説明

溶接構造体の製造方法

【課題】片面に予め塗装が施された塗装金属板と、塗装が施されていない非塗装金属板を電気抵抗溶接して溶接構造体を製造したときに、塗装金属板の塗装面を変色させることなく溶接接合できる溶接構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】金属板同士を溶接して溶接構造体を製造するにあたり、第一面に塗装が施された塗装金属板と、第一面に錐状の凸部を設けた非塗装金属板を準備し、前記非塗装金属板の第一面とは反対側の第二面を前記塗装金属板の第一面とは反対側の第二面に当接させ、前記凸部に電気抵抗溶接用の電極を当てて電気抵抗溶接を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属板同士を電気抵抗溶接して溶接構造体を製造する方法に関するものであり、詳細には、片面に予め塗装が施された塗装金属板と、非塗装金属板を電気抵抗溶接して溶接構造体を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
机や書棚、キャビネットなどの家具は、強度を確保するために、非塗装金属板(例えば、鋼板)同士を電気抵抗溶接によって接合し、組み立てられた後、外観を良好なものとして意匠性を高めるために、表面にスプレーやはけ塗り等によって塗装が施される。しかし、生産性の向上やコスト削減のために、片面に予め塗装が施された塗装金属板(プレコート金属板と呼ばれることがある。)と非塗装金属板を電気抵抗溶接して接合し、組み立てることが試みられている。
【0003】
片面に予め塗装が施された塗装金属板と、塗装が施されていない非塗装金属板を電気抵抗溶接して溶接構造体を製造する技術として、例えば、特許文献1、2が知られている。特許文献1には、少なくとも片面に塗装が施された塗装板の非塗装面に、板材を重ね合わせ、塗装板の塗膜を除いた箇所に電気抵抗溶接用の電極を当接させて電気抵抗溶接を行なうことが開示されている。特許文献2には、金属板の一部に、一般部より一段高い座面を形成し、この座面に電極を加圧接触させて座面を押しつぶすように溶接することを特徴とするシリーズスポット溶接方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−210564号公報
【特許文献2】特開2002−239742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし上記特許文献1の技術では、電気抵抗溶接を行なうために金属面を露出させなければならず、操作が煩雑となる。また、上記特許文献2の技術では、座面の周縁部よりも中央部が先に押し潰されるため、溶接時に形成されるナゲット周辺に空隙が発生し、溶接強度が低下することがある。
【0006】
また、溶接時に発生する熱によって塗装膜が熱影響を受けると、塗装膜は変色し、意匠性が劣化するという問題も生じる。そのため塗装金属板と非塗装金属板を溶接して溶接構造体を製造する技術は、上述した特許文献1や2の技術が提案されているものの、塗装金属板の意匠性を劣化させることなく、塗装金属板と非塗装金属板を溶接して溶接構造体を製造することは困難であり、未だ実用化されていないのが実情である。
【0007】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、片面に予め塗装が施された塗装金属板と、塗装が施されていない非塗装金属板を電気抵抗溶接して溶接構造体を製造したときに、塗装金属板の塗装面を変色させることなく溶接接合できる溶接構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶接構造体の製造方法とは、第一面に塗装が施された塗装金属板と、第一面に錐状の凸部を設けた非塗装金属板を準備し、前記非塗装金属板の第一面とは反対側の第二面を前記塗装金属板の第一面とは反対側の第二面に当接させ、前記凸部に電気抵抗溶接用の電極を当てて電気抵抗溶接を行なう点に要旨を有する。
【0009】
前記塗装金属板の厚みは、例えば、0.8mm以上で、前記非塗装金属板の厚みは、例えば、0.6mm以上である。前記塗装金属板および/または前記非塗装金属板の母材は、鋼板であってもよい。この鋼板は、亜鉛めっき鋼板であってもよい。前記塗装金属板に設けられた塗装膜は、例えば、熱硬化性樹脂膜が挙げられる。
【0010】
