説明

溶剤脱水装置

【課題】有機溶剤の連続脱水を実現し、基本的には吸着材の交換が必要なく、多量な有機溶剤中から水分を安定に除去することができる装置を提供することを課題とする。
【解決手段】水分を含有した有機溶剤を被処理有機溶剤導入経路から吸着槽に導入し、吸着槽に充填された吸着材に接触させることにより、有機溶剤中に含有している水分を吸着除去する溶剤脱水工程と、該吸着材に不活性ガスを循環導入させて該吸着材に吸着された水分を脱着する脱着工程を備えた溶剤脱水装置であって、
脱着工程で使用した不活性ガスを再生処理する不活性ガス再生設備と、
不活性ガス再生設備で再生された不活性ガスを吸着槽に導入し、吸着槽から排出された不活性ガスを不活性ガス循環再生設備に戻す不活性ガス循環経路とを、
備えた溶剤脱水装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機溶剤から水分を除去して溶剤を脱水する装置に関し、特に各種工場や研究施設等から発生した有機溶剤含有ガスから溶剤回収装置を用いて回収した溶剤の脱水に用いられる装置である。
【背景技術】
【0002】
従来から、有機溶剤から水分を除去して溶剤を脱水する装置としては、蒸留脱水装置が広く用いられている。すなわち、溶剤を加熱蒸発させ、沸点の違いを利用して有機溶剤と不純物を分留することで、純度の高い有機溶剤を取得することができる装置である。
【0003】
しかしながら、蒸留脱水装置は大型な装置であるために広い設置スペースが必要であり、且つイニシャルコスト、ランニングコスト共に高いことが問題となっている。
【0004】
かかる問題を解決するために、ゼオライト、イオン交換樹脂、モレキュラーシーブス、活性アルミナ等の吸着材を充填させた吸着塔に有機溶剤を通液させて不純物を取り除く方法が知られているが(例えば、特許文献1参照)、多量の有機溶剤を脱水する場合は多量の吸着材が必要である。吸着材が破過状態になると吸着材の交換が必要であることから、吸着材の交換労力とランニングコストが増大する面より、研究室レベルでは有効な手段であるが、工場や研究施設等から回収される多量の有機溶剤の脱水を行うには満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−225316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来技術の課題を背景になされたもので、有機溶剤の連続脱水を実現し、基本的には吸着材の交換が必要なく、多量な有機溶剤中から水分を安定に除去することができる装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、従来技術の課題を解決するため、鋭意検討した結果、ついに本発明を完成するに到った。即ち本発明は以下の通りである。
【0008】
1.水分を含有した有機溶剤を被処理有機溶剤導入経路から吸着槽に導入し、吸着槽に充填された吸着材に接触させることにより、有機溶剤中に含有している水分を吸着除去する溶剤脱水工程と、該吸着材に不活性ガスを循環導入させて該吸着材に吸着された水分を脱着する脱着工程を備えた溶剤脱水装置であって、
脱着工程で使用した不活性ガスを再生処理する不活性ガス再生設備と、
不活性ガス再生設備で再生された不活性ガスを吸着槽に導入し、吸着槽から排出された不活性ガスを不活性ガス循環再生設備に戻す不活性ガス循環経路とを、
備えた溶剤脱水装置。
2.不活性ガス再生設備が、乾燥、冷却凝縮および加温のいずれかの不活性ガス再生方法で、不活性ガスを再生する設備を少なくとも1つ以上備えた設備である上記1に記載の溶剤脱水装置。
3.不活性ガス再生設備が、不活性ガスの流れ方向の上流側から冷却凝縮処理装置、乾燥処理装置、加温処理装置の順で不活性ガス循環経路に配置されている上記1または2に記載の溶剤脱水装置。
4.不活性ガスが窒素である上記1〜3のいずれかに記載の溶剤脱水装置。
