説明

溶菌剤

【課題】 従来の溶菌剤よりも、さらに高いレベルの溶菌力を持ち、かつタンパク質を変性させずに抽出し、そのうえ、精製工程を簡略化できる溶菌剤を提供することを課題とする。
【解決手段】 微生物からタンパク質を抽出するための溶菌剤であって、対イオンがカルボキシレートアニオン(a)であるカチオン性界面活性剤(A)と、ポリカチオン性高分子(B)とを含有する溶菌剤、及びこの溶菌剤の存在下で、微生物からタンパク質を抽出する工程を含んでなるタンパク質の生産方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物(タンパク質生産菌等)からタンパク質を抽出する際に使用される溶菌剤及び、該溶菌剤を使用して生産するタンパク質の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、アミノ酸、タンパク質などの有用物質を生産するための宿主として広く利用されている。特に近年は、遺伝子工学技術を活用して、産業上有用なタンパク質の遺伝子を導入した形質転換された微生物を使用し、有用物質を効率的に製造する技術が知られるようになっている。
有用物質を生産する好ましい微生物の例として、大腸菌やシュードモナス属菌などのグラム陰性菌、バチルス属菌や乳酸菌などのグラム陽性菌、サッカロマイセス属やキャンディダ属などの酵母、アスペルギウス属やペニシリウム属などの糸状菌、ストレプトマイセス属やロドコッカス属などの放線菌を挙げることができる。
微生物を使用して有用物質を生産する場合に、タンパク質などの有用物質を精製する必要があるが、この精製における第1の段階は、有用物質を生産する微生物の細胞を溶解して、細胞成分を遊離させる段階である。
細胞の溶解方法には、物理的方法と化学的方法がある。このうち化学的細胞溶解法としては、界面活性剤を用いて細胞膜又は細胞壁の完全性を破壊する方法がある。
提案されている界面活性剤は、非イオン性界面活性剤としては、糖鎖を有する非イオン性界面活性剤、アルキルアミンエチレンオキサイド付加物及びソルビタン脂肪酸エステルエチレンオキサイド付加物などがある。
イオン性界面活性剤としては、セチルトリメチルアンモニウムブロミド及び塩化ベンザルコニウム等のカチオン性界面活性剤(例えば特許文献1)、ラウロイルザルコシネート等のアニオン性界面活性剤、コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)等の両性界面活性剤(例えば特許文献2、3)が提案されている。
しかしながら、従来の非イオン性界面活性剤を用いる方法では溶菌力が不十分であるため大量合成には適さず、また、従来のイオン性界面活性剤を用いた方法では抽出されたタンパク質などの有用物質が変性してしまい、3次元コンホメーションを崩してしまうという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−335969号公報
【特許文献2】特開2002−199885号公報
【特許文献3】特開平5−64584号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、タンパク質の製造コストの大半は精製コストが占めていると言われており、近年、精製コストを低減する検討が活発に行われてきている。しかしながら、例えば、菌体を超音波破砕等の物理的方法で破砕すると、菌体内から大量の夾雑物(目的タンパク質以外のタンパク質や核酸等)が流出するため、精製には多くの工程を要する課題がある。上記のカチオン性界面活性剤では夾雑物の流出を抑える効果はあるものの、効果が十分満足いくものでなかった。
また、安全性の観点から、従来よりも完全に溶菌できる溶菌剤が求められている。
そこで、さらに高いレベルの溶菌力を持ち、かつタンパク質を変性させずに抽出し、そのうえ、精製工程を簡略化できる溶菌剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記の課題を解決するため鋭意検討した結果、対イオンをカルボキシレートアニオンとするカチオン性界面活性剤とカチオン性高分子を併用することにより、溶菌力が高く、タンパク質を変性させずに抽出でき、そのうえ、はるかに精製工程を簡略化できる溶菌剤を見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、微生物からタンパク質を抽出するための溶菌剤であって、対イオンがカルボキシレートアニオン(a)であるカチオン性界面活性剤(A)と、ポリカチオン性高分子(B)とを含有する溶菌剤、及び、この溶菌剤の存在下で、微生物からタンパク質を抽出する工程を含んでなるタンパク質の生産方法である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の溶菌剤は、微生物(特に大腸菌等のタンパク質生産菌)からタンパク質を抽出するための溶菌剤として、従来よりも溶菌力が高い。また、目的タンパク質以外の抽出夾雑物が少ない。
また、本発明の溶菌剤を使用したタンパク質の生産方法は、高品質のタンパク質(例えば、変性の程度が少なくて活性の高い酵素)を簡単な精製工程で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の溶菌剤は、対イオンがカルボキシレートアニオンであるカチオン性界面活性剤(A)と、ポリカチオン性高分子(B)の2つを含有する。
【0008】
カチオン性界面活性剤(A)中の対イオンは、タンパク質に対する変性の観点から、1価カルボン酸から構成されるカルボキシレートアニオン、又は多価カルボン酸から構成されるカルボキシレートアニオンが好ましい。このカルボキシレートアニオンは、カルボン酸からプロトンを除いた−COO-基を有するイオンである。
【0009】
カルボキシレートアニオンを構成するカルボン酸としては、以下の1価カルボン酸及び多価カルボン酸が挙げられる。
【0010】
1価カルボン酸
