説明

湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物及び摩擦材

【課題】 柔軟性を保持しながら強度を向上させるフェノール樹脂組成物を提供し、弾性を有し且つ高強度である摩擦材用組成物を提供する。
【解決手段】 フェノール類とアルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られるフェノール樹脂を主成分とする湿式摩擦材用樹脂組成物であって、添加剤として繊維径が0.1〜1.0μm、繊維長が5〜30μmの針状充填材を、樹脂組成物中の固形分全体に対して0.5〜10重量%添加してなる湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物及び摩擦材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂は、主に成形品の基材となる材料同士を結合させるバインダーとして広く用いられ、優れた機械的特性や電気的特性、接着性を有することから、様々な分野で使用されている。特に近年、自動車、鉄道車両などにおける、フェノール樹脂をバインダーとして使用した摩擦材の使用量が増加している。その中でも湿式ペーパー摩擦材と呼ばれる、オートマチック車等の自動変速機等において使用される摩擦材には、天然パルプや有機合成繊維を母材とし、フェノール樹脂や耐熱性樹脂を含浸したものが用いられ、製造法としては湿式抄紙したペーパーに熱硬化樹脂を含浸し、硬化した後に、鋼板に接着する方法が一般的である。その湿式ペーパー摩擦材用フェノール樹脂に対する要求特性は年々高まっており、特に、車両の小型化を目的として摩擦係数を維持したままでの高強度化への要求が高まってきている。しかしながら、一般的なフェノール樹脂の硬化物は、機械的特性に優れる反面、堅くてもろいという性質をもち、柔軟性に優れているとは言えない。従来から摩擦材として用いられる要求として安定した高摩擦係数が得られることがあり、その目的に向かって、種々の方法が用いられているが、強度の維持が十分な結果とは言えない(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
フェノール樹脂に対して、ゴムなどのエラストマーを用いた場合は、柔軟性が大きく向上し、結果として初期の摩擦係数の向上は得られるものの、フェノール樹脂の架橋密度が低下することから強度が低下するなどの傾向があった。
【0004】
【特許文献1】特開平7−157748号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点を解消して、柔軟性を保持しながら強度を向上させるフェノール樹脂組成物を提供し、該組成物により弾性を有し且つ高強度である摩擦材用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的は、下記の本発明(1)〜(5)により達成される。
(1) フェノール類とアルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られるフェノール樹脂を主成分とする湿式摩擦材用樹脂組成物であって、添加剤として繊維径が0.1〜1.0μm、繊維長が5〜30μmの針状充填材を、樹脂組成物中の固形分全体に対して0.5〜10重量%添加してなることを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(2) 前記フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とのモル比(アルデヒド類/フェノール類)を0.8〜1.6で反応させたものである(1)に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(3) 前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、1,000以下である(1)又は(2)に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(4) 前記粒状充填材は、金属酸化物、金属炭化物および金属窒化物の中から選ばれる少なくとも1種以上である(1)ないし(3)のいずれかに記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
(6) (1)ないし(4)のいずれかに記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物を結合材として用いることを特徴とする湿式摩擦材。
【発明の効果】
【0007】
本発明のフェノール樹脂組成物を、湿式摩擦材用バインダーに用いた場合、柔軟性、耐熱性を損なうことなく、強度に優れた湿式摩擦材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下に、本発明の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物について詳細に説明する。
本発明の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物は、針状充填材とフェノール樹脂とから構成されることを特徴とする。
【0009】
本発明で用いられるフェノール樹脂としては、例えば、フェノール類とアルデヒド類とを反応させて得られるものを用いることができる。
【0010】
ここで用いられるフェノール類としては、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール類、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール類、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール類、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール類、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール類、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール類、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、及び、1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
これらのフェノール類の中でも、フェノール、クレゾール類、ビスフェノールAから選ばれるものが好ましい。これにより、本発明のフェノール樹脂を用いた湿式摩擦材において、機械的強度を高めることができる。
【0011】
また、アルデヒド類としては、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
これらのアルデヒド類の中でも、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドから選ばれるものが好ましい。これにより、フェノール樹脂を合成する際の反応性を高くすることができる。
【0012】
上記フェノール樹脂の合成において、フェノール類とアルデヒド類との反応モル比としては、フェノール類1モルに対して、アルデヒド類0.50〜3.00モルとすることが好ましい。さらに好ましくは、アルデヒド類0.55〜2.50モルであり、より好ましくは、アルデヒド類0.60〜2.10モルである。
これにより、本発明のフェノール樹脂を湿式摩擦材の製造に適用した場合に、良好な含浸性を有するとともに、湿式摩擦材の柔軟性を向上させることができる。
【0013】
また、得られたフェノール樹脂は、有機溶剤により溶解希釈して、液状の形態とすることができる。 希釈に用いられる有機溶剤としては特に限定されないが、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールなどのアルコール系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系有機溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系有機溶剤が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0014】
