説明

溶接ビード除去装置

【課題】溶接後の金属表面にゆがみや反りがある場合にも削り残しや削り過ぎのない溶接ビードの除去装置を提供し、板状の被加工物にも手軽に使用でき、作業にともなう肉体の負担が軽い溶接ビードの除去装置を実現させること。
【解決手段】
架台に切削刃物を持つ回転軸を取り付けるとともに、切削刃物側方に被加工物押さえロールを回動自在に取り付け、切削刃物と被加工物押さえロールを一体的に被加工物に押圧する被加工物押圧機構と押圧される被加工物の反力受圧板を持つ溶接ビード除去装置とする。上記のものに切削刃物先端に対する被加工物押さえロールの突出量を変化させる方法による切削深さ調節機構を加え、前記切削刃物を研削砥石に置き換えたり、被加工物の固定機構と被加工物送り機構を加えたりした溶接ビード除去装置とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削加工および研削加工による溶接ビード除去装置に関するものである。本来の意味では切削加工は刃物による加工方法であり、研削加工は研磨具による加工方法であるが、以下の記載においては、説明すべき装置の機構自体に際立った差異がないところから、区別する必要がある場合を除いて研削は切削に含まれるものとする。
【背景技術】
【0002】
金属同士の接合方法としての溶接は、強い接合強度が容易に得られることから非常に有用なものであり、金属の様々な接合局面において各種方法の溶接が採用されている。これら種々の溶接のうち多くの場合に、溶接後の金属表面接合部付近に主として溶加金属から成る溶接ビードと呼ばれている金属の盛り上がりが見られ、場合によっては窪みが発生する。このうちの窪みについては、接合部強度の低下を招くのでここでは論外であるが、接合部付近の溶接ビードと呼ばれている金属の盛り上がりは、溶接後に組み合わせる他の部材との関係や美観の上から好ましくないことが多くある。
【0003】
上記の場合には何らかの方法で溶接ビードを除去する必要があり、通常は砥石を用いて研削したり刃物で切削したりする方法が採られる。本発明の溶接ビード除去装置は鋼管に用途を限定するものではないが、鋼管の外面ビードを除去するものとして、次のものが提案されている。
【特許文献1】特開昭59−209711号公報
【特許文献2】特開平5−131316号公報特許文献1および2のものは、本発明のように回転軸に取り付けた刃物や研磨具を用いるものではなく、回転しないバイト状刃物を溶接ビードに食い込ませて削り取る方式のものであり、バイト状刃物には多大な反力が生じるため刃物取り付け部付近の構造的な堅牢さを確保するには大掛かりな装置を必要とするものである。また、同様の理由から、被加工物自体が強靭でなければ使用できないものである。
【0004】
【特許文献3】特開昭60−191757特許文献3のものは、溶接ビードをエンドレス研磨ベルトで研削するものである。エンドレス研磨ベルトは担体の表面に研磨砥粒を付着させるので一般に費用に比較して寿命が短く研削効率が悪いという欠点がある。
【0005】
【特許文献4】特開昭54−53660号公報
【特許文献5】特開2005−150369号公報特許文献4および5のものは回転刃物の一種であるミーリングカッターを用いる溶接ビード切削装置に関するものであるが、いずれも鋼管の溶接ビードを除去するもので板状の部位に溶接ビードがあるものには適応できない。また、装置自体が大掛かりなものになる欠点もある。
【0006】
金属同士を溶接すると、溶接時に高温に晒された中心部分が常温に戻る際に収縮するのに対し、溶接時に高温に晒されなかった周辺部分は寸法変化が少なく溶接部分に歪みが発生するので、溶接後の金属にはゆがみや反りが生じるが、溶接母材が板状である場合や部材の厚さが薄い場合、また溶接時に加えられた熱量が大きい場合には特にゆがみや反りの量が大きい。このような原因で溶接後の金属表面にゆがみや反りがある場合、従来の溶接ビードを除去する機械では研削や切削の際に削り残しや削り過ぎの部分ができることから金属表面の一様な研削や切削が困難であった。このため溶接ビードを除去するには簡単な機械や工具を使用する手作業に頼るのが最も一般的であり、これには騒音とともに金属粉の飛散する環境での肉体を駆使しての作業となるのが現状であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
