説明

溶融アルミニウム合金のインライン塩精錬

本発明は、塩素がない場合には、鋳造前に運搬トラフ中のハロゲン、水及び不活性ガスを含む少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩の注入を介したアルミニウム及び/又はアルミニウム合金の実質的に連続的なインライン脱ガスするための装置及び方法を記載する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融アルミニウム及び溶融アルミニウム合金の連続的なインライン精錬に関する。
【背景技術】
【0002】
(従来技術の記載)
少量の溶解粒子及びガス状不純物の両方を含む、アルミニウム及びアルミニウム合金のような溶融金属は、金属運搬樋又はトラフ中に設置される装置でインライン処理され、鋳造、連続的な鋳造及び他の処理にかけられる。
アルミニウム金属は、入口のトラフ中へ当該トラフを介して流れ込んで出口で抜け出るが、これは実質的に連続的な様式で起こる。当該トラフは、概して加熱された容器(例えば、鋳造炉のような)と鋳造装置との間に設置される。当該処理は、i)溶解水素、ii)固体非金属粒子(例えば、アルミナ及びマグネシア)、及びiii)溶解不純物(例えば、Na、Li及びCa)を除去することを目的とする。この精錬処理は、伝統的に塩素ガス又はアルゴンのような不活性ガスと塩素ガスとの混合物を用いることにより達成されてきた。この精錬方法は、既に議論したii)及びiii)のような他の汚染物質をも除去するので、金属の単なる脱ガスを越えて用いられうるが、一般に“金属脱ガス(metal degassing)”と称される。
【0003】
そのような用途において塩素を除去するための環境圧(environmental pressure)が存在し、アルゴンの使用だけが当該処理の一部を達成することができるが、これは他の用途に関して、特にマグネシウム含有アルミニウム合金を処理するのに不適当である。
塩化物塩の使用は、連続的な金属処理ではなく、むしろある加熱炉ベース又はバッチで用いられてきた。特に、塩化マグネシウム(MgCl2)、及び塩化カリウム(KCl)とMgCl2の混合物が、塩素ガスの見込まれる代替品として考慮されてきた。しかしながら、塩化マグネシウムは特に吸湿性であり、それ故に必然的に水分を含み、絶え間なく外気から水分を吸収する。処理の間に、この水分は溶融アルミニウムと反応して水素を発生し、この水素が溶融金属中に溶解し、結果として低品質の金属をもたらしうる。
【0004】
加熱炉処理及びるつぼ処理において、塩化マグネシウム中の水分の存在は、これらが概して決定的ではない用途に向けられるのであれば、容認されうる。しかしながら、金属が処理後に速やかに鋳造されるインライン処理における使用、及び水素気孔(hydrogen porosity)が容認できない重要な製品に関しては、塩化マグネシウムを使用することはできなかった。
塩化マグネシウム(MgCl2)は、インライン脱ガス処理のための“カバーフラックス(cover flux)”として用いられてきたが、この使用はインライン塩素ガス注入の使用を賞賛するものであり、MgCl2は溶融金属のインライン塩化ガス注入の代替品を明らかに意味しない。
【0005】
米国特許3,767,382号は、不純物の分離を可能にするバッフルによって区分される分散チャンバー(dispersing chamber)と分離チャンバーを含む連続的なインライン金属処理システムを開示する。当該分散チャンバー中の回転式分散機を使用して、溶融金属を離散させ(break-up)、塩素ガス及び不活性ガスを含む処理ガス(treatment gas)を当該金属中へ分散させる。開示されるカバーフラックスは、80質量%のMgCl2及び0.1質量%未満の水分を含む。
米国特許4,138,245は、溶融アルミニウムの塊(body)中に導入される塩素ガスとアルゴンガスの混合物であってもよい塩素化剤を導入することによってナトリウムを除去するための手段を開示する。金属は、85%のMgCl2を含む塩で被覆されるフィルター−デガッサーベッド(filter-degasser bed)の組み合わせを通過する。当該塩は当該ベッドへ閉じ込められて、反応し、当該金属中のナトリウムレベルを低減する。
【0006】
米国特許5,772,725は、ガス状フラックスのみならず塩と共に使用できると言われる溶融金属のインライン処理方法を開示するが、これがどのように達成されるかに関してのいずれの詳細もない。当該発明は、金属浴中へガスを分散させるのに適合される分散機/攪拌機を開示し、この金属浴では、前記攪拌機の回転が定期的に反転される。
米国特許6,602,318は、とりべ(ladle)のような処理容器を開示し、これは、0.036の所定の質量比のKCl/MgCl2の混合物を用いて当該容器中に含まれる金属からカルシウムと粒子を除去する。その上、KCl/MgCl2が回転性の高剪断インペラー近くの溶融金属の高さよりも下位の注入チューブを手段として供給され、従ってKCl/MgCl2の迅速な分散を達成する。
【0007】
