説明

溶接用ソリッドワイヤ

【課題】極低温用鋼と同程度の低温靭性を有し、かつ優れた耐亀裂発生強度を有する溶接継手部を得ることのできる共金系溶接用ソリッドワイヤを提供する。
【解決手段】C:0.15%(質量%の意味。以下、同じ。)以下(0%を含まない)、Si:0.3%以下(0%を含まない)、Ni:8.0〜15.0%、Mn:0.1〜1.0%、O:0.015%以下(0%を含む)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、REM:0.005〜0.04%、Ca:0.0005〜0.008%および/またはMg:0.0005〜0.008%を合計で0.0005〜0.0120%含有し、残部が鉄および不可避不純物であることを特徴とする溶接用ソリッドワイヤである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9%ニッケル鋼に代表される極低温用鋼の溶接用ソリッドワイヤに関し、より詳細には極低温用鋼を溶接した場合に極低温特性に優れた溶接継手部を得ることのできる極低温用鋼溶接用共金系ソリッドワイヤに関する。以下では、溶接母材として9%ニッケル鋼を代表例として挙げて説明するが、これに限定する趣旨ではない。
【背景技術】
【0002】
極低温用鋼として代表的な9%ニッケル鋼は、高い耐力を有するとともに、およそ−196℃程度の極低温での靭性にも優れるため、LNG、液体窒素、また液体酸素などの貯蔵タンク等に広く用いられている。このような9%ニッケル鋼の特性を最大限生かすためには、9%ニッケル鋼を溶接した場合の溶接継手部にも同程度の特性が要求される。
【0003】
このような観点から、9%ニッケル鋼溶接用ワイヤとして、9%ニッケル鋼に類似した成分を有する溶接ワイヤ(いわゆる、共金系ワイヤ)を用いれば、極低温特性に優れた溶接継手部が得られるようにも考えられる。しかし、母材である9%ニッケル鋼の強度と低温靭性は適当な熱処理を施すことによって確保されているのであり、共金系ワイヤを用いて溶接した場合の溶接継手部は、溶接ままでは9%ニッケル鋼と同等の強度と低温靭性を確保することができない。さらに貯蔵タンク等の巨大構造物では溶接建造後の熱処理は実質上不可能であり、熱処理によって溶接継手部に前記特性を確保することは困難である。
【0004】
上記のような事情から、9%ニッケル鋼の溶接には高ニッケル合金ワイヤが多く使用されてきた。しかし、高ニッケル合金ワイヤを用いた溶接継手部は、低温靭性に優れるという利点を有するものの、引張強度、特に0.2%耐力が9%ニッケル鋼に比べてかなり低いという問題がある。その結果、強度を確保するために溶接構造物全体を厚肉にしなければならずコストが上昇してしまう他、高ニッケル合金と9%ニッケル鋼の熱膨張係数の差に起因する熱疲労の問題も生じてしまう。
【0005】
例えば、特許文献1では9%ニッケル鋼を始めとする超低温用鋼の溶接に用いるソリッドワイヤとして共金系溶接ワイヤの化学成分に着目している。具体的には、溶接ワイヤ中のニッケル、マンガン、硼素、および酸素などの含有量を適切な範囲に調整したものである。しかし、特許文献1ではJIS Z3111に準じたシャルピー衝撃試験によって破壊に至るまでのトータルの吸収エネルギーで低温靭性を評価するのみであり、後述するような亀裂の発生を反映した耐亀裂発生強度までは考慮されていない。
【0006】
また特許文献2では極低温用鋼と類似成分の共金系ワイヤを用い、溶接方法を工夫することによって溶接継手部の低温靭性を確保する技術が開示されている。しかし特許文献2も、特許文献1と同様のシャルピー衝撃試験や、COD試験により低温靭性を評価するのみであり、実際の溶接構造物の安全性を確保するために考慮されるべき亀裂発生の観点からの評価はなされていない。
【0007】
さらに特許文献3では、含Ni低温用鋼を共金系溶接材料を用いて溶接するに際し、短時間で熱処理して溶接部の低温靭性を改善する方法を開示している。しかし特許文献3においても実際の溶接構造物の安全性を確保するために考慮されるべき亀裂発生の観点からの評価はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−76452号公報
【特許文献2】特開昭53−118241号公報
