説明

溶接ワイヤ送給装置及びレーザ・アークハイブリッド溶接装置

【課題】レーザ・アークハイブリッド溶接において、安定したアークを形成させることにより溶接品質の向上が可能とされる溶接ワイヤ送給装置及びレーザ・アークハイブリッド溶接装置を提供すること。
【解決手段】溶接トーチ11に溶接ワイヤMを繰出ローラ25によって送給する溶接ワイヤ送給装置20であって、前記繰出ローラ25を前記溶接ワイヤMに向かって押圧する押圧手段26を有し、前記押圧手段26の押圧力を制御することにより前記溶接ワイヤMの送給速度を調整するように構成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、溶接トーチに溶接ワイヤを繰り出す溶接ワイヤ送給装置及びこの溶接ワイヤ送給装置を備えたレーザ・アークハイブリッド溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高密度の熱エネルギ源であることにより熱影響部が狭く、高品質・高効率の溶接が可能とされるレーザ溶接の利点と、消耗電極方式とすることにより広いギャップ裕度を得ることが可能であるというアーク溶接の利点とを同時に得ることが可能な溶接法として、溶接対象物の溶接部にアーク溶接によって溶融池を形成し、この溶融池にレーザ溶接のレーザ光を照射して溶接するレーザ・アークハイブリッド溶接に関する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このレーザ・アークハイブリッド溶接においては、例えば、MIG溶接機を用いる場合、アークにより溶融した溶接母材を溶滴の衝撃力及びプラズマの気流により掘り込んでその掘り込んだ凹部の底面部近傍に溶接ワイヤ送給装置から供給する溶接ワイヤの先端が位置するように調整してそこにレーザ光の焦点を合わせることが必要とされる。
【特許文献1】特開2005−238282号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、レーザ・アークハイブリッド溶接では、従来のアーク溶接に比較して熱量を1/5〜1/4に低減することが可能とされる一方で、溶接ワイヤ送給装置から供給される溶接ワイヤは一定速度で繰り出されているために、例えば、種々の要因によって溶接ワイヤの先端と溶接母材との相対的な位置関係が変わると溶接にともなうアークが不安定になって良好なビードが形成できなくなるという問題があった。
そのため、レーザ・アークハイブリッド溶接において、アークを安定化させて良好な溶接品質を得るために溶接ワイヤの先端を所定位置に調整させたいという技術的要請があった。
【0005】
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、レーザ・アークハイブリッド溶接において、安定したアークを形成させることにより溶接品質の向上が可能とされる溶接ワイヤ送給装置及びレーザ・アークハイブリッド溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
請求項1に記載の発明は、溶接トーチに溶接ワイヤを繰出ローラによって送給する溶接ワイヤ送給装置であって、前記繰出ローラを前記溶接ワイヤに向かって押圧する押圧手段を有し、前記押圧手段の押圧力を制御することにより前記溶接ワイヤの送給速度を調整するように構成されていることを特徴とする。
【0007】
請求項4に記載の発明は、レーザ・アークハイブリッド溶接装置であって、請求項1から請求項3のいずれかに記載の溶接ワイヤ送給装置を備えることを特徴とする。
【0008】
この発明に係るワイヤ送給装置及びレーザ・アークハイブリッド溶接装置によれば、押圧手段を制御して、繰出ローラによる溶接ワイヤの押圧力が制御されるので、溶接ワイヤの送給速度を調整することが可能とされ、安定したアークを得ることができる。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の溶接ワイヤ送給装置であって、前記溶接トーチから突出する前記溶接ワイヤの長さを検出する突出量検出手段を有し、前記突出量検出手段が検出した前記溶接ワイヤの長さに対応して押圧力を制御することを特徴とする。
【0010】
この発明に係る溶接継手構造によれば、突出量検出手段が検出した溶接ワイヤの長さに基づいて溶接ワイヤの送給速度が制御されるので、溶接ワイヤの先端位置を所定の位置に調整することができる。
その結果、アークを形成することが可能となる。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の溶接ワイヤ送給装置であって、前記突出量を検出する突出量検出手段を有し、前記押圧力は、前記溶接ワイヤの突出量を一定に維持するように制御されることを特徴とする。
【0012】
この発明に係る溶接ワイヤ送給装置によれば、溶接トーチの先端部から突出される溶接ワイヤの長さが一定に維持されるので、溶接時のアークを安定させることが可能となる。
