説明

湿度センサ及びその製造方法

【課題】煙草の煙のような異物が多く浮遊している雰囲気に置かれても、高い信頼性を持ってその相対湿度を検出することのできる湿度センサ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】水分を吸着することによって静電容量(誘電率)が変化する感湿膜50及び該感湿膜50に覆われて、その静電容量の変化を検出するための電極31及び32を有する感湿部100と、該感湿部100の出力信号を処理する回路素子部200とが、N型の半導体基板10に形成されている。また、煙草分子を含む微粒子からなって、水分を取り込むことによって静電容量(誘電率)が変化する堆積層60が、電極31及び32並びにこれら電極間を覆うように、感湿膜50の表面上に所定の層厚で形成されている。こうした所定の層厚は、堆積層60の静電容量(誘電率)の変化を電極31及び32を通じて検知することのできる上限値に余裕を含めた層厚に設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、当該湿度センサを取り巻く雰囲気の湿度を検出する湿度センサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の湿度センサ及びその製造方法としては、従来、例えば特許文献1に記載の技術が知られている。この技術では、半導体基板と、この半導体基板上に形成されたシリコン酸化膜と、シリコン酸化膜上に同一平面上にて離間して対向するように形成された2個の電極と、これら2個の電極を覆うように形成されたシリコン窒化膜と、シリコン窒化膜上に両電極及びこれら両電極の間を覆うように形成され、湿度に応じて誘電率が変化する感湿膜とを備えている。このように構成されることで、当該湿度センサを取り巻く雰囲気の湿度の変化に応じて変化する、2個の電極間の容量値に基づき、雰囲気の湿度の変化を検出することができるようになる。
【特許文献1】特開2002−243690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、こうした湿度センサを用いて、例えば煙草の煙のような異物が多く浮遊する雰囲気の湿度を検出しようとすると、煙草の煙(煙草分子)が感湿膜の表面に付着することがある。そして、そのような雰囲気中に長期間にわたって湿度センサが置かれることで、感湿膜の表面に煙草分子が堆積することがある。こうして長期間をかけて徐々に形成された堆積層は、雰囲気に含まれる水分子を内部に取り込む。そして、内部に水分子を取り込むと、堆積層の誘電率(静電容量)を変化させることとなる。したがって、この堆積層の層厚の変化に起因して、雰囲気の湿度変化に予め対応付けられていた感湿膜の誘電率(静電容量)の変化が、雰囲気の湿度変化に対応しなくなってしまう。その結果、雰囲気の相対湿度にかかる検出精度の低下を招くおそれがある。
【0004】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、煙草の煙のような異物が多く浮遊している雰囲気に置かれても、高い信頼性を持ってその相対湿度を検出することのできる湿度センサ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
こうした目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、まず、水分を吸着することによって物理量が変化する感湿膜及び該感湿膜に覆われてその物理量の変化を検出するための一対の電極を有する感湿部を備え、雰囲気の湿度変化を前記物理量の変化として検出することとした。
【0006】
堆積層は、基本的に、感湿膜と同様に動作することが発明者によって確認されている。すなわち、雰囲気の相対湿度が高いと、雰囲気に含まれる水分子の量は多いため、堆積層がその内部に取り込む水分子の量も多くなり、堆積層の物理量(例えば誘電率(静電容量)や抵抗値等)も大きくなる。一方、雰囲気の相対湿度が低いと、雰囲気に含まれる水分子の量は少ないため、堆積層が内部に取り込む水分子の量も少なくなり、堆積層の物理量も小さくなる。このように、雰囲気の相対湿度に応じて物理量が変化するため、堆積層は、感湿膜と同様に動作する。したがって、基本的には、堆積層を含む感湿膜全体の物理量の変化を雰囲気の相対湿度の変化に対応付けることができ、そうした対応付けを利用して、雰囲気の相対湿度を検出することができる。ただし、例えば微粒子が多く浮遊する雰囲気に長期間置かれるなど、堆積層の層厚が所定の層厚よりも増すようなことがあると、上記対応付けが変動してしまい、雰囲気の相対湿度を精度よく検出することが難しくなる。
