説明

湿式媒体撹拌粉砕分散機

【課題】無機物コンタミネーションの問題を根絶あるいは大きく抑制することのできる湿式媒体撹拌粉砕分散機を提供すること。
【解決手段】湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する接液部部材の全てもしくは接液部部材の内の主要部材であるベッセル内筒、撹拌部材、分離部材の全てをそれぞれの接液部部材が求められる個別の部材特性に即したラスチックスを複合的に使い分けて形成することで湿式媒体撹拌粉砕分散機の接液部部材に由来する無機物コンタミネーションの問題を解消ないしは効果的に抑制し、無機物コンタミネーションが原因となって利用が阻まれていた用途や分野においても利用できる湿式媒体撹拌粉砕分散機を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式媒体撹拌粉砕分散機、さらに詳しくは、接液部の部材の全てもしくは所定主要部材の全てが有機物素材によって構成されてなり、粉砕分散に伴い接液部部材に由来して生じる無機物コンタミネーションの問題を根絶ないしは許容範囲内に効果的に抑制する湿式媒体撹拌粉砕分散機に関する。
【背景技術】
【0002】
湿式媒体撹拌粉砕分散機は、基台に取り付けられて密閉される筒状のベッセルと、該ベッセルの内部に挿通して配置された回転駆動軸と、該回転駆動軸に取り付けられて回転する撹拌部材(円盤状のディスクや円筒状のローターなど)と、ベッセルの排出部に設けられた分離部材(スクリーン、ギャップセパレータ、遠心分離機など)とを基本的な構成部材とし、ベッセルの内部に粉砕分散媒体であるビーズを充填収容すると共に、被処理物である原料物質と処理液とからなるスラリーを注入した上で密閉し、撹拌部材の回転によってビーズとスラリーとを流動させビーズの間に被処理物を捕捉させることで所望の粒径に粉砕または解砕して分散し、ベッセル内の排出部に設けられた分離部材によってビーズと分離したスラリーをベッセルの外部に排出した後、製品となる非処理物をスラリーから分離回収して得ている。
【0003】
この種の湿式媒体撹拌粉砕分散機は、処理対象となる原料物質を所望の粒径に粉砕して分散することが必要となる、顔料、染料、化学薬品、磁性材料、電子材料、電池材料など多様な用途において用いられて来たが、近年では、ナノメートル領域にまで及ぶ被処理物の極微粒子化が強く要請され、被処理物を損壊する恐れのない撹拌部材の低周速運転によって与え得る低いエネルギーの下で高い粉砕分散効果と処理効率を確保することが求められるに至っており、本発明者の提案(特許文献1)をはじめとする各種の提案(特許文献2,特許文献3ほか)がこの要請に対する有効な答えを見出し、ナノオーダーの極微粒子化を高い粉砕分散効果と処理効率を以て実現する湿式媒体撹拌粉砕分散機の提供が可能なものとなっている。
【0004】
このように、湿式媒体撹拌粉砕分散機の現状は被処理物の微粒子化さらにはナノオーダーの極微粒子化という機能の点で既に産業界の要請に十分に応える成果を上げていると言えるが、その優れた機能にも拘わらず、少なからぬ用途や分野でその利用を阻まれている現実があり、その大きな理由の一つとして、湿式媒体撹拌粉砕分散機の構成部材やビーズに由来する無機物摩耗分が回収された被処理物中に混入し残留する問題、すなわち無機物コンタミネーションの問題が強く指摘されている。
【0005】
湿式媒体撹拌粉砕分散機の構成部材には金属、硬質セラミックスなど、また、ビーズにも金属、ジルコニア、シリカ、ガラスなどの無機物素材を用いることが通常であり、これら構成部材やビーズが無視し難い摩耗を招きコスト上昇の要因ともなっていること、並びに、これら構成部材やビーズに由来する摩耗分が被処理物中に混入残留し粉砕分散処理の後における分離除去が容易でないことは従来から問題として意識も認識もされており、粉砕分散処理後の被処理物の純度を確保するために或いは湿式媒体撹拌粉砕分散機のランニングコストを抑えるために、耐摩耗性の高い無機物素材を選択して構成部材の一部に用い摩耗分の一般的な低減を図る努力は図られてきた(特許文献4ないし特許文献6)。
【0006】
耐摩耗性の高い好適な無機物素材(特に、非金属無機物素材)を選択して構成部材の一部やビーズに用いる従来の努力は、構成部材やビーズに由来する摩耗分の低減、特に重大な問題に直結することが多い金属摩耗分の低減に一定の効果を示したが、産業界における極微粒子化の要請が当然に被処理物の高純度の要請と一体のものであるのに対して、被処理物の微粒子化が進むほど被処理物中に混入し残留した摩耗分の事後的な分離除去は困難を極めざるを得ず、しかも、高純度化の要請が強く非金属無機物のコンタミネーションを許容することのできない用途や分野が明らかになるに至り、耐摩耗性の高い無機物素材の選定と利用だけに問題解決の道を求めていた従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機では、そのような用途や分野での利用の糸口を見出すことさえできない現実に突き当たってしまったのであり、その典型的な一例をリチウムイオン二次電池の製造における電極材料で要請される高純度極微粒子化に見ることができる。
