説明

溶剤可溶性ポリイミド共重合体及びそれを含有するポリイミドワニス

【課題】高い溶剤可溶性を有し、柔軟性と難燃性のバランスに優れ、吸湿率が低く、電子・電気部品材料として好適に使用できるポリイミド共重合体を提供する。
【解決手段】特定のエステル基含有テトラカルボン酸二無水物と脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物を含有するテトラカルボン酸二無水物混合物(A)と特定のアルキレンジアミン及び/又はポリオキシアルキレンジアミンを含むジアミン(B)を、(A)成分と(B)成分とのモル比を(A):(B)=0.80〜1.20の範囲でイミド化反応に供して得られるポリイミド共重合体とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な溶剤可溶性ポリイミド共重合体及びそれを含有するポリイミドワニスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子材料分野、光学材料分野においては、小型化、薄型化、軽量化等への対応の必要性から、耐熱性、安定性、電気特性等に優れる樹脂として、ポリイミド樹脂が各種基材の、接着、絶縁、保護などの用途に用いられている。この用途に用いられるポリイミド樹脂は、通常ワニスの形態で供給されるが、一般に、(i)ポリイミド前駆体であるポリアミド酸のワニスと、(ii)溶剤可溶性ポリイミドのワニスとの2種に大別される。前者の場合、硬化物を得るためには、脱溶剤とイミド化反応とを行う必要があるため、乾燥、硬化処理には、300℃以上の温度が必要であり、係る温度では、電子部品が劣化、損傷する虞が有るため好ましくない。更に、イミド化の際に発生する水が、ポリイミド硬化物に、欠陥を形成したり、ボイド、膨れや基材との間に空隙を生じさせ、接着不良や絶縁不良を引き起こす原因となっている。一方、後者の場合には、イミド化反応はほぼ完結しているため、溶剤を揮発させるだけで硬化物を得ることができる。そのため、処理温度を低くすることができる上、イミド化反応に伴う水の発生が無いため、欠陥の少ない硬化物が得られやすい利点を有している。
【0003】
しかしながら、従来公知の溶剤可溶性ポリイミド樹脂は、分子鎖が剛直なため、耐熱性が高く低級水性ではあるものの、柔軟性に欠け屈曲性に劣り、基材との密着性が未だ不十分であった。これらの性能を改善する目的で、ジアミン成分としてポリシロキサンジアミンを原料とした溶剤可溶性ポリイミドが提案されている(特許文献1〜4)。しかし、このポリイミドは柔軟性の向上や低吸水率化が認められるものの、難燃性に劣り、高温下でシロキサン系アウトガスが発生するなどの問題点を有している。アウトガスの発生は、ポリイミド被膜に欠陥を与えたり、ポリイミドと基材との密着性を低下させる原因となる。また、基板等の半導体部品の殆どはシリコン系無機材料であり、シロキサン系アウトガスは、これらと親和性が高く容易に反応するため、半導体としての信頼性を低下させる原因となる。
【0004】
更に、近年の環境問題への意識、省エネルギー化への要望の中で、溶剤含有量の少ない、即ちポリイミド樹脂濃度が高いポリイミドワニスが求められている。しかしながら、ポリイミド樹脂の濃度を高めると、ワニス粘度の安定性が悪くなり、保管中に析出したり、粘度が高くなったりするなどの問題点が生じるため、ポリイミド樹脂濃度の高いポリイミドワニスを得ることは困難であった。
【0005】
【特許文献1】特開平5−331285号公報
【特許文献2】特開平9−40777号公報
【特許文献3】特開平10−218993号公報
【特許文献4】特開2000−103848号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、溶剤可溶性が高く、柔軟性と難燃性のバランスに優れ、吸水率が低く、実質的にシロキサン系のアウトガスを発生させないポリイミド共重合体、及びそのポリイミド共重合体を含有するポリイミドワニス並びにポリイミド成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を達成すべく鋭意検討の結果、ポリイミド共重合体の開発過程において、次の知見を得た。
(1)ポリイミド共重合体のテトラカルボン酸二無水酸成分として、エステル基含有テトラカルボン酸二無水酸と脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水酸とを併用することにより、柔軟性に優れ、吸水率が低いポリイミド共重合体が得られること。
(2)ポリイミド共重合体のジアミン成分として、脂肪族ジアミンを使用することにより、重合反応を阻害する塩の形成が極めて少なく、重合が容易となること。
(3)上記(1)と上記(2)との要件を充足するポリイミドの溶剤可溶性が極めて高いこと。
(4)上記(1)と上記(2)との要件を充足するポリイミドは難燃性に優れること。
(5)さらに、ジアミン成分として分子内にエーテル基を含有するポリオキシアルキレンジアミンを共重合することにより、溶剤可溶性、難燃性を損なうことなく、より柔軟性に優れたポリイミド共重合体が得られること。
本発明は、係る知見に基づいて完成されたものであり、以下の項目にあるポリイミド共重合体及びそのボリイミドワニスを提供するものである。
【0008】
(項1)(A)成分:
一般式(1)
【化1】

[式中、Xは炭素数2〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、1,3−フェニレン基又は1,4−フェニレン基を表す。]
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(A1)と炭素数8〜30の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物(A2)とを含むテトラカルボン酸二無水物混合物と、
(B)成分:
(i)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)を含むジアミン、又は、
(ii)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)と
一般式(2)
【化2】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれメチル基又は水素原子を表す。Xは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。h、i及びjは、同一又は異なって、それぞれ0〜50の整数を表し、且つ、h+i+jの合計が2〜50の整数である。]
で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B2)及び
一般式(3)
【化3】

[式中、Xは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。kは1〜30の整数である。]
で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むジアミンとを、
(A)成分と(B)成分とのモル比を(A):(B)=0.80〜1.20:1の範囲でイミド化反応に供して得られる溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0009】
(項2)(A)成分:
一般式(1)
【化4】

[式中、Xは炭素数2〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、1,3−フェニレン基又は1,4−フェニレン基を表す。]
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(A1)と炭素数8〜30の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物(A2)とを含むテトラカルボン酸二無水物混合物と、
(B)成分:
(i)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)を含むジアミン、又は、
(ii)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)と
一般式(2)
【化5】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれメチル基又は水素原子を表す。Xは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。h、i及びjは、同一又は異なって、それぞれ0〜50の整数を表し、且つ、h+i+jの合計が2〜50の整数である。]
で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B2)とを含むジアミンとを、