【0007】
そこで、請求項1に記載の発明では、煙草分子を含む微粒子からなる堆積層が、前記感湿膜の表面上に所定の層厚で形成されていることとした。堆積層の所定の層厚を超える部分の物理量の変化については、一対の電極を通じて検知することができなくなることが発明者によって確認されている。詳しくは、堆積層が所定の層厚を超えると、一対の電極からの距離が大きくなるため、所定の層厚を超える部分が雰囲気に含まれる水分子を内部に取り込んで物理量が大きくなろうと、あるいは、雰囲気に含まれる水分子が少なくて物理量が小さくなろうと、堆積層の所定の層厚を超える部分の物理量の変化を一対の電極を通じて検知することができなくなる。したがって、感湿膜の表面上に所定の層厚で堆積層が予め形成されていると、煙草分子を含む微粒子がこの堆積層上に付着して該堆積層がさらに厚くなったとしても、そもそも、所定の層厚を超える部分に含まれる水分子の変化を一対の電極を通じて検知することはできないため、雰囲気の相対湿度検出に係る、雰囲気の相対湿度の変化と所定の層厚の堆積層を含む感湿膜全体の物理量の変化との間の対応付けには、変動が生じないこととなる。したがって、湿度センサとしての上記構成によれば、そうした対応付けを利用することで、煙草の煙のような異物が多く浮遊している雰囲気に置かれても、高い信頼性を持ってその相対湿度を検出することができるようになる。
【0008】
なお、水分を内部に取り込むことによって物理量が変化する堆積層は、少なくとも、そうした変化を一対の電極を通じて検知することのできる上限値だけの厚さに形成されていればよい。しかしながら、例えば、堆積層の一部が乖離して堆積層の層厚が上記上限値よりも薄くなるようなことがあると、雰囲気の湿度変化と堆積層の物理量との間の対応付けに変動が生じる可能性がある。その点、例えば請求項2に記載の発明のように、前記所定の層厚が、水分を内部に取り込むことによって変化する前記堆積層の物理量の変化を前記一対の電極を通じて検知することのできる上限値に余裕を含めた層厚に設定されることとすれば、すなわち、上記上限値よりも余裕分だけ厚い層厚に設定することとすれば、雰囲気の湿度変化と堆積層の物理量との間の対応付けに変動が生じる可能性をより低くすることができるようになる。
【0009】
また、上記請求項1または2に記載の構成において、例えば請求項3に記載の発明のように、前記堆積層は、前記一対の電極並びにこれら電極間を覆うように形成されていることが望ましい。
【0010】
さらに、上記請求項1〜3のいずれかに記載の構成において、例えば請求項4に記載の発明では、前記堆積層は、前記煙草分子を含む多量の微粒子が雰囲気中を浮遊する密閉された空間を有する収容室に当該湿度センサが収容され、その雰囲気に前記感湿膜がさらされるエージング工程を通じて形成されることとした。これにより、上記堆積層を容易に形成することができるようになる。
【0011】
こうした構成において、例えば請求項5に記載の発明では、前記一対の電極と前記感湿膜との間に、水分による腐食から前記一対の電極を保護するための保護膜が形成されていることとした。これにより、腐食されやすい一対の電極を好適に保護することができるようになる。
【0012】
なお、例えば請求項6に記載の発明のように、前記感湿膜を、湿度に応じてその誘電率が変化するものとし、当該湿度センサを、前記感湿膜の誘電率の変化に基づいて湿度を検出する容量式の湿度センサとすることもできる。
【0013】
一方、上記目的を達成するため、請求項7に記載の発明では、水分を吸着することによって物理量が変化する感湿膜及び該感湿膜に覆われてその物理量の変化を検出するための一対の電極を有する感湿部を備え、雰囲気の湿度変化を前記物理量の変化として検出する湿度センサを製造する方法として、煙草分子を含む微粒子からなる堆積層を、前記感湿膜の表面上に所定の層厚で形成することとした。
【0014】
堆積層は、既述したように、基本的に、感湿膜と同様に動作することが発明者によって確認されている。すなわち、雰囲気の相対湿度が高いと、雰囲気に含まれる水分子の量は多いため、堆積層がその内部に取り込む水分子の量も多くなり、堆積層の物理量(例えば誘電率(静電容量)や抵抗値等)も大きくなる。一方、雰囲気の相対湿度が低いと、雰囲気に含まれる水分子の量は少ないため、堆積層が内部に取り込む水分子の量も少なくなり、堆積層の物理量も小さくなる。このように、雰囲気の相対湿度に応じて物理量が変化するため、堆積層は、感湿膜と同様に動作する。したがって、基本的には、堆積層を含む感湿膜全体の物理量の変化を雰囲気の相対湿度の変化に対応付けることができ、そうした対応付けを利用して、雰囲気の相対湿度を検出することができる。ただし、例えば微粒子が多く浮遊する雰囲気に長期間置かれるなど、堆積層の層厚が所定の層厚よりも増すようなことがあると、上記対応付けが変動してしまい、雰囲気の相対湿度を精度よく検出することが難しくなる。
