説明

溶融メッキ垂れ切り装置

【課題】被溶融メッキ物品が相互に密着させることなく余分な溶融メッキ液を短時間で効率良く確実に垂れ切りでき、被溶融メッキ物品のメッキ斑を大幅に低減して品質バラツキを抑制できる溶融メッキ垂れ切り装置を提供すること。
【解決手段】多数の被溶融メッキ物品Mを加熱炉110内の回転カゴ120内に投入収集して被溶融メッキ物品Mに付着している余分な溶融メッキ液を遠心分離して除去する溶融メッキ垂れ切り装置100において、回転カゴ120内で被溶融メッキ物品Mを捕捉する物品捕捉手段131が、回転カゴ120の内周側に少なくとも内周方向に沿った凹凸状態で配置されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融メッキ加工に使用される溶融メッキ垂れ切り装置に関するものであり、更に詳しくは、チェーン部品の溶融亜鉛メッキ加工に使用される溶融メッキ垂れ切り装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、溶融メッキ加工を行う際には、被溶融メッキ物品を溶融メッキ液に浸漬させた後に、余分な溶融メッキ液の除去作業、所謂、溶融メッキの垂れ切りが行われている。
【0003】
従来、余分な溶融メッキ液を遠心分離して除去する装置として、溶融亜鉛メッキを施した物品をカゴに入れたまま、冷却槽の上方に移動させてカゴを回転させてスペルタと称する余分な溶融亜鉛を飛散除去する溶融メッキ垂れ切り装置が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特公昭51−6616号公報(第2頁、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、前述したような従来の溶融メッキ垂れ切り装置では、溶融亜鉛メッキを施した物品を投入するカゴの内周壁面が接触抵抗の少ない円筒状の曲面を呈していることにより、遠心分離時にカゴの内周壁面と溶融亜鉛メッキを施した物品との間でスリップが生じてカゴの内周壁面から溶融亜鉛メッキを施した物品に回転力が効率よく伝達されず、その結果、カゴ内の溶融亜鉛メッキを施した物品に対して十分な遠心力を発揮することができないため、余分な溶融亜鉛を効率よく遠心分離できず、溶融亜鉛メッキの垂れ切りに要する時間が長くなって溶融亜鉛メッキを施した物品同士の品質バラツキを生じたり、遠心分離時の冷却速度が遅延して母材鉄と亜鉛との合金層が必要以上に異常成長するとメッキ層の耐食性が損なわれるという問題があり、また、このような溶融亜鉛メッキの垂れ切りに起因する品質バラツキを配慮すると、溶融亜鉛の通常のメッキ温度440〜470℃を高めの500〜510℃に設定して維持しなければならないという溶融温度制御上の厄介な問題があった。
【0005】
また、従来の溶融メッキ垂れ切り装置では、カゴ内に投入された溶融亜鉛メッキを施した物品から余分な溶融亜鉛を遠心分離して除去する際に、溶融亜鉛メッキを施した物品が遠心力によりカゴの内周壁面上で瞬時に重畳して相互に密着した状態で冷却されるため、溶融亜鉛メッキを施した物品の重畳密着した部分と重畳密着しなかった部分とでメッキ斑と称するメッキ厚のバラツキを生じたり、あるいは、重畳密着した相互の物品を個々に分割する際に重畳密着した部分に剥離跡が生じたりして物品の品質を著しく低下させるという問題があった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、前述したような従来技術の問題点を解決し、被溶融メッキ物品が相互に密着させることなく余分な溶融メッキ液を短時間で効率良く確実に垂れ切りできるとともに、被溶融メッキ物品のメッキ斑を大幅に低減して品質バラツキを抑制できる溶融メッキ垂れ切り装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、多数の被溶融メッキ物品を加熱炉内の回転カゴ内に投入収集して前記被溶融メッキ物品に付着している余分な溶融メッキ液を遠心分離して除去する溶融メッキ垂れ切り装置において、前記回転カゴ内で被溶融メッキ物品を捕捉する物品捕捉手段が、前記回転カゴの内周側に少なくとも内周方向に沿った凹凸状態で配置されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0008】
