説明

溶存窒素濃度の測定方法及び溶存窒素濃度の測定装置

【課題】被測定水の溶存窒素濃度を簡便かつ正確に測定できる溶存窒素濃度の測定方法及び溶存窒素濃度の測定装置。
【解決手段】本発明の溶存窒素濃度の測定方法は、被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去工程と、前記溶存水素除去工程の後、熱伝導度式検出器12により被測定水の溶存窒素濃度を測定する測定工程とを有することよりなる。前記溶存水素除去工程は、白金族触媒に被測定水を接触させて被測定水の溶存水素を除去することが好ましく、被測定水に酸素を添加する酸素添加工程を有していてもよい。本発明の溶存窒素濃度の測定装置10は、被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去手段11と、熱伝導度式検出器12と、前記溶存水素除去手段11で処理した水を前記熱伝導度式検出器12に供給する脱水素水供給管14とを有することよりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶存窒素濃度の測定方法及び溶存窒素濃度の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子デバイス等の半導体製造分野や、医薬品製造分野、原子力や火力等の発電分野、食品工業等の各種の産業又は研究施設等、様々な分野での用水として、イオン成分、有機物、微粒子、細菌等の不純物が高度に除去された超純水が使用されている。中でも、電子デバイスをはじめとする電子部品製造の洗浄工程では、多くの超純水が使用されている。電子デバイスの製造工程では、電子デバイス基板表面から微粒子、金属不純物、有機物等の不純物を除去するために、該基板表面を超純水で洗浄している。この洗浄には、超純水のみならず、窒素ガス、水素ガス、オゾンガス等を超純水に溶解し、洗浄効果を高めたいわゆる機能水が用いられることがある。
【0003】
一般的に、機能水の製造方法としては、脱気した水に半透膜を用いたガス溶解モジュールを介してガスを溶解する方法が知られている。機能水に対しては、溶存ガス濃度を所定濃度に高い精度で制御することが求められている。また、超純水製造装置(サブシステム)内にガス溶解モジュールを設け、溶存窒素を制御した超純水を常時供給することもある。こうした超純水や機能水への要求に対し、例えば、ガス溶解モジュールを用いた機能水の製造方法において、凝縮水を押し出すガスの圧力と、押し出す凝縮水の量とを所定の関係に保つことで、溶解ガス濃度が安定した機能水を常時供給できる発明が提案されている(例えば、特許文献1)。そして、製造した機能水の溶存ガス濃度は、各種検出器により測定されるが、溶存窒素濃度に関しては熱伝導度検出端子(TCD)を備えた熱伝導度式検出器を用いて測定するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−185559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、超純水及び機能水には溶存ガス濃度のさらなる精度向上の要求がある。かかる要求を満たすには、超純水の溶存窒素濃度及び機能水の溶存ガス濃度を精度高く分析する必要がある。熱伝導度式検出器は、被測定水である超純水や機能水の溶存窒素濃度を正確に測定できない場合があった。
そこで本発明は、被測定水の溶存窒素濃度を簡便かつ正確に測定できる溶存窒素濃度の測定方法及び溶存窒素濃度の測定装置を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一般的な超純水又は機能水の製造ラインでは、各ユースポイントでの仕様に応じて、複数の機能水を供給する構成とすることがある。かかる製造ラインで製造した超純水を水素水とし、一部のユースポイントに供給する場合には、そのユースポイントで消費できなかった余剰の水素水を超純水の製造ラインに戻す設備を設けていることがある。このような超純水の製造ラインにおいては、脱気装置を設けていたとしても、溶存水素の除去は困難である。このため、超純水又は機能水に溶存水素が含まれる可能性が高くなる。
【0007】
超純水は、その製造工程において、有機物を酸化分解して除去する目的で紫外線酸化装置を設置することが多い。かかる紫外線酸化装置での処理に際し、発生した水素が超純水中に溶解し、ユースポイントに供給する超純水、あるいは、機能水に溶存水素が残留するおそれがあることも懸念される。
【0008】