脂肪族飽和モノカルボン酸(ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ベラルゴン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸及び2−エチルヘキサン酸等);脂肪族不飽和モノカルボン酸(オレイン酸等);脂肪族オキシモノカルボン酸(グリコール酸、乳酸及びグルコン酸等);アミノ酸(グリシン、アラニン及びロイシン等);芳香族カルボン酸(安息香酸及びサリチル酸等)等が挙げられる。
【0011】
多価カルボン酸
脂肪族飽和ジカルボン酸(シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸及びセバシン酸等);脂肪族オキシジカルボン酸(d−酒石酸等);アミノ酸(グルタミン酸及びアスパラギン酸等);脂肪族不飽和ジカルボン酸(マレイン酸、フマール酸及びイタコン酸等);芳香族ジカルボン酸(フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸等);トリカルボン酸(トリメリット酸及びクエン酸等);テトラカルボン酸(ピロメリット酸、ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸及びエチレンジアミン四酢酸等);ペンタカルボン酸(ジエチレントリアミン五酢酸等)等が挙げられる。
【0012】
これらのうち、タンパク質などの変性されにくさの観点から、多価カルボン酸が好ましく、さらに好ましくは2〜8価の多価カルボン酸、特に好ましくはトリカルボン酸及びテトラカルボン酸、最も好ましくはテトラカルボン酸である。
【0013】
カチオン性界面活性剤(A)のカチオン部分としては以下の第4級アンモニウムカチオン(q1)及びアミン塩型カチオン(q2)が挙げられる。
(A)としては、溶菌力の観点から、このカチオン部分に疎水性基を有することが好ましい。
溶菌力の観点から、第4級アンモニウムカチオン(q1)が好ましい。
【0014】
第4級アンモニウムカチオン(q1)としては、例えば、一般式(1)で示されるカチオンが挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
式中、R1、R2、R3及びR4は、炭素数が1〜22の直鎖又は分岐の炭化水素基であって、R1〜R4のうちの少なくとも1個は炭素数6〜22の炭化水素基であり、R1〜R4はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0017】
式中のR1〜R4で示される炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0018】
脂肪族炭化水素基としては、直鎖又は分岐のアルキル基(メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、ペンチル基、n−ヘキシル基、ヘプチル基、n−オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、i−、sec−、及びt−ブチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、3−メチルブチル基並びに2−エチルヘキシル基等)及び直鎖又は分岐のアルケニル基(ビニル基、アリル基及びメタリル基等)が挙げられる。
【0019】
芳香族炭化水素基としては、フェニル基、アリールアルキル基(ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基及びフェニルブチル基等)及びアルキルアリール基(メチルフェニル基、エチルフェニル基、オクチルフェニル基、ノニルフェニル基、デシルフェニル基及びドデシルフェニル基等)が挙げられる。
【0020】
1〜R4の炭化水素基の好ましい組み合わせとしては、以下の(q11)〜(q14)が挙げられる。
(q11)1個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
ドデシルトリメチルアンモニウム、テトラデシルトリメチルアンモニウム、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム、ドデシルジメチルエチルアンモニウム、テトラデシルジメチルエチルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルエチルアンモニウム、オクタデシルジメチルエチルアンモニウム、ドデシルメチルジエチルアンモニウム、テトラデシルメチルジエチルアンモニウム、ヘキサデシルメチルジエチルアンモニウム及びオクタデシルメチルジエチルアンモニウム等。
【0021】
(q12)2個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
オクチルデシルジメチルアンモニウム、ジオクチルジメチルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウム、デシルドデシルジメチルアンモニウム、ジドデシルジメチルアンモニウム、オクチルデシルメチルエチルアンモニウム、ジオクチルメチルエチルアンモニウム、ジデシルメチルエチルアンモニウム、ジドデシルメチルエチルアンモニウム、ジデシルメチルプロピルアンモニウム、ジドデシルエチルプロピルアンモニウム及びジステアリルジメチルアンモニウム等。
【0022】
(q13)1個のみが炭素数6〜22の芳香族炭化水素基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリプロピルアンモニウム及びベンジルエチルジメチルアンモニウム等。
【0023】
(q14)1個のみが炭素数6〜22の脂肪族炭化水素基、1個のみが炭素数6〜22の芳香族炭化水素基かつ、他は炭素数1〜4のアルキル基である組み合わせ;
デシルジメチルベンジルアンモニウム、ドデシルジメチルベンジルアンモニウム、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウム、ヘキサデシルジメチルベンジルアンモニウム及びヤシ油アルキルジメチルベンジルアンモニウム等。