請求項2に係る本発明は、請求項1記載の構成に加えて、前記物品捕捉手段が、前記回転カゴの内周側に螺旋状に配置されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0009】
請求項3に係る本発明は、請求項1または請求項2記載の構成に加えて、前記被溶融メッキ物品を回転カゴの内周面に向けて撹拌分散させる撹拌分散手段が、前記回転カゴの内底側に配置されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0010】
請求項4に係る本発明は、請求項3記載の構成に加えて、前記物品捕捉手段と撹拌分散手段とを一体に形成した内カゴが、前記回転カゴに対して同軸状態かつ着脱自在に内装されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0011】
請求項5に係る本発明は、請求項4記載の構成に加えて、前記回転カゴの回転を強制停止させるブレーキ手段が、前記回転カゴの回転軸に付設されていることにより、前述した課題を解決するものである。
【0012】
請求項6に係る本発明は、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記溶融メッキ液が溶融亜鉛からなることにより、前述した課題を解決するものである。
【0013】
請求項7に係る本発明は、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の構成に加えて、前記被溶融メッキ物品がチェーン部品であることにより、前述した課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0014】
まず、本請求項1に係る発明によれば、多数の被溶融メッキ物品を加熱炉内の回転カゴ内に投入収集して被溶融メッキ物品に付着している余分な溶融メッキ液を遠心分離して除去する溶融メッキ垂れ切り装置において、回転カゴ内で被溶融メッキ物品を捕捉する物品捕捉手段が回転カゴの内周側に少なくとも内周方向に沿った凹凸状態で配置されていることにより、遠心分離時に回転カゴ内で掻き回される被溶融メッキ物品が凹凸状態の物品捕捉手段との間でスリップすることなく確実に捕捉されるとともに、被溶融メッキ物品に回転力が効率よく伝達されて十分な遠心力を発揮させるため、余分な溶融亜鉛を効率よく遠心分離して短時間かつ確実に垂れ切りでき、被溶融メッキ物品の品質バラツキを解消でき、さらに、被溶融メッキ物品の垂れ切りに要する時間を短縮できるので、従来のような垂れ切り時の大幅な温度低下を見越した高めのメッキ温度を設定する必要がなく、このような高めのメッキ温度より低いメッキ温度に設定すれば良く、メッキ温度の温度制御が簡便となる。
【0015】
請求項2に係る本発明の溶融メッキ垂れ切り装置によれば、請求項1記載の発明が奏する効果に加えて、前記物品捕捉手段が、前記回転カゴの内周側に螺旋状に配置されていることにより、遠心分離時に回転カゴ内で掻き回される被溶融メッキ物品が回転カゴの下方から上方に向かって移動するため、被溶融メッキ物品を効率よく分散させることができる。
【0016】
請求項3に係る本発明の溶融メッキ垂れ切り装置によれば、請求項1または請求項2記載の発明が奏する効果に加えて、被溶融メッキ物品を回転カゴの内周面に向けて撹拌分散させる撹拌分散手段が回転カゴの内底側に配置されていることにより、例えば、小物と称する物品質量の小さい被溶融メッキ物品などが回転カゴの回転軸付近に投入されたような場合であっても、撹拌分散手段が回転カゴの内底に投入された被溶融メッキ物品を回転カゴの内周面に向けて強制的に飛散させるとともに、相互に密着した状態の被溶融メッキ物品であっても撹拌分散手段が強制的に個々に分離するため、従来のように被溶融メッキ物品の重畳密着した部分と重畳密着しなかった部分とでメッキ斑と称するメッキ厚のバラツキを生じたり、あるいは、重畳密着した相互の物品を個々に分割する際に重畳密着した部分に剥離跡が生じたりして物品の品質を著しく低下させることがなく、被溶融メッキ物品のメッキ斑を大幅に低減して品質バラツキを抑制することができる。
【0017】