【特許文献3】特開昭61−15925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は9%ニッケル鋼に代表される極低温用鋼と同程度の低温靭性を有し、かつ優れた耐亀裂発生強度を有する溶接継手部を得ることのできる共金系溶接用ソリッドワイヤを提供することにある。また本発明の別の目的は、前記ソリッドワイヤにより形成された溶接金属を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し得た本発明に係る溶接用ソリッドワイヤとは、C:0.15%(質量%の意味。以下、同じ。)以下(0%を含まない)、Si:0.3%以下(0%を含まない)、Ni:8.0〜15.0%、Mn:0.1〜1.0%、O:0.015%以下(0%を含む)、Al:0.1%以下(0%を含まない)、REM:0.005〜0.04%、Ca:0.0005〜0.008%および/またはMg:0.0005〜0.008%を合計で0.0005〜0.0120%含有し、残部が鉄および不可避不純物であることを特徴とするものである。
【0011】
本発明のソリッドワイヤは、更にTi:0.02〜0.10%を含有していても良い。
【0012】
本発明は、上記溶接用ソリッドワイヤにより形成された溶接金属も包含する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の溶接用ソリッドワイヤは、REM(希土類元素)を含有するとともにCaおよび/またはMgを含有しているため、REMの酸化物による低温靭性向上効果が有効に発揮される。すなわち、−196℃のレベルの極低温での靭性(シャルピー吸収エネルギー)を確保することに加えて、極低温での耐亀裂発生強度に優れた溶接継手部を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】計装化シャルピー衝撃試験によって得られる荷重−変位曲線を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、極低温用鋼と同等の極低温特性を有する溶接継手部を得ることのできる共金系ソリッドワイヤを実現すべくかねてより研究を重ねてきた。その結果、ソリッドワイヤ中に適切な量のREM(希土類元素)を含有させることによって、極低温での靭性と耐亀裂発生強度の両特性(以下ではまとめて「極低温特性」と呼ぶ場合がある)に優れた溶接継手部が得られることを見出し、その技術的意義が認められたので先に出願している(特願2008−241197号)。この技術の概要は、ソリッドワイヤ中に存在するREMは、溶接金属中に存在する微量の酸素と反応してREMの酸化物を形成する。REMの酸化物は他の酸化物と異なり、溶融した鉄合金との濡れ性が悪いため凝集しづらく、従って大きな酸化物に成長しないと考えられる。このような微細に分散したREM酸化物は破壊起点として作用することはなく、むしろ溶接凝固過程や凝固後の結晶粒成長を抑制するピン止め粒子として機能するため、溶接金属全体の強度や靭性を高めるのに有効に作用するというものである。
【0016】
また、特願2008−241197号(以下、「先の出願」と呼ぶ。)では溶接継手部の極低温特性の評価に際して、従来開示されていなかった新規かつ有益な評価の観点を導入している。従来は溶接継手部の評価はシャルピー衝撃試験やCTOD試験(COD試験とも言う)により行われることが多かった。これらの試験方法は、破壊に至るまでのトータルのエネルギー量や破壊に至った後の開口変位量を評価するものである。一方、実際に溶接構造物に荷重が負荷されると、まず亀裂が発生しその後に亀裂が伝播する。つまり従来の試験方法では亀裂の発生、伝播の過程といった、現実の破壊挙動に即した精緻な極低温特性を評価することは困難であった。そこで本発明者らは荷重−変位曲線によりシャルピー衝撃試験時の亀裂発生と伝播の過程を評価できる計装化シャルピー衝撃試験法に着目し、この測定法によって把握できる亀裂発生時の負荷を「耐亀裂発生強度」とし、溶接継手部の靭性評価の要素として採用している。
【0017】
ここで、先の出願ではTIG溶接や、アルゴンやヘリウムなどの不活性ガスをメインとした(例えば、不活性ガスが99.9体積%程度)を用いたMIG溶接を施すことを想定しており、このような場合に前記REM酸化物の効果が有効に発揮されることが確認されている。
【0018】
しかし、シールドガスとして、アルゴンに5体積%以下程度の少量のCO2を含むようなMIG溶接や、アルゴンに2体積%以下程度の少量のO2を含むようなMIG溶接においては、REM含有ソリッドワイヤを用いても、後記する実施例でも示すようにREM酸化物の効果が有効に発揮されない場合もある。
【0019】
