説明

溶存パラジウムの除去方法

【課題】 パラジウム触媒を用いた有機金属反応後の溶液から溶存パラジウムを効率的に除去する方法を提供する。
【解決手段】 パラジウム触媒を用いる有機金属反応後の溶液を、下記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物からなる吸着剤、又は下記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を担体に固定化した吸着剤と接触させる。
【化1】


[上記式中、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。また上記式中、Lは各々独立して、炭素数1〜8のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、パラジウム触媒を用いた有機金属反応後の溶液から溶存パラジウムを除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パラジウム触媒を用いる有機金属反応は、炭素―炭素結合及び炭素―ヘテロ元素結合を構築する上で、特に医農薬分野及び電子材料分野において非常に有用な合成反応として知られている。例えば、炭素―炭素結合反応としては、Suzuki−Miyaura反応、Sonogashira反応、Heck反応、Still反応、檜山クロスカップリング反応等が報告されている。また、炭素−ヘテロ元素結合反応としては、特にBuchwald−Hartwig反応として炭素―窒素結合反応が報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
上記パラジウム触媒を用いる有機金属反応は、通常、パラジウム化合物と三級リン系化合物、カルベン化合物等の配位子からなるパラジウム触媒を用いて反応が行なわれる。この反応は、非常に有用なパラジウム触媒反応ではあるが、問題点として、目的とする生成物からパラジウム触媒に由来する溶存パラジウムを効率的に除去しにくいという課題があった。
【0004】
このようなことから、いくつかのパラジウム除去方法、例えば、活性アルミナを用いる方法(例えば、特許文献1参照)、チオール基又はトリフェニルホスフィン基をグラフト重合させたポリオレフィン繊維を用いる方法(例えば、特許文献2参照)が報告されている。
【0005】
しかしながら、これらの方法も未だ十分ではなく、より効率的な溶存パラジウムの除去方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−260704号公報
【特許文献2】特表2004−518813号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jiro Tsuji,“Palladium Reagents and Catalysts:New Perspectives for the 21st Centry”,英国,John Wiely & Sons,2004,105−430
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、パラジウム触媒を用いた有機金属反応後の溶液から溶存パラジウムを効率的に除去する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、特定の構造を有する環状スルフィド化合物を用いることにより極めて効果的にパラジウム残渣を除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりの溶存パラジウムの除去方法である。
【0011】
[1]パラジウム触媒を用いた有機金属反応後の溶液を、下記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物からなる吸着剤、又は下記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を担体に固定化した吸着剤と接触させることを特徴とする溶存パラジウムの除去方法。
【0012】
【化1】

[上記式中、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。また上記式中、Lは各々独立して、炭素数1〜8のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。]
[2]一般式(1)において、Rが全て水素原子であることを特徴とする上記[1]に記載の溶存パラジウムの除去方法。
【0013】
[3]担体がシリカゲルであることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の溶存パラジウムの除去方法。
【0014】
[4]有機金属反応が、炭素―炭素結合反応又は炭素−ヘテロ元素結合反応であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の溶存パラジウムの除去方法。
【0015】
[5]上記[1]乃至[4]のいずれかに記載の除去方法において使用した吸着剤に吸着したパラジウムを、溶出液により溶出して、パラジウムを含む水溶液を得ることを特徴とするパラジウムの回収方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、吸着法によりパラジウムを含む遷移金属触媒反応液からパラジウムを効率良く且つ選択的に分離することができ、更に溶出液を用いることで、使用後の吸着剤から定量的にパラジウムを回収することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の溶存パラジウムの除去方法は、パラジウム触媒を用いた有機金属反応後の溶液を、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物からなる吸着剤、又は上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を担体に固定化した吸着剤と接触させることをその特徴とする。
【0018】
上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィドは固体であり、且つ水溶性及び脂溶性が極めて低いため、パラジウムイオンを含む水溶液又は有機金属反応後の溶液にそのまま添加して吸着を行うことができる。
【0019】
上記一般式(1)において、Rで示される置換基は、各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基(これらの基は分岐していても差し支えない。)、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表す。これらのうち、水素原子、炭素数1〜8の鎖式炭化水素基、炭素数5〜8の脂環式炭化水素基、炭素数6〜8の芳香族炭化水素基が好ましく、Rで示される置換基全てが水素原子のものが最も好ましい
炭素数1〜18の鎖式炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イソプロピル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、t−ペンチル基、2−エチルヘキシル基、ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、イソプロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基、2−メチルアリル基、1−ヘプチニル基、1−ヘキセニル基、1−ヘプテニル基、1−オクテニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。
【0020】
炭素数3〜10の脂環式炭化水素基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロヘキセニル基、シクロヘキサジエニル基、シクロヘキサトリエニル基、シクロオクテニル基、シクロオクタジエニル基等が挙げられる。
【0021】
炭素数6〜14の芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、クメニル基、ベンジル基、フェネチル基、スチリル基、シンナミル基、ビフェニリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(1)において、nで示されるカルボニル基−硫黄原子間のメチレン数は1〜4の整数であり、1又は2の場合が特に好ましい。
【0023】
また、上記一般式(1)において、Lは、炭素数1〜8のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。炭素数1〜8のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基等が挙げられ、直鎖状、分枝状、環状のものを含む。環状のアルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基等が挙げられる。また、炭素数6〜14のアリール基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、トリレン基、キシリレン基、クメニレン基、ベンジレン基、フェネチレン基、スチリレン基、シンナミレン基、ビフェニリレン基、フェナントリレン基等が挙げられる。
【0024】
これらのうち、1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,2−シクロヘキシレン基、1,2−フェニレン基であることが好ましく、特にプロピレン基である場合に最も高いパラジウム吸着性能を有する。
【0025】
上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィドの製造法としては、特に限定するものではないが、例えば、下記式(A)
【0026】
【化2】