【0024】
これらの(q11)〜(q14)のうち、溶菌力の観点から、好ましいのは(q12)、さらに好ましいのはR1〜R4のうちの2個のみが炭素数8〜14のアルキル基であって、他は炭素数1〜4のアルキル基であるもの(ジデシルジメチルアンモニウム、ジオクチルジメチルアンモニウム及びジデシルメチルエチルアンモニウム等)である。
【0025】
一方、アミン塩型カチオン(q2)としては、1〜3級アミン塩型カチオンが挙げられる。なお、アミン塩型カチオンとは、該当するアミンとプロトンから構成される1価のカチオンの意味である。
【0026】
1級アミンカチオンを構成する1級アミンとしては、炭素数6〜18のモノアルキル又は炭素数6〜18のシクロアルキルアミン(モノヘキシルアミン、モノシクロヘキシルアミン、モノオクチルアミン及びモノドデシルアミン等)が挙げられる。
2級アミンカチオンを構成する2級アミンとしては、少なくとも1個のアルキル基の炭素数が6〜18のジアルキルアミン(ヘキシルメチルアミン、オクチルエチルアミン及びメチルドデシルアミン等)が挙げられる。
3級アミンカチオンを構成する3級アミンとしては、少なくとも1個のアルキル基の炭素数が8〜18のトリアルキルアミン(ジメチルドデシルアミン等)が挙げられる。
【0027】
カチオン性界面活性剤(A)としては、タンパク質などの変性されにくさの観点及び溶菌力の観点から、多価カルボン酸と第4級アンモニウムカチオン(q1)とからなるものが好ましく、さらに好ましくは2〜8価の多価カルボン酸と(q1)とからなるもの、次にさらに好ましくはトリカルボン酸とテトラカルボン酸と(q12)からなるもの、特に好ましくはテトラカルボン酸と(q12)とからなるもの、最も好ましくはブタンテトラカルボン酸とジデシルジメチルアンモニウムからなるもの及びシクロペンタンテトラカルボン酸とジデシルジメチルアンモニウムからなるものである。
【0028】
カチオン性界面活性剤(A)の製造方法は、例えば、以下の3つの方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
(1)第4級アンモニウムカチオンのアルキル炭酸塩と当量のカルボン酸を加えて、60〜100℃で3〜20時間撹拌して反応させて塩交換し、その後、必要により減圧条件下でメタノールと二酸化炭素を除去して精製する方法。アルキル炭酸塩のアルキル基は炭素数1〜4のアルキル基、例えばメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基が挙げられる。
(2)4級アンモニウムハロゲン化物をカルボン酸の強塩基性塩で塩交換し、その後、必要によりエタノール抽出等で精製する方法。カルボン酸の強塩基性塩としてはカルボン酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩及びアミン塩などが挙げられる。
(3)4級アンモニウム水酸化物をカルボン酸の強塩基性塩で塩交換し、その後、必要により精製する方法。カルボン酸の強塩基性塩としてはカルボン酸のアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アンモニウム塩及びアミン塩などが挙げられる。
(4)4級アンモニウム水酸化物をカルボン酸で中和し、その後、必要により精製する方法。
【0029】
本発明のカチオン性界面活性剤(A)の添加量は、対象となる菌体、有用物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、溶菌性及びタンパク質の変性のさせにくさの観点から、作用させる菌体懸濁液の重量に対して100ppm〜10%が好ましく、さらに好ましくは0.1%〜2%である。
【0030】
本発明のもう1つの必須成分であるポリカチオン性高分子(B)は、高分子の主鎖又は側鎖にカチオン性部位を2つ以上有する高分子であり、本発明のカチオン性界面活性剤(A)は含まれない。ポリカチオン性高分子(B)は、夾雑する核酸等のポリアニオン性物質を沈殿させるものであれば特に限定するものではないが、精製効率の観点から、分子内のカチオン性部位の数は2〜14,000個が好ましく、さらに好ましくは3〜2,500個、次にさらに好ましくは20〜1,500個である。
【0031】
本発明のポリカチオン性高分子(B)の数平均分子量は、精製効率及びハンドリング性の観点から、100〜2,000,000が好ましく、さらに好ましくは100〜1,500,000であり、次にさらに好ましくは100〜100,000であり、特に好ましくは1,000〜60,000である。
(B)としては、例えばポリエチレンイミン等のポリアルキレンイミン化合物、ポリリジン及びポリアルギニン等の塩基性ポリペプチド、ポリ(N−アミノエチル)(メタ)アクリルアミド塩酸塩及びポリ(メタ)アクリル酸アルギニンアミド化物等のカチオン性ポリ(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。このうち、タンパク質に対する変性の観点から、数平均分子量1,000〜60,000のポリエチレンイミン及び数平均分子量1,000〜60,000のポリリジンが好ましく、さらに好ましくは数平均分子量1,000〜60,000のポリエチレンイミンである。なお、ここで(メタ)アクリル酸とは、メタアクリル酸及び/又はアクリル酸を意味し、以下同様の表記を用いる。
【0032】
本発明のポリカチオン性高分子(B)の添加量は、対象となる菌体、有用物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、精製効率の観点から、作用させる菌体懸濁液の重量に対して1ppm〜5%が好ましく、さらに好ましくは10ppm〜1%である。
【0033】
本発明の溶菌剤における(A)と(B)の重量比{(A)の重量/(B)の重量}は、タンパク質の変性させにくさの観点から、99/1〜80/20が好ましく、さらに好ましくは97/3〜90/10である。