【0007】
リチウムイオン二次電池(以下、リチウムイオン電池と呼ぶ)は、コバルト酸リチウムなどのリチウム遷移金属酸化物を活物質として塗工した正極板とグラファイト系炭素材などを活物質として塗工した負極板の間にセパレータを挟んで何層にも積み重ね全体を有機溶媒の電解質で満たした構造を持ち、正極と負極の間でリチウムイオンが移動し電荷を授受することで充放電を行う二次電池であり、現在の実用化二次電池の中では最も高いエネルギー密度(すなわち、電圧が高く小型軽量で高容量になる)を誇る上に、メモリー効果が殆ど無いと共に自己放電も少なく急速充電が可能でサイクル寿命も長いなどの優れた電池特性から、ノートパソコン、携帯電話、デジタルオーディオプレイヤーなどポータブル機器のバッテリーとして既に広く定着しているほか、さらなる高性能化と安全性の確保並びに希少金属資源に依存しない活物質の実用化によるコストダウンを前提に、ハイブリッドカーや電気自動車の二次電池、太陽光発電や風力発電による電力の貯蔵手段としても期待を寄せられているが、このようなリチウムイオン電池の高いエネルギー密度と優れた電池特性を現に支えさらなる高性能化を予測させ期待させている最も大きな要因は、電極材料の極微粒子化と高純度化の実現と今後のさらなる可能性にある。
【0008】
すなわち、電極材料である活物質を極微粒子化できてはじめて、正極と負極の間におけるリチウムイオンの移動と拡散が速くなり内部抵抗が低減すると共に電極の表面積も増して放電容量が大きくなる上に、導電性や急速充放電性能などの電池特性も向上するからに他ならず、また、このように極微粒子化された電極材料が高純度であってはじめて、電極の結晶を安定的に成長させて強固に形成させることが可能となり、これによりリチウムイオン電池を支える高いエネルギー密度と電池特性が現実のものとなっているからである。
【0009】
このようなリチウムイオン電池にとって、たとえ極微粒子化はされていても、電極材料の中に不純物が混入し残留した場合には、金属コンタミネーションが内部短絡による発火破裂という危険な重大事故に直結し得るばかりでなく、非金属無機物コンタミネーションの場合にも電極結晶の安定的な成長と強固な形成を阻害してその高エネルギー密度と電池特性を奪ってしまうことを意味しており、絶対的に許されない。
【0010】
以上に説明のところが、リチウムイオン電池の電極材料に極微粒子化と極めて高い純度が一体的に求められる理由であり、如何に耐摩耗性の高い素材を用いて部材を構成しても無機物摩耗分(特に、非金属無機物摩耗分)の発生・混入・残留を避けることができず、これを有効に分離除去する術を持たない従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機が、高い極微粒子化の性能にも拘わらず、リチウムイオン電池の電極材料処理に利用の道を拓くことができない理由でもあるが、この問題に対処し有効な解決を与えて湿式媒体撹拌粉砕分散機利用の道を拓く提案は未だなされていない。
【0011】
この点、金属コンタミネーションの問題に限っては、湿式媒体撹拌粉砕分散機の金属部材の一部に代えて耐摩耗性の高い非金属無機物素材を求めた従来技術(特許文献4ないし特許文献6ほか)が対応と解決の可能性を提案し少なくとも強く示唆していると言い得るが、非金属無機物コンタミネーションの問題に関する利用可能な従来提案や示唆を認めることはできず、例えば、特許文献4では、乾電池用の原料二酸化マンガンを微粒子化する湿式粉砕機の特定部材に樹脂あるいはセラミックス系材質を用い得るとし、粉砕機本体円筒内壁に樹脂(ポリウレタン、ナイロンあるいはゴム)を用いる例を記載しているが、金属コンタミネーションの低減を目的とするばかりで非金属無機物コンタミネーションの問題に対する意識は全くなく、特許文献5が明記するようにこれを抑制する効果もないものであるから、湿式媒体撹拌粉砕分散機において非金属無機物コンタミネーションの問題に対応し解決する何らかの可能性を示唆するところさえなく、また、特許文献6を見ても、媒体分散機の分離部(積層スクリーン分離装置)のごく一部をなすプレートに「セラミックス、エンジニアリングプラスチック等の耐摩耗性の非金属材料」を採用することで金属コンタミネ−ションを解消するとともに、吐出流量を増大し、分散処理効率を高めることができる旨を記載しているが、同様に非金属無機物コンタミネーションに対する何らの意識も些かの効果も認め得ないものであるから、湿式媒体撹拌粉砕分散機における非金属無機物コンタミネーションの問題に対応する可能性については何らの提案も示唆も与えられていないと言わなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米独国特許出願公開第2010−0170972号明細書
