説明

溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法

【課題】ドロスの生成場所をスナウト内のみに限定し,生成されたドロスを効果的に除去することが可能な,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明によれば,Niプレメッキ鋼板Sを加熱する工程と,上記Niプレメッキ鋼板Sが,スナウト19を経て,0.13〜0.30質量%のAlと0.01〜0.05質量%のNiとを含むように調製された溶融亜鉛浴13に浸漬される際に,上記のスナウト19内の溶融亜鉛浴13の浴面近傍に存在しているドロスを,回収手段によって回収する工程とを含む溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法に関し,特に,溶融亜鉛浴中に生成されるドロスを効率的に除去することで,溶融亜鉛浴を清浄に保ちながら溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在,防錆性が付与された鋼板として,亜鉛(Zn)が鋼板表面にメッキされた溶融亜鉛メッキ鋼板(以下,GIと略記する。)や合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(以下,GAと略記する。)が製造され,様々な用途に頻繁に用いられている。
【0003】
通常,上記のGIとGAとは,同一の溶融亜鉛浴を使用して製造されている。これらGIおよびGAを製造する際には,溶融亜鉛浴中に,所定の濃度のアルミニウム(Al)を添加する必要があることが知られている。例えば,GAを製造する際には,浴中のAl濃度を0.10質量%〜0.15質量%程度とし,GIを製造する際には,浴中のAl濃度を0.15質量%〜0.30質量%程度として,操業が行われている。
【0004】
しかしながら,上記のような溶融亜鉛浴中にAlを添加したGAやGIの製造方法では,Al濃度が0.15質量%を超過した場合は,鋼板と溶融亜鉛浴中のAlが反応を起こし,FeAlがトップドロスとして生成してしまう一方で,Al濃度が0.15質量%未満の場合には,鋼板と溶融亜鉛が反応してしまい,FeZnがボトムドロスとして生成してしまうという問題点があった。
【0005】
上述のように,GAとGIは,通常同一の溶融亜鉛浴を用いて製造されることが多く,GAとGIとでは,添加するAlの量を変える必要がある。そのため,GAの製造からGIの製造へと操業を切り替えた場合,もしくは,GIの製造からGAの製造へと操業を切り替えた場合には,生成されるドロスが変わることから,溶融亜鉛浴中のドロスの比重も大きく変化し,生成された多量のドロスが,浮上も沈降もせずに,溶融亜鉛浴中に残存することとなる。そのため,従来では,GAからGIへ,もしくは,GIからGAへと製造を切り替えた場合に,これらドロスの生成反応が沈静化し,完全に浮上するか,完全に沈降するまで約3時間ほどの時間を要していた。
【0006】
そのため,上記のドロス対策を検討することが,効率の良い操業を可能とするために必要であった。
【0007】
例えば,特許文献1に開示された発明では,一定量以上のニッケル(Ni)を溶融亜鉛浴中に添加することで,溶融亜鉛浴内のいずこかで生成されるドロスを,Znよりも比重の軽いNiAlを主体とするトップドロスとし,これを回収することで,上記の沈静化時間を短縮させる方法を取っている。
【0008】
また,上記のように溶融亜鉛浴中のいずこかで生成されたドロスは,そのまま溶融亜鉛浴中に放置しておくと,メッキ鋼板の表面形状等に悪影響を及ぼすため,溶融亜鉛浴から除去する必要がある。このようなドロスの除去方法として,例えば特許文献2や特許文献3では,スナウト内に存在する溶融金属により生成されたドロスを除去するために,スナウト内に,溶融金属を供給する供給ノズルと,この溶融金属を吸引するノズルを設けて,鋼板表面に付着してしまったドロスを除去する方法が開示されている。
【0009】
また,同一の溶融亜鉛浴を用いてGAやGIを製造しようとするために,ドロスの除去が困難となっているという観点から,例えば,GA製造専用の溶融亜鉛浴とGI製造専用の溶融亜鉛浴といった複数の溶融亜鉛浴を設けることで,生成されるドロスがトップドロスもしくはボトムドロスのどちらかに統一させることができ,ドロスの除去が容易になるという方法も,ドロス対策としては考えられる。
【0010】
【特許文献1】特許第2978947号公報
【特許文献2】特開2004−59942号公報
【特許文献3】特開2004−99922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら,上記の特許文献1の方法は,生成されるドロスをトップドロスに統一する方法であり,特許文献2〜3は,スナウト内に存在するドロスを除去する方法であるが,ドロスが溶融亜鉛浴中のどこで生成されるかについては,現象論的にもシミュレーションを用いた解析的にも未解明であったため,より効果的な除去方法を開発することができなかった。
【0012】
加えて,特許文献3に記載の方法では,生成されたドロスの大きさが50μm程度のものは効果的に除去できるが,それよりも小さな大きさ,例えば,10〜50μm程度の大きさのドロスを効果的に除去することはできなかった。
【0013】
また,製造する溶融亜鉛メッキ鋼板の種類ごとに,溶融亜鉛浴を設けるという方法についても,実際に実行するためには,複数の溶融亜鉛浴を設置しうる場所と,設置するための資金とが必要となることから,現実的な方法とは言い難い。
【0014】
そのため,同一の溶融亜鉛浴を用いるにもかかわらず,生成されるドロスの種類を制御するとともに,生成された様々な大きさのドロスを効果的に除去できる,効率の良い溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法が希求されていた。
【0015】
そこで,本発明は,このような問題に鑑みてなされたもので,その目的は,ドロスの生成場所をスナウト内のみに限定し,生成されたドロスを効果的に除去することで,表面欠陥の少ない溶融亜鉛メッキ鋼板を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するべく,本願発明者らは鋭意研究をおこなった。なお,本発明では,特に断りのない限り「溶融亜鉛メッキ鋼板」という用語は,溶融亜鉛メッキ鋼板GIと,合金化溶融亜鉛メッキ鋼板GAの双方を含んだ意味で用いる。