そこで本発明者らは、シールドガスとしてアルゴンに少量のCO2やO2を含むようなMIG溶接を施した場合であっても、母材である極低温鋼と同等の極低温特性を有する溶接継手部を得ることのできる共金系ソリッドワイヤを実現すべく更に研究を重ねた。その結果、ソリッドワイヤに適切な量のREMを含有させるとともに、Caおよび/またはMgを含有させることにより、極低温特性に優れた溶接継手部が得られることを見出した。
【0020】
本発明において、ソリッドワイヤ中にREMとともに、Caおよび/またはMgを含有させることによって、極低温特性に優れた溶接継手部が得られるメカニズムは以下のように推定される。
【0021】
上述したように、先の出願ではワイヤ中にREMを含有させると、溶接金属中に含まれる微量の酸素と反応することによって、微細なREM酸化物が形成され、このREM酸化物のピン止め効果によって溶接継手部の極低温特性を確保している。一方、シールドガスに酸化性ガスとしてCO2やO2が含まれるMIG溶接では、CO2の場合はCO2→CO+Oとなることにより、O2の場合はO2→2OとなることによりO(酸素)が生成される。REMは脱酸能が高いため、このようにO(酸素)が過剰に生成されることによって、REMとO(酸素)との反応が劇的に進行しREM酸化物はスラグアウトしてしまう。すなわち、TIG溶接や、シールドガスとして不活性ガスをメインとしたMIG溶接を施した場合とは異なり、微細なREM酸化物を溶接金属中に残存させることができない。
【0022】
そこで本発明者らは、ソリッドワイヤ中にREMとともに、Caおよび/またはMgを含有させれば、Caおよび/またはMgが、REMや他の元素に優先して酸素と結びついて酸化物を形成し、スラグアウトすることを見出した。すなわち、REMの酸化物は溶接金属中に留まることが可能となり、REM酸化物による溶接継手部の極低温特性の向上効果が有効に発揮されると考えられる。
【0023】
本発明のソリッドワイヤの化学成分組成について以下に説明する。
【0024】
C:0.15%以下(0%を含まない)
Cは強度を向上させるのに有効な元素であるため、0.01%以上であることが好ましく、より好ましくは0.02%以上である。一方C量が過剰になると溶接金属の低温靭性が著しく低下する。そこでC量を0.15%以下と定めた。C量は好ましくは0.12%以下であり、より好ましくは0.1%以下である。
【0025】
Si:0.3%以下(0%を含まない)
Siは溶接作業性を向上させるのに有効な元素であるため、0.01%以上であることが好ましく、より好ましくは0.02%以上である。一方、Si量が過剰になると溶接金属の低温靭性が低下し、さらに高温割れ感受性を著しく高める。そこでSi量は0.3%以下と定めた。Si量は好ましくは0.2%以下であり、より好ましくは0.15%以下である。
【0026】
Ni:8.0〜15.0%
Niは溶接金属の低温靭性を確保する上で重要な成分である。そこでNi量を8.0%以上と定めた。Ni量は好ましくは9%以上であり、より好ましくは10%以上である。一方、Ni量が過剰になると、溶接継手の機械的強度が高くなりすぎることによって延性が極端に低下する。また、不安定な残留オーステナイトが生成し極低温下ではマルテンサイトに変態するため、溶接金属の低温靭性が低下する。そこでNi量を15.0%以下と定めた。Ni量は好ましくは14%以下であり、より好ましくは13%以下である。
【0027】
Mn:0.1〜1.0%
Mnは溶接作業性を改善するとともに脱酸効果、硫黄捕捉効果を発揮する元素である。そこでMn量を0.1%以上と定めた。Mn量は好ましくは0.2%以上であり、より好ましくは0.3%以上である。一方、Mn量が過剰になると不安定な残留オーステナイトが生成し、上記Niと同様に溶接金属の低温靭性が低下する。そこでMn量を1.0%以下と定めた。Mn量は好ましくは0.9%以下であり、より好ましくは0.8%以下である。
【0028】
O :0.015%以下(0%を含む)
O(酸素)は後述するREMやTiの酸化物を形成させるのに必要であるが、過剰になると溶接金属中に含まれる酸化物の個数密度が増加したり、凝集・合体することによる粗大化を招く。そこでO量は0.015%以下と定めた。O量は好ましくは0.013%以下であり、より好ましくは0.011%以下である。
【0029】
Al:0.1%以下(0%を含まない)
Alは脱酸作用を有する元素であり、ブローホール等の溶接欠陥を防止するのに有効な元素である。しかし過剰になると耐割れ性を著しく損なうため、Al量は0.1%以下(0%を含まない)とする。Al量は好ましくは0.08%以下、より好ましくは0.05%以下である。
【0030】
REM:0.005〜0.04%