【特許文献2】特開2010−46630号公報
【特許文献3】特開2008−200601号公報
【特許文献4】特開2000−36304号公報
【特許文献5】特開平05−220373号公報
【特許文献6】実用新案登録3068273号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の課題は、従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する接液部部材に由来して不可避的に発生し有効に分離除去する術もなかった無機物摩耗分(殊に、非金属無機物摩耗分)の混入と残留を根絶ないしは大幅に低減し、被処理物に対する高純度の要請が強く無機物コンタミネーション(殊に、非金属無機物コンタミネーション)を許容しない用途や分野における利用の道を拓く新規な湿式媒体撹拌粉砕分散機の実現と提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1の発明は、湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する接液部部材のすべてが有機物素材からなる、ことを特徴とする湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0015】
請求項2の発明は、湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する接液部部材の内、ベッセル内筒、撹拌部材、分離部材のすべてが有機物素材からなる、ことを特徴とする湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0016】
請求項3の発明は、前記有機物素材が湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する前記接液部部材のそれぞれに求められる個別の特性に即したプラスチックスによって複合的に使い分けて用いられている、ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【0017】
請求項4の発明は、前記湿式媒体撹拌粉砕分散機がリチウムイオン二次電池の電極材料の粉砕分散のために用いられる湿式媒体撹拌粉砕分散機である、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機である。
【発明の効果】
【0018】
以上の通り、本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機においては、無機物コンタミネーションを避け得ないものとしていた接液部部材のすべて若しくは摩耗を招き易い主要部材のすべてが有機物素材によって構成されており、無機物コンタミネーションの問題が根絶ないしは効果的に抑制されている一方、接液部部材の素材に由来して発生し得る有機物コンタミネーションは加熱分解などで容易に解決できるから、被処理物の高純度要請によって無機物コンタミネーションを許容せず従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機の利用が阻まれていた用途や分野において新たな利用の道を拓く湿式媒体撹拌粉砕分散機を実現し提供するものに他ならない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】図1は、本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の実施状況の一例を示す正面図である。(実施例1)
【図2】図2は、上記に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の構成の一例を模式的に示す断面図である。(実施例1)
【図3】図3は、上記に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の構成の他の例を模式的に示す断面図である。(実施例2)
