより、送信アンテナ5からは、図10(b)及び図9(d)に示すような中心周波数f1のSS信号の送信を行なう。
【0005】被測距側は、受信アンテナ6により、中心周波数f1のSS信号の受信を行ない、バンドパスフィルタ(BPF)7によりスペクトルのメインローブ以外の不要な周波数成分の除去を行なう。
【0006】増幅器8は受信されるSS信号の増幅を行ない、周波数変換部9により図10(c)に示すように中心周波数がf2のSS信号に変換し、送信アンテナ10により折り返し送信を行なう。ここで、周波数変換を行なうのは、測距側から送信されるSS信号と被測距側から折り返し送信されるSS信号を周波数領域で分割し、お互いの干渉を除去するためである。
【0007】測距側は、被測距側から折り返し送信される中心周波数f2のSS信号を受信アンテナ11により受信し、BPF12によりスペクトルのメインローブ以外の不要な周波数成分の除去を行ない、増幅部13より増幅を行ない、相関部14に入力する。
【0008】相関部14は、例えばアナログマッチドフィルタを使用したとすると、このマッチドフィルタに設定された参照PN符号パターンと、図9(e)に示すような受信されるSS信号のPN符号パターンが一致すると、相関ピークが出力され、増幅部15で増幅し、検波部16で包絡線検波された検波信号の波形は、図9(f)に示すような鋭いピークをもつ三角波となる。なお、パルス幅はPN2チップ長で、周期はPN符号の1周期と同じである。
【0009】ピーク検出部17は、図11に示すようなコンパレータ17aにより構成され、相関出力信号が固定の基準信号より大きいとき、図9(g)に示すような相関ピーク検出パルスを出力する。
【0010】PNクロックカウンタ18は、図9(c)に示すような送信されるPN符号のスタートパルスの立上りエッジと、図9(g)に示すようなピーク検出部15から出力される相関ピーク検出パルスの立上りエッジ間のPNクロックをカウントする。すなわち、図9(h)に示すようにPN符号のスタートパルスの立上りエッジで、PNクロックカウンタ18がロードされ、入力されるPNクロックの立上りエッジに同期してアップカウントし、相関ピーク検出パルスの立上りエッジでホールドを行なう。
【0011】これにより、ホールドされたカウント数をnとすると、測距側と被測距側間の折り返し送受信における電波伝搬時間t2は、t2=t1・n (t1:PNクロック1周期)
となる。よって、測距側と被測距間の距離Lは、距離演算部28により、L=c・t2/2 (c:光速)
(但し図9で、t0は真の折り返し送受信時の電波伝搬時間、t3はピーク検出の誤差を含む折り返し送受信時の電波伝搬時間、t2はピーク検出及びPNのクロック周期の誤差を含む折り返し送受信時の電波伝搬時間である。)より求めることができる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】以上が従来の測距方式であるが、この方式で問題となる点は、鋭いピークをもつ三角波状の相関出力信号のピーク点を正確に捕らえることができないことと、PNクロックでのみ電波伝搬時間をカウントしていることである。よって、この方式の距離測定の精度は、相関ピーク点の検出精度及びPNクロックの周期t1(PN1チップ長)により制限され、最大±c・t1/2の誤差が生じることになる。例えばPNクロックを10MHzとすると、1周期は100nsecなので距離測定誤差Leは、Le=±c・t1/2=±3・108・100・10-9/2=±15(m)
となる。
【0013】本発明の目的は、上記距離測定誤差Leを小さくするために、鋭いピークをもつ三角波状の相関出力信号のピーク点を正確に捕らえ、精度よく電波伝搬時間を計測することを可能とするにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、測距側において、PNクロックを発生するPNクロック発振部と、該PNクロックに基づいて、所定周期のPN符号とスタートパルスとを出力するPN符号発生部と、該PN符号を所定の中心周波数の搬送波で変調して得られたスペクトル拡散変調信号を送信する手段と、を有し、被測距側において、受信信号を直ちに上記送信中心周波数とは異なる中心周波数のスペクトラム拡散信号に変換し送信する手段を有し、更に、上記測距側において、被測距側からの送信信号を受信し、受信信号と参照信号との相関をとり相関が得られた時に相関スパイク信号を出力する相関部と、前記相関スパイク信号から2値化された相関ピーク検出パルスを得るピーク検出手段と、上記PNクロックを入力し、上記スタートパルスと相関ピーク検出パルスとに基づいてPNクロックを計数する計数手段と、少なくとも前記計数手段の出力に基づいて距離演算を行なう距離演算部と、を備えた測距装置において、上記ピーク検出手段は、上記相関部の出力を増幅する増幅器と、増幅器の出力に基づいて該増幅器のゲインを制御するゲイン制御部と、上記増幅器の出力を所定値と比較し、2値化するピーク検出部と、該ピーク検出部の出力を所定時間長遅延する遅延補正部と、を含むことを要旨としている。
