説明

溶液製膜方法

【課題】ポリマーフィルムの擦り傷やしわ等を防止する。
【解決手段】溶液製膜設備は、弾性率が1.0GPa〜10.0GPaの範囲であるときのフィルムを支持する支持手段としてローラ48を搬送路に備える。ローラ48は、溶媒を含む状態でバンドから剥がされたポリマーフィルム12を搬送する。ローラ48は、周方向に沿って形成された、断面略半円形状の谷部60および山部61を有する。谷部60および山部61は、軸方向に交互に並んでおり、そのピッチPv、Pmは0.01mm以上2mm以下、谷部60の底点60aから山部61の頂点61aまでの高さHv−mは0.01mm以上1mm以下となっている。谷部60および山部61の曲率半径Rv、Rmは、0.1mm以上0.5mm以下となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー溶液の流延及び乾燥によりポリマーフィルムを製造する溶液製膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶液製膜方法では、ポリマーを溶剤に溶解してつくったポリマー溶液(以降、ドープと称する)を、流延支持体に連続的に流延して流延膜を形成する。この流延膜は溶媒が蒸発しきらないうちに流延支持体から剥がされ、剥がされた流延膜はポリマーフィルムとして搬送されながら徐々に乾燥される。
【0003】
流延支持体の下流には、ポリマーフィルムを周面で支持する複数のローラが配され、これらのローラの配置によりポリマーフィルムの搬送路が決定される。このようなローラの多くは、ポリマーフィルムに接触する周面が平滑にされたいわゆるフラットローラである。
【0004】
しかし、近年では、製造速度をアップさせるために、搬送速度をアップして乾燥速度を急ぐようになってきており、ポリマーフィルムにはしわや擦り傷等が発生しやすくなってきており、フラットローラで支持されたポリマーフィルムには、特にその傾向が強い。そこで、特許文献1では、溶媒含有率が20重量%以下で温度が80℃以上とされ、搬送されているフィルムを、1.0μm〜2.5μmという若干の表面粗度をもつローラで支持することにより、しわや擦り傷を防止している。そして、この方法においては、上記溶媒含有率をもち上記温度にされたポリマーフィルムを複数の駆動ローラで搬送し、駆動ローラ間のドロー比を1.00〜1.05、乾燥工程の視点の駆動ローラにおける搬送張力を10kgf/m(=10×9.8N/m)以上、支持用のローラとの総接触時間を10秒以上、としている。
【0005】
一方、しわや折れ、擦り傷を防止するために、特許文献2は、85μm以下のポリマーフィルムを搬送しながら乾燥するにあたり、弾性率が0.1kgf/mm(=0.1×9.8N/mm)以上に保たれるようにポリマーフィルムを乾燥することを提案している。また、特許文献3は、搬送路に配された複数のローラの全本数のうち70〜100%のローラにおけるポリマーフィルムの接触部分に、ポリマーフィルムの幅方向及び搬送方向に対して規制力の強い部位と弱い部位とを設け、両者の面積比率を1/2〜1/50とすることにより、擦り傷やしわ等を防止している。
【特許文献1】特開2000−176950号公報
【特許文献2】特開2001−113546号公報
【特許文献3】特開2003−19726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法は、厚みが100μmを超えるような厚いフィルムを製造する場合には一定の効果はあるものの、近年市場から要求されるような100μm未満の薄いフィルムを製造する場合には効果が小さい。また、長尺のフィルムを巻き取るに十分な程度に乾燥するように100℃以上の温度にして搬送する場合に、駆動ローラ間のドロー比や搬送張力を制御するのみでは、80μm以下の薄いフィルムを、しわを発生させることなく安定して搬送することができない。
【0007】
また、特許文献2のように、弾性率を所定値以上に保つように乾燥することは、限られた長さの搬送路で乾燥を終えることと、ポリマーフィルムの光学特性の変化等とを考慮して条件を探さねばならず、さらにそのような条件はドープの配合毎に決めなければならない。そして、特許文献3は、厚みが80μm以下という薄いフィルムを製造する場合には、しわの発生やフィルムの搬送における蛇行の防止効果がない。
【0008】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、擦り傷やしわがないポリマーフィルムを製造すること、特に、乾燥工程における搬送路のローラとの接触に起因する擦り傷やしわの発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、ポリマー溶液を支持体に流延して流延膜を形成し、流延膜を支持体から溶媒を含んだ状態のポリマーフィルムとして剥ぎ取り、このポリマーフィルムを搬送しながら乾燥する溶液製膜方法において、乾燥がすすむにつれて弾性率が高くなり1.0GPaに達した前記ポリマーフィルムをさらに乾燥するための搬送路に設けられ、周方向に沿って周面に交互に形成された断面略半円形状の谷部及び山部を有し、前記谷部及び前記山部のピッチが0.01mm以上2mm以下、谷部の底点から山部の頂点までの高さが0.01mm以上1mm以下であるローラの周面で、前記ポリマーフィルムを支持することを特徴として構成されている。
【0010】
