説明

溶融ロータリーキルンの操業方法及び溶融ロータリーキルンの制御装置

【課題】溶融ロータリーキルンによる可燃性処理物の処理を安定して行うことが可能な溶融ロータリーキルンの操業方法及び溶融ロータリーキルンの制御装置を提供する。
【解決手段】可燃性処理物Wを燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの操業方法であって、軸線L回りに回転される炉本体20と、燃焼バーナー12と、炉本体20の内壁面に沿って流れる溶融物Mの炉本体20に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部30と、を有し、相対移動速度算出部30は、溶融物Mを所定間隔で撮像する撮像部31と、溶融物Mの特徴点を特定するとともに特徴点の相対移動距離を測定して溶融物Mの相対移動速度を算出する演算部32と、を備えており、相対移動速度算出部30によって算出された溶融物Mの相対移動速度に応じて、炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば可燃物付スクラップ等の可燃性処理物を炉本体に投入し、炉本体内部で可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する際に用いられる溶融ロータリーキルンの操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車のシュレッダーダストや廃家電品等のプラスチック等のように可燃物と金属等の不燃物とを含有する可燃性処理物を処理する方法として、溶融ロータリーキルンを用いたものが広く利用されている。
溶融ロータリーキルンは、軸線回りに回転可能な円筒状をなす炉本体と、炉本体内部を加熱するための燃焼バーナーと、を備えている。
【0003】
炉本体に可燃性処理物が投入されると、例えばウレタンなどの可燃物は燃焼してガス化し、金属を含む不燃物は溶融されて溶融物(溶融金属及び溶融スラグ)となる。ここで形成された溶融物は、炉本体の流出口から外部に排出され、冷却器で水冷されるとともに破砕されて砕塊とされ、この砕塊の中から、鉄(Fe)をはじめとして銅(Cu)、金(Au)、銀(Ag)などの有用または高価な金属が回収される。一方、炉本体内部で発生したガスは、二次燃焼室でさらに高温に燃焼され、悪臭物質などが分解されて二次燃焼室から排気され、熱交換工程、クエンチ工程、煤塵・有害ガス除去工程などを経て大気中に放出される。
【0004】
このような溶融ロータリーキルンにおいては、炉本体の内部温度が低くなると、溶融物の温度も低くなって粘性が上昇し、溶融物が炉本体の内壁面に付着することで炉本体の回転方向に沿った環状の鋳付きが発生することがある。このように炉本体内部に環状の鋳付きが発生すると、この鋳付きによって炉本体内部を流動する他の溶融物や未処理物が堰き止められてしまい、炉本体の流出口からの溶融物の流出が一時中断されることになる。そして、堰き止められた溶融物や未処理物が一定量を超えると鋳付きが破壊され、流出口から多量の溶融物及び未処理物が排出されることになる。このように多量の溶融物が冷却器に一度に流れ込むと、前記冷却器の冷却能力を大幅に超えてしまうために溶融物の処理ができなくなる。また、未処理物が冷却器に流れ込むことで冷却器が故障してしまうおそれがある。この場合、溶融ロータリーキルンの操業を一時停止して修理することになり、可燃性処理物の処理効率が大幅に低下してしまう。
【0005】
従来、炉本体の内部温度を推定又は測定し、前記内部温度を安定させるようにして操業が行われている。例えば、特許文献1にはキルンの流出口温度から炉本体の内部温度を推定して操業する方法が、特許文献2,3には放射温度計によって炉本体の内部温度を測定する方法が、特許文献4には熱電対や測温抵抗体等によって炉本体の内部温度を測定する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2004−20105号公報
【特許文献2】特開平08−29260号公報
【特許文献3】特開平10−332124号公報
【特許文献4】特開2004−11990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1−4に記載された方法においては、炉本体の内部温度、つまり、炉本体内部の雰囲気温度を推定及び測定するように構成されている。ここで、前述の可燃性処理物は様々な性状をなしており、可燃性処理物の投入状況によっては可燃物が一気に燃焼して炉本体の内部温度が一時的に上昇することがある。この場合、燃焼は一時的、かつ、局所的なものであるため炉本体内を流動する溶融物の温度は大きく上昇せず粘性も変化しない。この状況下で炉本体の内部温度を下げるように操業すると、溶融物の温度が低下して粘性が上昇し、環状の鋳付きが発生してしまうことになる。つまり、特許文献1−4に記載された方法のように炉本体の内部温度を推定及び測定しても、炉本体内を流動する溶融物の粘性を制御することはできず、炉本体の内壁面への環状の鋳付きの発生を防止するように操業することは困難であった。