請求項4に係る本発明の溶融メッキ垂れ切り装置によれば、請求項3記載の発明が奏する効果に加えて、物品捕捉手段と撹拌分散手段とを一体に形成した内カゴが回転カゴに対して同軸状態かつ着脱自在に内装されていることにより、回転カゴに対する被溶融メッキ物品の投入、排出を内カゴを介して取り扱うことができるため、被溶融メッキ物品の前処理工程と後処理工程との間で簡便な取り扱いが実現でき、しかも、回転カゴ内部のメンテンナンスも簡便となる。
【0018】
請求項5に係る本発明の溶融メッキ垂れ切り装置によれば、請求項4記載の発明が奏する効果に加えて、前記回転カゴの回転を強制停止させるブレーキ手段が、前記回転カゴの回転軸に付設されていることにより、このブレーキ手段が遠心分離終了時に回転カゴを惰性で回転させることなく強制的に急停止させて垂れ切り処理を短時間で終了させることができるので、内カゴに対する被溶融メッキ物品の貼り付きを回避することができる。
【0019】
請求項6に係る本発明の溶融メッキ垂れ切り装置によれば、請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の発明が奏する効果に加えて、溶融メッキ液が溶融亜鉛からなることにより、余分な溶融亜鉛メッキ液を短時間で効率良く確実に垂れ切りできるとともに、被溶融メッキ物品のメッキ斑を大幅に低減して品質バラツキを抑制でき、しかも、従来のような垂れ切り時の大幅な温度低下を見越した高めのメッキ温度500〜510℃に設定する必要がなく、このような高めのメッキ温度より低いメッキ温度約440℃程度に設定すれば良く、溶融亜鉛メッキ温度の温度制御が簡便となる。
【0020】
請求項7に係る本発明の溶融メッキ垂れ切り装置によれば、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の発明が奏する効果に加えて、被溶融メッキ物品がチェーン部品であることにより、リンクプレートなどのチェーン部品のメッキ斑が大幅に低減されて品質バラツキを抑制できるため、長期に亙って優れた耐食性を発揮するとともにチェーンの組み立て精度が著しく向上して優れたチェーン耐久性を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、多数の被溶融メッキ物品を加熱炉内の回転カゴ内に投入収集して被溶融メッキ物品に付着している余分な溶融メッキ液を遠心分離して除去する溶融メッキ垂れ切り装置において、回転カゴ内で被溶融メッキ物品を捕捉する物品捕捉手段が回転カゴの内周側に少なくとも内周方向に沿った凹凸状態で配置されていることにより、被溶融メッキ物品が相互に密着させることなく余分な溶融メッキ液を短時間かつ低温で効率良く確実に垂れ切りするとともに、被溶融メッキ物品のメッキ斑を大幅に低減して品質バラツキを抑制するものであれば、その具体的な実施の態様は如何なるものであって何ら構わない。
【0022】
すなわち、本発明の溶融メッキ垂れ切り装置で用いる回転カゴの具体的形状については、平坦な底部を有する円筒状のもの、皿状の底部を有する円筒状のもの、摺鉢状の底部を有する円筒状のものなどのいずれであっても差し支えないが、摺鉢状の底部を有する円筒状のものの場合には、その底部が回転カゴの中心から回転カゴの内周壁上方に向かって傾斜しているため、被溶融メッキ物品が内底面からより上方に飛散し、その結果、被溶融メッキ物品が内周壁上でより分散した状態で垂れ切りされるのでより好ましい。
【0023】
また、本発明の溶融メッキ垂れ切り装置で用いる物品捕捉手段については、回転カゴの内周側に少なくとも内周方向に沿った凹凸状態で配置されていれば、その具体的な形態は如何なるものであっても何ら構わなく、例えば、回転カゴ自体の内周側に設けても良く、回転カゴに同芯状態で着脱可能に収容する内カゴの内周側に設けても良い。
さらに、内カゴの内周方向に沿って回転軸と平行な縦筋の波状に、若しくは、回転軸を中心として内カゴの下方から上方に向かって螺旋角が約45〜80゜の螺旋状に凹凸形成されたものであれば、該凹凸の凹部、凸部が角張った状態で形成されたもの、曲線状態で形成されたものなどのいずれであっても差し支えない。
【0024】
また、本発明の溶融メッキ垂れ切り装置で用いる撹拌分散手段の具体的形状については、内底側に設けられたものであれば、三角柱状の部材を内カゴの内底面に十字状に設置することで形成されたもの、半円柱状の部材を内カゴの内底面に十字状に設置することで形成されたものなどのいずれであっても差し支えない。