前記ローラの谷部および前記山部の曲率半径が0.1mm以上0.5mm以下であることが好ましく、山部の頂点部分に、軸方向に平行な平坦面を形成することが好ましく、平坦面の軸方向における幅が0.05mm以上0.5mm以下である
【0011】
前記ローラに接触するポリマーフィルムは、90℃以上150℃以下であることが好ましい。溶媒含有率が5%から2%に下がるように乾燥される間のポリマーフィルムを前記ローラで支持することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の製膜方法によれば、乾燥工程に配されたローラに起因する擦り傷やしわがない平滑なポリマーフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施態様を説明するが、以下の態様は本発明の一例であり、本発明はこれに限定されるものではない。
[原料]
ドープの原料としては、溶液製膜でフィルムを製造することができる公知のポリマー及び溶剤を用いることができる。ポリマーの中でも、セルロースアシレート、環状ポリオレフィンを好ましく用いることができる。これらのいずれのポリマーであっても、製造設備の構成と製造方法の流れとは基本的に同じであるので、以下、セルロースアシレートフィルムをポリマー成分として用いる場合を例に挙げて説明する。
【0014】
セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。これらの中でも、アシル基がアセチル基であるセルローストリアセテートが特に好ましい。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0015】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0016】
ここで、グルコース単位の2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.28以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましく、0.31〜0.34であることがさらに好ましい。
【0017】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.22〜2.90であることが好ましく、2.40〜2.88であることが特に好ましい。DSBは0.30以上であることが好ましく、0.70以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその20%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは25%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは33%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶剤を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0018】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0019】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0020】
ドープを製造するための溶剤としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロホルム,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶剤に溶解して得られるポリマー溶液である。
【0021】
溶剤としては、上記化合物の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、セルロースアシレートの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶剤全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0022】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶剤としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶剤として用いることができる。また、溶剤は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0023】
ドープには、目的に応じて可塑剤、紫外線吸収剤(UV剤)、劣化防止剤、滑り剤、剥離促進剤等の公知である各種添加剤を添加させても良い。例えば、可塑剤としては、トリフェニルフォスフェート、ビフェニルジフェニルフォスフェート等のリン酸エステル系可塑剤や、ジエチルフタレート等のフタル酸エステル系可塑剤、及びポリエステルポリウレタンエラストマー等の公知の各種可塑剤を用いることができる。
【0024】
なお、溶剤及び可塑剤,劣化防止剤,紫外線吸収剤,光学異方性コントロール剤,染料,マット剤,剥離剤等の添加剤についても、同じく同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0025】