【0015】
【作用】検出された相関出力信号には遅延がかけられ、これにより簡易に相関出力のピーク点が検出される。更にPNクロック1周期内における基準クロックに対する相関ピーク検出パルス信号の相対的な位相を検出し、PNクロックのみのカウントによる伝搬時間を含む最大PNクロック1周期分の誤差を補正する。
【0016】
【実施例】以下図面に示す本発明の実施例を説明する。図1は本発明によるSS通信方式をとる測距装置の一実施例で、図8と同一符号は同一又は類似の回路をあらわし、その特徴とする構成は、検波部16、ピーク検出部17、増幅部19、ゲイン制御部20及び遅延補正部21から成るピーク検出手段と、位相比較部22、シーケンシャルフィルタ23、スレッショルド設定部27を含む位相比較手段、選択部25及び遅延部26から成る位相判定手段と、を備えている点にある。
【0017】相関部14において、参照PN符号パターンと、受信されるSS信号のPN符号パターンが一致した時と、得られた相関ピーク出力を増幅部19で増幅し、検波部16で包絡線検波すると、鋭いピークをもつ三角波状の相関出力信号が得られる。ピーク検出手段において、ゲイン制御部20は、この相関出力信号のピーク点を常に一定電圧レベルV1となるように、増幅器19のゲインの制御を行なう。
【0018】ピーク検出部17は、図11に示すようなコンパレータ17aにより構成される。このコンパレータにおいて、図2(a)に示すように、常にピーク点が一定電圧レベルV1にされた相関出力信号と、ピーク点に対し、1/2の電圧レベルを基準電圧信号として入力する。これにより、ピーク検出部17から出力される相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジは、図2(b)に示すピーク点に対し、図2(b)に示すように、PN1/2チップ長(PNクロック半周期)進んで出力される。
【0019】遅延補正部21は、図2(c)に示すように、相関ピーク検出パルス信号に対し、PN1/2チップ長(遅延補正値)の遅延をかける。これにより、ピーク点と相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジは等しくなり、等価的にピーク点を検出することになる。
【0020】次に、位相判定手段の回路構成について述べる。この手段は、PNクロック1周期(PN1チップ長)内において、検出の分解能を向上させることにより、精度よく電波伝搬時間(測定距離)を計測するための回路である。このため、前記従来例で述べたPNクロックで電波伝搬時間をカウントすることにより、最大PNクロック1周期分の誤差を含んだ絶対的な伝搬時間を検出し、更にPNクロック1周期内における基準PNクロックに対する相関ピーク検出パルス信号の相対的な位相を検出することにより、上記誤差の補正を行なう。
【0021】以下、PNクロック1周期内における相関ピーク検出パルス信号の相対的な位相を検出するための位相判定手段の各ブロックの説明を行なう。まず、PNクロック発振部1により、周期t1のPNクロックを発生させ、これを遅延部26に入力する。遅延部26は、図3に示すようにN−1個の遅延回路を有し、入力されるPNクロックに対して図4に示す如く各々遅延をかけ、N分割した位相(遅延時間)の異なるPNクロックMm(m=0,1,2,3,…,N−1)を出力する。ここで、N=32とすれば、入力に対する各々の遅延時間nm(m=1,2,3,…,N−1)は、nm=m×t1/N (m=1,2,3,…,N−1)
=m×t1/32(m=1,2,3,…,31)
【0022】となるように設定する。なお、m=0(nm=0)を基準クロックM0とし、デフォルト状態において、選択部25から出力しているものとする。図4は上記の32分割した位相の異なるPNクロックを示したもので、基準PNクロックM0に対して、1×t1/32の遅延をかけたPNクロックM1、基準PNクロックM0に対して、2×t1/32の遅延をかけたPNクロックM2、基準PNクロックM0に対して、3×t1/32の遅延をかけたPNクロックM3,…、基準PNクロックM0に対して、31×t1/32の遅延をかけたPNクロックM31を示している。