【0017】
研究の結果,メッキを行いたい鋼板にあらかじめNiをメッキすることにより(以下,Niプレメッキと略記する。),溶融亜鉛浴中に生成されるドロスのほとんどを,AlNiとすることができることが明らかになった。このAlNiドロスは,メッキされたNiの一部が溶融亜鉛中に溶け出し,溶融亜鉛中のAlと反応することで生成され,比重がZnよりも軽いことから,トップドロスとなることがわかった。
【0018】
また溶融亜鉛浴中に,Niを例えば0.01〜0.05質量%添加することで,Niプレメッキされた鋼板がスナウトから溶融亜鉛浴へ浸漬される際,AlNiドロスは,スナウト内の溶融亜鉛浴の浴面近傍のみで生成され,スナウト以外の場所ではAlNiドロスが生成されないことが明らかになった。
【0019】
そこで,上記のような知見を基に,本願発明者らは,以下のような発明に想到した。
【0020】
すなわち,上記課題を解決するために,本発明のある観点によれば,Niプレメッキ鋼板を加熱する工程と;上記のNiプレメッキ鋼板が,スナウトを経て,0.13〜0.30質量%のAlと,0.01〜0.05質量%のNiとを含むように調製された溶融亜鉛浴に浸漬される際に,上記のスナウト内の上記溶融亜鉛浴の浴面近傍に存在しているドロスを,回収手段によって回収する工程と;を含むことを特徴とする,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法が提供される。
【0021】
上記のような製造方法を用いることで,生成されるドロスのほとんどがトップドロスであるAlNiとなり,ドロスが生成される場所も,Niプレメッキ鋼板が溶融亜鉛浴に浸漬される,スナウト内の溶融亜鉛浴面近傍にほぼ限定されるようになる。このため,ドロスを効果的に回収することが可能となる。
【0022】
上記のドロスを回収する工程では,上記のNiプレメッキ鋼板の一側と他側にそれぞれ配設された溶融亜鉛吐出手段と溶融亜鉛吸引手段とによって,上記スナウト内の溶融亜鉛浴の浴面近傍に,上記のNiプレメッキ鋼板の幅方向に沿った浴流れを生じさせ,上記のドロスを上記溶融亜鉛吸引手段によって回収してもよい。
【0023】
上記のような溶融亜鉛吐出手段と,上記の回収手段に該当する溶融亜鉛吸引手段とを設け,上記スナウト内の溶融亜鉛浴の浴面および浴面近傍に浴流れを生じさせることで,浴面および浴面近傍に存在しているドロスを,更に効率よく回収することができる。
【0024】
上記のNiプレメッキ鋼板を加熱する工程は,上記のNiプレメッキ鋼板を含む回路に誘起される電流によってNiプレメッキ鋼板を加熱することも可能である。
【0025】
この方法は,上記のNiプレメッキ鋼板に直接電圧を印加することなく,上記のNiプレメッキ鋼板を加熱する方法であり,従来の加熱方法に比べ,格段に低い電圧でNiプレメッキ鋼板を加熱することができる。
【0026】
また,上記の加熱する工程に用いる加熱装置として,変圧器効果型通電加熱(Ultra Rapid Transformer type Heater:URTH)法を用いたものを使用することも可能である。
【0027】
上記の加熱方法を採用した加熱装置を用いることで,短い加熱長さで,上記のNiプレメッキ鋼板を,急速に加熱することができる。
【0028】
上記のドロスを回収する工程では,上記の溶融亜鉛吸引手段の吸引量は,(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)≦(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)≦1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)とすることが可能である。ただし,(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)=(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)=1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)となる場合は含まない。
【0029】
また,上記の溶融亜鉛吸引手段として,例えば,ガスリフトポンプを用いることも可能である。
【0030】
このように,溶融亜鉛吸引手段の吸引量を設定することで,より効果的に,生成されたAlNiドロスを除去することが可能となる。
【0031】
また,上記のドロスを回収する工程では,上記の溶融亜鉛浴中に設けられた複数の吹き付け手段から,Niプレメッキ鋼板の表面および裏面に,Niプレメッキ鋼板の進行方向とは逆方向に溶融亜鉛を吹き付けることも可能である。
【0032】
ここで,上記の吹き付け手段は,Niプレメッキ鋼板の表面および裏面に,少なくとも1つずつ設けることができる。
【0033】
このような吹き付け手段を設けることで,スナウト内の溶融亜鉛浴面近傍で生成されたAlNiドロスが,Niプレメッキ鋼板が溶融亜鉛浴中に浸漬される際に生じる流れに乗って溶融亜鉛浴中に拡散していくのを抑制することができ,AlNiドロスを,スナウト内の溶融亜鉛浴面近傍に留めておくことができる。また,吹き付け手段からの溶融亜鉛の噴出により,溶融亜鉛浴中のNiプレメッキ鋼板の近傍に流れが生じ,この流れがNiプレメッキ鋼板に付着したAlNiドロスを剥離させる剥離流となる。
【0034】
また,上記のドロスを回収する工程では,上記の溶融亜鉛浴中に設けられた複数の吹き付け手段から噴出される溶融亜鉛は,Niプレメッキ鋼板の進行方向に対して鋭角をなすようにNiプレメッキ鋼板に吹き付けられるようにすることも可能である。
【0035】
上記のように,溶融亜鉛をNiプレメッキ鋼板と鋭角をなすように吹き付けることで,吹き付け手段が溶融亜鉛を噴出することで生じる噴出流と,上記の剥離流とが干渉して,AlNiドロスの剥離効果が低下してしまう現象を抑制することが可能となる。
【0036】