5.吸着材がゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、イオン交換樹脂および粘土鉱物からなる群の少なくとも1つ以上の部材である上記1〜4のいずれかに記載の溶剤脱水装置。
6.吸着材の形態が粒状、繊維状のいずれかである上記1〜5のいずれかに記載の溶剤脱水装置。
7.上記1〜6のいずれかの溶剤脱水装置において、吸着槽を少なくとも2槽有し、その内の1槽が不活性ガス循環経路から不活性ガス再生設備で再生処理された不活性ガスを導入する時、それ以外の槽が被処理有機溶剤導入経路から水分を含有した有機溶剤を吸着槽に導入し、吸着材に接触させることで、連続的に有機溶剤の脱水が可能である溶剤脱水装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明による溶剤脱水装置は、有機溶剤中に含有している水分が多量であっても高い効率で連続的に除去することが可能であり、基本的に吸着材の交換の必要が無いため、低コストで、安定的に、高い能力で有機溶剤中の水分を除去することができる利点がある。また、脱着ガスである不活性ガスを循環させて再利用することで、脱着時のランニングコストを大幅に減少させることができる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の好ましい一形態の例である、吸着槽2槽連続吸脱着方式の不活性ガス循環型溶剤脱水装置である。
【図2】本発明の好ましい一形態の例である、吸着槽2槽連続吸脱着方式の不活性ガス循環型溶剤脱水装置であって、不活性ガス再生設備の再生方法が冷却凝縮、乾燥、加温の3種類備えている溶剤脱水装置である。
【図3】比較のための一例である、吸着槽2槽連続吸脱着方式の不活性ガスワンパス型溶剤脱水装置である。
【図4】活性炭素繊維を用いた溶剤回収処理装置である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明にかかる溶剤脱水装置は、水分を含有する有機溶剤を吸着槽に被処理有機溶剤導入経路より導入させ、吸着槽に充填された吸着材に水分を吸着させて有機溶剤から脱水処理を行う溶剤脱水工程と、該吸着材に不活性ガスを循環導入させて該吸着材に吸着された水分を脱着する脱着工程を備え、かかる工程を交互に行う溶剤脱水装置であることが好ましい。かかる構造を採用することにより、処理を連続的に行うことができるからである。
【0012】
以下、図面を参照して、本発明にかかる溶剤脱水装置について詳細に説明する。図1は本発明の好ましい実施形態の例である、吸着槽2槽連続吸脱着方式の不活性ガス循環型溶剤脱水装置である。
図1に例示した溶剤脱水装置は、一方の吸着槽15において、水分を含有した有機溶剤が貯蔵されている被処理有機溶剤タンク12より被処理有機溶剤送液ポンプ16を用いて被処理有機溶剤導入経路13を通じて吸着材11が充填された吸着槽15に導入され、吸着材11により水分を吸着除去し、脱水有機溶剤タンク14に脱水された有機溶剤が送られる溶剤脱水工程を行なう。
そして、図1に例示した溶剤脱水装置では、一方の吸着槽15で溶剤脱水工程を実施している際に、もう一方の吸着槽15で不活性ガス再生設備22で再生された不活性ガスを吸着槽15に導入することで、吸着槽15に充填された吸着材11から、吸着した水分を脱着する脱着工程を行なう。
溶剤脱水工程後の吸着材11は有機溶剤が付着しており、酸素がある状態では爆発する危険があり、脱着ガスとして不活性ガスを用いて酸素濃度を下げる必要がある。更に、不活性ガスを不活性ガス循環経路23、不活性ガス循環ファン24を通じて循環させ、不活性ガス再生設備22に導入し、不活性ガスを再生し、不活性ガスを再利用することで、不活性ガスの消費量を最小限に抑えることができ、経済的である。
【0013】
不活性ガスは汎用性の高い窒素を用いることが好ましい。また、窒素を循環する際、吸着槽15や不活性ガス循環ファン24において外気空気より酸素が混入することがあるため、窒素発生器21または窒素ボンベを用いて不活性ガス循環経路23に窒素を追加導入することで、不活性ガス循環経路23内の酸素濃度を低い状態に維持することが好ましい。
