説明

溶存炭酸成分の定量方法

【課題】純水の溶存炭酸成分を高感度に定量すること。
【解決手段】純水に含まれる溶存炭酸成分の定量方法であって、前記純水の酸導電率を求める工程と、前記純水に含まれる炭酸イオン以外のイオンによる酸導電率の寄与分を求める工程と、前記酸導電率を求めた結果と前記寄与分を求めた結果との差分に基づいて、前記炭酸イオンの濃度を算出する工程とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶存炭酸成分の定量方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
発電プラントでは、高度に浄化された純水が発電用水として用いられている。一般に、純水は空気に接触することでCOが溶解しやすいことが知られている。発電用水にCOが溶解すると、発電用水の水質が変化し、発電プラント内の装置類や発電用水の循環経路などに対して作用する場合がある。このため、発電用水の水質は、発電プラントの稼働中及び非稼動中に亘って連続して計測され管理されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
純水の溶存炭酸成分を検出する技術としては、例えば酸導電率(カチオン交換樹脂通過水の電気伝導率)を検出する手法や、イオンクロマトグラフィ法、更にはTOC計など専用の計器を用いる手法などが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−222375号公報
【特許文献2】特開2010−2185号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸導電率を検出する場合、酸導電率指示値が変化しても、どのイオン種が変化したかを把握することは困難である。
【0006】
また、イオンクロマトグラフィ法は、原理上COの検出が可能ではあるものの、CO濃度を定量するためには標準物質を使用した検量線を作成する必要がある。ところが、この標準物質を作成する際の作業工程において、空気からのCOの溶解が避けられず、検出結果にはその分が誤差として含まれてしまう。このため、微量な定量分析においては、イオンクロマトグラフはやや不利である。
【0007】
更に、TOC計の検出感度(下限)は汎用機種で50ppb程度、高感度のものでも4ppb程度であり、例えばイオンクロマトグラフの検出感度(0.1ppb程度)と比較しても、感度がやや低いという問題がある。
【0008】
以上のような事情から、発電用水などの純水の溶存炭酸成分をより高感度に定量することができる定量技術が求められていた。
【0009】
そこで、本発明は、純水の溶存炭酸成分を高感度に定量することができる溶存炭酸成分の定量方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る溶存炭酸成分の定量方法は、純水に含まれる溶存炭酸成分の定量方法であって、前記純水の酸導電率を求める工程と、前記純水に含まれる炭酸イオン以外のイオンによる酸導電率の寄与分を求める工程と、前記酸導電率を求めた結果と前記寄与分を求めた結果との差分に基づいて、前記炭酸イオンの濃度を算出する工程とを含む。
【0011】
本発明によれば、純水の酸導電率と、純水に含まれる炭酸イオン以外のイオンによる酸導電率の寄与分とをそれぞれ求め、これらの求めた結果の差分に基づいて炭酸イオンの濃度を算出することとしたので、炭酸イオンの濃度を検出するための専用の機器等を用いなくても、純水の溶存炭酸成分を高感度に定量することができる。
【0012】
また、前記寄与分を求める工程は、前記純水に含まれるアニオンのうち水酸化物イオン及び炭酸イオン以外の所定アニオンの濃度を検出する工程と、前記所定アニオンの濃度の検出結果を用いて、前記純水の水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度、前記炭酸イオン濃度及び前記所定アニオン濃度の間の関係を求め、当該関係に基づいて前記水素イオン濃度、前記水酸化物イオン濃度及び前記所定アニオン濃度をそれぞれ算出する工程と、求められた前記水素イオン濃度、前記水酸化物イオン濃度及び前記所定アニオン濃度にそれぞれ無限希釈導電率を乗じて、前記酸導電率の寄与分を算出する工程とを含む構成である。この構成によれば、イオンクロマトグラフなど、既存の装置を用いて溶存炭酸成分の定量を行うことができる。
【0013】
