説明

湿式摩擦材の成形装置

【課題】湿式摩擦材の成形装置において、衝撃による騒音や振動による位置ずれ等の恐れがなく、律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすること。
【解決手段】湿式摩擦材の成形装置1は、成形装置本体2に1対のガイドポスト3が上下方向に伸びて設けられており、これら1対のガイドポスト3が貫通している15段(16個)の成形金型4,5が、その両側面に1対のパンタグラフ式のリンク型開閉機構6が取付けられて、上下方向に互いに近接(型締め)・離間(型開き)可能に積み重ねられている。このようなパンタグラフ式のリンク型開閉機構6によれば、全ての成形金型4,5が同時に開閉するため、200mm/秒でスライドさせると全ての成形金型4,5が閉じるのに50mm×15÷200mm=3.75秒で済み、開閉させるためにはその2倍の7.5秒、即ち従来の半分の時間で済むことになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿式摩擦材の製造工程の律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすることによって、製造時間の大幅な短縮を図ることができる湿式摩擦材の成形装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動変速機用の湿式摩擦材としては、平板リング状の芯金の片面または両面に、摩擦材基材から切り出したリング状摩擦材基材または複数個のセグメントピースを接着したものが使用されている。例えば、セグメント湿式摩擦材としては、図6(a)に示されるようなものがある。図6(a)はセグメント湿式摩擦材の全体構成を示す平面図、(b)はセグメント湿式摩擦材の製造工程において芯金にセグメントピースを接着剤で接着した状態を示す断面図、(c)はプレスによってセグメントピースの厚み出しをした状態を示す断面図である。
【0003】
図6(a)に示されるように、セグメント湿式摩擦材50は、平板リング状の芯金51の両面にそれぞれ摩擦材基材から切り出した20枚のセグメントピース52を接着・加圧厚み出し・加熱硬化してなるものである。このようなセグメント湿式摩擦材50の製造工程においては、従来は帯状摩擦材基材から摩擦材セグメント(セグメントピース)を1枚打ち抜いては、熱硬化型接着剤を全周に塗布したコアプレート(芯金)表面へ貼り付けることを繰り返していたため、貼付けに時間が掛かり、最初のセグメントピースを貼り付けてから最後のセグメントピースを貼り付けるまでの間に接着剤の特性が経時変化してしまうことによる不具合等が起こっていた。
【0004】
そこで、特許文献1に開示された発明においては、帯状摩擦材基材からの摩擦材セグメント(セグメントピース)の打抜きと打ち抜いたセグメントピースのコアプレート(芯金)への貼り付けとを交互に行うのではなく、保持部材の一面に複数個のセグメントピースを円周状に収納する収納工程と、芯金の接着剤が塗布された貼り付け表面と保持部材の一面とを近接させるとともに保持部材に保持されたセグメントピースを芯金の貼り付け表面に付勢して貼付けする貼付け工程とを有する湿式摩擦材の製造方法を提供している。
【0005】
これによって、従来問題となっていたセグメントピースの打抜きとセグメントピースの芯金への貼り付けとを交互に行う場合の、セグメントピースの貼付けに時間が掛かることに起因する接着剤の特性変化に基づくセグメントピースの位置決め精度の低下という問題が解消するとともに、セグメントピースの貼付けが極めて短時間で行われるようになった。その結果、セグメント湿式摩擦材の製造工程における律速段階は、芯金の全周に複数のセグメントピースを貼り付けた後の加圧加熱工程(成形工程)となった。
【0006】
その成形工程の概略を説明すると、図6(b)に示されるように、平板リング状の芯金51の熱硬化型接着剤が塗布された片面に上述の如く保持部材によって、20枚のセグメントピース52を図6(a)に示されるように所定間隔を空けて貼り付け、更に裏返して同様に芯金51の熱硬化型接着剤が塗布された裏面に20枚のセグメントピース52を図6(a)に示されるように所定間隔を空けて貼り付けたものを、上型40Aと下型40Bの間のシム42の内部にセットする。
【0007】
そして、図示しない油圧シリンダによって上型40Aを下降させ、または下型40Bを上昇させて、図6(c)に示されるように、20枚のセグメントピース52をシム42の厚さに一致するように加圧する。この状態で、上型40Aと下型40Bを加熱(170℃〜270℃)することによって熱硬化型接着剤を硬化させる。このように芯金51の両面に各20枚のセグメントピース52を接着・硬化・固定することによって、図6(a)に示されるセグメント湿式摩擦材50が製造される。
【0008】
このようなセグメント湿式摩擦材50の製造工程においては、低コスト化のために1枚当たりの製造時間をできるだけ短縮する必要がある。そのためには、加熱して熱硬化型接着剤を硬化させるために一定の時間(30秒〜90秒)が必要な成形工程の製造効率を上げることが、極めて重要である。そこで、従来から、一度に多数枚のセグメント湿式摩擦材50の加圧厚み出し・加熱硬化を行うために、成形金型を縦に積み上げた多段式の成形金型を用いて、多数枚の芯金51に熱硬化型接着剤を塗布してセグメントピース52を貼り付けたもの(半製品)を一度に加圧・加熱する方法が採用されている。