【0014】
脱着工程において、吸着材11から水分を脱着するために使用する不活性ガスを再生する不活性ガス再生設備22の再生手段としては、乾燥、冷却凝縮、加熱のいずれか1つ以上の方法が必要である。吸着材11から脱着ガスを用いて水分を脱着する現象を考えると、温度が低いと水分の吸着率が多く、温度が高いと水分の吸着率が低いことから、温度差より水分を脱着することができる。この現象を利用するため、不活性ガスを加熱することで不活性ガスを再生することが好ましい。また、水蒸気濃度が高い状態のガスと水蒸気濃度が低い状態のガスを混合すると、水蒸気濃度が2つのガスの中間濃度になり、濃度が均一化する平衡現象が起こることから、水蒸気濃度差より水分を脱着することができる。この現象を利用するため、不活性ガス中の水蒸気濃度を低くするため、乾燥または冷却凝縮して不活性ガス中の水分を除去して再生することも好ましい。
【0015】
不活性ガス再生設備において、加熱温度が50℃未満のとき、脱着ガスである不活性ガスは乾燥および/または冷却凝縮処理することが好ましい。より好ましくは乾燥することで不活性ガスの露点をマイナスにすることである。低い露点のガスを作製するためには乾燥が効果的な方法であり、露点の低い乾燥した脱着ガスであるほど、吸着材11から水分を脱着する脱着時間が短くなるからである。露点を低くするためには、例えば加熱脱着式や加圧吸着式のエアードライヤーがあるが、特に限定するものではない。但し、不活性ガス循環経路23の圧力が0.3MPa以上のとき、コストパフォーマンスの観点から加圧吸着式を採用することが好ましい。
【0016】
また、加熱温度が50℃以上のとき、脱着ガスの露点は高くても脱着効率は高いため、加熱設備だけでも脱着は可能であるが、脱着効率を更に高めるために80℃〜120℃まで加温することがより好ましい。120℃を超える温度で加温脱着すると、吸着材の劣化を引き起こして交換回数が増えるため、120℃以下が好ましい。加温方法は、例えば電気ヒーター、スチームを用いた熱交換器等があるが、特に限定するものではない。
【0017】
更に、加熱温度が50℃以上のとき、冷却凝縮処理と組み合わせることで、吸着材11から水分を脱着する脱着時間を短くすることができる。加熱温度が50℃以上のとき、吸着材11に導入されて吸着槽15から排出される不活性ガスの水蒸気濃度は飽和で温度が高いため、不活性ガス中に水分を多く含んでいる。このため、冷却することで不活性ガスの温度を下げると、水蒸気が凝縮して水が不活性ガスと分離し、不活性ガス中から水分を効率的に除去することができる。より脱着効率を上げるためには、冷却温度を低くすることが好ましいが、例えば冷却凝縮設備がチラーやブラインを用いて作製した冷水を用いた熱交換器である場合、作製する冷水の温度が低いほどランニングコストが高くなる。これより、経済性を考慮に入れれば、加熱温度を80℃〜120℃まで上げ、冷水から汎用性のより高い冷却水を用いる方法も好ましい。
【0018】
必要に応じて、脱着効率を最大限に向上させるためには、不活性ガス再生設備22の再生方法である乾燥、冷却凝縮、加熱の3種類を全て用いることが好ましい。図2に本発明の好ましい一形態の例である、吸着槽2槽連続吸脱着方式の不活性ガス循環型溶剤脱水装置であって、不活性ガス再生設備22の再生方法が乾燥、冷却凝縮、加温の3種類備えている溶剤脱水装置を示す。不活性ガス再生設備22における再生方法である乾燥、冷却凝縮、加熱の3種類を全て用いた場合、不活性ガスの流れ方向の上流側から冷却凝縮処理装置25、乾燥処理装置27、加温処理装置28の順で不活性ガス循環経路23に配置されている必要がある。乾燥された不活性ガスを加温する方が、水蒸気濃度が高い不活性ガスを加温するよりも与える熱量が少なくて済むため、早く加温できるだけでなく、経済的である。また、冷却凝縮処理は水蒸気濃度の高い状態の不活性ガスであるほど再生効果が高いため、乾燥設備の上流に設置する必要がある。更に、温度が低い不活性ガスは、例えば加熱脱着式や加圧吸着式のエアードライヤーの場合、ドライヤーの吸湿剤における吸湿性能が顕著に高いため、加温する前に乾燥設備を設置することが好ましいからである。