発明が解決しようとする課題は、溶接後の金属表面にゆがみや反りがある場合にも削り残しや削り過ぎのない溶接ビードの除去装置を提供することであり、溶接ビードの除去時の作業環境を改善でき、しかも板状の被加工物にも手軽に使用でき、作業にともなう肉体の負担が軽い溶接ビードの除去装置を実現させることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を達成するために、架台に動力により回転する切削刃物を取り付けるとともに、切削刃物側方に被加工物押さえロールを回動自在に取り付け、上記の切削刃物と被加工物押さえロールを一体的に被加工物に押圧する被加工物押圧機構と押圧される被加工物の反力受圧板を持つことを特徴とする溶接ビード除去装置とした。
【0009】
また、上記のものに切削刃物先端に対する被加工物押さえロールの突出量を変化させる方法による切削深さ調節機構を加えた溶接ビード除去装置としたり、前記切削刃物を研削砥石に置き換えた溶接ビード除去装置としたりした。
【0010】
さらに、前記のものに、被加工物の固定機構と被加工物送り機構を加えた溶接ビード除去装置とした。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、溶接後の金属表面にゆがみや反りがある場合にも削り残しや削り過ぎのない溶接ビード切削装置を提供し、溶接ビードの切削作業環境を改善するとともに、作業にともなう肉体の負担が軽い溶接ビード除去装置を実現させた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明を実施するための最良の形態を図に基づいて説明する。図1は、本発明の溶接ビード除去装置1を示す図である。図1では、架台2に動力により回転する切削刃物3を取り付けるとともに、上記の切削刃物3側方に被加工物4押さえロール5を回動自在に取り付けるが、図1のものでは、被加工物4押さえロール5は溶接ビード7を中心にこれを跨ぐように複数個取り付けて被加工物4を反力受圧板9に向かって強く押し付けることができる配置にしている。
【0013】
また、切削刃物3と被加工物4押さえロール5を被加工物4から一定の距離に保って切削深さを設定する。これは切削刃物3と被加工物4押さえロール5の軸が平行である場合には切削刃物3と被加工物4押さえロール5の直径を調整することでも容易に実現できるが、ほかに切削刃物3と被加工物4との距離を調整する方法によっても良く、切削刃物3と被加工物4押さえロール5の軸が直交あるいは、直交に近い場合には、切削刃物3の突き出し量を調整することでも容易に実現できる。これらの調節がハンドルを回すなどして簡単に加減できる切り込み量調節機構を備えると好ましい。
【0014】
更に、切削刃物3と被加工物押さえロール5を一体的に被加工物に押圧する被加工物押圧機構6および、押圧される被加工物4の反力受圧板9を備えるが、反力受圧板9は切削加工の基準面となるので鋼など堅固な材料を用いて表面を平滑にして置き、場合によっては、溶接裏面に発生しがちな凸部が障害にならないように窪みを設ける。
【0015】
本発明の溶接ビード除去装置1を用いて金属表面の不要な溶接ビード7を除去しようとする場合、まず、図1で示すように、被加工物4の反力受圧板9上に被加工物4を置く。その後、図2で示すように、架台2上に切削刃物3と被加工物押さえロール5を回動自在に取り付けたものを被加工物押圧機構6で一体的に被加工物4に押圧し、切削刃物3を回転させながら溶接ビード7に沿って被加工物4上を移動させる。
【0016】
反力受圧板9上にある被加工物4は、切削刃物3側方の被加工物押さえロール5によって反力受圧板9に押し付けられるが、被加工物4押さえロール5は溶接ビード7を中心にして溶接ビード7を跨ぐように複数個取り付けてあるので、被加工物4を強く押圧することで被加工物4は反力受圧板9表面の平滑な形に倣うようになる。切削刃物3は被加工物4押さえロール5の中央に位置する溶接ビード7上にあるので、反力受圧板9表面の平滑な形に倣った被加工物4を精度良く切削することができる。この際、被加工物4押さえロール5先端からの切削刃物3の突き出す量を加減する機構を加えておくと、母材表面上に削り残す溶接ビード7の高さを調節することができる。
【0017】
一般に溶接された板の厚さが小さい場合には歪量が大きくなるが、この場合には板の剛性も小さいので被加工物押圧機構6による歪補正効果が大きい。また、溶接された板の厚さが小さい場合には切削時に刃物から発生する振動が被加工物4と共振して騒音の原因となるばかりか、被加工物4の振動が切削刃物3の寿命を著しく短縮させ、また、被加工物4の仕上がりを悪くする原因ともなっていたが、被加工物押圧機構6を備える本発明の溶接ビード除去装置1では、被加工物4押さえロール5が切削刃物3近くで被加工物4を強く押圧するので上記問題を解決できる。