上記のような吹き付け手段を配置した際に,上記の溶融亜鉛吸引手段の吸引量を,(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+吹き付け手段の吐出量)≦(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)≦1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+吹き付け手段の吐出量)とすることも可能である。ただし,(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+吹き付け手段の吐出量)=(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)=1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+吹き付け手段の吐出量)となる場合は含まない。
【0037】
このように溶融亜鉛吸引手段の吸引量を設定することで,吹き付け手段とうまく連動しながら,効果的にAlNiドロスを除去することが可能となる。
【0038】
上記課題を解決するために,本発明の別の観点によれば,Niプレメッキ鋼板を加熱する工程と;上記のNiプレメッキ鋼板が,スナウトを経て,Niを0.01〜0.05質量%含み,Al濃度が0.13〜0.16質量%から0.25〜0.30質量%へと変更された溶融亜鉛浴,または,Niを0.01〜0.05質量%含み,Al濃度が0.25〜0.30質量%から0.13〜0.16質量%へと変更された溶融亜鉛浴に浸漬される際に,上記スナウト内の溶融亜鉛浴の浴面近傍に存在しているドロスを,回収手段によって回収する工程と;を含むことを特徴とする,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法が提供される。
【0039】
上記のような製造方法を用いることで,例えばGA製造用のAl濃度からGI製造用のAl濃度へと溶融亜鉛浴のAl濃度を変更した場合や,逆にGI製造用のAl濃度からGA製造用のAl濃度へと溶融亜鉛浴のAl濃度を変更した場合において,生成されるドロスのほとんどがAlNiとなり,ドロスが生成される場所が,Niプレメッキ鋼板が溶融亜鉛浴に浸漬されるスナウト内にほぼ限られるため,ドロスの生成反応の沈静化を待つことなく,生成したドロスを効果的に除去することができ,操業を行うことができる。
【0040】
この製造方法の詳細に関しては,上記の製造方法と同様に行うことができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば,ドロスの生成場所をスナウト内のみに限定し,生成されたドロスを効果的に除去することが可能な,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下に添付図面を参照しながら,本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお,本明細書及び図面において,実質的に同一の機能構成を有する構成要素については,同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0043】
まず,本発明の第1の実施形態に係る溶融亜鉛メッキ鋼板の加熱を行う加熱装置と,溶融亜鉛メッキ装置について説明する。図1は,第1の実施形態に係る加熱装置と溶融亜鉛メッキ装置との構成の概略を示す説明図である。
【0044】
本実施形態において,加熱装置50として,例えばURTH法の加熱方式を採用したものを用いることができる。加熱装置50は,例えば,Niプレメッキ鋼板Sに沿って上流側から順に導電ロール10,シールロール11およびターンロール12を有している。ターンロール12の出側は,溶融メッキ装置60の溶融亜鉛浴13内のターンロール14に通じている。
【0045】
シールロール11から溶融亜鉛浴13までのNiプレメッキ鋼板Sの周辺は,例えば包囲体15によって包囲されており,特にターンロール12の下流側から溶融亜鉛浴13までの包囲体15は,スナウト19と呼ばれる。この包囲体15により,加熱からメッキまでの間,Niプレメッキ鋼板Sを所定の不活性雰囲気下(例えば,窒素雰囲気下)に維持することができる。
【0046】
シールロール11とターンロール12との間には,例えばNiプレメッキ鋼板Sと包囲体15の周りを囲むリング状の鉄心16が設けられている。鉄心16には,一次コイル17が巻き付けられており,一次コイル17には,交流電源18が接続されている。
【0047】
スナウト19の先端部は,溶融亜鉛浴13内の溶融亜鉛(図示せず)に接触している。このスナウト19の先端部には,導電ロール10との間を電気的に接続するブスバー20が接続されている。このブスバー20により,導電ロール10,Niプレメッキ鋼板S,溶融亜鉛浴13内の溶融亜鉛,スナウト19およびブスバー20によって,鉄心16を巻く二次コイル21が形成される。交流電源18により,一次コイル17に電圧を印可し電流を流すことによって,二次コイル21側に電力を誘起し,Niプレメッキ鋼板Sに高電流を流すことができる。このNiプレメッキ鋼板Sに流れる電流により,Niプレメッキ鋼板Sを発熱させ,Niプレメッキ鋼板Sを加熱することができる。上記のように,URTH法は,Niプレメッキ鋼板Sに直接電圧を印加することなく,Niプレメッキ鋼板Sを加熱することができる方法である。
【0048】
上記のようにして,導電ロール10から導入されたNiプレメッキ鋼板Sが,図1中の矢印の方向へと進みながら加熱され,スナウト19を経て,約470℃まで加熱されたNiプレメッキ鋼板Sが,溶融メッキ装置60の溶融亜鉛浴13に浸漬される。溶融亜鉛浴13中のターンロール14により,Niプレメッキ鋼板Sは進行方向を溶融亜鉛浴13の鉛直方向(図1の上方向)に変え,溶融亜鉛浴13から出る際に,Niプレメッキ鋼板Sの表面に溶融亜鉛メッキが施される。なお,Niプレメッキ鋼板Sが,溶融亜鉛浴中に浸漬されている時間は,数秒程度である。
【0049】
良質な溶融亜鉛メッキ鋼板を製造するための重要なパラメータの例として,溶融亜鉛浴の温度,溶融亜鉛浴の成分,および溶融亜鉛浴の成分比がある。溶融亜鉛浴の温度は,鋼板の濡れ性に影響を与える因子であり,得られる溶融亜鉛メッキ鋼板の性質に大きな影響を与える。また,GIとGAとを作り分けるためには,溶融亜鉛浴の成分と成分比を変化させる必要があることからも,溶融亜鉛浴の成分と成分比とが重要であることは,言うまでもない。