REMは本発明において重要な作用を有する元素である。REMは溶接金属中に含まれる微量の酸素と反応して微細な酸化物を形成する。このような微細なREM酸化物は破壊起点としては作用せず、むしろ溶接凝固過程や凝固後の結晶粒成長を抑制するピン止め粒子として機能するため、溶接金属全体の強度や極低温特性を高めるのに有効に作用する。REM量が0.005%未満では、溶接金属の低温靭性には問題がないものの、耐亀裂発生強度が十分に確保できない。そこでREM量を0.005%以上と定めた。REM量は好ましくは0.008%以上であり、より好ましくは0.01%以上である。一方、REM量が過剰になると、破壊起点として作用する粗大REM酸化物の形成が促進されるため溶接金属の低温靭性および耐亀裂発生強度ともに低下してしまう。そこでREM量を0.04%以下と定めた。REM量は好ましくは、0.035%以下であり、より好ましくは0.03%以下である。なお、REMとは希土類元素のことであり、周期律表のLaからLuまでの15の元素を意味する。これらの元素はいずれも同等の効果を発揮するので、上記15の元素の中から適宜選択して1種の元素を用いても良いし、複数の元素を用いても良い。
【0031】
Ca:0.0005〜0.008%および/またはMg:0.0005〜0.008%を合計で0.0005〜0.0120%
Ca、Mgは、REMに優先して酸素と結びついてスラグアウトし、REM酸化物を溶接金属中に留めるために有効に作用する元素であり、本発明において重要な元素である。このような作用を有効に発揮されるため、Ca量、Mg量はいずれも0.0005%以上と定めた。Ca量、Mg量は好ましくはいずれも0.0010%以上、より好ましくは0.0020%以上である。一方、Ca量、Mg量が過剰になると、粗大な酸化物が増加し、溶接金属の低温靭性を低下させてしまう。従って、Ca量、Mg量はいずれも0.008%以下と定めた。Ca量、Mg量は好ましくはいずれも0.007%以下であり、より好ましくは0.006%以下である。また、低温靭性を劣化させる粗大なCa系酸化物の形成はCa含有量に影響されるのであり、同様に低温靭性を劣化させる粗大なMg系酸化物の形成はMg含有量に影響されるのであり、CaとMgを複合添加する場合であってもCa量とMg量の上限をいずれも0.008%以下とすればよいが、Ca量とMg量の合計量が過剰になると、CaとMgの両方を含んだ粗大な複合酸化物が形成されるため、合計量の上限は0.0120%以下と定めた。
【0032】
本発明のソリッドワイヤの基本成分は上記の通りであり、残部は実質的に鉄である。但し、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる不可避不純物が含まれることは、当然に許容される。不可避不純物としては例えばP、Sなどの他、特に含有量に留意すべき元素としてBが挙げられる。
【0033】
Bは、含有量が過剰となると極低温靭性を確保する上で極めて有害な不純物となる。すなわち、B量が0.003%を超えると高温割れ感受性が増大する他、焼入性が向上して極低温靭性が低下する。このため、B量は実質的に零(測定限界以下)とするのが理想であるが、一般にBはワイヤ原料として主要な電解鉄等の原料中に不純物として混入するのであり、真空脱ガス法などの高清浄溶解法を採用したとしても、Bを完全に除去することは困難である。従って、Bを含有する場合はその上限を0.003%以下とする。
【0034】
さらに本発明のソリッドワイヤは、必要に応じて、Tiを含有していても良い。
【0035】
Ti:0.02〜0.10%
Tiは、前述のREMほど顕著な効果ではないものの、REMと同様に微細な酸化物を形成するものであり、REMと同時に含有させることによって、極低温での溶接金属の靭性と耐亀裂発生強度を向上させることができる。そこでTi量は0.02%以上とすることが好ましい。Ti量はより好ましくは0.03%以上であり、さらに好ましくは0.05%以上である。一方、Ti量が過剰になると、極低温での溶接金属の靭性と耐亀裂発生強度が低下する。そこでTi量は0.10%以下とすることが好ましい。Ti量はより好ましくは0.08%以下である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0037】
C:0.05%、Si:0.29%、Mn:0.38%、Ni:9.1%、P:0.005%、S:0.004%、O:0.0020%、残部:鉄および不可避不純物である9%ニッケル鋼を母材とし(板厚:16mm)、45°V字開先加工を施した。次いで、表1に示す化学成分(残部は鉄および不可避不純物)の溶接用ワイヤを用い、電流:250A、電圧:30V、溶接速度:30cm/min、シールドガス:Ar+1.0体積%CO2、パス数:14パス、層数:5層、溶接姿勢:下向き、の条件で溶接を行った。なお、表1におけるREMは、Ce、Laを主として含むミッシュメタルを用いた。