EP−A−395 138は、80%までのアルカリ金属塩化物及びアルカリ土類金属塩化物を含む塩であってもよい種々の塩を用い、かつそのような塩を取り扱うための分散機装置を含んでいてもよいるつぼ処理を開示するが、この処理は、金属の高さよりも下でかつインペラーの高さにある分散機の中空シャフトを介して不活性ガスと共に固形物を共注入することを含む。
EP−A−1 462 530は、るつぼ中での溶融金属を処理する装置及び処理する方法を開示する。当該装置は、分散機の中空シャフトを介して塩を加える。加圧不活性ガスは、中空シャフトを介してインペラーの高さまでるつぼ中の金属へ塩を断続的に輸送する。当該システムは、様々な塩フラックスに用いることができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、全ての従来技術は、アルミニウム金属を精錬するための塩素ガスを用いるか、又は、静的るつぼ中若しくは不純物の除去のための長い滞留時間を可能にするインライン容器中で行うかのどちらかである。従って、塩素ガスを使用しないトラフ中の溶融アルミニウム及び溶融アルミニウム合金の効率の良い連続的なインライン精錬に関する課題が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要約)
本発明は、金属ハロゲン化物塩及び不活性ガスのみを用いる溶融アルミニウム及び溶融アルミニウム合金の連続的なインライン精錬のための装置及び精錬方法を開示する。
従って、本発明の一つの側面において、溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金のインライン精錬方法を提供し、当該方法は:
不活性ガス及び少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を、入口から出口までトラフを流れる前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ加えること;及び
前記不活性ガス及び少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を、前記トラフ中を流れる溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ分散させること、
を含む。
本発明の他の側面において、溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金をインラインで精錬するための装置であって:
駆動手段へ作動的に接続される取付端及び前記取付端と反対側の遠位端を有する回転可能なシャフト、及び前記遠位端へ固定されるインペラーを含む、少なくとも一つの分散機であって、前記遠位端とインペラーが前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ浸漬するのに適合されている前記少なくとも一つの分散機;
上流の入口及び下流の出口を含むトラフであって、前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金が前記入口から出口まで流れることを可能にする、前記トラフ;
前記インペラーに近接する前記トラフ中へ不活性ガスを注入するためのガス供給システム;並びに
前記インペラーに近接する前記トラフ中へ少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を供給するための塩供給システム
を含み、前記少なくとも一つの分散機が前記トラフ中に作動的に取り付けられる、前記装置を提供する。
(図面の簡単な説明)
本発明の更なる特徴及び利点を、添付の図面と共に取り上げて以下の詳細な説明から明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
(好ましい実施態様の詳細な記載)
図1は、塩素ガスを用いる従来技術の装置の実施態様を図解する。図解される当該装置910は、トラフ950(部分的に断面化される)及び一連の分散機960(この描写される実施例用においては、6つの分散機を含み、その内の1つはバッフル974の後ろに隠れている)を含む。
トラフ950は、金属運搬樋とも記載することもでき、上流の入口954及び下流の出口956を含み、当該トラフは溶融アルミニウム及び溶融アルミニウム合金が入口954から出口956まで流れることを可能にするように適合される。図解される当該トラフ950は、トラフの入口954の上流及びトラフの出口956の下流に深さ957を有する。分散機の真下の当該トラフ950の中央部分955は、深さ958を有し、この実施態様においては、入口954の上流及び出口956の下流のトラフよりも大きな深さを有する。図解していないが、トラフの中央部分955は、入口954及び出口956の幅よりも大きな幅を有していてもよい。
【0011】