(式中、Rは上記と同じ定義である。)
で示される化合物に、塩基性条件下で下記式(B)
【0027】
【化3】

(式中、nは上記と同じ定義である。)
で示される化合物を反応させ、下記式(C)
【0028】
【化4】

(式中、R、L、nは上記と同じ定義である。)
で示される化合物を得、次に上記式(C)で示される化合物に、塩基性条件下でチオ安息香酸を反応させて、下記式(D)
【0029】
【化5】

(式中、Bzはベンゾイル基を表し、R、L、nは上記と同じ定義である。)
で示される化合物を得、次に、上記式(C)で表される化合物と上記式(D)で示される化合物を塩基性条件下で反応させることにより、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィドを得ることができる。
【0030】
本発明においては、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を、そのまま吸着剤として使用可能であるが、操作性の向上やカラムクロマトグラフィーの充填剤として使用する等の目的に応じて、任意の担体に固定化してもよい。
【0031】
このような担体としては、水又は有機溶媒に不溶性のものであれば特に制限なく用いることができる。例えば、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等のスチレン系ポリマー;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン等のポリ(ハロゲン化オレフィン);ポリアクリロニトリル等のニトリル系ポリマー;ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル等の(メタ)アクリル系ポリマー等の高分子担体や、活性炭、シリカゲル、珪藻土、ヒドロキシアパタイト、アルミナ、酸化チタン、マグネシア、ポリシロキサン等の無機担体が挙げられる。
【0032】
ここで、架橋ポリスチレンとは、スチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等のモノビニル芳香族化合物とジビニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン、ジビニルナフタレン、トリビニルベンゼン、ビスビニルジフェニル、ビスビニルフェニルエタン等のポリビニル芳香族化合物との架橋共重合体を主体とするものであり、これらの共重合体にグリセロールメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、等のメタクリル酸エステルが共重合されていてもよい。
【0033】
本発明においては、これらの担体のうち、シリカゲルが特に好ましい。
【0034】
本発明において、担体の形状としては、球状(例えば、球状粒子等)、粒状、繊維状、顆粒状、モノリスカラム、中空糸、膜状(例えば、平膜など)等の一般的に分離基材として使用される形状が利用可能であり、特に限定するものではないが、これらのうち、球状、膜状、粒状、繊維状のものが好ましい。球状粒子はカラム法やバッチ法で使用する際、その使用体積を自由に設定できることから、特に好ましく使用できる。
【0035】
担体として球状粒子を用いる場合、その平均粒径としては通常1μm〜10mmの範囲、好ましくは2μm〜1mmの範囲であり、平均細孔径としては通常1nm〜1μm、好ましくは1nm〜300nmの範囲である。
【0036】
この場合、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を担体へ固定化する方法としては、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を担体に物理的に吸着させて担持する方法、又は当該アミド含有環状スルフィド化合物を担体に化学的に結合させ固定化する方法が挙げられる。
【0037】
本発明の吸着剤は、例えば、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィドを、ジメチルスルホキシド等の溶媒に溶解させ、次いで上記した担体を加え、アミド含有環状スルフィドを当該担体に含浸させて、更に溶媒を留去することにより、製造することができる。
【0038】
また、例えば、担体が架橋ポリスチレンの場合には、クロロメチルスチレンとジビルベンゼンとの架橋ポリスチレンである、ポリクロロメチルスチレン(PCMS)と、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィドとを塩基性条件下で反応させることにより、本発明の吸着剤を製造することができる。
【0039】
本発明の収着剤において、担体へのアミド含有環状スルフィドの固定化率(担持率)は、目的に応じて任意に調節可能であり、特に限定するものではないが、本発明の吸着剤に対して、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィドが1〜50重量%の範囲で固定化(担持)されているのが好ましく、5〜30重量%の範囲がさらに好ましい。
【0040】
本発明の方法において、処理対象となる被対象溶液は、パラジウム遷移金属触媒反応後に得られる有機系反応液である。パラジウム遷移金属触媒反応としては、例えば、非特許文献1に記載の反応が挙げられる。具体的には、Suzuki−Miyaura反応、Sonogashira反応、Heck反応、Still反応及び檜山クロスカップリング反応等の炭素―炭素結合反応、又はBuchwald−Hartwig反応等の炭素−ヘテロ元素結合反応である。
【0041】
本発明において、上記した吸着剤によりパラジウムを吸着するためには、まず、上記の被対象溶液に当該吸着剤を添加する。この際にこの溶液を攪拌することが望ましい。
【0042】
また、本発明において、上記した吸着剤の使用量は特に限定するものではないが、例えば、被対象溶液中のパラジウムに対し、上記した吸着剤を、上記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド換算で、等モル量以上用いるのが好ましい。
【0043】
本発明においては、上記の操作により吸着剤に吸着されたパラジウムを、溶出液により溶出して、パラジウムを含む水溶液を得ることで、パラジウムを回収することができる。パラジウムの溶出液としては、特に限定するものではないが、例えば、アンモニア水、チオ尿素水溶液、チオ尿素水溶液と塩酸の混合水溶液等を好適に用いることができ、中でもチオ尿素水溶液と塩酸の混合水溶液が最も好ましい。本発明に係る吸着剤を用いてパラジウムを吸着した場合には、前記の溶出液を用いることにより、パラジウムを水溶液として回収することができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定して解釈されるものではない。なお、パラジウムの分析は、ICP発光分析器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)を用い、ICP発光分析法により行った。
【0045】
製造例.
吸着剤の製造例として、1,5,11,15−テトラアザ−6,10,16,20−テトラオキソ−8,18−ジチアシクロエイコサンをシリカゲルに担持した吸着剤の製造例を以下に記す。
【0046】
【化6】

