説明

溶接継手の疲労性能向上構造及び疲労性能向上方法

【課題】 本発明は、不溶着部を持つ溶接継手の止端部および不溶着部の応力集中を解放し、残留応力を制御する処理を施し、溶接継手の疲労性能を改善する方法を提供するものである。
【解決手段】 溶接継手1の端部において、端面から不溶着部5の端部に穴をあけ、応力集中を低減する。さらに当該穴にピンまたは鋼棒19などを打ち込むことによって応力低減を施す。また、当該端部において塑性変形を与え、溶接継手1表面の形状を平滑にして、端面および止端の応力集中を低減すると共に圧縮残留応力を与える。溶接の寸法を増加させるように増盛りを併用することによって効果はより大きくなる。塑性変形を与える手段として、超音波ピーニング処理装置を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁や船舶など大型溶接構造物における溶接継手の疲労性能の向上技術に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や船舶など大型溶接構造物は、殆どが厚板部材を溶接により接合して組み立てられており、溶接部の仕様によっては溶接継手の疲労強度が問題となる場合がある。溶接部には応力集中と引張残留応力が存在し、これらが疲労亀裂発生の原因となる。溶接部には止端部とルートがあり、主に、そのいずれか又は両方が起点となった疲労亀裂が発生する。また、3次元的に溶接構造を見た場合、板幅方向の端部から疲労亀裂が生じることが多い。溶接部の幅方向における応力の分布の中で、端部の応力値が高くなっているためである。つまり、板部材においては、その板幅方向の端部に応力集中が生じる傾向があり、それが板幅方向の端部からの疲労亀裂の発生傾向を助長している。
【0003】
また、このような構造物に使用される板部材が例えば、ガス、レーザー、プラズマなどの加熱を伴う方法により切断された場合は、切断面には大きな応力や、場合によっては微細な割れを伴った硬化層などが残留していることがあり、これも疲労強度に悪影響を及ぼす。これらの問題を解決するために、特許文献1には、金属板の切断端面に超音波衝撃処理を施して疲労強度を向上させる方法が提案されている。また、特許文献1には溶接止端部に超音波衝撃処理を施して疲労強度を向上させる方法も提案されている。
【0004】
また、例えば、図8(a)、(b)に示すように、板部材を突合せ溶接する際に、両板部材3,3’の板幅方向の端部にエンドタブ13を設けて溶接を行い、溶接後に、エンドタブを切り落とすが、その切除した溶接継手の端面4におけるビードの端部の角度が急変する個所、すなわち溶接止端部12があると、この箇所への応力集中が大きくなる。
【0005】
また、十字溶接継手の場合も同様に、エンドタブを取り付けて溶接しエンドタブを切断した後の端面、或いは、補修などのため溶接継手を溶接線に垂直な断面で切除したような場合の端面4’では、図9に示すように、溶接の未溶着部分であるルート部が見えるようになることがある。これを露出ルート部6と呼称する。
【0006】
上記のルート部が3次元的に閉空間となっている場合は、この部位での応力集中は小さいが、上記の切断又は切除により、その一部でも解放されて露出ルート部6となり、閉空間でなくなった場合は、応力集中が著しく大きくなる。
【0007】
また、ルートが露出しない場合でも、例えば箱断面どうしが直交するような構造が橋梁などには数多く存在するが、この場合の溶接に不溶着部が残っていた場合、たとえ溶接止端部の状態が良く、疲労亀裂が溶接止端部から発生しない場合でも、不溶着部を基点としたルート亀裂が生じる場合がある。その多くは、通常は部材の板幅方向の端部(溶接継手の端部と呼ぶ)から生じる。この場合でいう端部とは端面および端面から板幅方向に板厚分内側に入った溶接線を含む部分である。
【0008】
このように、溶接継手の端部および端面には疲労強度に対して弱点となる応力集中箇所が多く存在する。そしてこのような溶接継手端部の弱点は、小型の疲労試験では顕在化しないことが多いが、大型の構造物では、板部材の端部、特に、溶接継手の端部または端面に構造的な応力集中が生じるため、上述の端部および端面の問題が他の場合よりも大きな問題となることが示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0009】
なお、このような箇所が問題になるのはいわゆる高サイクル疲労の場合のみではない。地震時の低サイクル疲労からも、このような応力集中箇所からの亀裂の発生、進展、そして脆性破壊の発生という問題となることが知られており(例えば、非特許文献4参照)、阪神大震災や米国のノースリッジ地震などでは建築鉄骨を中心に多くの被害が生じた。
【0010】
このような溶接継手や板部材の切断面の疲労強度の向上方法としては、グラインダーなどにより、溶接止端部の応力集中箇所の形状を平滑な形状に変更したり、板部材の切断面の硬化層を切削除去するのが主たる方法であった(例えば、非特許文献2参照)。板部材の切断面の硬化層をグラインダーで切削除去するのは、疲労寿命の向上にはある程度の効果はあるが、グラインダーなどにより、応力集中箇所の形状を平滑な形状に変更する方法では、溶接継手の端面の露出ルート部に対しては全くその効果が得られない。また、溶接継手の端面ではない溶接継手の端部のルートの疲労強度に対してもその効果は同様にない。
【0011】
ところで、最近、材料の表面に超音波ピーニング処理を施すことにより、材料表面に塑性変形を与え、表面の結晶組織を改善し、或いは残留応力を開放することによって耐疲労性能を改善できることが知られており、このような超音波ピーニング処理装置として、例えば特許文献2には、超音波を発生させるトランスデューサー、超音波を先端に導くためのウエーブガイドおよびその先端部に設けられ超音波により振動する打撃用のピンを備えた超音波ピーニング処理装置が提案されている。
【0012】
一方、ルートの疲労強度を上げることはこれまでは全く方法が提案されてきていなかった。そのため、対応策としては、溶接をはつり直しての再溶接を行い、ルート部を無くしてしまう方法、または、バイパス部材などを用いることによって継手そのものに作用する外力を低減してしまう方法しか存在しなかった。しかし、これには大きな問題があった。再溶接をする場合は、作業そのものが大きな作業量を必要とするのに加えて、既設の構造に使われている古い鋼材には内部にサルファーの集中した部位が存在し、溶接がそのような部分に触れると、容易にラメラティアと呼ばれる溶接割れの一種を生じてしまう。(非特許文献3)また、バイパスにより応力を低減する場合も、既設構造の場合に問題が生じる。つまり、既に補強が行われるまでの外力の作用で初期の疲労亀裂が生じている場合が多々あるからである。もし、疲労亀裂が発生していなければ、作用する応力の低減によって大幅に寿命を向上させることができるが、既に疲労亀裂が生じている場合は進展が多少遅くなるだけで、結局は期待したよりもかなり短い寿命向上効果しか得られない結果となるためである。
【特許文献1】特願第2002−333298号
【特許文献2】米国特許第6,467,321号公報
【非特許文献1】「箱断面柱を有する鋼製橋脚に発生した疲労損傷の調査と応急対策」森河久ら、土木学会論文集I、703巻、I-59号、177-183頁、2002年4月
【非特許文献2】「鋼構造物疲労設計指針・同解説」鋼構造協会
【非特許文献3】「既設鋼橋脚の補修溶接におけるラメラティアの発生の可能性検討」三木千壽ら、土木学会論文集I、759巻、I-67号、69-77頁、2004年4月
【非特許文献4】「既設鋼橋脚の補修溶接におけるラメラティアの発生の可能性検討」三木千壽ら、土木学会論文集I、759巻、I-67号、69-77頁、2004年4月