【0007】
本発明は、前述した状況に鑑みてなされたものであって、炉本体の内壁面に環状の鋳付きが発生することを抑制して、溶融ロータリーキルンによる可燃性処理物の処理を安定して行うことが可能な溶融ロータリーキルンの操業方法及び溶融ロータリーキルンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明の溶融ロータリーキルンの操業方法は、可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの操業方法であって、前記溶融ロータリーキルンは、軸線回りに回転される炉本体と、該炉本体内部を加熱する燃焼バーナーと、前記炉本体で生成される溶融物を外部へと排出する流出口と、前記炉本体の内壁面に沿って流れる前記溶融物の前記炉本体に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部と、を有し、前記相対移動速度算出部は、前記溶融物を所定間隔で撮像する撮像部と、前記溶融物の特徴点を特定するとともに該特徴点の相対移動距離を測定して前記溶融物の前記相対移動速度を算出する演算部と、を備えており、前記相対移動速度算出部によって算出された前記溶融物の前記相対移動速度に応じて、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することを特徴としている。
【0009】
前述の溶融ロータリーキルンの操業方法においては、回転する前記炉本体の内壁面に沿って流れる溶融物の前記炉本体に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部を備えており、この相対移動速度算出部が、溶融物を所定間隔で撮像する撮像部と、前記溶融物の特徴点を特定するとともに該特徴点の炉本体に対する相対移動距離を測定して前記溶融物の前記相対移動速度を算出する演算部と、を備えているので、所定間隔(時間)における特徴点の移動距離と炉本体の回転速度(内壁面部分の周速度)から炉本体に対する溶融物の相対移動速度を精度良く算出することが可能となる。
【0010】
この溶融物の炉本体に対する相対移動速度は、溶融物の粘性によって大きく変化するものである、すなわち、溶融物の相対移動速度を算出することで、直接的に溶融物の粘性を評価することができるのである。そして、この溶融物の相対移動速度に応じて前記炉本体への可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態を制御することで、溶融物の粘性の上昇を確実に防止することが可能となり、炉本体の内壁面への鋳付きの発生を確実に防止することができる。
【0011】
ここで、前記溶融物の前記相対移動速度が1〜10cm/secの範囲内となるように、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することが好ましい。
溶融物の前記相対移動速度を1cm/sec以上とすることにより、溶融物の粘性の上昇を確実に防止して鋳付きの発生を防止することができる。また、溶融物の前記相対移動速度を10cm/sec以下とすることにより、炉本体の内部温度が必要以上に上昇するのが抑制され、炉本体を構成する耐火物の劣化を防止して炉本体の寿命延長を図ることができる。なお、前記溶融物の前記相対移動速度を1〜10cm/secの範囲内となるように制御することにより、炉本体の内部温度は、約1100〜1400℃の範囲で制御されることになる。
【0012】
また、前記撮像部は、前記軸線方向から見て、前記炉本体の流出口の鉛直方向下方端から前記炉本体の回転方向後方側に向けて20°〜80°の範囲に位置する前記溶融物を撮像する構成とすることが好ましい。
この場合、軸線方向から見て炉本体の回転方向と重力による溶融物の移動方向とが一致することになり、溶融物が安定して移動する状態を撮像することができ、溶融物の相対移動速度を精度良く算出することができる。
【0013】
さらに、前記溶融物が、少なくともその一部が前記炉本体の前記流出口から外方に突出した状態で、回転する前記炉本体の内壁面に沿って流れており、前記撮像部が、前記溶融物のうち前記流出口から外方に突出した部分を撮像するように構成してもよい。