当該装置910は、6つの一連の分散機960をさらに含んでいてもよく、その内の2つは、参照番号961及び967として特定されている。当該一連の分散機は、好ましい実施態様において、トラフの中心線971に沿って直線で設置され、各々の分散機はトラフの中央部分955に沿って隣り合う分散機からほぼ等距離にあり、それらのインペラーは、トラフ950の底の溶融アルミニウム中で回転するように適合される。これらの分散機は、囲い(enclosure)922によってトラフ950中に収められる。上述の一連の分散機は、駆動手段であり、好ましくは電気モーター、圧縮空気モーター(compressed air motor)又は電気モーターへ作動的に接続される一連のベルト若しくはギアである。3つの分かれた囲い923a、923b及び923cは、囲い922の上に立っており、各々の分かれた囲いは2つの分散機用の駆動手段を含む、つまり、囲い923aについて言えば、分散機961及び967用の駆動手段は囲い923aの中に設置されている。
各々の分散機は、ガスの供給への接続を有する。図1において、分散機961及び967は、それぞれガス入口912及び914へ接続される。ガスは、各々の分散機の回転シャフトを通過し、インペラー中の内部通路の中の溶融金属と混合され、次に溶融金属とガスの混合物がインペラーの側面上の開口部から実質的に水平な様式で排出される。
【0012】
図解される囲い922は、一番目の分先の上流のバッフル972及び最後の分散機の下流のバッフル976をさらに含んでいてもよく、さらに、図解される実施態様においては、最初の3つの分散機と最後の3つの分散機との間に追加のバッフル974を含む。分散機間の追加のバッフル(図示せず)をまたいくつかの実施態様において用いてもよい。これらのバッフルは、金属がその下及び周りを流れることを許容し、一方で、バッフル972及び976は特に、これらのバッフルの間のトラフの一部分へ浮遊する副生成廃棄物(しばしばドロスと称される)を留める。このドロスは定期的に除去することができ、これらのバッフルはドロスが下流に通過すること及びいずれのフィルター又は使用される場合にはインゴットそれ自身を汚染することをも防ぐ。バッフル972及び976は、囲い922と共に、分散機を含むトラフの領域中への空気の侵入を低減し、それによって酸化を低減する。
【0013】
図1に描かれる分散機システム960は、特許権者Alcan International Limitedの米国特許5,527,381号に記載されるものと類似し、その内容は参照によって本明細書に取り込まれる。米国特許5,527,381号は、液体を散らしたり(splashing)、又は、その中の液体がさらなるガス類及び/又は液体表面上の不純物を飛沫同伴することを可能にする渦を発生させることなく当該液体をインペラーにポンプで送り込むことを目的とするものである。
図1の分散機システム960は、塩素と不活性ガスの注入及び分散で、トラフ950中の溶融アルミニウムフロー又は溶融アルミニウム合金フローを入口から出口まで循環させるか又はポンピングすることによって作動する。
アルミニウム金属中の主な不純物は、(1)溶解水素ガス;(2)粒子(酸化物、炭化物、ホウ化物など)及び溶解アルカリ金属(Na、Li、Caのような)であり、これらは鋳造又はその結果生じる製品の特性に有害な影響を有する。塩素ガスは、アルカリ金属を塩に変化させるのに効果的であり効果的であり、この塩は癒着して不活性ガスにより補助されて表面まで盛り上がる。水素は、不活性ガスの泡中へ優先的に拡散して除去され、粒子はガスの泡の周りに癒着し(形成されるいずれの塩によって補助される)、表面まで盛り上がる。これらの塩及び粒子は、ドロス又は副生成廃棄物を形成し、定期的にすくい取られるか又は下流のフィルター中に捕捉される。塩素ガスは、化学量論量を超えて加えられ、従ってこの過剰分を環境的に許容される手段で処分しなければならない。
【0014】
図2は、本発明のある好ましい実施態様を図解したものであり、装置10は、いずれの塩素ガスなしで、溶融アルミニウム及び/又は溶融アルミニウム合金のインライン精錬に用いられる。本発明のインライン精錬は、実質的に連続的な方法として、当業者(the skilled practitioner)に理解される。上記で議論したようなこれらの不純物は:水素のような溶解ガス;不溶性酸化物のような粒子;及び溶解アルカリ金属である。
当該精錬装置10は:トラフ50、塩供給システム20、少なくとも一つの分散機61(図2は、2つの分散機61及び67を図解する)を備える分散システム60及びガス供給システム16を含む。
【0015】
インライン精錬は、好ましい実施態様において、冶金トラフ50(これは金属運搬樋と呼んでもよい)の一部で実施され、この冶金トラフ50は、鋳造(若しくは金属ホールディング(metal holding))加熱炉と鋳造装置の間に設置される。そのような冶金トラフは、鋳造加熱炉から鋳造装置までの緩やかな勾配を有していてもよく、溶融金属が鋳造加熱炉から鋳造装置まで流れるように適合される。本発明のそのような冶金トラフの部分50は、図2に図解され、溶融金属の上流の入口54及び下流の出口56並びに溶融金属が実質的に連続的な様式で流れるトラフを有する。当該入口及び出口の配置は各々、図1のものと同様に、バッフルを有し、そのバッフルで規定されていてもよい。当該入口54及び出口56はそれぞれ、最上流の分散機61及び最下流の分散機67に近接している。