【実施例】
【0025】
以下、本発明の一実施例である溶融メッキ垂れ切り装置を図面に基づいて説明する。
ここで、図1は、本発明の第1実施例である溶融メッキ垂れ切り装置の全体概要図であり、図2は、図1に示す溶融メッキ垂れ切り装置を模式的に示した全体断面図であり、図3は、図1に示す溶融メッキ垂れ切り装置に用いた内カゴの全体図であり、図4は、図1に示す溶融メッキ垂れ切り装置に用いた内カゴの平面図であり、図5は、本発明の第2実施例である溶融メッキ垂れ切り装置に用いた内カゴの全体図である。
【0026】
まず、本発明の第1実施例である溶融メッキ垂れ切り装置100は、被溶融メッキ物品Mとして、チェーン部品のひとつであるリンクプレートに適用した場合のものであって、被溶融メッキ物品M、すなわち、溶融亜鉛メッキしてなるリンクプレートに付着している余分な溶融亜鉛メッキ液を遠心分離して除去するものである。
すなわち、図1乃至図2に示すように、本実施例である溶融メッキ垂れ切り装置100は、加熱炉110内に設けられた円筒状の回転カゴ120とこの回転カゴ120に対して同芯状態で着脱可能な円筒状の内カゴ130とを備えて、この内カゴ130内に投入収集された被溶融メッキ物品Mのリンクプレートに付着している余分な溶融亜鉛メッキ液を遠心分離して除去するように構成されている。
【0027】
なお、図1乃至図2における符号111は、被溶融メッキ物品Mを投入収集した内カゴ130を収容したり取り出したりするための加熱炉110に設けた開閉蓋であり、図2における符号140は、前述した加熱炉110の底部側に軸支されるとともに回転カゴ120の下底面に取り付けられた回転軸であり、符号150は、駆動ベルトを介して回転軸140を駆動させる駆動モーターである。
【0028】
そして、前述した円筒状の回転カゴ120は、図2に示すように、炉内温度200℃以上に保持するための断熱材121がその外周部分に囲繞周設され、その底部分に遠心分離された溶融亜鉛メッキ液を排出するための排出口(図示せず)が設けられている。
なお、図1乃至図2における符号122は、回転カゴ120内に収容した内カゴ130を遠心分離時に確実に固定して回転カゴ120と一体に回転させるための回転カゴ120の頂部に突出して設けた嵌合用突起である。
【0029】
また、前述した円筒状の内カゴ130は、図2乃至図3に示すように、遠心分離された溶融亜鉛メッキ液を排出するために、カゴ全体が空隙率40〜60%のエキスパンドメタル、パンチングメタルなどの穴加工された鋼板からなり、その内底側に被溶融メッキ物品Mのリンクプレートを内カゴ130の内周面に向けて飛散させるための撹拌分散手段である撹拌分散翼131が設けられているとともに、その内周側に回転カゴ120内で被溶融メッキ物品Mのリンクプレートを捕捉するための物品捕捉手段である物品捕捉壁132が設けられている。
【0030】
なお、図3における符号133は、内カゴ130を回転カゴ120に同芯状態で着脱可能に係止して収納するための係止用フランジ部であり、符号134は、内カゴ130を回転カゴ120の嵌合用突起122に嵌合させて確実に固定させるために係止用フランジ部133に設けた4つの嵌合孔であり、符号135は、遠心分離時に内カゴ130から被溶融メッキ物品Mの飛び出しを防止するための内蓋であり、符号136は、回転カゴ120から内カゴ130を収容したり取り出したりするために係止用フランジ部133に設けた取っ手である。
【0031】
したがって、このような内カゴ130を回転カゴ120に取り付けるには、まず、内カゴ130の係止用フランジ部133に設けた4つの嵌合孔134を回転カゴ120の頂部に設けられた4個の嵌合用突起122に挿入させることにより、内カゴ130を回転カゴ120に一体に収容した後、内カゴ130の内蓋135を閉じ、更に、前述した4個の嵌合用突起122に係止部材137を係止して、遠心分離時に確実に固定して回転カゴ120と一体に回転させるようになっている。
【0032】
そこで、本実施例の溶融メッキ垂れ切り装置100が最も特徴とする撹拌分散手段の撹拌分散翼131と物品補足手段の物品捕捉壁132とについて以下詳しく説明する。