【0034】
本発明の溶菌剤は、使用に当たっては、必須成分である上記のカチオン性界面活性剤(A)及びポリカチオン性高分子(B)をそのまま使用してもよいし、必要により水と混合して、水性希釈液(水溶液状又は水分散液状)として用いることができる。
水性希釈液における、(A)及び(B)の合計濃度は、対象となる菌体、有用物質の種類及び抽出方法の種類によって適宜選択されるが、水性希釈液の重量を基準として、溶菌性及びハンドリング性の観点から、0.01〜99.9%が好ましく、好ましくは0.1〜50%である。
【0035】
本発明の溶菌剤は、カチオン性界面活性剤(A)とポリカチオン性高分子(B)とを混合することで容易に製造できる。
【0036】
本発明のタンパク質の生産方法は、本発明の溶菌剤の存在下で、微生物からタンパク質を抽出する工程を含んでなるタンパク質の生産方法である。
【0037】
微生物は、アミノ酸、タンパク質などの有用物質を生産するための宿主として利用されるものであれば、特に制限は無い。
有用物質を生産する好ましい微生物の例として、大腸菌及びシュードモナス属菌等のグラム陰性菌、バチルス属菌及び乳酸菌等のグラム陽性菌、サッカロマイセス属及びキャンディダ属等の酵母、アスペルギウス属及びペニシリウム属等の糸状菌、ストレプトマイセス属及びロドコッカス属等の放線菌、並びに後述するタンパク質生産体等を挙げることができる。
【0038】
本発明においては、本発明の溶菌剤の存在下で微生物からタンパク質を抽出すればよく、(A)と(B)とを含有する本発明の溶菌剤を微生物に添加しても、(A)と(B)を別々に微生物に添加{(A)若しくは(A)を含む水性希釈液を微生物に添加し、その後(B)若しくは(B)を含む水性希釈液を添加する、又は、(B)若しくは(B)を含む水性希釈液を微生物に添加し、その後(A)若しくは(A)を含む水性希釈液を添加する}してもどちらでも良く、作業性の観点から(A)と(B)を含有する本発明の溶菌剤を添加する方法が好ましい。
【0039】
本発明のタンパク質の生産方法において、カチオン性界面活性剤(A)とポリカチオン性高分子(B)との存在下で行う微生物の処理に当たっては、必須成分である上記のカチオン性界面活性剤(A)とポリカチオン性高分子(B)以外に、本発明の効果を阻害しない範囲において、必要によりさらに、有機溶剤(C)、他の界面活性剤(D)、溶解性安定化剤(E)の存在下で行ってもよい。これら(C)、(D)及び(E)は、これらの一部又は全部を(A)及び/又は(B)に予め含有させていてもよいし、微生物の処理時に別途これらを適宜配合して添加して使用してもよい。
【0040】
有機溶剤(C)は、カチオン性界面活性剤(A)の水への溶解性を上げるため、必要により加える、水と相溶性のある有機溶剤である。
ここで、水と相溶性のある有機溶剤とは、分配係数logPOWが2以下である有機溶剤であり、具体的には、脂肪族アルコール(メタノール及びエタノール等)、ケトン(アセトン及びメチルエチルケトン等)、及びカルボン酸エステル(酢酸エチル、酢酸プロピル及びギ酸メチル等)等が挙げられる。
有機溶剤(C)の使用量(重量%)は、(A)と(B)との合計重量に基づいて、好ましくは10以下、さらに好ましくは5以下、特に好ましくは3以下である。
【0041】
他の界面活性剤(D)は、本発明の生産方法において、溶菌性をさらに上げるために、必須成分のカチオン性界面活性剤(A)とポリカチオン性高分子(B)以外に使用する、他の界面活性剤である。
この目的で使用する他の界面活性剤(D)としては、以下の非イオン性界面活性剤(D1)、(A)以外のカチオン性界面活性剤(D2)、アニオン性界面活性剤(D3)及び両性界面活性剤(D4)からなる群より選ばれる1種以上が挙げられる。
【0042】
非イオン性界面活性剤(D1)としては、以下の(D11)〜(D15)が挙げられる。
(D11)高級アルコールアルキレンオキサイド(以下、AOと略記する。)付加物:
炭素数8〜24の高級アルコール(デシルアルコール、ドデシルアルコール、ヤシ油アルキルアルコール、オクタデシルアルコール及びオレイルアルコール等)のエチレンオキサイド(以下、EOと略記)1〜20モル及び/又はプロピレンオキサイド(以下、POと略記)1〜20モル付加物(ブロック付加物及び/又はランダム付加物を含む。以下同様)[例えば、デシルアルコールのEO8モル/PO7モルブロック付加物]が挙げられる。
【0043】
(D12)炭素数6〜24のアルキルを有するアルキルフェノールのAO付加物:
オクチルもしくはノニルフェノールのEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物{TRITON(登録商標)X−100及びTRITON(登録商標)X−114等}が挙げられる。
【0044】
(D13)ポリプロピレングリコールEO付加物及びポリエチレングリコールPO付加物:
プルロニック型界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
(D14)脂肪酸AO付加物:
炭素数8〜24の脂肪酸(デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸及びヤシ油脂肪酸等)のEO1〜20モル及び/又はPO1〜20モル付加物等が挙げられる。
【0046】
(D15)多価アルコール型非イオン性界面活性剤:
炭素数3〜36の2〜8価の多価アルコール(グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビット及びソルビタン等)のEO及び/又はPO付加物;前記多価アルコールの脂肪酸エステル及びそのEO付加物(TWEEN(登録商標)20及びTWEEN(登録商標)80等);アルキルグルコシド(N−オクチル−β−D−マルトシド、n−ドデカノイルスクロース、n−オクチル−β−D−グルコピラノシド等);並びに、砂糖の脂肪酸エステル、脂肪酸アルカノールアミド及びこれらのAO付加物(ポリオキシエチレン脂肪酸アルカノールアミド等);が挙げられ、脂肪酸としては前記のものが挙げられる。