【0016】
本発明のインライン精錬中の当該入口54と出口56との間の溶融金属の滞留時間は、様々であり、当該金属の質量のスループット(metal mass throughput)に依存するが、概して数十秒の間(in tens of seconds)に測定される。分散機が設置されるトラフの部分50は、当該トラフの底でほんのわずかのデッドボリューム(dead volume)を有するか又は全くデッドボリュームを有さず、従って、専門的な排水孔又はトラフを傾ける(tipping)手段を含む設計を必要としない。当該トラフの部分50を含む冶金トラフは、耐熱性の裏打ちスチール(refractory lined steel)、又はその構成が当業者に周知の他の適切な材料で構築してもよい。
【0017】
トラフの中央部分55は、分散機に位置し、入口54の上流又は出口56の下流の深さ57よりも最大で50%大きい深さを有していてもよい。好ましい実施態様において、図2に図解されないが、当該深さ58は、深さ57と実質的に同じである。同様に、トラフの中央部分55の幅は、入口54の上流又は出口56の下流の幅よりも最大で50%幅広くてもよい。当業者に理解されるとおり、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の反応生成物、固体粒子(酸化物)及び残余の(又は未反応の金属ハロゲン化物)塩を含む副生成廃棄物(ドロス)は、入口54及び出口56にバッフルが存在する場合には、バッフルの後ろで捕捉されオペレーターによって除去することができる、又は出口56の下流に位置するフィルター中に捕捉させることができる。残余の金属ハロゲン化物塩は、化学量論量を超える供給に起因して存在する。同様に、水素と不活性ガスの混合物を含む排ガスは、いずれの従来の排気システムによって除去することができる。塩素が存在しないことに起因して、この排ガスは特別な処理を必要としない。従って、試練アルミニウム金属又は試練アルミニウム合金を、回収又はさらなるプロセシング及び好ましい出口56の下流の鋳造装置へ送ることができる。
【0018】
本発明のトラフは、好ましい実施態様において、以下のプロセス及び次元パラメータ(dimensional parameters)を有する:

a)典型的な金属流速は、最大で約1500kg/分である。しかしながら、概して、この質量流速は、約100kg/分よりも大きい。当業者は、全く流れがない状態及び他の特別な状況が存在する際に、本発明のトラフ50が100kg/分より低い質量流速を有しうることを明白に理解する;

b)塩は、金属1000kgあたり少なくとも1gmの割合で好ましく加えられる。これは、粒子の効果的な除去のために必要とされる最小値である。しかしながら、アルカリ金属の効果的な除去のために、この塩は、化学量論的必要量の少なくとも1倍の割合、より好ましくは化学量論的必要量の少なくとも2倍の割合で加えられるべきである。この化学量論的必要量とは、そのMgCl2含有量を基準として、存在する全てのNa、Li及びCaとちょうど反応してそれらを対応する塩化物塩へ変換させるのに必要とされる塩の量のことである。しかしながら、化学量論的必要量の10倍を超える塩添加は要求されず、より好ましくは、化学量論的必要量の6倍を超える塩添加は要求されない。効果的なアルカリ金属の除去のための少ない量の塩添加は、結果として制限された水の添加をもたらし、従ってアルゴン単独のみと同程度効果的な水素の除去ををもたらす;

c)入口54と出口56との間、すなわち分散機の影響を受けるトラフ中の金属の典型的な滞留時間は、約60秒未満であり、好ましくは25秒〜35秒の範囲である(用いる分散機の数に関係なく);トラフの中央部分55におけるトラフの深さは、典型的には約400mm未満であり、トラフの中央部分におけるトラフの幅は、典型的には約600mm未満であり、より好ましくは、この幅は300mm〜600mmまで様々であってよい;及び

d)分散機間の典型的な間隔は、約35cmである。
【0019】
塩供給システム20は、好ましい実施態様において、分散システム60の上に配置される。当該塩供給システムは、塩ホッパー24を含み、この塩ホッパー24の中へ金属ハロゲン化物塩が供給される。好ましい実施態様において、金属ハロゲン化物塩は、MgCl2又はMgCl2とKClの混合物を含み、フラックスと呼ばれることがある。特に好ましい実施態様において、当該塩は、少なくとも20質量%、さらにより好ましくは少なくとも50質量%のMgCl2及び0.01質量%〜2.0質量%の水を含む。ある実施態様において、MgCl2をAlCl3で差し替えてもよい。
塩ホッパー24は、供給機25による輸送に先立ち容器22の中に設置してもよい。容器22は、ガス供給システム16からの不活性ガス12でわずかに加圧される。好ましい実施態様において、不活性ガスはアルゴンである。不活性ガス12は、容器22に入り、塩ホッパー24中のMgCl2又はMgCl2とKClの混合物を均等に覆ってもよく、kのようにして、保管の間の塩による更なる水分の吸着を最小限にする。
