説明

溝形鋼製建築部材の製造方法

【課題】Zn系のめっきが施された溝形鋼を素材としても、溶接接合後にあっても後補修を必要としない溝形鋼製建築部材の製造方法を提供する。
【解決手段】溝形鋼と当該溝形鋼の両リップ間および/または両フランジ端間に配された溝開き止め部材からなる建築部材を製造する際に、前記溝開き止め部材の溝形鋼に当接する側の表面に突起を形成するとともに、前記溝形鋼の両リップおよび/または両フランジ端と前記溝開き止め部材とを、前記突起形成部でプロジェクション溶接する。
突起としては、溝形鋼の長手方向と略直行する方向に線状に伸びる凸条が好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄骨造りの建築物における柱や梁として用いられる溝形鋼製建築部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プレハブ住宅に限らず、一般住宅用建築物の骨格を鋼製の建築部材で構築する事例が多くなっている。例えば、図1に見られるように、角形鋼管製の柱11に、溝形鋼からなる梁12を接続した構造を基本骨格として組み立てることが多くなっている。なお、図中、18、20はそれぞれ補強プレート、エンドプレートである。柱11と梁12とを、接合強度を確保しつつ、簡便に接合できるような種々の接合部構造が提案されている(例えば特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−263476号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
昨今、軽量化ないし低コスト化のために、梁のみではなく柱にも角形鋼管に代わって溝形鋼の使用が検討されている。さらに耐久性向上のためにZn系めっき鋼の使用も検討されている。
溝形鋼を建築物の柱や梁に用いようとすると、荷重の掛かり方によっては溝部が開くことがある。溝形鋼の溝部が開くと柱自体の強度が低下し建築物の剛性が低下する。その結果、建築物そのものが歪んで耐震性の低下や建具の開閉などに困難をきたすことになる。
【0005】
そこで、溝形鋼の溝開口部に開止め部材を取り付けて、溝部が開くことを防止することが試みられている。本発明者らも、図2に示すように、溝形鋼の溝間に溝開止め部材Fを配し、溝形鋼のフランジ端ないしリップと開止め部材Fとをアーク溶接Wで固着することを試みている。アーク溶接により確実に固着されるため、強度の高い、開き難い建築用部材が得られる。
しかしながら、溝形鋼の素材として耐食性に優れるZn系のめっき鋼を用いようとすると、アーク溶接により溶融部および熱影響部が広範囲に拡がるため、Zn系めっき金属が溶融・飛散されてしまい溶接部およびその近傍は無めっき状態となってしまう。アーク溶接により、強度の高いものは得られるが耐食性が劣化してしまうため、後補修が必要となって却ってコスト高となってしまう。
【0006】
本発明は、このような問題点を解消するために案出されたものであり、Zn系のめっきが施された溝形鋼を素材としても、溶接接合後にあっても後補修を必要としない溝形鋼製建築部材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溝形鋼製建築部材の製造方法は、その目的を達成するため、溝形鋼と当該溝形鋼の両リップ間および/または両フランジ端間に配された溝開き止め部材からなる建築部材の製造方法であって、前記溝開き止め部材の溝形鋼に当接する側の表面に突起を形成するとともに、前記溝形鋼の両リップおよび/または両フランジ端と前記溝開き止め部材とを、前記突起形成部でプロジェクション溶接することを特徴とする。
前記突起は、溝形鋼と略直行する方向に線状に伸設された凸条であることが好ましい。
本発明の溝形鋼製建築部材の製造方法は、Zn系めっきを施した鋼を素材とした溝形鋼製建築部材を製造する際に好適に適用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の溝形鋼製建築部材の製造方法では、溝形鋼の両リップおよび/または両フランジ端と溝開き止め部材とをプロジェクション溶接法で固定している。このため、アーク溶接法を用いた場合と比較して被接合材に対する熱影響領域を極力狭くすることができる。したがって、Zn系めっき鋼を素材として建築部材であっても、溶接後の補修を必要としない製造が可能となる。
特に、溝開き止め部材として溝形鋼の長手方向と略直行する方向に直線状に伸びる凸条突起を設けたものを使用してプロジェクション溶接すると、当該溝開き止め部材の載置位置が多少ずれても問題なく溶接接合することができる。さらに、溝形鋼フランジ端にリップがない、あるいは他の建築部材との接合を考慮してリップ部を除去した溝形鋼に対して問題なく溶接接合することができる。
【0009】
このように、突起、特に溝形鋼の長手方向と略直行する方向に直線状に伸びる凸条突起を設けた溝開き止め部材を用い、プロジェクション溶接法を採用することにより、Zn系のめっきが施された溝形鋼を素材としても、溶接接合後にあっても後補修を必要としない溝開きのない溝形鋼製建築部材が低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】一般的な鋼製柱・梁接合構造(特許文献1)を説明する図