ここで、被測定水に溶存水素が存在すると、熱伝導度式検出器のTCDは、窒素ガスの熱伝導度に加え水素ガスの熱伝導度を測定し、窒素ガスの熱伝導度と水素ガスの熱伝導度とを加算した値を信号として出力する。水素の熱伝導度は、窒素の熱伝導度と比較して極めて大きく、水素の熱伝導度が0.1815W・m−1・K−1であるのに対し、窒素の熱伝導度は0.02598W・m−1・K−1である。このような熱伝導度の違いにより、被測定水に溶存水素が存在する系での溶存窒素濃度の測定値は、実際の溶存窒素濃度に比べ極めて高い値となる。即ち、被測定水中の溶存水素の存在は、溶存窒素濃度の測定における大きな誤差要因となる。
【0009】
本発明者らは、上述のような製造ラインで製造される超純水や窒素水においては、被測定水中の溶存水素をできる限り取り除くことで、熱伝導度式検出器により溶存窒素濃度をより高い精度で測定できるとの知見を得た。そして、簡便な方法で被測定水中の溶存水素を除去し、正確な溶存窒素濃度を測定できる方法を見出し、以下の発明に至った。
【0010】
即ち、本発明の溶存窒素濃度の測定方法は、被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去工程と、前記溶存水素除去工程の後、熱伝導度式検出器により被測定水の溶存窒素濃度を測定する測定工程とを有することを特徴とする。前記溶存水素除去工程は、白金族触媒に被測定水を接触させて被測定水の溶存水素を除去することが好ましく、被測定水に酸素を添加する酸素添加工程を有していてもよい。
【0011】
本発明の溶存窒素濃度の測定装置は、被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去手段と、熱伝導度式検出器と、前記溶存水素除去手段で処理した水を前記熱伝導度式検出器に供給する手段とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶存窒素濃度の測定方法及び溶存窒素濃度の測定装置によれば、被測定水の溶存窒素濃度を簡便かつ正確に測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の溶存窒素濃度の測定装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に用いる熱伝導度式検出器の測定原理を説明する模式図である。
【図3】実施例及び比較例に用いた実験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(溶存窒素濃度の測定装置)
本発明について、図1、2を用いて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は、溶存窒素濃度の測定装置(以下、溶存窒素濃度測定装置という)10の模式図である。図2は、熱伝導度式検出器12の測定原理を説明する模式図である。
【0015】
図1のとおり、溶存窒素濃度測定装置10は、溶存水素除去手段11と、熱伝導度式検出器12と、脱水素水供給管14とを有する。被測定水流通管20には、被測定水流通管20から被測定水をサンプルとして抜き出す被測定水供給管22が接続されている。被測定水供給管22は、バルブ24を介して溶存水素除去手段11と接続され、溶存水素除去手段11には脱水素水供給管14が接続されている。脱水素水供給管14は、溶存水素除去手段11で溶存水素が除去された被測定水(以下、脱水素水ということがある)をサンプル室102(図2)に導入するように、熱伝導度式検出器12と接続されている。熱伝導度式検出器12は、排水管16により図示されない排水口と接続されている。
【0016】
「前記溶存水素除去手段で処理した水を前記熱伝導度式検出器に供給する手段」は、脱水素水供給管14である。
【0017】
溶存水素除去手段11は、被測定水中の溶存水素を除去できる装置であれば特に限定されることはない。溶存水素除去手段11は、白金族触媒を充填した充填塔が好ましい。白金族触媒に被測定水を接触させることで、容易に溶存水素を除去できるためである。
【0018】
溶存水素除去手段11として、白金族触媒を充填した充填塔を用いる場合、充填する白金族触媒の形状は特に限定されず、例えば、粉末状、粒状、ペレット状等の形状を挙げることができる。
白金族触媒としては公知の技術を利用できる。例えば、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等の白金族をイオン交換樹脂やアルミナ、活性炭、ゼオライト等の担体に担持させたものを使用することができる。中でも金属Pdを担体に担持した触媒を用いることが好ましい。担体としては、アニオン交換樹脂を用いることが好ましい。アニオン交換樹脂を担体とした触媒は、超純水の製造ラインへ適用できる程度に不純物の混入を抑えたものが得られるため、熱伝導度式検出器12を汚染することなく、長期間安定した測定ができるためである。