以上の原料を用いて、セルロースアシレート濃度が5重量%〜40重量%であるドープを製造する。セルロースアシレート濃度は15重量%以上30重量%以下の範囲とすることがより好ましく、17重量%以上25重量%以下の範囲とすることがさらに好ましい。また、添加剤の濃度は、固形分全体に対して1重量%以上20重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0026】
なお、ドープの製造に関して、原料の溶解方法、ろ過方法、脱泡、添加方法については、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳しく記載されており、これらの記載の内容も本発明に適用することができる。
【0027】
[溶液製膜によるフィルムの製造方法]
図1は溶液製膜設備10を示す概略図である。ただし、本発明は、この溶液製膜設備10に限定されるものではない。溶液製膜設備10には、セルロースアシレートが溶剤に溶けているドープ11を流延して溶剤を含んだセルロースアシレートフィルム(以降、単にフィルムと称する)12とする流延室13と、フィルム12を搬送しながら乾燥する第1乾燥室16と、第1乾燥室16を出たフィルム12の両側端部を保持してフィルム12を搬送しながら乾燥するテンタ17と、フィルム12の両側端部を切り離す耳切装置18と、フィルム12を搬送しながら乾燥して溶剤がほとんど含まれない状態にまでする第2乾燥室21と、フィルム12を冷却するための冷却室22と、フィルム12の帯電量を減らすための除電装置23と、側端部にエンボス加工を施すナーリング付与ローラ対26と、フィルム12を巻き取る巻き取り部27とが備えられる。
【0028】
流延室13には、ドープ11を流出するコートハンガータイプの流延ダイ31と、流延支持体としてのバンド32とを備える。ドープ11の温度が所定温度に保持されるように、流延ダイ31の温度を制御する温度コントローラ(図示なし)が流延ダイ31に取り付けられてある。
【0029】
流延ダイ31の幅は特に限定されず、本実施形態では、最終製品となるフィルム12の幅の1.1倍〜2.0倍程度である。さらに、流延ダイ31には、流出するときのビードの厚みを調整するために、流延ダイ31のスリットの隙間を調整する厚み調整ボルト(ヒートボルト)が幅方向に所定の間隔で複数備えられる。流延ダイ31のスリットの隙間の大きさとドープの流出量との調節により、乾燥した後のフィルム12の厚みが20〜80μmとなるようにする。
【0030】
バンド32は、周方向に回転するバックアップローラ33に巻き掛けられており、バックアップローラ33の回転により連続走行する。バックアップローラ33には、駆動手段(図示せず)が設けられ、この駆動手段により回転する。バンド32の幅は特に限定されず、本実施形態ではドープ11の流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲とされる。
【0031】
バックアップローラ33は、伝熱媒体が通る流路(図示せず)が内部に形成されている。そして、バックアップローラ33には、伝熱媒体循環装置(図示せず)が接続し、この伝熱媒体循環装置は、伝熱媒体の温度を制御し、前記流路に伝熱媒体を循環供給する。これによりバックアップローラ33の周面温度が制御され、バックアップローラ33に接するバンド32の温度を所定値となるようにする。なお、バンド32の温度は、溶剤の種類、固形成分の種類、ドープ11の濃度等に応じて適宜設定する。
【0032】
流延ダイ31からバンド32にかけては流延ビードが形成され、バンド32の上には流延膜38が形成される。流延ビードの上流側には減圧チャンバ36が備えられる。減圧チャンバ36は、流延ビードの上流側の空気を吸引することにより、流延ビートの上流のエリアを減圧して、流延ビードの様態を安定させる。ビードに関して上流側のエリアの圧力は、下流側のエリアよりも2000Pa〜10Pa低くすることが好ましい。
【0033】
流延室13には、その内部温度を所定の値に保つための温調装置37と、ドープ11及び流延膜38から蒸発した溶剤を凝縮して回収するための凝縮器(図示せず)とが設けられる。そして、凝縮液化した溶剤を回収するための回収装置(図示せず)が流延室13の外部には設けられてある。回収装置により回収された溶剤は、再生してドープ製造用の溶剤として再利用する。
【0034】
また、流延室13の内部には、不活性ガスを送り出すガス送出部(図示せず)と、流延室13の内部の空気を外部に排出するための排気ダクト(図示無し)とが備えられる。不活性ガスにより内部空気を置換することにより、流延室13の内部における溶媒ガス濃度を20%以下にすることが好ましい。
【0035】
そして、流延室13には、流延膜38をバンド32から剥ぎ取るためにフィルム12を支持する剥ぎ取りローラ44が備えられる。流延膜38は、自己支持性をもつようになるまで乾燥されてから、バンド32から剥ぎ取られる。自己支持性をもつとは、第1乾燥室16における支持及び搬送が可能な程度に乾燥した状態を意味する。
【0036】
上記溶媒含有率は、乾量基準の値であり、具体的には、サンプリングしたサンプルの重量をx、サンプルを完全に乾燥した後の重量をyとするとき100×{(x−y)/y}算出される値である。
【0037】