【0023】位相比較部22は、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジにおいて、図5(a)に示す選択部25から出力されるPNクロックと位相比較を行なう。例えば図5(b)に示すような立上りエッジであれば、図5(c)に示すように遅れパルスaを出力し、図5(d)に示すような立上りエッジであれば、図5(e)に示すように進みパルスbを出力する。
【0024】シーケンシャルフィルタ23は、遅れパルスa又は進みパルスbの時間平均を行なう。例えばシーケンシャルフィルタとしてランダムウォークフィルタを用いたとすれば、遅れパルスaが入力されると、ランダムウォークフィルタが有するアップダウンカウンタをカウントアップし、逆に進みパルスbが入力されるとカウントダウンし、カウンタがスレッショルド設定部27において設定されたパルスカウント数になると、オーバーフロー又はアンダーフローとなり、時間平均化された進みパルスc又は時間平均化された遅れパルスdを出力し、上記カウンタをリセットする。例えば、スレッショルド設定部27においてパルスカウント数を8に設定すれば、シーケンシャルフィルタでは図6(a)に示すように遅れパルスaの累積数が8となれば、図6(b)に示すように時間平均化された遅れパルスcを出力する。また、図6(c)に示すように進みパルスbの累積数が8となれば、図6(d)に示すように時間平均化された進みパルスdを出力する。
【0025】選択部25は、シーケンシャルフィルタ23から出力される時間平均化した遅れパルスc又は進みパルスdをもとに、遅延部26から出力されるN分割した位相(遅延時間)の異なるPNクロックMm(m=0,1,2,3,…,N−1)の順次選択を行ない、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジに対して、位相誤差がもっとも小さいPNクロックを選択するように制御を行なう。例えば、時間平均化された遅れパルスcが連続して入力されると、選択部25はN分割された位相の異なるPNクロックをM0,MN-1,MN-2,MN-3,…,と順次選択し、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジに対して、PNクロックの位相を進ませる制御を行なう。また逆に、時間平均化された進みパルスdが連続して入力されると、PNクロックをM0,M1,M2.M3,…,と順次選択し、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジに対して、PNクロックの位相を遅れさせる制御を行なう。これにより、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジとPNクロックの位相を、PNクロック1周期(PN1チップ長)間隔のN分の1の精度で同期をとることができる。ここで、位相同期後の選択されたPNクロックMxは、基準PNクロックM0(従来例で述べた電波伝搬時間をカウントするためのPNクロックと位相は等しい)に対する相対的な位相(相対時間)は既知なので、この位相選択情報(相対位相値)が上記で述べた誤差の補正値となる。
【0026】すなわち、従来例で述べたようにPNクロックカウンタ18は、図7(a)(図9(a)と同じ)に示す基準PNクロックM0により、図9(c)に示すPN符号のスタートパルスの立上りエッジと、図7(b)(図9(g)と同じ)に示す相関ピーク検出パルスの立上りエッジ間の電波伝搬時間t2を、図7(c)(図9(h)と同じ)のようにカウントする。
【0027】そして、更に遅延部26によるPNクロックの位相の分割数N=32とし、図7(d)に示すように位相同期後の選択されたPNクロックMxをM3とすると、図7(a)(図9(a)と同じ)に示す基準PNクロックM0に対して、3×t1/32の遅延をかけたPNクロックが選択されていることになり、図7(e)に示すように位相選択情報Xは3となる。
【0028】これより、距離演算部28により誤差の補正後の折り返し送受信における電波伝搬時間tは、下記のようにして算出される。すなわち、PNクロックのカウント数n=3、PNクロック1周期t1=100(nsec)とすると、t=t1・n+(X・t1/N)
=100・10-9・3+(3・100・10-9/32)
=309(nsec)
【0029】よって、測距側と被測距側間の距離Lは、L=c・t/2 (c:光速)
=3・108・309・10-9/2=46(m)
となる。なお、この場合、PNクロック1周期t1(PN1チップ長)間隔の1/32の分解能であるので、距離測定誤差Leは、Le=±c・(t1/32)/2=±3・108・100・10-9/32)/2=±0.5(m)