【0019】
熱伝導度式検出器12は、TCDを用いた熱伝導度式検出器である。熱伝導度式検出器は既存のものを用いることができ、例えば、株式会社ハックウルトラ製の溶存窒素計(511/E T1C0P00J)等が挙げられる。
【0020】
熱伝導度式検出器12の構成の一例につき、図2を用いて説明する。図2のとおり、熱伝導度式検出器12は、サンプル室102と、測定室110と、パージガス供給源120と、増幅機130と、制御機132とで概略構成されている。サンプル室102には、気体のみを通す隔膜104を介して隣接する測定室110が設けられている。測定室110には、パージガス供給ライン122と、ガス排出ライン114が接続されている。パージガス供給ライン122は、バルブ124を介してパージガス供給源120と接続されている。ガス排出ライン114は、図示されない排ガス口と接続されている。測定室110には、TCD112が設けられ、TCD112は増幅機130と接続されている。増幅機130は制御機132と接続され、制御機132はバルブ124と接続されている。
【0021】
(溶存窒素濃度の測定方法)
本発明の溶存窒素濃度の測定方法は、被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去工程と、前記溶存水素除去工程の後、熱伝導度式検出器により被測定水の溶存窒素濃度を測定する測定工程とを有するものである。
【0022】
溶存窒素濃度の測定方法について、溶存水素除去手段11が白金族触媒を充填した充填塔である場合を例にして説明する。まず、バルブ24を開として、被測定水流通管20内の被測定水を被測定水供給管22から溶存水素除去手段11に供給する。溶存水素除去手段11に供給された被測定水は、充填塔内の白金族触媒と接触しながら流通する。この間、被測定水は、溶存水素が存在する場合、以下の2つの反応により溶存水素が除去される。第一に、被測定水中の溶存水素は、被測定水の溶存酸素等と下記(1)式の反応により水が生成され(触媒反応)、除去される。第二に、被測定水中の溶存水素は、白金族触媒に吸着され(吸着反応)、除去される。吸着反応では、被測定水中の溶存水素濃度が化学量論的に被測定水中の溶存酸素濃度より大きい場合であっても、Pd、Pt等の白金族の金属が溶存水素を吸着できるので、一定期間、被測定水中の溶存水素を除去することができる。
【0023】
2H+O→2HO ・・・(1)
【0024】
このようにして、被測定水は、溶存水素が含まれる場合、溶存水素が除去され、脱水素水となって脱水素水供給管14から流出する(溶存水素除去工程)。
【0025】
脱水素水供給管14に流出した脱水素水は、熱伝導度式検出器12に供給され、熱伝導度式検出器12により脱水素水の溶存窒素濃度が測定される(測定工程)。
【0026】
熱伝導度式検出器12による溶存窒素濃度の測定方法について、図2を用いて説明する。まず、バルブ124を開とし、パージガス供給源120のパージガス(二酸化炭素ガス、アルゴンガス等)をパージガス供給ライン122から測定室110に供給し、測定室110内をパージガスで充満させる。この状態において、TCD112はパージガスの熱伝導度を測定し、その測定値を信号として増幅機130に出力する。この際、測定室110内は特定のパージガスで充満されているため、TCD112から増幅機130に出力される信号は、パージガスの熱伝導度で安定している。TCD112から出力された信号は、増幅機130を経由し制御機132に送られる。制御機132では、TCD112から出力される信号が安定、即ち、測定室110内のパージが完了すると、バルブ124を閉とし、測定室110へのパージガスの供給を停止する。
【0027】
測定室110内がパージガスで充満されている状態で、サンプル室102に脱水素水が供給されると、脱水素水の溶存窒素は隔膜112を透過して測定室110に移行する。サンプル室102から窒素ガスが測定室110に移行してくると、測定室110内のパージガスは、移行してきた窒素ガスによりガス排出ライン114に排出される。そして、TCD112は、測定室110内の窒素ガス濃度に応じた熱伝導度を測定し、その測定値を信号として増幅機130を介して制御機132に出力する。測定室110内のパージガスが窒素ガスに置換される速さは、サンプル室102の溶存ガスの窒素分圧に比例する。このため、制御機132は、TCD112が出力する信号の変化速度から、サンプル室102における窒素分圧を求め、求めた窒素分圧を基に脱水素水の溶存窒素濃度、即ち、被測定水の溶存窒素濃度が求められる。