【0047】
(A)以外のカチオン性界面活性剤(D2)としては、対イオンとしてハロゲンアニオン、ヒドロキシアニオン、アルキル硫酸アニオン及び超強酸アニオンからなる群より選ばれる1種以上の対イオンを有するカチオン性界面活性剤が挙げられる。
ハロゲンアニオンとしては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等、アルキル硫酸アニオンとしてはメチル硫酸イオン、エチル硫酸イオン等、超強酸アニオンとしてはテトラフルオロホウ素酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が挙げられる。
なお、(D2)を構成するカチオン部分は、(A)で挙げたものと同様のカチオン部分が挙げられる。
(D2)の具体例として、塩化ベンザルコニウム及び臭化セチルトリメチルアンモニウム等が挙げられる。
【0048】
アニオン性界面活性剤(D3)としては、炭素数8〜24の炭化水素基を有するエーテルカルボン酸又はその塩、硫酸エステルもしくはエーテル硫酸エステル及びそれらの塩、スルホン酸塩、スルホコハク酸塩、リン酸エステルもしくはエーテルリン酸エステル及びそれらの塩、脂肪酸塩、アシル化アミノ酸塩、並びに天然由来のカルボン酸及びその塩(ケノデオキシコール酸、コール酸及びデオキシコール酸等)が挙げられる。
【0049】
両性界面活性剤(D4)としては、ベタイン型両性界面活性剤及びアミノ酸型両性界面活性剤が挙げられる。
具体的には、アミドスルホベタイン、コールアミドプロピルジメチルアンモニオプロパンスルホン酸(CHAPS)、コールアミドプロピルジメチルアンモニオ2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CHAPSO)、カルボキシベタイン、ラウロイルサルコシン及びメチルベタインが挙げられる。
【0050】
これらの他の界面活性剤(D)のうち、必須成分のカチオン性界面活性剤(A)と併用して溶菌性が向上する観点で、非イオン性界面活性剤(D1)が好ましく、さらに好ましくは多価アルコール型非イオン性界面活性剤(D15)、次にさらに好ましくは多価アルコールの脂肪酸エステル及びそのEO付加物、最も好ましくはTWEEN(登録商標)20、TWEEN(登録商標)80である。
【0051】
他の界面活性剤(D)の使用量(重量%)は、タンパク質の変性されにくさの観点から、(A)と(B)の合計重量に基づいて、60以下が好ましく、さらに好ましくは50以下、特に好ましくは40以下である。
【0052】
溶解性安定化剤(E)としてはキレート剤、有機酸及びその塩、並びに多価アルコールが挙げられる。
キレート剤としては、エチレンジアミン四酢酸及びその塩、ポリリン酸及びその塩、並びにメタリン酸及びその塩が挙げられる。
有機酸及びその塩としては、乳酸及びその塩、並びにヒアルロン酸及びその塩等が挙げられる。
多価アルコールとしては、グリセリン、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、ペンタエリスリトール、キシリトール、ポリエチレングリコール及びプロピレングリコール等があげられる。
これらの中で、(A)の水への溶解性の向上の観点から、多価アルコールが好ましく、さらに好ましくはグリセリンである。
【0053】
本発明のタンパク質の生産方法における各成分の重量比{(A)/(B)/(C)/(D)/(E)}は、タンパク質の変性のしにくさの観点から、20〜99/1〜10/0〜10/0〜60/0〜60が好ましく、さらに好ましくは25〜99/1〜10/0〜5/0〜50/0〜50である。
【0054】
本発明の生産方法は、例えば、目的タンパク質が組み換えタンパク質の場合、以下のような順序の工程による生産方法が挙げられる。
(1)タンパク質の培養工程:
大腸菌等のタンパク質生産体を培養し、組み換えタンパク質を発現させる。
(2)タンパク質の取り出し工程:
本発明の溶菌剤の存在下で、タンパク質生産体内のインクルージョンボディを取り出す。
(3)アンフォールディング工程:
インクルージョンボディ懸濁液(例えば10mgタンパク質/mL)に0.5モル/L以上のアンフォールディング剤及び20ミリモル/L以下の還元剤を加え軽くかきまぜ室温で数時間放置する。
(4)リフォールディング工程:
アンフォールディングされたタンパク質懸濁液に、0.2〜6モル/Lの濃度になるようにリフォールディング剤を加えて軽くかき混ぜ、室温で1晩放置する。又はリフォールディングバッファーで大希釈することによりリフォールディングを行う。
(5)分離・取り出し工程:
懸濁液から目的とする正常なタンパク質をカラムクロマトグラフィー等によって分離して取り出す。
【0055】
上記の(1)のタンパク質の培養工程におけるタンパク質生産体としては、以下の細菌細胞などが挙げられる。
細菌細胞としては、連鎖球菌属(streptococci)、ブドウ球菌属(staphylococci)、エシェリヒア属菌(Escherichia)、ストレプトミセス属菌(streptomyces)及びバチルス属菌(Bacillus)細胞、真菌細胞:例えば酵母細胞及びアスペルギルス属(Aspergillus)細胞、昆虫細胞:例えばドロソフィラS2(DrosophilaS2)、スポドプテラSf9(SpodopteraSf9)細胞、動物細胞:例えば、CHO、COS、Hela、C127、3T3、BHK、293及びボウズ(Bows)メラノーマ細胞、並びに植物細胞等が挙げられる。
【0056】
