説明

湯種生地及びその製造方法

【課題】水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきが少ない良好な食感のベーカリー製品を得ることができるベーカリー生地を提供すること。
【解決手段】澱粉類100質量部に対して、水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2〜30質量部を含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの少ない良好な食感のベーカリー製品を得るためのベーカリー製品用湯種生地、及び、該特徴を有するベーカリー製品用湯種生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、もっちりとした食感のパンや洋菓子等のベーカリー製品を得る方法の1種として、湯種法が多く用いられるようになってきている。湯種法とは、ベーカリー製品の製造にあたり、その穀粉材料の一部を高温の水の存在下で混捏して湯種生地とし、これに更に残りの穀粉材料、中種生地、イースト、常温の水、副原料等を加えて混捏してベーカリー生地とし、常法によりベーカリー製品を得る方法である。
【0003】
澱粉類を使用したベーカリー製品の食感に対してはさまざまな要求があるが、ソフト性としとり感は最も多い要求である。一般的にソフトでしとり感のあるベーカリー製品を得るためには水の添加量(吸水量)を増加すればよい。しかし、単純に吸水量を増加させると、未糊化の状態の澱粉類の水の保持力には限界があるため、その保持力を上回った吸水量になると、ベーカリー生地が粘ついたり、流動状となってしまい、扱いにくくなってしまう。ベーカリー製品の中でも、特にパンにおいては、生地の扱いやすさや焼成品の保型性の点で好ましい吸水量の許容範囲が狭いため、大きく吸水量を増加させることは困難であり、小麦粉100質量部に対し、吸水量が70質量部以上となると、得られるパン生地は保型性を失い流動状となり、各種の成形を行うことが困難となる。
【0004】
そのため、このような吸水量の多いパン生地(多加水パン生地)を用いて得られるパンはチャバタやリュスティック等の特殊なパンに限定されてしまう。
【0005】
一方、吸水量を増やす代わりに、増粘多糖類や食物繊維等の保水性の高い副原料(保水剤)を添加して焼成中の水分の逸失を抑制する方法もまた一般的に行われている(たとえば、特許文献1〜7を参照)。そして、その添加方法としては、ベーカリー生地に粉末として添加する方法、配合水の一部又は全部でゲル化あるいは膨潤させてから添加する方法が記載されている。
【0006】
しかし、これらの方法では、澱粉類の水和に要する水分が不足したり、焼成中に澱粉類の糊化に利用できる水分が不足したりするため、良好な食感のベーカリー製品が得られにくいことに加え、ねちゃついた食感のベーカリー製品になってしまう問題があった。
そのため、保水剤を液状油中に分散させてパン生地に添加し、練り込む方法が提案された(たとえば、特許文献8を参照)。
【0007】
しかし、この方法では、たしかにソフトな食感のパンは得られるが、基本的に水分含量は従来のパンとほぼ同一であるため、従来のパン以上にしっとりとした食感のパンが得られるものではなかった。
そこで、上記2種の方法を併用した方法(保水性の高い副原料を添加し且つ吸水量を増加させる方法)が多く提案されてきた。すなわち、ビートファイバーを粉末として添加する方法(たとえば、特許文献9を参照)、寒天を粉末として添加する方法(たとえば、特許文献10を参照)、グルコマンナンと水で形成されたゲルを添加する方法(たとえば、特許文献11を参照)等の保水剤を使用して吸水量を増加させる方法が提案されている。
【0008】
しかし、粉末の状態でベーカリー生地に添加する方法であると、吸水量をあまり増やすことができず、また、生地もべとつきやすく、経時的に生地が締まってきたり、さらには、澱粉類よりも先に保水剤に水分が吸収されてしまうので十分なグルテン形成ができなかったり、焼成時に澱粉の糊化に十分な水が得られないため、得られるベーカリー製品の食感や体積が悪化する問題もある。
【0009】
また、ゲル化してから添加する方法では、生地中に均質に分散させにくいことに加え、ゲル中の保水剤の濃度を高くしないと生地がべとつきやすいという問題があった。
【0010】
一方、吸水量を増加させる方法の一種として、湯種法がある。この湯種法は、主としてもっちりした食感のパンを得るために行われる製法であり、ベーカリー製品の製造にあたり、その穀粉材料の一部を高温の水の存在下で混捏して糊化澱粉を主体とする湯種生地とし、これに更に残りの穀粉材料、中種生地、イースト、常温の水、副原料等を加えて混捏してベーカリー生地とし、常法によりベーカリー製品を得る方法である。
