説明

溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置、及びその分離回収方法

【課題】溶剤廃液に含まれる樹脂組成物、及び、当該樹脂組成物を凝集分離するために添加する凝集分離剤の双方を、溶剤廃液から分離回収することの可能な技術を提供する。
【解決手段】溶剤廃液に、樹脂組成物を凝集させる凝集分離剤を添加して、樹脂組成物を分離回収する樹脂組成物用分離回収装置6と、樹脂組成物用分離回収装置6と廃ガス処理装置4との間に設けられ、樹脂組成物用分離回収装置6が樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から凝集分離剤を分離回収する凝集分離剤用分離回収装置8とを備える。凝集分離剤用分離回収装置8は、樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から比重差を利用して凝集分離剤を分離させる比重差分離槽81と、比重差分離槽81によって溶剤廃液から分離した凝集分離剤を蒸留することにより、凝集分離剤を精製する蒸留装置82と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物、及び、当該樹脂組成物を凝集分離するために添加する凝集分離剤の双方を、溶剤廃液から分離回収する装置、及び、その分離回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤は、種々の用途、例えば、接着剤、粘着剤、塗料等を製造するための原材料として幅広く用いられている。これらの用途において、有機溶剤を使用する施設からは、揮発性有機化合物(以下、「VOC」または「VOCガス」と略称する場合がある。)を含有する廃ガスのみならず、有機溶剤を含有する廃液(以下、「溶剤廃液」という。)としても、揮発性有機化合物(VOC)が排出される。揮発性有機化合物(VOC)は、人体への影響が懸念される浮遊粒子状物質や光化学オキシダント等を生成する原因の一つである。揮発性有機化合物(VOC)の排出を抑制するため、工場等の施設からのVOCの排出及び飛散に関し、有機溶剤の排出量の総量規制や、自主的な有機溶剤の使用量を削減する対策などへの取り組みの促進等の施策が行われている。
【0003】
有機溶剤を使用して、各種の樹脂組成物、例えば、接着剤、粘着剤、塗料等を製造する工程がある。また、これらの各種の樹脂組成物を基材に塗布・乾燥させる工程がある。これらの工程において発生した、溶剤廃液に含まれるVOCの処理方法については、各種の方法を採用することができる。例えば、この溶剤廃液を、加熱蒸留によって揮発成分を蒸発させた後に、冷却によって液化させることによって精製した液体溶剤として回収し、再利用する方法がある。あるいは、溶剤廃液を加熱して蒸発するVOCガスを、直接的にVOC処理装置により燃焼させる方法や、他の燃焼性ガスと混合してVOC処理装置により燃焼させる方法等がある。
【0004】
これに関連して、例えば、特許文献1には、有機溶剤を使用する設備から排出される廃ガスに含まれるVOCを、燃料として廃ガス処理装置に供給して燃焼処理する、廃ガス及び溶剤廃液に含まれるVOCの燃焼方法が開示されている。より詳しくは、特許文献1には、廃ガス処理装置から燃焼処理によって生じる排気ガスを溶剤廃液に吹き込み、溶剤廃液に含まれるVOCを気化させることにより、溶剤廃液から気体のVOCを蒸発させることが開示されている。更に、特許文献1には、この蒸発させたVOCを、気体のまま廃ガス処理装置に供給して、燃焼処理する技術が開示されている。また、有機溶剤を含有する廃ガスや溶剤廃液を、処理する装置及び方法が、例えば、特許文献2〜5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−007973号公報
【特許文献2】特開2004−037038号公報
【特許文献3】特開2004−036492号公報
【特許文献4】特開2004−184003号公報
【特許文献5】特開2004−089884号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、資源の有効活用の観点からは、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を分離回収し
て、再生資源として有効活用することが望ましい。従来技術においては、溶剤廃液の処理時に、樹脂組成物を含有する溶剤廃液からVOCを気化させた後の残渣は、樹脂組成物及び水分を含む溶剤廃液としてそのまま焼却処分せざるを得ないため、溶剤廃液の処理費用が嵩むという問題があった。
【0007】
そこで、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を分離回収する方策として、樹脂組成物を凝集させるための凝集分離剤を、溶剤廃液に添加することが考えられる。しかし、この凝集分離剤が、VOCを燃焼処理するVOC処理装置に移送されてしまうと揮発してしまい、もはや回収して再利用することはできない。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであって、その目的は、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物、及び、当該樹脂組成物を凝集分離するために添加する凝集分離剤の双方を、溶剤廃液から分離回収することの可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の手段を採用する。すなわち、本発明に係る、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置は、有機溶剤を含有する溶剤廃液に含まれる揮発性有機化合物を燃焼処理するVOC処理装置の前段に設けられ、前記溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤を分離回収する装置であって、前記溶剤廃液に含まれる不揮発性の樹脂組成物を凝集させるために凝集分離剤を溶剤廃液に添加して、前記溶剤廃液から前記樹脂組成物を分離回収する樹脂組成物用分離回収装置と、前記樹脂組成物の分離回収装置が前記樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から、前記凝集分離剤を分離して回収する凝集分離剤用分離回収装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
ここで、VOC処理装置が燃焼処理する「溶剤廃液に含まれる揮発性有機化合物」とは、例えば、有機溶剤を使用する設備等から溶剤廃液が排出される時点で、その溶剤廃液に含まれる揮発性有機化合物であれば良く、燃焼処理される際に揮発性有機化合物が液体であるか気体であるかは、何れであってもよい。例えば、VOC処理装置は、溶剤廃液に含まれる揮発性有機化合物を気化させる廃液処理装置から、気体のVOCガスを燃料として供給される装置であってもよい。或いは、VOC処理装置は、溶剤廃液に含まれる液体の揮発性有機化合物を燃焼処理する装置であってもよい。
【0011】
上記構成によれば、VOC処理装置の前段に設けられた樹脂組成物用分離回収装置によって、溶剤廃液中に含まれる樹脂組成物を好適に分離回収することができる。なお、前記樹脂組成物用分離回収装置は、前記凝集分離剤が前記溶剤廃液に添加されることによって凝集した、溶剤廃液中の樹脂組成物を捕集するフィルタ部材を有してもよい。フィルタ部材の上には、凝集した状態の樹脂組成物が残渣として堆積するので、樹脂組成物の回収を容易に行うことができる。また、前記凝集分離剤が、アルコール水溶液、ポリエーテル、炭素数6以上のパラフィン系炭化水素、高分子電解質からなる化合物群の中から選ばれる1種または2種以上の化合物であるのが好ましい。
【0012】
溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を凝集させるために添加した凝集分離剤は、樹脂組成物用分離回収装置とVOC処理装置との間に配設する、凝集分離剤用分離回収装置によって回収される。これにより、溶剤廃液に添加した凝集分離剤を、再び有効活用することができ、繰り返し循環させることができる。
【0013】
また、前記凝集分離剤用分離回収装置が、前記樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から、比重差を利用して前記凝集分離剤を分離させる、比重差分離槽と、前記比重差分離槽によって前記溶剤廃液から分離した凝集分離剤を、蒸留することにより前記凝集分離剤を精製する、蒸留精製装置と、を有していてもよい。
【0014】
上記構成によれば、比重差分離槽において、先ず、樹脂組成物が除去された後の残余の溶剤廃液(以下、「樹脂組成物除去済み廃液」という。)と凝集分離剤とが、その比重差を利用して分離される。以下、凝集分離剤が除去された後の溶剤廃液を「凝集分離剤除去済み廃液」と称する。樹脂組成物除去済み廃液から分離回収した凝集分離剤は、蒸留精製装置において蒸留されることにより、凝集分離剤が精製される。この凝集分離剤用分離回収装置によれば、蒸留精製装置にて精製した凝集分離剤を、効率よく循環利用することができる。
【0015】
また、前記樹脂組成物用分離回収装置が、前記溶剤廃液が貯蔵される溶剤廃液貯槽と、前記溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を凝集させる凝集分離剤が貯蔵される凝集分離剤貯槽と、前記溶剤廃液貯槽からの前記溶剤廃液及び前記凝集分離剤貯槽からの凝集分離剤が供給される撹拌混合槽と、その撹拌混合槽の内部に設けられた撹拌手段によって溶剤廃液及び凝集分離剤を撹拌混合する混合部と、前記溶剤廃液と前記凝集分離剤とが撹拌混合されることにより凝集した溶剤廃液中の樹脂組成物を濾過する濾過手段と、前記濾過手段で濾過され、樹脂組成物が除去された溶剤廃液を貯蔵する溶剤廃液貯留容器と、を有していてもよい。
【0016】
また、前記VOC処理装置には、前記比重差分離槽において前記凝集分離剤から凝集分離剤を分離回収した、残余の溶剤廃液である凝集分離剤除去済み廃液に含まれる揮発性有機化合物を気化させる、廃液処理装置から、気体の揮発性有機化合が燃料として供給されてもよい。この場合、前記凝集分離剤用分離回収装置は、前記VOC処理装置における燃焼処理によって発生する温熱を回収する温熱回収手段と、前記廃液処理装置において、前記揮発性有機化合物が気化する際の気化熱によって液温が低下する溶剤廃液(凝集分離剤除去済み廃液)の冷熱を回収する冷熱回収手段と、を更に備えるとよい。この場合、前記蒸留精製装置は、前記温熱回収手段が回収した温熱、及び前記冷熱回収手段が回収した冷熱を利用して、前記凝集分離剤を蒸留するとよい。これによれば、蒸留精製装置における蒸留精製に必要な温熱源及び冷熱源として、VOC処理装置と廃液処理装置とから、夫々回収した温熱と冷熱とを利用することができる。これにより、ランニングコストの低減を図ることができる。
【0017】
また、本発明は、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収方法として捉えることができる。すなわち、本発明は、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤を分離回収する方法であって、少なくとも次の(1)〜(5)の工程を含むこと、を特徴とする溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収方法:(1)前記溶剤廃液に含まれる不揮発性の樹脂組成物を凝集させる凝集分離剤を前記溶剤廃液に添加して、前記樹脂組成物を凝集させる凝集工程、(2)前記溶剤廃液と、凝集した前記樹脂組成物とを分離する分離工程、(3)前記凝集した前記樹脂組成物を回収する回収工程、(4)前記凝集した樹脂組成物の回収工程において、前記樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から、比重差を利用して前記凝集分離剤を分離させる比重差分離工程、及び、(5)前記比重差分離工程によって分離された凝集分離剤を、前記溶剤廃液から回収する工程、を提供する。
【0018】
なお、本発明における課題を解決するための手段は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物、及び、当該樹脂組成物を凝集分離するために添加する凝集分離剤の双方を、溶剤廃液から分離回収することの可能な技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に関連したVOC処理装置の一例を示した、概略構成図である。
【図2】本発明に係わる樹脂組成物用分離回収装置の、概略構成図である。
【図3】本発明に係わる凝集分離剤用分離回収装置の、概略構成図である。
【図4】本発明に係わる凝集分離剤用分離回収装置の、詳細構成を説明するための部分拡大図である。
【図5】実施例1において、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の量(重量部)と、凝集した樹脂組成物を除去した後の、樹脂組成物の濃度との関係を表すグラフである。
【図6】実施例1において、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の量(重量部)と、樹脂組成物の回収率との関係を表すグラフである。
【図7】実施例2において、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の量(重量部)と、凝集した樹脂組成物を除去した後の、樹脂組成物の濃度との関係を表すグラフである。
【図8】実施例2において、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の量(重量部)と、樹脂組成物の回収率との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本発明に係る、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置、及び、その分離回収方法について説明する。以下では、樹脂組成物用分離回収装置、凝集分離剤用分離回収装置、及びVOC処理装置を備えるVOC処理システムを例に挙げて説明する。但し、記載されている構成部品の、寸法、材質、形状、その相対位置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、単なる例示に過ぎない。
【0022】
図1は、揮発性有機化合物(VOC)を燃焼処理する、VOC処理装置の概略構成図である。VOC処理装置1は、有機溶剤を使用する揮発性有機化合物(VOC)の発生設備(以下、単に「VOC発生設備」と略称する。)2から排出されるVOCガス、及び有機溶剤を含有する溶剤廃液に含まれるVOCガスを、燃焼処理する装置である。
【0023】
VOC処理装置1は、廃ガス処理装置4と、廃液処理装置5とを備える。廃ガス処理装置4は、VOCガスを燃焼処理する装置である。廃液処理装置5は、VOC発生設備2から排出される溶剤廃液に含まれるVOCを気化させ、燃料として廃ガス処理装置4に供給する装置である。廃ガス処理装置4としては、ボイラー、ガスタービン、蓄熱式脱臭装置(RTO)、レシプロエンジンなどが例示でき、VOCガスの供給を受けて、当該ガス中のVOCを燃焼処理することができる。
【0024】