【0019】
冷却凝縮処理装置25より不活性ガスの冷却凝縮処理の過程で排出される凝縮液は、凝縮液タンク26に導入される。この凝縮液は脱水処理量に対して少ないので産廃処理してもいいが、溶剤が含まれるため被処理有機溶剤タンク12に戻して再処理をすることが、無駄がなく経済的であるため好ましい。但し、凝縮液タンク26の凝縮液は水分を多く含むため、被処理有機溶剤タンク12の有機溶剤中の水分濃度が飽和であった場合はその限りではない。
【0020】
本発明にかかる吸着材は、ゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、イオン交換樹脂等から選択すればよく、特に限定するものではないが、性能面から陽イオン交換樹脂であることが好ましい。陽イオン交換樹脂はゼオライト、シリカゲル、および活性アルミナと吸着機構が異なり、樹脂内に水分を吸収してゲル膨潤するため、水分の吸着容量が非常に大きい特長を持つ有効な水分吸着材である。
【0021】
本発明にかかる吸着材の構造は、粒状、粉体状、ポーラス状、ハニカム状、繊維状等特に限定されるものではないが、粒状または繊維状が好ましい。水分を含有した有機溶剤が吸着材を通液する際、吸着材の表面面積が広いほど、吸着材と水分の接触効率が高くなり水分吸着能が高くなる構造が粒状または繊維状だからである。
【0022】
上記の溶剤脱水工程→脱着工程を連続的に繰り返すことで、有機溶剤から水分を効果的、且つ経済的に連続吸着除去できる装置となる。かかる連続的な溶剤脱水−脱着により、低コストで、安定的に、高除去能で有機溶剤中の水分を除去することができる。
【0023】
本発明において脱水可能な有機溶剤は、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸プロピル、トルエン、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、プロパノール、ブタノール、酢酸、プロピオン酸、またはその混合物と特に限定されるものではなく、多種の有機溶剤において適応可能である。
【0024】
本発明において脱水可能な有機溶剤は、フィルムを積層させるドライラミネート工程等、多分野における工場等から排出される有機溶剤を含有したガスを、溶剤回収処理装置を用いて回収される有機溶剤にも適応可能である。
【0025】
例えば、図4に示すような溶剤回収処理装置は、溶剤含有被処理ガス31が吸着ファン32より導入されて吸着槽33に充填されている活性炭素繊維エレメント34で有機溶剤が吸着し、清浄ガス36として外気に排出される吸着工程と、活性炭素繊維エレメント34にスチーム35を導入することで有機溶剤を脱着し、コンデンサー38で冷却凝縮してセパレーター39で溶剤と水を分離し、回収溶剤40を回収する脱着工程があり、吸着工程と脱着工程を交互に行うことで連続的に処理可能なシステムである。このタイプの溶剤回収処理装置は脱着にスチームを用いることや、冷却凝縮をすることから回収溶剤中に水分が混入することから、本発明における装置を適用することで、回収溶剤から水分を効果的に除去することが可能である。
【実施例】
【0026】
以下、実施例から本発明の詳細を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、評価は下記の方法により行った。
【0027】
(有機溶剤中からの水分除去の評価方法)
3重量%濃度の水分を含有する各種有機溶剤を一定流量で流し、サンプリングした脱水処理後の有機溶剤中の水分濃度を測定した。
【0028】
(水分濃度評価方法)
吸着材入口・出口の水分濃度をカールフィッシャー水分測定法により測定した。
【0029】
[実施例1]