【図4】図4は、本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の実施状況の他の例を示す正面図である。(実施例3)
【図5】図5は、上記に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の構成の一例を模式的に示す断面図である。(実施例3)
【図6】図6は、上記に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機の構成の他の例を模式的に示す断面図である。(実施例4)
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0020】
本発明を横型の湿式媒体撹拌粉砕分散機に実施した一例で、図1で実施状況の全体を示し、図2で湿式媒体撹拌粉砕分散機の基本構成を模式的に示す通り、一端側を閉止し開放端側を基台に着脱自在に取り付け固定して密閉される筒状のベッセル1と、該ベッセル1内の略水平方向に挿通配置された回転駆動軸4と、該回転駆動軸4に取り付けられた撹拌部材2である複数枚の撹拌ディスク21と、ベッセル1の排出部であって回転駆動軸4の排出開口(図示せず)に設けられた分離部材3となるギャップセパレータを基本的な構成部分とする湿式媒体撹拌粉砕分散機Bであって、粉砕分散媒体となるビーズを充填収容したベッセル1に被処理物と処理液からなるスラリーをスラリータンクTから注入供給して密閉した後、撹拌部材2の回転によってビーズとスラリーを流動させることで被処理物を粉砕分散し、処理後のスラリーをギャップセパレータによりビーズと分離して排出部から外部へ回収する。
【0021】
ここで、本実施例においては、湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する部材の内、接液部部材の全てを有機物素材によって形成しており、その部材範囲は、図2において模式的に示されたベッセル内筒1a、撹拌ディスク21、分離部材3、回転駆動軸4に止まるものではなく、付属部材やパーツほかスラリーと接触し得る接液部に位置し存在する全ての部材(被処理物の粉砕分散効果を高め或いはビーズとスラリーの循環を促し誘導するために用いられることのある撹拌ディスク付設の突起体、邪魔板、羽根車、ブレードなども含み、また、図示された部材にあっても図示の種類や形態に限定される訳ではない)に及ぶ。
【0022】
また、これら接液部部材に用いる有機物素材としては、プラスチックス(高分子合成樹脂)が選択においても利用においても最も容易であると共に適切でもあり、選択と利用が容易さらには可能なプラスチックスは多岐に亘るが、各接液部部材にそれぞれ要求される個別の特性があると共に、プラスチックスにも多様な種類と特性があるから、全ての接液部部材に単一種類のプラスチックスを選定し利用して足りると考えるのではなく、例えば下記の表1に一部の例を挙げた両者の特性とコスト(製造コスト並びにランニングコスト)を十分に考慮して、各接液部部材の特性に即した好適な特性のプラスチックスを選び、各接液部部材毎に複合的に使い分けることが望ましい。
【0023】
【表1】

【0024】
本実施例においても、各接液部部材に求められる特性と利用すべきプラスチックスの特性の適合性を考慮すると共にコストも勘案し、主要な部材の素材プラスチックスについては、撹拌ディスク21にはポリエチレン(PE)、ベッセルの内筒1aにはポリウレタン(PU)を選ぶと共に、分離部材3であるギャップセパレータにはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を選び、各部材をそれぞれのプラスチックスによって射出成形で形成した。
【0025】
本実施例に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機Bは以上の構成を有するもので、湿式媒体撹拌粉砕分散機Bを構成する全ての接液部部材が有機物素材からなっているから、同じく有機物素材(プラスチックス素材)からなる樹脂ビーズを用いて粉砕分散を行った場合には、湿式媒体撹拌粉砕分散機Bの利用に伴う無機物摩耗分は発生も混入も残留もする余地がなく、用途や分野によって従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機の利用を阻んでいた無機物コンタミネーションの問題を完全に解消できると共に、耐摩耗性の高い無機物素材からなるビーズを用いた場合にも無機物摩耗分の発生が大幅に低減されているから、被処理物の高純度要請が特段に強く無機物コンタミネーションが全く許容されない場合を除き、許容値如何で十分に利用に供することができる(樹脂ビーズの比重は低く軽いから、高い粉砕効果が求められ且つ無機物素材からなるビーズの利用に伴う若干の無機物摩耗分が許容される場合にあっては、耐摩耗性の高い無機物素材のビーズを利用して湿式媒体撹拌粉砕分散機の高い微粒子化能力を活用することが考えられるべきである。)