廃ガス処理装置4により、VOCガスを燃焼処理させることで、VOCガスは、大気放出が許容される水や二酸化炭素に分解される。廃ガス処理装置4で処理されるVOCガスの種類は、可燃性のものであれば特に限定されないが、一般的な例としては、トルエン、キシレン、ノルマルヘキサンなどの炭化水素系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸メトキシブチルなどのエステル系溶剤、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶剤、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、エチレングリコールジメチルエーテルなどのアルコールエーテル系溶剤、などの各種有機溶剤の蒸気が挙げられる。
【0025】
VOC処理システムは、VOC処理装置1の他、VOC発生設備2から排出される溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を分離回収する、樹脂組成物用分離回収装置6、樹脂組成物除去済み廃液から凝集分離剤を分離回収する、凝集分離剤用分離回収装置8、VOC処理装置
1の全体の動作を制御する制御装置100等を備える。制御装置100は、プロセッサ、メモリ、キーボードやマウスなどの入力装置、ディスプレイ、可搬記録媒体駆動装置、インタフェースなどを備えた汎用コンピュータであってもよい。制御装置100には、後述する各種計測器、ファン、ポンプ等と電気配線を介して電気的に接続されており、計測器からの検出信号がインタフェースから入力され、ファンやポンプなどへの制御信号がインタフェースからこれらに出力される。
【0026】
VOC発生設備2と廃ガス処理装置4とは、VOCガスを移送する廃ガス移送管41によって接続されている。廃ガス処理装置4には、後述するように、溶剤廃液から回収されたVOCガスが、燃料として廃液処理装置5から供給される。したがって、廃ガス処理装置4は、VOC発生設備2から移送される廃ガスに含まれるVOCのみならず、廃液処理装置5から供給されるVOCも、燃焼処理することが可能である。
【0027】
廃液処理装置5は、溶剤廃液(後述するように、この溶剤廃液は、凝集分離剤除去済み廃液に相当する。)が貯留される溶剤廃液貯留容器51と、この溶剤廃液貯留容器51から供給される溶剤廃液に気体を吹き込むことで、その溶剤廃液に含まれるVOCを気化させるVOCの気化槽(以下、単に「気化槽」という。)52と、廃ガス処理装置4におけるVOCの燃焼処理によって生じる排気ガスの一部を、気化槽52に吹き込むために供給する排気ガス供給管53と、気化槽52内の溶剤廃液から分離される気体のVOCを、気体のまま廃ガス処理装置4に供給するVOCガス送出管54、などを備える。
【0028】
溶剤廃液貯留容器51と気化槽52は、溶剤廃液貯留容器51から気化槽52に溶剤廃液を移送する溶剤廃液移送管55によって接続されている。溶剤廃液移送管55にはポンプ56が設置されている。また、気化槽52には、貯留している溶剤廃液の液面の高さ(液位)を検出する、第1液位計57が設けられている。制御装置100は、第1液位計57の検出結果に基づいて、ポンプ56の動作を制御する。溶剤廃液の液位が、下側基準レベルB以下になった場合には、ポンプ56を作動させ、溶剤廃液が溶剤廃液貯留容器51から気化槽52に移送される。そして、気化槽52の液位が、第1液位計57の上側基準レベルAに達すると、ポンプ56を停止させることで、気化槽52に溶剤廃液が移送されなくなる。
【0029】
排気ガス供給管53の排気ガスの吹き出し口は、第1液位計57の下側基準レベルBよりも低い位置に設けられ、VOC処理装置1の稼働中は、常時、溶剤廃液の液面下となるように位置している。排気ガス供給管53には、例えば、廃ガス処理装置4からの排気ガスを、気化槽52内の溶剤廃液中に吹き込むための吹き出し口が、多数設けられている。これによって、溶剤廃液に溶存しているVOCの、ガス置換効率の向上を図ることができる。また、例えば、廃ガス処理装置4に供給されるVOCガスの、VOC濃度をモニタリングし、当該VOC濃度に応じて、排気ガス供給管53のバブリング風量を制御してもよい。
【0030】
廃ガス処理装置4で生じる排気ガスは、燃焼処理されているため、VOCを含まず、且つ、高温である。廃ガス処理装置4から排出された排気ガスを、排気ガス供給管53から溶剤廃液中に吹き込むと、当該排気ガスに含まれるVOCの分圧(VOCを含まないので実質的に0に相当する)と排気ガスの温度におけるVOCの飽和蒸気圧との差により、溶剤廃液中のVOCが排気ガスの泡中に気化する。したがって、排気ガスの温度が高いほど、VOCの気化が効率よく行われる。但し、排気ガスの温度を著しく高温とする必要はなく、溶剤廃液中に含まれるVOCの沸点より低い温度でも十分である。
【0031】
気化槽52には、VOCガス送出管54の一端が接続されている。気化したVOCが、排気ガスとともに気化槽52から、VOCガス送出管54を通じて外部に送出される。V
OCガス送出管54の他端側は、廃ガス移送管41に合流している。VOCガス送出管54の途中には、ファン59が設置されている。このファン59を作動させることで、VOCが気化槽52から吸引される。排気ガス供給管53に供給されるガスに、廃ガス処理装置4から排出される排気ガスを100%使用する必要はなく、例えば、供給される排気ガスの温度を下げるために、他の気体(例えば、空気)を混入してもよい。混入される気体は任意に選定できる。
【0032】
例えば、図1に示すVOC処理装置1では、バイパス管45が廃ガス移送管41から分岐しており、バイパス管45の先端側が気化槽52に接続されている。バイパス管45の途中には、ファン46が設置されている。このファン46を作動させることで、VOC発生設備2からの廃ガスの少なくとも一部を、気化槽52に導入することができる。このように、気化槽52に、VOC発生設備2からの廃ガスを導入することで、気化槽52からの溶剤廃液に含まれるVOCの、送出を補助することができる。
【0033】
VOCガス送出管54が、廃ガス移送管41に合流する出口より下流側(廃ガス処理装置4側)には、排気ガス移送管41を流れるVOCガス中の、VOC濃度を測定する、ガス濃度計42が設けられている。制御装置100は、このガス濃度計42の検出値に基づいて、廃ガス処理装置4に供給されるVOCの、総量をモニタリングする。
【0034】
排気ガス供給管53には、廃ガス処理装置4から排気ガスを、気化槽52に向けて送出する、ファン43が設置されている。このファン43は、ガス濃度計42の検出値に基づいて制御される。制御装置100は、ガス濃度計42によって検出されたVOC濃度が、設定された濃度より低下したことを検知すると、排気ガス供給管53に設置したファン43を作動させて、廃ガス処理装置4から気化槽52に、排気ガスを供給させる。これにより、気化槽52への当該排気ガスの供給量を増加させて、VOCの気化を促進させる。一方、制御装置100は、ガス濃度計42によって検出されたVOC濃度が、設定された濃度より上昇したことを検知すると、排気ガス供給管53への排気ガスの供給を停止させ、あるいは、排気ガスの供給量を減少させてVOCの気化を抑制する。
【0035】
有機溶剤を使用するVOC発生設備2(例えば、包装材のラミネート加工機など)では、接着剤や粘着剤(以下、接着剤等という)の希釈溶媒として多くの有機溶剤が使用されており、また、製造設備の汚れを洗浄する用途で、有機溶剤が使用されることが多い。この接着剤等を用いて行われる各種製品の製造工程においては、原材料の製造ロット毎の余剰分や、使用期限を越えた見切り品などが、溶剤廃液として廃棄処分される。この廃棄処分される溶剤廃液に含まれる樹脂組成物としては、例えば、エーテル系、エステル系、ウレタン系、アクリル系、エポキシ系等の樹脂モノマーを用いて重合させたポリマー、それらの樹脂モノマーと官能基を有する樹脂モノマーとを用いて共重合させた共重合体などが例示できる。ラミネート用接着剤の製品名を例示すると、エステル系やエーテル系のラインナップのあるディックドライ(DICグラフィックス株式会社製)等を挙げることができる。
【0036】