【0015】
そこで、請求項7に記載の発明では、煙草分子を含む微粒子からなる堆積層が、前記感湿膜の表面上に所定の層厚で形成されていることとした。堆積層の所定の層厚を超える部分の物理量の変化については、これも既述したように、一対の電極を通じて検知することができなくなることが発明者によって確認されている。詳しくは、堆積層が所定の層厚を超えると、一対の電極からの距離が大きくなるため、所定の層厚を超える部分が雰囲気に含まれる水分子を内部に取り込んで物理量が大きくなろうと、あるいは、雰囲気に含まれる水分子が少なくて物理量が小さくなろうと、堆積層の所定の層厚を超える部分の物理量の変化を一対の電極を通じて検知することができなくなる。したがって、感湿膜の表面上に所定の層厚で堆積層が予め形成されていると、煙草分子を含む微粒子がこの堆積層上に付着して該堆積層がさらに厚くなったとしても、そもそも、所定の層厚を超える部分に含まれる水分子の変化を一対の電極を通じて検知することはできないため、雰囲気の相対湿度検出に係る、雰囲気の相対湿度の変化と所定の層厚の堆積層を含む感湿膜全体の物理量の変化との間の対応付けには、変動が生じないこととなる。したがって、湿度センサの製造方法としての上記方法によれば、そうした対応付けを利用することで、煙草の煙のような異物が多く浮遊している雰囲気に置かれても、高い信頼性を持ってその相対湿度を検出することができる湿度センサを製造することができるようになる。
【0016】
なお、水分を内部に取り込むことによって物理量が変化する堆積層は、少なくとも、そうした変化を一対の電極を通じて検知することのできる上限値だけの厚さに形成されていればよい。しかしながら、例えば、堆積層の一部が乖離して堆積層の層厚が上記上限値よりも薄くなるようなことがあると、雰囲気の湿度変化と堆積層の物理量との間の対応付けに変動が生じる可能性がある。その点、例えば請求項8に記載の発明のように、前記所定の層厚を、水分を内部に取り込むことによって変化する前記堆積層の物理量の変化を前記一対の電極を通じて検知することのできる上限値に余裕を含めた層厚に設定することとすれば、すなわち、上記上限値よりも余裕分だけ厚い層厚に設定することとすれば、雰囲気の湿度変化と堆積層の物理量との間の対応付けに変動が生じる可能性をより低くすることのできる湿度センサを製造することができるようになる。
【0017】
また、上記請求項7または8に記載の方法において、例えば請求項9に記載の発明のように、前記堆積層を、前記一対の電極並びにこれら電極間を覆うように形成することが望ましい。
【0018】
さらに、上記請求項7〜9のいずれかに記載の方法において、例えば請求項10に記載の発明では、前記堆積層を、前記煙草分子を含む多量の微粒子が雰囲気中を浮遊する密閉された空間を有する収容室に当該湿度センサを収容し、その雰囲気に前記感湿膜をさらすエージング工程を通じて形成することとした。これにより、上記堆積層を容易に形成することができるようになる。
【0019】
こうした方法において、例えば請求項11に記載の発明では、前記一対の電極と前記感湿膜との間に、水分による腐食から前記一対の電極を保護するための保護膜を形成することとした。これにより、腐食されやすい一対の電極を好適に保護することができるようになる。
【0020】
なお、例えば請求項12に記載の発明のように、前記感湿膜を、湿度に応じてその誘電率が変化するものとし、当該湿度センサを、前記感湿膜の誘電率の変化に基づいて湿度を検出する容量式の湿度センサとして製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る湿度センサ及びその製造方法について、図1〜図7を参照して説明する。なお、本実施の形態の湿度センサについて、図1は、その側面構造全体を示す断面図であり、図2は、検出用電極の側面構造を拡大して示す断面図である。まず、これら図1及び図2を併せ参照して、本実施の形態の湿度センサの構成及び機能について説明する。また、本実施の形態の湿度センサは、感湿膜の誘電率の変化に基づいて湿度を検出する容量式の湿度センサとして具体化されている。
【0022】