【0020】
当業者は、塩ホッパー24を、加圧容器22に取って代わり、従って不活性ガスで加圧され、輸送パイプ28及びトラフ50へ密封して接続するように設計してもよいことを理解する。当該ホッパー24はまた、必要に応じて、振動機又は他の機械的装置(図示せず)を含んでいてもよく、当該ホッパー24の中の金属ハロゲン化物塩の架橋(bridging)を低減する又は排除する。
塩ホッパー24の塩18は、塩供給機25の上流の入口30で当該供給機に入る。金属ハロゲン化物塩は、概して比較的微細にひかれた結晶質粉末であり、これは概して自由に流れて、機械的手段及び/又は空気的手段(pneumatic means)によって輸送することができる。塩供給機25は、図2に図解されるとおりのダブルヘリカルスクリュー(double helical screw)であってもよいがこれに限定されないいくつもの適切な供給機のいずれかであってよい。当該供給機は、使用される塩の量を正確に計測する能力を有するべきである。金属ハロゲン化物塩18は、下流の末端の出口32を経由して当該供給機25から離れ、図2中で矢印26により図式的に表される。当該金属ハロゲン化物塩は、輸送パイプ28の最上部で小さなサイロ27に入ってもよい、又は輸送パイプ28へ直接的かつ密封して結びつけられてもよい。輸送パイプ28は、金属ハロゲン化物塩18を、金属トラフ50へ方向付ける。供給機25から離れる金属ハロゲン化物塩18の輸送は、加圧された不活性ガス12により支援されて、当該塩と不活性ガスの流れが、金属ハロゲン化物塩をパイプ28を通ってトラフ50の方へ輸送するように確立される。
【0021】
金属ハロゲン化物塩18は、輸送パイプ28から、塩輸送パイプ28へ接続される中空の塩供給チューブ(図示せず)を経由して加えてもよく、これは分散機61に近接して設置される。この塩供給チューブは、金属ハロゲン化物塩を、トラフ50の底の溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ、分散機インペラー64に極めて近接して、好ましくは分散機インペラー64の真下に供給することを可能にする。既に述べたとおり、好ましい実施態様において、当該塩及び不活性ガスは両方共に、輸送パイプ28及び塩供給システム20の塩供給チューブを経由して供給してもよい。不活性ガスは、当該金属ハロゲン化物塩の通過を支援し、これらは両方共に、同時の様式で又は実質的に同時の様式で、インペラー64の付近の点、好ましくは当該インペラーの下で、溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ放出される。
【0022】
図2に図解される特に好ましい実施態様において、金属ハロゲン化物塩は、分散機61の回転シャフト62を経由して供給される。当該シャフト62は、当該シャフト62の取付端63から溶融アルミニウム中に浸される遠位端あるいは末端65まで、回転シャフト62を貫いて伸びる縦方向の中心ボアを含む。取付端63はまた、ロータリーシール68及びモーター70へ作動的に接続される。ある実施態様においては、モーター70は囲い52の外側に位置するが、当該囲いの中にあってもよい。ロータリーシール68は、シールと不活性ガスをトラフ囲い52の中に保持しながら、当該シャフト62が回転することを可能にする。ロータリーシール68はまた、不活性ガス12及び金属ハロゲン化物塩26が当該ボア66を経由して通過する点に存在してもよい。当該モーター(70、71、72)は当該シャフトの上端部へつながれるが、当該モーターは、中空の貫通シャフト(through shaft)を有しており、ガス/塩を、モーターの上端の中空シャフトを経由して供給し、分散機の中空シャフトまで通過させることができる。ロータリーシールが、当該モーターの上端のシャフトへ提供される。分散機61の遠位端65は、取り付けられる高剪断インペラー64を有し、当該ボア66の出口の位置に存在し、そこから不活性ガス12及び金属ハロゲン化物塩が溶融金属中へ供給される。分散機は、典型的にはトラフ幅51の中心に位置し、当該分散機の回転は、溶融アルミニウムを、分散機の周りの地帯の内側でポンピングし、渦の形成又は液体を散らすことをほとんど伴わない、あるいはこれらを全く伴わない。不活性ガス12又は14は、当該インペラーの中の通路の内部セット中へ供給され、金属と混合され、さらに混合された金属/ガス混合物がインペラーの側面の開口部から水平に排出される。
【0023】
分散機システム60は、図に図解される実施態様において、2つの分散機61及び67を含み、これらは、金属ハロゲン化物塩及び不活性ガスをトラフ50の底の流れる溶融金属中へ分散させる。分散機61は、回転シャフト62及び分散インペラー64を含む。図解される当該分散システムは、米国特許5,527,381号に記載されるものと類似するが、金属ハロゲン化物塩の分散機シャフト62の中心ボア66の通過を可能にするように適合されている。