このように、有機溶剤を用いるVOC発生設備2から排出されたVOCガスは、廃ガス移送管41を通じて廃ガス処理装置4に送られ、排気ガス中に含まれるVOCが燃焼処理される。更に、VOC発生設備2から排出された溶剤廃液は、後述する樹脂組成物用分離回収装置6において、樹脂組成物が除去された後に、廃液処理装置5の溶剤廃液貯留容器51に送られ、一時的に貯留される。
【0037】
そして、溶剤廃液貯留容器51から気化槽52に送られた溶剤廃液中に、廃ガス処理装置4におけるVOCの燃焼処理によって発生した排気ガスを排気ガス供給管53から吹き込むことにより、溶剤廃液中のVOCが気化する。このようにして、溶剤廃液から分離し
たVOCは、VOCガス送出管54、廃ガス移送管41を経由して、気体の状態で廃ガス処理装置4へと供給される。そして、廃ガス処理装置4では、気体の状態で供給されたVOCを燃料として燃焼処理が行われる。以上述べたように、VOC発生設備2で発生するVOCは、廃ガス処理装置4による燃焼処理を経て、水や二酸化炭素などに分解され、無害化される。
【0038】
ところで、有機溶剤を使用するVOC発生設備2から排出される溶剤廃液の多くには、樹脂ポリマーなどからなる樹脂組成物が含まれており、資源の有効活用の観点からは、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を、再資源化することが望ましい。また、樹脂組成物は、不揮発性を呈するため、気化槽52において、気化せずに残留する。その結果、樹脂組成物が、スラリー化するなどして気化槽52の内部に沈殿、堆積してしまい、気化槽52が汚れる要因となる。また、気化槽52に供給される溶剤廃液に、樹脂組成物が多く含まれると、VOCガスの発生効率が悪化する要因ともなり得る。そこで、VOC処理装置1においては、廃液処理装置5の前段に、樹脂組成物用分離回収装置6を配置して、予め溶剤廃液から樹脂組成物を除去してから、廃液処理装置5に移送するようにした。
【0039】
図2は、樹脂組成物用分離回収装置6の、概略構成図である。図3は、凝集分離剤用分離回収装置8の、概略構成図である。樹脂組成物用分離回収装置6は、廃液処理装置5の前段に設けられ、VOC発生設備2から排出された溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を回収する装置である。樹脂組成物用分離回収装置6は、溶剤廃液貯槽61、凝集分離剤貯槽62、撹拌混合槽63、濾過槽64、及び、各槽を接続する接続配管などを備える。
【0040】
溶剤廃液貯槽61には、VOC発生設備2から排出された、未処理の溶剤廃液が貯留される。また、凝集分離剤貯槽62には、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を凝集させる、凝集分離剤が貯留されている。溶剤廃液貯槽61及び凝集分離剤貯槽62は、夫々、接続配管65、66を介して、撹拌混合槽63に接続されている。
【0041】
撹拌混合槽63の内部には、図示しない駆動モータによって回転駆動される、撹拌翼を備えた撹拌器67が設けられている。撹拌混合槽63の底部には、撹拌混合槽63から濾過槽64に溶剤廃液を移送するための、接続配管68が接続されている。濾過槽64の内部には、凝集した樹脂組成物を捕集するためのフィルタ部材69が設置されており、このフィルタ部材69によって濾過槽64の内部が二つの領域に分割されている。濾過槽64における内部空間のうち、フィルタ部材69より上部を未濾過領域64aと称し、下部を濾過後領域64bと称する。また、濾過槽64の上蓋64cは、開閉式になっている。尚、フィルタ部材69の詳細については、後述する。濾過槽64における濾過後領域64bと、後述する凝集分離剤用分離回収装置8の比重差分離槽81は、濾過槽64から溶剤廃液を比重差分離槽81に移送するための、接続配管70によって接続されている。
【0042】
接続配管65、66、68、70の途中には、夫々ポンプ71〜74が設置されている。これら各ポンプ71〜74、及び撹拌器67の駆動モータは、制御装置100(図2では図示せず)と電気配線を介して接続され、制御装置100からの制御信号に基づいて、その動作が制御される。溶剤廃液貯留容器51には、その内部に貯留されている溶剤廃液の液位を検出する第2液位計75が設けられており、制御装置100は、随時その検出結果を取得することで、溶剤廃液貯留容器51における溶剤廃液の液位を監視することができる。
【0043】
凝集分離剤貯槽62には、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を凝集させる凝集分離剤として、例えば、極性溶剤であるメタノールと水の混合溶液であるメタノール水溶液が貯留されている。以下、説明の便宜上、凝集分離剤としてメタノール水溶液を用いた場合の説明を行なう。なお、凝集分離剤としては、メタノール水溶液以外の各種アルコール水溶液、
ポリエーテル、炭素原子数6以上のパラフィン系炭化水素、高分子電解質の化合物群から選ばれる化合物、あるいは2種以上の化合物の混合物を採用してもよい。
【0044】
制御装置100は、溶剤廃液貯留容器51における溶剤廃液の液位が、下側基準レベルC以下になった場合には、ポンプ71及びポンプ72を起動させる。その結果、接続配管65を通じて溶剤廃液貯槽61からの溶剤廃液と、接続配管66を通じて凝集分離剤貯槽62から移送されるメタノール水溶液とが、夫々撹拌混合槽63に供給され、混合される。なお、溶剤廃液貯槽61には、例えば、VOC発生設備2から排出されたままの未処理の溶剤廃液が貯留される。溶剤廃液貯槽61には、例えば、図示しない配管を設けることにより、VOC発生設備2から、溶剤廃液を随時移送するようにしてもよい。
【0045】
なお、接続配管65及び接続配管66は、途中で合流していてもよく、その場合には、メタノール水溶液の添加された溶剤廃液が撹拌混合槽63に供給される。また、溶剤廃液とメタノール水溶液の撹拌混合槽63への供給に際して、溶剤廃液に対するメタノール水溶液の重量比率は予め設定されており、ポンプ71及びポンプ72の夫々の作動時間を、制御装置100によって制御することによって、設定された重量比率で両方の液体が計量混合される。
【0046】
撹拌混合槽63では、駆動モータによって撹拌器67の撹拌翼が回転駆動されることで、撹拌混合槽63内における溶剤廃液とメタノール水溶液が撹拌混合される。ここで、メタノールは親水性を呈する一方、溶剤廃液中の樹脂組成物は親油性を呈する。このような親油性の樹脂組成物が溶存する溶剤廃液中に親水性を呈する、例えば、メタノール水溶液が撹拌混合されると、溶剤廃液中における樹脂組成物が溶け切れなくなり、凝集する。
【0047】
樹脂組成物が凝集された溶剤廃液は、制御装置100がポンプ73を作動させることによって、撹拌混合槽63の底部から接続配管68へと送出され、濾過槽64へと移送される。
【0048】
樹脂組成物が凝集状態にある、溶剤廃液と凝集分離剤との混合廃液は、接続配管68を通じて濾過槽64の未濾過領域64aに移送される。そして、未濾過領域64aに流入した溶剤廃液と凝集分離剤との混合廃液は、フィルタ部材69を通過する際にその樹脂組成物が濾し取られる(取り除かれる)。このフィルタ部材69は、例えば、膜分離用のフィルタであり、溶剤廃液中で凝集した樹脂組成物を濾し取ることができるように、その開口している最適な孔径が選定される。
【0049】
濾過槽64に流入した溶剤廃液中の、凝集してゲル状態の固まりとなった樹脂組成物は、フィルタ部材69を通過する際に、捕集される。その結果、フィルタ部材69上に、残渣として堆積し、残留する。また、制御装置100が、ポンプ74を作動させることによって、樹脂組成物が取り除かれた後の、残余の溶剤廃液が濾過槽64の底部から接続配管70へと送出される。接続配管70に送出された溶剤廃液は、後段の凝集分離剤用分離回収装置8へと移送される。
【0050】