図1及び図2に示されるように、湿度センサ1は、例えばN型のシリコン(Si)からなる半導体基板10の上表面及び半導体基板10の表層部に形成されている。詳しくは、半導体基板10の上表面には、例えばシリコン酸化膜(SiO2)20が絶縁膜として形成されており、このシリコン酸化膜20上には、湿度センサ1を取り巻く雰囲気の相対湿度を検出するための電極(一対の電極)31及び32が、同一平面上に離間して対向するように、例えばAl(アルミニウム)等の金属から形成されている。なお、これら電極31及び32の形成材料としては、他にも、Al−Si合金(AlにSiを微量に含有させたもの)、Ti、Au、Cu、多結晶シリコン(Poly−Si)などを使用することができる。また、こうした電極31及び32の形状は特に限定されることなく任意であるが、本実施の形態では、櫛歯形状を採用している。これにより、電極31及び32それぞれの櫛歯部が噛み合って対向するため、電極全体としての配置面積を極力小さくしつつ、対向面積を大きくすることができる。そしてひいては、湿度センサ1を取り巻く雰囲気の相対湿度の検出精度を向上することができる。
【0023】
また、図1及び図2に示されるように、これら電極31及び32上には、電極31及び32を、後述する感湿膜50が吸着した水分による腐食から保護するための保護膜として、シリコン窒化膜(SiN)40が形成されている。なお、本実施の形態では、シリコン窒化膜40は、電極31及び32並びにこれら電極間を覆うように形成されているが、これに限られず、少なくとも電極31及び32を覆っていれば、腐食から保護することはできる。
【0024】
さらに、図1及び図2に示されるように、シリコン窒化膜40の上には、雰囲気に含まれる水分子を吸着することによって誘電率(静電容量)が変化する感湿膜50が、例えばポリイミドを用いて形成されている。詳しくは、感湿膜50は、シリコン窒化膜40と同様に、電極31及び32並びにこれら電極間を覆うように形成されている。なお、感湿膜50の形成材料はポリイミドに限られず、他に例えば酪酸酢酸セルロースなど、吸湿性の高分子有機材料を用いて形成することもできる。そして、雰囲気に含まれる水分が感湿膜50内部に取り込まれる、すなわち、感湿膜50表面に形成された無数の細孔(図示略)内壁に水分子が吸着すると、水分子の誘電率は大きいため、吸着した水分量に応じて感湿膜50の誘電率が大きく変化する。そして、電極31及び32間の静電容量値も変化する。このようにして、雰囲気の湿度変化は、電極31及び32の容量値の変化として捉えられている。
【0025】
またさらに、図1及び図2に示されるように、煙草分子を含む微粒子からなる堆積層60が、感湿膜50上表面に、所定の層厚で形成されている。この堆積層60も、シリコン窒化膜40や感湿膜50と同様に、電極31及び32並びにこれら電極間を覆うように、形成されている。なお、こうした堆積層60の層厚、形成方法などについては、後述する。
【0026】
一方、図1に示されるように、電極31及び32、シリコン窒化膜SiN40、感湿膜50、並びに堆積層60等々を有する感湿部100の出力信号を処理する回路素子部200が、半導体基板10の表層部に形成されている。この回路素子部200は、ロジック回路として例えばC−MOSトランジスタ素子部70と、基準容量部(リファレンス容量部)80とを有している。なお、こうした感湿部100の出力信号を処理するCMOSトランジスタ素子部70や基準容量部80等については一般的に知られているため、ここでの詳細な説明を割愛する。
【0027】
ところで、感湿膜50上表面に堆積層60が形成されていない従来の湿度センサを用いて、例えば煙草の煙のような異物が多く浮遊する雰囲気の湿度を検出しようとすると、煙草の煙(煙草分子)が感湿膜の表面に付着することがある。そして、そのような雰囲気中に長期間にわたって湿度センサが置かれることで、感湿膜の表面に煙草分子が堆積することがある。こうして長期間をかけて形成された堆積層は、雰囲気に含まれる水分子を内部に取り込み、堆積層の誘電率(静電容量)を変化させる。そのため、この堆積層の誘電率の変化に起因して、雰囲気の湿度変化に予め対応付けられていた感湿膜の誘電率(静電容量)の変化が、雰囲気の湿度変化に対応しなくなってしまう。その結果、雰囲気の相対湿度にかかる検出精度の低下を招くおそれがある。
【0028】