(A)成分と(B)成分とのモル比を(A):(B)=0.80〜1.20:1の範囲でイミド化反応に供して得られる、上記項1に記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0010】
(項3)(B1)成分が、炭素数2〜18の直鎖状のアルキレンジアミン(B1a)と炭素数2〜18の分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1b)とからなるアルキレンジアミンである、上記項1又は項2に記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0011】
(項4)(A2)成分が、炭素数10〜18の脂環族テトラカルボン酸二無水物である、上記項1〜3の何れかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0012】
(項5)(A1)成分が、一般式(1)におけるXがエチレン基であるエステル基含有酸無水物であり、
(A2)成分が、
一般式(4)
【化6】

[式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を表す。]
で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物、
一般式(5)
【化7】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物、及び
一般式(6)
【化8】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種(A2a)であり、
(B1)成分が、炭素数2〜18の直鎖状のアルキレンジアミン(B1a)と炭素数2〜18の分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1b)とからなるアルキレンジアミンであり、
(B2)成分が、一般式(2)におけて、Xが炭素数3又は4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、h+i+jの合計が3〜35の範囲であるポリオキシアルキレンジアミンである、上記項1〜4の何れかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0013】
(項6)(A2a)成分が、上記一般式(4)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物であり、
(B1b)成分が、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項5に記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0014】
(項7)ポリイミド共重合体の吸水率が1.5重量%以下である、請求項1〜6の何れかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0015】
(項8)ポリイミド共重合体のガラス転移温度(ガラス転移温度は損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)で表される損失正接tanδの極大値である。)が100℃以下である、上記項1〜7の何れかに記載のポリイミド共重合体。
【0016】
(項9)ポリイミド共重合体の消炎時間が70秒以内である、上記項1〜8の何れかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【0017】
(項10)上記項1〜9の何れかに記載のポリイミド共重合体及び有機溶剤を含有するポリイミドワニス。
【0018】
(項11)ポリイミド共重合体の含有量が、有機溶剤100重量部に対して1〜120重量部である、上記項10に記載のポリイミドワニス。
【0019】
(項12)有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート及びエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記項10又は項11に記載のポリイミドワニス。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲において、(A)成分のモル数は、(A1)成分モル数と(A2)成分モル数との合計である。また、(B)成分として、(B1)成分と(B2)成分とを併用した場合のモル数は、(B1)成分のモル数と(B2)成分のモル数との合計である。さらに、(B1)成分として、(B1a成分)と(B1b成分)とを併用した場合のモル数は(B1a)成分と(B1b)成分との合計である。よって、(A)成分の(B)成分に対するモル比とは、[(A1)成分モル数+(A2)成分モル数]と[(B1)成分モル数+(B2)成分モル数]との比を指す。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、次のような優れた効果が奏される。
(1)本発明で使用される上記(A)成分と(B)成分から得られるポリイミド共重合体は、溶剤可溶性、柔軟性と難燃性のバランス、電気絶縁性に優れる。
(2)本発明のポリイミド共重合体は、耐吸水性が良好である。
(3)本発明のポリイミド共重合体から成形体を製造するに際し、塗布工程や乾燥工程においてシロキサン系アウトガスが実質的に発生しない。
(4)(B)成分として、上記(B1)成分と(B2)成分とを併用した場合、ポリイミド共重合体の柔軟性がより向上する。
(5)本発明のポリイミドワニスは、貯蔵安定性に優れる。長期間の保管によっても、本ポリイミド共重合体の析出が抑制され、或いはポリイミドワニスゲル化が抑制される。また、(B)成分として、上記(B1a)成分と(B1b)成分とを併用する場合、貯蔵安定性がより向上する。
(6)本発明のポリイミド共重合体は、耐熱性が良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
<溶剤可溶性ポリイミド共重合体>
本発明のポリイミド共重合体は、反応溶媒存在下、特定のテトラカルボン酸二無水物混合物(A)と特定のジアミン(B)とを特定の仕込み比率にて、好ましくは不活性ガス雰囲気下で、加熱撹拌しながら、常法に従ってイミド化反応して得られる溶剤可溶性ポリイミド共重合体である。
より詳細には、前記の特定のテトラカルボン酸二無水物混合物(A)とは、一般式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(A1)と炭素数8〜30の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物(A2)とを含むテトラカルボン酸二無水物混合物を意味する。
また、前記の特定のジアミン(B)とは、(i)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)を含むジアミン、又は、(ii)該(B1)成分と一般式(2)及び/又は一般式(3)で表されるポリオキシアルキレンジアミン(それぞれB2、B3である。)とを含むジアミンを意味する。
また、前記の特定の仕込み比率とは、(A)成分と(B)成分とのモル比が(A):(B)=0.80〜1.20:1の範囲を意味する。
本ポリイミド共重合体は、(A)成分と(B)成分との基本構造単位(−[A−B]−)を有しており、それぞれの成分は(A1)成分、(A2)成分、(B1)成分、(B2)成分、(B3)成分の複数成分を用いるので通常ランダム共重合体である。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、混合物とはイミド化反応中に、2つの成分、例えば(A)成分では(A1)成分と(A2)成分が存在することを意味しており、イミド化反応に供する前に2つの成分を予め混合しておくことに限定するものではない。
【0023】
[テトラカルボン酸二無水物混合物:(A)成分]
本発明のポリイミド共重合体の製造に際しては、(A)成分として、エステル基含有テトラカルボン酸二無水物(A1)成分と炭素数8〜30の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物(A2)成分を必須成分として使用する。
【0024】
前記(A1)成分は、上記一般式(1)で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物であり、特に制限はなく市販品や従来公知の製造方法により得られるものも使用できる。一般式(1)におけるXは、炭素数2〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、1,3−フェニレン基又は1,4−フェニレン基であり、好ましくは炭素数2〜6の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、より好ましくは炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、特にエチレン基が推奨される。