酸導電率を求める工程が、前記純水の酸導電率を測定する工程を含む場合には、例えば酸導電率計など既存の装置を用いて溶存炭酸成分の定量を行うことができる。また、酸導電率を求める工程が、前記純水に含まれる炭酸イオンに関する第一データをイオンクロマトグラフィ法によって求める工程と、前記第一データと前記炭酸イオンの濃度に関する第二データとの間の相関関係に基づいて前記炭酸イオンの濃度を算出する工程とを含む場合には、酸導電率計を用いずにイオンクロマトグラフによって炭酸イオンの濃度を求めることができる。
【0014】
また、本発明の別の観点に係る溶存炭酸成分の定量方法は、純水に含まれる溶存炭酸成分の定量方法であって、前記純水に含まれる炭酸イオンに関する第一データをイオンクロマトグラフィ法によって求める工程と、前記第一データと前記炭酸イオンの濃度に関する第二データとの間の相関関係に基づいて前記炭酸イオンの濃度を算出する工程とを含む。本発明によれば、第一データと第二データとの間の相関関係を用いることとしたので、第一データを求めるだけで炭酸イオンの濃度を算出することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、純水の溶存炭酸成分を高感度に定量することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る溶存炭酸成分の定量を行うシステムを模式的に示す図。
【図2】本実施形態に係る溶存炭酸成分の定量方法を示すフローチャート。
【図3】炭酸イオンについてのグラフ。
【図4】炭酸イオンについてのグラフ。
【図5】炭酸イオンについてのグラフ。
【図6】本発明に係る溶存炭酸成分の定量を行う他のシステムを模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本実施形態に係る溶存炭酸成分の定量を行うシステムを模式的に示す図である。本実施形態では、例えば発電プラントで用いられる発電用水に溶存する炭酸成分を定量する場合を例に挙げて説明する。
図1に示すように、定量システムSYSは、発電プラント10と、カラム20と、酸導電率計30と、イオンクロマトグラフ40と、例えばPCなどのデータ処理装置50とを備えている。発電プラント10とカラム20との間は第一供給管P1によって接続されている。カラム20と酸導電率計30との間は第二供給管P2によって接続されている。酸導電率計30とイオンクロマトグラフ40との間は第三供給管P3によって接続されている。
【0018】
発電プラント10は、例えば純水を気化させて発電を行うプラントであり、例えば火力発電プラントや原子力発電プラントなどが挙げられる。発電プラント10では、高度に浄化された純水が発電用水として用いられている。発電用水にCOが溶解すると、発電用水の水質が変化し、発電プラント10内の装置類や発電用水の循環経路(配管)などに対して作用する場合がある。このため、発電プラント10では、発電用水の水質を監視しておく必要がある。本実施形態に係る定量システムSYSは、発電用水に含まれる溶存炭酸成分を定量することで発電用水の水質を監視する構成である。
【0019】
カラム20には、カチオン交換樹脂が収容されている。カラム20では、カチオン交換樹脂によって発電用水中のカチオンが水素イオンにイオン交換される。したがって、カラム20において発電用水中のカチオンが除去されることになる。なお、発電用水中の溶存炭酸成分はカラム20(カチオン交換樹脂)では除去されない。
【0020】
酸導電率計30は、カチオン交換樹脂を通過した後の発電用水の酸導電率を計測する。イオンクロマトグラフ40は、イオンクロマトグラフィ法により発電用水中のイオンを分離して定量する。イオンクロマトグラフ40は、例えば炭酸イオンを除去して定量を行う構成である。
【0021】
定量システムSYSでは、例えば発電プラント10で用いられる発電用水が第一供給管P1を介してカラム20に流通し、カラム20を通過した発電用水が第二供給管P2を介して酸導電率計30に流通し、当該酸導電率計30を通過した発電用水が第三供給管P3を介してイオンクロマトグラフ40に流通するようになっている。第一供給管P1、第二供給管P2及び第三供給管P3には、発電用水の流通を促進するため、例えば不図示のポンプ機構が設けられていても構わない。
【0022】
図2は、本実施形態に係る溶存炭酸成分の定量方法を示すフローチャートである。
図2に示すように、本実施形態に係る溶存炭酸成分の定量する場合には、まず定量システムの酸導電率計30を用いて、発電用水の酸導電率を計測する(ST01)。当該工程では、発電用水に含まれる全イオンによる導電率の寄与分の総和が計測値として求められる。求められた酸導電率の値は、例えばデータ処理装置50に送信される。
【0023】