なお、バンド32とバックアップローラ33とに代えて、周方向に回転するドラムを流延支持体として用いることもできる。この場合には、流延膜38を冷却することによりゲル化して自己支持性をもたせる。ドラム上で流延膜を冷却する場合は、バンド32の上で流延膜38を乾燥する場合よりも、流延膜38の剥ぎ取りのタイミングを早めることができる。また、ドラムを使用する場合には、流延膜を冷却するとともに乾燥をもすることにより、剥ぎ取りのタイミングをさらに早め、生産効率をさらに向上させることができる。ドラムを流延支持体として用いる場合には、剥ぎ取りのタイミングは、流延膜の溶媒含有率が100〜300%の範囲であるときが好ましい。
【0038】
第1乾燥室16には、乾燥空気を吹き出す送風ダクト45と、フィルム12を支持するための複数のローラ46とが備えられる。これらのローラ46は、すべて、周面が平滑なフラットローラである。複数のローラ46のうち少なくとも1本は、モータにより回転する駆動ローラであり、他のローラ46は、駆動源に接続されておらずフィルム12との接触により回転することができるいわゆるフリーローラである。この第1乾燥室16では、フィルム12は、テンタ17における後述の把持が可能な程度にまで乾燥される。把持が可能な程度とは、通常はフィルム12の溶媒含有率が30%以下である。流延室13と第1乾燥室16とは図1に示すように搬送方向に連続して設けられ、剥ぎ取られた後のフィルム12はすぐに第1乾燥室16に導入されて乾燥されることが好ましい。フィルム12の剥ぎ取り時の弾性率は、0.1GPa以上1.0GPa以下の範囲であり、以降の工程において乾燥が徐々にすすむにつれて、弾性率は徐々に上がっていくことになる。ただし、弾性率は、温度によって多少の上下はある。
【0039】
第1乾燥室16では、溶媒含有率が10〜30%の範囲となるまで、フィルム12を乾燥することがより好ましい。したがって、フィルム12は、溶媒含有率が多くても30%に下がるまで、第1乾燥室16で乾燥されることが好ましい。
【0040】
送風ダクト45からは、フィルム12に直接吹き付けるように空気が出されてもよいし、フィルム12に直接吹き付けるのではなく、フィルム12の周辺の溶剤ガス濃度が飽和しないように第1乾燥室16の内部を循環させるように空気が出されてもよい。
【0041】
フィルム12の温度は、主に、送風ダクト45からの空気により調節する。第1乾燥室16におけるフィルム12の好ましい温度範囲は10℃以上100℃未満である。10℃よりも低いと乾燥効率が悪く、10℃以上の場合と比べて第1乾燥室16の搬送路の長さを長くする必要が生じる。また、100℃以上とすると、溶媒の急速な蒸発によりフィルム12が変形してしまうことがある。第1乾燥室16を出るときのフィルム12の弾性率は0.1GPa以上2.0GPa以下の範囲であるが、フィルム12の温度により若干上下はある。
【0042】
第1乾燥室16で搬送されるフィルム12には、ドローテンションが付与されていることが好ましい。これにより、フィルム12のたるみを防止することができる。ドローテンションとは、フィルム12の搬送方向における張力である。ローラ46のうちの駆動ローラの回転速度を調整すること、あるいは、ローラ46のうちのフリーローラを変位すること、等によりドローテンションを制御することができる。そして、フィルム12のドローテンションは、50N/m〜250N/mの範囲となるようにすることが好ましい。なお、上記のドローテンションの値は、フィルム12の幅方向1mあたりに付与される力を意味する。したがって、フィルム12の幅がn(0<n、単位;m)である場合には、上記張力の範囲は、n×10(N)〜n×300(N)となる。
【0043】
テンタ17に送られたフィルム12は、その両端部が保持手段(図示せず)により保持され、保持手段の移動により搬送される。そして、この搬送の間に乾燥される。保持手段としては、フィルム12の側部を把持するクリップや、側部を突き刺して保持する複数のピン等がある。流延支持体としてバンド32を用い、溶剤の一部を蒸発させた後に流延膜38を剥ぎ取る場合には、テンタ17での保持手段はクリップが好ましく、一方、流延支持体としてドラムを用いて溶剤をほとんど蒸発させずに冷却した流延膜を剥ぎ取る場合には、テンタ17での保持手段はピンが好ましい。なお、テンタ17では、フィルム12は、120℃以上180℃以下の温度とされることにより乾燥を進められる。
【0044】
フィルム12は、テンタ17で乾燥された後、その両側端部が耳切装置18により切断除去される。切り離された両側端部はカッターブロワ(図示なし)によりクラッシャ51に送られる。クラッシャ51により、側端部は粉砕されてチップとなる。このチップはドープ製造用に再利用される。
【0045】
一方、両側端部を切断除去されたフィルム12は、第2乾燥室21に送られて、搬送されながらさらに乾燥され、第2乾燥室21を出るときには溶媒含有率が0.01%以上2%の範囲とされる。第2乾燥室21を出るときの溶媒含有率は0.01%よりも小さくてもよいが、0.01%よりも低くすることは難しく、また、巻取装置52での巻取にも支障がない程度という意味で上記のように0.01を下限値とする。なお、第2乾燥室21に入るときのフィルム12の溶媒含有率は5%以上10%以下の範囲とすることが好ましい。
【0046】
第2乾燥室21の搬送路には、フィルム12を支持するローラとして2種類のローラ47,48が用いられる。ローラ47は第1乾燥室16に配されるローラ46と同様のフラットローラである。ローラ48は、別の図面を用いて後述するような細かな凹凸、すなわち山部と谷部とを周面にもつ。ローラ48は、フィルム12が徐々に乾燥して弾性率が高くなり、1.0GPaに達した位置から下流の搬送路に備えられる。図1においては、フィルム12の弾性率が1.0GPaに達した位置に符号P1を付し、以降の説明ではこの位置P1を第1位置と称する。ローラ47は、第1位置P1よりも上流の搬送路に配されるが、第2乾燥室21の入口で弾性率が既に1.0GPa以上になっている場合には、この第1位置P1は第2乾燥室21よりも上流側となる。