上記構成の樹脂組成物用分離回収装置6によれば、VOC発生設備2から排出された溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を、濾過槽64におけるフィルタ部材69にて捕集することができる。そして、例えば、濾過槽64の内部に溶剤廃液が貯留されていない状態で、上蓋64cを開けることにより、フィルタ部材69上に残渣として堆積した樹脂組成物を容易に回収できる。そして回収した樹脂組成物は、例えば、再資源として活用することができる。例えば、回収した樹脂組成物を、接着剤の原料として再利用してもよいし、固形燃料として利用してもよく、資源の有効活用に資することが可能である。
【0051】
また、図2の樹脂組成物用分離回収装置6によれば、図1に示した廃液処理装置5の気化槽52によって加熱される前に、溶剤廃液から樹脂組成物を回収することができる。そのため、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物が気化槽52の内面に付着して凝固するなどの不都合が起こることもない。その結果、気化槽52の内面が、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物の凝固物によって汚れ、あるいは、VOCガスの発生効率が低下することを、抑制できる。
【0052】
本実施形態においては、溶剤廃液に対して添加する凝集分離剤(ここでは、メタノール水溶液)の重量百分率が、予め定められた範囲で調整されている。溶剤廃液に対して添加する凝集分離剤の重量百分率を、例えば、ポンプ71及びポンプ72の作動時間などを制御装置100により調整することによって、所定の目標値に調整することが可能である。
【0053】
また、凝集分離剤貯槽62に貯留されている、メタノール水溶液のメタノール濃度は、予め定められた濃度となるように調整されている。樹脂組成物の分離回収率(樹脂組成物の凝集率及び分離した樹脂組成物の硬化状態)を高める観点からは、例えば、メタノール水溶液におけるメタノール濃度が50%である場合、メタノール水溶液を、溶剤廃液100重量部に対して、50重量部以上とすることが好ましい。また、75重量部以上とすることがより好ましく、略100重量部とすることが最も好ましい。但し、溶剤廃液に対してメタノール水溶液をあまり過剰に加えると、凝集分離剤が無駄になり、凝集分離剤用分離回収装置8を用いた凝集分離剤を回収する手間が増える。なお、溶剤廃液に対して添加する凝集分離剤の最適な重量百分率は、メタノール水溶液におけるメタノール濃度によって変化するため、上記重量百分率の目標値は、メタノール水溶液におけるメタノール濃度に応じて定めるようにしてもよい。
【0054】
ここで、溶剤廃液に添加する凝集分離剤の添加量を増やしていくと、凝集率が上がると同時に、凝集して得られる樹脂組成物の硬化度合いも高まる。フィルタ部材69で濾過した際に、残渣としてフィルタ部材69上に残存させるには、凝集後の樹脂組成物に、ある程度の硬さが必要となる。溶剤廃液に対して添加する凝集分離剤の添加量は、溶剤廃液から分離して得られる樹脂組成物の硬化状態を良好に維持する観点から定めると好適である。例えば、メタノール濃度が40%のメタノール水溶液では、溶剤廃液100重量部に対してメタノール水溶液を少なくとも60重量部以上とすることが好ましい。また、メタノール濃度が30%のメタノール水溶液では、溶剤廃液100重量部に対してメタノール水溶液を少なくとも140重量部以上とすることが好ましい。
【0055】
次に、図3及び図4を参照して、凝集分離剤用分離回収装置8の、詳細構成について説明する。凝集分離剤用分離回収装置8は、比重差分離槽81、蒸留装置82等を主な構成として備える。比重差分離槽81は、接続配管70を介して、樹脂組成物用分離回収装置6によって樹脂組成物が除去された後の、残余の樹脂組成物除去済み廃液が移送される。樹脂組成物除去済み廃液には、樹脂組成物用分離回収装置6により凝集分離剤として添加された、メタノール水溶液(凝集分離剤)が含まれている。
【0056】
比重差分離槽81は、その底部に接続配管70との接続口が設けられており、底部から樹脂組成物除去済み廃液が、濾過槽64から供給される。比重差分離槽81は、樹脂組成物用分離回収装置6側から供給される樹脂組成物除去済み廃液を、比重差分離するための貯留槽である。比重差分離槽81に底部から供給された、樹脂組成物除去済み廃液は、比重の大きいメタノール水溶液と比重の小さな溶剤廃液とが、その比重差によって分離する。ここで、比重差分離槽81において、メタノール水溶液と比重差の違いによって分離した溶剤廃液を、「凝集分離剤除去済み廃液」と称する。比重差分離槽81内における上部(上方)領域には、主として凝集分離剤除去済み廃液が存在する溶剤廃液層81aが形成される。また、比重差分離槽81内における下部(下方)領域には、主としてメタノール
水溶液が存在する、凝集分離剤層81bが形成される。
【0057】
比重差分離槽81の溶剤廃液層81aには、接続配管76の一端が接続され、この接続配管76の他端は、溶剤廃液貯留容器51に接続されている。図3に示す例では、溶剤廃液層81aの最上部に、接続配管76が接続されている。比重差分離槽81においてメタノール水溶液と比重差分離した凝集分離剤除去済み廃液のうち、比重差分離槽81を溢れ出た(オーバーフローした)凝集分離剤除去済み廃液は、接続配管76を通じて溶剤廃液貯留容器51へと移送される。
【0058】
比重差分離槽81の、凝集分離剤層81bにおけるメタノール水溶液は、比重差分離槽81にそのまま静置しておくと、いずれはメタノール成分が、溶剤廃液層81a側に溶出してしまい、接続配管76から送出される虞がある。そこで、凝集分離剤用分離回収装置8では、比重差分離槽81で樹脂組成物除去済み廃液と、比重差を利用して分離させたメタノール水溶液を、蒸留装置82によって蒸留することによりメタノールを分離する。そして、メタノール濃度を低減させたメタノール水溶液を比重差分離層81の溶剤廃液層81aに戻すことにより、メタノール成分の溶剤廃液槽81aへの溶出を低減させる。以下、蒸留装置82の詳細について説明する。
【0059】
蒸留装置82は、蒸発槽83、メタノール貯留槽84、連通管85、メタノール水溶液供給管86、リターン管87等を備える。図4は、蒸留装置82及びその周辺装置の、詳細構成を説明するための、部分拡大図である。蒸発槽83には、比重差分離槽81からメタノール水溶液供給管86を通じて、比重分離された使用済みの凝集分離剤である、メタノール水溶液が供給される。メタノール水溶液供給管86は、比重差分離槽81の凝集分離剤層81bと蒸発槽83の上蓋部を接続している。メタノール水溶液供給管86の途中には、ポンプ88が設けられている。制御装置100からの指令に基づいてポンプ88が作動すると、比重差分離槽81の凝集分離剤層81bにおけるメタノール水溶液が、メタノール水溶液供給管86を通じて蒸発槽83に移送される。
【0060】
蒸発槽83には、その内部に貯留されているメタノール水溶液を、加熱するための加熱器89が設けられている。加熱器89は、温熱回収装置90によって供給される熱媒を流すための流路を有し、その流路を流れる熱媒と蒸発槽83におけるメタノール水溶液との間で、熱交換を行う。
【0061】
温熱回収装置90は、温熱回収部91及び熱媒用移送管92を含んで構成されている(図1参照)。温熱回収部91は、廃ガス処理装置4に設けられ、熱媒を介して、VOCガスの燃焼処理によって生成された温熱を回収する、熱交換器である。この実施形態では、上記熱媒として水を採用しているため、以下では「熱媒水」と称することとするが、他種の流体を採用しても構わない。
【0062】
温熱回収部91の内部には、熱媒水を流すための流路が形成されており、温熱回収部91の流路と加熱器89の流路とが、熱媒用移送管92によって接続されている。熱媒用移送管92には、ポンプ(図示省略)が設けられており、このポンプが作動することで、熱媒水が熱媒用移送管92を循環する。熱媒用移送管92に設置したポンプは、装置稼働中において常に作動させるようにしてもよい。