【0028】
被測定水は、溶存窒素濃度の測定対象となる全ての水であり、例えば、超純水等の純水又は前記純水に窒素ガスを溶解した窒素水、純水に水素ガスを溶解した水素水、純水にオゾンを溶解したオゾン水等の機能水を挙げることができる。中でも、溶存窒素濃度を高精度に管理することが要求される超純水や窒素水に、本発明を好適に用いることができる。加えて、本発明における溶存水素除去工程では、被測定水中の溶存窒素濃度は変化しない。このため、被測定水は、水素水のような溶存水素を常時含有する水のみならず、溶存水素が不定期に混入する可能性がある超純水や窒素水、溶存水素を含有しない水であってもよい。
【0029】
溶存水素除去工程に、白金族触媒を充填した充填塔を溶存水素除去手段として用いた場合には、充填塔における被測定水の滞留時間は、触媒の種類、担持量等の触媒条件、被測定水中の溶存水素濃度及び溶存酸素濃度を勘案して決定することができる。また、溶存水素除去工程における被測定水の温度は特に限定されないが、10〜50℃の範囲で決定することが好ましい。上記温度範囲内であれば、効率的に触媒反応を行うことができるためである。なお、アニオン交換樹脂を担体として用いる場合には、アニオン交換樹脂の耐熱性の観点から、60℃以下とすることが好ましい。
【0030】
溶存水素除去工程を経て得られる脱水素水の溶存水素濃度は、特に限定されないが、例えば、脱水素水中の溶存水素濃度は2質量ppb以下が好ましく、1質量ppb以下がさらに好ましい。
【0031】
上述したように、本発明の溶存水素除去工程を設けることで、被測定水から溶存水素を除去した後、測定工程で溶存窒素濃度を測定できる。このため、被測定水の溶存窒素濃度を熱伝導度式検出器により、簡便かつ高い精度で測定することができる。加えて、溶存水素除去工程は、白金族触媒に被測定水を接触させて溶存水素を除去することで、煩雑な操作を伴わずに、効率的に被測定水の溶存水素を除去することができる。
【0032】
(その他の実施形態)
本発明の溶存窒素濃度の測定方法は、上述の実施形態に限られない。
溶存窒素濃度測定装置10に溶存水素除去手段11として白金族触媒を充填した充填塔を用いる溶存窒素濃度の測定方法には、前記充填塔に供給する被測定水に、酸素を添加する酸素添加工程を設けてもよい。酸素添加工程としては、酸素ボンベから任意の量の酸素を被測定水供給管22に添加する方法が挙げられる。酸素添加工程を設け、被測定水の溶存水素濃度に対して過剰の酸素を被測定水に添加することで、被測定水の溶存水素濃度が高い場合であっても、白金族触媒で溶存水素を継続して除去することができる。加えて、酸素は水素に比べて、熱伝導度式検出器12での溶存窒素濃度の測定値に与える影響が極めて小さいため、除去する溶存水素に対して過剰に添加しても溶存窒素濃度の測定値は高い精度を保つことができる。また、酸素添加工程を設ける場合、被測定水に酸素を添加する頻度は特に限定されず、例えば、溶存窒素濃度を測定している間、常時添加してもよいし、間欠的に添加してもよい。被測定水が溶存酸素より過剰な溶存水素を含有する場合でも、上述した吸着反応により、一定期間、溶存水素の除去ができる。そして、白金族触媒への水素の吸着量が飽和し溶存水素除去手段11から溶存水素が漏洩する前に、被測定水に酸素を適宜添加することで、白金族触媒を下記(1)式の触媒反応により再生できる。このため、間欠的に酸素を添加することで、白金族触媒の吸着反応と触媒反応とを繰り返し、長期にわたり溶存水素を除去できる。
【0033】
2H+O→2HO ・・・(1)
【0034】
上述の実施形態では、被測定水流通管20から被測定水供給管22により被測定水を溶存水素除去手段11に供給しているが、本発明はこれに限られず、貯水タンク等に被測定水供給管22が接続されていてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、実施例に限定されるもので
【0036】
(実験装置)
図3は、実施例及び比較例の実験装置200を示す模式図である。実験装置200は、一次純水供給源202と、サブシステム240と、溶存窒素濃度測定装置10と、第一のガス溶解モジュール284と、第二のガス溶解モジュール294とを有するものである。
【0037】
サブシステム240は、一次純水の純度をさらに高めて、超純水を製造するシステムである。サブシステム240は、一次純水槽242、ポンプ244、熱交換器246、第一の脱気装置248、紫外線酸化装置250、第一の非再生型イオン交換装置(以下、CP)252、ファイナルフィルタ(UF膜)装置254が超純水を循環するように配置され、構成されている。