第一工程(化合物1の合成).
200mLナス型フラスコに1,3−プロパンジアミン3.71g(50mmol)、水50g、ジエチルエ−テル20gを量り取り、これに20%水酸化ナトリウム水溶液24.00g(120mmol)を加えた。この混合物に対し、クロロ塩化アセチル13.55g(120mmol)を0℃にて1時間かけて滴下し、更に0℃で1時間攪拌した。生じた白色固体をろ取した後、水、ジエチルエ−テルで順次洗浄し、上記ジアシル化体(以下、これを「化合物1」と称する。)を収量10.41g、収率91.7%で得た。
【0047】
第二工程(化合物2の合成).
100mLナス型フラスコに炭酸カリウム2.65g(19.2mmol)、水40gを量り取り、これにチオ安息香酸2.65g(19.2mmol)を加えて40℃で30分間攪拌した。これに、上記化合物1を1.93g(5mmol)及びテトラヒドロフラン(THF)を10g加え、40℃で3時間攪拌した。その後更に0℃で1時間攪拌し、生じた白色固体をろ取した後、水で洗浄し、上記ジチオエステル化体(以下、これを「化合物2」と称する。)を収量3.51g、収率95.6%で得た。
【0048】
第三工程(化合物3の合成).
50mLナス型フラスコに上記化合物2を2.29(5mmol)、メタノ−ルを20g量り取り、これに20%水酸化ナトリウム水溶液2.00g(10mmol)を加え、窒素気流下室温で2時間攪拌した。これに上記化合物1を1.14g(5mmol)加え、室温で3時間攪拌した。生じた白色固体をろ取した後、水、メタノ−ルで順次洗浄し、上記アミド含有環状スルフィド(以下、これを「化合物3」と称する。)を収量1.43g、収率76.1%で得た。
【0049】
第四工程(シリカゲル担持アミド含有環状スルフィドの合成).
50mLナス型フラスコに、上記化合物3を0.2g、ジメチルスルホキシド(DMSO)を10g量り取り、50℃で1時間攪拌した。その後シリカゲル(和光純薬工業社製、商品名:ワコ−ゲル C−300)1.8gを加え、更に50℃で1時間攪拌した。DMSOを減圧下にて留去した後、得られた白色粉末を水で洗浄することで、アミド含有環状スルフィドを10重量%(0.27mmol/g)の割合で含浸担持させたシリカゲル(以下、これを「L12」と称する。)を調製した。
【0050】
調整例1(反応液1の調整).
300mlナス型フラスコに、ブロモベンゼン12.5g(80.0mmol)、3−メチルジフェニルアミン14.6g(80.0mmol)、ナトリウム−t−ブトキシド9.98g(104mmol)及びトルエン150mlを仕込んだのち、攪拌しながら窒素雰囲気下で酢酸パラジウム17.9mg(0.08mmol)及びトリ−t−ブチルホスフィン48mg(0.024mmol)を仕込んだ。100℃で3時間加熱攪拌した。
室温まで冷却後、水80mlとトルエン30mlを加え、反応液を分液した。得られた有機層は、トルエンを加えて容量が250mlなるように調整した(これを、反応液1とする)。ICP発光分析の結果、反応液1中の溶存パラジウム量は、29ppm(=mg/L)であった。
【0051】
調整例2(反応液2の調製).
酢酸パラジウムの量を89.6mg(ブロモベンゼンに対して0.5mol%相当のパラジウム)、トリ−t−ブチルホスフィンの量を175mg(0.86mmol)に変えた以外は、実施例1に準じて、反応液2を調整した。IPC発光分析の結果、反応液2中の溶存パラジウム量は、130ppm(=mg/L)であった。
【0052】
これらの結果を表1にあわせて示す。
【0053】
【表1】