【0050】
加えて,溶融亜鉛浴13に用いるポットは,セラミックポットであることが望ましい。これは,鉄製のものを用いると,ポットの構成成分である鉄(Fe)と溶融亜鉛浴中のAlとが反応して,FeAlドロスが浴内に生成してしまう場合があるからである。
【0051】
従来のNiプレメッキ鋼板を用いない溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法では,鋼板の濡れ性を良くするために,溶融亜鉛浴の温度を,例えば450〜480℃という高温にする必要があった(例えば,特許第3557810号公報)。また,鋼板を溶融亜鉛浴に浸漬する際に,例えば溶融亜鉛浴中のAl濃度を0.15質量%未満としてGAを製造する場合には,ボトムドロスであるZnFeドロスが生成し,例えばAl濃度を0.15質量%超過としてGIを製造する場合には,トップドロスであるFeAlドロスが生成していた。
【0052】
しかし,本実施形態のように,URTH法により加熱されたNiプレメッキ鋼板を用いることで,鋼板の表面に存在するNiのために鋼板と溶融亜鉛との濡れ性が良くなり,溶融亜鉛浴の温度を例えば445〜455℃の範囲とすることが可能となった。また,メッキの密着性が改善され,不メッキ(メッキされていない)部分の発生を防止することが可能となった。なお,溶融亜鉛浴の温度が445℃未満の場合には,亜鉛の凝固温度が約419℃であるため,濡れ性劣化による不メッキが生じやすくなり,455℃超過の場合には,溶融亜鉛浴からのヒュームが増加しスナウト壁に付着してしまい,これが溶融亜鉛浴に落下すると,メッキの表面欠陥の原因となってしまう。
【0053】
また,鋼板にNiプレメッキを施すことにより,鋼板がスナウト19内の溶融亜鉛浴13と接触した場合に,Niプレメッキの一部が溶け出し,浴内のAlと反応して,AlNiドロスが生成されることが明らかになった。生成するAlNiドロス内のAlとNiの比は,モル数でほぼ1:1となっているので,AlNiとしての構造を持つ化合物が主体となっていると考えられる。また,AlNiの比重は5.8という値であり,亜鉛の比重である7.13よりも軽いことから,このAlNiドロスは,トップドロスとなることが明らかになった。
【0054】
また,溶融亜鉛浴13の温度を445〜455℃に下げることが可能となったということは,メッキの付着厚みや鋼板とメッキ金属間の合金化挙動を厳密に管理できるという効果を得ることもできる。また,上記の445〜455℃という温度範囲は,一般的に溶融亜鉛浴の浴温度が下がると溶解度が低下することから,AlNiドロスが析出しやすくなるという効果も得ることができる。
【0055】
ここで,本実施形態で用いているURTH法による鋼板の加熱ではなく,通常の加熱方法を用いてNiプレメッキ鋼板の加熱を行った場合には,プレメッキされたNiが加熱中に鉄と合金化して,一部がFe−Ni合金となってしまう。この場合には,溶融亜鉛浴13中にも鉄が溶出することとなり,生成されるドロスもAl−Feドロスが主体となってしまう。URTH法は,鋼板の加熱時間を従来の方法よりも短くすることができ,加熱温度も従来の方法よりも低くすることが可能であるため,上記のFe−Ni合金化が進行しにくいという利点がある。このように,上記の溶融亜鉛浴13の温度に加えて,加熱方法としてURTH法を選択することでも,溶融亜鉛浴13中に生成されるドロスの種類を制御している。
【0056】
本実施形態における溶融亜鉛浴13の成分は,主成分である溶融亜鉛に加えて,例えばAlを所定の濃度添加することができる。このAlの濃度に関しては,製造する溶融亜鉛メッキ鋼板により変化させることが必要であり,例えば,GAを製造する際には,Al濃度を0.13〜0.16質量%に,GIを製造する際には,Al濃度を0.25〜0.30質量%にすることができる。
【0057】
本実施形態により,上記の溶融亜鉛浴13に,Niを例えば0.01〜0.05質量%,望ましくは,0.02〜0.03質量%とすると,スナウト19内以外では,ほとんどAlNiドロスが生成しないことが明らかになった。Ni濃度が0.01質量%未満の場合には,AlNiドロス以外のドロスが生成される可能性があり,好ましくない。また,Ni濃度が0.05質量%を超過する場合には,AlNiドロスが,スナウト19内以外でも生成されてしまうため,好ましくない。
【0058】
上記の特許文献1に記載の方法も,Niを溶融亜鉛浴中に添加して,ドロスをトップドロスに統一する方法であるが,同文献に記載の方法では,浴中のNi濃度を浴中のAl濃度の4倍以上という値に調整する。同文献に記載されている式を用いてNi濃度を計算すると,本発明の実施形態で用いるAl濃度の場合では,浴中のNi濃度は,少なくとも0.08質量%以上となってしまう。このことからも,本発明と特許文献1に記載の発明とは,全く異なっていることが明らかである。
【0059】
このように,URTH法により加熱されたNiプレメッキされた鋼板を用い,溶融亜鉛浴13にNiを上記の濃度で添加することで,生成されるドロスがトップドロスであるAlNiドロスとなり,しかも,スナウト19内以外では,AlNiドロスがほとんど生成されないようにすることが可能となった。これにより,従来ではどこで発生するかわからなかったドロスの発生場所を,スナウト19内に限定することが可能となり,効果的なドロスの除去方法を検討することが可能となった。
【0060】
なお,本実施形態において,生成されるAlNiドロスの大きさは,約10〜50μmのものがほとんどであるが,スナウト内で生成して,鋼板により溶融亜鉛浴中に引き込まれた約10μm未満の大きさのAlNiドロスは,溶融亜鉛浴中のNi濃度が,スナウト内部におけるAlNiドロスが生成した部位のNi濃度よりも低いために,溶融亜鉛浴中で再溶解する可能性も考えられる。
【0061】
しかし,上記のように溶融亜鉛浴13の温度が低く,Ni濃度が高い場合には,AlNiが析出しやすくなることから,溶融亜鉛浴13中のNi濃度が変化しやすくなっている。このため,温度を厳密に管理する場合には,溶融亜鉛浴13中のNi濃度を0.05質量%以下となるように調整する必要がある。
【0062】