【0038】
一次純水槽242は、一次純水供給源202と接続されている。紫外線酸化装置250の二次側には、分岐配管251が設けられ、分岐配管251は第二のCP260と接続されている。第二のCP260は第二の脱気装置262と接続され、第二の脱気装置262は、第一のガス溶解モジュール284及び第二のガス溶解モジュール294と接続されている。水素ボンベ280は、第一のマスフローコントローラー282を介して第一のガス溶解モジュール284と接続されている。酸素ボンベ290は第二のマスフローコントローラー292を介して第二のガス溶解モジュール294と接続されている。第一のガス溶解モジュール284及び第二のガス溶解モジュール294は、精密濾過(MF)膜装置266と接続されている。MF膜装置266は被測定水流通管20により図示されない排水口と接続され、被測定水流通管20には、バルブ24を備えた被測定水供給管22が接続されている。被測定水供給管22には、溶存窒素濃度測定装置10が接続されている。溶存窒素濃度測定装置10は、被測定水供給管22から供給された被測定水が溶存水素除去手段11と熱伝導度式検出器12とを順に流通するように脱水素水供給管14により接続されている。熱伝導度式検出器12は排水管16と接続されている。
【0039】
一次純水供給源202は、イオン交換装置、MF膜装置、逆浸透膜装置等を組み合わせた一次純水システムである。
【0040】
熱交換器246は、プレート型の熱交換器を用いた。
【0041】
第一の脱気装置248及び第二の脱気装置262には、膜脱気装置を用いた。
【0042】
紫外線酸化装置250には、波長185nm付近の紫外線を照射する紫外線酸化装置を用いた。
【0043】
第一のCP252及び第二のCP260には、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂との混床形態としてイオン交換樹脂を充填したものを用いた。
【0044】
第一のガス溶解モジュール284及び第二のガス溶解モジュール294には、大日本インキ化学工業株式会社製、SEPAREL EF002Aを用いた。
【0045】
第一のマスフローコントローラー282及び第二のマスフローコントローラー292には、株式会社リンテック製、MC−3102E−NC型マスフローコントローラーを用いた。
【0046】
上述の仕様により、サブシステム240は、MF膜装置266の出口において、比抵抗:18.1MΩ・cm以上、TOC:2ppb以下の超純水が得られるものとした。なお、比抵抗は、比抵抗計(AQ−11、東亜ディケーケー株式会社製)を用いて測定された値である。TOCは、TOC計(A−1000XP、ANATEL社製)を用いて測定された値である。
【0047】
(溶存水素除去手段)
溶存水素除去手段11として、カラムにパラジウム(Pd)樹脂300mLを層高60cmで充填したPd充填塔を用いた。Pd樹脂は、水分保有能力がOH形基準において60〜70%、ゲル形のI型強塩基性アニオン交換樹脂にPdを970mg−Pd/L−R(樹脂1L当たりのPd担持量(mg))担持したものを用いた。また、ゲル形アニオン交換樹脂の総交換容量の95%以上をOH形となるように調整した。
【0048】
(熱伝導度式検出器)
熱伝導度式検出器12には、DO/DN計(model−3621、株式会社ハックウルトラ製)を用いた。
【0049】
(実験例1)
上述の実験装置200を用い、一次純水供給源202からサブシステム240に供給された一次純水を常法に従って、サブシステム240で超純水とした。超純水の製造を行いながら、分岐配管251から抜き出した水を第二のCP260で処理した後、第二の脱気装置262で脱気し脱気水とした。脱気水の一部を第一のガス溶解モジュール284に供給すると共に、水素ボンベ280から水素ガスを第一のガス溶解モジュール284に供給し、脱気水に水素を溶解した水素溶解水を得た。加えて、脱気水の一部を第二のガス溶解モジュール294に供給すると共に、酸素ボンベ290から酸素ガスをガス溶解モジュール294に供給し、脱気水に酸素を溶解させた酸素溶解水を得た。得られた水素溶解水及び酸素溶解水を混合した後、MF膜装置266から被測定水流通管20に流通させ排水した。被測定水の溶存窒素濃度は、水素溶解を行わない場合、0.9〜1.3質量ppm(定常状態)で安定していた。なお、脱気水に溶解させる水素は、被測定水の溶存水素濃度が経時的に高まる様に、第一のマスフローコントローラー282でガス溶解モジュール284への水素の供給量を調節した。被測定水流通管20から被測定水を任意の時刻に採取し、溶存窒素濃度及び溶存酸素濃度をDO/DN計(model−3621、株式会社ハックウルトラ製)により測定した。その結果を表1に記載する。