具体的には、1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3−プロピレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−テトラメチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,5−ペンタメチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,6−ヘキサメチレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3−フェニレンビス(アンヒドロトリメリテート)、1,4−フェニレンビス(アンヒドロトリメリテート)等が挙げられる。これらの中でも、耐熱性と柔軟性のバランスに特に優れる点から、1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)が推奨される。
(A1)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせてイミド化反応に供することができる。
【0025】
前記(A2)成分は、炭素数8〜30の脂肪族又は脂環式テトラカルボン酸二無水物であり、特に制限はなく市販品や従来公知の製造方法により得られるものも使用できる。
なお、本明細書及び特許請求の範囲において、脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、4つのカルボキシル基が結合している炭素原子全てが脂肪族炭素であるものを意味し、脂環族テトラカルボン酸二無水物とは、4つのカルボキシル基が結合する炭素原子の少なくとも1つが脂環構造を構成しているものを意味する。
(A2)成分における炭素数とは、4つのカルボキシ基を含めた炭素数の総数である。
脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5−ペンタンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
脂環族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3−ジメチル−1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5−トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、3,5,6−トリカルボキシノルボナン−2−酢酸二無水物、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、2,3,4,5−テトラヒドロフランテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,1]−ヘプタン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2,2,2]−オクト−7−エン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物等、ビシクロ[2,2,2]−オクテン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−4−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−7−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0026】
(A2)成分の中でも、炭素数8〜22の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物が好ましい。耐熱性の観点からは、脂環族テトラカルボン酸二無水物が好ましく、より好ましくは炭素数10〜18の脂環族テトラカルボン酸二無水物が推奨される。さらに、耐熱性及び柔軟性のバランスの観点から、上記一般式(4)〜(6)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物がより好ましく、特に一般式(4)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物が推奨される。
【0027】
一般式(4)〜(6)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−4−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物、4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−7−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチルシクロヘキサン−1,2−ジカルボン酸二無水物、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物が挙げられる。
前記脂環族テトラカルボン酸二無水物の市販品としては、例えば、新日本理化社製の「リカシッド TDA−100(製品名)」(4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物)、大日本インキ社製の「エピクロン B−4400(製品名)」(5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸二無水物)等が挙げられる。
【0028】
(A2)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせてイミド化反応に供することができる。
【0029】
本明細書及び特許請求の範囲において、(A1)成分及び(A2)成分は「テトラカルボン酸二無水物」の形態で記載しているが、それらの代わりにそれらの各種誘導体をイミド化反応に供することができる。例えば、前記テトラカルボン酸二無水物の有水酸であるテトラカルボン酸、そのテトラカルボン酸の酸塩化物、そのテトラカルボン酸と炭素数1〜4の低級アルコールとのエステル等が各種誘導体に該当する。
【0030】
本発明において、本発明の効果を損なわない範囲で、(A)成分の一部を他のテトラカルボン酸二無水物に置き換えて用いることができる。
他のテトラカルボン酸二無水物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物が例示される。具体例としては、ピロメリット酸二無水物、4,4’−オキシジフタル酸無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ジメチルジフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−テトラフェニルシランテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−フランテトラカルボン酸二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルフィド二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルスルホン二無水物、4,4’−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルプロパン二無水物、3,3’,4,4’−パーフルオロイソプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ビス(フタル酸)フェニルホスフィンオキサイド二無水物、p−フェニレン−ビス(トリフェニルフタル酸)二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルエーテル二無水物、ビス(トリフェニルフタル酸)−4,4’−ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
これらの他のテトラカルボン酸二無水物を用いる場合、全テトラカルボン酸二無水物のモル数に対して、好ましくは15モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に5モル%以下の範囲であることが好ましい。
【0031】
[ジアミン:(B)成分]
本発明のポリイミド共重合体の製造に際しては、(B)成分として、(i)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)を含むジアミン、又は、(ii)該(B1)成分と上記一般式(2)で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B2)及び上記一般式(3)で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むジアミンを使用する。