【0011】
しかし湯種法は、高温の水の存在下で混捏されることにより、穀粉原料に含まれる澱粉質の多くが糊化され、さらに、グルテン蛋白質が変性しているため、湯種生地を使用してパンを得る場合、パン生地は伸展性が劣り、得られたパンもソフトではあるが、もっちりした食感でしとり感が欠けており、また、体積の小さなパンになってしまうという問題があった。
この点を改良するため、湯種生地に乳化剤を添加する方法(たとえば、特許文献12を参照)や、酸性水中油型乳化油脂組成物を添加する方法(たとえば、特許文献13を参照)が提案されている。
【0012】
しかし、これらの方法では、たしかに生地物性は改良されるものの、乳化剤を使用する方法ではねちゃついた食感になってしまう問題、酸性水中油型乳化油脂組成物を使用する方法ではソフト性は改良されるものの、しとり感は従来同様であり、従来のパン以上にしっとりとした食感のパンが得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平7−289145号公報
【特許文献2】特開平10−179012号公報
【特許文献3】特開平10−262541号公報
【特許文献4】特開平10−56947号公報
【特許文献5】特開2004−187526号公報
【特許文献6】特開2007−236322号公報
【特許文献7】特開2009−017848号公報
【特許文献8】特開2005−000048号公報
【特許文献9】特開平10−276663号公報
【特許文献10】特開平11−046668号公報
【特許文献11】特開2006−320207号公報
【特許文献12】特開2003−023955号公報
【特許文献13】特開2009−201468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、水分含量の高いベーカリー生地であって、分割、丸め、成形時に粘つきがなく良好な物性を呈するベーカリー生地、及び、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの少ない良好な食感のベーカリー製品を得ることができるベーカリー生地を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討した結果、保水剤を使用した水分含量の高いパン生地を製造する場合において、しとり感とは全く逆のもちもち感を得るために行われる湯種法を適用することで上記問題を解決可能であることを見出した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、澱粉類100質量部に対して、水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2質量部〜30質量部を含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、該ベーカリー製品用湯種生地を、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対し10質量部〜200質量部使用したことを特徴とするベーカリー生地を提供するものである。
また、本発明は、該ベーカリー生地を焼成及び/又はフライしたベーカリー製品を提供するものである。
【0017】
さらに、本発明は、澱粉類100質量部に対して水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2質量部〜30質量部を含有する種生地材料を、水温が80℃〜100℃となる条件下で混捏することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法を提供するものである。
さらに、本発明は、澱粉類100質量部に対して水50質量部〜150質量部を含有する種生地材料を、水温が80℃〜100℃となる条件下で混捏後、水及び増粘安定剤を、澱粉類100質量部に対して水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2質量部〜30質量部となる量を添加し、混合することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明のベーカリー製品用湯種生地を使用して得られたベーカリー生地は、分割、丸め、成形時に良好な物性を呈し、また、本発明のベーカリー生地を用いて得られたベーカリー製品は、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきが少ない食感である。