本発明には、上記の製造方法で得られた溶接構造体を含む家具も包含される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第一面に錐状の凸部を設けた非塗装金属板を準備し、この非塗装金属板の第二面(第一面とは反対側の面)を、片面に塗装が施された塗装金属板の非塗装面(以下、第二面と呼ぶことがある。)に当接させ、凸部に電気抵抗溶接用の電極を当てて電気抵抗溶接を行なっているため、溶接時に非塗装金属板の第二面と塗装金属板の第二面の間に発生する熱を、非塗装金属板に設けられた凸部の底面周縁に分散させることができる。その結果、塗装金属板が溶接時に局所的に加熱されることを防止できるため、溶接熱が塗装金属板内を塗装面まで伝導して塗装膜に熱影響を与えて変色するのを防止でき、意匠性に優れた溶接構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、溶接構造体を製造するときの過程を示した説明図である。
【図2】図2は、図1(a)の拡大図である。
【図3】図3は、図1(a)に示した非塗装金属板2の拡大図である。
【図4】図4は、非塗装金属板2として、平面状の非塗装金属板2を用いた構成例を示す説明図である。
【図5】図5は、図2に示した積層体の塗装面(第一面)1cの下に保護フィルム5を敷設した構成例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、片面に塗装が施された塗装金属板(即ち、塗装膜が設けられた金属板)と、非塗装金属板を溶接したときに、塗装金属板に設けられた塗装膜が溶接時に熱影響を受けて変色するのを防止し、塗装金属板の意匠性が良好な溶接構造体を製造する方法について鋭意検討を重ねてきた。その結果、第一面に錐状の凸部を設けた非塗装金属板を準備し、この非塗装金属板の第二面を、塗装金属板の第一面(塗装面)とは反対側の第二面に当接させて積層体とし、非塗装金属板に設けた凸部に電気抵抗溶接用電極を当てて電気抵抗溶接を行なえば、溶接時に発生する熱を分散させることができるため、塗装面の意匠性を劣化させることなく溶接構造体を製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
以下、本発明の溶接構造体を製造する方法について図面を参照しつつ具体的に説明するが、本発明は図示例に限定されるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0015】
図1は、本発明に係る溶接構造体を製造するときの過程を模式的に示した説明図であり、縦断面図で示している。図2は、図1(a)の拡大図である。図3は、図1(a)に示した非塗装金属板2の拡大図である。
【0016】
図中、1は塗装金属板、2は非塗装金属板、3は電気抵抗溶接用の電極を示している。塗装金属板1は、母材1aの片面に塗装が施されており、1bは塗装膜を示している。本明細書では、塗装が施された面を第一面1c、この第一面1cとは反対側の面を第二面(非塗装面)1dとする。非塗装金属板2には、錐状の凸部2aが設けられており、本明細書では、凸部2aが設けられた面を第一面2b、この第一面2bとは反対側の面を第二面2cとする。
【0017】
本発明では、図1(a)に示すように、第一面に塗装が施された塗装金属板1と、第一面に錐状の凸部2aを設けた非塗装金属板2を準備し、非塗装金属板2の第一面とは反対側の第二面を、塗装金属板1の第一面とは反対側の第二面に当接させて積層体とする。そして、非塗装鋼板2に設けた凸部2aに、電気抵抗溶接用の電極3aを当てて電気抵抗溶接を行なう。このとき他方の電極3bは、塗装金属板1の第二面(非塗装面)1dに当てる。電極3aを凸部2aに当てて電気抵抗溶接を行なうと、図2に示した凸部2aの周縁部2dと、塗装金属板1のうち前記周縁部2dと接する部位との間で、溶接電流が流れ、電気抵抗熱によって周縁部2dが加熱される。加熱された周縁部2dは、軟化する。更に溶接電流を流して電気抵抗溶接を続けると、凸部2aの周縁部2dから母線に沿って側面部へと電気抵抗熱が伝播し、凸部2aの側面部も軟化する。その結果、凸部2aを塗装金属板1側へ押すように凸部2aに当てられた電極3aに荷重を加えると、非塗装金属板2は周縁部2dから凸部2aの頂点に向かって徐々に潰れていき、図1(b)に示すように、塗装金属板1側へ押さえ付けられて凸部2aの高さは初期の高さより低くなる。そして、更に電流を流して電気抵抗溶接を続けると、図1(c)に示すように、凸部2aは完全に押し潰され、ナゲット2eが形成されて塗装金属板1と非塗装金属板2が溶接接合された溶接構造体4が得られる。このとき、凸部2aが潰された部分には、空隙は殆んどなく、例えば、上記特許文献2に示されているように、ナゲットの周辺には空隙は認められない。
【0018】
このように非塗装金属板2の第一面2bに凸部2aを設け、この凸部2aに電極3aを当てて電気抵抗溶接を行なうことで、電気抵抗熱が発生する領域を円周状(即ち、凸部2aの周辺部2d)にできるため、電気抵抗熱が一箇所に集中するのを防止できる。その結果、塗装金属板1の第二面1d側から母材1aを通って塗装金属板1の第一面(塗装面)1cへ伝熱する熱量の集中が減少するため、塗装金属板1に設けられた塗装膜1bは熱影響を受け難くなり、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cの意匠性は良好なままとなる。