また,操業を続けていると,溶融亜鉛浴13の浴面が低下していくため,浴面を一定に保つ必要がある。このために,ZnとAlとを含む合金約1トンを,例えば,一時間に一回以上添加する。このようにZnとAlとを含む合金を添加することで,溶融亜鉛浴13内のAl濃度を調整するとともに,Ni濃度が0.05質量%以下となるように調整している。
【0063】
図2は,図1の領域2を拡大して,構成の概略を説明した説明図である。図3は,図2を浴面で切断した場合の平面図である。図2および図3を参照しながら,スナウト19内に限定して生成されるAlNiドロスを効果的に除去する方法について,詳細に説明する。
【0064】
溶融亜鉛浴13中には,溶融亜鉛をNiプレメッキ鋼板Sの表面に吹き付ける,複数の吹き付け手段に相当する吹き付けノズル22Aと,溶融亜鉛をNiプレメッキ鋼板Sの裏面に吹き付ける,複数の吹き付け手段に相当する吹き付けノズル22Bとが配設されている。吹き付けノズル22Aおよび22Bは,Niプレメッキ鋼板Sの進行方向,すなわち,スナウト19の入側から出側に向かう方向(図2のA方向)に対して,ほぼ逆方向を向いて配置されている。ここで,Niプレメッキ鋼板Sの表面とは,Niプレメッキ鋼板Sと溶融亜鉛浴浴面とのなす角が鈍角となっている側の面を意味する。また,Niプレメッキ鋼板Sの裏面とは,Niプレメッキ鋼板Sと溶融亜鉛浴浴面とのなす角が鋭角となっている側の面を意味する。
【0065】
Niプレメッキ鋼板Sが,図2中のA方向に進行するに伴い,溶融亜鉛浴13中に,A方向への流れ(随伴流)が生じうる。この随伴流が生じると,スナウト19中の溶融亜鉛浴浴面に浮遊しているAlNiドロスが,随伴流に乗って,溶融亜鉛浴13中に拡散してしまう。このような拡散を防止するために,吹き付けノズル22Aの吹き付け口から図2中のB方向に,および,吹き付けノズル22Bの吹き付け口から図2中のB方向に溶融亜鉛を噴出させ(噴出流),上記のような随伴流をうち消すことが可能となる。また,吹き付けノズル22Aおよび22Bの吹き付け量を調節することにより,随伴流をうち消すだけではなく,生成されたAlNiドロスをNiプレメッキ鋼板Sから剥離させる剥離流を,図2中のC方向に発生させることが可能である。
【0066】
図2中に示したように,吹き付けノズル22Aからの溶融亜鉛の吹き付け方向Bと,Niプレメッキ鋼板Sの進行方向Aとのなす角を,θとする。同様に,吹き付けノズル22Bからの溶融亜鉛の吹き付け方向Bと,Niプレメッキ鋼板Sの進行方向Aとのなす角を,θとする。
【0067】
溶融亜鉛浴浴面に対して,Niプレメッキ鋼板Sが斜めに浸漬されるため,吹き付けノズルからの噴出流と剥離流が干渉しやすい。そのため,上記の角度θおよびθの大きさを,少なくとも90度より小さい鋭角にする必要がある。ここで,θの大きさは15〜35度が好ましく,θの大きさは,35〜55度が好ましい。各角度の大きさが上記の下限値未満の場合には,剥離流が図2のCに示した流れと干渉して,十分な効果を得ることができない。また,各角度の大きさが上記の上限値超過の場合には,鋼板Sに衝突した噴出流の一部が,下降流となってしまう場合があり,好ましくない。
【0068】
また,上記のようにθおよびθを小さくした結果,噴出流の到達噴流速度が低下してしまうため,吹き付けノズル22Aおよび22Bからの噴出流速を速くする必要がある。
【0069】
図3によれば,スナウト19内の一側には,溶融亜鉛を吹き付ける溶融亜鉛吐出手段に相当する吐出ポンプ23が設けられ,他側には,溶融亜鉛を吸引する溶融亜鉛吸引手段に相当する吸引ポンプ24が設けられている。すなわち,図3中のb方向に沿ってNiプレメッキ鋼板の両側に,吐出ポンプ23と,吸引ポンプ24が設けられている。図3では,吐出ポンプ23には2個のノズルが設けられているが,本発明における吐出ポンプに設けられるノズルの個数は,上記に限定されるわけではなく,スナウト19のa方向の大きさに合わせて配設することが可能である。また,吸引ポンプ24には,所定の大きさの吸引口が設けられている。
【0070】
溶融亜鉛が,吐出ポンプ23のノズルからb軸正方向,つまり,Niプレメッキ鋼板の幅方向に沿って吐出されることで,b軸正方向に向かう流れが生じる。この流れに乗って浴面に浮遊しているAlNiドロス(図示せず)は,流れの下流側に設置された吸引ポンプ24へと押し流されることとなる。この際,浴中に設けられた吹き付けノズル22Aおよび22Bによる剥離流によって,浮遊しているAlNiドロスは,Niプレメッキ鋼板Sに付着しないようになっている。押し流されてきた浮遊ドロスは,吸引ポンプ24によって,スナウト19内から除去される。
【0071】
また,図3に記載のように,溶融亜鉛浴13中に設けられた吹き付けノズル22Aおよび22Bは,Niプレメッキ鋼板Sの法線方向(図3中のa軸方向)に対し,所定の角度だけ傾いて配設されており,吹き付けノズル22Aおよび22Bによって生じる剥離流は,全体としてb軸正方向への流れとなるようになっている。
【0072】
吸引ポンプ24には,現在用いられている様々なポンプを適用することが可能である。また,吸引ポンプ24として,例えば,ガスリフト方式を採用したガスリフトポンプを用いることも可能である。
【0073】
吸引ポンプ24の吸引量は,効果的に浮遊ドロスを除去できるように,所定の値に設定される。この吸引量は,溶融亜鉛浴13中に設けられる吹き付けノズル22A,22Bの有無によっても,変更される。
【0074】
例えば,溶融亜鉛浴13中に,吹き付けノズル22A,22Bを設置しない場合には,吸引ポンプ24の吸引量は,以下の範囲の値に設定されることが可能である。ただし,以下に示した式において,(吐出ポンプ23の吐出量)=(吸引ポンプ24の吸引量)=1.5×(吐出ポンプ23の吐出量)となる場合は含まない。
【0075】
(吐出ポンプ23の吐出量)≦(吸引ポンプ24の吸引量)≦1.5×(吐出ポンプ23の吐出量)
【0076】
また,例えば,溶融亜鉛浴13中に,吹き付けノズル22A,22Bが設置される場合には,吸引ポンプ24の吸引量は,以下の範囲の値に設定されることが可能である。なお,吹き付けノズルが複数設けられる場合には,以下に示す「吹き付けノズルの吐出量」とは,各吹き付けノズルの吐出量を全て合計した全吐出量を意味し,本実施形態においては,吹き付けノズル22Aの吐出量と吹き付けノズル22Bの吐出量との合計が全吐出量となる。また,以下に示した式において,(吐出ポンプ23の吐出量+吹き付けノズルの吐出量)=(吸引ポンプ24の吸引量)=1.5×(吐出ポンプ23の吐出量+吹き付けノズルの吐出量)となる場合は含まない。