【0047】
ローラ48は、フィルム12の弾性率が第1位置P1の下流の搬送路に配される。これは、フィルム12の弾性率が、第1位置P1の下流では1.0GPaより低くなるときがなく、また、第1位置P1よりも上流では1.0GPaよりも高いときがないからである。ただし、フィルム12の弾性率は温度によっても変化する。そこで、第1位置P1よりも下流で、フィルム12の温度が上がり弾性率が再び1.0GPaよりも低くなる区間があれば、その区間では必ずしもローラ48を用いずにローラ47を用いてもよい。また、第2乾燥室21を入るときに、フィルム12の弾性率が既に1.0GPaよりも高くなっていて、以降の搬送路で1.0GPaを下回ることがないという場合には、ローラ47を用いずにすべてローラ48にするとよい。フィルム12が柔らかくても弾性率が1.0GPa以上である場合にはローラ48を用いると、フィルム12を伸ばすこともなく、また、フィルム12に擦り傷やしわをつけることもない。
【0048】
ローラ48は、弾性率が1.0GPa以上10.0GPa以下であるフィルム12を支持する場合により効果がある。さらにこのローラ48の効果があるフィルム12の弾性率は1.0GPa以上5.0GPa以下である。本明細書における弾性率の値は、フィルム12の一部をサンプリングして25℃の条件下で測定した引張り弾性率の値であり、15mm×250mmの測定試料を、23℃、65%RH、2時間調湿しテンシロン引張試験機(RTA−100、オリエンテック(株)製)にてISO1184−1983に従って、初期試料長100mm、引張速度200±5mm/分で測定した値である。なお、引張り弾性率の値は、フィルム12の搬送方向における測定値である。
【0049】
弾性率が上記範囲であり、さらに温度が90℃以上150℃以下であるフィルム12に接触する場合に、ローラ48による支持はより効果があり、フィルム12のポリマー成分がセルロースアシレートであるときにさらに効果が大きい。温度が90℃未満であると乾燥速度が低すぎて搬送路をより長くする必要が生じる等、フィルム12の生産性が低い場合があり、150℃を超えるとフィルム12が伸びてしまい、しわの発生防止効果が小さくなる場合がある。なお、本実施形態では、第2乾燥室21の入口におけるフィルム12の温度は90℃〜120℃、第2乾燥室21の出口における温度は120℃〜140℃であり、そして第2乾燥室21では入口における温度よりも下がることがないように送風ダクト49からの乾燥空気の温度が調整されている。
【0050】
さらに、溶媒含有率が5重量%から2重量%に下がるように乾燥が進められる間のフィルムを支持する場合に、ローラ48による支持はより効果があるが、溶媒含有率が上記よりも広い範囲で変化するような搬送路で用いても効果はある。例えば10重量%から0.01重量%に下がるような区間ではしわや擦り傷の発生を抑える点で効果がみられる。そして、溶媒含有率が2重量%以上5重量%以下の範囲であるようなフィルム12を支持する場合であれば特に効果が大きい。溶媒含有率が5重量%よりも高い場合あるいは2重量%よりも低い場合には、その他の条件によってはローラ47を用いる場合にくらべてしわや擦り傷は抑制されるものの、コストパフォーマンスを考慮すると、製品の目標品質に応じて決めることが好ましいともいえる。第2乾燥室21の入口における溶媒含有率は5重量%以上10重量%以下であり、出口における溶媒含有率は0.01重量%以上2重量%以下の範囲とすることが好ましい。
【0051】
また、このような区間にフィルム12の搬送手段が必要な場合には、このローラ48に駆動機構を設けてフィルム12の搬送手段として用いてもよい。これにより、駆動式のサクションローラを用いる場合に比べて、表面がより平滑で、傷やサクションローラの孔の跡がつくことなく製品としてのフィルム12を製造することができる。
【0052】
なお、第2乾燥室21においては、フィルム12の搬送手段としての駆動ローラは、第2乾燥室21の搬送路に設けられる複数のローラ47,48のうち、最も上流側のひとつと、最も下流側のひとつとに用いることが好ましく、これらふたつの間のローラはフリーローラとするとよい。しかし、駆動ローラとフリーローラとの配置はこれに限定されない。
【0053】
第2乾燥室21で搬送されるフィルム12には、ドローテンションが付与されていることが好ましい。これにより、フィルム12のたるみや変形を防止することができる。ローラ47のうち最も上流側の1本とローラ48のうち最も下流側の1本とを駆動ローラとしたときには、これらの各回転速度を調整することにより、各駆動ローラ47,48よりもそれぞれ上流側を走行するフィルム12のドローテンションを調整することができる。そして、ドローテンションを幅1mあたり50N以上250N以下の範囲としてローラ48で支持することが、ローラ48を使用することによる効果、すなわち、しわや擦り傷の防止効果をより高めるので好ましい。ドローテンションが幅1mあたり250Nよりも高いと、フィルム12が搬送方向に伸びてしまうためにフィルム12が変形したり表面の平滑性が得られなかったりする場合があり、50N未満であるとフィルム12がたるんで、フィルム12が蛇行するという搬送不良が発生する場合がある。なお、ドローテンションの調整は、駆動ローラの回転速度のみならず、フリーローラの位置を変化させたり、公知のダンサローラ等を用いることによっても実施することができる。