【0019】
これに対し、後述する図4に示すように、塗装金属板1と、平面状の非塗装金属板2を重ね合わせた積層体を電気抵抗溶接すると、電気抵抗熱は電極3aを当てた部分に集中するため、局所的に高温に加熱され、この熱が塗装金属板1の母材1aを伝播して塗装膜1bまで集中した状態で到達する結果、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cの意匠性を劣化させてしまう。
【0020】
上記非塗装金属板2に設ける凸部の形状は、錐状であればよく、例えば、円錐がある。また、円錐が少し変形した楕円錐であってもよいし、三角錐や多角錐であってもよい。なお、形成のし易さから円錐が最も好ましい。
【0021】
錐状の凸部2aの断面形状を、図3を用いて具体的に説明する。図3中、tは非塗装金属板2の厚み、hは凸部2aの鉛直方向の高さ、θは凸部2aの頂点を通る鉛直方向の垂線と母線とのなす角度、wは凸部2aの底面の直径、を示している。
【0022】
本発明では、凸部2aの形状は、下記(1)式と(2)式を満足することが好ましい。また、(1)式と(2)式を満足する場合は、下記(3)式も満足することとなる。各式を規定した理由は下記の通りである。
0.5×t(mm)≦h≦3×t(mm) ・・・(1)
30°≦θ≦60° ・・・(2)
0.6×t(mm)≦w≦10.4×t(mm) ・・・(3)
【0023】
[(1)式について]
凸部2aの高さh(mm)は、非塗装金属板2の厚みt(mm)に対して0.5×t〜3×tであればよい。高さhが低過ぎると、溶接したときの電気抵抗熱を分散させることができず、塗装金属板1が局所的に高温に加熱されるため、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cが熱影響を受けて意匠性が劣化することがある。従って高さhは0.5×t以上、好ましくは1×t以上とする。しかし高さhが高過ぎると、凸部2aの押し込みが困難となり、ナゲット周辺に空隙が発生し、接合強度が確保できない。従って高さhは3×t以下、好ましくは2.5×t以下とする。
【0024】
[(2)式について]
凸部2aの頂点を通る鉛直方向の垂線と母線とのなす角度θは30°〜60°であればよい。角度θが小さ過ぎると、凸部2aの形状が鋭くなり過ぎて、溶接電流の分散状態が不均一となり、溶接抵抗熱の分散が不均一となる。そのため、局所的に高温になり、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cが熱影響を受けて意匠性が劣化することがある。従って角度θは30°以上、好ましくは40°以上とする。しかし角度θが大き過ぎると、凸部2aの形状が平坦になるため、凸部2aの底面の周縁部が大きくなる。そのため、凸部2aに電極aを当てて電気抵抗溶接を行なうと、上記特許文献2に示されているように、凸部2aの中央部のみが塗装金属板1に接してしまい、ナゲット周辺に空隙が発生して溶接強度を確保できなくなる。従って角度θは60°以下、好ましくは50°以下とする。
【0025】
[(3)式について]
凸部2aの底面の直径(開口径)wは、凸部2aの高さhと角度θが決定されると自ずと決まるが、0.6×t〜10.4×tであることが好ましい。直径wが小さ過ぎると高さhが高くなり過ぎるか、角度θが小さくなり過ぎる。従って直径wは0.6×t以上、好ましくは1×t以上とする。しかし直径wが大き過ぎると、高さhが低くなり過ぎるか、角度θが大きくなり過ぎる。従って直径wは10.4×t以下、好ましくは10.0×t以下とする。
【0026】
凸部2aのうち、第一面側の頂点は、鋭角でもよいが、通常、曲面になる。一方、凸部2aのうち、第二面側の頂点は、鋭角になっているが、曲面になっていてもよい。
【0027】
凸部2aは、例えば、先端が錐状の工具を非塗装金属板2に押し当てることによって形成できる。
【0028】
上記非塗装金属板2の素材は特に限定されないが、強度やコストの面から鋼板を用いることが好ましい。非塗装金属板2は、通常、塗装金属板1の補強のために当て板として用いられるからである。
【0029】
上記鋼板は、熱延ままの鋼板や冷延ままの鋼板でもよいが、鋼板の表面にめっき(例えば、亜鉛めっきや溶融亜鉛めっきなど)を施した鋼板でもよいし、めっき層を合金化した鋼板(例えば、合金化亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板など)でもよい。また、耐食性を向上させるために化成処理を施していてもよい。化成処理としては、リン酸塩処理やノンクロメート処理などが挙げられる。また、耐指紋性を向上させるための薄膜(クリア膜)や、導電性を付与するための薄膜を形成してもよい。