エシェリヒア属菌(Escherichia)の具体例としては、大腸菌(E.coli)K12DH1〔プロシージング・オブ・ザ・ナショナル・アカデミー・オブ・サイエンス(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.)60巻、160頁(1968年)を参照〕、JM103〔ヌクレイック・アシッズ・リサーチ(Nucleic Acids Research)9巻、309頁(1981年)を参照〕、JA221〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)120巻、517頁(1978年)を参照〕、HB101〔ジャーナル・オブ・モレキュラー・バイオロジー(Journal of Molecular Biology)41巻、459頁(1969年)を参照〕、C600〔ジェネティックス(Genetics)39巻、440頁(1954年)を参照〕、MM294〔ネイチャー(Nature)217巻、1110頁(1968年)を参照〕等が挙げられる。
【0057】
バチルス属菌(Bacillus)の具体例としては、枯草菌(Bacillussubtilis)MI114〔ジーン、24巻、255頁(1983年)を参照〕、207−21〔ジャーナル・オブ・バイオケミストリー(Journal of Biochemistry)95巻、87頁(1984年)を参照〕等が挙げられる。
【0058】
組み換えタンパク質の生産方法としては、具体的に次の方法がある。
(i)目的タンパク産生細胞からメッセンジャーRNA(mRNA)を分離し、該mRNAから単鎖のcDNAを、次に二重鎖DNAを合成し、該相補DNAをファージ又はプラスミドに組み込む。
(ii)得られた組み換えファージ又はプラスミドで宿主を形質転換し、培養後、目的タンパクの一部をコードするDNAプローブとのハイブリダイゼーション、あるいは抗体を用いたイムノアッセイ法により目的とするDNAを含有するファージあるいはプラスミドを単離する。
(iii)その組み換えDNAから目的とするクローン化DNAを切りだし、該クローン化DNA又はその一部を発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することによって製造することができる。
その後、適当な方法により、宿主を発現ベクターで形質転換し培養する。培養は通常15〜43℃で3〜24時間行い、必要により通気、攪拌を加えることもできる。
【0059】
上記の(2)のタンパク質の取り出し工程では、例えば大腸菌の場合、本発明の生産方法を用いて、外膜のリン脂質層や内膜のペプチドグリカン層を溶解する又は一部破壊することによって菌体内に生産されたインクルージョンボディを取り出す。
この工程の処理条件としては、公知の溶菌剤の処理条件(特開2006−320313号公報等)が適用でき、タンパク質の変性防止の観点から、温度は40℃以下で行うことが好ましい。
【0060】
上記の(3)のアンフォールディング工程では、本発明の溶菌剤を用いたあとに、アンフォールディング剤でタンパクの3次元構造を崩してアンフォールディング)を行うアンフォールディング工程において使用されるアンフォールディング剤としては、塩酸グアニジン、尿素及びこれらの併用等が挙げられる。
なお、タンパク質が、分子内にS−S結合を含むタンパク質である場合には、還元剤として塩酸グアニジン及び/又は尿素以外に、さらに2−メルカプトエタノール、ジチオスレイトール、シスチン又はチオフェノール等を加えてもよい。
【0061】
上記の(4)のリフォールディング工程におけるタンパク質のリフォールディング方法は、希釈法、透析法、界面活性剤利用法、人工シャペロン利用法及び特開2007−145801号公報に記載の方法いずれの方法でもリフォールディングすることができる。特に特開2007−145801号公報に記載の方法は生産性・汎用性の観点から好ましい。
【0062】
上記の(5)のタンパク質の分離・取り出し工程におけるカラムクロマトグラフィーに使用される充填剤としては、シリカ、デキストラン、アガロース、セルロース、アクリルアミド及びビニルポリマーなどが挙げられ、市販品ではSephadexシリーズ、Sephacrylシリーズ、Sepharoseシリーズ(以上、Pharmacia社)、Bio−Gelシリーズ(Bio−Rad社)等があり容易に入手可能である。
【0063】
本発明の生産方法で生産されるタンパク質としては、酵素(P1)、組み換えタンパク質(P2)及びペプチド(P3)が挙げられる。
【0064】
酵素(P1)としては、加水分解酵素、異性化酵素、酸化還元酵素、転移酵素、合成酵素及び脱離酵素などが挙げられる。
加水分解酵素としては、セルラーゼ、プロテアーゼ、セリンプロテアーゼ、アミラーゼ、リパーゼ及びグルコアミラーゼ等が挙げられる。
異性化酵素としては、グルコースイソメラーゼが挙げられる。
酸化還元酵素としては、ペルオキシダーゼなどが挙げられる。
転移酵素としては、アシルトランスフェラーゼ及びスルホトランスフェラーゼ等が挙げられる。
合成酵素としては、脂肪酸シンターゼ、リン酸シンターゼ及びクエン酸シンターゼ等が挙げられる。
脱離酵素としては、ペクチンリアーゼ等が挙げられる。
【0065】
組み換えタンパク質(P2)としては、タンパク製剤及びワクチン等が挙げられる。
タンパク製剤としては、インターフェロンα、インターフェロンβ、インターロイキン1〜12、成長ホルモン、エリスロポエチン、インスリン、顆粒状コロニー刺激因子(G−CSF)、組織プラスミノーゲン活性化因子(TPA)、ナトリウム利尿ペプチド、血液凝固第VIII因子、ソマトメジン、グルカゴン、成長ホルモン放出因子、血清アルブミン及びカルシトニン等が挙げられる。
ワクチンとしては、A型肝炎ワクチン、B型肝炎ワクチン及びC型肝炎ワクチン等が挙げられる。
ペプチド(P3)としては、特にアミノ酸組成を限定するものではなく、ジペプチド及びトリペプチドなどが挙げられる。
【0066】
これらのうち本発明のタンパク質の生産方法は、(P1)及び(P2)、特に(P1)の生産に適している。
【0067】
本発明の微生物による有用物質の生産方法で得られる有用物質は、上記の方法で得られるため、従来よりも純度が高く、また溶菌力に優れているので高い収量を得ることができる。また、溶菌後の夾雑物が少ないので、簡単に精製することができる。
【実施例】