【0013】
「阪神大震災により円形断面鋼製橋脚に生じた脆性破壊の材料特性からの検討」三木千壽ら、土木学会論文集I、612巻、I-46号、45-53頁、1999年1月
本発明は、上記のような従来の問題に鑑み、溶接継手の端部、特に溶接継手の端面における溶接止端部、或いは溶接継手の端面に存在する露出ルートおよびそれと連続する不溶着部、または露出ルートの無い状態の溶接継手の内部に存在する不溶着部などの疲労亀裂の発生箇所となる応力集中個所に対して適切な手段を講じることによりこれらでの発生応力振幅を低減し、あるいはさらに平均応力を制御することによって溶接継手の高サイクルおよび低サイクル疲労寿命を改善することを課題とする。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、溶接継手の端部、および溶接継手の端面の応力が集中する個所に、応力振幅を低減する処理、或いは平均応力を低減する処理を施し、溶接継手の疲労寿命を改善するものである。すなわち、本発明の要旨とするところは以下のとおりである。
【0015】
(1)十字溶接、角溶接又は突合せ溶接の溶接継手の疲労性能向上構造であって、該溶接継手の端部における溶接不溶着部の両端の少なくとも一方に、溶接継手の端面から板幅方向に向って、直径が2.0mm以上溶接継手の板厚の1/2以下、深さが溶接継手の板厚以上溶接継手の板幅以下で、穴が設けられていることを特徴とする溶接継手の疲労性能向上構造。
(2)前記溶接継手に設けた穴により減少したのど厚に対し、その減少した厚み以上の増し盛り溶接が既存の溶接の上になされていることを特徴とする(1)の溶接継手の疲労性能向上構造。
(3)前記溶接継手に設けた穴の縁が面取り加工されていることを特徴とする(1)又は(2)の溶接継手の疲労性能向上構造。
(4)前記溶接継手に設けた穴に、該穴の内径以上内径+5mm以下の直径を有するピンが、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで設置されていることを特徴とする(1)〜(3)のいずれか1項に記載の溶接継手の疲労性能向上構造。
(5)前記不溶着部の隙間に、直径が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下のピン、又は板厚が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下の板状の金属が、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで、単数又は複数更に設置されていることを特徴とする(4)の溶接継手の疲労性能向上構造。
【0016】
(6)十字溶接、角溶接又は突合せ溶接の溶接継手の疲労性能向上方法であって、前記溶接継手の端部における溶接不溶着部の両端の少なくとも1方に、溶接継手の端面から板幅方向に向って、直径が2.0mm以上溶接継手の板厚の1/2以下、深さが溶接継手の板厚以上溶接継手の板幅以下で、穴を開けることを特徴とする溶接継手の疲労性能向上方法。
(7)前記溶接継手に開けた穴により減少したのど厚に対し、その減少した厚み以上で、のど部を増し盛り溶接することを特徴とする(6)の溶接継手の疲労性能向上方法。
(8)前記溶接継手に開けた穴の縁を、グラインダーにて面取り加工することを特徴とする(6)又は(7)の溶接継手の疲労性能向上方法。
(9)前記溶接継手に開けた穴に、該穴の内径以上内径+5mm以下の直径を有するピンを、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで打ち込むことを特徴とする(6)〜(8)のいずれか1項に記載の溶接継手の疲労性能向上方法。
【0017】
(10)前記不溶着部の隙間に、直径が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下のピン、又は板厚が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下の板状の金属を、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで単数又は複数打ち込み、その後前記溶接継手に開けた穴に、ピンを打ち込むことを特徴とする(9)の溶接継手の疲労性能向上方法。
(11)前記ピンの打ち込み前に、前記ピンを−200〜−100℃に冷却すると共に、前記溶接継手に開けた穴の周囲を100〜400℃に加熱することを特徴とする(9)又は(10)の溶接継手の疲労性能向上方法。
(12)(6)〜(11)のいずれか1項の方法を行った後に、前記溶接継手の端面、及び前記溶接継手の端部における溶接止端部に超音波ピーニング処理を行うことを特徴とする溶接継手の疲労性能向上方法。
【0018】
本発明で言う溶接継手とは図6(a)に示すように第1板部材38と第2板部材39,39’を溶接した際の溶接部周囲を示すものであり、その範囲は、溶接金属の端部(溶接止端部12)から板部材の長手方向に、20mm又は板厚(第1板部材38の板厚40と第2板部材39の板厚41のうち大きい方)分のいずれか大きい方までの範囲とする。その中に溶接金属部、熱影響部、及び母材部(板部材38,39,39’の内、熱影響部を除いた部分)の一部が含まれているものである。ここで、最低限20mmを指定しているのは多くの場合、熱影響部は20mm以下であるからである。(エレクトロスラグ溶接などごく一部の場合は超えることもある)
【0019】
本発明での溶接継手における板厚42は第1部材の板厚40および第2部材の板厚41のうち大きい方をそれと定義する。
【0020】
なお、本発明における溶接継手の端面とは、部材の幅方向から見た端部断面をいうものであり、図6(b)に示すように、溶接継手において、溶接線の方向に垂直な方向の板部材および溶接部の断面を含む面4である。また、切断端面や切除端面に限定されるものではなく、エンドタブ等を設けずに板部材を突合せ溶接した場合などの、板幅方向の板端面も含むものである。
【0021】
さらに、本発明における溶接継手の端部43とは、端面4および端面から板幅方向に板厚分内側に入った溶接線を含む部分で図6(c)に斜線で示す部分である。
【0022】
図4に上記で用いた用語の説明を示す。不溶着部5とは図に示すように溶接継手に用いられている板材で溶接がなされている端面の中で溶接金属10に溶かされずに残っている面を一般に言う。それが端面4に見える場合、その開口部を露出ルート6と呼ぶ。のど厚7とは図に示すように、溶接金属10の中で最小断面を与える部分を一般に言う。溶接止端部12とは図に示すように、溶接継手に用いられている板材の表面で溶接金属10との境界線を言う。ただし、溶接金属10が多層になっている場合、溶接金属10の表面に露出している部分で一回の溶接で置かれるビードとビードの境界線も溶接止端部12である。ルート部9とは図に示すように、不溶着部の端部を言う。3次元的に見ると、不溶着部5は面状の形状を一般に持ち、ルート部9はその不溶着部5が溶接金属10と接する線状を示すことがわかる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、機械的な加工を溶接継手に、特にその影響が大きな継手の端部および端面に集中して施すことによって、高サイクルおよび低サイクル疲労性能の向上した構造物および向上方法を提供することができ、具体的には以下のような産業上有用な著しい効果を得ることができる。
【0024】
1)従来は不可能であったルート側(不溶着部側)からの亀裂の発生および進展を押さえることができ、かつ、その効果をある程度解析的に予想することができる。