となり、従来例と比較して大幅な改善ができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、SS通信方式による測距装置において、従来例と比較して測距精度が大幅に改善でき、しかも高速なクロックを用いることなくPNクロックのみを用いて測距精度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】上記実施例におけるコンパレータの動作説明用波形図である。
【図3】上記実施例における遅延部の構成を示すブロック図である。
【図4】上記遅延部の出力波形図である。
【図5】前記位相比較部の動作説明用波形図である。
【図6】前記実施例におけるシーケンシャルフィルタの動作説明用波形図である。
【図7】前記実施例におけるPNクロックカウンタの動作説明用波形図である。
【図8】従来のSS方式による測距装置を示すブロック図である。
【図9】上記測距装置の動作説明用波形図である。
【図10】上記測距装置におけるSS信号のスペクトル図である。
【図11】ピーク検出部としてのコンパレータを示す図である。
【符号の説明】
1 PNクロック発振部
2 PN符号発生部
14 相関部
16 検波部
17 ピーク検出部
21 遅延補正部
22 位相比較部
23 シーケンシャルフィルタ
25 選択部
26 遅延部
28 距離演算部
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はスペクトラム拡散通信方式を利用した測距装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】スペクトラム拡散(SS)通信方式の応用として、一般に測距方式が知られており、この測距方式を用いた従来技術として、図8に示すような測距側及び被測距側の構成がある。この測距方式は、SS信号(PN符号)を測距側と被測距側間において、折り返し送受信することにより、距離を測定するもので、以下、かかる従来の方式の測距装置の各部のブロックの動作について説明する。
【0003】まず、図9(a)に示すように、測距側のPNクロック発振部1より周期t1のPNクロックを発生させ、これをもとにPN符号発生器2からは、図9(b)に示すようにPNクロックの立上りエッジと同期して、PN1チップ長t1、周期t4のPN符号と、図9R>9(c)に示すようなPN符号のスタートパルスを出力する。
【0004】かけ算部3は、PN符号発生器から出力される図10(a)に示すような電力スペクトラムをもつベースバンドのPN符号と、局部発振部4から出力されるキャリアf1とのかけ算を行なうことで、PN符号の高周波スペクトラム拡散変調を行なう。これにより、送信アンテナ5からは、図10(b)及び図9(d)に示すような中心周波数f1のSS信号の送信を行なう。
【0005】被測距側は、受信アンテナ6により、中心周波数f1のSS信号の受信を行ない、バンドパスフィルタ(BPF)7によりスペクトルのメインローブ以外の不要な周波数成分の除去を行なう。
【0006】増幅器8は受信されるSS信号の増幅を行ない、周波数変換部9により図10(c)に示すように中心周波数がf2のSS信号に変換し、送信アンテナ10により折り返し送信を行なう。ここで、周波数変換を行なうのは、測距側から送信されるSS信号と被測距側から折り返し送信されるSS信号を周波数領域で分割し、お互いの干渉を除去するためである。
【0007】測距側は、被測距側から折り返し送信される中心周波数f2のSS信号を受信アンテナ11により受信し、BPF12によりスペクトルのメインローブ以外の不要な周波数成分の除去を行ない、増幅部13より増幅を行ない、相関部14に入力する。
【0008】相関部14は、例えばアナログマッチドフィルタを使用したとすると、このマッチドフィルタに設定された参照PN符号パターンと、図9(e)に示すような受信されるSS信号のPN符号パターンが一致すると、相関ピークが出力され、増幅部15で増幅し、検波部16で包絡線検波された検波信号の波形は、図9(f)に示すような鋭いピークをもつ三角波となる。なお、パルス幅はPN2チップ長で、周期はPN符号の1周期と同じである。
【0009】ピーク検出部17は、図11に示すようなコンパレータ17aにより構成され、相関出力信号が固定の基準信号より大きいとき、図9(g)に示すような相関ピーク検出パルスを出力する。