詳しくは、図3(a)に、感湿膜50上表面に堆積層60が形成されていないときの側面断面図を示す。この図3(a)に示す「電極31→感湿膜50→電極32」といった経路をたどったときの電極間の静電容量を例えば「C0」とする。ここで、雰囲気の相対湿度が大きくなると、感湿膜50表面に吸着される水分子が多くなるため、静電容量「C0」は大きくなる。一方、雰囲気の相対湿度が小さくなると、感湿膜50表面に吸着される水分子が少なくなるため、静電容量「C0」は小さくなる。図4(a)に示すように、このときの雰囲気の相対湿度と、静電容量「C0」との関係は、傾きを持った直線関係となる。また、図3(a)に示す「電極31→(堆積層60)→電極32」といった経路をたどったときの電極間の静電容量を例えば「C1」とする。ここで、堆積層60は実際には存在しないため、雰囲気の相対湿度が大きくなろうと、あるいは、小さくなろうと、静電容量「C1」の大きさに変動はなく、一定値である。すなわち、図4(a)に示すように、このときの雰囲気の相対湿度と、静電容量「C1」との関係は、傾きを持たない直線関係となる。堆積層60を含む感湿膜50全体の静電容量「C」は、静電容量「C0」及び「C1」の並列回路とみなすことができ、雰囲気の相対湿度と静電容量「C」との間の直線関係は維持される。したがって、雰囲気の湿度変化に、堆積層60を含めた感湿膜50全体の静電容量Cの変化を対応付けることができる。
【0029】
図3(b)に、感湿膜50上表面に堆積層60aが薄く形成されたときの側面断面図を示す。なお、この堆積層60aは、後述する堆積層60の形成方法に従って形成されたものでなく、従来の湿度センサの感湿膜上に長期間をかけて形成されたものである。したがって、このときの堆積層60aの層厚は、後述する所定の層厚よりも薄く形成されている。また、この図3(b)に示す「電極31→感湿膜50→電極32」といった経路をたどったときの電極間の静電容量を例えば「C0」とし、図3(b)に示す「電極31→堆積層60a→電極32」といった経路をたどったときの電極間の静電容量を例えば「C2」とする。ここで、雰囲気の相対湿度が大きくなると、感湿膜50表面に吸着される水分子が多くなるため、これら静電容量「C0」及び「C2」はそれぞれ大きくなる。一方、雰囲気の相対湿度が小さくなると、感湿膜50表面に吸着される水分子が少なくなるため、これら静電容量「C0」及び「C2」はそれぞれ小さくなる。図4(b)に示すように、このときの雰囲気の相対湿度と静電容量「C0」及び「C2」との関係はそれぞれ、傾きを持った直線関係となる。すなわち、堆積層60aは、傾きは異なるものの、感湿膜50と同様に動作する。したがって、堆積層60aの層厚に変動がなく、かつ、層厚が既知ならば、雰囲気の湿度変化に、堆積層60aを含めた感湿膜50全体の静電容量Cの変化を対応付けることは可能である。しかしながら、堆積層が形成されない従来の湿度センサでは、長期間使用されることで感湿膜50上に堆積層60aが徐々に形成される。そのため、堆積層60aの層厚は未知であり、こうした堆積層60aの層厚の変化に起因して、雰囲気の湿度変化に予め対応付けられていた感湿膜50全体の静電容量の変化が、雰囲気の湿度変化に対応しなくなる。その結果、雰囲気の相対湿度に係る検出精度の低下を招くこととなる。
【0030】
図3(c)に、感湿膜50上表面に堆積層60が厚く形成されているときの側面断面図を示す。なお、この堆積層60は、後述する製造方法に従って形成されたものであり、このときの堆積層60は、後述する所定の層厚よりも厚く形成されているものとする。また、この図3(c)に示す「電極31→感湿膜50→電極32」といった経路をたどったときの電極間の静電容量を例えば「C0」とし、図3(c)に示す「電極31→堆積層60→電極32」といった経路をたどったときの電極間の静電容量を例えば「C3」とする。ここで、雰囲気の相対湿度が大きくなると、先の図3(b)の場合と同様に、感湿膜50表面に吸着される水分子が多くなるため、これら静電容量「C0」及び「C3」はそれぞれ大きくなる。一方、雰囲気の相対湿度が小さくなると、やはり図3(b)の場合と同様に、感湿膜50表面に吸着される水分子が少なくなるため、これら静電容量「C0」及び「C3」はそれぞれ小さくなる。すなわち、図4(c)に示すように、このときの雰囲気の相対湿度と静電容量「C0」及び「C3」との関係はそれぞれ、先の図4(b)に示した関係と同様に、傾きを持った直線関係となる。なお、この傾きは、先の雰囲気の相対湿度と静電容量「C2」との直線関係の傾きとほとんど変わらない。ただし、図4(c)から分かるように、感湿膜50表面に形成された堆積層の厚さが所定の層厚を超えるか否かの違いは、堆積層60を含めた感湿膜50全体の厚さがより厚くなるため、相対湿度全体にわたっての静電容量の大きさに表れる。
【0031】
図5に、一定の相対湿度下における、堆積層の層厚と静電容量との関係を示す。図5に示されるように、堆積層の層厚が厚くなると、これに伴って徐々に静電容量が大きくなるものの、堆積層の層厚がある所定の層厚を超えると、堆積層の層厚が厚くなっても、これに伴って静電容量が大きくならない。すなわち、堆積層の静電容量が飽和する。この堆積層の静電容量の飽和は、堆積層が厚くなると、電極31及び32と堆積層との離間距離が大きくなるため、その変化を検知することができないことに起因すると考えられている。