この場合、溶融物の一部が前記炉本体の前記流出口から外方に突出した状態で前記炉本体の内壁面に沿って流動しており、この突出した部分を前記撮像部によって撮像するので、炉本体の外部に撮像部を配設しても溶融物を確実に撮像することが可能となる。また、炉本体の内部を撮像する必要がなく、撮像時に燃焼バーナーや可燃性処理物の燃焼の炎等の影響を受けることがない。
【0014】
ここで、前記演算部を、前記撮像部によって得られた画像をテンプレート処理することによって前記特徴点となる前記溶融物の形状を特定する構成とすることが好ましい。
この場合、溶融物の形状の特徴点をテンプレート処理によって確実に特定することが可能となり、所定間隔で撮像したデータから特徴点の移動距離を算出して溶融物の相対移動速度を精度良く算出することができる。
【0015】
また、前記演算部を、前記演算部は、前記撮像部によって得られた画像における濃淡のピークパターンを前記特徴点として特定する構成としてもよい。
この場合、溶融物の濃淡のピークパターンを特徴点(濃淡の特徴点)として特定することにより、所定間隔で撮像したデータから前記特徴点の移動距離を算出して溶融物の相対移動速度を精度良く算出することができる。
【0016】
本発明の溶融ロータリーキルンの制御装置は、軸線回りに回転される炉本体と該炉本体内部を加熱する燃焼バーナーとを有し、可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの制御装置であって、前記炉本体の内壁面に沿って流れる前記溶融物の前記炉本体に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部と、前記相対移動速度算出部によって算出された前記溶融物の前記相対移動速度に応じて、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御する制御部と、を有し、前記相対移動速度算出部は、前記溶融物を所定間隔で撮像する撮像部と、前記溶融物の特徴点を特定するとともに該特徴点の相対移動距離を測定して前記溶融物の前記相対移動速度を算出する演算部と、を備えていることを特徴としている。
この構成の溶融ロータリーキルンの制御装置によれば、相対移動速度算出部で算出した溶融物の相対移動速度に応じて、制御部によって前記炉本体への可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態を制御することが可能となり、溶融物の粘性の上昇を確実に防止して炉本体の内壁面への鋳付きの発生を確実に防止することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、炉本体の内壁面に環状の鋳付きが発生することを抑制して、溶融ロータリーキルンによる可燃性処理物の処理を安定して行うことが可能な溶融ロータリーキルンの操業方法及び溶融ロータリーキルンの制御装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明の実施形態について添付した図面を参照にして説明する。図1から図3に、本発明の実施形態である溶融ロータリーキルンの操業方法に用いられる溶融ロータリーキルンを示す。
この溶融ロータリーキルン10は、例えば自動車のシュレッダーダストや、廃家電品、プリント基板といった、プラスチック等の可燃物と金属等の不燃物とが混在する可燃性処理物Wを、燃焼・溶融させて処理するものである。
【0019】
この溶融ロータリーキルン10は、可燃性処理物Wが投入される炉本体20と、この炉本体20の内部で燃焼する燃焼バーナー12と、炉本体20に可燃性処理物Wを投入するための投入部14と、炉本体20で発生したガスが導入され、このガスをさらに燃焼するための二次バーナーを有する二次燃焼室(図示なし)と、炉本体20の内部で生成した溶融物Mが流入され、この溶融物Mを冷却する水冷手段を有する冷却器16と、を備えている。
【0020】
炉本体20は、軸線Lに沿って延びる円筒状をなしており、軸線L回りに回転方向Rに向けて回転するように構成されている。この炉本体20は、鉄鋼製の炉体シェル21と、この炉体シェル21の内周面に積層するように配設された耐火物層22を備えている。
炉本体20の上流側(図1において左側)の端面には蓋部23が設けられ、この蓋部23に燃焼バーナー12及び投入部14が配設されている。また、下流側(図1において右側)の端面は流出口24とされており、この流出口24を通じて、前記二次燃焼室にガスが排気され、冷却器16に溶融物Mが流出されるように構成されている。
【0021】
ここで、溶融物Mは、図2及び図3に示すように、炉本体20の内壁面に沿って移動し、炉本体20の回転方向が下方側を向く部分(図2において左側部分)では、溶融物Mが重力によって炉本体20の回転速度(内壁面の周速度)よりも速く移動する。そして、流出口24から鉛直方向下方へ向けて流出する。このとき、溶融物Mの一部は、図3に示すように、流出口24から外方に突出した状態で移動することになる。