【0063】
廃ガス処理装置4における、VOCガスの燃焼処理によって生成された温熱の一部は、温熱回収部91の流路を流れる熱媒水を加熱するために利用される。加熱された熱媒水は、熱媒用移送管92を通じて加熱器89に供給される。
【0064】
熱媒用移送管92を通じて加熱器89に供給される、熱媒水の温度は、例えば、70〜
80℃程度である。加熱器89に加熱された熱媒水が供給されると、蒸発槽83内のメタノール水溶液が加熱される。その際、メタノール水溶液を組成する、水とメタノールとは共沸を起こし難く、メタノールのみが蒸発することで気相となり、水は液相のままで維持される。
【0065】
図4に示したように、蒸発槽83の底部には、三方弁93が設けられている。三方弁93には、蒸発槽83のほか、図3に示したリターン管87及び分離剤回収管94が接続されている。三方弁93は、リターン管87と分離剤回収管94の何れか一方を、蒸発槽83と連通させ、他方を蒸発槽83と遮断させる。リターン管87は、蒸発槽83から取り出したメタノール水溶液を比重差分離槽81の凝集分離剤層81bに戻すための配管である。リターン管87の途中にはポンプ95が設けられている。三方弁93によってリターン管87を、蒸発槽83と連通させて且つポンプ95を作動させることができる。これにより、メタノールが蒸発によって分離された溶液、すなわち比重差分離槽81に比べてメタノール濃度の低いメタノール水溶液が蒸発槽83から比重差分離槽81の凝集分離剤層81bへと移送される。
【0066】
VOC処理装置1では、上記のように、比重差分離槽81による比重差分離によって得られたメタノール水溶液を、蒸発槽83においてそのメタノール濃度を低下させてから、順次、比重差分離槽81の凝集分離剤層81bへと戻すようにしている。これにより、凝集分離剤層81bにおける、メタノール水溶液のメタノール濃度を低く維持することができる。よって、比重差分離槽81における溶剤廃液層81a及び凝集分離剤層81bの界面において、メタノールが溶剤廃液中に溶け出しにくくなる。したがって、接続配管76を通じて、後段の廃ガス処理装置4や廃液処理装置5に、メタノールが移送され、揮発してしまうことを抑制できる。
【0067】
一方、蒸発槽83において蒸発したメタノールは、蒸発槽83の上部から連通管85へと流入する。連通管85には、凝縮器(冷却器)96が設けられている。凝縮器96は、冷熱回収装置97によって供給される冷媒を流すための流路を有し、その流路を流れる冷媒により、気体のメタノールを凝集させる。
【0068】
冷熱回収装置97は、冷熱回収部98及び冷媒用移送管99を含んで構成されている(図1参照)。冷熱回収部98は、廃液処理装置5の気化槽52の外面を覆って設けられ、冷媒を介して気化槽52における凝集分離剤除去済み廃液の冷熱を回収する熱交換器である。この実施形態では、上記冷媒として水を採用しているため、以下では「冷媒水」と称することとするが、他種の流体を採用しても構わない。例えば、水道水に、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの凍結防止剤、腐食防止剤などを添加し、凝固点温度を0℃〜−30℃となるように調整すると共に金属配管の腐食を防止できるようにした、一般に市販されている冷媒(ブラインとも呼ばれる)を使用してもよい。
【0069】
冷熱回収部98の内部には、冷媒水を流すための流路が形成されている。なお、この構成例では、冷熱回収部98を、気化槽52の外面側に設置しているが、気化槽52における溶剤廃液の冷熱を回収できる態様であれば、例えば、気化槽52の内部に設置しても構わない。
【0070】
冷熱回収部98の流路と凝縮器96の流路とは、冷媒用移送管99によって接続されている。冷媒用移送管99には、ポンプ(図示省略)が設けられており、このポンプが作動することにより、冷媒水が冷媒用移送管99を循環する。冷媒用移送管99に設置したポンプは、VOC処理装置1の稼働中において、常に作動させるようにしてもよい。
【0071】
廃液処理装置5における気化槽52では、排気ガス供給管53の吹き出し口からのガス
が、凝集分離剤除去済み廃液中に吹き込まれることで、凝集分離剤除去済み廃液中のVOCが気化する。そして、凝集分離剤除去済み廃液中のVOCが気化する際に、その気化熱によって凝集分離剤除去済み廃液の熱を奪う。その結果、気化槽52における、凝集分離剤除去済み廃液の液温が低下する。冷熱回収装置97の冷熱回収部98は、冷熱回収部98の流路を流れる冷媒水と凝集分離剤除去済み廃液との間で、熱交換を行うことによって、冷熱を回収する。
【0072】
以上のように、気化槽52に設けられた冷熱回収部98において冷却された冷媒水は、冷媒用移送管99を通じて凝縮器96に供給される。蒸発槽83から連通管85へと導かれた気体のメタノールは、連通管85の外周面を覆うように設けられる凝縮器96の通路を流れる低温の冷媒水によって冷却される。その結果、連通管85において、気体のメタノールが凝縮する。連通管85において凝縮したメタノールは、連通管85と連通するメタノール貯留槽84へと滴下し、メタノール貯留槽84にメタノール液が貯留される。
【0073】
メタノール貯留槽84の底部、及び分離剤回収管94は、精製されたメタノール液を取り出すための、メタノール取り出し管101によって接続されている。メタノール取り出し管101の途中には、遮断弁102が設けられている。この遮断弁102が閉弁しているときに、メタノール貯留槽84と分離剤回収管94が遮断される。更に、分離剤回収管94は、その一端側が、廃液処理装置5における気化槽52の底部に接続されており、分離剤回収管94における気化槽52との接続部近傍には、遮断弁103が設けられている。また、分離剤回収管94の他端側は、凝集分離剤貯槽62に接続されており、分離剤回収管94の途中にポンプ104が設けられている。
【0074】
本実施形態において、凝集分離剤貯槽62に貯留されている、メタノール水溶液のメタノール濃度は、予め定められた濃度(以下、「設定基準濃度」という。)となるように調整されている。樹脂組成物の分離回収率を高める観点、及び可燃物であるメタノールを安全に取扱うために、メタノール水溶液におけるメタノール濃度は、20重量%以上から90重量%以下の範囲であることが好ましい。また、30重量%以上から80重量%以下の範囲であることがより好ましく、略50重量%であることが最も好ましい。
【0075】
メタノール貯留槽84に貯留されているメタノール液は、凝集分離剤貯槽62におけるメタノール水溶液が、上記の設定基準濃度となるように、分離剤回収管94を通じて凝集分離剤貯槽62へと供給される。その際には、例えば三方弁93に、リターン管87及び蒸発槽83を連通させ、遮断弁103を閉弁状態、遮断弁102を開弁状態となるよう各バルブを制御する。この状態でポンプ104を作動させることで、メタノール貯留槽84に貯留されているメタノール液が、分離剤回収管94を介して凝集分離剤貯槽62に移送される。
【0076】
その際、凝集分離剤貯槽62に、メタノール液を補充するに留まると、凝集分離剤貯槽62におけるメタノール濃度が、設定基準濃度に比べて過度に高くなる虞がある。そこで、ここでは図示しない水供給ラインから、適量の水を凝集分離剤貯槽62へと補充することによって、凝集分離剤貯槽62における上記メタノール濃度が、設定基準濃度から大きく乖離しないように調整するとよい。また、凝集分離剤貯槽62に貯留されているメタノール水溶液において、水よりもメタノールの方が散逸しやすい。そのため、例えば、凝集分離剤貯槽62にメタノール濃度センサ(図示省略)を設置し、メタノール濃度センサの検出結果に応じて、メタノール及び水の供給量を調整してもよい。
【0077】
また、上述した不図示の水供給ラインから水を別途供給することに代えて、三方弁93に、蒸発槽83及び分離剤回収管94を連通させてもよい。蒸発槽83内のメタノール水溶液を、分離剤回収管94を通じて凝集分離剤貯槽62に供給してもよい。蒸発槽83か