また、本発明のベーカリー製品用湯種生地の製造方法によれば、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきが少ない食感であるベーカリー製品を得るためのベーカリー生地を簡単に得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のベーカリー製品用湯種生地について詳細に説明する。
本発明で用いる澱粉類としては、例えば、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉、全粒粉などの小麦粉類、ライ麦粉、大麦粉、米粉などのその他の穀粉類、アーモンド粉、へーゼルナッツ粉、カシュ―ナッツ粉、オーナッツ粉、松実粉などの堅果粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉などの澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼなどの酵素で処理したものや、α化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理などの中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。本発明では、澱粉類中、好ましくは小麦粉類を50質量%以上、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは100質量%使用する。
【0020】
本発明で用いる増粘安定剤としては、特に制限されるものではなく、例えば、寒天、カラギーナン、ファーセルラン、タマリンド種子多糖類、タラガム、カラヤガム、ペクチン、キサンタンガム、アルギン酸ナトリウム、トラガントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、プルラン、ジェランガム、アラビアガム、ゼラチン、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、難消化性デキストリン、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維等があげられる。本発明では、これらの増粘安定剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
中でも本発明では、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維を使用することが好ましい。
【0021】
ここで、上記「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」について説明する。
天然の食物繊維、たとえば穀物ファイバーや果実ファイバーの場合、一部水溶性食物繊維を含むものの不溶性食物繊維が主成分であるがために不溶性食物繊維に分類されている「複合型食物繊維」の場合は、完全に溶解はしないものの、膨潤により多量の水分を保持することで増粘させることが可能であることから、時間をかけて十分に膨潤させることにより増粘安定剤としての利用も行われている。
また、精製された不溶性食物繊維に対し、一部、水溶性を付与する加工を行なった場合、水に不溶性ではあるが、膨潤性を有するようになる。
【0022】
本発明で使用する「水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維」とはこのような食物繊維であり、具体的には、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、キャロットファイバー、トマトファイバー、バンブーファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大麦ファイバー、ライ麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロース、米ぬか、キチン、キトサン等を挙げることができる。これらの食物繊維は、単独で用いてもよく、2種以上を適宜組合せて用いてもよい。
【0023】
中でも保水性が高いことに加え、水分含量の高い場合であっても、べとつきが少ないパン生地とすることができる点で、より好ましくは、アップルファイバー、シトラスファイバー、オレンジファイバー、シュガービートファイバー、コーンファイバー、小麦ファイバー、大豆ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロースのうちの一種又は2種以上を使用することが好ましく、さらに好ましくは、保水性が特に高いことからシトラスファイバー、オレンジファイバー、小麦ファイバー、コンニャクファイバー、低置換度カルボキシメチルセルロースのうちの一種又は2種以上を使用することが好ましく、なかでも特に好ましくは、シトラスファイバー、及び/又は、低置換度カルボキシメチルセルロースを使用する。