【0068】
以下の製造例、実施例、比較例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、特記しない限り、部は重量部を意味する。
【0069】
実施例1
50ml三角フラスコに、ジデシルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩16.04g(カチオン基として0.04当量)を入れ、撹拌しながら、ブタンテトラカルボン酸2.34g(カルボキシル基として0.04当量)を少量ずつ加えた。撹拌機付き恒温槽で80℃に加温しながら8時間撹拌し続けると、二酸化炭素及びメタノールが系外に放出され、ジデシルジメチルアンモニウムのシクロペンタンテトラカルボン酸塩15.49g(収率99.9%)を得た。
さらに、得られたカチオン活性剤30部に、ポリエチレンイミン(和光純薬製、数平均分子量10,000)2部、TWEEN80を35部、グリセリン20部及び水13部を加えて混合し、本発明の溶菌剤を作製した。
【0070】
実施例2
実施例1において、ブタンテトラカルボン酸をクエン酸2.91gに変更する以外は同様にして、ジデシルジメチルアンモニウムのクエン酸塩を得た後、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0071】
実施例3
実施例1において、ブタンテトラカルボン酸をアジピン酸2.32gに変更する以外は同様にして、ジデシルジメチルアンモニウムのアジピン酸塩を得た後、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0072】
実施例4
実施例1において、ブタンテトラカルボン酸を酢酸2.40gに変更する以外は同様にして、ジデシルジメチルアンモニウムの酢酸塩を得た後、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0073】
実施例5
実施例1において、ジデシルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩をジステアリルジメチルアンモニウムのメチル炭酸塩24.68gに変更する以外は同様にして、ジステアリルジメチルアンモニウムのブタンテトラカルボン酸塩を得た後、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0074】
実施例6
実施例1において、ジデシルジメチルアンモニウムのブタンテトラカルボン酸塩を得た後、表1の部数で混合する以外は実施例1同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0075】
実施例7
実施例1において、ジデシルジメチルアンモニウムのブタンテトラカルボン酸塩を得た後、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0076】
実施例8
実施例1において、ポリエチレンイミン(数平均分子量10,000)をポリエチレンイミン(和光純薬製、数平均分子量1,000)に変更し、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0077】
実施例9
実施例1において、ポリエチレンイミン(数平均分子量10,000)をポリエチレンイミン(アルドリッチ製、数平均分子量60,000)に変更し、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0078】
実施例10
実施例1において、ポリエチレンイミン(数平均分子量10,000)をポリリジン(チッソ社製、数平均分子量4,700)に変更し、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0079】
実施例11
実施例1において、ポリエチレンイミン(数平均分子量10,000)をポリアルギニン(和光純薬工業製、数平均分子量10,000)に変更し、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0080】
実施例12
実施例1において、ポリエチレンイミン(数平均分子量10,000)をポリ(N−アミノエチル)アクリルアミド塩酸塩(ニッシン社製、数平均分子量1,500,000)に変更し、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、本発明の溶菌剤を作製した。
【0081】
比較例1〜5
実施例1において、表1の部数で混合する以外は実施例1と同様にして、比較例1〜5の溶菌剤を作製した。
なお、比較例2のラウリルアミンEO2モル付加物は市販品(ライオンアクゾ社製、エソミンC/12)を使用した。比較例3のオレイルセチルアルコールEO7モル付加物は、市販品(三洋化成工業社製、エマルミン110)を使用した。
【0082】
【表1】

【0083】
実施例13〜24
実施例1〜12で作製した溶菌剤を使用して、(1)大腸菌に対する溶菌力、(2)タンパク質(セルラーゼ酵素)の変性のされにくさ、及び(3)夾雑物質の少なさを評価した結果を表2に示した。
【0084】
比較例6〜10
比較例1〜5で作製した溶菌剤を使用して、比較の性能評価をおこなった結果を表2に示した。
【0085】
(1)大腸菌に対する溶菌力、(2)タンパク質(セルラーゼ酵素)の変性のされにくさ、及び(3)夾雑物質の少なさの評価方法は以下の通りである。
【0086】
<大腸菌に対する溶菌力の評価方法>
6ml容のスクリュー管に、5重量%大腸菌(E−coli)菌体懸濁液3.0ml、並びに溶菌剤20μlをマイクロピペットで加え、よく混合した。その後、20℃で1時間振とうしたものを試料として、顕微鏡(オリンパス社製、TH4−100)で生菌数を測定した。あわせて、溶菌剤を加えないブランクの生菌数も、1時間放置した大腸菌懸濁溶液を試料として測定した。
測定した結果から、溶菌力を以下の式で算出し、下記の判定基準で点数化した。