【0010】PNクロックカウンタ18は、図9(c)に示すような送信されるPN符号のスタートパルスの立上りエッジと、図9(g)に示すようなピーク検出部15から出力される相関ピーク検出パルスの立上りエッジ間のPNクロックをカウントする。すなわち、図9(h)に示すようにPN符号のスタートパルスの立上りエッジで、PNクロックカウンタ18がロードされ、入力されるPNクロックの立上りエッジに同期してアップカウントし、相関ピーク検出パルスの立上りエッジでホールドを行なう。
【0011】これにより、ホールドされたカウント数をnとすると、測距側と被測距側間の折り返し送受信における電波伝搬時間t2は、t2=t1・n (t1:PNクロック1周期)
となる。よって、測距側と被測距間の距離Lは、距離演算部28により、L=c・t2/2 (c:光速)
(但し図9で、t0は真の折り返し送受信時の電波伝搬時間、t3はピーク検出の誤差を含む折り返し送受信時の電波伝搬時間、t2はピーク検出及びPNのクロック周期の誤差を含む折り返し送受信時の電波伝搬時間である。)より求めることができる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】以上が従来の測距方式であるが、この方式で問題となる点は、鋭いピークをもつ三角波状の相関出力信号のピーク点を正確に捕らえることができないことと、PNクロックでのみ電波伝搬時間をカウントしていることである。よって、この方式の距離測定の精度は、相関ピーク点の検出精度及びPNクロックの周期t1(PN1チップ長)により制限され、最大±c・t1/2の誤差が生じることになる。例えばPNクロックを10MHzとすると、1周期は100nsecなので距離測定誤差Leは、Le=±c・t1/2=±3・108・100・10-9/2=±15(m)
となる。
【0013】本発明の目的は、上記距離測定誤差Leを小さくするために、鋭いピークをもつ三角波状の相関出力信号のピーク点を正確に捕らえ、精度よく電波伝搬時間を計測することを可能とするにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、本発明は、測距側において、PNクロックを発生するPNクロック発振部と、該PNクロックに基づいて、所定周期のPN符号とスタートパルスとを出力するPN符号発生部と、該PN符号を所定の中心周波数の搬送波で変調して得られたスペクトル拡散変調信号を送信する手段と、を有し、被測距側において、受信信号を直ちに上記送信中心周波数とは異なる中心周波数のスペクトラム拡散信号に変換し送信する手段を有し、更に、上記測距側において、被測距側からの送信信号を受信し、受信信号と参照信号との相関をとり相関が得られた時に相関スパイク信号を出力する相関部と、前記相関スパイク信号から2値化された相関ピーク検出パルスを得るピーク検出手段と、上記PNクロックを入力し、上記スタートパルスと相関ピーク検出パルスとに基づいてPNクロックを計数する計数手段と、少なくとも前記計数手段の出力に基づいて距離演算を行なう距離演算部と、を備えた測距装置において、上記ピーク検出手段は、上記相関部の出力を増幅する増幅器と、増幅器の出力に基づいて該増幅器のゲインを制御するゲイン制御部と、上記増幅器の出力を所定値と比較し、2値化するピーク検出部と、該ピーク検出部の出力を所定時間長遅延する遅延補正部と、を含むことを要旨としている。
【0015】
【作用】検出された相関出力信号には遅延がかけられ、これにより簡易に相関出力のピーク点が検出される。更にPNクロック1周期内における基準クロックに対する相関ピーク検出パルス信号の相対的な位相を検出し、PNクロックのみのカウントによる伝搬時間を含む最大PNクロック1周期分の誤差を補正する。
【0016】
【実施例】以下図面に示す本発明の実施例を説明する。図1は本発明によるSS通信方式をとる測距装置の一実施例で、図8と同一符号は同一又は類似の回路をあらわし、その特徴とする構成は、検波部16、ピーク検出部17、増幅部19、ゲイン制御部20及び遅延補正部21から成るピーク検出手段と、位相比較部22、シーケンシャルフィルタ23、スレッショルド設定部27を含む位相比較手段、選択部25及び遅延部26から成る位相判定手段と、を備えている点にある。
【0017】相関部14において、参照PN符号パターンと、受信されるSS信号のPN符号パターンが一致した時と、得られた相関ピーク出力を増幅部19で増幅し、検波部16で包絡線検波すると、鋭いピークをもつ三角波状の相関出力信号が得られる。ピーク検出手段において、ゲイン制御部20は、この相関出力信号のピーク点を常に一定電圧レベルV1となるように、増幅器19のゲインの制御を行なう。