【0024】
尚、上記低置換度カルボキシメチルセルロースとは、セルロースに対しカルボキシメチルエーテル化法により、グルコース単位当たりのカルボキシメチルエーテル基置換度が0.01〜0.4、好ましくは0.03〜0.38となるようにカルボキシメチル基をエーテル結合して得られるものである。この低置換度低置換度カルボキシメチルセルロースは、セルロースは水に不溶性であり、一般のカルボキシメチルセルロース(置換度が0.4超)が水溶性であるのに対し、水不溶性でありながら膨潤性を有するという特徴を有する。
また、本発明において、カルボキシメチルセルロースにはカルボキシメチルセルロースナトリウム塩を含むものとする
【0025】
本発明のベーカリー製品用湯種生地は、澱粉類100質量部に対して、上記増粘安定剤を2質量部〜30質量部、好ましくは8質量部〜25質量部含有する。ここで、増粘安定剤の含有量が2質量部未満であると、本発明の効果が得られないことに加え、ベーカリー製品用湯種生地が保存中に離水をおこし、さらにはカビの発生の原因となってしまう問題があり、30質量部を超えると、ベーカリー製品用湯種生地が硬すぎて後の本捏工程で十分に分散させることが困難となってしまったり、さらには、得られるベーカリー製品がねちゃついた食感となってしまうという問題が生じる。
すなわち、増粘安定剤の種類によりその増粘機構は異なるものの、一般的に増粘安定剤の添加量は、一般の飲食品では水100質量部に対し0.1質量部〜1質量部程度で効果を示すものであるが、本発明では、その使用量よりもはるかに大量の増粘安定剤を使用することに特徴を有するものである。
【0026】
本発明のベーカリー製品用湯種生地においては食用油脂を含有することが好ましい。食用油脂を含有することで、湯種生地の老化耐性が高まることに加え、得られるベーカリー生地の機械耐性も高まり、さらに、得られるベーカリー製品の食感がよりソフトで良好な口溶けを有し、老化耐性も高いものとなる。
【0027】
本発明のベーカリー製品用湯種生地において使用される食用油脂としては、特に限定されるものではなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油、バターオイル等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。さらに食用油脂を含有する乳化物、例えば、バター、マーガリン、クリーム、牛乳、濃縮乳等や、ショートニング、流動ショートニング等の加工油脂製品も用いることもできる。
【0028】
本発明のベーカリー製品用湯種生地における食用油脂の含有量は、下限については、澱粉類100質量部に対して1質量部未満であると機械耐性や老化耐性の向上効果や食感の改良効果が十分でないことから、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上である。一方、上限については食用油脂の含有量が多いほど機械耐性、及び、得られるベーカリー製品の耐老化性は向上するが、250質量部を超えるとベーカリー製品用湯種生地として製造することが困難となることに加え、150質量部を超えるとベーカリー生地の作業性が悪化し、さらには得られるベーカリー製品の種類が限定されてしまう問題があることから、食用油脂の含有量は、好ましくは250質量部以下、より好ましくは150質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下とする。
【0029】
なお、本発明で使用する水としては、特に限定されず、天然水や水道水などが挙げられる。
なお、本発明のベーカリー製品用湯種生地における水の含有量は、下記のその他に含まれる水の含量も含め、澱粉類100質量部に対して120質量部〜500質量部、より好ましくは160質量部〜350質量部である。120質量部未満であると、ソフトでしっとりした食感のベーカリー製品が得られない。一方500質量部を超えると、保存中に離水しやすい湯種生地になってしまうことに加え、べとつきの激しいベーカリー生地になってしまう問題があり、とくに、ベーカリー製品がパンである場合、保型性が悪化し、腰折れを発生しやすくなってしまう。
【0030】