図2は、不活性ガスのみが注入される分散機67があるとおり、全ての分散機がハロゲン化物塩の添加をする必要がないことをさらに図解する。複数の分散機が存在する場合は、トラフ50はバッフル(図示せず)を含んでいてもよく、図1に記載されるものと類似する。他の好ましい実施態様において、連続する分散機は、それぞれ反対の方向に回転するか、又は、順次、時計回りの次は反時計回り(以下同様)に回転する。
【0024】
複数の分散機が存在するさらに他の代替的な実施態様において、不活性ガス及び塩が少なくとも分散機の最上流で加えられ、不活性ガスだけが少なくとも分散機の最下流で加えられる。この実施態様において、塩は粒子及びアルカリ金属の除去に非常に効果的であり、従って、塩は上流の分散機でのみ必要とされ、当該量の塩中の水分によって生成されうる余分な水素は下流の分散機中の不活性ガスにより除去される。
他の代替的な実施態様において、1つより多い分散機にハロゲン化物塩を供給してもよく、当該塩の運搬速度は分散機ごとに異なるようにしてもよい。好ましい実施態様において、最上流の分散機は、最も大きい塩の供給速度を有し、一方で、下流の分散機は、順次より低い供給速度を有する。
分散システム60はまた、複数の分散機61を有していてもよく、分散機61を通って又は分散機61の近くで不活性ガス及び金属ハロゲン化物塩が当該溶融液体中へ注入される。6個、8個又はあるいはそれ以上の分散機を設置してもよく、好ましい実施態様では4個〜6個の分散機を有する。
【0025】
ガス供給システム16(図示せず)は:加圧ガス又は液相中のガスのシリンダの不活性ガス源;当該不活性ガスの圧力を調節するためのシステム;及び当該不活性ガスを小さなチューブ連結部へ分配するマニホルドを含み、例えば、図2において、参照番号12及び14により図解されるように、これらのチューブ連結部を次に、不活性ガスが必要とされるところへルート付けすることができる。ガス供給システム16は、不活性ガスを単独又は組み合わせて含んでいてもよく、これらのガスとしては、ヘリウム、ネオン及びアルゴンが挙げられ、アルゴンは好ましい実施態様であるが、ガス供給システム16が反応性ガスを含まず、特に塩素ガスを含まないことが理解される。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
タイプAA1100のアルミニウム合金を調製し、図2に図解されるものと同様であるが4つの分散機を含む装置へ送達した。ハロゲン化物塩とアルゴンの混合物を第1分散機(最上流)を経由して送達し、アルゴンのみを3つの残りの分散機中へ注入した。アルゴンを、1分あたり160標準リットル(standard liter)の当該4つの分散機に分配される全体的な速度で送達した。塩なしで塩素/アルゴン混合物を用いた同様のデガッサーの結果と同様に、粒子除去の割合、水素除去及びアルカリ金属除去の割合を表1に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
この結果は、高レベルの粒子の除去を示唆する。本発明は、トラフ中のハロゲン化物塩の優れた分散により低レベルのハロゲン化物塩で粒子の除去を達成することができることを保証することによって正しく機能すると考えられる。さらに、これは、同伴水分(entrained moisture)からの水素生成がこれまで信じられていたよりも少なく、いずれの余分な生成された水素の除去も妥当であるように見えることを意味する。さらに、塩は最上流の分散機を経由して又はその近くで加えることだけが必要であり、しかし一方で、その下流のそれに続く分散機は実際に同伴水素を除去しうる。
【0029】
(実施例2)
タイプAA6063のアルミニウム合金を調製し、図2に図解されるものと同様であるが6つの分散機を含む装置へ送達した。ハロゲン化物塩とアルゴンの混合物を第1分散機(最上流)を経由して送達し、アルゴンのみを5つの残りの分散機中へ注入した。アルゴンを、1分あたり260標準リットル(standard liter)の当該6つの分散機に分配される全体的な速度で送達した。結果を表2に示す。
【0030】
【表2】

【0031】
この実施例においては、塩を化学量論率の1〜4倍で加えたが、これはアルカリ除去が比較的小さな化学量論的過剰で効果的であることを示唆する。アルゴンと比較して、粒子の除去への塩添加の効果が明らかに示されている。
【0032】
(実施例3)
タイプAA5005のアルミニウム合金を調製し、図2に図解されるものと同様であるが6つの分散機を含む装置へ送達した。ハロゲン化物塩とアルゴンの混合物を第1分散機(最上流)を経由して送達し、アルゴンのみを5つの残りの分散機中へ注入した。アルゴンを、1分あたり270標準リットル(standard liter)の当該6つの分散機に分配される全体的な速度で送達した。結果を表3に示す。
【0033】
【表3】

【0034】
この実施例における塩添加は、アルカリ金属除去のための化学量論的必要量のわずか0.1%倍〜0.5%倍に相当する割合であり、そのアルカリ金属除去は、それに相当するように低かった。しかしながら、その粒子の除去はそれでもなお高く、粒子の除去は低い塩供給速度においても効果的であることを示唆する。
【0035】
(実施例4)