【0077】
(吐出ポンプ23の吐出量+吹き付けノズルの吐出量)≦(吸引ポンプ24の吸引量)≦1.5×(吐出ポンプ23の吐出量+吹き付けノズルの吐出量)
【0078】
吸引ポンプ24の吸引量が「吐出ポンプ23の吐出量」未満,もしくは「吐出ポンプ24の吐出量+吹き付けノズルの吐出量」未満の場合には,浮遊ドロスを効率良く除去することができず,スナウト19内に,浮遊ドロスであるAlNiドロスが溜まってしまう。
【0079】
また,吸引ポンプ24の吸引量が「吐出ポンプ23の吐出量」の1.5倍超過,もしくは「吐出ポンプ24の吐出量+吹き付けノズルの吐出量」の1.5倍超過の場合には,スナウト19内にスナウト19の外側の溶融亜鉛浴13から流れ込む流れが生じ,スナウト19内に渦を発生してしまい,効率よく浮遊ドロスを除去することができない。
【0080】
上記のように流量が設定された吸引ポンプ24と,溶融亜鉛を供給する吐出ポンプ23を配設することで,スナウト19内に生成される10〜50μmのAlNiドロスを,効果的に除去し,スナウト19内を清浄に保つことが可能となる。
【0081】
吹き付けノズル22Aおよび22Bの噴出速度,角度θおよびθ,吹き付けノズルと図3のa軸方向とのなす角,ならびに,噴出流がNiプレメッキ鋼板Sと衝突する位置という各パラメータは,Niプレメッキ鋼板Sの移動速度に応じて設定されることが可能である。
【0082】
特に,吹き付けノズル22Aおよび22Bの噴出速度は,Niプレメッキ鋼板Sの移動速度と比例関係にある。これは,吹き付けノズルからの噴出流が,鋼板Sの移動に伴う随伴流を押し戻さなくてはならないためである。
【0083】
上記の噴出速度,角度θおよびθ,吹き付けノズルと図3のa軸方向とのなす角,ならびに,噴出流がNiプレメッキ鋼板Sと衝突する位置を設定するために,モデルを用いて各パラメータの最適条件を決定することが可能である。
【0084】
例えば,Niプレメッキ鋼板Sの移動速度が60m/分である場合の各パラメータの値を,表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
また,上記のようなGIもしくはGAを製造している場合だけでなく,GIからGAへ,もしくはGAからGIへと製造する溶融亜鉛メッキ鋼板を変更した場合にも,上記のようなNiプレメッキ鋼板Sを用い,溶融亜鉛浴13中に上記の濃度のNiを添加することで,生成されるドロスは,トップドロスであるAlNiドロスに限定される。そのため,従来のようにドロスを沈静化させるための時間を待つ必要がなくなり,効率良く溶融亜鉛メッキ鋼板を製造することが可能となる。
【実施例】
【0087】
以下に,本発明の第1の実施形態に係る溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法を用いて作成した溶融亜鉛メッキ鋼板について,実施例を示しながら説明する。
【0088】
表2は,条件1〜13のもとで作成した溶融亜鉛メッキ鋼板のメッキ性状の評価結果である。下記の表2において,通板速度とは,鋼板の移動速度を意味し,通板幅とは,鋼板の横幅,つまり,図3におけるb方向に対して平行な方向の鋼板の幅を意味する。吸引量は吸引ポンプ24の吸引量を意味し,吐出量は吐出ポンプ23の吐出量を意味する。また,ノズル吐出量1とは,吹き付けノズル22Aの吐出量を意味し,ノズル吐出量2とは,吹き付けノズル22Bの吐出量を意味している。ここで,上記のθおよびθの角度は,通板速度が100〜120m/分の場合にはそれぞれ15度および35度,通板速度が70〜100m/分の場合にはそれぞれ25度および45度,通板速度が50〜70m/分の場合にはそれぞれ35度および55度としたが,この範囲内であれば,他の角度の組み合わせでも可能である。
【0089】
【表2】

【0090】
ここで,表2中のNiプレメッキ量の単位はg/mである。また,通板速度の単位はm/分であり,通板幅の単位はmmである。また,浴内Al濃度および浴内Ni濃度の単位は,質量%である。また,浴内温度の単位は℃である。また,吸引量,吐出量,各ノズル吐出量の単位は,リットル/分である。
【0091】
また,表2中におけるメッキ性状の評価については,以下の表3に示した6種類の結果が得られた。
【表3】

【0092】
表2の条件1〜6aまでが,様々な条件下でGAを製造した場合の,各パラメータの設定値と評価結果である。条件1〜3が本発明に係る実施例となっており,条件4〜6aが比較例となっている。
【0093】
表2から明らかなように,条件1〜3では,ドロス巻き込みによる表面欠陥が存在しない,良好なGAを製造することができた。一方で,溶融亜鉛浴内のNi濃度を0.06質量%とした場合には,AlNiドロスに起因する表面欠陥が生じてしまった。また,吐出ポンプ,吸引ポンプ,吹き付けノズルを用いなかった条件5でも,AlNiドロスに起因する表面欠陥が生じてしまい,Niプレメッキ鋼板を用い,溶融亜鉛浴内のNi濃度を本発明に好適な範囲にしただけでは,表面欠陥の発生を抑制することができないことが明らかになった。また,Niプレメッキを行わず,溶融亜鉛浴中にNiを添加しなかった条件6では,AlNiドロスとは異なるFeZnドロスが生成されてしまい,このドロスに起因する表面欠陥が生じてしまった。このことから,吐出ポンプ,吸引ポンプ,吹き付けノズルを設けるだけではドロスに起因する表面欠陥を抑制することができず,鋼板にNiプレメッキを施すことと,Niを溶融亜鉛浴中に添加することが不可欠であることが明らかになった。また,溶融亜鉛浴中のAl濃度を所定の濃度よりも低くした条件6aでは,溶融亜鉛メッキ中のFe濃度が高くなってしまった。これは,ZnとFeとの合金化反応が進行しすぎたことを意味し,規格にそぐわないGAが製造されたことを示唆している。
【0094】
表2の条件7〜11が,様々な条件下でGIを製造した場合の,各パラメータの設定値と評価結果である。条件7および条件8が本発明に係る実施例となっており,条件9〜11が比較例となっている。
【0095】