2)新設構造にも、既設構造にも適用可能である。特に、既設構造に対しては溶接割れの危険性を低減し、これまでになく確実で安全な補強手法を提供することができる。
3)高サイクルおよび低サイクルの疲労亀裂の発生及び進展を抑制することができるため、構造物の長期寿命および、耐震性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を、添付の実施形態の図面を参照して、詳細に説明する。なお、以下においては、図11〜図14に示すように、第1板部材2と第2板部材3、3’とを十字状に溶接した十字溶接継手1を例にとって説明するが、本発明は、十字溶接継手に限定されるものではない。基本的には、図10に示すように十字溶接のバリエーションであるTの形状を持つ継手、片側からしか溶接されていない角溶接、さらに突き合わせ溶接、そして突き合わせ溶接の一種である、裏当て金を用いて片側から溶接を行った溶接などについても対象としている。これらの溶接継手についてはフルペネトレーションではなく、製作者、設計者の意図的であるなしにかかわらず、不溶着部またはルート部が存在するものである。
【0026】
なお、このような継手は図20に示すような、土木建築などの分野でよく用いられる梁柱接合部構造の一部として最も一般的な継手形状である。図20(c)に示すような橋梁の横桁構造でも、横梁ウエブ46と桁ウエブ47の溶接ディテールは本発明で扱っているような継手構造となっていることがある。(図20(d)は(c)を正面から見た図である)例えばこの図20に示すようなこのような大型の構造物そのものを実験的に検討することは困難なため、要素実験として図17に示すような継手実験が実施されることが多い。すなわち図11〜図14で示されるようなディテールは、図20で示されるような大型構造の一部として存在する。例えば第1部材2は、柱フランジ44に相当し、第2部材3は梁フランジ45や梁ウエブに相当する形で存在することが一般的である。
【0027】
先ず、図11に示す実施形態は、溶接継手1の端面4に露出ルート6、すなわち、溶接部において板部材が完全に溶融せず不溶着部となっているルート部、が端面から見えて存在する場合である。
【0028】
従って、疲労寿命改善の観点から、露出ルート部から穴を端面に垂直にルート端部に曲率をつけるよう、また既設構造の補修補強に適用する場合は既にそれまでの使用によって不溶着部から発生しているかもしれない初期疲労亀裂を除去するように直径2.5mm〜3.5mmで板幅方向に深さ20〜50mmまでアトラー(携帯式磁気応用穴開け機)などを用いて窄穴するとともに、その窄穴後、その穴縁をグラインダーで研削し角を曲率半径0.5mm〜2.5mmで落とす。そして、堀った穴を下穴とする形で、開けた穴の直径以上4.0mm以下のピン8を、10mm以上穴の深さ以下の範囲の深さで打ち込む。ピンは長さ35〜70mmであり高強度の鋼製が強度上望ましい。(例えば強度は約200MPa)。
【0029】
その後、図11に斜線で示した溶接継手1の端部において少なくとも端面4および溶接止端部12に塑性変形を与える処理(以下、塑性変形処理とも記す)を施す。端面4は全面、溶接止端部12は端面から第2の板材3及び3’の板厚と同じだけの距離を処理する。このとき、この部分の端面の角部18は1.0mm以上の曲率半径を持つようにグラインダーで加工しておくと、端部および端面での応力集中がさらに低減されるとともに、塑性変形処理も作業的に容易となるため好ましい。
【0030】
すなわち、図1に示すように板部材の端面および端部にある溶接止端部12に応力集中が起こりやすく、この部位から疲労亀裂が発生するからである。また、ルート部(不溶着部の端部)9は平均応力が低くなっているものの、応力集中が形状的に大きく、やはり疲労亀裂が発生しやすい状態にあるからである。この処理によって、少なくともこの部材中の発生応力が大きな部位である端面および端部の溶接止端部近傍に機械的な加工が与えられ、まずルート部9および止端部12での曲率が大きくなることによって応力集中が緩和されるとともに、溶接残留応力の軽減、組織微細化などによりこの部位での応力状態(平均応力)が緩和され、疲労亀裂の発生が抑制され疲労寿命が向上する。
【0031】
露出ルートを有する十字溶接又は突合せ溶接の溶接継手の端部において、図1に示すように溶接継手の端面に存在する露出ルート部6又は不溶着部5の両端部(ルート部)に板幅方向に穴を開けることによって、ルートの形状がノッチ状の極めて高い応力集中を持つ状態から、ある管理された曲率を持つ状態になり、これより大幅に応力集中が低減される。また、既設の構造にこの方法を適用する場合においては、それまでの構造の使用にともなう繰り返し応力の作用によって、既に微細な疲労亀裂が存在する場合があり、そのような疲労亀裂が存在する場合は疲労寿命はその進展によって規定されてしまうのであるが、この窄穴は同時にこの初期亀裂を取り除き、大幅に寿命を向上することが可能になる。
【0032】
この時、本来は穴そのものの径は大きければ大きいほど曲率が大きくなるために応力集中係数は低減し、効果的である。しかしながら図11の場合は板厚は例えば22mm程度と比較的薄い場合があり、そうなると溶接金属ののど厚は5mmなどと小さい場合も多い。するとのど厚を減らしすぎないようにするにはあまり径を大きくできない場合も存在する。そのため、この図11の例では2.5〜3.5mmとした。2.0mm径で曲率半径は1mmRとなるので、応力集中の低減効果的にはこの値が最低限のレベルになる。上限値は理論上、大きければ大きいほど効果的ではあるが、実際に用いる板厚のレベルと作業に要する労力を勘案して溶接継手の板厚の1/2以下とする。これは、多少板が厚い場合でも、板厚と同等の脚長までのすみ肉溶接は不合理ではないからである。板厚と同じだけの脚長の両すみ溶接を行い、そこの不溶着部両端9に板厚の半分の径の穴14をあければ、板厚と同じ程度ののど厚を残すことが可能である。
【0033】
さらに穴の深さについてであるが、これも深ければ深いほど効果は良くなる。可能であれば溶接継ぎ手の全幅にわたって貫通穴を設けるのが最も効果的である。しかしながら、最低限応力集中の大きな端部を少なくとも押さえるという意味で、用いている板厚以上を開けることがことを必要条件とする。この図の場合は2.5mmのドリルを使うと、ドリル歯の強度上の制限(穴が深くなると周辺の摩擦力でドリルの歯がねじ切れてしまうことがある)から深さは50mm程度までである。しかし、大きい径の穴を開けることができて、部材の幅がさほど大きくなければ部材幅全長にわたって穴を開けることも可能であり、その長さを上限値とする。
【0034】
また、図2に示すように窄穴した穴の縁の角11をグラインダーで落とし、面取りを行うことは、穴縁での応力集中を低減することによって疲労亀裂の発生を防止することができる。特に露出ルート部6においては、露出ルート6の両端での開口部の角から疲労亀裂が生じるため、その疲労亀裂の発生箇所での応力集中を低減し、疲労亀裂の発生を遅らせることに効果的である。この角落とし(面取り)の効果は小さくとも比較的顕著に表れるが、これも曲率が大きければ大きいほど効果は大きくなる。さらに、その後の塑性変形処理で圧縮残留応力を与えるのも作業上楽になる。ただし、これも溶接継手の寸法によって現実的な寸法があり、例えば図11のケースでは板厚が22mm程度で穴径が2.5mm〜3.0mmあれば0.5〜2.5mm程度の曲率半径をつけるのが適当であった。技術的にはその下限値はやはり0.5mmRとなり、上限値は部材寸法や現実的な作業に要する労力を勘案して、10mmRとする。標準的には1〜2mmRとなる。
【0035】