また、本発明のベーカリー製品用湯種生地において、上記以外に必要に応じて、従来ベーカリー製品用湯種生地に用いられている、その他の原材料を使用してもよい。該その他の原材料としては、乳化剤、金属イオン封鎖剤、糖類、甘味料、乳や乳製品、卵製品、無機塩、有機酸塩、キモシン等の蛋白質分解酵素、トランスグルタミナーゼ、ラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ)、α―アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の糖質分解酵素、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン、分枝デキストン、環状デキストン等のデキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等を配合してもよい。
【0031】
次に、本発明のベーカリー製品用湯種生地の製造方法について述べる。
まず、第1の好ましい製造方法としては、澱粉類100質量部に対して水120質量部〜500質量部、好ましくは160質量部〜350質量部、及び、増粘安定剤2質量部〜30質量部、好ましくは8質量部〜25質量部を含有する種生地材料を、水温が80℃〜100℃となる条件下で混捏する方法を挙げることができる。
また、本発明に使用する上記水として上記「食用油脂を含有する乳化物」を使用してもよく、その場合、該乳化物を80℃〜100℃に加熱して、該乳化物に含まれる水分を混捏の際に用いる80℃〜100℃の水として用いることができる。
【0032】
なお、該製造方法においては、増粘安定剤は、澱粉類と混合してから使用してもよく、水に膨潤又は溶解してから使用してもよく、さらには、澱粉類と水を混捏中に添加する方法であってもよいが、増粘安定剤を水に膨潤又は溶解してから使用することが、分散性が良好であり、保存中の離水が生じにくいベーカリー製品用湯種生地とすることが可能である点で好ましい。すなわち、増粘安定剤は膨潤状態又は水溶液状態としてから使用することが好ましい。
なお、膨潤状態又は水溶液状態とする場合は、水に代えて、上記「食用油脂を含有する乳化物」を使用してもよい。
【0033】
混捏方法は、従来湯種法に用いられている方法であれば良く、特に限定されるものではないが、例えば、種生地材料に熱湯を加えて混捏する方法、あるいは種生地材料に常温の水又は温湯を加え、加熱しながら混捏する方法等が挙げられ、混捏後の生地温度(捏上温度)が50℃〜80℃、好ましくは55℃〜70℃となるようにすれば良い。混捏時間は何ら限定されるものではなく、従来の湯種法において通常用いられている範囲であればよく、例えば、2分〜20分である。
【0034】
また、第2の好ましい製造方法としては、澱粉類100質量部に対して水50質量部〜150質量部、好ましくは75質量部〜125質量部を含有する種生地材料を、水温が80℃〜100℃となる条件下で混捏後、水及び増粘安定剤を、澱粉類100質量部に対して水120質量部〜500質量部、好ましくは160質量部〜350質量部、及び、増粘安定剤2質量部〜30質量部、好ましくは8質量部〜25質量部となる量を添加し、混合する方法を挙げることができる。
ここで、上記第1の好ましい製造方法と同様、水及び増粘安定剤は、膨潤状態又は水溶液状態としてから使用することが好ましく、膨潤状態又は水溶液状態とする場合に、上記第1の好ましい製造方法と同様、水に代えて、上記「食用油脂を含有する乳化物」を使用してもよい。
【0035】
また、上記第1の好ましい製造方法と同様、澱粉類に添加する水として上記「食用油脂を含有する乳化物」を使用してもよく、その場合、該乳化物を80℃〜100℃に加熱して、該乳化物に含まれる水分を混捏の際に用いる80℃〜100℃の水として用いることができる。
また混捏方法についても、上記第1の好ましい製造方法と同様に行うことができる。なお、混捏後に、増粘安定剤を添加した後の混合については、略均質に混合できる条件であればよく、たとえば1分〜5分である。
【0036】
次に本発明のベーカリー生地について述べる。
本発明のベーカリー生地は、上記ベーカリー製品用湯種生地を、ベーカリー製品用湯種生地に使用する澱粉類を含むベーカリー生地中の全澱粉類100質量部に対し10質量部〜200質量部、好ましくは20質量部〜100質量部、より好ましくは20質量部〜60質量部使用して得られるものである。
【0037】
上記のベーカリー生地としては、例えば、クッキー生地、パイ生地、シュー生地、サブレ生地、スポンジケーキ生地、バターケーキ生地、ケーキドーナツ生地等の菓子生地や、食パン生地、フランスパン生地、デニッシュ生地、スイートロール生地、イーストドーナツ生地等のパン生地が挙げられるが、本発明のベーカリー生地は、吸水量を増加させた際のベーカリー生地物性の改良効果が特に優れている点、得られるベーカリー製品のソフト性向上効果が高い点から、パン生地であることが好ましい。すなわち、本発明のベーカリー生地は多加水パン生地であることが好ましい。
なお、該ベーカリー生地の製造方法は、一般的なベーカリー生地の製造方法に従って得ることができ、パン類であれば中種法、ストレート法等、ケーキ類であれば、オールインミックス法、シュガーバッター法、フラワーバッター法等を適宜選択可能である。