タイプAA1200のアルミニウム合金を調製し、図2に図解されるものと同様であるが6つの分散機を含む装置へ送達した。ハロゲン化物塩とアルゴンの混合物を第1分散機(最上流)を経由して送達し、アルゴンのみを5つの残りの分散機中へ注入した。アルゴンを、1分あたり270標準リットル(standard liter)の当該6つの分散機に分配される全体的な速度で送達した。結果を表4に示す。
【0036】
【表4】

【0037】
この実施例における塩添加は、アルカリ金属除去のための化学量論的必要量のわずか2%〜6%に相当する割合であり、アルカリ除去は比較的小さい化学量論的過剰で効果的であることを示唆する。
上記に記載された本発明の実施態様は、例示的であることのみを意図している。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲の発明の範囲によってのみ限定されることを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】図1は、従来技術の装置の部分的に断面化された透視図であり、当該装置が取り付けられたトラフの一部が除去されてトラフ中の複数個の分散機が見えるようになっている。
【図2】図2は、本発明の一つの実施態様に従う装置の配置図であり、金属トラフの一部が図解されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金のインライン精錬方法であって:
不活性ガス及び少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を、入口から出口までトラフを流れる前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ加えること;及び
前記不活性ガス及び少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を、前記トラフ中を流れる溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ分散させること、
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記の金属運搬トラフ中又は出口の下流中の前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金から副生成廃棄物を除去すること;及び
精錬アルミニウム又は精錬アルミニウム合金を回収すること、
を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記精錬アルミニウム又は精錬アルミニウム合金を鋳造することを含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記副生成廃棄物が、前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中の不純物と、金属ハロゲン化物塩、固体粒子及び残留塩の少なくとも一つとの反応生成物の混合物である、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記固体粒子が酸化物である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金の排ガスが、前記不活性ガスの分散を介して放出される、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩がMgCl2を含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩が、少なくとも20質量%のMgCl2と0.01質量%〜2.0質量%の水である、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩が、少なくとも50質量%のMgCl2を含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩が、MgCl2とKClを含む、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩が、前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金の1トンあたり0.01kg〜0.20kgの割合で加えられる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記不活性ガスが、ヘリウム、ネオン及びアルゴンからなる群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記不活性ガスがアルゴンである、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも一つのハロゲン化物塩と不活性ガスが、最上流の分散機で分散され、かつ不活性ガスだけが残りの分散機で分散される、請求項1記載の方法。
【請求項15】
溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金をインラインで精錬するための装置であって:
駆動手段へ作動的に接続される取付端及び前記取付端と反対側の遠位端を有する回転可能なシャフト、及び前記遠位端へ固定されるインペラーを含む、少なくとも一つの分散機であって、前記遠位端とインペラーが前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ浸漬するのに適合されている前記少なくとも一つの分散機;
上流の入口及び下流の出口を含むトラフであって、前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金が前記入口から出口まで流れることを可能にする、前記トラフ;
前記インペラーに近接する前記トラフ中へ不活性ガスを注入するためのガス供給システム;並びに
前記インペラーに近接する前記トラフ中へ少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を供給するための塩供給システム
を含み、前記少なくとも一つの分散機が前記トラフ中に作動的に取り付けられる、前記装置。
【請求項16】
前記少なくとも一つの分散機が2〜8個の分散機を含む、請求項15記載の装置。
【請求項17】
前記少なくとも一つの分散機が4〜6個の分散機を含む、請求項16記載の装置。
【請求項18】
前記少なくとも一つの分散機が6個の分散機を含む、請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記トラフが前記上流の入口及び下流の出口でバッフルを含む、請求項15記載の装置。
【請求項20】
前記トラフが前記分散機の間にバッフルを含む、請求項16記載の装置。
【請求項21】
前記塩供給システムが、
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を蓄えるための塩ホッパー;
上流の入口及び前記入口から遠位の下流の出口を規定する塩供給機であって、前記入口が前記塩ホッパーへ作動的に連結されて前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を前記塩供給機を介して前記入口から出口まで供給する、前記塩供給機;
輸送パイプ、並びに
溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中へ浸漬するための塩供給チューブ、
を含み、前記塩供給機が、前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を前記出口から前記輸送パイプ及び前記塩供給チューブまで逐次的に運搬し、かつ前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を前記インペラーに位置する又は前記インペラーの真下に位置する前記トラフ中へ送り出す、請求項15記載の装置。
【請求項22】
前記ガス供給システムが前記塩ホッパーへ前記不活性ガスを供給し、前記不活性ガスが前記溶融アルミニウム又は溶融アルミニウム合金中への前記塩輸送パイプ及び塩供給チューブを介する前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩の輸送を補助する、請求項21記載の装置。
【請求項23】
前記不活性ガスがアルゴンである、請求項15記載の装置。
【請求項24】
前記塩供給チューブが前記シャフトであり、前記シャフトが、前記取付端から前記遠位端まで前記シャフトを貫くボアを規定し、かつ前記インペラーの真下に前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩を送り出す、請求項15記載の装置。
【請求項25】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩及び不活性ガスが最上流の分散機で分散され、かつ不活性ガスだけが残りの分散機で分散される、請求項16記載の装置。
【請求項26】
前記少なくとも一つの金属ハロゲン化物塩及び不活性ガスが最上流の2つの分散機で分散され、かつ不活性ガスだけが残りの分散機へ注入される、請求項16記載の装置。
【請求項27】
前記上流の入口及び下流の出口がそれぞれバッフルにより規定される、請求項15記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−512782(P2009−512782A)
【公表日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−536893(P2008−536893)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【国際出願番号】PCT/CA2006/001754
【国際公開番号】WO2007/048240
【国際公開日】平成19年5月3日(2007.5.3)
【出願人】(591094930)アルカン・インターナショナル・リミテッド (5)
【氏名又は名称原語表記】ALCAN INTERNATIONAL LIMITED
【Fターム(参考)】