【0018】ピーク検出部17は、図11に示すようなコンパレータ17aにより構成される。このコンパレータにおいて、図2(a)に示すように、常にピーク点が一定電圧レベルV1にされた相関出力信号と、ピーク点に対し、1/2の電圧レベルを基準電圧信号として入力する。これにより、ピーク検出部17から出力される相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジは、図2(b)に示すピーク点に対し、図2(b)に示すように、PN1/2チップ長(PNクロック半周期)進んで出力される。
【0019】遅延補正部21は、図2(c)に示すように、相関ピーク検出パルス信号に対し、PN1/2チップ長(遅延補正値)の遅延をかける。これにより、ピーク点と相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジは等しくなり、等価的にピーク点を検出することになる。
【0020】次に、位相判定手段の回路構成について述べる。この手段は、PNクロック1周期(PN1チップ長)内において、検出の分解能を向上させることにより、精度よく電波伝搬時間(測定距離)を計測するための回路である。このため、前記従来例で述べたPNクロックで電波伝搬時間をカウントすることにより、最大PNクロック1周期分の誤差を含んだ絶対的な伝搬時間を検出し、更にPNクロック1周期内における基準PNクロックに対する相関ピーク検出パルス信号の相対的な位相を検出することにより、上記誤差の補正を行なう。
【0021】以下、PNクロック1周期内における相関ピーク検出パルス信号の相対的な位相を検出するための位相判定手段の各ブロックの説明を行なう。まず、PNクロック発振部1により、周期t1のPNクロックを発生させ、これを遅延部26に入力する。遅延部26は、図3に示すようにN−1個の遅延回路を有し、入力されるPNクロックに対して図4に示す如く各々遅延をかけ、N分割した位相(遅延時間)の異なるPNクロックMm(m=0,1,2,3,…,N−1)を出力する。ここで、N=32とすれば、入力に対する各々の遅延時間nm(m=1,2,3,…,N−1)は、nm=m×t1/N (m=1,2,3,…,N−1)
=m×t1/32(m=1,2,3,…,31)
【0022】となるように設定する。なお、m=0(nm=0)を基準クロックM0とし、デフォルト状態において、選択部25から出力しているものとする。図4は上記の32分割した位相の異なるPNクロックを示したもので、基準PNクロックM0に対して、1×t1/32の遅延をかけたPNクロックM1、基準PNクロックM0に対して、2×t1/32の遅延をかけたPNクロックM2、基準PNクロックM0に対して、3×t1/32の遅延をかけたPNクロックM3,…、基準PNクロックM0に対して、31×t1/32の遅延をかけたPNクロックM31を示している。
【0023】位相比較部22は、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジにおいて、図5(a)に示す選択部25から出力されるPNクロックと位相比較を行なう。例えば図5(b)に示すような立上りエッジであれば、図5(c)に示すように遅れパルスaを出力し、図5(d)に示すような立上りエッジであれば、図5(e)に示すように進みパルスbを出力する。
【0024】シーケンシャルフィルタ23は、遅れパルスa又は進みパルスbの時間平均を行なう。例えばシーケンシャルフィルタとしてランダムウォークフィルタを用いたとすれば、遅れパルスaが入力されると、ランダムウォークフィルタが有するアップダウンカウンタをカウントアップし、逆に進みパルスbが入力されるとカウントダウンし、カウンタがスレッショルド設定部27において設定されたパルスカウント数になると、オーバーフロー又はアンダーフローとなり、時間平均化された進みパルスc又は時間平均化された遅れパルスdを出力し、上記カウンタをリセットする。例えば、スレッショルド設定部27においてパルスカウント数を8に設定すれば、シーケンシャルフィルタでは図6(a)に示すように遅れパルスaの累積数が8となれば、図6(b)に示すように時間平均化された遅れパルスcを出力する。また、図6(c)に示すように進みパルスbの累積数が8となれば、図6(d)に示すように時間平均化された進みパルスdを出力する。