次に、定量システムのイオンクロマトグラフ40を用いて、発電用水に含まれるアニオンのうち水酸化物イオン及び炭酸イオン以外の所定アニオンの濃度をイオンクロマトグラフィ法によって検出する(ST02)。この工程では、発電用水に含まれる全イオンのうち当該所定アニオンの濃度が検出される。この工程で検出対象となる所定アニオンとしては、例えば塩化物イオンや硫酸イオンなどである。得られた検出結果は、例えばデータ処理装置50に送信される。
【0024】
次に、データ処理装置50において、所定アニオンの濃度の検出結果を用いて発電用水の水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度、炭酸イオン濃度及び所定アニオン濃度の間の関係を求め、当該関係に基づいて水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度及び所定アニオン濃度をそれぞれ算出する(ST03)。
【0025】
発電用水の水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度、炭酸イオン濃度及び所定アニオン濃度の間には、正イオンと負イオンとの電荷が平衡であることから、以下のような関係が成立する。
[各種アニオン濃度]+[HCO3]+[OH]=[H]…(1)
[OH]=Kw/[H](ただし、Kw=10−14)…(2)
上記の式(1)及び式(2)から、[H]についての二次方程式を導出して[H]を求め、求めた結果から[OH]及び[各種アニオン濃度]を求める。
【0026】
次に、求められた水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度及び所定アニオン濃度にそれぞれ無限希釈導電率を乗じて、水素イオン、水酸化物イオン及び所定アニオンによる酸導電率の寄与分を算出する(ST04)。各イオン濃度に乗じる無限希釈導電率としては、例えば表1の数値をそれぞれ用いることができる。なお、表1では、[各種アニオン濃度]の例として、[Cl]及び[SO4−]が挙げられている。
【0027】
【表1】

【0028】
次に、ST01の酸導電率を求めた結果と、ST02〜ST04で酸導電率の寄与分を求めた結果との差分に基づいて、炭酸イオンの濃度を算出する(ST05)。ここで、ST01の結果とST02〜ST04の結果との差分は、炭酸イオン単独による酸導電率の寄与分である。当該炭酸イオン単独による酸導電率の寄与分を、炭酸イオンについての無限希釈導電率(上記表1に示す)で割ることにより、炭酸イオンの濃度が算出される。なお、炭酸イオンの濃度については、上記式に当てはまるように回帰的に求めることも可能である。
【0029】
以上のように、本実施形態によれば、発電用水の酸導電率と、発電用水に含まれる炭酸イオン以外のイオンによる酸導電率の寄与分とをそれぞれ求め、これらの求めた結果の差分に基づいて炭酸イオンの濃度を算出することとしたので、炭酸イオンの濃度を検出するための専用の機器等を用いなくても、純水の溶存炭酸成分を高感度に定量することができる。
【0030】
本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更を加えることができる。
例えば、上記実施形態においては、酸導電率を求める場合に、例えば図1に示す定量システムSYSの酸導電率計30によって計測して求める(ST01)こととしたが、これに限られることは無い。
【0031】
例えば、炭酸イオンを含む純水についてのイオンクロマトグラフのCOピーク面積と当該純水の酸導電率との間には、例えば図3のグラフに示すような相関関係があることを本発明者らは見出した。図3は、当該ピーク面積(縦軸左)と時間(横軸)との関係と、酸導電率(縦軸右)と時間(横軸)との関係を示すグラフである。図3においては、COピーク面積と酸導電率とを共通の時間軸で示している。
【0032】
図3に示すように、COピーク面積と酸導電率とは、時間軸におけるグラフの軌跡(増減)がほぼ一致していることがわかる。この相関関係は、上記の定量システムSYSやその他のシステムを用いて、例えば実験やシミュレーションなどによって予め求めておくことができる。
【0033】
したがって、炭酸イオンを含む純水についてのイオンクロマトグラフ40の検出結果(COピーク面積)が得られれば、当該検出結果を用いて、図3のグラフから酸導電率を求めることができる。このため、酸導電率計30による計測を行わなくても、酸導電率を求めることができる。
【0034】