【0032】
本発明に係るアルキレンジアミンは、(B1)成分として炭素数2〜18の直鎖状のアルキレンジアミン(B1a)及び/又は炭素数2〜18の分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1b)からなる。具体的に例示すれば、直鎖状若しくは分岐鎖状の、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノウンデカン、ジアミノドデカン、ジアミノトリデカン、ジアミノテトラデカン、ジアミノペンタデカン、ジアミノヘキサデカン、ジアミノヘプタデカン、ジアミノオクタデカンが挙げられる。
【0033】
前記(B1a)成分としては、具体的にエチレンジアミン、トリメチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン等が挙げられる。これらの中でも、柔軟性と耐熱性のバランスの観点から、好ましくは炭素数8〜12の直鎖状のアルキレンジアミン、より好ましくはデカメチレンジアミンが推奨される。
前記(B1b)成分としては、具体的に2−メチルペンタメチレンジアミン、2−メチル−2,4−ペンタンジアミン、2,2-ジメチルプロパン−1,3−ジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンが例示される。これらの中でも、柔軟性の観点から、好ましくは炭素数6〜10の分岐鎖状のアルキレンジアミン、より好ましくは2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンが推奨される。
(B1a)成分と(B1b)成分との併用は、貯蔵安定性がより向上する点で特に好ましい態様である。
【0034】
(B1)成分は、単独で又は2種以上を組み合わせてイミド化反応に供することができる。
【0035】
本発明に係るポリオキシアルキレンジアミンは、前記の(B2)成分及び(B3)成分からなる群より選ばれる少なくとも1種である。
【0036】
(B2)成分において、一般式(2)におけるXは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、柔軟性の観点からはテトラメチレン基が好ましい。
また、一般式(2)におけるh、i及びjは、それぞれ0〜50であり、好ましくはそれぞれ0〜35の整数であり、且つ、h+i+jの合計は2〜50であり、好ましくは3〜35、より好ましくは5〜35の整数である。かかる範囲内において、特に柔軟性と耐熱性のバランスの観点において有意な差が認められる。
(B2)成分の市販品の具体例としては、ハンツマン社製(英語表記;HUNTSMAN社製)の、ジェファーミン(英語表記;JEFFAMIN) D−230、D−400、D−2000、XTJ00(ED−600)、XTJ−502(ED2003)、EDR−148、XTJ−542、XTJ−533、XTJ−536などが挙げられる。
【0037】
(B3)成分において、一般式(3)におけるXは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、柔軟性の観点からはテトラメチレン基が好ましい。
また、一般式(3)におけるkは、1〜30の整数であり、好ましくは10〜20の整数である。
(B3)の市販品の具体例としては、イハラケミカル工業社製のエラスマー1000Pなどが挙げられる。
【0038】
ポリイミド成形体の柔軟性が必要とされる用途に適用する場合、本発明に係るポリオキシアルキレンジアミンとしては(B2)成分を単独で使用する態様がより好ましい。
【0039】
本明細書及び特許請求の範囲において、(B)成分は、「ジアミン」の形態で記載しているが、反応性の向上の目的で且つ本発明の効果を奏する限り、それらの代わりにアミノ基の一部又は全部をイソシアネート基に変換した化合物やシリル化した化合物等を使用することができる。
【0040】
本発明において、本発明の効果を損なわない範囲で、(B)成分の一部を他のジアミン成分に置き換えて用いることができる。
他のジアミン成分としては、当該分野で用いられている公知のジアミンを用いることができる。例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノビフェニル、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシベンゼン)、9,9−ビス(3−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、4,4’−ジアミノ−3,3’5,5’−テトラメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’5,5’−テトラプロピルジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3'−ジアミノジフェニルエーテル、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン等の芳香族ジアミン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4、4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルエタン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルプロパン、ビスアミノメチルシクロヘキサン、ジアミノビシクロ[2.2.1]ヘプタン、ビス(アミノメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の脂環族ジアミン又は脂環基を含む脂肪族ジアミンが挙げられる。
これらの他のジアミン成分を用いる場合、その使用量は、全ジアミン成分の15モル%以下、より好ましくは10モル%以下、特に5モル%以下の範囲でイミド化反応に供することが好ましい。
【0041】
<イミド化反応>
本発明のポリイミド共重合体は、公知の方法に従って、上記(A)成分と(B)成分とから製造することができる。例えば、(i)(A)成分と(B)成分とを加熱し、生成水を系外に除去しながらイミド化反応させる方法、(ii)(A)成分と(B)成分とのポリアミド酸を製造した後、無水酢酸等の脱水作用のある化合物を用いて化学閉環させる方法などが例示される。製造にあたっては、安全性の面から不活性ガス雰囲気下で行うことが推奨される。
【0042】
上記製造方法のうち、製造方法(i)が工業的に好ましい。製造方法(i)の好ましい態様としては、例えば、無触媒下で反応溶媒に(A)成分と(B)成分とを溶解させた後、イミド化反応の反応温度まで加熱し、反応系外へ生成水を取り除きながら当該イミド化反応を行う方法などが例示される。
生成水を効率よく反応系外に除去する為に水と同伴する液体又はガス体を使用することが推奨される。その同伴する液体又はガス体とは、一般に還流液、共沸剤、同伴剤或いは同伴ガス等と称されるものである。該還流液としては、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素などが挙げられる。還流液を使用する場合、その使用量は、反応溶媒に対して、好ましくは1〜30重量%、より好ましくは5〜20重量%が推奨される。添加時期は、特に制限はなく、反応溶媒を仕込む時から反応系に加えてもよく、またイミド化反応の直前に加えてもよい。水と同伴する液体は、反応溶媒の一部を成すものではあるが、使用目的を重視して単に還流液という。
【0043】
イミド化反応に際して、反応開始時における反応基質である(A)成分と(B)成分との仕込みモル比は次の通りである。
(A)成分と(B)成分との仕込みモル比は、(A):(B)=0.80〜1.20:1の範囲である。ポリイミドワニスの貯蔵安定性の観点から、(A)成分と(B)成分とのモル比は、(A):(B)=1.01〜1.20:1が好ましい。また、得られるポリイミド成形体の機械的物性の観点から、(A)成分と(B)成分とのモル比は、(A):(B)=1.00〜1.10:1の範囲が好ましい。
(A1)成分と(A2)成分との仕込みモル比は、特に限定されないものの、得られるポリイミド成形体の柔軟性及びポリイミドワニスの貯蔵安定性の観点から、(A1):(A2)=90:10〜10:90の範囲が好ましく、より好ましくは(A1):(A2)=75:25〜25:75の範囲が推奨される。
また、(B)成分として、(B1)成分と(B2)成分及び(B3)成分からなる群から選ばれる少なくとも1種(B2・B3)とを併用する場合(即ち上記項1に記載の(ii)の態様の場合)、その仕込みモル比は、特に限定されないものの、得られるポリイミド成形体の柔軟性と難燃性のバランスの観点から、好ましくは(B1):(B2・B3)=99:1〜35:65の範囲、より好ましくは(B1):(B2・B3)=95:5〜60:40の範囲が推奨される。