【0032】
詳しくは、堆積層のうちの所定の層厚内に収まる部分は、水分子を取り込むことで誘電率が増大し、電極31及び32との離間距離が小さいため、これら電極間の静電容量を増加させる。また、堆積層のうちの所定の層厚内に収まる部分は、取り込むべき水分子がないと誘電率が減少し、電極31及び32との離間距離が小さいため、これら電極間の静電容量を減少させる。こうした静電容量の増減については、電極31及び32を通じて検知することができる。したがって、堆積層のうちの所定の層厚内に納まる部分は、静電容量に影響を及ぼすと言える。しかしながら、堆積層のうちの所定の層厚を超える部分は、水分子を取り込むことで誘電率が増加しようと、取り込むべき水分子がなくて誘電率が減少しようと、電極31及び32との離間距離が大きいため、これら電極間の静電容量に変化させない。正確には、こうした静電容量の増減については、電極31及び32を通じて検知することができない。したがって、堆積層のうちの所定の層厚を超える部分は、静電容量に影響を及ぼさないと言える。静電容量は、所定の層厚で飽和するとこととなる。なお、堆積層の層厚に対して静電容量が飽和したとしても、一定の相対湿度の雰囲気の下で飽和したに過ぎず、先の図4(c)に示した、相対湿度と静電容量との間の直線関係は維持されている。
【0033】
このような堆積層の性質に鑑み、本実施の形態では、先の図1及び図2に示されるように、また、既述したように、煙草分子を含む微粒子からなる堆積層60が、感湿膜50表面に、所定の層厚で形成されている。このように堆積層60が形成されているため、煙草の煙のような異物が多く浮遊する雰囲気中に長期間にわたって置かれることで、この堆積層60上にさらに煙草分子を含む微粒子が付着して堆積層の層厚が増したとしても、先の図4(c)に示すような、堆積層の層厚が増すことに起因する静電容量の全体的な増大は生じない。そのため、雰囲気の湿度変化と堆積層の静電容量との間の対応付けに変動は生じない。また、感湿膜50の膜厚は一定であるため、雰囲気の湿度変化と感湿膜の静電容量の変化との間の対応付けにそもそも変動は生じない。そのため、雰囲気の湿度変化と堆積層60を含む感湿膜50全体の静電容量との間の対応付けに変動は生じない。したがって、煙草の煙のような異物が多く浮遊している雰囲気であっても、高い信頼性を持ってその相対湿度を検出することができる。
【0034】
なお、本実施の形態では、先の図2に示すように、当該湿度センサ1の電極31及び32の高さTeを「0.9μm」とし、電極31及び32の幅Weを「3.0μm」とし、電極31及び32間の幅Wbを「8.0μm」とし、シリコン窒化膜40の膜厚Tpを「1.4μm」とし、感湿膜50の膜厚Tsを「5.0μm」としたとき、堆積層60の層厚Tcの上記所定の層厚として「3.0μm」を採用している。こうした値を採用した理由は次の通りである。すなわち、先の図5に示したように、堆積層を含めた感湿膜全体の厚さ(=Ts+Tc)に対する静電容量は、厚さが「6.0μm」でほぼ飽和しており、この「6μm」に余裕を含めた「8.0μm」を採用した。感湿膜50の膜厚Tsは「5.0μm」で一定であるため、堆積層60の層厚は、「3.0μm」となる。
【0035】
以下、湿度センサを製造する方法について、図6及び図7を併せ参照して説明する。なお、図6は、本実施の形態に係る、エージング工程の処理手順を示すフローチャートであり、図7は、エージング工程における製造態様を示す模式図である。
【0036】
図6に示されるように、湿度センサを製造するに際しては、まず、感湿膜50上に堆積層60が形成されていない湿度センサを準備する。なお、こうした湿度センサの製造方法については一般的に知られているため、ここでの詳細な説明を割愛する。
【0037】
そしてステップS11の工程として、図7に示すように、感湿膜50上に堆積層60が形成されていない湿度センサ301を複数個(例えば3個)と、煙草302を複数本(例えば2本)を、所定の容積(例えば2リットル)で形成されるとともに密閉された容器(収容室)303に収容する。なお、容器303に収容する際に、煙草302に着火しておく。そのため、容器303に収容されてから数分後には、煙草302は燃え尽きる。しかしながら、容器303内は密閉されているため、煙草302が燃えて生じた煙草分子は、容器303内を浮遊する。
【0038】