【0030】
上記非塗装金属板2の厚みは、例えば、0.6mm以上であればよい。薄過ぎると補強効果が得られない。従って厚みは0.6mm以上、好ましくは0.8mm以上とする。しかし、厚くなり過ぎると、溶接抵抗熱が伝播し難くなり、非塗装金属板2と塗装金属板1とを溶接できない。従って厚みの上限は1mm程度とする。
【0031】
一方、上記塗装金属板1は、上記非塗装金属板の片面(第一面)に塗装膜1bが施されていればよく、樹脂皮膜が形成されていればよい。樹脂皮膜としては、熱硬化性樹脂皮膜が好ましい。上記熱硬化性樹脂皮膜としては、例えば、ウレタン系樹脂皮膜、アミノプラスト系樹脂皮膜、シリコーン系樹脂皮膜、エポキシ系樹脂皮膜、アクリル系樹脂皮膜などの単独硬化型の熱・紫外線・電子線硬化性樹脂皮膜や、ポリエステル系樹脂皮膜、アクリル系樹脂皮膜、エポキシ系樹脂皮膜などの硬化剤によって硬化する熱硬化性樹脂皮膜などを用いることができる。
【0032】
上記樹脂皮膜は、単層であってもよいし、2層以上の複層であってもよい。
【0033】
なお、上記塗装金属板1の非塗装面(第二面)は、熱延ままや冷延ままでもよいが、めっき(例えば、亜鉛めっきや溶融亜鉛めっきなど)が施されていても良い。また、めっき層が合金化されていてもよい。また、耐食性を向上させるために化成処理が施されていてもよい。化成処理としては、上述したように、リン酸塩処理やノンクロメート処理などが挙げられる。また、耐指紋性を向上させるための薄膜(クリア膜)や、導電性を付与するための薄膜が形成されていてもよい。
【0034】
上記樹脂皮膜には、意匠用の着色顔料の他、無機粒子を配合していてもよい。無機粒子としては、例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム、非晶性シリカ、結晶性のガラスフィラー、カオリン、タルク、二酸化チタン、アルミナ、シリカ−アルミナ複合酸化物粒子、硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化リチウム、ゼオライト、硫化モリブデン、マイカなどが挙げられる。
【0035】
上記塗装膜(樹脂皮膜)の厚みは特に限定されず、上記塗装金属板1を例えば家具の素材として用いる場合には、10〜30μm程度とすればよい。
【0036】
上記塗装金属板1の厚みは、例えば、0.8mm以上であればよい。厚くなるほど金属板の剛性が高くなる。また、厚くなるほど溶接抵抗熱が塗装金属板1の第一面(塗装面)1cへ伝播し難くなるため、該第一面(塗装面)1cが熱影響を受けて意匠性が劣化するのを防止できる。従って厚みは、0.8mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは1.2mm以上とする。しかし母材1aが厚過ぎると重たくなるため、例えば、家具の素材として用いることが困難となる。従って厚みの上限は1.5mm程度である。
【0037】
上記非塗装金属板2の素地金属と上記塗装金属板1の素地金属は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0038】
電気抵抗溶接に用いる電極3は、公知のものを用いればよく、その素材は、例えば、純銅、クロム銅合金、ベリリウム銅、ジルコニウム銅、ジルコニウムクロム銅などが挙げられる。
【0039】
電極3の先端部分の形状も特に限定されず、例えば、JIS C9304で規定されているF形(平面形)、R形(ラジアス形)、D形(ドーム形)、DR形(ドームラジアス形)、CF形(円錐台形)、CR形(円錐台ラジアス形)、EF形(偏心形)、P形(ポイント形)、PD形(ポイントドーム形)、PR形(ポイントドームラジアス形)などが挙げられる。
【0040】
溶接条件は特に限定されないが、例えば、溶接電流を2〜3.5kA、通電時間を0.1〜1秒とすればよい。溶接は、電極3に30〜50kg程度の荷重を加え、凸部2aを押し込みつつ行なえばよい。
【0041】
電気抵抗溶接の溶接方法としては、スポット溶接を採用できる。具体的には、インダイレクトスポット溶接を採用できる。
【0042】
上記積層体を溶接するにあたっては、後述する図5に示すように、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cを保護するために、該第一面(塗装面)1cの下にクッション材を敷設することが好ましい。クッション材を敷設することで、溶接後の第一面(塗装面)1cに圧痕が発生するのを防止できる。そのため塗装金属板1の第一面(塗装面)1cの意匠性を更に向上させることができる。
【0043】