【0054】
送風ダクト49からは、フィルム12に直接吹き付けるように空気が出されてもよいし、フィルム12に直接吹き付けるのではなく、フィルム12の周辺の溶剤ガス濃度が飽和しないように第2乾燥室21の内部を循環させるように空気が出されてもよい。
【0055】
フィルム12の温度は、主に、送風ダクト49からの空気により調節する。第2乾燥室21におけるフィルム12の好ましい温度範囲は100℃以上200℃以下であり、より好ましくは100℃以上180℃以下であり、さらに好ましくは100℃以上160℃以下である。
【0056】
乾燥したフィルム12は、冷却室22で略室温にまで冷却することが好ましい。
【0057】
除電装置23は、除電バー等のいわゆる強制除電装置であり、フィルム12の帯電圧を所定の範囲にする。帯電圧が−3kV〜+3kVとなるようにフィルム12を除電することが好ましい。
【0058】
ナーリング付与ローラ対26は、フィルム12の両側端部にエンボス加工でナーリングを付与する。ナーリングされた箇所の凹凸の高さが1μm〜200μmとなるようにエンボス加工をすることが好ましい。
【0059】
巻き取り部27の内部には、フィルム12を巻き取るための巻取装置52と、その巻き取り時のテンションを制御するためのプレスローラ53とが備えられている。
【0060】
図2に示すように、第2乾燥室の搬送路に配されるローラ48は、ローラ本体48aと、ローラ本体48aの両端部に嵌着された軸部48bとからなる。ローラ48がフリーローラである場合には、搬送されているフィルム12に外周面が接すると軸部48aを回転中心として回転する。また、ローラ48が駆動ローラである場合には、軸部48bがモータ(図示無し)により回転することによりローラ本体48aが周方向に回転してフィルム12を搬送する。なお、ローラ本体48a、軸部48bの材質としては、耐蝕性に優れたもの、例えば、アルミニウム、鉄、ステンレス、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)などが材料として用いられる。
【0061】
図3に示すように、ローラ本体48aには、断面略半円形状の谷部及び山部が周方向に沿って形成されている。谷部及び山部は、軸方向に関して交互に配置されている。谷部及び山部は、例えば、バイトを用いた精密旋盤で精度良く加工成形される。
【0062】
谷部60の隣り合う底点60a同士の距離、および山部61の隣り合う頂点61a同士の距離、すなわち、谷部60および山部61のピッチPvおよびPmは、0.01mm以上2mm以下となっている。ピッチPvおよびPmが0.01mm未満であると、旋盤加工が困難となり、もしできたとしても製造コストが掛かって非常に高価になってしまう。また、ピッチPvおよびPmが2mmよりも大きいと、弾性率が1.0GPa以上10.0GPa程度の柔らかいフィルム12と接触する場合には、フィルム12の保持力が足りず、フィルム12がローラ上でスリップしてしまい、擦り傷がフィルム12についたり、しわが発生することがある。
【0063】
底点60aから頂点61aまでの高さHv−mは、0.01mm以上1mm以下となっている。高さHv−mが0.01mm未満であると、フィルム12との間の空気層を除去する効果がなくなり、その結果スリップしやすくなってしまい擦り傷やしわがフィルム12に発生することがある。高さHv−mが1mmよりも大きいと、旋盤加工が困難となり、もしできたとしても製造コストが掛かって非常に高価になってしまう。
【0064】
ローラ48は以上のようなピッチPvおよびPmと高さHv−mとをもつことから、1.0GPa以上10.0GPaの弾性率をもつフィルム12に擦り傷やしわを発生させない。そして、この効果は、ローラ48が従来の駆動ローラに代えて搬送手段として用いた場合に特に顕著である。
【0065】
谷部60の断面を形成する円の中心Ovから底点60aまでの距離、および山部61の断面を形成する円の中心Omから頂点61aまでの距離、すなわち、谷部60および山部61の曲率半径RvおよびRmは、0.1mm以上0.5mm以下となっている。曲率半径RvおよびRmが0.1mm未満であると、フィルム12との接触面積が小さくなり、ローラ上でフィルム12がスリップすることがあり、擦り傷やしわがフィルム12についてしまうことがある。曲率半径RvおよびRmが0.5mmよりも大きいと、高さHv−mが低くなりスリップが発生することがある。
【0066】
図4において、山部61の頂点61aの部分には、軸方向に平行な平坦面70が形成されている。平坦面70は、谷部60および山部61を形成した後に、例えば、研磨機で山部61の頂点61aの部分を研磨することにより加工成形される。この平坦面70の軸方向における幅Wfは、0.05mm以上0.5mm以下となっている。幅Wfが0.05mm未満であると、山部61の加工精度によっては研磨することができない部分が生じる。幅Wfが0.5mmよりも大きいと、上記で規定されるピッチで谷部60および山部61を形成することができない。
【0067】