前記(B1)成分において、(B1a)成分と(B1b)成分とを併用する場合、その仕込みモル比は、特に限定されないものの、得られるポリイミド成形体の柔軟性の観点から、(B1a):(B1b)=99:1〜35:65の範囲が好ましく、また、柔軟性と溶剤可溶性の観点から、(B1a):(B1b)=75:25〜50:50の範囲がより好ましい。
前記(B2・B3)成分において、(B2)成分と(B3)成分の仕込みモル比は、(B2):(B3)成分=100:0〜50:50の範囲が好ましく、より好ましくは100:0〜75:25の範囲が推奨される。
【0044】
上記反応溶媒としては、非プロトン性極性溶媒が好適に用いられ、具体的には、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチルイミダゾリドン、ジグライム、トリグライム、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート、メチルエチレングリコールアセテート、ブチルプロピレングリコールアセテート、安息香酸メチル、安息香酸エチル、イソホロン、エチレングリコールジアセテート、ジエチレングリコールブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ジエテチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールメチルエーテルアセテート等が例示され、これらは単独で又は混合系として用いることもできる。これらのうち、重合性や粘度安定性の観点から、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートが好ましい。
【0045】
反応溶媒の使用量は、(A)成分と(B)成分との総重量(反応基質の総重量)に対して、通常100〜1000重量%、好ましくは130〜500重量%の範囲が推奨される。
【0046】
イミド化反応の反応温度は、(A)成分や(B)成分の種類、それらの仕込みモル比等にもよるが、通常100〜250℃、より好ましくは150〜220℃が推奨される。
【0047】
反応時間は、(A)成分や(B)成分の種類、それらの仕込みモル比等にもよるが、通常0.5〜24時間が好ましい。
【0048】
イミド化反応におけるイミド化率は100%であることが最も好ましい。しかし、工業的な観点から有効なイミド化率は、好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、特に90%以上が推奨される。
【0049】
その他に、本発明の効果を損なわない範囲において、耐熱性や接着性向上、分子量制御等を目的に、この分野で使用される公知の1官能の酸無水物やモノアミン等をエンドキャップ剤として併用することができる。該エンドキャップ剤の具体例としては、酸無水物では無水フタル酸、無水マレイン酸、無水ナジック酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸など、モノアミンではアニリン、メチルアニリン、アリルアミン等などが例示される。
【0050】
かくしてイミド化反応して得られるポリイミド共重合体の反応溶液は、本発明のポリイミド共重合体を含有するポリイミド樹脂溶液であり、本発明のポリイミドワニスとするができる。また、前記樹脂溶液から本ポリイミド共重合体を単離する場合、その樹脂溶液から反応溶媒を加熱操作及び/又は減圧操作にて除去する方法や樹脂溶液を貧溶剤に添加して再沈殿させる方法などが例示される。
【0051】
<ポリイミドワニス>
本発明のポリイミドワニスは、本発明のポリイミド共重合体と有機溶剤を含有するものである。該ポリイミド共重合体の含有量は、有機溶剤100重量部あたり、1〜120重量部であり、ワニスの粘度安定性(貯蔵安定性)及び取り扱いの容易さの観点から、好ましくは20〜90重量部、より好ましくは40〜80重量部の範囲が推奨される。
【0052】
ポリイミドワニスは、イミド化反応して得られる反応溶液を本発明のポリイミドワニスとして用いることができる。また、イミド化反応で用いられる反応溶媒を所望の有機溶剤に置換してポリイミドワニスとしたり、単離されたポリイミド共重合体を所望の有機溶剤に溶解してポリイミドワニスとしたりすることもできる。
【0053】
前記有機溶剤としては、上記反応溶媒の項目で例示された種類のものと同じものが例示される。
また、本ポリイミドワニスから塗膜やフィルム状などの形態のポリイミド成形体を得たい場合、乾燥工程における乾燥効率を向上させる目的で、低沸点の有機溶剤を併用することが好ましい。係る低沸点の有機溶剤としては、トルエン、キシレン、ソルベントナフサ等の芳香族炭化水素や、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、プロピレングリコールモノメチルエーテル、又はアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などが例示される。これらの低沸点の有機溶剤を使用する場合、その使用量は、全有機溶剤の重量に対して、1〜30重量%、好ましくは、5〜20重量%の範囲が推奨される。
【0054】
有機溶剤に非プロトン性極性溶剤を用いる場合、好ましくはN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3−ジメチルイミダゾリドン、ジグライム、トリグライム、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート、メチルエチレングリコールアセテート、ブチルプロピレングリコールアセテートが推奨される。これらは単独で又は混合系として用いることができる。
これらの中でも、ポリイミドワニスの粘度安定性や吸湿性の観点から、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、特にN−メチルピロリドン及びγ−ブチロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種とエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートとの組み合わせが推奨される。
【0055】
本発明のポリイミドワニスには、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてこの分野で慣用されている他の成分を添加することができる。例えば、ポリエステル樹脂、他のポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂などの高分子化合物、難燃剤、消泡剤、酸化防止剤などが例示される。
【0056】
前記酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系酸化防止剤などが例示され、この中でも、ポリイミド共重合体の耐熱性(長期加熱後の弾性率の保持率)の向上への寄与の観点から、フェノール酸化防止剤が好ましく、より好ましくは炭素数10〜80のフェノール系酸化防止剤が推奨される。
このようなフェノール系化合物の具体例としては、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,2’−ジヒドロキシ−3,3−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、2,2’−イソブチリデンビス(4,6−ジメチルフェノール)、2,6−ビス(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルベンジル)−4−メチルフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,5−ジ−t−アミルヒドロキノン、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノン、1,4−ジヒドロキシアントラキノン、3−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2,4−ジベンゾイルレゾルシノール、4−t−ブチルカカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−エチルフェノール、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,4,5−トリヒドロキシベンゾフェノン、α−トコフェロール、ビス[2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−t−ブチルベンジル)−4−メチル−6−t−ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが挙げられる。この中でも、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)、4,4−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−イソプロピリデンビスフェノール、2,4−ジメチル−6−t−ブチルフェノール、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,6−ジ−t−ブチルフェノール、ビス[2−(2−ヒドロキシ−5−メチル−3−t−ブチルベンジル)−4−メチル−6−t−ブチルフェニル]テレフタレート、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0057】