クッション材としては、溶接熱による熱影響を受けないように、耐熱性を有するものを用いることができ、例えば、樹脂製のフィルムを用いればよい。フィルムの素材としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、飽和ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、EVOH樹脂、EVA樹脂、アクリル樹脂、フッ素樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン等が挙げられる。また、これらの共重合体や、ブレンド物、グラフト物等、いずれも使用可能である。
【0044】
上記クッション材は、溶接時に塗装金属板1の第一面(塗装面)1cと床面との間に敷設すればよいが、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cにキズが付くのを防止するのも兼ねて、第一面(塗装面)1cの表面に、例えば、粘着性の樹脂製フィルムを貼り付けてもよい。
【0045】
以上のように、本発明に係る溶接構造体の製造方法によれば、塗装金属板と非塗装金属板を、塗装金属板の塗装面の意匠性を劣化させることなく溶接接合した溶接構造体を提供できる。そのため、本発明の製造方法は、例えば、机や書棚、キャビネットなどの家具を製造するときに採用できる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0047】
第一面に塗装が施された塗装金属板と、非塗装金属板を準備し、図2、図4、図5に示すように、非塗装金属板の第一面とは反対側の第二面を、塗装金属板の第一面とは反対側の第二面に当接させた。この積層体を電気抵抗溶接して溶接構造体4を作製した。図2、図4、図5中、1は塗装金属板、2は非塗装金属板、3は電気抵抗溶接用電極を示している。塗装金属板1は、母材1aの表面に塗装膜1bが設けられたものであり、塗装面(第一面)を1c、非塗装面(第二面)を1dとする。
【0048】
図2は、非塗装金属板2として、第一面に錐状の凸部を設けた非塗装金属板2を用いた構成例を示している。図2において、非塗装金属板2のうち、凸部を設けた面を第一面2b、第一面とは反対側の面を第二面2cとする。図4は、非塗装金属板2として、平面状の非塗装金属板2を用いた構成例を示している。図5は、図2に示した積層体の塗装面(第一面)1cの下に保護フィルム5を敷設した構成例を示している。
【0049】
本実施例で用いた塗装金属板1と非塗装金属板2は次の通りである。
【0050】
非塗装金属板2として、厚み(t)0.8mmの電気亜鉛めっき鋼板を用いた。なお、電気亜鉛めっき層は、鋼板の両面に形成されている。
【0051】
また、下記表1のNo.6〜12については、この電気亜鉛めっき鋼板に、円錐状の治具を押し付けて凸部を形成した。凸部の断面形状は、図3に示す通りであり、高さ(h)1.6mm、角度(θ)45°で、底面の直径(w)3.2mmとした。凸部の頂点には、曲率が0.5mm程度の曲面になっている。
【0052】
塗装金属板1は、上記非塗装金属板2の片面に、バーコーターで厚みが20μmとなるように塗料を塗布した後、焼付け炉に入れ、到達板温が230℃となるように加熱してこの温度で60秒間保持して焼付けを行なって作製した。
【0053】
塗料は、ポリエステル樹脂(東洋紡績製、「バイロン29XS(商品名)」)100質量部に、メラミン樹脂(住友化学製、「スミマールM−40ST(商品名)」)20質量部加えたものをバインダー樹脂として用い、更に二酸化チタン(テイカ製、「JR−603(商品名)」、平均粒径は0.28μm)を50質量%添加した。
【0054】
なお、図5に示した構成例では、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cの下に、厚み40μmのポリエチレン製フィルム(日本ユニカー製)を敷いた。
【0055】
用意した塗装金属板1と非塗装金属板2を上記図2、図4、図5に示すように重ね合わせ、次に示す条件で溶接を行なった。
【0056】
溶接試験機は、大同興業製のポータブルスポット溶接機(UNI-PROD 10 DIGITAL DELUXE)を用いた。電極3の材質は、陽極、陰極共に、クロム銅合金であり、電極3の先端は4mmφの曲面である。溶接は、電極3aに30〜50kgの荷重を加え、非塗装金属板2を塗装金属板1側へ押し込みながら行なった。溶接時の溶接電流(kA)と通電時間(秒)を下記表1に示す。なお、電極3bには、電極3bが塗装金属板1の第二面(非塗装面)1dから離れない程度の荷重を加えている。
【0057】
上記積層体を溶接して得られた溶接構造体4について、接合の可否と、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cにおける変色の有無を目視で観察して意匠性を評価した。また、意匠性として、第一面(塗装面)1cに圧痕が発生しているか否かも目視で観察した。