また、図5に示すように、あけた穴よりも大きな径のピン8を打ち込むことによって、窄穴された穴14の壁面に塑性変形を与えると同時に圧縮残留応力を与えることにより、壁面からの疲労亀裂の発生および進展を抑制するとともに、応力集中が曲率の増加によって低減するために、壁面に発生する外力による応力振幅を低減することができる。この図11の場合は3.6mmのピンを打ち込んだ。技術的には少なくとも穴14の径以上を持っていればよいが、いかに元の穴径が大きくとも+5mmも大きければ打ち込みそのものがかなり困難になるために上限となる。
【0036】
一方、深さについては、今回用いた打ち込み機器では下穴を開けた状況で約20〜30mmを打ち込むことができた。もちろん、全幅にわたって打ち込みを行うことが理想的ではあるが、それは部材の幅、開けた穴の径、穴に対する打ち込むピンの径、などに影響される。しかしながら、亀裂を最低限押さえるという観点からは少なくとも10mmは打ち込むことが必要と考えられる。それは、穴の深さ方向で応力集中を計算すると、穴縁近傍で急激に応力集中やΔK値(応力拡大係数範囲)が増加するので、その部分をピンにより押さえるという思想である。
【0037】
加えて、壁面と打ち込んだピンの間に圧縮状態が保たれている限り、力はピンの部分も断面の一部として流れるために、のど厚が見かけ上増加したような作用が得られる(プレストレス効果)。図15にそのメカニズムを示すが、図15(a)にシリンダー15を2つ直列に並べたものを考える。この状態では軸方向にはこの2つのシリンダーは連続していないために、引っ張りに対する有効な断面積はゼロである。しかし、この穴にプレストレスト鋼棒を通し、Pの引張力を鋼棒に与えると、シリンダーにPの圧縮力が作用する。するとシリンダーに作用する外力P‘がPよりも小さい間はシリンダーの断面積が引張外力に対して有効断面積として働く。これと同じアナロジーで図15(b)での溶接継手で説明をすると、まずピンが打たれていない時には有効断面積は図に示すa+aである。しかし、不溶着部5の場所に存在するギャップ17よりも大きなピン8を打ち込むと、これによって圧縮力P’’がピンに作用する。その結果、外力P’’’がピンに作用する圧縮力P’’よりも小さい限り、引張に対する有効断面積は図中に示すa+a+bが働く。
【0038】
さらに、打ち込んだピンが明けられた穴の断面形状が楕円になるような変形を拘束して抑制するために(断面形状が楕円になると、局部的に曲率の小さくなる部分が生じ、その部分については応力集中が大きくなってしまう)、壁面での発生応力が大幅に小さくなるとともに、仮に亀裂が存在していたとしても疲労亀裂進展速度を支配するΔK値(応力拡大係数範囲)が大幅に低減され、その結果として疲労進展速度が遅くなる効果がある。これによって、ルート疲労強度は大幅に向上するわけである。
【0039】
しかしながら、穴壁面以外の部位には、その導入された圧縮残留応力のカウンターとして鋼材の表面で残留応力が引張となる部分も出てくる。そこで、ピン打設の後で溶接継手部の端面および端部の全面に塑性変形処理を施すことによって、鋼材表面を全て圧縮残留応力状態にすることができる。これによって、穴の壁面も鋼材の表面も全て圧縮残留応力状態となり、これによっても疲労亀裂の発生が抑制され、従来よりも疲労寿命が大幅に向上するのは言うまでもない。
【0040】
また、さらに、端面4及び端部以外の広範囲に塑性変形処理を施すこと、端面の角部18や板部材の表面の止端部12などに端部の範囲を超えて広く塑性変形処理を施すことなどは、疲労寿命をさらに向上させる点で好ましい。
【0041】
次に、図12に示す実施形態も、溶接継手の端面4に露出ルート、すなわち、溶接部において板部材が完全に溶融せず未溶着部となっているルート部、が端面から見えて存在する場合である。
【0042】
従って、疲労寿命改善の観点から、露出ルート部から穴を端面に垂直にルート端部に曲率をつけるよう、また既設構造の補修補強に適用する場合は既にそれまでの使用によって不溶着部から発生しているかもしれない初期疲労亀裂を除去するように直径2.5mm〜3.5mmで深さ20〜50mmまでアトラー(携帯式磁気応用穴開け機)などを用いて窄穴するとともに、その窄穴後、その穴縁をグラインダーで研削し角を曲率半径0.5mm〜2.5mmで落とす。そして、図7に示すような手順で処理を行う。図7(a)は初期状態である。(b)はその次の不溶着部両端9に穴14を開けた状態である。そして、(c)に示すように不溶着部5を下穴の代わりに使い、不溶着部の両端9(ルート部)を残して複数本の開けた穴の直径以上4.0mm以下のピン8を打ち込む。ピンは長さ35〜70mmであり高強度の鋼製が強度上望ましい。(例えば、強度は約200Mpa)。
【0043】
そして、(d)に示すように、その後に不溶着部の両端9に、堀った穴を下穴として同じピンを打ち込む。その後、図12の溶接継手1の端部に斜線で示した少なくとも端面4および溶接止端部12に塑性変形処理を施す。端面4は全面、溶接止端部12は端面から板厚と同じだけの距離を処理した。このとき、この部分の端面の角部18は1.0mm以上の曲率半径を持つようにグラインダーで加工しておくと、端部および端面での応力集中がさらに低減されるとともに、塑性変形処理も作業的に容易となる。
【0044】
この場合の個々の加工の効果は図11で説明したものと特には変わらない。ただし、ピン8を不溶着部5に複数本打ち込むのは、プレストレス効果をより積極的に活用するためである。ただし、1本打ち込むごとに、先に打ち込んだピン8に作用している圧縮力も変動する。そのため、最も重要な不溶着部両端9は確実に圧縮状態にするために、最後に打ち込むべきである。なお、不溶着部は多くの場合、断面が長方形になっているため、必ずしもピンのような円形断面を持つものを打ち込む必要はない。技術的に有利であればクサビなどの板状のものを打ち込むことも有効である。
【0045】
次に、図13に示す実施形態は、図11の実施形態と同様に、溶接継手の端面4に、露出ルート5が存在する場合を示しているが、水平材を垂直材に接合する溶接10を増し盛り22によって、のど厚を元の約2倍に増加させている。このような場合は、窄穴する穴径をより大きくすることができる。例えば10mm径とすればグラインダーの5R処理にも相当する大幅な応力集中の低減が得られる。この場合は10mm径の穴を100mm深さまで窄穴した。あけた穴の縁は図11〜12の場合と同じように0.5mmR以上で角を落とすものとする。そのうえで、10.05mm径で40mm長の鋼棒19を作製し、穴の側をガスバーナーで150℃まで加熱し、一方、鋼棒の方は液体窒素を用いて-195℃まで冷却した上で、空けた穴に挿入した。
【0046】
さらに、この構造の温度が常温(雰囲気温度)で安定した段階で塑性変形処理を行う。このとき、塑性変形処理は端面および溶接を増し盛りした部分の全止端部12に処理を行う。増し盛り溶接をした部位は大きな引張り残留応力を持ち、止端形状も良くないために疲労強度は、増し盛りをしない場合よりも一般に低くなると考えられているが、塑性変形処理によってその悪影響を一掃することが可能となり、またのど厚の大幅な増加によって、ルート部に作用する応力をさらに減少させることができ、加えて挿入した鋼棒19による穴形状の拘束で穴断面形状の変形が抑制され疲労寿命が大きく改善される。
【0047】
また、さらに、端面4、端部、増し盛りをした部分以外の広範囲に塑性変形処理を施すこと、すなわち、図11で説明したように、端面の角部18や板部材の表面の止端部12などに端部の範囲を超えて広く塑性変形処理を施すことなどは、疲労寿命をさらに向上させる点で好ましい。
【0048】
なお、この部分の端面の角部18は1.0mm以上の曲率半径を持つように塑性変形処理に先立ってグラインダーで加工しておくと、端部および端面での応力集中がさらに低減されるとともに、塑性変形処理も作業的に容易となる。
【0049】