実施例1(パラジウムの吸着実験).
調整例1で得られた反応液1を10ml(29ppmのパラジウムを含有)、製造例で合成したシリカゲル担持アミド含有環状スルフィドを所定量添加して、室温で1時間撹拌した。その後、この液を、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いてろ過し、ろ液中の残存金属濃度をICP発光分光器(Perkin Elmaer社製、製品名:OPTIMA3300DV)にて測定した。結果を表2に示す。
【0054】
【表2】

1)L12:製造例で合成したシリカゲル担持アミド含有環状スルフィド、
活性部位(アミド含有環状スルフィド)含有量=0.27mmol/g
2)Smopex−111:Johnson & Matthey社製、
活性部位(チオール)含有量=2.5mmol/g
3)Smopex−301:Johnson & Matthey社製、
活性部位(P)含有量=1mmol/g
4)Al:Aldrich社製、塩基性。
【0055】
実施例2.
調整例2で得られた反応液2を10ml[130ppm(=mg/L)のパラジウム含有]を用いた以外は、実施例3と同様な実験を行った。ろ液中の残存金属濃度結果を表2に示す。
【0056】
比較例1〜比較例3.
表2に記載の市販パラジウム吸着剤を所定量用い、実施例3に準じてパラジウム吸着実験を行った。結果を表2にあわせて示す。
【0057】
比較例4〜比較例6.
処理液として反応液2を、吸着剤として、Smopex−111(比較例4)、Smopex−301(比較例5)、Al(比較例6)を夫々所定量用い、実施例1に準じて吸着実験を行った。結果を表2にあわせて示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラジウム触媒を用いる有機金属反応後の溶液を、下記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物からなる吸着剤、又は下記一般式(1)で示されるアミド含有環状スルフィド化合物を担体に固定化した吸着剤と接触させることを特徴とする溶存パラジウムの除去方法。
【化1】

[上記式中、Rは各々独立して、水素原子、炭素数1〜18の鎖式炭化水素基、炭素数3〜10の脂環式炭化水素基、又は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基を表し、nは各々独立して、1〜4の整数を表す。また上記式中、Lは各々独立して、炭素数1〜8のアルキレン基、又は炭素数6〜14のアリーレン基を表す。]
【請求項2】
一般式(1)において、Rが全て水素原子であることを特徴とする請求項1に記載の溶存パラジウムの除去方法。
【請求項3】
担体がシリカゲルであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶存パラジウムの除去方法。
【請求項4】
有機金属反応が、炭素―炭素結合反応又は炭素−ヘテロ元素結合反応であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の溶存パラジウムの除去方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の除去方法において使用した吸着剤に吸着したパラジウムを、溶出液により溶出して、パラジウムを含む水溶液を得ることを特徴とするパラジウムの回収方法。

【公開番号】特開2011−41919(P2011−41919A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192469(P2009−192469)
【出願日】平成21年8月21日(2009.8.21)
【出願人】(000003300)東ソー株式会社 (1,901)
【Fターム(参考)】