【0009】
多段式の成形金型の具体例としては、図7及び図8に示されるような方式のものが用いられている。図7は従来の多段式の成形金型の具体例1の構成を示す説明図である。図8は従来の多段式の成形金型の具体例2の構成を示す説明図である。図7に示される多段式の成形金型の具体例1においては、図7(a)に示されるように、多段式の成形金型55を構成する各成形金型56の両側面に吊上げボルト58が固定されており、これらの吊上げボルト58にリンク59が係合している。
【0010】
そして、図7(b)に示されるように、各成形金型56を開く場合には、リンク59の上端を図示しない引き上げ機構によって順次引き上げ、各成形金型56を閉じてセグメント湿式摩擦材50の加圧厚み出し・加熱硬化を行う場合には、図7(c)に示されるように、図示しない引き上げ機構を解除するとともに、図示しない加圧機構によって各成形金型56を順次互いに加圧密着させる。このような多段式の成形金型の具体例1においては、各成形金型56の重量を吊上げボルト58のみで支持するために、吊上げボルト58の破損が問題となる。
【0011】
また、図8に示される多段式の成形金型の具体例2においては、図8(a)に示されるように、多段式の成形金型60を構成する各成形金型61の両側面に回動開閉式のリンク63が設けられている。各成形金型61はガイドポスト62に沿って上下方向にスライド可能であり、各成形金型61を開く場合には、リンク63の上端を図示しない引き上げ機構によって順次引き上げ、各成形金型61を閉じてセグメント湿式摩擦材50の加圧厚み出し・加熱硬化を行う場合には、図8(b)に示されるように、図示しない引き上げ機構を解除するとともに、図示しない加圧機構によって各成形金型61を順次互いに加圧密着させる。
【0012】
このように、多段式の成形金型55,60を用いて、一度にまとめて複数枚のセグメント湿式摩擦材50の加熱硬化・固定を行うことによって、加熱して熱硬化型接着剤を硬化させるために一定の時間(30秒〜90秒)が必要な成形工程の製造効率を上げるようにしている。
【特許文献1】特許第3643018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、各成形金型56,61の1個当たりの重量は40kg〜70kg程度であり、引き上げ機構及び加圧機構としての油圧シリンダは通常50mm/秒〜100mm/秒で作動させており、これ以上の高速化は型締め時の衝撃による騒音(80dB以上)、及び振動によるセグメント湿式摩擦材50の位置ずれが発生するために、不可能であった。また、多段式の成形金型55,60の段数の増加にも、メンテナンス性及び加工性の点よりおのずから限界がある。従って、やはり成形工程が律速段階となってしまうという問題点があった。
【0014】
そこで、本発明は、衝撃による騒音や振動による位置ずれ等の恐れがなく、湿式摩擦材の製造工程の律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすることによって、製造時間の大幅な短縮を図ることができる湿式摩擦材の成形装置の提供を課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
請求項1の発明にかかる湿式摩擦材の成形装置は、平板リング状の芯金の片面または両面に摩擦材基材から切り出したリング状摩擦材基材または複数個のセグメントピースを接着固定するための湿式摩擦材の成形装置であって、前記芯金の熱硬化型接着剤を塗布した片面または両面に前記リング状摩擦材基材または前記複数個のセグメントピースを接着した半製品を載置する載置面が設けられた上面と、該載置面に載置された前記半製品の全面を加圧する加圧面が設けられた下面と、前記載置面及び/または前記加圧面を加熱する加熱機構を具備する成形金型を縦方向に複数個積み重ね、前記複数個の成形金型の側面に前記複数個の成形金型同士を同時に近接・離間させるパンタグラフ式のリンク型開閉機構を設けたものである。
【0016】
請求項2の発明にかかる湿式摩擦材の成形装置は、請求項1の構成において、前記複数個の成形金型の前記載置面以外の部分を上下方向に貫通する1以上のガイドポストを設けたものである。
【0017】
請求項3の発明にかかる湿式摩擦材の成形装置は、請求項1または請求項2の構成において、前記パンタグラフ式のリンク型開閉機構の近傍に前記パンタグラフ式のリンク型開閉機構の上下方向へのスライドをガイドする上下方向に伸びた1以上のスライドガイドを設けたものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明にかかる湿式摩擦材の成形装置は、平板リング状の芯金の片面または両面に摩擦材基材から切り出したリング状摩擦材基材または複数個のセグメントピースを接着固定するための湿式摩擦材の成形装置であって、芯金の熱硬化型接着剤を塗布した片面または両面にリング状摩擦材基材または複数個のセグメントピースを接着した半製品を載置する載置面が設けられた上面と、載置面に載置された半製品の全面を加圧する加圧面が設けられた下面と、載置面及び/または加圧面を加熱する加熱機構とを具備する成形金型を縦方向に複数個積み重ね、複数個の成形金型の側面に複数個の成形金型同士を同時に近接・離間させるパンタグラフ式のリンク型開閉機構を設けたものである。