なお、被測定水の溶存水素濃度は、MF膜装置266への通水量と第一のマスフローコントローラー282での水素ガス供給量から算出した(以降において同じ)。
【0050】
(実施例1)
実験例1と同様にして処理した脱気水の一部を第一のガス溶解モジュール284に供給すると共に、水素ボンベ280から水素ガスを第一のガス溶解モジュール284に供給し、脱気水に水素を溶解した水素溶解水を得た。加えて、脱気水の一部を第二のガス溶解モジュール294に供給すると共に、酸素ボンベ290から酸素ガスを第二のガス溶解モジュール294に供給し、脱気水に酸素を溶解させた酸素溶解水を得た。得られた水素溶解水及び酸素溶解水を混合した後MF膜装置266に流通させ、溶存水素濃度11質量ppbの被測定水とした。次いで、得られた被測定水の一部を被測定水供給管22から溶存窒素濃度測定装置10に導入し、Pd充填塔(溶存水素除去手段11)に流速:120L/h(SV=400(/h))で通水して、溶存水素除去工程を行った。ここで、SVとは、Pd樹脂の単位体積(L)に対して1時間に流通させる流量(L/h)で表される。溶存水素除去工程後、熱伝導度式検出器12により、被測定水の溶存窒素濃度を測定した。これらの作業を2回行い、その測定結果を溶存酸素濃度の測定結果と併せて表2に記載する。
【0051】
(実施例2)
脱気水に水素ガスを溶解しなかった以外は、実施例1と同様にして被測定水の溶存窒素濃度及び溶存酸素濃度を測定し、その測定結果を表2に記載する。
【0052】
(比較例1)
Pd充填塔に被測定水を通水しなかった以外は、実施例1と同様にして被測定水の溶存窒素濃度及び溶存酸素濃度を測定し、その測定結果を表2に記載する。
【0053】
(参考例1)
Pd充填塔に被測定水を通水しなかった以外は、実施例2と同様にして被測定水の溶存窒素濃度及び溶存酸素濃度を測定し、その測定結果を表2に記載する。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
表1のとおり、実験例1では被測定水の溶存窒素濃度は0.9〜1.3質量ppmであるにもかかわらず、被測定水中の溶存水素濃度の上昇に伴って、溶存窒素濃度の測定値も上昇していた。このことから、溶存水素が存在する被測定水の溶存窒素濃度を熱伝導度式検出器で測定すると、実際の溶存窒素濃度に対し正に大きな誤差が生じることが判った。
【0057】
表2のとおり、Pd充填塔に通水して溶存水素除去を行った後、熱伝導度式検出器で溶存窒素濃度を測定した実施例1、2は、溶存窒素濃度が1.1〜1.3質量ppmという測定値であった。被測定水の実際の溶存窒素濃度が0.9〜1.3質量ppmであることを考慮すると、実施例1、2は、Pd充填塔に通水する前の溶存水素の有無にかかわらず、被測定水の溶存窒素濃度を正確に測定できていると推測できる。一方、溶存水素濃度が1.1×10質量ppbの被測定水をPd充填塔に通水せずに、熱伝導度式検出器で溶存窒素濃度を測定した比較例1では、溶存窒素濃度の測定値が6.9質量ppm、7.2質量ppmとなっていた。このことから、被測定水をPd充填塔に通水して溶存水素を除去した後、熱伝導度式検出器で溶存窒素濃度を測定することで、正確かつ簡便に溶存窒素濃度を測定できることが判った。
【符号の説明】
【0058】
10 溶存窒素濃度の測定装置
11 溶存水素除去手段
12 熱伝導度式検出器
14 脱水素水供給管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去工程と、前記溶存水素除去工程の後、熱伝導度式検出器により被測定水の溶存窒素濃度を測定する測定工程とを有する、溶存窒素濃度の測定方法。
【請求項2】
前記溶存水素除去工程は、白金族触媒に被測定水を接触させて被測定水の溶存水素を除去する、請求項1に記載の溶存窒素濃度の測定方法。
【請求項3】
被測定水に酸素を添加する酸素添加工程を有する、請求項2に記載の溶存窒素濃度の測定方法。
【請求項4】
被測定水の溶存水素を除去する溶存水素除去手段と、熱伝導度式検出器と、前記溶存水素除去手段で処理した水を前記熱伝導度式検出器に供給する手段とを有する、溶存窒素濃度の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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