【0022】
そして、本実施形態では、炉本体20の流出口24近傍に、炉本体20の内壁面に沿って移動する溶融物Mの炉本体20に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部30が設けられている。
この相対移動速度算出部30は、溶融物Mを所定間隔で撮像する撮像部31と、この撮像部によって得られた画像データから溶融物Mの相対移動速度を算出する演算部32と、を備えている。
【0023】
撮像部31は、図2及び図3に示すように、流出口24のうち炉本体20の回転方向Rが下方側を向く側(図2及び図3において左側)に配設されている。詳述すると、この撮像部31は、図2に示すように、流出口24の鉛直方向下方端から炉本体20の回転方向R後方側に向けて20°〜80°の範囲に位置する溶融物Mを撮像するように構成されているのである。なお、本実施形態では、撮像部31は、溶融物Mのうち流出口24から外方に突出した部分M1を撮像するように構成されている。
【0024】
このように配設された撮像部31において撮像した画像データは、例えば図4に示すように、画像データの左側に耐火物層22が位置し、その耐火物層22の右側に溶融物Mが位置することになる。なお、溶融物Mの右側部分は炉本体20の内部空間であって燃焼バーナー12や可燃性廃棄物Wが燃焼する際の炎等が観察される。
また、この撮像部31は、所定間隔で溶融物Mを撮像するように構成されており、本実施形態では、0.1〜5sec毎に撮像して画像データを得るように構成されている。
【0025】
演算部32は、撮像部31によって撮像された画像データを解析して溶融物Mの炉本体20に対する相対移動速度を算出する。
演算部32による相対移動速度の算出手順について図4の画像データ例及び図5のフローチャートを用いて説明する。まず、撮像部31によって撮像された画像データ<1>を取り込む(S1)。この画像データ<1>から溶融物Mの特徴点Pを特定する(S2)。所定間隔後に撮像部31によって撮像された画像データ<2>を取り込む(S3)。画像データ<1>と画像データ<2>から、特徴点Pの移動量Dを測定する(S4)。炉本体20の回転移動距離を確認し(S5)、特徴点Pの炉本体20に対する相対移動距離を算出する(S6)。この相対移動距離及び画像データ<1>と画像データ<2>の撮像間隔から溶融物Mの相対移動速度を算出する(S7)。このS1〜S7を所定回数繰り返して、相対移動速度の平均値を算出する(S8)。
【0026】
本実施形態においては、演算部32は、撮像部31によって得られた画像データをテンプレート処理することにより、図4に示すように、特徴点Pとなる前記溶融物の形状を特定している。また、S1からS7を10回繰り返して平均値を算出し、この相対移動速度の平均値に応じて炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御するように構成されている。
【0027】
このようにして算出された溶融物Mの相対移動速度のデータは、可燃性処理物Wの投入部14及び燃焼バーナー12を制御する制御部18へと伝送される。
制御部18は、相対移動速度算出部30によって算出された相対移動速度に応じて、可燃性処理物Wの投入部14及び燃焼バーナー12に対して指令を与えて、可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御する。具体的には、溶融物Mの相対移動速度が低下した場合には、可燃性処理物Wの投入量の増加又は燃焼バーナー12へのガス供給量の増加により、炉本体20内部での燃焼を促す。一方、溶融物Mの相対移動速度が上昇した場合には、被処理物Wの投入量の低減又は燃焼バーナー12へのガス供給量の低減により、炉本体20内部での燃焼を抑える。
ここで、本実施形態では、溶融物Mの相対移動速度が1〜10cm/secの範囲内となるように可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御している。これにより、炉本体20の内部温度は約1100℃から1400℃の範囲となる。
【0028】
次に、この溶融ロータリーキルン10の操業方法について説明する。
炉本体20を軸線Lを中心として回転方向Rに向けて回転させるとともに、燃焼バーナー12を燃焼させて炉本体20の内部を1200℃程度に加熱する。さらに、前記二次燃焼室の二次バーナーを燃焼させるとともに、冷却器16の水冷手段に冷却水を流通する。
【0029】
この状態で、投入部14によって可燃性処理物Wを炉本体20の内部に投入する。すると、炉本体20の内部に投入された可燃性処理物Wは、高温とされた炉本体20内部で、可燃物が燃焼してガス化するとともに、金属を含む不燃性成分が溶融状態または半溶融状態の溶融物Mとなる。