【0058】
《接合の可否》
接合の可否は、溶接構造体4に1kg程度の荷重を加えても金属板同士が離れなかった場合を合格(表1に「可」で示す。)、溶接構造体4を持ち上げただけで金属板同士が離れるか、1kg程度の荷重を加えたときに金属板同士が離れた場合を不合格(表1に「否」で示す。)として評価した。評価結果を下記表1に示す。
【0059】
《変色の有無》
塗装金属板1の第一面(塗装面)1cにおける変色の有無は、第一面(塗装面)1cを目視で観察したときに、変色が認められない場合を合格(表1に「無し」で示す。)、変色が認められた場合を不合格(表1に「有り」で示す。)として評価した。評価結果を下記表1に示す。なお、溶接前の塗装面は、白色であり、溶接時に熱の影響を受けると、塗装面はクリーム色〜黄色〜茶色へと変色する。
【0060】
《圧痕の有無》
また、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cにおける圧痕の有無を目視で観察した結果を下記表1に示す。なお、溶接構造体4には圧痕が発生していないことが望ましいが、圧痕が発生していても第一面(塗装面)1cに変色が認められないものを「意匠性良好(合格)」とする。
【0061】
下記表1から次のように考察できる。No.1〜5は、図4に示したように、平面状の非塗装金属板2を塗装金属板1の第二面に当接させた積層体を溶接した例である。No.1とNo.3は、溶接接合できているが、溶接後の第一面(塗装面)1cに変色が認められ、意匠性が劣化している。No.2は、溶接後の第一面(塗装面)1cに変色は認められないが、溶接接合できていない。No,4とNo.5は、溶接後の第一面(塗装面)1cに変色が認められるうえ、溶接接合できていない。
【0062】
No.6〜11は、図2に示したように、非塗装金属板2の第二面を塗装金属板1の第二面に当接させた積層体を溶接した例である。これらのうちNo.7〜9は、溶接後の第一面(塗装面)1cを変色させることなく、溶接接合できている。一方、No.6、10、11は、参考例である。No.6は、溶接電流が大き過ぎた例であり、溶接接合できているものの、溶接後の第一面(塗装面)1cに変色が認められた。No.10とNo.11は、溶接電流が小さ過ぎた例であり、溶接後の第一面(塗装面)1cに変色は認められないが、溶接接合できていない。
【0063】
なお、No.1〜11では、溶接後の第一面(塗装面)1cに圧痕が認められた。
【0064】
一方、No.12は、図5に示したように、塗装金属板1の第一面(塗装面)1cを保護するためのフィルムを第一面(塗装面)1cの下に敷設して溶接を行なったため、溶接後の第一面(塗装面)1cを変色させることなく溶接接合できており、しかも溶接後の第一面(塗装面)1cには圧痕も認められなかった。
【0065】
【表1】

【符号の説明】
【0066】
1 塗装金属板
1a 母材
1b 塗装膜
1c 塗装面
1d 非塗装面
2 非塗装金属板
2a 凸部
3 電気抵抗溶接用電極
4 溶接構造体
5 保護フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板同士を溶接して溶接構造体を製造する方法であって、
第一面に塗装が施された塗装金属板と、第一面に錐状の凸部を設けた非塗装金属板を準備し、前記非塗装金属板の第一面とは反対側の第二面を前記塗装金属板の第一面とは反対側の第二面に当接させ、前記凸部に電気抵抗溶接用の電極を当てて電気抵抗溶接を行なうことを特徴とする溶接構造体の製造方法。
【請求項2】
前記塗装金属板の厚みが0.8mm以上で、前記非塗装金属板の厚みが0.6mm以上である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記塗装金属板および/または前記非塗装金属板の母材が鋼板である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記塗装金属板および/または前記非塗装金属板の母材が亜鉛めっき鋼板である請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
前記塗装金属板に設けられた塗装膜が、熱硬化性樹脂膜である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法で得られた溶接構造体を含む家具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−227960(P2010−227960A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77092(P2009−77092)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】