次に、ステップS12の工程として、そのような煙草分子が浮遊する容器を、密閉したままで例えば一日放置しておく。放置されている間、容器303内を浮遊する煙草分子は、湿度センサ301(特に感湿膜50)の表面に付着し、徐々に堆積していく。
【0039】
そして、ステップS12の工程が終了した後、続くステップS13の工程として、駆動電圧(例えば5V)を例えば1時間印加し、湿度センサ301を通電する。また、この通電に併せて、こうした湿度センサを一定の湿度の雰囲気中に配置し、センサ出力値(静電容量値)を計測する。
【0040】
そしてステップS14の工程を通じて、一定の相対湿度の雰囲気の下における湿度センサ301のセンサ出力値が飽和するか否か、すなわち、湿度センサ301の堆積層60が所定の膜厚を超えるか否かが判定される。そして、一定の相対湿度の雰囲気の下における湿度センサ301のセンサ出力値が飽和していないとき、該センサ出力値が飽和するまで、すなわち、堆積層60が所定の層厚を超えていないとき、該堆積層60が所定の層厚を超えるまで、上記ステップS11〜S13の工程を繰り返し実行する。こうしてステップS14の工程を終えると、エージング工程が終了し、湿度センサが完成することとなる。
【0041】
なお、本発明にかかる、湿度センサ及びその製造方法は、上記実施の形態にて例示した構成及び方法に限られるものではなく、同実施の形態を適宜変更した例えば次の形態として実施することもできる。
【0042】
上記実施の形態では、水分による腐食から保護するための保護膜として、シリコン窒化膜(SiN)40が、電極31及び32並びにこれら電極間を覆うように形成されていたが、これに限られない。少なくとも電極31及び32を覆っていれば、水分による腐食の進行を抑制することはできる。また、形成材料もシリコン窒化膜に限られない。要は、水分による腐食から電極31及び32を保護することができれば、適宜の形成材料を用いて保護膜を形成してもよい。また、そうした水分による腐食が問題とならないのであれば、そうした保護膜自体を割愛する構成及び方法としてもよい。
【0043】
上記実施の形態では、先の図6に示す態様で、また、先の図7に示す手順にて、感湿膜50の表面上に堆積層60を形成していたが、こうした態様及び手順はいずれも変更可能である。すなわち、容器303の容積や、該容器303に収容する煙草302の本数や、湿度センサ301の個数、あるいは、容器303に放置する時間(ステップS12)や、湿度センサ301を通電する時間(ステップS13)等々は、適宜変更可能である。要は、煙草分子を含む多量の微粒子が雰囲気中を浮遊する密閉された空間を有する収容室に湿度センサ301を収容し、その雰囲気に感湿膜50をさらすエージング工程を通じて、堆積層60を形成すればよい。
【0044】
上記実施の形態では、上記所定の層厚は、堆積層60の静電容量(誘電率)の変化を電極31及び32を通じて検知することのできる上限値(感湿膜50の膜厚を含めて例えば「6.0μm」)に余裕を含めた層厚(「3.0μm」)に設定していたが、これに限られず、少なくとも、堆積層60の静電容量(誘電率)の変化を電極31及び32を通じて検知することのできる上限値に設定していればよい。すなわち、余裕を割愛することとしてもよい。これによっても、所期の目的を達成することはできる。
【0045】
上記実施の形態(変形例を含む)では、雰囲気の湿度変化を電極31及び32間の静電容量の変化として検出する容量式湿度センサとして実現していたが、検出原理はこれに限られない。他にも、雰囲気の湿度の変化を感湿膜50及び堆積層60のインピーダンスの変化として検出する抵抗式湿度センサとしてこれを実現してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明に係る湿度センサの一実施の形態について、その側面構造全体を示す断面図。
【図2】同実施の形態の湿度センサについて、櫛歯電極の側面構造を拡大して示す断面図。
【図3】同実施の形態の湿度センサについて、(a)は、感湿膜上表面に堆積層が形成されていないときの側面断面図。(b)は、薄い堆積層が感湿膜上表面に形成されたときの側面断面図。(c)は、厚い堆積層が感湿膜上表面に形成されたときの側面断面図。
【図4】同実施の形態の湿度センサについて、(a)は、感湿膜上表面に堆積層が形成されていないときの、相対湿度と静電容量との関係を示す図。(b)は、薄い堆積層が感湿膜上表面に形成されたときの、相対湿度と静電容量との関係を示す図。(c)は、厚い堆積層が感湿膜上表面に形成されたときの、相対湿度と静電容量との関係を示す図。