【0030】
生成したガスは、炉本体20の流出口24から前記二次燃焼室に送られる。前記二次燃焼室に送られたガスは、さらに二次バーナーから熱風と空気の供給を受けて高温に燃焼され、燃焼ガスとして煤煙処理工程(図示なし)に向けて排出される。
また、炉本体20の内部で生成した溶融物Mは、炉本体20の流出口24から流出し、冷却器16で冷却されて破砕される。これにより砕塊が形成される。得られた砕塊は、例えば磁気選鉱装置(図示なし)などによって金属の砕塊とスラグの砕塊とに分別され、有用な金属成分が回収される。
【0031】
このとき、炉本体20は回転方向Rに向けて回転されているため、溶融物Mは炉本体20の内壁面に沿って流動することになり、回転方向Rが鉛直方向下方側を向く位置では、溶融物Mが重力の作用によって炉本体20の回転速度(内壁面の周速度)よりも速く移動する。
【0032】
ここで、流出口24近傍に配設された相対移動速度算出部30により、溶融物Mの相対移動速度が算出される。この相対移動速度が1cm/sec以下となった場合には、温度制御部18から燃焼バーナー12に指令が伝送され、燃焼バーナー12が燃焼される。これと同時に温度制御部18から投入部14に指令が伝送され、可燃性処理物Wの投入量を増やす。これにより、溶融物Mの粘性を低下させて相対移動速度を上昇させる。炉本体20の内部での燃焼が安定したら、燃焼バーナー12の燃焼を中止し、可燃性処理物Wの投入量で燃焼状態を制御する。
一方、この溶融物Mの相対移動速度が10cm/sec以上となった場合には、温度制御部18から投入部14に指令が伝送され、可燃性処理物Wの投入量を減らす。これにより、炉本体20の内部での燃焼を抑制し、溶融物Mの粘性を上昇させて相対移動速度を低下させる。
【0033】
このような構成とされた本発明の実施形態である溶融ロータリーキルン10の操業方法においては、溶融物Mの炉本体20に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部30を備えており、この相対移動速度算出部30が、溶融物Mを所定間隔(0.1〜5 sec毎)で撮像する撮像部31と、溶融物Mの特徴点Pを特定するとともに特徴点Pの相対移動距離を測定して溶融物Mの相対移動速度を算出する演算部32と、を備えているので、所定間隔(0.1〜5sec毎)における特徴点Pの移動距離と炉本体20の回転速度(内壁面部分の周速度)から炉本体20に対する溶融物Mの相対移動速度を精度良く算出することが可能となる。
【0034】
また、溶融物Mの相対移動速度が1〜10cm/secの範囲内となるように、炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御しているので、溶融物Mの粘性の上昇を確実に防止して鋳付きの発生を防止することができるとともに、炉本体20の内部温度が必要以上に上昇するのが抑制され、炉本体20を構成する耐火物層22の劣化を防止して炉本体20の寿命延長を図ることができる。
【0035】
さらに、本実施形態では、撮像部31が、図2に示すように軸線L方向から見て炉本体20の流出口24の鉛直方向下方端から炉本体20の回転方向R後方側に向けて20°〜80°の範囲に位置する溶融物Mを撮像するように構成されているので、炉本体20の回転方向Rと重力の作用による溶融物Mの移動方向とが一致することになり、溶融物Mが安定して移動する状態を撮像することができ、溶融物Mの相対移動速度を確実に算出することができる。
【0036】
また、撮像部31が、溶融物Mのうち流出口24から外方に突出した部分M1を撮像するように構成されているので、炉本体20の外部に配設した撮像部31によって溶融物Mを確実に撮像することができる。
さらに、本実施形態では、演算部32において、撮像部31によって得られた画像データをテンプレート処理することによって特徴点Pとなる溶融物Mの形状を特定するように構成しているので、溶融物Mの形状の特徴点Pを確実に特定することが可能となり、所定間隔(0.1〜5sec毎)で撮像した画像データから特徴点Pの移動距離を算出して溶融物Mの相対移動速度を精度良く算出することができる。
【0037】
また、本実施形態では、演算部32によって、図5に示すS1からS7を10回繰り返して平均値を算出し、この相対移動速度の平均値に応じて炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御するように構成されているので、相対移動速度を算出する際のばらつきの影響を抑えることができ、可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態の制御を安定して行うことができる。