【0038】
たとえば、パン類の製造方法を例に挙げると、従来公知の湯種法によるパン類の製造方法において用いられている方法は全て用いることができる。例えば、湯種生地に、小麦粉、イースト、その他副原料、常温の水を加えて常法により混捏する方法、湯種生地とは別に、小麦粉、イースト、その他副原料、常温の水を加えて常法により混捏した中種生地を得、湯種生地と中種生地とを(必要に応じて、更に小麦粉、その他副原料とともに)混合して常法により混捏する方法等を挙げることができる。
【0039】
ここで、本発明における多加水パン生地とは、パン生地に使用する澱粉類100質量部に対し水を70質量部〜150質量部、好ましくは70質量部〜100質量部、さらに好ましくは70質量部〜90質量部含むものである。
なお、本発明においては、上記水の含有量は、上記ベーカリー製品用湯種生地中の水分に加え、下記のその他の製パン原料中の水分も含有するものである。
【0040】
本発明のベーカリー生地は、上述のように多加水パン生地であることが好ましいため、以下、本発明のベーカリー生地が多加水パン生地である場合について詳しく述べる。
本発明の多加水パン生地に使用する水としては、上述のベーカリー製品用湯種生地に使用する水と同様のものを使用することができる。
本発明の多加水パン生地に使用する澱粉類としては、上述のベーカリー製品用湯種生地に使用する澱粉類と同様のものを使用することができるが、本発明の多加水パン生地においては、ベーカリー製品用湯種生地以外に使用する澱粉類は、強力粉を使用することが好ましい。
【0041】
本発明の多加水パン生地は、必要に応じ、一般の製パン材料として使用することのできるその他の原料を使用することができる。該その他の製パン原料としては、上述のベーカリー製品用湯種生地に使用する増粘安定剤、食用油脂をはじめ上記その他の原料と同様のものを使用することができる。
なお、本発明の多加水パン生地における油脂の含有量は、ベーカリー製品用湯種生地に使用する澱粉類を含む多加水パン生地中の全澱粉類100質量部に対し、油脂純分として、好ましくは5質量部〜50質量部、より好ましくは5質量部〜20質量部である。
【0042】
上記その他の原料は、本発明の目的を損なわない限り、任意に使用することができるが、好ましくは、ベーカリー製品用湯種生地に使用する澱粉類を含む多加水パン生地中の全澱粉類100質量部に対し、合計で100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0043】
なお、本発明の多加水パン生地は、上記本発明のベーカリー製品用湯種生地を使用する以外は、上述の公知の湯種法によるパン類の製造方法において用いられている方法は全て用いることができる。
【0044】
次に本発明のベーカリー製品について述べる。
本発明のベーカリー製品は上記ベーカリー生地を焼成及び/又はフライしてなるものであり、ソフトでしっとりしていながら、ねちゃつきの少ない良好な食感を有する。特に多加水パン生地から得られたパンである場合は、水分含量の高いパン生地を使用していながら、それらの特徴に加え、腰持ちも良好である。
焼成方法やフライ方法は、とくに制限されず、一般的なベーカリー生地の製造方法に従って得ることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例により何等制限されるものではない。
【0046】
<食物繊維組成物の製造>
〔製造例1〕
水不溶性且つ水膨潤性である食物繊維であるシトラスファイバー(シトリファイ100FG:鳥越製粉製)10質量部を水90質量部で、20℃で1時間膨潤させ、食物繊維の膨潤物Aを得た。
【0047】
〔製造例2〕
製造例1における水10質量部に代えて、下記の配合・製法で得られた水中油型乳化油脂組成物Aを10質量部使用した以外は製造例1と同様にして食物繊維の膨潤物Bを得た。
【0048】
<水中油型乳化油脂組成物Aの製造>
60℃に加温したパーム油(融点36℃)8質量%にレシチン0.1質量%とグリセリン脂肪酸エステル0.1質量%を溶解した油相を用意した。一方、60℃に加温した水68.5質量%に乳糖8質量%、脱脂粉乳(蛋白質含量=36質量%)15質量%、リン酸塩0.2質量%、香料0.1質量%を添加・分散した水相を用意した。該油相と水相を65℃で混合し、攪拌して水中油型の予備乳化物を調製した。該予備乳化物をVTIS殺菌機(アルファラバル社製UHT殺菌機ステリラボ)によって、143℃で5秒間殺菌し、10MPaの圧力で均質化後、5℃まで冷却し、油分含量が8質量%、水分含量が67.5%である水中油型乳化油脂組成物Aを得た。