その結果、良好なビードが形成されて溶接品質を向上することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る溶接ワイヤ送給装置によれば、溶接ワイヤの送給速度を調整するように構成されているので、溶接ワイヤの先端を所定位置に調整してアークを安定化させることができる。その結果、溶接品質を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図1を参照し、この発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置及び溶接ワイヤ送給装置の一例を示す概略図であり、符号1はレーザ・アークハイブリッド溶接装置を、符号20はワイヤ送給装置を示している。
レーザ・アークハイブリッド溶接装置1は、図1に示すように、MIG溶接機10と、溶接ワイヤ送給装置20と、レーザ溶接機30とを備えている。
【0015】
MIG溶接機10は、溶接母材Wの溶接部との間にアークを形成して熱エネルギを発生する溶接トーチ11と、溶接機本体12とを備えており、溶接機本体12に収納された図示しない電源部から溶接トーチ11に溶接電力を供給するようになっている。
【0016】
また、溶接トーチ11には、例えば、図示しないホースを経由してアルゴンガス等の不活性ガスが供給されるとともに、溶接ワイヤ送給装置20から溶接ワイヤMが供給され、供給された溶接ワイヤMは溶接トーチ11のノズル先端から突出し、電源部により電圧が印加されると溶接ワイヤMと溶接母材との間にアークが形成され溶接ワイヤM及び溶接母材Wが溶融接合されるようになっている。
【0017】
ワイヤ送給装置20は、例えば、溶接ワイヤMが巻回されたリール部21と、ワイヤガイド管22と、送給制御機構23とを備え、送給制御機構23は、繰出ローラ25と、エアシリンダ26と、CCDカメラ(突出量検出手段)27と、制御部28とを有している。
【0018】
繰出ローラ25は、溶接ワイヤMをその長手方向に移動させるために図示しない駆動源により回転力が付与される駆動ローラ25Aと、溶接ワイヤMを挟んで駆動ローラ25Aと対向配置される押圧ローラ25Bとを備え、押圧ローラ25Bには溶接ワイヤMと反対側にエアシリンダ26が設けられ、溶接ワイヤMへの押圧力がエアシリンダ26により制御可能とされている。
【0019】
CCDカメラ27は、溶接トーチ11のノズル先端から突出する溶接ワイヤMに向けられて撮像した溶接ワイヤMの画像を制御部28に伝送するようになっている。
制御部28は、CCDカメラ27から送られた画像を画像解析して、ノズル先端から突出する溶接ワイヤMの長さLを算出するとともにこの長さLに基づいて、例えば、エアシリンダ26にエアを供給する図示しない圧力調整弁の開度を制御することによりエアシリンダ26の押圧力を調整し、溶接ワイヤMの送給速度及びノズル先端から突出する溶接ワイヤMの長さLを調整するようになっている。
この実施形態において、溶接ワイヤMの長さL(突出量)は一定に維持されるようになっている。
【0020】
レーザ溶接機30は、レーザ発振器31と、レーザ伝送用ファイバー32と、レーザトーチ33とを備え、レーザ発振器31で発振、生成されたレーザ光がレーザ伝送用ファイバー32を経由してレーザトーチ33から照射されるようになっている。
【0021】
次に、レーザ・アークハイブリッド溶接装置1及びワイヤ送給装置20の作用について説明する。
1)まず、溶接母材Wの溶接部に向かって溶接トーチ11及びレーザトーチ33を配置し、MIG溶接機10及びレーザ溶接機30を起動する。溶接ワイヤ送給装置20は、MIG溶接機10の起動に連動して起動される。
2)MIG溶接機10は、溶接ワイヤ送給装置20から供給される溶接ワイヤMが溶接トーチ11の先端ノズルから送り出され、溶接ワイヤMと溶接母材Wとの間でアークを形成して溶接ワイヤM及び溶接母材とによる溶接が行なわれ、溶接作業の進展に対応して溶接ワイヤ送給装置20から溶接ワイヤMが供給される。
3)レーザ溶接機30は、レーザ発振器31で発振、生成されたレーザ光がレーザ伝送用ファイバー32を経由してレーザトーチ33に伝送されレーザトーチ33から溶接母材Wの溶接部に照射される。このレーザ光は、溶融池の底面部近傍において溶接ワイヤMに照射される。
4)溶接トーチ11から突出した溶接ワイヤMは、CCDカメラ27により撮像され、その画像が制御部28に送られる。
5)溶接ワイヤMの突出量が変動すると、制御部28においてCD27の画像から算出される溶接ワイヤMの長さLに基づいて圧力調整弁の開度が制御される。
溶接ワイヤMの長さLが短くなるとエアシリンダ26の圧力を低くして繰出ローラ25による送給速度を速くする制御を行ない、溶接ワイヤMの長さLが長くなるとエアシリンダ26の圧力を高くして繰出ローラ25による送給速度を遅くする制御を行い、溶接ワイヤMの突出量を一定に維持する。