【0038】
以上、本発明の実施形態である溶融ロータリーキルンの操業方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
本実施形態では、溶融物Mの形状を特徴点Pとして特定するように構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、例えば図6に示すように、溶融物Mを撮像した画像データにおける濃淡のピークパターンを特徴点Pとして特定して相対移動速度を算出するものであってもよい。
【0039】
また、本実施形態では、算出した相対移動速度の10回の平均値に応じて炉本体20への可燃性処理物Wの投入量及び燃焼バーナー12の燃焼状態を制御するように構成したものとして説明したが、これに限定されることはなく、平均値を算出しなくても良いし、平均値の算出する際の回数についても制限はない。
【0040】
また、図1においては、可燃性処理物の投入部を1系統だけ設けた構成として説明したが、これに限定されることはなく、2系統以上の投入部を備えていてもよい。この場合、1つの投入部を可燃物のみを投入するものとして、温度制御部によって可燃物を投入量を調整するように構成してもよい。この場合、可燃性処理物の性状に影響されることなく、炉本体の内部の燃焼状態を精度良く制御することが可能となる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明の効果を確認するために行った確認実験について説明する。
〔実施例〕
約8cmから10cmのシュレッダーダストを20mm程度に粉砕し、廃基板類と混合して可燃性処理物とした。燃焼バーナーを焚き、溶融ロータリーキルンの炉本体内部を数時間かけて昇温し、炉本体の内部温度を放射温度計で測定し、1200℃になった時点で、前述の可燃性処理物をホッパーから溶融ロータリーキルンの炉本体に投入した。炉本体を1rpmで回転させながら可燃性処理物の燃焼を開始した。相対速度算出部によって溶融物の相対移動速度を算出し、この相対移動速度が1cm/secとなるように、燃焼バーナーの燃焼出力を調節した。相対移動速度が1cm/secとなったら、この値を維持するように、可燃性処理物の投入量を徐々に増やしながら燃焼バーナーの燃焼出力を下げていった。その後は、相対移動速度が1cm/sec以下にならないように可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態を制御し、可燃性処理物の処理を行った。この際、放射温度計の測定値は考慮せず、相対移動速度のみを制御パラメータとして処理を続けた。その結果、鋳付きを生じることなく、可燃性処理物の処理を行うことができた。
【0042】
〔比較例〕
約8cmから10cmのシュレッダーダストを20mm程度に粉砕し、廃基板類と混合して可燃性処理物とした。燃焼バーナーを焚き、溶融ロータリーキルンの炉本体内部を数時間かけて昇温し、炉本体の内部温度を放射温度計で測定し、1200℃になった時点で、前述の可燃性処理物をホッパーから溶融ロータリーキルンの炉本体に投入した。炉本体を1rpmで回転させながら可燃性処理物の燃焼を開始した。相対速度算出部によって溶融物の相対移動速度を算出せず、放射温度計が1200℃を維持するように、可燃性処理物の投入量を徐々に増やしながら、燃焼バーナーの燃焼出力を下げていった。その後、放射温度計によって炉本体の内部温度を測定し、測定温度が1200℃になるように可燃性処理物の投入量及び燃焼バーナーの燃焼状態を制御しながら、可燃性処理物の処理を行ったところ、煙などの影響により放射温度計の測定温度が著しく変動した。このときの溶融物の相対移動速度を測定したところ、0.8cm/secの値を示していた。さらに操業を続けると、鋳付きの発生及び鋳付きの決壊等が観察され、可燃性処理物の処理を安定して行うことが困難になった。
【0043】
実施例においては、溶融物の相対移動速度が1cm/secとされることで粘性が低く維持され、炉本体の内壁面に鋳付きが発生することはなかった。このため、溶融物は比較的円滑に、かつ、継続的に、流出口から排出され、多量の溶融物が一気に流れ出すようなトラブルは確認されなかった。
一方、比較例においては、放射温度計の測定温度に応じて制御を行ったが、測定温度の変動が激しく、安定した温度制御ができなかった。このため、溶融物の相対移動速度が1cm/sec以下の状態が発生し、炉本体の内壁面に鋳付きが発生した。この鋳付きによって、溶融物の排出が断続的に行われ、多量の溶融物が一気に流れ出す現象が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態である溶融ロータリーキルンの操業方法に用いられる溶融ロータリーキルンを示す説明図である。