本発明に用いるフェノール樹脂は、レゾール型、ノボラック型のいずれも本発明の湿式摩擦材に適用することができるが、含浸性に優れるレゾール型を適用することがより好ましい。
【0015】
本発明に用いる針状充填材としては、繊維径は0.1〜1.0μm、繊維長は5〜30μmの形状のものを使用することが出来る。これらの材質は金属酸化物、金属炭化物および金属窒化物が挙げられる。またこれらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
繊維経及び繊維長において上記の範囲よりも小さい場合、樹脂構造を補強する効果は低い。また上記の範囲よりも大きい場合、充填材は上手く樹脂中に分散することが出来ず部分的に偏在し、強度向上に対する効果は低くなる。
【0016】
次に、針状充填材の添加方法について説明する。
本発明で用いる針状充填材の添加方法は、攪拌したフェノール樹脂に充填材を添加する手法、またフェノール類、及び又はホルムアルデヒド類と充填材を添加混合した後に反応させる手法などがあるが、特に限定されるものではない。
【0017】
針状充填材の添加量としては、組成物中の固形分全体に対して、充填材の割合が0.5〜30重量%とすることが好ましい。さらに好ましくは、3〜20重量%である。
これにより、本発明のフェノール樹脂を湿式摩擦材の製造に適用した場合に、耐熱性、柔軟性を損なうことなく、湿式摩擦材の強度を向上させることができる。
【0018】
本発明の湿式摩擦材は、前記フェノール樹脂を繊維状基材あるいは、繊維状基材と粉末状充填剤とを湿式抄紙したペーパーに含浸し、硬化させて得られる。繊維状基材としては木材パルプ、リンターパルプなどの天然パルプやアラミド繊維、ポリエステルなどの有機合成繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、炭素繊維、の様な無機繊維が挙げられ、これらを単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。また粉末充填剤としては珪藻土、活性炭、グラファイトのような無機充填剤やカシューダストのような有機充填剤が挙げられ、これらを単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
本発明のフェノール樹脂組成物は、このように、針状充填材とフェノール樹脂とから構成されることを特徴とするものであり、耐熱性、柔軟性など、フェノール樹脂の優れた特性を有し、かつ、強度にも優れた硬化物を得られる。
そして、本発明のフェノール樹脂組成物は湿式摩擦材の製造に好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0020】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
ここに記載されている「部」は「重量部」を、「%」は「重量%」を示す。
【0021】
(実施例1)
撹拌装置、還流冷却器及び温度計を備えた反応装置に、フェノール1000部、濃度37%のホルマリン1294部、トリエチルアミン10部を加え、1時間反応させた。その後、650mmHgの減圧下で脱水を行いながら、系内の温度が70℃に達したところでメタノール1100部、を加えて溶解・冷却し、樹脂固形分が50%のフェノール樹脂2400部を得た。その後、樹脂固形分に対して1%の針状充填材A(チタン酸カリウム繊維(大塚化学製ティスモN、繊維径0.2〜0.6μm、繊維長10〜20μm))を添加し、1時間混合して目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0022】
(実施例2)
実施例1において、針状充填材Aの添加量を5重量%に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0023】
(実施例3)
実施例1において、針状充填材Aの添加量を10重量%に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0024】
(比較例1)
実施例1において、針状充填材を添加しないまま、実施例1と同様に反応を行い、目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0025】
(比較例2)
実施例1において、針状充填材Aの添加量を0.1重量%に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0026】
(比較例3)
実施例1において、針状充填材Aの添加量を50重量%に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0027】
(比較例4)
実施例1において、針状充填材Bとして、ファインカタロイドF−120;触媒化成工業株式会社製(平均径10nm、繊維長50nm)、添加量を5重量%に変えた以外は、実施例1と同様に反応を行い、目標とするレゾール型フェノール樹脂を得た。
【0028】
引張り強度、引張り弾性率の評価
(1)評価用試験片の作製方法
実施例及び比較例で得られたフェノール樹脂に、メタノールを添加して濃度30%に調整した。これに、濾紙(厚さ1mm、アドバンテック社製)を30秒間浸した後、常温で30分間風乾、80℃で30分間乾燥後、200℃で30分間焼成し、ペーパー摩擦材相当の試験片を作製した。
【0029】
(2)評価方法
JIS P 8113「紙及び板紙−引張特性の試験方法」に準拠して、常温、及び、200℃4時間処理後について、各々、引張り強度、引張り弾性率を測定した。
【0030】
上記評価結果を、表1にまとめた。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1〜3はいずれも、針状充填材を添加したフェノール樹脂であり、これらのフェノール樹脂を用いた摩擦材相当試験片の評価の結果、比較例1のフェノール樹脂を用いた場合と比べて、常温、200℃4時間の加熱処理後の引張弾性率を変化させず柔軟性を維持しながら、常温での引張り強度、及び、200℃4時間の加熱処理後の引張り強度を向上することができた。
一方、比較例2、3のように適切な添加量でなければ十分な効果は発揮できない結果となった。また比較例4のように所定の繊維長及び繊維経に適していなければ、同様に効果は発揮できない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明の湿式摩擦材は繊維径が0.1〜1.0μm、繊維長が5〜30μmの針状充填材を樹脂組成中に添加したものであり、該フェノール樹脂を用いることで、強度、柔軟性に優れており工業的価値は大である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とアルデヒド類とを塩基性触媒存在下で反応させて得られるフェノール樹脂を主成分とする湿式摩擦材用樹脂組成物であって、添加剤として繊維径が0.1〜1.0μm、繊維長が5〜30μmの針状充填材を、樹脂組成物中の固形分全体に対して0.5〜30重量%添加してなることを特徴とする湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒド類とのモル比(アルデヒド類/フェノール類)を0.8〜1.6で反応させたものである請求項1に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂の重量平均分子量は、1,000以下である請求項1又は2に記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記針状充填材は、金属酸化物、金属炭化物および金属窒化物の中から選ばれる少なくとも1種以上である請求項1ないし3のいずれかに記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の湿式摩擦材用フェノール樹脂組成物を結合材として用いることを特徴とする湿式摩擦材。

【公開番号】特開2010−138273(P2010−138273A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315536(P2008−315536)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】