【図2】溝開き止め部材をアーク溶接法で固着する態様を説明する図
【図3】プロジェクション溶接法を説明する概念図
【図4】溝開き止め部材をプロジェクション溶接法で固着する態様を説明する図
【図5】溝開き止め部材をプロジェクション溶接する際の不具合発生状況を説明する図
【図6】凸条を設けた溝開き止め部材をプロジェクション溶接する態様を説明する図
【図7】実施例において製造した溝形鋼製建築部材の素材溝形鋼の断面形状を示す図
【図8】実施例において製造した溝形鋼製建築部材の構造を例示する図
【図9】溝開き止め部材に凸条を形成する金型の断面形状を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0011】
前記したように、Zn系のめっき鋼を素材とした溝形鋼の溝間に、同じくZn系めっき鋼板製の溝開止め部材を配し、溝形鋼のフランジ端ないしリップと開止め部材とをアーク溶接法で固着しようとすると、アーク溶接の際の熱にZn系めっき金属が溶融・飛散されてしまい溶接部およびその近傍は無めっき状態となってしまう。強度の高いものは得られるが本来の耐食性を維持することができない製品となってしまう。
そこで、本発明者等は、Zn系のめっきが施された鋼を素材とする溝形鋼製建築部材を製造する際にあっても、溶接接合後にあっても後補修を必要としない接合手段について鋭意検討を重ねてきた。
【0012】
アーク溶接では、溶融接合部および熱影響部が広範囲に及ぶためにめっき金属層が溶融・飛散するので、溶融接合部および熱影響部の領域を極力狭くする手法を検討した。その結果、プロジェクション溶接法が有効であることを見出した。
プロジェクション溶接法は、図3に示すように、被溶接材の溶接箇所にプロジェクション(突起部)を設け、この突起部分に電流を集中して流し、加熱すると同時に加圧接合する抵抗溶接法である。プロジェクション溶接法では、被溶接材に設けた突起部に集中して通電させるため、突起部先端から発熱して確実なナゲットが形成されて接合される。
【0013】
プロジェクション溶接法では、形成されるナゲットは小さいために大きな接合強度は期待できないが、熱影響部領域が狭いために、特にめっき材料を被溶接材とするとき、めっき層に対する熱影響領域を極めて狭くすることができる。溶接後の後補修を行わなくても十分にめっき鋼の本来の耐食性を維持することができる。
したがって、溝形鋼の溝間に溝開止め部材を配した建築用部材のような、溝開きを防止する程度の接合強度を発揮すれば足りる、溝形鋼のフランジ端ないしリップと溝開止め部材との接合には、プロジェクション溶接法で十分である。Zn系めっき鋼を素材とした建築用部材の製造にあっても、溶接接合後の後補修の必要がないことが大きなメリットである。
【0014】
以下、本発明方法について、具体的に説明する。
図4に示すように、溝形鋼の両リップ上に溝開き止め部材Fを載置してアーク溶接していた従前の作製例において、溝開き止め部材Fとして、単なる平板ではなく、溝形鋼のリップと接合する箇所に突起Pを形成した溝開き止め部材Fを載置し、溝形鋼と溝開き止め部材Fを挟むように図示しない電極を配置し、電極間に電流を流すとともに電極間を加圧することにより、プロジェクション溶接する。突起は通常通り円錐形状とする。
前記したように、プロジェクション溶接法を採用することにより、アーク溶接法を用いた場合と比較して被接合材に対する熱影響領域を極力狭くすることができる。したがって、Zn系めっき鋼を素材として建築部材であっても、溶接後の補修を必要としない製造が可能となる。
【0015】
ところで、溝開き止め部材Fの溝形鋼リップと接合する箇所に形成した突起Pを円錐形状とした場合、リップ部が平らで、溝形鋼そのものに歪み等が全くないリップ溝形鋼の溝開口部上に溝開き止め部材を載置したときには、円錐状突起が溝形鋼のリップ上に載置される形態となり、問題なくプロジェクション溶接される。
しかしながら、リップ溝形鋼といえども、リップ部が湾曲しているものもある。また、左右のリップ部が対称ではなかったり、歪んだりしている場合もある。このような場合には、図5(a)に見られるように、溝形鋼のリップ上に円錐状突起を正しい位置に載置することができなくなる。また、溝形鋼がリップなしのものである場合、あるいは他の建築部材を接合するためにリップを切り取っている場合等、両フランジが完全に平行でなかったりして、図5(b)に見られるように、円錐状突起をフランジ端に載置することができないこともある。
【0016】
そして、溝開き止め部材Fの載置位置がズレることにより、目的の溶接箇所に突起が正しく加圧できず、加圧力不足や接触面積が過大となり溶接不可となることもある。最悪のケースでは溝開き止め部材が接合できずに落ちてしまうこともある。
したがって、溝開き止め部材表面に形成する突起としては、単なる円錐形状ではなく、線状に伸びる凸条が好ましい。さらに好ましくは、溝形鋼の長手方向と略直行する方向に直線状に伸びる凸条とする。すなわち、溝形鋼の長手方向と略直行する方向に凸条突起Tを伸設した溝開き止め部材Fを用いることが好ましい。凸条突起Tはプレス成形法などにより容易に形成することができる。
【0017】