【0038】
【表1】

【0039】
溶接終了後、JIS Z3111に準拠してシャルピー衝撃試験片を採取し、−196℃の温度にて計装化シャルピー衝撃試験(JT TOHSI INC.製 300J計装化シャルピー衝撃試験機 型式:CAI−300D)を行い、溶接金属の極低温特性(シャルピー吸収エネルギーおよび耐亀裂発生強度)を測定した。図1は計装化シャルピー衝撃試験によって得られる荷重−変位曲線を模式的に示したものであり、衝撃刃により試験片に与えられる荷重と、衝撃刃が試験片に接触した後の変位との関係を示している。この試験法により、シャルピー吸収エネルギーだけでなく、計装化シャルピー衝撃試験における最大荷重を測定することができる。この最大荷重とは、衝撃試験時の亀裂発生に最小限必要な荷重(本発明では、「耐亀裂発生強度」と呼んでいる)に相当するものであり、この亀裂発生に最小限必要な荷重が大きいほど、亀裂発生が起こりにくいことを意味している。
【0040】
シャルピー吸収エネルギーは100J以上を合格とし、耐亀裂発生強度は最大荷重で評価するものとし、25000N以上を合格とした。
【0041】
結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
No.1〜7は溶接用ワイヤの化学成分組成が適切に制御されているため、−196℃におけるシャルピー吸収エネルギーおよび、耐亀裂発生強度に優れている。No.2ではワイヤ中にCaが0.0023%含有されていたのに対し、溶接金属中のCa量は0.0010%に減少しており、Caがスラグアウトしていることを確認している。またNo.3でもワイヤ中にMgが0.0048%含有されていたのに対し、溶接金属中のMg量は0.0022%であり、Mgがスラグアウトしていた。
【0044】
一方、No.8〜15は成分組成が本発明の範囲から外れているためシャルピーエネルギーおよび耐亀裂発生強度のうち少なくとも一方が劣っている。
【0045】
No.8はREMを含有していないため、耐亀裂発生強度が劣っている。
【0046】
No.9はREM量が過剰であるため、シャルピー吸収エネルギーおよび耐亀裂発生強度のいずれも劣っている。
【0047】
No.10、11はCaおよびMgを含有していないため、シャルピーエネルギーおよび耐亀裂発生強度のうち少なくとも一方が劣っている。
【0048】
No.12はCa量が過剰な例であり、No.13はMg量が過剰であり且つO量が過剰な例であり、またNo.14はCaとMgの合計量が過剰な例であり、いずれもシャルピー吸収エネルギーおよび耐亀裂発生強度が劣っている。
【0049】
No.15はTi量が過剰であるため、シャルピー吸収エネルギーおよび耐亀裂発生強度が劣っている。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
C :0.15%(質量%の意味。以下、同じ。)以下(0%を含まない)、
Si:0.3%以下(0%を含まない)、
Ni:8.0〜15.0%、
Mn:0.1〜1.0%、
O :0.015%以下(0%を含む)、
Al:0.1%以下(0%を含まない)、
REM:0.005〜0.04%、
Ca:0.0005〜0.008%および/またはMg:0.0005〜0.008%を合計で0.0005〜0.0120%含有し、
残部が鉄および不可避不純物であることを特徴とする溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項2】
更に、Ti:0.02〜0.10%を含有する請求項1に記載の溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項3】
請求項1または2に記載の溶接用ソリッドワイヤにより形成された溶接金属。

【図1】
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【公開番号】特開2010−172907(P2010−172907A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−15590(P2009−15590)
【出願日】平成21年1月27日(2009.1.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】