係る酸化防止剤は、1種で又は2種以上を混合して用いることができる。酸化防止剤を使用する場合、その添加量はポリイミド共重合体100重量部に対して、0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜2重量部の範囲が推奨される。
【0058】
かくして得られるポリイミドワニスは、貯蔵安定性に優れ、種々用途に使用される。
【0059】
<ポリイミド成形体>
本発明に係るポリイミド成形体は、上記項10〜12の何れかに記載のポリイミドワニスから公知の成形方法を用いて得られるものである。ポリイミド成形体の形態は、薄膜、塗膜、フィルム状、シート状などが例示され、その形態は所望の用途に応じて適宜選択される。
【0060】
前記の成形方法としては、特に制限はなく、この分野で使用される公知の方法が適用できる。例えば、薄膜・塗膜状のポリイミド成形体を得る工程としては、通常、(1)塗布工程;本発明のポリイミドワニスを被コーティング物(絶縁塗料、金属、プラスチック等)上に塗布又は流延する工程、(2)乾燥工程;ポリイミドワニスを乾燥する工程からなる。 また、フィルム状・シート状のポリイミド成形体を得る工程としては、通常、(1)塗布工程;本発明のポリイミドワニスを支持体上に塗布又は流延する工程(ここでは、支持体が基材である。)、(2)乾燥工程;支持体上に塗布したポリイミドワニスから有機溶剤を好ましくは10重量%以下まで乾燥する工程(ここでの乾燥の程度のも目安は、ポリイミド成形体が自立膜であるか否かである。)、(3)剥離工程;支持体からポリイミド成形体を剥離する工程、(4)乾燥工程;剥離したポリイミド成形体を乾燥する工程からなる。
さらに、本発明のポリイミド共重合体は、FPCやTABのベースフィルム、接着フィルム、電線の被覆材料などとしても用いることができる。
【0061】
以下にポリイミド成形体の物性について詳述するが、これは本発明のポリイミド共重合体の物性の説明でもある。
ポリイミド成形体(ポリイミド共重合体)の分子量は、特に制限がないが、溶剤可溶性、機械的物性(特に柔軟性)、熱的特性のバランスの観点から、数平均分子量として、好ましくは5,000〜100,000、より好ましくは8,000〜50,000、特に10,000〜35,000の範囲で、重量平均分子量として、好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは12,000〜100,000、特に20,000〜100,000、さらに好ましくは25,000〜80,000の範囲が推奨される。尚、分子量は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0062】
ポリイミド成形体(ポリイミド共重合体)のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは100℃以下であり、柔軟性及び耐熱性のバランスの観点から、30〜80℃の範囲がより好ましく、特に40〜70℃の範囲が推奨される。Tgが0℃より低い場合には、耐熱性に劣る傾向が認められ、Tgが100℃より高い場合には、柔軟性に劣る傾向が認められる。尚、Tgは、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0063】
ポリイミド成形体(ポリイミド共重合体)の弾性率は、柔軟性の観点から、好ましくは0.3〜2.5GPa、より好ましくは0.5〜1.5GPaの範囲が推奨される。
【0064】
ポリイミド成形体(ポリイミド共重合体)の吸水率は、1.5重量%以下が好ましく、1.2重量%以下が特に好ましい。吸水率が低いほど、耐白化性や寸法安定性に優れる傾向がある。尚、吸水率は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0065】
電気・電子部品等に用いられる多くの材料は、火災等に対する安全性を確保するために難燃性が求められる。係る観点から、ポリイミド成形体(ボリイミド共重合体)の消炎時間としては、70秒以内が好ましい。70秒以内の場合には、実質的に難燃性と判断される。なお、消炎時間は、後述の実施例の項に記載の方法で測定される値である。
【0066】
かくして得られるポリイミド成形体は、上記の優れた物性を有しているので、電気・電子分野などの多方面の分野で有用である。
【0067】
以下に実施例を示し、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。尚、実施例及び比較例における化合物の略号並びに各物性の評価方法は以下の通りである。
【0068】
1.化合物の略号
(A1)成分;
TMEG:1,2−エチレンビス(アンヒドロトリメリテート)(商品名「リカシッドTMEG−100」,新日本理化社製)
(A2)成分;
TDA:4−(2,5−ジオキソテトラヒドロフラン−3−イル)−1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン−1,2−ジカルボン酸二無水物(商品名「リカシッドTDA−100」,新日本理化社製)
(他のテトラカルボン酸二無水物);
BTDA:3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
PMDA:無水ピロメリット酸
(B1a)成分;
C10DA:デカメチレンジアミン
C12DA:ドデカメチレンジアミン
(B1b)成分;
TMHDA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンと2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンの混合物(商品名「トリメチレンヘキサメチレンジアミン」,東京化成工業社製)
(B2)成分;
XTJ−542:一般式(2)における、Xがテトラメチレン基、R〜Rがメチル基、h+i+jの合計が14であるポリオキシアルキレンジアミン(「ジェファーミン XTJ−542」,全アミン価109.8,ハンツマン社製)
D−400:一般式(2)における、Xが1,2−プロピレン基、R〜Rがメチル基、h+i+jの合計が5〜6であるポリオキシアルキレンジアミン(商品名「ジェファーミン D−400」,全アミン価246.9,ハンツマン社製)
(B3)成分;
エラスマー1000P:一般式(3)において、Xがテトラメチレン基、n=10〜20であるポリオキシアルキレンジアミン(商品名「エラスマー1000P」,全アミン価90.4,イハラケミカル工業社製)
なお、上記全アミン価とは試料1gを中和するのに要する塩酸に当量の水酸化カリウムのmg数で表わす(日本油化学協会制定の基準油脂分析試験法)。
(他のジアミン);
BAPP:2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン)
反応溶媒・有機溶剤;
NMP:N−メチル−2−ピロリドン
GBL:γ−ブチロラクトン
【0069】
2.評価方法
(1)溶剤可溶性の評価
溶剤可溶性は、イミド化反応終了後の反応系内の状態を目視で観察して評価する。その評価の基準は次のとおりである。該基準では、○が溶剤可溶性に優れる、×が溶剤可溶性に劣るとの評価になる。
○;析出物の発生も反応溶液のゲル化も全く認められなかった。
△;析出物の発生または反応溶液のゲル化が僅かに認められた。
×;析出物の発生または反応溶液のゲル化が明らかに認められた。
【0070】
(2)ポリイミドワニスの貯蔵安定性の評価
貯蔵安定性は、樹脂濃度40重量%のポリイミドワニスを25℃で静置にて貯蔵したポリイミドワニスの外観の変化を目視で観察し評価する。その評価の基準は、次のとおりである。該基準では、◎が貯蔵安定性に特に優れる、×が貯蔵安定性に劣るとの評価になる。○及び◎が実用的なレベルと評価される。
◎;評価開始後4ヶ月以上、析出物の発生及びワニスのゲル化が認められなかった。
○;評価開始後3ヶ月以上、析出物の発生及びワニスのゲル化が認められなかった。