まず、撹拌分散翼131は、図3及び図4に示すように、三角柱状の部材を内カゴ130の内底面に十字状に形成して設置され、回転カゴ120の回転時には、内カゴ130の内底に投入された被溶融メッキ物品Mのリンクプレートを内カゴ130の内周面に向けて飛散させるようになっている。
【0033】
また、物品補足手段の物品捕捉壁132は、図3及び図4に示すように、内カゴ130の内周側に内周方向に沿って前記回転軸140と平行な縦筋の波状に凹凸形成され、その捕捉壁面には多数の穴孔が施されているため、回転カゴ120の回転時に内カゴ130内で掻き回される被溶融メッキ物品Mのリンクプレートをその谷間においてスリップすることなく確実に捕捉して被溶融メッキ物品Mのリンクプレートに回転力が効率よく伝達されて十分な遠心力を発揮するようになっている。
【0034】
したがって、本実施例の溶融メッキ垂れ切り装置100では、被溶融メッキ物品Mのリンクプレートに付着していた余分な亜鉛溶融メッキ液が遠心力によって垂れ切りされ、次いで、この垂れ切りされた余分な溶融亜鉛メッキ液が物品捕捉壁131の壁面に施された穴孔及び内カゴ130に施された穴孔を通じて回転カゴ120の内周面に向かって飛ばされる。そして、このようにして飛ばされた余分な溶融亜鉛メッキ液は、回転カゴ120の底面に設けられた排出口から排出される。
【0035】
また、本実施例の溶融メッキ垂れ切り装置100では、図1乃至図2に示すように、前述した回転カゴ120の回転を強制停止させるブレーキ手段160が、回転カゴ120の回転軸140に付設されていることにより、このブレーキ手段160が遠心分離終了時に回転カゴ120を惰性で回転させることなく強制的に急停止させて垂れ切り処理を短時間で終了させるため、内カゴ130に対する被溶融メッキ物品Mのリンクプレートの貼り付きを回避することができるようになっている。
【0036】
つぎに、本発明の第2実施例である溶融メッキ垂れ切り装置200について、図5に示す内カゴ230の全体図に基づいて説明する。
ここで、本発明の第2実施例である溶融メッキ垂れ切り装置200における内カゴ230以外の構成は、前述した第1実施例の溶融メッキ垂れ切り装置100と全く同じであるため、第1実施例の溶融メッキ垂れ切り装置100に関する明細書、および、図1乃至図2に示す100番代の符号を200番代の符号に読み替えることによって、内カゴ230以外の構成についてはその説明を省略する。
【0037】
そこで、本第2実施例の溶融メッキ垂れ切り装置200が最も特徴とする物品補足手段の物品捕捉壁232について説明する。
すなわち、図5に示すように、第2実施例の溶融メッキ垂れ切り装置200における物品補足手段の物品捕捉壁232は、内カゴ230の内周側に内周方向に沿って前記回転軸240を中心として内カゴ230の下方から上方に向かって螺旋角が約45〜80°の螺旋状に凹凸形成され、その捕捉壁面には多数の穴孔が施されているため、回転カゴ220の回転時に内カゴ230内で掻き回される被溶融メッキ物品Mのリンクプレートをその谷間においてスリップすることなく確実に捕捉して被溶融メッキ物品Mのリンクプレートに回転力が効率よく伝達されて十分な遠心力を発揮するようになっている。
なお、図5における矢印は、物品補足手段の物品捕捉壁232が螺旋状に凹凸形成され内カゴ230の回転方向である。
【0038】
したがって、本実施例の溶融メッキ垂れ切り装置200では、被溶融メッキ物品Mのリンクプレートに付着していた余分な亜鉛溶融メッキ液が遠心力によって垂れ切りされ、次いで、この垂れ切りされた余分な溶融亜鉛メッキ液が物品捕捉壁231の壁面に施された穴孔及び内カゴ230に施された穴孔を通じて回転カゴ220の内周面に向かって飛ばされる。このとき、物品捕捉手段の物品捕捉壁232が、回転カゴの内周側に螺旋状に配置されていることにより、遠心分離時に回転カゴ内で掻き回される被溶融メッキ物品が回転カゴの下方から上方に向かって移動するため、被溶融メッキ物品を効率よく分散させる。そして、このようにして飛ばされた余分な溶融亜鉛メッキ液は、回転カゴ220の底面に設けられた排出口から排出される。
【0039】