図1の溶剤脱水装置にて、φ550mm、高さ800mmの吸着槽に、吸着材としてイオン交換繊維不織布(東洋紡績株式会社製モイスファイン(R)97)を10Kg充填させ、水分3重量%、酢酸エチル96重量%とエタノール1%の混合液を導入した。吸着温度は30℃であった。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、初期の出口水分濃度は0.1重量%であり、出口水分濃度が2重量%に達するまでの時間が240分間であり、水分吸着量(q*)が0.6(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0030】
次に、脱着工程における脱着ガスとして再生された不活性ガス(窒素)を30℃、−40℃DPに設定し、脱着のSVを5000(1/h)とした。溶剤脱水工程における吸着時間を4時間、脱着工程における脱着時間を4時間として脱水脱着サイクルとした。その際の混合溶剤中の出口平均水分濃度は1.0重量%以下であった。このときに不活性ガス循環経路23に補充した窒素量は10L/minで、窒素発生器21から導入した。
【0031】
本実施例の溶剤脱水装置により脱水処理された混合溶剤は、溶剤脱水工程→脱着工程の脱水脱着サイクルを20サイクル繰り返しても混合溶剤中の出口平均水分濃度は1.0重量%以下を維持することが可能であった。吸着と脱着を連続して脱水処理するため、性能低下がなく、安定して高効率で脱水処理が可能である。
【0032】
[実施例2]
図2の溶剤脱水装置にて、φ550mmで高さ800mmの吸着槽に、吸着材としてイオン交換繊維不織布(東洋紡績株式会社製モイスファイン(R)97)を10Kg充填させ、水分3重量%、酢酸エチル96重量%とエタノール1%の混合液を導入した。吸着温度は30℃であった。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、初期の出口水分濃度は0.1重量%であり、出口水分濃度が2重量%に達するまでの時間が240分間であり、水分吸着量(q*)が0.6(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0033】
次に、脱着工程における脱着ガスとして再生された不活性ガス(窒素)を120℃、0℃DPに設定し、脱着のSVを3000(1/h)とした。溶剤脱水工程における吸着時間を4時間、脱着工程における脱着時間を4時間として脱水脱着サイクルとした。その際の混合溶剤中の出口平均水分濃度は0.7重量%以下であった。このときに不活性ガス循環経路23に補充した不活性ガス量は10L/minであった。
【0034】
本実施例の溶剤脱水装置により脱水処理された混合溶剤は、溶剤脱水工程→脱着工程の脱水脱着サイクルを繰り返しても脱水溶剤中の出口平均水分濃度は20サイクル以上運転しても0.7重量%以下を維持することが可能であった。吸着と脱着を連続して脱水するため、性能低下がなく安定して高効率で脱水が可能である。
【0035】
[比較例1]
図3の溶剤脱水装置にて、φ550mmで高さ800mmの吸着槽に、吸着材としてイオン交換繊維不織布(東洋紡績株式会社製モイスファイン(R)97)を10Kg充填させ、水分3重量%、酢酸エチル96重量%とエタノール1%の混合液を導入した。吸着温度は30℃であった。その際の出口水分濃度の経時変化を確認した結果、初期の出口水分濃度は0.1重量%であり、出口水分濃度が2重量%に達するまでの時間が240分間であり、水分吸着量(q*)が0.6(g/g−resin)と良好な水分吸着量を示した。
【0036】
次に、脱着工程における脱着ガスとして不活性ガス(窒素)を120℃、0℃DPに設定した。溶剤脱水工程における吸着時間を4時間、脱着工程における脱着時間を4時間として脱水脱着サイクルとした。その際の混合溶剤中の出口平均水分濃度は1.5重量%であったが、このとき実施例1の不活性ガス補充量の400倍の不活性ガスが必要であった。
【0037】