【0019】
このように、従来の多段式成形金型における開閉機構(リンク)とは異なり、パンタグラフ式のリンク型開閉機構を設けたことによって、従来のように各成形金型が1個ずつ順次スライドしていくのではなく、全ての成形金型が同時にスライドするため、各成形金型の1個当たりのスライドする速度を従来の速度以下としても、全ての成形金型が開閉するために要する時間はずっと少なくて済む。
【0020】
例えば、従来方法において、各成形金型が開いたときの上面(載置面側)と下面(加圧面側)との間隔が50mmで成形金型が15段の場合、100mm/秒でスライドさせると1段の成形金型が閉じるのに0.5秒かかるため、全ての成形金型が閉じるのには0.5秒×15=7.5秒かかり、開閉させるためにはその2倍の15秒を要することになる。しかし、本発明にかかるパンタグラフ式のリンク型開閉機構によれば、全ての成形金型が同時に開閉するため、200mm/秒でスライドさせると全ての成形金型が閉じるのに50mm×15÷200mm=3.75秒で済み、開閉させるためにはその2倍の7.5秒、即ち従来の半分の時間で済むことになる。
【0021】
しかも、1段当たりのスライド速度は200mm/秒÷15=13.3mm/秒であり、従来のスライド速度よりずっと遅くて済むため、型締め時の衝撃による騒音や振動によるセグメント湿式摩擦材50の位置ずれ等の問題が起こる恐れは全くない。また、パンタグラフ式のリンク型開閉機構のスライド速度を200mm/秒よりももっと速くすることも可能である。
【0022】
このようにして、衝撃による騒音や振動による位置ずれ等の恐れがなく、湿式摩擦材の製造工程の律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすることによって、湿式摩擦材の製造時間の大幅な短縮を図ることができる湿式摩擦材の成形装置となる。
【0023】
請求項2の発明にかかる湿式摩擦材の成形装置は、複数個の成形金型の載置面以外の部分を上下方向に貫通する1以上のガイドポストを設けたものである。従って、請求項1に記載の効果に加えて、複数個の成形金型がこのガイドポストに沿って上下方向にスライドするため、複数個の成形金型の開閉をよりスムーズに行うことができる。
【0024】
このようにして、衝撃による騒音や振動による位置ずれ等の恐れがなく、湿式摩擦材の製造工程の律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすることによって、湿式摩擦材の製造時間の大幅な短縮を図ることができる湿式摩擦材の成形装置となる。
【0025】
請求項3の発明にかかる湿式摩擦材の成形装置は、パンタグラフ式のリンク型開閉機構の近傍にパンタグラフ式のリンク型開閉機構の上下方向へのスライドをガイドする上下方向に伸びた1以上のスライドガイドを設けたものである。これによって、請求項1または請求項2に記載の効果に加えて、パンタグラフ式のリンク型開閉機構の作動がよりスムーズになり、複数個の成形金型の開閉を短時間で確実に行うことができる。
【0026】
このようにして、衝撃による騒音や振動による位置ずれ等の恐れがなく、湿式摩擦材の製造工程の律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすることによって、湿式摩擦材の製造時間の大幅な短縮を図ることができる湿式摩擦材の成形装置となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置について、図1乃至図5を参照しつつ説明する。
【0028】
図1は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置の全体構成の概略を示す側面図である。図2(a)は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置におけるパンタグラフ式のリンク型開閉機構の開いた状態を示す部分側面図、(b)は閉じた状態を示す部分側面図である。図3は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置におけるパンタグラフ式のリンク型開閉機構の作動状態を上から見て示す説明図である。図4はパンタグラフ式のリンク型開閉機構の作動状態を示す説明図である。図5は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置を構成する成形金型の上面を示す平面図である。
【0029】
図1の側面図に示されるように、本実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置1は、成形装置本体2に1対のガイドポスト3(向こう側のガイドポストは手前側のガイドポスト3と重なって見えない)が上下方向に伸びて設けられており、これら1対のガイドポスト3が貫通している15段(16個)の成形金型4,5が、その両側面に1対のパンタグラフ式のリンク型開閉機構6が取付けられて、上下方向に互いに近接(型締め)・離間(型開き)可能に積み重ねられている。
【0030】