窄穴をした場合、その部分については溶接はその穴の径分のど厚を失い、その分作用応力は高くなり、応力集中の低減の効果を十二分に享受できない場合がありうるが、本例のように溶接の増し盛りによってのど厚を増加させ、発生応力を減じ、これによってルート窄穴の効果をより増すことができる。しかも、増し盛りは板端を避け、板材の表面からのみ実施することができるので、古い鋼材を用いている既存の構造物に適用する場合においてはラメラティアの発生を避けることが容易になる。従来の、既存の溶接を取り除き、開先を形成しなおした上での再溶接や、板端部への溶接は古い板の内部に図3のように存在するサルファー・バンド20に溶接金属が接触するためにラメラティアを極めて高い確率で生じてしまう。 なお、ここでピン打ちではなく、鋼棒を挿入したのは、穴径を大きくすることによって、ルート端部での応力集中はさらに低減させることができるが、穴径が大きくなるとなるとピンの打ち込みにより大きな力が必要となり、ある径からは周囲にピン打ち込みにより圧縮残留応力を与えるのは実質的に極めて困難になってくるためである。そこで、少なくとも穴の変形拘束によってΔK値を抑制するために、穴に密着した状態でシリンダー状の鋼棒19を挿入する。
【0050】
図19に示すように、このとき、密着を確保するためには、挿入される側の方をバーナーなどで加熱して100℃以上に上げ、鋼棒の方を液体窒素などによって冷却しておけば、室温状態で穴径よりもごく少しだけ大きく作っていた鋼棒を穴に挿入することができる。そして、温度が室温で平準化した状態で鋼棒は挿入時よりも径が大きくなり、一方、穴の方は挿入時よりも小さくなり、もともとが鋼棒径の方が穴径よりも大きいために、密着が確保され、その結果、拘束が生じてΔKが小さくなり、大幅に寿命を向上することができる。このとき、鋼棒19を冷やす温度には下限は存在しない。絶対零度まで冷やす手段が存在しないだけのことである。そのため現実的な下限値として−200度を考える。一方、構造を熱する方については上限値がある。あまり温度を上げて、鋼材に析出物を出したり、強度を損なったりすることは好ましくないため、バーナーで熱している5cm×5cm程度の区域の平均温度が400℃以上にならないよう留意することが好ましい。
【0051】
この鋼棒挿入法は、ピンの打ち込み方法に対して穴壁面の平均応力の改善効果には劣るが、より大きな径の穴に対応が可能であり、かつ、大幅により深くまで穴に挿入することによって広い範囲で疲労性能向上効果を得ることができる。
【0052】
次に、図14に示す実施形態は、溶接継手の端面4に露出ルートが存在しない場合、すなわち、内部にルートは存在するがその表面はまわし溶接21や他の板材などによって塞がれ、図14(a)のようにルートは開口していない場合である。
【0053】
このような場合は、ルート端部を狙ってその部分の回し溶接をグラインダーで除去し、不溶着部の端部9の位置を確定してから窄穴する。このとき、ルート全体を露出させる必要はない。ただ、不溶着部の端部9のみ確実に露出すれば良い。その位置は、カイ先の形状などの溶接の記録から容易に推定可能であり、そのような記録の無い場合もUT(超音波探傷)を用いて簡単に探し出すことができる。
【0054】
その上で部材を接合する溶接10を増し盛り溶接22によって、のど厚を元の約2倍に増加させている。このような場合は、窄穴する穴径をより大きくすることができる。例えば10mm径とすればグラインダーの5R処理にも相当する大幅な応力集中の低減が得られる。この場合は10mm径の穴を100mm深さまで窄穴した。あけた穴の縁は他と同じように0.5mmR以上で角を落とすものとする。そのうえで、10.05mm径で40mm長の鋼棒19を作製し、穴の側をガスバーナーで150℃まで加熱し、一方、鋼棒の方は液体窒素を用いて-195℃まで冷却した上で、空けた穴に挿入した。
【0055】
さらに、この構造の温度が常温(雰囲気温度)で安定した段階で塑性変形処理を行う。このとき、塑性変形処理は端面および溶接を増し盛りした部分の全止端12に処理を行う。増し盛り溶接をした部位は大きな引張り残留応力を持ち、止端形状も良くないために疲労強度は、増し盛りをしない場合よりも一般に低くなると考えられているが、塑性変形処理によってその悪影響を一掃することが可能となり、またのど厚の大幅な増加によって、ルート部に作用する応力をさらに減少させることができ、加えて挿入したピンによる拘束で穴断面形状の変形が抑制され疲労寿命が大きく改善される。
【0056】
このように、ルート露出していない場合でも、ルート端部から窄穴をすることによって、本発明によってルートの応力集中を低減して、ルートの疲労寿命を向上させるとともに、表面の止端に塑性変形を与えることによって、応力集中を低減し、圧縮残留応力を与えることによって、疲労寿命が大きく改善される。
【0057】
また、さらに、端面4及び端部以外の広範囲に塑性変形処理を施すこと、すなわち、図11で説明したように、端面の角部18や板部材の表面の止端部12などに端部の範囲を超えて広く塑性変形処理を施すことなどは、疲労寿命をさらに向上させる点で好ましい。
【0058】
なお、この部分の端面の角部18は1.0mm以上の曲率半径を持つように塑性変形処理に先立ってグラインダーで加工しておくと、端部および端面での応力集中がさらに低減されるとともに、塑性変形処理も作業的に容易となる。
【0059】
図11〜図14の場合のすべてにおいて、不溶着部の端部9の全箇所に穴を開けたり、ピンを打ち込んだりすることが基本であるが、溶接継手の形状、荷重状態などを勘案しながら、そのうちのいくつかの部位についてはそれらの処理を行わない場合もありうる。その場合でも検討の結果として疲労性能上クリティカルな最低限1箇所の処理を行っていれば、相応の効果を得ることができる。
【0060】
また、図11〜図14の全ての場合において、ルート端部に穴をあけた後、穴の中にファイバースコープを挿入し、穴壁面にノッチ状の形状や、既設の構造の場合はまだ表面まで出て来ていないルート亀裂が存在するかどうかを検査している。もし、その検査の結果、亀裂が存在する場合にはより外側に穴を広げるか、新たにその外側に亀裂の先端を取れるような位置に穴を掘り直し、その応力集中部を除去することができる。これによって、より疲労寿命および耐震性が確実に向上する。
【0061】
なお、最近は疲労性能を予測する数値解析手法としてE.N.S.(Effective Notch Stress)という方法が使われ始めている。これは止端部12の曲率や、ルート部9の曲率を標準化してモデル化し、解析的に得られる応力を比較することによって疲労寿命を予測するというものであるが、図11〜図14のような本発明を構造に適用することによって、逆に構造物を解析モデルと整合性が高い形状に改変する結果になるために、より結果の予測の精度が高くなるという副次的な効果も得られている。
【0062】
以上、溶接継手の端部および端面の処理について説明した。本発明において、溶接継手の疲労寿命を改善するため溶接継手の端面に塑性変形を与える方法としては、所要部位に所要の塑性変形を与えることができるものであれば特に限定するものではない。しかしながら、その手段の一つとして挙げられる超音波ピーニング処理は、一回の打撃によって与える変形量は小さいが、打撃回数が極めて多く、効率的に塑性変形を与えることができる。
【0063】