表2から明らかなように,条件7および条件8では,ドロス巻き込みによる表面欠陥の存在しない良好なGIを製造することができた。溶融亜鉛浴中のNi濃度を0.06質量%とした条件9では,AlNiドロスに起因する表面欠陥が生じてしまった。また,吐出ポンプ,吸引ポンプ,吹き付けノズルを用いなかった条件10では,AlNiドロスに起因する表面欠陥が生じてしまい,Niプレメッキ鋼板を用い,溶融亜鉛浴内のNi濃度を本発明に好適な範囲にしただけでは,表面欠陥の発生を抑制することができないことが明らかになった。また,Niプレメッキを施さなかった鋼板を用い,溶融亜鉛浴にNiを添加しなかった条件11では,メッキされない場所が生じてしまう不メッキが発生してしまった。これは,吐出ポンプ,吸引ポンプ,吹き付けノズルを設けるだけではドロスに起因する表面欠陥を抑制することができず,鋼板にNiプレメッキを施すことと,Niを溶融亜鉛浴中に添加することが不可欠であることを示唆している。
【0096】
表2の条件12および条件13は,製造する溶融亜鉛メッキ鋼板をGAからGIへと変更した場合の,各パラメータの設定値と評価結果である。条件12が本発明に係る実施例であり,条件13が比較例である。
【0097】
条件12では,製造されたGIにドロス巻き込みによる表面欠陥は発生せず,良好な溶融亜鉛メッキ鋼板が製造できたことがわかる。また,Niプレメッキを施さなかった鋼板を用いた条件13では,AlNiドロスに起因する表面欠陥が生じてしまい,Niプレメッキが不可欠であることが明らかになった。
【0098】
表2の条件14〜16は,吐出ポンプおよび吸引ポンプは使用するが,吹き付けノズル22Aおよび22Bを使用しない場合の,各パラメータの設定値と評価結果である。条件14〜16は,本発明に係る実施例となっている。
【0099】
条件14〜16では,ドロス巻き込みによる表面欠陥が鋼板1mあたり2個以内である,良好なGAを製造することができた。これは,Niプレメッキが施された鋼板を使用し,適切な濃度のNiが溶融亜鉛浴中に添加されており,吐出ポンプおよび吸引ポンプの流量が適切に設定されていれば,溶融亜鉛浴中に吹き付けノズルを設けなくとも,良好な溶融亜鉛メッキ鋼板が製造可能であることを示唆している。
【0100】
表2の条件17〜19は,製造する溶融亜鉛メッキ鋼板をGIからGAへと変更した場合の,各パラメータの設定値と評価結果である。条件17および条件18が,本発明に係る実施例となっており,条件19が比較例となっている。
【0101】
条件17では,製造されたGAにドロス巻き込みによる表面欠陥は発生せず,良好な合金化溶融亜鉛メッキ鋼板が製造できたことがわかる。溶融亜鉛浴中の吹き付けノズル22Aおよび22Bを使用しなかった条件18では,ドロス巻き込みによる表面欠陥は発生するものの,表面欠陥の個数は鋼板1mあたり2個以内であり,良好な合金化溶融亜鉛メッキ鋼板が製造できたことがわかる。また,Niプレメッキを施さなかった鋼板を用いた条件19では,AlNiドロスに起因する表面欠陥が生じてしまい,Niプレメッキが不可欠であることが明らかになった。
【0102】
以上,添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが,本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば,特許請求の範囲に記載された範疇内において,各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり,それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0103】
例えば,溶融亜鉛をNiプレメッキ鋼板に吹き付ける吐出ポンプと,この吹き付けられた溶融亜鉛を吸引する吸引ポンプは用いるが,溶融亜鉛浴中の吹き付けノズルを用いることなく,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造を行うことも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は,溶融亜鉛メッキ鋼板および合金化溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る加熱装置と溶融亜鉛メッキ装置との構成の概略を示す説明図である。
【図2】図1の領域2を拡大して構成の概略を説明した説明図である。
【図3】図2を浴面で切断した場合の平面図である。
【符号の説明】
【0106】
10 導電ロール
11 シールロール
12 ターンロール
13 溶融亜鉛浴
14 ターンロール
15 包囲体
16 鉄心
17 一次コイル
18 交流電源
19 スナウト
20 ブスバー
21 二次コイル
22A,22B 吹き付けノズル
23 吐出ポンプ
24 吸引ポンプ
50 加熱装置
60 溶融メッキ装置
S Niプレメッキ鋼板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Niプレメッキ鋼板を加熱する工程と;
前記Niプレメッキ鋼板が,スナウトを経て,0.13〜0.30質量%のAlと,0.01〜0.05質量%のNiとを含むように調製された溶融亜鉛浴に浸漬される際に,前記スナウト内の前記溶融亜鉛浴の浴面近傍に存在しているドロスを,回収手段によって回収する工程と;
を含むことを特徴とする,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記ドロスを回収する工程では,前記Niプレメッキ鋼板の一側と他側にそれぞれ配設された溶融亜鉛吐出手段と溶融亜鉛吸引手段とによって,前記スナウト内の前記溶融亜鉛浴の浴面近傍に,前記Niプレメッキ鋼板の幅方向に沿った浴流れを生じさせ,前記ドロスを前記溶融亜鉛吸引手段によって回収することを特徴とする,請求項1に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記Niプレメッキ鋼板を加熱する工程は,前記Niプレメッキ鋼板を含む回路に誘起される電流によって前記Niプレメッキ鋼板を加熱することを特徴とする,請求項1または2に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記Niプレメッキ鋼板を加熱する工程は,前記Niプレメッキ鋼板を変圧器効果型通電加熱法により加熱することを特徴とする,請求項3に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛吸引手段の吸引量は,