【図2】図1に示す溶融ロータリーキルンを流出口から見た図である。
【図3】図2における流出口近傍のX−X矢視図である。
【図4】撮像部によって得られた画像データを示す説明図である。
【図5】相対移動速度算出部による相対移動速度の算出する手順を示すフローチャート図である。
【図6】撮像部によって得られた画像データの濃淡のピークパターンを示す説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10 溶融ロータリーキルン
12 燃焼バーナー
20 炉本体
30 相対移動速度算出部
31 撮像部
32 演算部
W 可燃性処理物
M 溶融物
P 特徴点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの操業方法であって、
前記溶融ロータリーキルンは、軸線回りに回転される炉本体と、該炉本体内部を加熱する燃焼バーナーと、前記炉本体で生成される溶融物を外部へと排出する流出口と、前記炉本体の内壁面に沿って流れる前記溶融物の前記炉本体に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部と、を有し、
前記相対移動速度算出部は、前記溶融物を所定間隔で撮像する撮像部と、前記溶融物の特徴点を特定するとともに該特徴点の相対移動距離を測定して前記溶融物の前記相対移動速度を算出する演算部と、を備えており、
前記相対移動速度算出部によって算出された前記溶融物の前記相対移動速度に応じて、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することを特徴とする溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項2】
前記溶融物の前記相対移動速度が1〜10cm/secの範囲内となるように、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御することを特徴とする請求項1に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項3】
前記撮像部は、前記軸線方向から見て、前記炉本体の流出口の鉛直方向下方端から前記炉本体の回転方向後方側に向けて20°〜80°の範囲に位置する前記溶融物を撮像することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項4】
前記溶融物は、少なくともその一部が前記炉本体の前記流出口から外方に突出した状態で、回転する前記炉本体の内壁面に沿って流動しており、
前記撮像部は、前記溶融物のうち前記流出口から外方に突出した部分を撮像することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項5】
前記演算部は、前記撮像部によって得られた画像をテンプレート処理することにより、前記特徴点となる前記溶融物の形状を特定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項6】
前記演算部は、前記撮像部によって得られた画像における濃淡のピークパターンを前記特徴点として特定することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の溶融ロータリーキルンの操業方法。
【請求項7】
軸線回りに回転される炉本体と該炉本体内部を加熱する燃焼バーナーとを有し、可燃性処理物を燃焼・溶融させて処理する溶融ロータリーキルンの制御装置であって、
前記炉本体の内壁面に沿って流れる前記溶融物の前記炉本体に対する相対移動速度を算出する相対移動速度算出部と、
前記相対移動速度算出部によって算出された前記溶融物の前記相対移動速度に応じて、前記炉本体への前記可燃性処理物の投入量及び前記燃焼バーナーの燃焼状態を制御する制御部と、を有し、
前記相対移動速度算出部は、前記溶融物を所定間隔で撮像する撮像部と、前記溶融物の特徴点を特定するとともに該特徴点の相対移動距離を測定して前記溶融物の前記相対移動速度を算出する演算部と、を備えていることを特徴とする溶融ロータリーキルンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−216342(P2009−216342A)
【公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−62503(P2008−62503)
【出願日】平成20年3月12日(2008.3.12)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】