【図5】同実施の形態の湿度センサについて、シミュレーションを通じて得られた、堆積層の層厚と電極間の静電容量値との関係を示す図。
【図6】本発明にかかる湿度センサの製造方法の一実施の形態について、その製造手順を示すフローチャート。
【図7】同実施の形態の、湿度センサの製造方法について、その製造態様を模式的に示す図。
【符号の説明】
【0047】
1、301…湿度センサ、10…半導体基板、20…シリコン酸化膜、31、32…(一対の)電極、40…シリコン窒化膜(保護膜)、50…感湿膜、60、60a…堆積層、70…CMOSトランジスタ素子部、80…基準容量部、100…感湿部、200…回路素子部、302…煙草、303…収容室。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を吸着することによって物理量が変化する感湿膜及び該感湿膜に覆われてその物理量の変化を検出するための一対の電極を有する感湿部を備え、雰囲気の湿度変化を前記物理量の変化として検出する湿度センサであって、
煙草分子を含む微粒子からなる堆積層が、前記感湿膜の表面上に所定の層厚で形成されていることを特徴とする湿度センサ。
【請求項2】
前記所定の層厚は、水分を内部に取り込むことによって変化する前記堆積層の物理量の変化を前記一対の電極を通じて検知することのできる上限値に余裕を含めた層厚に設定されることを特徴とする請求項1に記載の湿度センサ。
【請求項3】
前記堆積層は、前記一対の電極並びにこれら電極間を覆うように形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の湿度センサ。
【請求項4】
前記堆積層は、前記煙草分子を含む多量の微粒子が雰囲気中を浮遊する密閉された空間を有する収容室に当該湿度センサが収容され、その雰囲気に前記感湿膜がさらされるエージング工程を通じて形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の湿度センサ。
【請求項5】
前記一対の電極と前記感湿膜との間には、水分による腐食から前記一対の電極を保護するための保護膜が形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の湿度センサ。
【請求項6】
前記感湿膜は、湿度に応じてその誘電率が変化するものであり、当該湿度センサは、前記感湿膜の誘電率の変化に基づいて湿度を検出する容量式の湿度センサである請求項1〜5のいずれか一項に記載の湿度センサ。
【請求項7】
水分を吸着することによって物理量が変化する感湿膜及び該感湿膜に覆われてその物理量の変化を検出するための一対の電極を有する感湿部を備え、雰囲気の湿度変化を前記物理量の変化として検出する湿度センサを製造する方法であって、
煙草分子を含む微粒子からなる堆積層を、前記感湿膜の表面上に所定の層厚で形成することを特徴とする湿度センサの製造方法。
【請求項8】
前記所定の層厚を、水分を内部に取り込むことによって変化する前記堆積層の物理量の変化を前記一対の電極を通じて検知することのできる上限値に余裕を含めた層厚に設定することを特徴とする請求項7に記載の湿度センサの製造方法。
【請求項9】
前記堆積層を、前記一対の電極並びにこれら電極間を覆うように形成することを特徴とする請求項7または8に記載の湿度センサの製造方法。
【請求項10】
前記堆積層を、前記煙草分子を含む多量の微粒子が雰囲気中を浮遊する密閉された空間を有する収容室に当該湿度センサを収容し、その雰囲気に前記感湿膜をさらすエージング工程を通じて形成することを特徴とする請求項7〜9のいずれか一項に記載の湿度センサの製造方法。
【請求項11】
前記一対の電極と前記感湿膜との間に、水分による腐食から前記一対の電極を保護するための保護膜を形成することを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項に記載の湿度センサの製造方法。
【請求項12】
前記感湿膜は、湿度に応じてその誘電率が変化するものであり、当該湿度センサは、前記感湿膜の誘電率の変化に基づいて湿度を検出する容量式の湿度センサである請求項6〜11のいずれか一項に記載の湿度センサの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2008−139040(P2008−139040A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−322899(P2006−322899)
【出願日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】