(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)≦(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)≦1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)
であることを特徴とする,請求項2〜4のいずれかに記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛浴中に設けられた複数の溶融亜鉛吹き付け手段から,前記Niプレメッキ鋼板の表面および裏面に,前記Niプレメッキ鋼板の進行方向とは逆方向に前記溶融亜鉛を吹き付けることを特徴とする,請求項1〜5のいずれかに記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛は,前記Niプレメッキ鋼板の進行方向に対して鋭角をなすように,前記Niプレメッキ鋼板に吹き付けられることを特徴とする,請求項6に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛吸引手段の吸引量は,
(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+溶融亜鉛吹き付け手段の吹き付け量)≦(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)≦1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+溶融亜鉛吹き付け手段の吹き付け量)
であることを特徴とする,請求項6または7に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項9】
Niプレメッキ鋼板を加熱する工程と;
前記Niプレメッキ鋼板が,スナウトを経て,Niを0.01〜0.05質量%含み,Al濃度が0.13〜0.16質量%から0.25〜0.30質量%へと変更された溶融亜鉛浴,または,Niを0.01〜0.05質量%含み,Al濃度が0.25〜0.30質量%から0.13〜0.16質量%へと変更された溶融亜鉛浴に浸漬される際に,前記スナウト内の前記溶融亜鉛浴の浴面近傍に存在しているドロスを,回収手段によって回収する工程と;
を含むことを特徴とする,溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記ドロスを回収する工程では,前記Niプレメッキ鋼板の一側と他側にそれぞれ配設された溶融亜鉛吐出手段および溶融亜鉛吸引手段によって,前記スナウト内の前記溶融亜鉛浴の浴面近傍に,前記Niプレメッキ鋼板の幅方向に沿った浴流れを生じさせ,前記ドロスを前記溶融亜鉛吸引手段によって回収することを特徴とする,請求項9に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法
【請求項11】
前記Niプレメッキ鋼板を加熱する工程は,前記Niプレメッキ鋼板を含む回路に誘起される電流によって前記Niプレメッキ鋼板を加熱することを特徴とする,請求項9または10に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記Niプレメッキ鋼板を加熱する工程は,前記Niプレメッキ鋼板を変圧器効果型通電加熱法により加熱することを特徴とする,請求項11に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項13】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛吸引手段の吸引量は,
(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)≦(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)≦1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量)
であることを特徴とする,請求項10〜12のいずれかに記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項14】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛浴中に設けられた複数の溶融亜鉛吹き付け手段から,前記Niプレメッキ鋼板の表面および裏面に,前記Niプレメッキ鋼板の進行方向とは逆方向に前記溶融亜鉛を吹き付けることを特徴とする,請求項9〜13のいずれかに記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項15】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛は,前記Niプレメッキ鋼板の進行方向に対して鋭角をなすように,前記Niプレメッキ鋼板に吹き付けられることを特徴とする,請求項14に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。
【請求項16】
前記ドロスを回収する工程では,前記溶融亜鉛吸引手段の吸引量は,
(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+溶融亜鉛吹き付け手段の吹き付け量)≦(溶融亜鉛吸引手段の吸引量)≦1.5×(溶融亜鉛吐出手段の吐出量+溶融亜鉛吹き付け手段の吹き付け量)
であることを特徴とする,請求項14または15に記載の溶融亜鉛メッキ鋼板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−107035(P2007−107035A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298038(P2005−298038)
【出願日】平成17年10月12日(2005.10.12)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】