らのメタノール水溶液の供給量と、メタノール貯留槽84からのメタノール液の供給量を調整することで、凝集分離剤貯槽62内のメタノール水溶液のメタノール濃度が、設定基準濃度から大きく外れることを回避できる。
【0078】
以上のように、凝集分離剤用分離回収装置8によれば、樹脂組成物用分離回収装置6により溶剤廃液に添加されたメタノール水溶液を、廃ガス処理装置4での燃焼処理に供される前に、回収することができる。しかも、凝集分離剤用分離回収装置8に配設されている蒸留装置82によって、回収したメタノール水溶液を精製することができ、凝集分離剤として、再利用することができる。よって、VOC処理装置1のランニングコストを、低減できるという効果を奏する。
【0079】
また、蒸留装置82において、使用済みの凝集分離剤の蒸留を行うために必要な、温熱エネルギー及び冷熱エネルギーは、廃ガス処理装置4の廃熱や、本来的には廃棄されていた、廃液処理装置5の廃熱(廃ガス処理装置4においては温熱、廃液処理装置5においては冷熱)を利用するようにした。そのため、省エネルギー化の観点からも優れており、VOC処理装置1のランニングコストの低減に寄与する。
【0080】
次に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<実施例1>
実施例1では、VOC成分として酢酸エチルを、不揮発性の樹脂組成物からなる固形分としてエーテル系接着剤を含む溶剤廃液を、準備した。溶剤廃液中の樹脂組成物(固形分)濃度は、26.4重量%である。そして、溶剤廃液に凝集分離剤として、メタノール濃度が100重量%のメタノール水溶液を添加した。その後に、撹拌混合処理を行い、凝集した樹脂組成物を、濾過して分離除去する試験を行った。その際、溶剤廃液の100重量部に対して添加するメタノール水溶液の重量部を変化させた場合の、樹脂組成物回収率を測定した。その試験結果を、表1−1、表1−2、図5、及び図6に示す。
【0081】
【表1−1】

【0082】
【表1−2】

【0083】
表1−1、表1−2に示すように、溶剤廃液の重量を一定の100gとし、この溶剤廃液に対して添加するメタノール水溶液の添加量(重量)は5〜100gの範囲で5g刻みに設定した。すなわち、溶剤廃液の100重量部に対して添加するメタノール水溶液の添加量を、5重量部〜100重量部までの範囲で、5重量部毎に変化させた。
【0084】
表1−1、表1−2において、表中の「全液」とはメタノール水溶液が添加された溶剤廃液を意味する。「凝集分離剤の添加量」とは、メタノール水溶液の添加量(重量部)である。「凝集分離剤/全液」とは、溶剤廃液とメタノール水溶液とを合計した全液に対する、メタノール濃度(重量%)を意味する。「除去前の樹脂組成物濃度」とは、凝集した樹脂組成物を除去(回収)する前における、樹脂組成物の全液に対する重量百分率である。「除去後の樹脂組成物濃度」とは、凝集した樹脂組成物を除去(回収)した後における、樹脂組成物の全液に対する重量百分率である。「樹脂組成物回収率」とは、除去前の樹脂組成物濃度から除去後の樹脂組成物濃度を減算した値である。
【0085】
図5は、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の添加量(重量部)と、除去後の樹脂組成物濃度との関係を表すグラフである。図6は、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の添加量(重量部)と、樹脂組成物回収率との関係を表すグラフである。各表及び図5、6から、溶剤廃液の100重量部に対して添加するメタノール水溶液の添加量を35重量部以上とした場合に、除去後の樹脂組成物濃度が急激に低下し、樹脂組成物回収率の増加傾向が顕著になることが確認された。さらに、溶剤廃液の100重量部に対して、添加するメタノール水溶液の添加量(重量部)を65重量部以上にすると、徐々に回収率の増分が小さくなる結果となった。
【0086】
<実施例2>
実施例2では、溶剤廃液に添加するメタノール水溶液のメタノール濃度(重量%)を変化させて、樹脂組成物の上記回収試験を行う点を除いて、実施例1と同じである。また、溶剤廃液中の樹脂組成物濃度についても、実施例1と同じ26.4重量%とした。実施例2の試験結果を、表2−1、表2−2、図7、図8に示す。
【0087】
【表2−1】

【0088】
【表2−2】

【0089】
表2−1、表2−2において、表中の「メタノール濃度」とは、凝集分離剤であるメタノール水溶液の、メタノールの重量%である。その他の用語の定義は、実施例1と同じである。図7は、溶剤廃液の100重量部に対して添加したメタノール水溶液の添加量(重量部)と、除去後の樹脂組成物濃度との関係を表すグラフである。図8は、溶剤廃液の100重量部に対して添加するメタノール水溶液の添加量(重量部)と、樹脂組成物回収率との関係を表すグラフである。実施例2では、メタノール水溶液のメタノール濃度(重量%)を、30重量%、40重量%、50重量%、75重量%、100重量%の5水準とした。
【0090】
表2−1、表2−2、図7、及び図8から、メタノール水溶液におけるメタノール濃度
を50重量%とした場合に、樹脂組成物回収率が最も良好となった。その他、メタノール濃度毎に、溶剤廃液に対するメタノール水溶液の添加量と樹脂組成物回収率との関係を比較すると、メタノール濃度を50重量%とするケースに次いで、40重量%とするケースの樹脂組成物回収率が高い結果が得られた。また、順次、75重量%、100重量%、30重量%の順に、樹脂組成物回収率が下がる結果が得られた。そして、メタノール濃度を50重量%とする場合、溶剤廃液100重量部に対するメタノール水溶液の添加量が20重量部程度であっても、溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を良好に分離することができた。
【0091】
<その他の実施形態>
以上説明した実施形態は、本発明を説明するための一例であって、本発明の本旨を逸脱しない範囲内において、上記の実施形態には種々の変更を加え得る。
【0092】
また、本実施形態のVOC処理装置1では、廃液処理装置5が、凝集分離剤除去済み廃液から気化させたVOCガスを、燃料として廃ガス処理装置4に供給する。そして、燃料として廃ガス処理装置4に供給したVOCガスを、廃ガス処理装置4において燃焼処理するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、廃ガス処理装置4の代わりに、溶剤廃液に含まれる液体の揮発性有機化合物(VOC)を燃焼処理する燃焼処理装置を配置してもよい。その場合には、当該燃焼処理装置が、本発明に係るVOC処理装置に対応する。そのような燃焼処理装置の前段に、本発明に係る樹脂組成物用分離回収装置6を設けることによっても、溶剤廃液中の樹脂組成物を好適に回収することが可能である。
【0093】
また、樹脂組成物用分離回収装置6は、メタノール水溶液以外の凝集分離剤を、溶剤廃液に添加してもよい。例えば、凝集分離剤としては、アルコール水溶液、ポリエーテル、炭素原子数6以上のパラフィン系炭化水素、高分子電解質の化合物群から選ばれる化合物、あるいは2種以上の化合物の混合物を採用してもよい。
【0094】
アルコール水溶液としては、メタノール、エタノール、IPA、グリセリンなどを用いた、各種のアルコール水溶液が挙げられる。特に、メタノール水溶液が、価格、取扱い易さの点から好適に用いられる。メタノール水溶液は、各種濃度のメタノール水溶液を用いることができるが、火気に対する安全面及び経済性の観点から、メタノール濃度が20〜80%のメタノール水溶液が好ましい。メタノール濃度が80%を越える高純度のメタノールでは、価格が高いだけでなく、発火の危険性が増加する。特に、メタノール濃度が100%の純メタノールでは、非常に高価であるだけでなく、発火の危険性が極めて高いため取扱いが困難である。