【0049】
〔製造例3〕
水不溶性且つ水膨潤性である食物繊維である低置換度カルボキシメチルセルロース(日本製紙ケミカル製:サンローズSLD−FM:置換度=0.2〜0.3)10質量部と水90質量部で、20℃で1時間膨潤させ、食物繊維の膨潤物Cを得た。
【0050】
<ベーカリー製品用湯種生地、ベーカリー生地、および、ベーカリー製品の製造>
〔実施例1〕
強力粉100質量部に、製造例1で得られた食物繊維の膨潤物Aを200質量部、砂糖5質量部、大豆液状油5質量部、及び熱水(95℃)100質量部を加えて十分に混捏(5分)し、湯種生地(A)を得た。なお、捏上温度は70℃であった。得られた湯種生地(A)は15℃で1晩保存した。続けて下記配合・製法でベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。
【0051】
なお、分割し丸めを行なった際の生地物性について下記の評価基準により評価を行ない、その結果を表1に記載した。
また、得られた食パンの体積、食感(ソフト性、しとり感及び歯切れ)について、下記評価基準に従って評価し、結果を表1に記載した。
【0052】
<ベーカリー生地(多加水パン生地)の配合と製法>
(中種配合)
強力粉 50質量部
イースト 2質量部
イーストフード 0.1質量部
水 30質量部
(中種工程)
ミキシング 低速2分、中速2分
捏上温度 24℃
発酵条件 28℃、4時間
(本捏配合)
強力粉 40質量部
イースト 0.5質量部
食塩 2質量部
上白糖 5質量部
湯種生地(A) 41.3質量部
練り込み用油脂(マーガリン)(ADEKA製:ボガード)3質量部
練り込み用油脂(マーガリン)(ADEKA製:アロマーデ)3質量部
水 20質量部
【0053】
(本捏工程)
練り込み用油脂以外の原材料を、低速3分、中速3分、高速1分のミキシングを行い、練り込み用油脂を添加し、さらに低速3分、中速5分のミキシングを行う。
捏上温度 27℃
(成形から焼成までの工程)
フロアータイム 30分
分割 380g
ベンチタイム 20分
成形 ワンローフ成型
ホイロ条件 38℃、相対湿度85%、45分
焼成条件 200℃、35分
【0054】
〔実施例2〕
実施例1における食物繊維の膨潤物Aを食物繊維の膨潤物Bに変更した以外は実施例1と同様にして、湯種生地(B)を得た。以下、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。
なお、生地物性の評価、及び、食パンの評価については実施例1同様に実施し、同様に表1に結果を記載した。
【0055】
〔実施例3〕
実施例1における食物繊維の膨潤物Aを食物繊維の膨潤物Cに変更した以外は実施例1と同様にして、湯種生地(C)を得た。以下、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。
なお、生地物性の評価、及び、食パンの評価については実施例1同様に実施し、同様に表1に結果を記載した。
【0056】
〔実施例4〕
実施例1における湯種生地製造時の食物繊維の膨潤物Aの添加量を200質量部から100質量部に変更した以外は実施例1と同様にして湯種生地(D)を得た。さらに、ベーカリー生地製造時の本捏生地配合における湯種生地の添加量を41.3質量部から42.6質量部に変更し、強力粉の配合量を40質量部から30質量部に変更した以外は、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。
なお、生地物性の評価、及び、食パンの評価については実施例1同様に実施し、同様に表1に結果を記載した。
【0057】
〔実施例5〕
強力粉100質量部に、砂糖5質量部、大豆液状油5質量部、及び熱水(95℃)100質量部を加えて十分に混捏(5分)した後、製造例1で得られた食物繊維の膨潤物Aを200質量部を添加し、低速で2分混合し、湯種生地(E)を得た。以下、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。なお、生地物性の評価、及び、食パンの評価については実施例1同様に実施し、同様に表1に結果を記載した。
【0058】
〔比較例1〕
強力粉100質量部に、砂糖5質量部、大豆液状油5質量部、及び熱水(95℃)180質量部を加えて十分に混捏(5分)し、湯種生地(F)を得た。以下、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)を得た。続けてベーカリー製品(食パン)を製造しようと試みたが、べたつきが極めて激しく成形が不可能であったため、ベーカリー製品(食パン)を得ることを断念した。なお、生地物性の評価については表1に記載した。
【0059】
〔比較例2〕