図4は、図3に示すCOピーク面積と炭酸イオン濃度との関係を示すグラフである。図4のグラフの縦軸は炭酸イオン濃度を示しており、横軸はCOピーク面積を示している。なお、図4の縦軸は、上記実施形態の計測及び計算によって求められた炭酸イオン濃度である。
【0035】
従来の手法では、標準物質を作成する際の作業工程において、空気からのCOの溶解が避けられず、検出結果にはその分が誤差として含まれてしまうため、標準物質を利用した炭酸イオン検量線を求めることが困難であった。そのため、イオンクロマトグラフのみでは純水中の炭酸イオン濃度を定量することができなかった。これに対して、上記実施形態の手法を用いると、イオンクロマトグラフと酸導電率計の計測結果に基づいた計算により高精度に炭酸イオン濃度を算出することができるため、図4に示すような当該炭酸イオン濃度とピーク面積との関係を示す検量線を求めることができる。
【0036】
図4に示すように、当該検量線の傾きは、例えば1.83×10−4となっている。このため、例えば炭酸イオンを含む純水についてのイオンクロマトグラフ40の検出結果(COピーク面積)が得られれば、当該検出結果にこの傾き1.83×10−4を乗じることにより、簡易的に炭酸イオン濃度を求めることができる。
【0037】
図5は、炭酸イオンを含む純水についてのイオンクロマトグラフ40の検出結果(COピーク面積)に、図4に示す検量線の傾き1.83×10−4を乗じることにより得られた炭酸イオン濃度の値を示すグラフである。グラフの縦軸は炭酸イオン濃度の値であり、横軸は時間である。なお、図5のグラフには、比較のため、上記実施形態の手法によって定量された炭酸イオン濃度の値(酸導電率を計測した場合の値)を併せて示している。図5に示すように、検量線を用いて炭酸イオン濃度を求める場合であっても、酸導電率を計測した場合の値に極めて近い値を得ることができる。
【0038】
なお、COピーク面積と当該純水の酸導電率との間の相関関係、または、COピーク面積と炭酸イオン濃度との間の相関関係を用いて炭酸イオン濃度を定量する場合、例えば図6に示すように、上記の定量システムSYSに対して酸導電率計を省いた構成とすることができる。この場合、定量システムを低コストで実現することができる。
【符号の説明】
【0039】
SYS…定量システム
10…発電プラント
20…カラム
40…イオンクロマトグラフ
50…データ処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水に含まれる溶存炭酸成分の定量方法であって、
前記純水の酸導電率を求める工程と、
前記純水に含まれる炭酸イオン以外のイオンによる酸導電率の寄与分を求める工程と、
前記酸導電率を求めた結果と前記寄与分を求めた結果との差分に基づいて、前記炭酸イオンの濃度を算出する工程と
を含む溶存炭酸成分の定量方法。
【請求項2】
前記寄与分を求める工程は、
前記純水に含まれるアニオンのうち水酸化物イオン及び炭酸イオン以外の所定アニオンの濃度をイオンクロマトグラフィ法によって検出する工程と、
前記所定アニオンの濃度の検出結果を用いて、前記純水の水素イオン濃度、水酸化物イオン濃度、前記炭酸イオン濃度及び前記所定アニオン濃度の間の関係を求め、当該関係に基づいて前記水素イオン濃度、前記水酸化物イオン濃度及び前記所定アニオン濃度をそれぞれ算出する工程と、
求められた前記水素イオン濃度、前記水酸化物イオン濃度及び前記所定アニオン濃度にそれぞれ無限希釈導電率を乗じて、前記酸導電率の寄与分を算出する工程と
を含む
請求項1に記載の溶存炭酸成分の定量方法。
【請求項3】
前記酸導電率を求める工程は、前記純水の酸導電率を測定する工程を含む
請求項1又は請求項2に記載の溶存炭酸成分の定量方法。
【請求項4】
前記酸導電率を求める工程は、
前記純水に含まれる炭酸イオンに関する第一データをイオンクロマトグラフィ法によって求める工程と、
前記第一データと前記炭酸イオンの前記酸導電率の寄与分に関する第二データとの間の相関関係に基づいて前記酸導電率の濃度を算出する工程と
を含む
請求項1又は請求項2に記載の溶存炭酸成分の定量方法。
【請求項5】
純水に含まれる溶存炭酸成分の定量方法であって、
前記純水に含まれる炭酸イオンに関する第一データをイオンクロマトグラフィ法によって求める工程と、
前記第一データと前記炭酸イオンの濃度に関する第二データとの間の相関関係に基づいて前記炭酸イオンの濃度を算出する工程と
を含む溶存炭酸成分の定量方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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