本比較例の溶剤脱水装置により脱水処理された混合溶剤は、溶剤脱水工程→脱着工程の脱水脱着サイクルを20サイクル繰り返しても混合溶剤中の出口平均水分濃度は1.0重量%以下を維持することが可能であった。しかし、上記不活性ガスの使用量が多く、ランニングコストが多大に必要である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の溶剤脱水装置は、溶剤の連続脱水を実現し、基本的に吸着材の交換が必要なく、多量の水分を高効率、且つ安定的に除去することができる脱水装置であるため、吸着材交換作業を省略でき、コスト低減、水分の安定的除去が可能である。更に脱着工程を工夫したことにより、不活性ガスの必要添加量を抑えることができるため、ランニングコストを大幅に低減させることができ経済的である。更に、特に研究所や工場等の幅広い分野から発生する排ガスから溶剤回収処理装置を用いて回収される溶剤の脱水に利用することができ、産業界に寄与することが大である。
【符号の説明】
【0039】
11 吸着材
12 被処理有機溶剤タンク
13 被処理有機溶剤導入経路
14 脱水有機溶剤タンク
15 吸着槽
16 被処理有機溶剤送液ポンプ
17 被処理有機溶剤戻り経路
21 窒素発生器
22 不活性ガス再生設備
23 不活性ガス循環経路
24 不活性ガス循環ファン
25 冷却凝縮処理装置
26 凝縮液タンク
27 乾燥処理装置
28 加温処理装置
31 溶剤含有被処理ガス
32 吸着ファン
33 吸着槽
34 活性炭素繊維エレメント
35 スチーム
36 清浄ガス
37 ダンパー
38 コンデンサー
39 セパレーター
40 回収溶剤


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分を含有した有機溶剤を被処理有機溶剤導入経路から吸着槽に導入し、吸着槽に充填された吸着材に接触させることにより、有機溶剤中に含有している水分を吸着除去する溶剤脱水工程と、該吸着材に不活性ガスを循環導入させて該吸着材に吸着された水分を脱着する脱着工程を備えた溶剤脱水装置であって、
脱着工程で使用した不活性ガスを再生処理する不活性ガス再生設備と、
不活性ガス再生設備で再生された不活性ガスを吸着槽に導入し、吸着槽から排出された不活性ガスを不活性ガス循環再生設備に戻す不活性ガス循環経路とを、
備えた溶剤脱水装置。
【請求項2】
不活性ガス再生設備が、乾燥、冷却凝縮および加温のいずれかの不活性ガス再生方法で、不活性ガスを再生する設備を少なくとも1つ以上備えた設備である請求項1に記載の溶剤脱水装置。
【請求項3】
不活性ガス再生設備が、不活性ガスの流れ方向の上流側から冷却凝縮処理装置、乾燥処理装置、加温処理装置の順で不活性ガス循環経路に配置されている請求項1または2に記載の溶剤脱水装置。
【請求項4】
不活性ガスが窒素である請求項1〜3のいずれかに記載の溶剤脱水装置。
【請求項5】
吸着材がゼオライト、活性アルミナ、シリカゲル、イオン交換樹脂および粘土鉱物からなる群の少なくとも1つ以上の部材である請求項1〜4のいずれかに記載の溶剤脱水装置。
【請求項6】
吸着材の形態が粒状、繊維状のいずれかである請求項1〜5のいずれかに記載の溶剤脱水装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかの溶剤脱水装置において、吸着槽を少なくとも2槽有し、その内の1槽が不活性ガス循環経路から不活性ガス再生設備で再生処理された不活性ガスを導入する時、それ以外の槽が被処理有機溶剤導入経路から水分を含有した有機溶剤を吸着槽に導入し、吸着材に接触させることで、連続的に有機溶剤の脱水が可能である溶剤脱水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−91096(P2012−91096A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239437(P2010−239437)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】