その結果を表2に示す。
【0087】
溶菌力(%)=[1−(1時間後の試料中の生菌数/ブランクの生菌数)]×100
【0088】
判定基準:
溶菌力:90%以上・・・・・・・・・5点
:80%以上、90%未満・・・4点
:60%以上、80%未満・・・3点
:40%以上、60%未満・・・2点
:40%未満・・・・・・・・・1点
【0089】
<タンパク質の変性されにくさの評価方法>
タンパク質の変性されにくさをセルラーゼ酵素の変性度として評価した。
2mlの遠心分離用チューブに、1重量%セチルメチルセルロース水分散液0.6ml、イオン水で75倍(重量基準)に希釈した溶菌剤の水性希釈液0.6ml、セルラーゼ(ナガセ社製、セルライザーHT)の100ppm水溶液を10μl加え、手振り混合した。
37℃で5分間静置後、遠心分離機(ベックマン社製Microfuge.11)で遠心分離(10,000rpm×3分)し、上層を分離して回収した。20ml試験管に、上層0.25ml、イオン交換水0.25ml及び5重量%フェノール水溶液0.5mlを入れて、混合した。
さらに95重量%濃硫酸を2.5ml加え、室温で10分間静置後、混合し、その後20分間20℃で静置して試料溶液を得た。この試料溶液の490nmにおける吸光度(セチルメチルセルロースが酵素で分解された生成物の吸収)を紫外可視分光光度計で測定した。ブランクには溶菌剤の代わりにイオン交換水0.6mlを用いた。
セルラーゼ(酵素)が変性されずに、活性が保たれて、セチルメチルセルロースが効率よく分解されている場合は、吸光度が大きくなる(ブランクに近い吸光度になる)。
タンパク質の変性されにくさは、以下の式で算出し、下記の判定基準で点数化した。
その結果を表2に示す。
【0090】
タンパク質の変性されにくさ(%)=(試料溶液の吸光度/ブランクの吸光度)×100
判定基準
タンパク質の変性されにくさ(%)が
90%以上・・・・・・・・・5点
70%以上、90%未満・・・4点
50%以上、70%未満・・・3点
30%以上、50%未満・・・2点
30%未満・・・・・・・・・1点
【0091】
<夾雑物質の少なさの評価方法>
核酸に対するタンパク質の割合を測定し、夾雑物質の少なさを評価した。
5重量%大腸菌懸濁液に3mLに、溶菌剤を20μLマイクロピペットで加え、よく混合した。20℃で1時間振とうさせた後、遠心分離機で遠心分離(10,000rpm、15分)し、上澄み0.4mLを3.6mLのイオン水で希釈し測定用サンプルを得た。10mm石英セルに測定用サンプルを仕込み、この溶液の260nmにおける吸光度(A260)と、280nmにおける吸光度(A280)を紫外可視分光光度計(島津製作所社製、UV−2550)で測定した。260nmにおける吸光度(A260)及び280nmにおける吸光度(A280)はそれぞれ核酸及びタンパク質の量を表す尺度であり、それらの比(A280/A260)は、夾雑物質の量を把握する尺度となる。
なお、5重量%大腸菌懸濁液3mLを冷却しながら超音波ホモジナイザー(130W)で10分間超音波照射し、これを上記と同様に遠心分離した後、上澄み0.4mLを3.6mLのイオン水で希釈してブランク用測定サンプルを得た。上記と同様にブランクとしての260nmにおける吸光度(Ab260)及び280nmにおける吸光度(Ab280)を測定した。
夾雑物質の少なさは以下の式で算出し、下記の判定基準で点数化した。
その結果を表2に示す。
【0092】
夾雑物質の少なさ=(A280/A260)/(Ab280/Ab260
判定基準
夾雑物質の少なさが
1.3以上・・・・・・・・・5点
1.1以上、1.3未満・・・3点
1.1未満・・・・・・・・・1点
【0093】
【表2】

【0094】
表2の大腸菌に対する溶菌力の評価結果及びタンパク質の変性されにくさの評価結果より、従来の溶菌剤は比較例1のように溶菌力が高い溶菌剤はタンパク質を変性させやすく、比較例2及び比較例4のようにタンパク質の変性が少ない溶菌剤は十分に溶菌できない。比較例と比較して、本発明の実施例は、溶菌力に優れ、かつタンパク質を変性させにくいことがわかる。
夾雑物質の少なさの評価結果から、従来の溶菌剤は核酸の抽出を十分抑制できるものはなく、本発明の実施例は核酸の抽出を十分抑制できることがわかる。
なお、比較例5の結果から、溶菌性とタンパク質の編成されにくさ及び夾雑物質の少なさは、界面活性剤(A)単独の使用では十分な効果が得られず、本発明の(A)とポリカチオン性高分子(B)を併用して初めて得ることができることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の溶菌剤及びタンパク質の生産方法は、タンパク質などの有用物質を生産菌から抽出する工程において使用できる。タンパク質としては酵素、組換えタンパク質及びペプチドが挙げられる。また、本発明の溶菌剤は細胞を破壊して死滅させるための細胞破壊用薬剤として利用することもできる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
微生物からタンパク質を抽出するための溶菌剤であって、対イオンがカルボキシレートアニオン(a)であるカチオン性界面活性剤(A)と、ポリカチオン性高分子(B)とを含有する溶菌剤。
【請求項2】
カルボキシレートアニオン(a)が、2〜8価の多価カルボン酸のカルボキシレートアニオンである請求項1に記載の溶菌剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の溶菌剤の存在下で、微生物からタンパク質を抽出する工程を含んでなるタンパク質の生産方法。

【公開番号】特開2009−240304(P2009−240304A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−54455(P2009−54455)
【出願日】平成21年3月9日(2009.3.9)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】