【0095】
また、ポリエーテルとしては、例えば、ポリブタンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシメチレン、ポリビニルメチルエーテル、ポリセルロースエーテル、ポリエピクロロヒドリン、ポリフェニレンオキシドなどが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されることはない。
【0096】
炭素数6以上のパラフィン系炭化水素としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、テトラデカン、等のn−パラフィン(直鎖状飽和炭化水素)、2−メチルヘキサン、3−メチルヘキサン、3−エチルペンタン、2,2−ジメチルペンタン、2,3−ジメチルペンタン、2,4−ジメチルペンタン、3,3−ジメチルペンタン、2,2,3−トリメチルブタン、3−メチルヘプタン、2,2−ジメチルヘキサン、2,3−ジメチルヘキサン、2,4−ジメチルヘキサン、等のイソパラフィン(分岐状飽和炭化水素)及び、これらの飽和炭化水素の誘導体等を挙げることができる。これらのパラフィン系炭化水素は、室温で液状であるものが好ましく、また2以上の混合物の形態で用いてもよい。
【0097】
高分子電解質としては、例えば、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリ(アリーレン・エーテル)、ポリイミド、ポリフェニレン、ポリフェニレンスルフィド等の単独重合体のそれぞれにスルホン酸基が導入されたものなどが挙げられる。
【0098】
ここで、パラフィン系炭化水素等の、比重差により溶剤廃液と分離することが不可能であり、蒸留操作が不要である凝集分離剤を使用する場合には、凝集分離剤用分離回収装置8における、蒸留装置82は稼働させない。また、三方弁93に、リターン管87を蒸発槽83と連通させ、装置の稼働中においても、ポンプ88,95は停止させておく。
【0099】
そして、制御装置100は、例えば、廃液貯留容器51の液位が下側基準レベルC以下になると、蒸留装置82を停止させた状態でポンプ71〜74を起動させる。上記制御が実施されると、凝集した樹脂組成物は、メタノール水溶液を凝集分離剤とした場合と同様に、フィルタ部材69によって捕集される。よって、フィルタ部材69上に残渣として堆積した樹脂組成物を回収できる。
【0100】
その後、比重差による溶剤廃液との分離が不可能な凝集分離剤を含む溶剤廃液は、比重差分離槽81に移送される。ここで、ポンプ88,95が停止しているため、上記溶剤廃液は、そのまま溶剤廃液貯留容器51を経て、気化槽52へと移送される。気化槽52に供給された溶剤廃液は、排気ガス供給管53からの排気ガスの吹き込みによってVOC成分が気化することになるが、溶剤廃液に含まれる凝集分離剤は気化槽52の底部に沈殿する。そこで、適宜のタイミングで遮断弁103を開弁すると共にポンプ104を作動させることで、気化槽52の底部に沈殿した凝集分離剤を、分離剤回収管94を通じて回収するとよい。そして、回収した凝集分離剤は、凝集分離剤貯槽62へと補充することができる。
【0101】
以上、本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明は、これらに限らず、可能な限りこれらの組合せを含むことができる。
【符号の説明】
【0102】
1・・・VOC処理装置
2・・・VOC発生設備
4・・・廃ガス処理装置
5・・・廃液処理装置
6・・・樹脂組成物用分離回収装置
8・・・凝集分離剤用分離回収装置
52・・・気化槽
63・・・撹拌混合槽
64・・・濾過槽
69・・・フィルタ部材
81・・・比重差分離槽
82・・・蒸留装置
83・・・蒸発槽
85・・・連通管
89・・・加熱器
90・・・温熱回収装置
91・・・温熱回収部
96・・・凝縮器
97・・・冷熱回収装置
98・・・冷熱回収部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機溶剤を含有する溶剤廃液に含まれる揮発性有機化合物を燃焼処理するVOC処理装置の前段に設けられ、前記溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤を分離回収する装置であって、前記溶剤廃液に含まれる不揮発性の樹脂組成物を凝集させるために凝集分離剤を溶剤廃液に添加して、前記溶剤廃液から前記樹脂組成物を分離回収する樹脂組成物用分離回収装置と、前記樹脂組成物の分離回収装置が前記樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から、前記凝集分離剤を分離して回収する凝集分離剤用分離回収装置と、を備えることを特徴とする溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置。
【請求項2】
前記凝集分離剤用分離回収装置が、前記樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から、比重差を利用して前記凝集分離剤を分離させる、比重差分離槽と、前記比重差分離槽によって前記溶剤廃液から分離した凝集分離剤を、蒸留することにより前記凝集分離剤を精製する、蒸留精製装置と、を有することを特徴とする請求項1に記載の溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置。
【請求項3】
前記樹脂組成物用分離回収装置が、前記溶剤廃液が貯蔵される溶剤廃液貯槽と、前記溶剤廃液に含まれる樹脂組成物を凝集させる凝集分離剤が貯蔵される凝集分離剤貯槽と、前記溶剤廃液貯槽からの前記溶剤廃液及び前記凝集分離剤貯槽からの凝集分離剤が供給される撹拌混合槽と、その撹拌混合槽の内部に設けられた撹拌手段によって溶剤廃液及び凝集分離剤を撹拌混合する混合部と、前記溶剤廃液と前記凝集分離剤とが撹拌混合されることにより凝集した溶剤廃液中の樹脂組成物を濾過する濾過手段と、前記濾過手段で濾過され、樹脂組成物が除去された溶剤廃液を貯蔵する溶剤廃液貯留容器と、を有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置。
【請求項4】
前記凝集分離剤が、アルコール水溶液、ポリエーテル、炭素数6以上のパラフィン系炭化水素、高分子電解質からなる化合物群の中から選ばれる1種または2種以上の化合物であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収装置。
【請求項5】
溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤を分離回収する方法であって、少なくとも次の(1)〜(5)の工程を含むこと、を特徴とする溶剤廃液に含まれる樹脂組成物及び凝集分離剤の分離回収方法:
(1)前記溶剤廃液に含まれる不揮発性の樹脂組成物を凝集させる凝集分離剤を前記溶剤廃液に添加して、前記樹脂組成物を凝集させる凝集工程、
(2)前記溶剤廃液と、凝集した前記樹脂組成物とを分離する分離工程、
(3)前記凝集した前記樹脂組成物を回収する回収工程、
(4)前記凝集した樹脂組成物の回収工程において、前記樹脂組成物を回収した残余の溶剤廃液から、比重差を利用して前記凝集分離剤を分離させる比重差分離工程、及び、
(5)前記比重差分離工程によって分離された凝集分離剤を、前記溶剤廃液から回収する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−72043(P2013−72043A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−213452(P2011−213452)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000224101)藤森工業株式会社 (292)
【Fターム(参考)】