△;評価開始後3ヶ月未満で析出物の発生またはワニスのゲル化が認められた。
×;評価開始後24時間以内に析出物の発生またはワニスのゲル化が認められた。
【0071】
(3)分子量測定
ポリイミド共重合体の反応溶液(ポリイミドワニス)約1gをジメチルホルムアミド約30mlで希釈して、分子量測定用の試料溶液を調製する。ゲルパーミエーションクロマトクラフィー(GPC)を用いて下記の測定条件でポリエチレンオキサイド換算の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)を求める。
[測定条件]
装置:島津製作所 RID−6A
カラム:ShodexGPC AD802−S、AD803−S、AD−804S及びAD805Sを直列に連結
カラム温度:40℃
溶離液:(10mmol/L−臭化リチウム+10mmol/L−リン酸)/ジメチルホルムアミド
流速:1.0mL/min
検出器:RI
【0072】
(4)柔軟性の評価
柔軟性は、ガラス転移温度(℃)を以て評価する。ガラス転移温度(Tg)が低いほど、柔軟性が高いとの評価になる。
具体的な操作としては、ポリイミドワニスをキャストしてポリイミド成形体を作成する。次に下記の測定条件で動的粘弾性測定装置を用いてその成形体のガラス転移温度(℃)を求める。ガラス転移温度は、損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)で表される損失正接tanδを測定し、得られるtanδのピークトップとする(図1参照)。
[測定条件]
装置:ユーピーエム社製 RHEOGEL−E4000
測定条件:引っ張りモード
波形:正弦波
振動数:10Hz
昇温速度:5℃/分
【0073】
(5)電気絶縁性の評価
電気絶縁性は、体積固有抵抗値(Ω・cm)を以て評価する。該抵抗値が高いほど、電気絶縁性が高いとの評価になる。
具体的な操作としては、ポリイミドワニスをテフロン(米国デュポン社の登録商標)のシート上に塗布して、120℃、1.5時間の条件で減圧乾燥して、厚み約50μmのフィルム状のポリイミド成形体を作成する。そのフィルムから15cmx15cmにカットして試験片を作成する。ADVANTEST社製の、振動容量型エレクトロメーターTR8401、絶縁抵抗測定用電源TR300C及び絶縁抵抗計TR43Cを使用し、印加電圧500V、25℃x60%RHの条件下で、その試験片の体積固有抵抗値を測定する。
【0074】
(6)吸水率測定
吸水率が1.5重量%以下の場合、吸水率が低いと判断され、実用的なレベルと評価される。
具体的な操作としては、ポリイミドワニスをテフロンのシート上に塗布して、120℃、1.5時間の条件で減圧乾燥して、厚み約50μmのフィルム状のポリイミド成形体を作成する。そのフィルムの重量をWとし、25℃で24時間蒸留水に浸漬した後表面の水滴を拭き取ったフィルムの重量をWとし、下記の算出式(1)に従って吸水率を算出する。
吸水率(重量%)=[(W−W)/W]×100 (1)
【0075】
(7)難燃性の評価
難燃性は、消炎時間(秒)を以て評価する。その評価の基準は次のとおりである。該基準では、○が難燃性がある、◎は難燃性に優れているとの評価となる。◎又は○が、実用的性があると判断する。
◎;消炎時間が70秒以内で、試料上方55mm以上が未燃焼のまま残ったもの。
○;消炎時間が70秒以内に消炎したもの。
×;消炎時間が70秒を超えたもの。
具体的な操作としては、ポリイミドワニスをテフロンのシート上に塗布して、120℃、1.5時間の条件で減圧乾燥して、厚み約50μmのフィルム状のポリイミド成形体を作成する。そのフィルムをISO6722(耐火炎伝播性試験)に準拠して消炎時間を測定する。
【0076】
(8)耐熱性の評価
耐熱性は、ポリイミド成形体の反りとカプトン(米国デュポン社の登録商標)から剥がれの状態を目視で観察し評価した。その評価の基準は次のとおりである。該基準では、◎が耐熱性に特に優れる、×が耐熱性に劣るとの評価になる。○及び◎が、実用的なレベルと評価される。
◎;ポリイミド成形体の反り及びカプトンからの剥がれが認められない。
○;ポリイミド成形体の反り及びカプトンからの剥がれが殆ど認めらない。
△;ポリイミド成形体の反り又はカプトンからの剥がれの何れかが僅かに認められる。
×;ポリイミド成形体の反り又はカプトンからの剥がれが認めらる。
具体的な操作としては、ポリイミドワニスをカプトン上に塗布して、120℃、1.5時間の条件で減圧乾燥して、塗膜状のポリイミド成形体を作成する。その成形体を150℃で100時間の試験条件で加熱試験する。
【0077】
(10)ポリイミドワニスの樹脂濃度
ポリイミドワニスの樹脂濃度(重量%)は、次の方法に従って求める。ポリイミドワニス10mgを精秤し(小数点以下第2位まで)、TG−DTA装置(セイコーインスツル社製 装置名;EXSTAR6000、TG−DTA6200)にセットし、下記の測定条件下で、350℃における重量を測定する。得られた測定値を用いて、下記の計算式(2)に従って算出する。
測定条件;昇温速度:5℃/分,流通窒素量:100ml/分,測定開始温度:30℃
(計算式)
ポリイミドワニスの樹脂濃度(重量%)=(W/W)×100 (2)
;350℃における測定サンプルの重量(g)
;測定開始前の測定サンプルの重量(g)
尚、イミド化終了時の反応溶液中のポリイミド樹脂の樹脂濃度も、同じ測定方法で求める。
【実施例】
【0078】
[実施例1]
窒素導入管、撹拌機、留出口、温度計を備えた500mlの四つ口フラスコに、反応溶媒としてNMP 116g、還流液としてキシレン 13g、(A)成分として、TMEG 20.9g(0.051mol)及びTDA 15.3g(0.051mol)、(B)成分として、C10DA 17.2g(0.100mol)を仕込み、窒素気流下で撹拌しながら、180℃まで昇温させた。生成水を系外に除去しながら、イミド化反応をその温度で5時間行ない、本発明のポリイミド共重合体の反応溶液(本発明のポリイミドワニス)を得た。その反応溶液の樹脂濃度は約40重量%であった。これをNMPで樹脂濃度40%に調整した。得られたポリイミドワニスを用いて、各物性の評価に用いる試験片、フィルム、塗膜等(ポリイミド成形体)を作成した。
【0079】
前記ポリイミドワニス或いはポリイミド成形体を用いて、ポリイミド共重合体の分子量、柔軟性(ガラス転移温度)、電気絶縁性(体積固有抵抗値)、吸水率、難燃性及び耐熱性並びにポリイミドワニスの貯蔵安定性を評価し、その結果を表1に示した。また、ポリイミド成形体の作成過程でボイドや膨れは目視では観察されなかった。
なお、得られたポリイミド共重合体の反応溶液の一部をメタノールに投じて再沈殿させた。再沈殿したポリマーを室温、減圧下にて乾燥し、その乾燥物の赤外線吸収スペクトル分析を行った。その結果、1715cm−1、1780cm−1にイミド環に由来するカルボニル基の特性吸収を確認した。以下の実施例2〜16でも同様にイミド環に由来するカルボニル基の特性吸収を確認した。
【0080】
[実施例2〜16]
反応基質の組成・種類・比率及び反応溶媒の種類を表1又は表2に記載のものにそれぞれ変更した他は、実施例1と同様に実施して、本発明のポリイミド共重合体の反応溶液(本発明のポリイミドワニス)を得た。得られたポリイミドワニスを用いて、各物性の評価に用いる試験片、フィルム、塗膜等(ポリイミド成形体)を作成した。
実施例2〜16で得られた反応溶液の樹脂濃度は何れも約40重量%であった。それぞれの反応溶媒と同じ種類・組成の有機溶剤で樹脂濃度40%に調整した(なお、実施例14及び実施例15では、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを用いて濃度調整した。)。
実施例2〜16で得られたポリイミド成形体の作成過程で、何れもボイドや膨れは目視で観察されなかった。
前記ポリイミドワニス或いはポリイミド成形体を用いて、ポリイミド共重合体の分子量、柔軟性(ガラス転移温度)、電気絶縁性(体積固有抵抗値)、吸水率、難燃性及び耐熱性並びにポリイミドワニスの貯蔵安定性を評価し、その結果をそれぞれ表1及び表2に示した。
【0081】
[比較例1〜5]
反応基質の組成・種類・比率及び反応溶媒の種類を表3に記載のものにそれぞれ変更した他は、実施例1と同様に実施した。しかし、何れの比較例でも、イミド化反応中にゲル化して、反応が困難となった。そのため、各物性の評価ができなかった。
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
【表3】

【0085】