強力粉100質量部に、砂糖5質量部、大豆液状油5質量部、及び熱水(95℃)100質量部を加えて十分に混捏(5分)し、湯種生地(G)を得た。さらに、ベーカリー生地製造時の本捏生地配合における水の配合量を20質量部から38質量部に変更した以外は、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)を得た。続けてベーカリー製品(食パン)を製造しようと試みたが、べたつきが極めて激しく成形が不可能であったため、ベーカリー製品(食パン)を得ることを断念した。なお、生地物性の評価については表1に記載した。
【0060】
〔比較例3〕
湯種生地(A)に代えて湯種生地(F)を使用し、上記シトラスファイバーを本捏生地に2質量部添加した以外は、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。なお、生地物性の評価、及び、食パンの評価については実施例1同様に実施し、同様に表1に結果を記載した。
【0061】
〔比較例4〕
湯種生地(A)に代えて湯種生地(G)を使用し、上記食物繊維の膨潤物Aを本捏生地に20質量部添加した以外は、実施例1と同様にベーカリー生地(多加水パン生地)及びベーカリー製品(食パン)を得た。なお、生地物性の評価、及び、食パンの評価については実施例1同様に実施し、同様に表1に結果を記載した。
【0062】
<評価基準>
・生地物性
◎:粘つきもなく、伸展性も作業性も良好であった。
○:やや粘つくものの、丸めに支障はない程度であった。
△:粘つきがあり、丸めが困難であった。
×:べたつきが激しく、丸めが困難であった。
××:流動状の生地であり、丸めが不可能であった
【0063】
・パン体積
◎:比容積4.0超
○:比容積3.8超4.0以下
△:比容積3.6超3.8以下
×:比容積3.6以下、又は、激しい腰折れ
××:評価せず
【0064】
・食感(ソフト性)
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
××:評価せず
【0065】
・食感(しとり感)
◎:きわめて良好
○:良好
△:やや悪い
×:悪い
××:評価せず
【0066】
・食感(歯切れ)
◎:ねちゃつきがなくきわめて良好
○:ねちゃつきがほとんどなく良好
△:ややねちゃつく
×:ねちゃつきが激しい
××:評価せず
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
澱粉類100質量部に対して、水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2質量部〜30質量部を含有することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地。
【請求項2】
上記増粘安定剤が、水不溶性且つ水膨潤性の食物繊維であることを特徴とする請求項1に記載のベーカリー製品用湯種生地。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のベーカリー製品用湯種生地を、ベーカリー生地中の澱粉類100質量部に対し10質量部〜200質量部使用したことを特徴とするベーカリー生地。
【請求項4】
多加水パン生地であることを特徴とする請求項3に記載のベーカリー生地。
【請求項5】
請求項3又は4に記載のベーカリー生地を焼成及び/又はフライしたベーカリー製品。
【請求項6】
澱粉類100質量部に対して水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2質量部〜30質量部を含有する種生地材料を、水温が80℃〜100℃となる条件下で混捏することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法。
【請求項7】
増粘安定剤を膨潤状態又は水溶液状態としてから使用することを特徴とする請求項6に記載のベーカリー製品用湯種生地の製造方法。
【請求項8】
澱粉類100質量部に対して水50質量部〜150質量部を含有する種生地材料を、水温が80℃〜100℃となる条件下で混捏後、水及び増粘安定剤を、澱粉類100質量部に対して水120質量部〜500質量部及び増粘安定剤2質量部〜30質量部となる量を添加し、混合することを特徴とするベーカリー製品用湯種生地の製造方法。

【公開番号】特開2011−87515(P2011−87515A)
【公開日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−243556(P2009−243556)
【出願日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】