また、図1においては図示省略されているが、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6の手前側には、リンク式開閉機構6の上下方向へのスライドをガイドする上下方向に伸びたスライドガイドが設けられている。このスライドガイドには、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6の交差部分1つおきに設けられたスライダー7が嵌合しており、これによってリンク式開閉機構6の上下方向へのスライドがより円滑に行われる。
【0031】
次に、このパンタグラフ式のリンク型開閉機構6の開閉動作について、図2乃至図4を参照-して説明する。図2(a),(b)に示されるように、本実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置1においては、最上部の成形金型4及び最下部の成形金型4と、中間の14個の成形金型5とは、多少構造に違いがある。図3に示されるように、リンク式開閉機構6を構成するリンク部材6aの両端には、成形金型4,5の方向に突出した突出部6bが設けられており、これらの突出部6bが図2(a),(b)に示されるように成形金型4,5の側面に穿設された長円形の凹部4aまたは切欠き部5aに嵌合している。
【0032】
図2(a)は、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6が伸びた状態、即ち、15段(16個)の成形金型4,5が型開きされた状態を示しており、この場合にはリンク部材6aの両端に設けられた突出部6bは、長円形の凹部4a及び切欠き部5aの内側にスライドしている。これに対して、図2(b)はパンタグラフ式のリンク型開閉機構6が縮んだ状態、即ち、15段(16個)の成形金型4,5が型締めされた状態を示しており、この場合にはリンク部材6aの両端に設けられた突出部6bは、長円形の凹部4a及び切欠き部5aの外側にスライドしている。
【0033】
これを上方から見たのが図3であり、実線で示されるように、型開き時にはリンク部材6aの突出部6bは長円形の凹部4aの内部の内側に位置しており、想像線で示されるように、型締め時にはリンク部材6aの突出部6bは長円形の凹部4aの内部の外側に位置している。
【0034】
即ち、最上部の成形金型4及び最下部の成形金型4について説明すれば、図4に示されるように、型締め時にはリンク部材6aは縮んだ状態にあり、リンク部材6aの両端に設けられた突出部6bは長円形の凹部4aの内部の外側に位置しており、型開き時にはリンク部材6aは伸びた状態にあり、リンク部材6aの両端に設けられた突出部6bは長円形の凹部4aの内部の内側に位置している。
【0035】
このようにパンタグラフ式のリンク型開閉機構6を伸び縮みさせて、成形金型4,5を昇降させて型締め・型開きを行う駆動力は、図示しない油圧シリンダによって与えられる。図7及び図8に示される従来方法においては、成形金型が15段で各成形金型が開いたときの上面(載置面側)と下面(加圧面側)との間隔が50mmの場合、100mm/秒でスライドさせると1段の成形金型が閉じるのに0.5秒かかるため、全ての成形金型が閉じるのには0.5秒×15=7.5秒かかり、開閉させるためにはその2倍の15秒を要することになる。
【0036】
しかし、本発明にかかるパンタグラフ式のリンク型開閉機構6によれば、全ての成形金型4,5が同時に開閉するため、200mm/秒でスライドさせると全ての成形金型4,5が閉じるのに50mm×15÷200mm=3.75秒で済み、開閉させるためにはその2倍の7.5秒、即ち従来の半分の時間で済むことになる。しかも、1段当たりのスライド速度は200mm/秒÷15=13.3mm/秒であり、従来のスライド速度よりずっと遅くて済むため、型締め時の衝撃による騒音や振動によるセグメント湿式摩擦材50の位置ずれ等の問題が起こる恐れは全くない。また、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6のスライド速度を200mm/秒よりももっと速くすることも可能である。
【0037】
更に、図5に示されるように、成形金型4,5の載置面8(中央が円形に刳り貫かれた長方形状のシム9の載置部分を含む)でない部分を、図1で説明した1対のガイドポスト3が上下方向に、成形金型4,5がスライド可能に貫通している。これによって、複数個の成形金型4,5がこのガイドポスト3に沿って上下面を水平に保ったまま上下方向にスライドするため、複数個の成形金型4,5の開閉をよりスムーズに行うことができる。
【0038】
なお、図5に示されるように、型開き状態の成形金型4,5の載置面8の中央のシム9の円形に刳り貫かれた部分に、芯金51の両面に20個のセグメントピース52を接着した半製品が載置されて、上述した油圧シリンダの駆動力によってパンタグラフ式のリンク型開閉機構6が高速で縮んで、複数個の成形金型4,5の上面と下面とが圧着されて加熱される。これによって、上記半製品がシム9の厚さに合わせて圧縮されて厚さ決めされ、接着剤が加熱硬化することによって各面20個のセグメントピース52が芯金51の両面に固定されて、製品としての湿式摩擦材50が製造される。
【0039】