表1に記載の実施例1〜5から、本発明に係る(A)成分と(B1)成分から得られるポリイミド共重合体は、溶剤可溶性であり、低吸水率、柔軟性及び難燃性に優れていることがわかる。また、(B)成分として、(B1)成分と(B2)成分とを併用して得られるポリイミド共重合体は、難燃性、吸水率、電気絶縁性等の諸物性を損ねることなく、柔軟性が向上している(例えば、実施例5と実施例6・実施例7との比較)。さらに、表2に記載の実施例10〜16から、本発明に係る(B1a)成分と(B1b)成分とを併用することより貯蔵安定性が向上し、低吸収率、柔軟性及び難燃性に優れたバランスも良いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、ポリイミド共重合体は、溶剤可溶性が高く、柔軟性と難燃性のバランスに優れ、吸水率が低く、実質的にシロキサン系のアウトガスを発生させないので、電気・電子分野における有用な材料として工業的な利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明に係るガラス転移温度Tg(℃)の測定方法を説明するための測定図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)成分:
一般式(1)
【化1】

[式中、Xは炭素数2〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、1,3−フェニレン基又は1,4−フェニレン基を表す。]
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(A1)と炭素数8〜30の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物(A2)とを含むテトラカルボン酸二無水物混合物と、
(B)成分:
(i)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)を含むジアミン、又は、
(ii)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)と
一般式(2)
【化2】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれメチル基又は水素原子を表す。Xは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。h、i及びjは、同一又は異なって、それぞれ0〜50の整数を表し、且つ、h+i+jの合計が2〜50の整数である。]
で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B2)及び
一般式(3)
【化3】

[式中、Xは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。kは1〜30の整数である。]
で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B3)からなる群より選ばれる少なくとも1種とを含むジアミンとを、
(A)成分と(B)成分とのモル比を(A):(B)=0.80〜1.20:1の範囲でイミド化反応に供して得られる溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項2】
(A)成分:
一般式(1)
【化4】

[式中、Xは炭素数2〜12の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基、1,3−フェニレン基又は1,4−フェニレン基を表す。]
で表されるエステル基含有テトラカルボン酸二無水物(A1)と炭素数8〜30の脂肪族又は脂環族テトラカルボン酸二無水物(A2)とを含むテトラカルボン酸二無水物混合物と、
(B)成分:
(i)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)を含むジアミン、又は、
(ii)炭素数2〜18の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1)と
一般式(2)
【化5】

[式中、R、R及びRは、同一又は異なって、それぞれメチル基又は水素原子を表す。Xは、炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基を表す。h、i及びjは、同一又は異なって、それぞれ0〜50の整数を表し、且つ、h+i+jの合計が2〜50の整数である。]
で表されるポリオキシアルキレンジアミン(B2)とを含むジアミンとを、
(A)成分と(B)成分とのモル比を(A):(B)=0.80〜1.20:1の範囲でイミド化反応に供して得られる、請求項1に記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項3】
(B1)成分が、炭素数2〜18の直鎖状のアルキレンジアミン(B1a)と炭素数2〜18の分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1b)とからなるアルキレンジアミンである、請求項1又は請求項2に記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項4】
(A2)成分が、炭素数10〜18の脂環族テトラカルボン酸二無水物である、請求項1〜3の何れかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項5】
(A1)成分が、一般式(1)におけるXがエチレン基であるエステル基含有酸無水物であり、
(A2)成分が、
一般式(4)
【化6】

[式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ水素原子又はメチル基を表す。]
で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物、
一般式(5)
【化7】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物、及び
一般式(6)
【化8】

[式中、Rは水素原子又はメチル基を表す。]
で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物からなる群より選ばれる少なくとも1種(A2a)であり、
(B1)成分が、炭素数2〜18の直鎖状のアルキレンジアミン(B1a)と炭素数2〜18の分岐鎖状のアルキレンジアミン(B1b)とからなるアルキレンジアミンであり、
(B2)成分が、一般式(2)におけて、Xが炭素数3又は4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、h+i+jの合計が3〜35の範囲であるポリオキシアルキレンジアミンである、請求項1〜4の何れかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項6】
(A2a)成分が、上記一般式(4)で表される脂環族テトラカルボン酸二無水物であり、
(B1b)成分が、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン及び2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項7】
ポリイミド共重合体の吸水率が1.5重量%以下である、請求項1〜6のいずれかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項8】
ポリイミド共重合体のガラス転移温度(ガラス転移温度は損失弾性率E’’と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)で表される損失正接tanδの極大値である。)が100℃以下である、請求項1〜7の何れかに記載のポリイミド共重合体。
【請求項9】
ポリイミド共重合体の消炎時間が70秒以内である、請求項1〜8のいずれかに記載の溶剤可溶性ポリイミド共重合体。
【請求項10】
請求項1〜9の何れかに記載のポリイミド共重合体及び有機溶剤を含有するポリイミドワニス。
【請求項11】
ポリイミド共重合体の含有量が、有機溶剤100重量部に対して1〜120重量部である、請求項10に記載のポリイミドワニス。
【請求項12】
有機溶剤が、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、メチルプロピレングリコールアセテート及びエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項10又は請求項11に記載のポリイミドワニス。

【図1】
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【公開番号】特開2008−231420(P2008−231420A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−42221(P2008−42221)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000191250)新日本理化株式会社 (90)
【Fターム(参考)】