6)溶接ワイヤMの突出する長さLが一定に維持されるので溶接にともなうアークが安定する。
【0022】
上記実施の形態に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置1及びワイヤ送給装置20によれば、エアシリンダ26を制御して繰出ローラ25による溶接ワイヤMの押圧力を制御するので溶接ワイヤMの送給速度を調整することができる。
また、溶接トーチ11のノズル先端から突出する溶接ワイヤMの長さLを調整するとともに、その長さLを一定に維持することができる。
その結果、溶接ワイヤMの先端を所定の位置に調整して安定したアークを形成することが可能となり、レーザ・アークハイブリッド溶接において良好なビードを形成することが可能となる。
【0023】
なお、この発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の変更をすることが可能である。
例えば、上記実施の形態においては、押圧手段がエアシリンダ26により構成される場合について説明したが、モータやその他のアクチュエータを用いて構成してもよい。
【0024】
また、上記実施の形態においては、突出量検出手段がCCDカメラ27とされ、CCDカメラ27で得た溶接ワイヤMの画像を制御部28において画像処理することにより溶接トーチ11のノズル先端から突出する溶接ワイヤMの長さを検出する場合について説明したが、例えば、光学的手段、電磁気的手段等の他の手段により溶接ワイヤの突出量を検出する構成としてもよいし、アークの電流等、アークをモニタリングした結果に基づいて溶接ワイヤMの送給速度、突出量等を制御してもよい。
【0025】
また、上記実施の形態においては、溶接ワイヤ送給装置20が溶接トーチ11から突出する溶接ワイヤMの長さL(突出量)を一定に調整する場合について説明したが、例えば、溶接トーチ11が溶接母材Wに対する距離を変動するような場合において、溶接ワイヤMの長さLに代えて、溶接ワイヤMの溶接母材に対する先端の相対的位置(例えば、ギャップ)を維持するように調整する制御をしてもよい。
また、溶接ワイヤMの送給速度を調整するために押圧手段の押圧力を制御する構成としてもよい。
また、押圧手段による送給速度に関して、上記のようなモニタリングによるフィードバック制御に代えて、シーケンス制御等による送給速度の制御を行なうことも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーザ・アークハイブリッド溶接装置及び溶接ワイヤ送給装置の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
W 溶接母材
M 溶接ワイヤ
L 溶接ワイヤMの長さ(溶接ワイヤMの突出量)
1 レーザ・アークハイブリッド溶接装置
10 MIG溶接機
11 溶接トーチ
20 溶接ワイヤ送給装置
25 繰出ローラ
26 エアシリンダ(押圧手段)
27 CCDカメラ(突出量検出手段)
28 制御部
30 レーザ溶接機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチに溶接ワイヤを繰出ローラによって送給する溶接ワイヤ送給装置であって、
前記繰出ローラを前記溶接ワイヤに向かって押圧する押圧手段を有し、
前記押圧手段の押圧力を制御することにより前記溶接ワイヤの送給速度を調整するように構成されていることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項2】
請求項1に記載の溶接ワイヤ送給装置であって、
前記溶接トーチから突出する前記溶接ワイヤの長さを検出する突出量検出手段を有し、
前記突出量検出手段が検出した前記溶接ワイヤの長さに対応して押圧力を制御することを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項3】
請求項2に記載の溶接ワイヤ送給装置であって、
前記突出量を検出する突出量検出手段を有し、
前記押圧力は、
前記溶接ワイヤの突出量を一定に維持するように制御されることを特徴とする溶接ワイヤ送給装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の溶接ワイヤ送給装置を備えることを特徴とするレーザ・アークハイブリッド溶接装置。

【図1】
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【公開番号】特開2010−99710(P2010−99710A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274537(P2008−274537)
【出願日】平成20年10月24日(2008.10.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】