【実施例2】
【0026】
本実施例は、実施例1と同一の湿式媒体撹拌粉砕分散機Bを用いたものであるが、稼働による摩耗の生じ易さや接液部面積を考慮して、接液部部材の内のベッセル内筒1aと撹拌部材2と分離部材3(ギャップセパレータ)だけに有機物素材を用いたものであり、さらに具体的には、撹拌ディスク21とベッセル内筒1aにはコストの安いポリウレタン(PU)、分離部材3には寸法安定性と耐摩耗性に優れるポリフェニレンサルファイド(PPS)を選択し、各部材を射出成形によって形成した。
【0027】
本実施例に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機Bは、特定の接液部部材が有機物素材で形成されているに止まるから、有機物素材を用いない他の接液部部材から生じる無機物摩耗分を根絶することはできないが、摩耗を生じ易く接液部面積の大きな接液部部材に有機物素材を用いており、同じく有機物素材からなる樹脂ビーズを利用した場合に発生し被処理物に混入残留する無機物摩耗分を僅かな量に抑制できるから、被処理物の高純度要請が特段に強く無機物コンタミネーションが全く許されない用途や分野を除けば、十分に利用に供することができ、さらには、耐摩耗性の高い無機物素材のビーズを用いる場合にさえ利用の余地を一律に否定すべきではなく、各用途や分野における無機物コンタミネーションの許容値の範囲で利用を図り、湿式媒体撹拌粉砕分散機が提供する優れた微粒子化の能力活かすことが望まれる。
【実施例3】
【0028】
本実施例は、本発明を竪型の湿式媒体撹拌粉砕分散機に実施した他の例で、図4で実施状況の全体を示し、図5で湿式媒体撹拌粉砕分散機の基本構成を模式的に示す如く、一端側を閉止し開放端側を基台に着脱自在に取り付け固定して密閉される筒状のベッセル1と、該ベッセル1内の略垂直方向に挿通配置された回転駆動軸4と、該回転駆動軸4の排出開口(図示せず)に設けられた分離部材3を備える点は実施例1の湿式媒体撹拌粉砕分散機と同様だが(本実施例では分離部材3として遠心分離機構を用いたが、もちろん実施例1と同じくギャップセパレータであってもよい)、撹拌部材2は外周に開口を有し下端面に複数の貫通小孔を設けた中空のローターで、分離部材3を中空部内に覆い囲む状態で回転駆動軸4に取り付けられており、ベッセル1にビーズを充填収容しスラリータンクTからスラリーを注入供給して撹拌部材2を回転させると、撹拌部材2下端面の貫通小孔を通過してローター内に流入するビーズとスラリーが貫通小孔直前位置に生じさせたオリフィス収縮流によってベクトルを乱され、これにより低周速回転の下でも高い粉砕分散効果が得られるよう構成されたものであり、極微粒子化を実現し確保する湿式媒体撹拌粉砕分散機となっている。(特許文献1:日本特許出願を基礎に優先権を主張して米国特許出願を行ったものだが、日本出願に国内優先があり出願公開が遅れているため、先に出願公開された米国公開明細書を特許文献としている。)
【0029】
本実施例においては、実施例1におけると同様に、湿式媒体撹拌粉砕分散機Bを構成する設液部部材の全てを有機物素材であるプラスチックスによって形成しており、主要部材については、撹拌部材2であるローターにポリアセタール(POM)を選び、ベッセル内筒1aには寸法安定性に優れるポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、分離部材3の遠心分離機構にはポリフェニレンサルファイド(PPS)を用いている。
【0030】
本実施例は、実施例1同様、全ての接液部部材に有機物素材であるプラスチックを用いているから、プラスチックスからなる樹脂ビーズを用いた場合には構成部材やビーズに由来する無機物コンタミネーションの問題自体が起こり得ず、無機物コンタミネーションを全く許容できない用途や分野においてさえ湿式媒体撹拌粉砕分散機の利用に何らの支障もない上に、耐摩耗性の高い無機物素材のビーズを用いて粉砕分散を図った場合にも、無機物摩耗分の発生が大きく抑えられるから、無機物摩耗分に許容値のある用途や分野であれば利用の道を拓く余地が十分にあると言うことができる。
【実施例4】
【0031】