このようにして得られた本発明の第1実施例および第2実施例である溶融メッキ垂れ切り装置は、被溶融メッキ物品Mのリンクプレートが相互に密着させることなく余分な溶融亜鉛メッキ液を短時間で効率良く確実に垂れ切りできるとともに、このリンクプレートのメッキ斑を大幅に低減して品質バラツキを抑制でき、しかも、従来のような垂れ切り時の大幅な温度低下を見越した高めの溶融亜鉛メッキ温度500〜510℃に設定する必要がなく、このような高めのメッキ温度より低いメッキ温度約440℃程度に設定すれば良く、溶融亜鉛メッキ温度の温度制御が簡便となる。
さらに、従来のような溶融亜鉛メッキ温度500〜510℃に比べて、Fe−Znの拡散合金層の過剰な厚膜化(すなわち、異常成長)が起こり難くなるため、メッキ品質が一段と向上する。
【0040】
また、チェーン部品のひとつであるリンクプレートのメッキ斑が大幅に低減されて品質バラツキを抑制できるため、優れた耐食性を発揮するとともにチェーンの組み立て精度が著しく向上して優れたチェーン耐久性を発揮することができ、その効果は甚大である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の第1実施例である溶融メッキ垂れ切り装置の全体概要図。
【図2】図1に示す溶融メッキ垂れ切り装置を模式的に示した全体断面図。
【図3】図1に示す溶融メッキ垂れ切り装置に用いた内カゴの全体図。
【図4】図1に示す溶融メッキ垂れ切り装置に用いた内カゴの平面図。
【図5】本発明の第2実施例である溶融メッキ垂れ切り装置に用いた内カゴの全体図。
【符号の説明】
【0042】
100 ・・・ 溶融メッキ垂れ切り装置
110 ・・・ 加熱炉
111 ・・・ 開閉蓋
120 ・・・ 回転カゴ
121 ・・・ 断熱材
122 ・・・ 嵌合用突起
130,230 ・・・ 内カゴ
131,231 ・・・ 撹拌分散翼
132,232 ・・・ 物品捕捉壁
133,233 ・・・ 係止用フランジ部
134,234 ・・・ 嵌合孔
135 ・・・ 内蓋
136,236 ・・・ 取っ手
137 ・・・ 係止部材
140 ・・・ 回転軸
150 ・・・ 駆動モーター
M ・・・ 被溶融メッキ物品


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多数の被溶融メッキ物品を加熱炉内の回転カゴ内に投入収集して前記被溶融メッキ物品に付着している余分な溶融メッキ液を遠心分離して除去する溶融メッキ垂れ切り装置において、
前記回転カゴ内で被溶融メッキ物品を捕捉する物品捕捉手段が、前記回転カゴの内周側に少なくとも内周方向に沿った凹凸状態で配置されていることを特徴とする溶融メッキ垂れ切り装置。
【請求項2】
前記物品捕捉手段が、前記回転カゴの内周側に螺旋状に配置されていることを特徴とする請求項1記載の溶融メッキ垂れ切り装置。
【請求項3】
前記被溶融メッキ物品を回転カゴの内周面に向けて撹拌分散させる撹拌分散手段が、前記回転カゴの内底側に配置されていることを特徴とする請求項1または請求項2記載の溶融メッキ垂れ切り装置。
【請求項4】
前記物品捕捉手段と撹拌分散手段とを一体に形成した内カゴが、前記回転カゴに対して同軸状態かつ着脱自在に内装されていることを特徴とする請求項3記載の溶融メッキ垂れ切り装置。
【請求項5】
前記回転カゴの回転を強制停止させるブレーキ手段が、前記回転カゴの回転軸に付設されていることを特徴とする請求項4記載の溶融メッキ垂れ切り装置。
【請求項6】
前記溶融メッキ液が、溶融亜鉛からなることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の溶融メッキ垂れ切り装置。
【請求項7】
前記被溶融メッキ物品が、チェーン部品であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の溶融メッキ垂れ切り装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−297649(P2007−297649A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−124113(P2006−124113)
【出願日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【出願人】(000003355)株式会社椿本チエイン (861)
【Fターム(参考)】