以上説明したように、周方向に沿って周面に交互に形成された、断面略半円形状の谷部60および山部61を有し、谷部60および山部61のピッチPv、Pmが0.01mm以上2mm以下、谷部60の底点60aから山部61の頂点61aまでの高さHv−mが0.01mm以上1mm以下のローラ48を用いてフィルム12を支持、または接触して搬送するので、フィルム12との間の空気層が効果的に除去される。そのために、フィルム12の弾性率が1.0GPa以上10.0GPa以下という柔らかいフィルム12の搬送路であっても、ローラ48がフリーローラであるときにはフィルム12がスリップしないように接触して通過し、ローラ48が駆動ローラであるときにはフィルム12がスリップしないような摩擦力で接触する。したがって、いずれの場合にも、擦り傷やしわの発生を防止することができる。
【0068】
山部61の頂点61aの部分に平坦面70を形成し、軸方向における幅Wfを0.05mm以上0.5mm以下とするので、摩擦力をさらに高めることができ、且つ平坦面70によるスジ状の傷が発生することがない。
【0069】
なお、ピッチPvおよびPmは、より好ましくは0.3mm以上0.5mm以下である。また、高さHv−mは、より好ましくは0.02mm以上0.1mm以下である。
【0070】
曲率半径RvおよびRmは、より好ましくは0.2mm以上0.4mm以下である。幅Wfは、より好ましくは0.1mm以上0.3mm以下である。
【0071】
フィルム12の搬送速度が10m/分以上230m/分以下である場合に、駆動ローラ48を用いる効果が特に大きく、40m/分以上230m/分以下である場合にさらに効果が大きく、上記範囲で高速であるほど、従来のフラットローラやサクションローラにくらべて効果はより顕著なものとなる。
【0072】
また、フィルム12の幅は、より好ましくは1800mm以上2500mm以下である。フィルム12の幅が大きくなるほど、擦り傷やしわが発生しやすくなるのが通常ではあるが、ローラ48の使用による効果は、1800mm以上2500mmの範囲の幅のフィルム12でも十分に発揮される。
【0073】
ピッチPvおよびPm、高さHv−m、曲率半径RvおよびRm、幅Wf、フィルム12の幅に関する以上の好ましい各数値範囲では、特に上記の各効果が大きい。
【0074】
溶融製膜では、公知の溶融押出機(図示無し)の下流側にローラ48を備える。溶融押出機は、供給されたポリマーを加熱して溶融するための加熱部と、溶融したポリマーをフィルムの形状で外部へ押し出す押出部とを備え、加熱部には、ポリマーを混合あるいは練るための混練部材が備えられる。本発明においては、溶融押出機としては市販の溶融押出機を用いてよい。溶融押出機から押し出された直後のポリマーフィルムは、略融点という高温であるので、次工程にすぐには供することができない場合が多い。次工程とは、幅方向に張力をかけて延伸する延伸工程や、巻き取り工程等がある。そこで、搬送させながら冷却することが好ましい。冷却は、空気の吹き付けや、冷水との接触等のいわゆる強制冷却の他に、自然に温度が下がるまで搬送のみをするいわゆる自然冷却があり、本発明ではいずれでもよい。
【0075】
次工程までの搬送路、あるいは次工程における搬送路で、弾性率が1.0GPa以上2.0GPa以下のフィルム12を搬送する場合には、搬送路に設けるフリーローラ及び駆動ローラとしてローラ48を用いることが好ましい。これにより、略融点の柔らかいポリマーフィルムに対しても、冷却されたポリマーフィルムに対しても擦り傷やしわをつけることなく、ポリマーフィルムを搬送することができるので、得られるポリマーフィルムは平滑性の高いものとなる。
【0076】
以上のように、本発明によると、溶媒が含まれているといないとに関わらず、搬送路での支持あるいは搬送により擦り傷やしわ等が発生することなく、平滑なフィルムが得られる。
【実施例1】
【0077】
[実験1]〜[実験3]
ローラ48として、直径300mm、長手方向の長さ1000mmのステンレス製(メッキなし)のローラ本体48aに、軸間距離1500mmとなるように軸部48bを嵌着したものを用意した。ローラ本体48aには、ピッチPv、Pm0.5mm、高さHv−m0.04mm、曲率半径Rv0.4mm、Rm0.4mmとなるように谷部60および山部61を形成した。
【0078】
以下の配合でドープ11をつくった。
セルローストリアセテート(酢化度=60.7%) 100重量部
可塑剤a(トリフェニルフォスフェート(TPP)) 8重量部
可塑剤b(ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)) 4重量部
マット剤 0.03重量部
溶剤成分1(ジクロロメタン) 415重量部
溶剤成分2(メタノール) 62重量部
【0079】
図1に示す溶液製膜設備10により、上記ドープ11からフィルム12をつくった。第2乾燥室21の出口における溶媒含有率が表1記載のように異なる実験1〜実験3を実施した。第2乾燥室21の入口における溶媒含有率はいずれも10重量%であり、第2乾燥室21におけるローラをすべてローラ48とし、ローラ47は用いなかった。ローラ48のうち、最も上流側のひとつと最も下流側のひとつとを駆動ローラとした。そして、これらふたつの駆動ローラの間の搬送路に配される複数のローラはすべてフリーローラとした。また、第2乾燥室21におけるドローテンションを幅1mあたり100Nとして、ローラ48で支持した。
【0080】