また、図5に示されるように、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6の近傍において、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6の上下方向へのスライドをガイドする上下方向に伸びた1対のスライドガイド10が設けられている。このスライドガイド10には、リンク式開閉機構6に固定された上記スライダー7が嵌合しており、スライダー7はスライドガイド10に沿って上下方向にスライドする。これによって、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6の作動がよりスムーズになり、リンク式開閉機構6のスライド速度を高速にしても、複数個の成形金型4,5の開閉を短時間で確実に行うことができる。
【0040】
このようにして、本実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置1においては、衝撃による騒音や振動による位置ずれ等の恐れがなく、湿式摩擦材50の製造工程の律速段階である成形工程における加工速度を従来の2倍以上とすることによって、湿式摩擦材50の製造時間の大幅な短縮を図ることができる。
【0041】
具体的には、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6のスライド速度を200mm/秒とすることによって、成形工程における加工速度を従来の2倍とした結果、湿式摩擦材50の全製造工程に要する製造時間を従来の4分の3に短縮することができた。
【0042】
本実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置1においては、パンタグラフ式のリンク型開閉機構6のスライド速度を200mm/秒とした場合について説明したが、成形金型4,5の重量等によってはこれに限られるものではなく、スライド速度を200mm/秒より早くしても良いし遅くしても良い。
【0043】
本発明を実施するに際しては、湿式摩擦材の成形装置のその他の部分の構成、構成部品、形状、材質、大きさ、数量、接続関係等についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】図1は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置の全体構成の概略を示す側面図である。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置におけるパンタグラフ式のリンク型開閉機構の開いた状態を示す部分側面図、(b)は閉じた状態を示す部分側面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置におけるパンタグラフ式のリンク型開閉機構の作動状態を上から見て示す説明図である。
【図4】図4はパンタグラフ式のリンク型開閉機構の作動状態を示す説明図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態にかかる湿式摩擦材の成形装置を構成する成形金型の上面を示す平面図である。
【図6】図6(a)はセグメント湿式摩擦材の全体構成を示す平面図、(b)はセグメント湿式摩擦材の製造工程において芯金にセグメントピースを接着剤で接着した状態を示す断面図、(c)はプレスによってセグメントピースの厚み出しをした状態を示す断面図である。
【図7】図7は従来の多段式の成形金型の具体例1の構成を示す説明図である。
【図8】図8は従来の多段式の成形金型の具体例2の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
1 湿式摩擦材の成形装置
3 ガイドポスト
4,5 成形金型
6 パンタグラフ式のリンク型開閉機構
10 スライドガイド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板リング状の芯金の片面または両面に摩擦材基材から切り出したリング状摩擦材基材または複数個のセグメントピースを接着固定するための湿式摩擦材の成形装置であって、
前記芯金の熱硬化型接着剤を塗布した片面または両面に前記リング状摩擦材基材または前記複数個のセグメントピースを接着した半製品を載置する載置面が設けられた上面と、該載置面に載置された前記半製品の全面を加圧する加圧面が設けられた下面と、前記載置面及び/または前記加圧面を加熱する加熱機構とを具備する成形金型を縦方向に複数個積み重ね、前記複数個の成形金型の側面に前記複数個の成形金型同士を同時に近接・離間させるパンタグラフ式のリンク型開閉機構を設けたことを特徴とする湿式摩擦材の成形装置。
【請求項2】
前記複数個の成形金型の前記載置面以外の部分を上下方向に貫通する1以上のガイドポストを設けたことを特徴とする請求項1に記載の湿式摩擦材の成形装置。
【請求項3】
前記パンタグラフ式のリンク型開閉機構の近傍に前記パンタグラフ式のリンク型開閉機構の上下方向へのスライドをガイドする上下方向に伸びた1以上のスライドガイドを設けたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材の成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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