【0025】選択部25は、シーケンシャルフィルタ23から出力される時間平均化した遅れパルスc又は進みパルスdをもとに、遅延部26から出力されるN分割した位相(遅延時間)の異なるPNクロックMm(m=0,1,2,3,…,N−1)の順次選択を行ない、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジに対して、位相誤差がもっとも小さいPNクロックを選択するように制御を行なう。例えば、時間平均化された遅れパルスcが連続して入力されると、選択部25はN分割された位相の異なるPNクロックをM0,MN-1,MN-2,MN-3,…,と順次選択し、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジに対して、PNクロックの位相を進ませる制御を行なう。また逆に、時間平均化された進みパルスdが連続して入力されると、PNクロックをM0,M1,M2.M3,…,と順次選択し、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジに対して、PNクロックの位相を遅れさせる制御を行なう。これにより、相関ピーク検出パルス信号の立上りエッジとPNクロックの位相を、PNクロック1周期(PN1チップ長)間隔のN分の1の精度で同期をとることができる。ここで、位相同期後の選択されたPNクロックMxは、基準PNクロックM0(従来例で述べた電波伝搬時間をカウントするためのPNクロックと位相は等しい)に対する相対的な位相(相対時間)は既知なので、この位相選択情報(相対位相値)が上記で述べた誤差の補正値となる。
【0026】すなわち、従来例で述べたようにPNクロックカウンタ18は、図7(a)(図9(a)と同じ)に示す基準PNクロックM0により、図9(c)に示すPN符号のスタートパルスの立上りエッジと、図7(b)(図9(g)と同じ)に示す相関ピーク検出パルスの立上りエッジ間の電波伝搬時間t2を、図7(c)(図9(h)と同じ)のようにカウントする。
【0027】そして、更に遅延部26によるPNクロックの位相の分割数N=32とし、図7(d)に示すように位相同期後の選択されたPNクロックMxをM3とすると、図7(a)(図9(a)と同じ)に示す基準PNクロックM0に対して、3×t1/32の遅延をかけたPNクロックが選択されていることになり、図7(e)に示すように位相選択情報Xは3となる。
【0028】これより、距離演算部28により誤差の補正後の折り返し送受信における電波伝搬時間tは、下記のようにして算出される。すなわち、PNクロックのカウント数n=3、PNクロック1周期t1=100(nsec)とすると、t=t1・n+(X・t1/N)
=100・10-9・3+(3・100・10-9/32)
=309(nsec)
【0029】よって、測距側と被測距側間の距離Lは、L=c・t/2 (c:光速)
=3・108・309・10-9/2=46(m)
となる。なお、この場合、PNクロック1周期t1(PN1チップ長)間隔の1/32の分解能であるので、距離測定誤差Leは、Le=±c・(t1/32)/2=±3・108・100・10-9/32)/2=±0.5(m)
となり、従来例と比較して大幅な改善ができる。
【0030】
【発明の効果】以上説明したように本発明によれば、SS通信方式による測距装置において、従来例と比較して測距精度が大幅に改善でき、しかも高速なクロックを用いることなくPNクロックのみを用いて測距精度を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例を示すブロック図である。
【図2】上記実施例におけるコンパレータの動作説明用波形図である。
【図3】上記実施例における遅延部の構成を示すブロック図である。
【図4】上記遅延部の出力波形図である。
【図5】前記位相比較部の動作説明用波形図である。
【図6】前記実施例におけるシーケンシャルフィルタの動作説明用波形図である。
【図7】前記実施例におけるPNクロックカウンタの動作説明用波形図である。
【図8】従来のSS方式による測距装置を示すブロック図である。
【図9】上記測距装置の動作説明用波形図である。
【図10】上記測距装置におけるSS信号のスペクトル図である。
【図11】ピーク検出部としてのコンパレータを示す図である。
【符号の説明】
1 PNクロック発振部
2 PN符号発生部
14 相関部
16 検波部
17 ピーク検出部
21 遅延補正部
22 位相比較部
23 シーケンシャルフィルタ
25 選択部
26 遅延部
28 距離演算部
【特許請求の範囲】