図6に示す本実施例は、実施例3におけると同一の湿式媒体撹拌粉砕分散機Bを用い、実施例2と同様にベッセル内筒1aと撹拌部材2と分離部材3(遠心分離機構)だけを有機物素材によって形成したもので、ベッセル内筒1aにポリアセタール(POM)、撹拌部材2をなすローターにポリエチレン(PE)、分離部材3である遠心分離機構にポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を選んでおり、有機物素材を用いていない他の接液部部材から無機物摩耗分が生じることを否定はできないものの、従来の湿式媒体撹拌粉砕分散機に比較して生じ得る摩耗分を大きく減少させているから、無機物コンタミネーションが全く許されない用途や分野を除いて、有機物素材からなる樹脂ビーズを用いることで湿式媒体撹拌粉砕分散機が利用可能な用途や分野を十分に拡大することができると共に、無機物コンタミネーションの許容値の範囲では無機物素材からなるビーズを用いて高い粉砕能力を供することさえ可能である。
【0032】
以上の通り、本発明に係る湿式媒体撹拌粉砕分散機は、接液部部材の全て若しくは所定の主要部材に有機物素材を用いることで無機物コンタミネーションを根絶し或いは大幅に抑制することに成功したが、有機物素材の比重が低く軽いため、接液部部材を有機物化し樹脂ビーズを用いれば湿式媒体撹拌粉砕分散機の低負荷運転が可能になると共に発熱量も低下してモーター電力消費や冷却費のコストダウンに繋がることも確認できた。
【0033】
また、幅広い物理的化学的特性を持つプラスチックスから素材を選択できる結果、これまでの湿式媒体撹拌粉砕分散機では対応できなかった強い酸性若しくはアルカリ性条件の下で粉砕分散を図る湿式媒体撹拌粉砕分散機を提供可能であることも確認できた。
【0034】
なお、実施例1ないし実施例4に記載した湿式媒体撹拌粉砕分散機のプラスチックス(有機物素材)からなる接液部部材に由来して発生する有機物摩耗分については、既に触れた通り、加熱によって分解(例えば、リチウムイオン二次電池の電極材料では、電極焼成時の高温で分解し飛散)するなど除去が容易である上に、幅広い物理的化学的特性を持つプラスチックスの中から選択できるなど無機物コンタミネーションのような問題を伴わないが、保守交換によるランニングコストの問題など摩耗分の抑制は強く意識されるべきであり、素材選択に当たって耐摩耗性を考慮し、或いは接液部部材に選択したプラスチックスとは異なる素材の樹脂ビーズを使って摩耗進行を避けるなどの配慮が好ましい。
【0035】
その他、実施例1ないし実施例4では、いずれも選択したプラスチックスの射出成形で接液部部材を形成したが、ライニングなどその他の公知の方法によって接液部部材の有機物化が図り得ることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0036】
1 ベッセル
1a ベッセル内筒
2 撹拌部材
3 分離部材
4 回転駆動軸
B 湿式媒体撹拌粉砕分散機
M モーター
T スラリータンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する接液部部材のすべてが有機物素材からなる、ことを特徴とする湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項2】
湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する接液部部材の内、ベッセル内筒、撹拌部材、分離部材のすべてが有機物素材からなる、ことを特徴とする湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項3】
前記有機物素材が湿式媒体撹拌粉砕分散機を構成する前記接液部部材のそれぞれに求められる個別の特性に即したプラスチックスによって複合的に使い分けて用いられている、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。
【請求項4】
前記湿式媒体撹拌粉砕分散機がリチウムイオン二次電池の電極材料の粉砕分散のために用いられる湿式媒体撹拌粉砕分散機である、ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の湿式媒体撹拌粉砕分散機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−45456(P2012−45456A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187664(P2010−187664)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000166557)アイメックス株式会社 (4)
【Fターム(参考)】