表面に凸条突起Tを設けた溝開き止め部材Fを用いることにより、図6に見られるように、溝形鋼のリップ部、フランジ部端が変形したものであったとしても、溝形鋼と溝開き止め部材との接触は線接触となり、また溝開き止め部材がズレたとしても、溝開き止め部材が落ちるほどでない限り何処かの部位で接触しているため、プロジェクション溶接が容易、かつ確実に行える。
本発明方法は、素材としてZn系めっきを施した鋼材を用いた場合に有効であるが、前記した通り、凸条突起の設置により、溝形鋼に変形が生じていても何ら問題なく建築部材を製造することが可能となる。
【0018】
素材として用いるZn系めっき鋼の、めっき合金種に制限はない。通常のZnめっき、Zn−Al合金めっき、あるいはZn−Al−Mg合金めっきが施された鋼材が用いられる。特に、Al:4.0〜10.0質量%、Mg:1.0〜4.0質量%を含み、残部がZnからなるもの、さらに微量のTiやBを含むもの、あるいはさらにSiを含むZn−Al−Mg系合金めっきが施された鋼材を素材としたものが好ましい。
本発明法を採用することにより、前記した通り被接合材に対する熱影響領域を極力狭くすることができるので、溶接後の補修を必要とせず、結果的に低コストで溝形鋼製建築部材を製造することができる。
【0019】
以上、素材溝形鋼がZn系めっき鋼から構成されている場合について説明してきたが、素材はめっき鋼に限定されることはない。例えば塗装鋼を素材とした場合であっても本発明を適用することができる。
プロジェクション溶接法の採用により、アーク溶接法に比べて溶融部および熱影響部が狭くなるため、塗膜の飛散・劣化領域を狭くすることができる。溶接後の後補修を行わなくても十分に塗装鋼の本来の耐食性を維持することができる。
【実施例】
【0020】
実際に使用される溝形鋼に溝開き止め部材をプロジェクション溶接により接合した例を以下に紹介する。
溝形鋼としては、その断面形状を図7に示すような、板厚が2.3mmで、幅60mm、高さ75mm、リップの長さ10mmの断面形状を有する2600mmの長さのものを使用し、片側の端部に80mmの長さの、また反対側の端部に130mmの長さのリップ部切り欠きを設けて実験に供した(図8参照)。
なお、鋼素材は400N級の構造用鋼で、めっきはZn系めっきを施したものである。
【0021】
平板状の溝開き止め部材として、溝形鋼と同じ成分組成のめっき鋼板を使用した。ただし、板厚は軽量化およびコストダウンを考慮し1.6mmとした。
リップがある箇所に取り付ける溝開き止め部材の寸法は溝形鋼の幅方向になる側が48mm、溝形鋼の長手方向になる側が30mmのものを使用した。また、リップ部がない箇所に取り付ける溝開き止め部材の寸法は溝形鋼の幅方向になる側が60mm、溝形鋼の長手方向になる側が30mmのものを使用した。
【0022】
溝開き止め部材にはプロジェクション溶接に必要となる凸条突起を溝形鋼の幅方向となる側と平行に15mmの間隔を空けて2本設けた。なお、凸条突起は、図9に示すような、断面がR1.0mmの線状突起を有するパンチと、ダイス側の断面が幅4mm深さ2mmの溝を有するダイスとからなる金型を用いてプレス成形することにより形成した。
溶接にはコンデンサ式プロジェクション溶接を用いて製作し、溶接は1箇所ずつではなく溝開き止め部材よりも大きい銅板で溝形鋼と溝開き止め部材を挟み、4箇所を同時に溶接した。
溶接条件は485Vで加圧力はリップ部有りが400kgf、リップ部なしが300kgfで実施した。プレートの取り付け位置は130mmリップを切り欠いた箇所に1つ、あとリップ有り部には均等に3箇所接合した。
【0023】
溝開き止め部材をプロジェクション溶接により接合した構造体と、従来のアーク溶接により接合した構造体を比較するために圧縮試験した結果、プロジェクション溶接した構造体は67kN、アーク溶接により接合した従来の構造は64kNであり、従来と同等の強度を得ることができた。また、溝開き止め部材を接合した箇所はアーク溶接では周囲に熱影響によるめっき損傷があり後補修が必要であるのに対し、プロジェクション溶接では周囲に熱影響がなく後補修が不要であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溝形鋼と当該溝形鋼の両リップ間および/または両フランジ端間に配された溝開き止め部材からなる建築部材の製造方法であって、前記溝開き止め部材の溝形鋼に当接する側の表面に突起を形成するとともに、前記溝形鋼の両リップおよび/または両フランジ端と前記溝開き止め部材とを、前記突起形成部でプロジェクション溶接することを特徴とする溝形鋼製建築部材の製造方法。
【請求項2】
前記突起が、溝形鋼の長手方向と略直行する方向に伸設された凸条である請求項1に記載の溝形鋼製建築部材の製造方法。
【請求項3】
前記溝形鋼および溝開き止め部材がZn系めっき鋼からなる請求項1または2に記載の溝形鋼製建築部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−248720(P2010−248720A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96778(P2009−96778)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【出願人】(390037154)大和ハウス工業株式会社 (946)
【Fターム(参考)】