【請求項1】 測距側において、PNクロックを発生するPNクロック発振部と、該PNクロックに基づいて、所定周期のPN符号とスタートパルスとを出力するPN符号発生部と、該PN符号を所定の中心周波数の搬送波で変調して得られたスペクトル拡散変調信号を送信する手段と、を有し、被測距側において、受信信号を直ちに上記送信中心周波数とは異なる中心周波数のスペクトラム拡散信号に変換し送信する手段を有し、更に、上記測距側において、被測距側からの送信信号を受信し、受信信号と参照信号との相関をとり相関が得られた時に相関スパイク信号を出力する相関部と、前記相関スパイク信号から2値化された相関ピーク検出パルスを得るピーク検出手段と、上記PNクロックを入力し、上記スタートパルスと相関ピーク検出パルスとに基づいてPNクロックを計数する計数手段と、少なくとも前記計数手段の出力に基づいて距離演算を行なう距離演算部と、を備えた測距装置において、上記ピーク検出手段は、上記相関部の出力を増幅する増幅器と、増幅器の出力に基づいて該増幅器のゲインを制御するゲイン制御部と、上記増幅器の出力を所定値と比較し、2値化するピーク検出部と、該ピーク検出部の出力を所定時間長遅延する遅延補正部と、を含むことを特徴とする測距装置。
【請求項2】 上記測距側において、更に上記PNクロックを複数の異なった遅延をかけることにより複数の分割されたPNクロックを得る遅延部と、それら遅延されたPNクロックより択一的に選択出力する選択部と、上記遅延補正部の出力と上記選択部の出力との位相比較に基づいて、前記選択部の出力に対して前記遅延補正部の出力が遅れ傾向にあるか、進み傾向にあるかを判定し進みパルス又は遅れパルスを上記選択部に出力し前記遅延されたPNクロックの選択切換の制御を行なう位相比較手段と、を含み前記選択動作に応じた位相選択信号を出力する位相判定手段を備え、上記距離演算部は、上記PNクロック計数部の計数出力と位相選択信号とに基づいて、距離を演算することを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【請求項1】 測距側において、PNクロックを発生するPNクロック発振部と、該PNクロックに基づいて、所定周期のPN符号とスタートパルスとを出力するPN符号発生部と、該PN符号を所定の中心周波数の搬送波で変調して得られたスペクトル拡散変調信号を送信する手段と、を有し、被測距側において、受信信号を直ちに上記送信中心周波数とは異なる中心周波数のスペクトラム拡散信号に変換し送信する手段を有し、更に、上記測距側において、被測距側からの送信信号を受信し、受信信号と参照信号との相関をとり相関が得られた時に相関スパイク信号を出力する相関部と、前記相関スパイク信号から2値化された相関ピーク検出パルスを得るピーク検出手段と、上記PNクロックを入力し、上記スタートパルスと相関ピーク検出パルスとに基づいてPNクロックを計数する計数手段と、少なくとも前記計数手段の出力に基づいて距離演算を行なう距離演算部と、を備えた測距装置において、上記ピーク検出手段は、上記相関部の出力を増幅する増幅器と、増幅器の出力に基づいて該増幅器のゲインを制御するゲイン制御部と、上記増幅器の出力を所定値と比較し、2値化するピーク検出部と、該ピーク検出部の出力を所定時間長遅延する遅延補正部と、を含むことを特徴とする測距装置。
【請求項2】 上記測距側において、更に上記PNクロックを複数の異なった遅延をかけることにより複数の分割されたPNクロックを得る遅延部と、それら遅延されたPNクロックより択一的に選択出力する選択部と、上記遅延補正部の出力と上記選択部の出力との位相比較に基づいて、前記選択部の出力に対して前記遅延補正部の出力が遅れ傾向にあるか、進み傾向にあるかを判定し進みパルス又は遅れパルスを上記選択部に出力し前記遅延されたPNクロックの選択切換の制御を行なう位相比較手段と、を含み前記選択動作に応じた位相選択信号を出力する位相判定手段を備え、上記距離演算部は、上記PNクロック計数部の計数出力と位相選択信号とに基づいて、距離を演算することを特徴とする請求項1に記載の測距装置。
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図1】
【図5】
【図7】
【図9】
【図10】
【図11】
【図8】
【図3】
【図4】
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【図8】
【公開番号】特開平5−297129
【公開日】平成5年(1993)11月12日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−129469
【出願日】平成4年(1992)4月21日
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【公開日】平成5年(1993)11月12日
【国際特許分類】
【出願日】平成4年(1992)4月21日
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
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