表1の「出口での溶媒含有率(単位;重量%)」は第2乾燥室21の出口におけるフィルム12の溶媒含有率であり、「弾性率(単位;GPa)」はフィルムの幅方向における中央部での弾性率であり、フィルムの搬送方向での引張り弾性率の測定値である。「出口でのフィルム温度(単位;℃)」は第2乾燥室21の出口におけるフィルム12の温度である。なお、フィルム12は、第2乾燥室21に入ると間もなくこの温度に達するので、この値を、第2乾燥室21の搬送路全域でのフィルム12の温度とみなすことができる。
【0081】
得られたフィルム12に擦り傷やしわが有るか否かを目視にて評価した。擦り傷やしわが確認されなかった場合を「◎」、わずかな傷やしわが確認されたが製品としては問題がない場合を「○」、確認されて製品としては使用を控えたいレベルである場合を「△」、深い擦り傷やしわ等が頻発または連続発生した場合を「×」とした。この評価結果は、表1の「評価結果」欄に示す。
【0082】
[比較実験1]
実験1のローラ48をフラットローラに代えた。フラットローラの直径と、長手方向の長さはローラ48と同じであり、他の条件も表1に示す以外は実験1と同じである。評価結果は表1に示す。
【0083】
[比較実験2]
直径300mm、長手方向の長さ1000mmのステンレス製(メッキなし)のローラ本体に、軸間距離1500mmとなるように軸部を嵌着したサクションローラを用意した。サクションローラは、空気を吸引する複数の孔5が周面に設けられており、空気を吸引することによりポリマーフィルムを引きつけて周面に接触させ、モータにより周方向に回転することにより搬送するものである。図5に示すように、このサクションローラ2のローラ本体には、ピッチ2mm、高さ0.5mm、幅1mmの略V字状の溝3を周方向に沿って形成した。また、幅1mm、溝3との境界面の曲率半径0.2mmの平坦面4を形成し、径3mmのサクション穴5を複数個形成した。そして、サクション穴5の中心から、幅1mm、高さ0.5mmの略V字状の横溝6を軸方向に沿って形成した。このサクションローラを2本用意し、実験1のローラ48のうち駆動ローラとした2本に代えて用いた。
【0084】
【表1】

【実施例2】
【0085】
実施例1のドープ11に代えて、以下の配合でドープ11をつくり、実施例1の[実験1]〜[実験3]及び[比較実験1]、[比較実験2]と同じ条件で実験1〜実験3と比較実験1,比較実験2を実施した。
セルローストリアセテート(酢化度=60.2%) 100重量部
可塑剤a(トリフェニルフォスフェート(TPP)) 8重量部
可塑剤b(ビフェニルジフェニルフォスフェート(BDP)) 4重量部
レタデーション上昇剤 7重量部
マット剤 0.03重量部
溶剤成分1(ジクロロメタン) 441重量部
溶剤成分2(メタノール) 66重量部
【0086】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】本発明を実施した溶液製膜設備の概略図である。
【図2】第2乾燥室の搬送路に設けるローラを示す斜視図である。
【図3】ローラの表面形状を示す断面図である。
【図4】ローラの表面形状につき図3を拡大した断面図である。
【図5】比較例としてのサクションローラの形状を示す説明図である。
【符号の説明】
【0088】
10 溶液製膜設備
11 ドープ
21 第2乾燥室
32 バンド
48 ローラ
60 谷部
60a 底点
61 山部
61a 頂点
70 平坦面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー溶液を支持体に流延して流延膜を形成し、前記流延膜を前記支持体から溶媒を含んだ状態のポリマーフィルムとして剥ぎ取り、前記ポリマーフィルムを搬送しながら乾燥する溶液製膜方法において、
乾燥がすすむにつれて弾性率が高くなり1.0GPaに達した前記ポリマーフィルムをさらに乾燥するための搬送路に設けられ、周方向に沿って周面に交互に形成された断面略半円形状の谷部及び山部を有し、前記谷部及び前記山部のピッチが0.01mm以上2mm以下、前記谷部の底点から前記山部の頂点までの高さが0.01mm以上1mm以下であるローラの周面で、前記ポリマーフィルムを支持することを特徴とする溶液製膜方法。
【請求項2】
前記谷部および前記山部の曲率半径が0.1mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項1記載の溶液製膜方法。
【請求項3】
前記山部の頂点部分に、軸方向に平行な平坦面を形成することを特徴とする請求項1または2に記載の溶液製膜方法。
【請求項4】
前記平坦面の軸方向における幅が0.05mm以上0.5mm以下であることを特徴とする請求項3に記載の溶液製膜方法。
【請求項5】
前記ローラに接触する前記ポリマーフィルムは、90℃以上150℃以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の溶液製膜方法。
【請求項6】
溶媒含有率が5%から2%に下がるように乾燥される間の前記ポリマーフィルムを前記ローラで支持することを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−262515(P2009−262515A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−118495(P2008−118495)
【出願日】平成20年4月30日(2008.4.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】