【0018】
溶接された板の厚さが大きい場合には被加工物押圧機構6の押圧力を増すことによって被加工物4の歪補正を図るが、一般に板の厚さが大きい場合には溶接による歪量は少ないものとなり、被加工物4の振動も少なくなる。
【実施例1】
【0019】
図3は、本発明の溶接ビード除去装置1の1実施例を示す図である。本発明の溶接ビード除去装置1は、装備する切削刃物3を研削砥石11に置き換え、これに見合った回転数を与えることで研削方式の溶接ビード除去装置とすることができる。溶接ビード7の材質によっては研削方式の溶接ビード除去方法が優れている場合もある。
【実施例2】
【0020】
図4は、本発明の溶接ビード除去装置1の他の実施例を示す図である。被加工物送り機構13を加えた溶接ビード除去装置とすると、溶接ビードの除去作業を省力化あるいは自動化できるので作業者の負担が軽減され、作業環境も改善できる。この被加工物送り機構13は、図4のように、被加工物4を動かさずに、溶接ビード除去装置の架台2側を移動させる機構であってもよい。図では、架台2に動力により回転する切削刃物3を取り付けるとともに、切削刃物3側方に被加工物4押さえロール5を回動自在に取り付けるが、この押さえロール5が切削刃物3近くで被加工物4を強く押圧して切削刃物3の近辺では歪が補正され溶接ビード7が精度よく取り除かれている。また、押えロール5を上下させることで切削刃物3の突き出し量を加減できる切り込み量調節機構8を備えるので、母材表面上に削り残す溶接ビード7の高さを調節することができる。
【0021】
図5は、本発明の溶接ビード除去装置1の他の実施例を示す図である。被加工物4の形状に合わせた被加工物固定機構12と被加工物送り機構13を加えた溶接ビード除去装置とすると溶接ビード7除去作業を能率よくできる。図5は、被加工物4の例として、クレーンブームの溶接の際に生じた溶接ビード7を専用の被加工物固定機構12で固定している状況が示されている。被加工物4は紙面に対して垂直方向に固定されている筒状のものであり、流体の圧力で外に向かって伸張する固定具で反力受圧板9上に固定される方式の被加工物固定機構12を持つものである。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の溶接ビードの除去装置1は、被加工物固定機構12に工夫を加えることで板状に限らず筒状や複雑形状の被加工物4にも使用でき、先端工具を適宜選択することで鋳造物のバリ取り作業にも使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の溶接ビード除去装置を示す図である。
【図2】本発明の溶接ビード除去装置を示す図である。
【図3】本発明の溶接ビード除去装置の1実施例を示す図である。
【図4】本発明の溶接ビード除去装置の他の実施例を示す図である。
【図5】本発明の溶接ビード除去装置の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1 本発明溶接ビード除去装置
2 架台
3 切削刃物
4 被加工物
5 被加工物押さえロール
6 押圧機構
7 溶接ビード
8 切り込み量調節機構
9 反力受圧板
10 窪み
11 研削砥石
12 被加工物固定機構
13 被加工物送り機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
架台に動力により回転する切削刃物を取り付けるとともに、切削刃物側方に被加工物押さえロールを回動自在に取り付け、上記の切削刃物と被加工物押さえロールを一体的に被加工物に押圧する被加工物押圧機構と押圧される被加工物の反力受圧板を持つことを特徴とする溶接ビード除去装置。
【請求項2】
切削刃物先端に対する被加工物押さえロールの突出量を変化させる方法による切削深さ調節機構を備えた請求項1に記載の溶接ビード除去装置。
【請求項3】
前記切削刃物を研削砥石に置き換えた請求項1、もしくは、請求項2に記載の溶接ビード除去装置。
【請求項4】
被加工物の固定機構と被加工物送り機構を備えた請求項1、ないし請求項3のいずれかに記載の溶接ビード除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−23558(P2008−23558A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−198834(P2006−198834)
【出願日】平成18年7月21日(2006.7.21)
【出願人】(391021938)
【Fターム(参考)】