この超音波ピーニング装置29は、図16に示すように、トランスデューサー30と、このトランスデューサーの前面設けられたウエーブガイド31と、ウエーブガイドの先端に設けられ、自由振動体34を支持するホルダー33と、このホルダーを支持する支持体35とから基本的に構成されており、後端にハンドル36を有するケース37に収納されている。電源38から供給された電気エネルギーはトランスデューサー30により超音波領域の機械振動に変換され、生じた超音波振動はこれに接続されたウエーブガイド31を伝播する。ウエーブガイドの径が前方に向かって絞られていることによって超音波振動の伝播速度が変性され、振動が増幅される。超音波振動はウエーブガイド31の先端からホルダー33に支持されている自由振動体34に伝わり、これを超音波振動させる。この自由振動体34の振動により処理対象Tを打撃し、ピーニング処理するものである。通常、ピーニング処理は、振幅20〜60μm、周波数15kHz〜60kHz、出力0.2〜1KWで処理するのが一般的である。
【0064】
なお、上記自由振動体34として、図16においては凸状の先端を持つピンの例を示したが、処理対象物の状況に応じて、先端部が凸又は凹状であるピン、或いは球状のショット(超音波ショットピーニング)等も選択できる。
【0065】
この超音波ピーニング処理装置は、100〜200Vの通常電源38により作動でき、重量が5kg程度で可搬であり、反動も少ないので、作業者がハンドル36を利用してこれを保持し、処理対象物の処理箇所に近接して処理作業をすることが可能である。
【0066】
また、窄穴した穴の中にピンを打ち込む手段も特には規定していない。あけた穴よりも十分に大きなピンを打ち込み、周囲の壁面を圧縮状態にすることができれば、特にどのような機器を用いても構わない。しかしながら、効率的で迅速な安全のためには、例えばヒルティ社の火薬式鋲打機を用いるのがよい。
【0067】
このヒルティ社の火薬式鋲打機は、高熱の膨張ガスにより内蔵された鋼製ピストンを推進させ、その勢いでピンを構造物に打ち込むものである。このピストン原理は間接作動ともいう。直接に火薬のエネルギーをピンに与えるものは直接作動というが、直接作動の場合は打ち込み対象の抵抗力に関係なくピンを押し込むために、銃弾が板を貫通するかのうように、ピンが打ち込み対象を貫通して行ってしまう可能性がある。しかし、間接作動を活用することによって、反動を小さく押さえながら、確実に狙った箇所に、安全にピンを打ち込む機能を有している。
【0068】
この機器は、基本的には銃砲と同じ構造をしており、ピストンを火薬で一気に作動させ超高強度のピンを鋼材に対して瞬時に打ち込むものである。この機器は本来は鋼材にアンカーを取り付けるために用いるものであり、下穴の無い状態で、少なくとも12mmの深さまでピンが常に挿入されることが保障されている。下穴を今回のように開けておけば、ほぼコンスタントに20mm以上導入させることが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。
【0070】
図17は十字溶接継手の試験体の概要を示す斜視図であるが、図17に示すような寸法及び形状を有する小形の十字溶接継手の試験体を板厚25mmの鋼部材を用いて製作し、この十字溶接継手試験体の端面を各種の処理条件で処理を行った。その後、比較例1および実施例1〜12については応力振幅=100MPa、応力比=0.1(応力比=最小応力/最大応力)で疲労試験を行って寿命時間を測定し、各処理の効果を確認した。載荷は最大250万回まで実施した。さらに、比較例2と実施例13については、鋼材の基準降伏応力を与えるときの変位を1δとして、その変位ステップを1δ,2δ,3δ…と増加させながら与える漸増繰り返し載荷を行って耐震性に相当する低サイクル疲労試験を行った。1ステップは圧縮側と引張側の両振りで3サイクルずつの載荷とした。座屈止めは設置したが、多少の発生は許容した。なお、溶接継手端面に塑性変形を与える処理には超音波ピーニング処理を用いた。さらにピンを打設する処理にはヒルティのDXファスニング機を用いた。また、増し盛り溶接はフラックスコアードの溶接ワイヤを用いて半自動Co2溶接を実施した。増し盛りによりのど厚を15mm増加させている。
【0071】
本発明の実施例及び比較例の十字継手の端部および端面の状況、処理条件および疲労試験の結果を表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
比較例1では、本発明を適用しない従来例の場合であり、端部および溶接部の表面を#400のグラインダーで鏡面仕上げにしていたが、露出ルートの端部からの亀裂が発生し、疲労寿命は48万回であった。
【0074】
一方、実施例1では試験体の形状は比較例の場合と同一であるが、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中は低下しており、疲労寿命は70万回と向上した。このとき、疲労亀裂は露出ルート端部の穴壁面のエッジ部分から発生した。
【0075】
実施例2では、実施例1と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、疲労寿命は78万回とさらに向上した。しかしこのとき、疲労亀裂は露出ルート端部の穴壁面のエッジ部分からやはり発生した。
【0076】
実施例3では、実施例2と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そして、3.7mm径で37mm長のピンをあけた穴を下穴として打ち込んだ。露出した分のピンの長さから計算して、打ち込まれた長さは約20〜25mmであった。
【0077】
この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに穴壁面にはピンによって圧縮残留応力が導入されているために疲労寿命は95万回とさらに向上した。しかしながら、ピンの導入によってルート開口部の疲労寿命は改善し、疲労亀裂は発生しなかったが、止端側はむしろ悪化したのか図18に示す疲労亀裂が端面から見える止端部24から発生した。
【0078】
実施例4では、実施例3と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そして、3.7mm径で37mm長のピンをあけた穴を下穴として打ち込んだ。露出した分のピンの長さから計算して、打ち込まれた長さは約20〜25mmであった。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。
【0079】
この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに穴壁面にはピンによって圧縮残留応力が導入されて、さらに継手の溶接部表面はすべて圧縮状態とされているために疲労寿命は134万回とさらに向上した。しかしながら、ピンの導入によってルート開口部の疲労寿命は改善し、ピーニングの効果で溶接の止端部の疲労寿命も改善したために、それらの箇所からは疲労亀裂は発生しなかったが、あまりに小さなこの試験体の、のど厚では疲労寿命の向上は既に限界であり、図18に示す試験体中央部のルートを起点とした疲労亀裂23のように発生した。
【0080】
実施例5では、実施例3と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そして、3.7mm径で37mm長のピンを、まず2本、露出ルートの不溶着部を下穴として打ち込んだ。(図12で示した場合と同様)さらに、その後、露出ルート端部にあけた穴を下穴として打ち込んだ。露出した分のピンの長さから計算して、打ち込まれた長さは約20〜25mmであった。
【0081】
この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに穴壁面にはピンによって圧縮残留応力が導入されているために疲労寿命は80万回と向上した。しかしながら、ピンの導入によってルート開口部からは疲労亀裂は発生しなかったが、止端側はむしろ悪化したのか図18に示す疲労亀裂が端面から見える止端部24から発生した。図18(a)は、穴なし、溶接の増し盛りなし、(b)は、穴あり、溶接の増し盛りなし、(c)穴あり、溶接の増し盛りありの例での疲労亀裂発生パターンを示す。
【0082】
実施例6では、実施例5と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そして、3.7mm径で37mm長のピンを、まず2本、露出ルートの不溶着部を下穴として打ち込んだ。(図7)さらに、その後、露出ルート端部にあけた穴を下穴として打ち込んだ。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。
【0083】
この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに穴壁面にはピンによって圧縮残留応力が導入されており、さらに継手の溶接部表面は塑性変形処理によってすべて圧縮状態とされているために疲労寿命は125万回と向上した。ピンの導入によってルート開口部の疲労寿命は改善し、ピーニングの効果で溶接の止端部の疲労寿命も改善したために、それらの箇所からは疲労亀裂は発生しなかったが、あまりに小さなこの試験体の、のど厚では疲労寿命の向上は既に限界であり、図18に示す試験体中央部のルートを起点とした疲労亀裂23が発生した。
【0084】
実施例7では、まず溶接の増し盛りを(図13に示したように)行った。それ以降は、実施例3と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そして、3.7mm径で37mm長のピンをあけた穴を下穴として打ち込んだ。露出した分のピンの長さから計算して、打ち込まれた長さは約20〜25mmであった。
【0085】
この処理により、のど厚がまず増加したのに加えて露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに穴壁面にはピンによって圧縮残留応力が導入されているため、露出ルートからは疲労亀裂は発生しなかった。しかし、増盛溶接によって試験体の表面に大きな引張応力が発生し、溶接の形状も良くなかったために、図18の25に示すような補修溶接の止端からの疲労亀裂が発生し、疲労寿命の向上はようやく75万回を達成した程度であった。
【0086】
実施例8では、実施例7と同様、まず溶接の増し盛りを行った。そして、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そして、3.7mm径で37mm長のピンをあけた穴を下穴として打ち込んだ。露出した分のピンの長さから計算して、打ち込まれた長さは約20〜25mmであった。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。
【0087】
この処理により、のど厚がまず増加したのに加えて露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに穴壁面にはピンによって圧縮残留応力が導入されているため、露出ルートからは疲労亀裂は発生しなかった。さらに継手の溶接部表面は塑性変形処理によってすべて圧縮状態とされているために溶接止端からも疲労亀裂が出なかった。しかも、溶接の増し盛りによって溶接一般部のルート疲労強度も大幅に向上していたために最終的にはまったく疲労亀裂が発生しないまま250万回を達成して疲労試験を終了した。
【0088】
実施例9では、実施例7と同様、まず溶接の増し盛りを行った。そして、露出ルート部端部から10mm径の穴をドリルを用いて供試体の全幅についてあけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。この処理により、のど厚がまず増加したのに加えて露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、露出ルートからの疲労亀裂の発生は無かった。しかし、増盛溶接によって試験体の表面に大きな引張応力が発生し、溶接の形状も良くなかったために、図18の25に示すような補修溶接の止端からの疲労亀裂が発生してしまったが、疲労寿命は110万回まで向上した。
【0089】
実施例10では、実施例9と同様、まず溶接の増し盛りを行った。そして、露出ルート部端部から10mm径の穴をドリルを用いて供試体の全幅についてあけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。この処理により、のど厚がまず増加したのに加えて露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、露出ルートの疲労寿命は190万回まで向上した。増盛溶接によって試験体の表面に発生した大きな引張応力は塑性変形処理(超音波ピーニング)によって溶接部表面はすべて圧縮状態と制御されているために止端からは亀裂は発生しなかった。
【0090】
実施例11では、実施例9と同様、まず溶接の増し盛りを行った。そして、露出ルート部端部から10mm径の穴をドリルを用いて供試体の全幅についてあけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そのうえで、10.05mm径で40mm長の鋼棒を作製し、穴の側をガスバーナーで150℃まで加熱し、一方、鋼棒の方は液体窒素を用いて-195℃まで冷却した上で、空けた穴に挿入した。この処理により、のど厚がまず増加したのに加えて露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに挿入した鋼棒により穴の変形が抑制されてルート部からの疲労は発生しなくなった。しかし、増盛溶接によって試験体の表面に大きな引張応力が発生し、溶接の形状も良くなかったために、図18の25に示すような補修溶接の止端からの疲労亀裂が発生してしまったが、疲労寿命は115万回まで向上した。
【0091】
実施例12では、実施例9と同様、まず溶接の増し盛りを行った。そして、露出ルート部端部から10mm径の穴をドリルを用いて供試体の全幅についてあけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。そのうえで、10.05mm径で40mm長の鋼棒を作製し、穴の側をガスバーナーで150℃まで加熱し、一方、鋼棒の方は液体窒素を用いて-195℃まで冷却した上で、空けた穴に挿入した。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。
【0092】
この処理により、のど厚がまず増加したのに加えて露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに挿入した鋼棒により穴の変形が抑制されてルート部からの疲労は発生しなくなった。さらに継手の溶接部表面は塑性変形処理によってすべて圧縮状態とされているために溶接止端からも疲労亀裂が出なかった。しかも、溶接の増し盛りによって溶接一般部のルート疲労強度も大幅に向上していたために最終的にはまったく疲労亀裂が発生しないまま250万回を達成して疲労試験を終了した。
【0093】
比較例2では、本発明を適用しない従来例の耐震性(低サイクル疲労特性)を確認する場合であり、端部および溶接部の表面を#400のグラインダーで鏡面仕上げにしていたが、28回目のサイクル(9δ)で低サイクル疲労が露出ルートの端部から亀裂が発生し、そのまま破断に至って終了した。
【0094】
実施例13では、実施例2と同様、露出ルート部端部から2.5mm径の穴をドリルを用いて30mm深さまであけた。さらに、あけた穴の縁を0.5mmRでグラインダーで仕上げた。最後に、端面の全面および全止端部に塑性変形処理(超音波ピーニング)を施した。この処理により、のど厚は減少したものの露出ルート端部での応力集中、またその穴壁面のエッジ部分での応力集中は低下しており、さらに止端部も塑性変形処理によって応力集中が低下している。その結果、35回目のサイクル(12δ)まで低サイクル寿命が向上した。このとき、試験体中央部のルートを起点として疲労亀裂23のように、亀裂が発生し、そのまま破断に至って終了した。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】穴明けの効果を示す説明図である。
【図2】穴の角おとしの効果を示す説明図である。
【図3】サルファーバンドの説明図である。
【図4】溶接継手各部の名称を示す説明図である。
【図5】ピン打ちの状況を示す説明図である。
【図6】溶接継手を示す説明図である。
【図7】ピン打ち順を示す説明図である。
【図8】従来の突合せ継手の溶接状況を示す斜視図であり、(a)はエンドタブ切除前、(b)はエンドタブ切除後の状態を示す図である。
【図9】従来の十字溶接継手の端面の状況を示す模式図である。
【図10】溶接継手のバリエーションの例を示す説明図である。
【図11】溶接部において板部材が完全に溶融せず不溶着部となっているルート部、が端面から見えて存在する場合でその端部のみにピンを打っているケースを示す説明図である。
【図12】溶接部において板部材が完全に溶融せず不溶着部となっているルート部、が端面から見えて存在する場合でその端部および間にピンを打っているケースを示す説明図である。
【図13】溶接部において板部材が完全に溶融せず不溶着部となっているルート部、が端面から見えて存在する場合で増し盛りをしたケースを示す説明図である。
【図14】溶接部において板部材が完全に溶融せず不溶着部となっているルート部、が端面から見えなくて存在する場合で増し盛りをしたケースを示す説明図である。
【図15】プレストレス効果を示す説明図である。
【図16】超音波ピーニング装置を示す説明図である。
【図17】実施例に用いた疲労試験体を示す説明図である。
【図18】疲労亀裂の発生部位を示す説明図である。
【図19】鋼棒の冷やし焼き嵌め状況を示す説明図である。
【図20】一般的な構造の例を斜視図で示す説明図である。
【符号の説明】
【0096】
1 溶接継手
2 第1板部材
3、3’第2板部材
4 溶接継手の端面
5 不溶着部
6 露出ルート
7 のど厚
8 ピン
9 ルート部(溶着部の端部)
10 溶接金属
11 穴縁(11‘角を落とした穴縁)
12 板部材表面の止端部(溶接止端部)
13 エンドタブ
14 穴
15 シリンダー
16 プレストレス鋼棒
17 ギャップ
18 角部
19 鋼棒
20 サルファーバンド
21 まわし溶接
22 増し盛り溶接ビード
23 試験体中央部のルートを起点とした疲労亀裂
24 疲労亀裂が端面から見える止端部からの疲労亀裂
25 増し盛り溶接部からの疲労亀裂
26 露出ルート端部からの亀裂
27 バーナー
28 液体窒素
29 超音波ピーニング装置
30 トランスデューサー
31 ウエーブガイド
32 ホルダー
33 自由振動体(ピン)
34 支持体
35 ハンドル
36 ケース
37 電源
38 第1部材
39 第2部材
40 第1部材の板厚
41 第2部材の板厚
42 板厚
43 端部
44 柱フランジ
45 梁フランジ
46 梁ウエブ
47 桁ウエブ
48 裏あて金

【特許請求の範囲】
【請求項1】
十字溶接、角溶接又は突合せ溶接の溶接継手の疲労性能向上構造であって、該溶接継手の端部における溶接不溶着部の両端の少なくとも一方に、溶接継手の端面から板幅方向に向って、直径が2.0mm以上溶接継手の板厚の1/2以下、深さが溶接継手の板厚以上溶接継手の板幅以下で、穴が設けられていることを特徴とする溶接継手の疲労性能向上構造。
【請求項2】
前記溶接継手に設けた穴により減少したのど厚に対し、その減少した厚み以上の増し盛り溶接が既存の溶接の上になされていることを特徴とする請求項1記載の溶接継手の疲労性能向上構造。
【請求項3】
前記溶接継手に設けた穴の縁が面取り加工されていることを特徴とする請求項1又は2記載の溶接継手の疲労性能向上構造。
【請求項4】
前記溶接継手に設けた穴に、該穴の内径以上内径+5mm以下の直径を有するピンが、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで設置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の溶接継手の疲労性能向上構造。
【請求項5】
前記不溶着部の隙間に、直径が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下のピン、又は板厚が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下の板状の金属が、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで、単数又は複数更に設置されていることを特徴とする請求項4記載の溶接継手の疲労性能向上構造。
【請求項6】
十字溶接、角溶接又は突合せ溶接の溶接継手の疲労性能向上方法であって、前記溶接継手の端部における溶接不溶着部の両端の少なくとも1方に、溶接継手の端面から板幅方向に向って、直径が2.0mm以上溶接継手の板厚の1/2以下、深さが溶接継手の板厚以上溶接継の板幅以下で、穴を開けることを特徴とする溶接継手の疲労性能向上方法。
【請求項7】
前記十字溶接の溶接継手に開けた穴により減少したのど厚に対し、その減少した厚み以上で、のど部を増し盛り溶接することを特徴とする請求項6記載の溶接継手の疲労性能向上方法。
【請求項8】
前記溶接継手に開けた穴の縁を、グラインダーにて面取り加工することを特徴とする請求項6又は7記載の溶接継手の疲労性能向上方法。
【請求項9】
前記溶接継手に開けた穴に、該穴の内径以上内径+5mm以下の直径を有するピンを、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで打ち込むことを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の溶接継手の疲労性能向上方法。
【請求項10】
前記不溶着部の隙間に、直径が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下のピン、又は板厚が前記隙間間隔以上前記隙間間隔+5mm以下の板状の金属を、前記溶接継手の端面から板幅方向に10mm以上板幅以下の深さで単数又は複数打ち込み、その後前記溶接継手に開けた穴に、ピンを打ち込むことを特徴とする請求項9記載の溶接継手の疲労性能向上方法。
【請求項11】
前記ピンの打ち込み前に、前記ピンを−200〜−100℃に冷却すると共に、前記溶接継手に開けた穴の周囲を100〜400℃に加熱することを特徴とする請求項9又は10記載の溶接継手の疲労性能向上方法。
【請求項12】
請求項6〜11のいずれか1項の方法を行った後に、前記溶接継手の端面、及び前記溶接継手の端部における溶接止端部に超音波ピーニング処理を行うことを特徴とする溶接継手の疲労性能向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2006−142367(P2006−142367A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339047(P2004−339047)
【出願日】平成16年11月24日(2004.11.24)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】