説明

溶融塩電池

【課題】エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつ正極及び負極間が短絡する虞をなくした溶融塩電池を提供する。
【解決手段】正極41及び負極21間に、厚さが20〜200μmのセパレータ31を介装させて正極41及び負極21を交互に積層する。側壁1Dと最前側の負極21との間に配したアルミ合金からなる平板状の押え板9と波板状のアルミ合金からなる板バネ8とによって、正極41、セパレータ31及び負極21に0.5MPa以上の押圧荷重を印加する。セパレータ31がガラスの不織布からなる場合は、厚さを60μmより大きくし、PTFEのシートからなる場合は、厚さを60μmより小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩を電解質に用いた溶融塩電池に関し、より詳しくは、セパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出を伴わずに電力を発生させる手段として、太陽光、風力等の自然エネルギーを利用した発電が促進されている。自然エネルギーによる発電では、発電量が気候、天候等の自然条件に左右されることが多いのに加えて、電力需要に合わせた発電量の調整が難しいため、負荷に対する電力供給の平準化が不可欠となる。発電された電気エネルギーを充電及び放電させて平準化するには、高エネルギー密度・高効率で大容量の蓄電池が必要とされる。
【0003】
このような条件を満たす蓄電池として、溶融塩電池の一種であるナトリウム硫黄電池が実用化されている。ナトリウム硫黄電池は、電解質に固体溶融塩を用い、正極活物質の硫黄及び多硫化ナトリウムと負極活物質のナトリウムとが高温で溶融した状態で運用されるため、構造上の制約が多い上に取り扱いに難点がある。
【0004】
一方、常温又は130℃以下の比較的低温で融解する溶融塩を電解質に用いる試みがなされている(例えば、特許文献1参照)。このような液体の溶融塩を電解質に用いる蓄電池では、溶融塩を含む電解質をセパレータと正極及び負極とに含浸させ、正極及び負極でセパレータを挟持する構成が一般的である(例えば、特許文献2参照)。蓄電池は、セパレータの厚さが薄いほど電池の体積に占める電極の割合が大きくなってエネルギー密度が高まる上に、正極及び負極間のイオンの移動距離が短くなってエネルギー効率が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−67644号公報
【特許文献2】特開2007−273362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、セパレータは厚さが薄いほど材質に依存して機械的な強度が低下するため、正極及び負極間が短絡する虞が高まる。セパレータの実用的な厚さの範囲は、製造面からも制約を受ける。100℃に近い温度で動作する溶融塩電池にあっては、セパレータに適用可能な材料が自ずと限定されるため、セパレータの実用的な厚さの範囲が更に狭まる。
【0007】
本発明は斯かる事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつ正極及び負極間が短絡する虞をなくした溶融塩電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る溶融塩電池は、セパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池であって、前記セパレータはシート状をなし、厚さが20〜200μmであることを特徴とする。
【0009】
本発明にあっては、セパレータの厚さが20〜200μmであるため、溶融塩に対する耐性を備えた材料を用いて、正極及び負極間の短絡を招かないだけの強度を有するセパレータが得られると共に、セパレータの厚さがエネルギー密度の低下に与える影響が許容範囲内に収まる。また、正極及び負極間のイオンの移動距離が短く抑えられるため、エネルギー効率が低下することもない。
セパレータの厚さが20μmより薄い場合、セパレータに適用可能な材料では、要求される強度が得られなくなるか又は製造が困難となる。セパレータと対向する正極及び負極の厚さの下限が100μm程度であるため、セパレータの厚さを20μmまで薄くすることにより、エネルギー密度の低下が17%(≒20/120)より小さく抑えられる。
また、通常用いられる正極及び負極夫々の厚さが1000μm及び150μm程度であることを考慮すれば、セパレータの厚さを200μmより薄くすることにより、エネルギー密度の低下が15%(≒200/1350)より小さく抑えられる。
【0010】
本発明に係る溶融塩電池は、前記正極及び負極が前記セパレータを押圧する圧力は、0.5MPa以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明にあっては、セパレータが正極及び負極から受ける圧縮荷重が0.5MPa以上であるため、正極及び負極に対する溶融塩の濡れ性が良好に保持されて、エネルギー効率の低下が小さく抑えられる。
【0012】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、ガラス繊維からなり、厚さが60〜200μmであることを特徴とする。
【0013】
本発明にあっては、セパレータがガラス繊維からなるため、気孔率が大きく、正極及び負極に対する溶融塩の濡れ性が良好である。また、セパレータの厚さが60μmより厚いため、比較的脆い材料でありながら、正極及び負極から受ける荷重によってセパレータが破損することがない。
【0014】
本発明に係る溶融塩電池は、前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなり、厚さが20〜60μmであることを特徴とする。
【0015】
本発明にあっては、セパレータがPTFEからなるため、耐薬品性と耐荷重性とに優れている。また、セパレータの厚さが60μmより薄いため、材料コストが下がると共に、セパレータがガラスからなる場合よりもエネルギー密度の低下が小さく抑えられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、必要とされる強度を有するセパレータが得られると共に、セパレータの厚さによるエネルギー密度及びエネルギー効率の低下が抑えられる。
従って、エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつ正極及び負極間が短絡する虞をなくすことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態に係る溶融塩電池の要部構成を模式的に示す斜視図である。
【図2】積層した発電要素の構成を模式的に示す横断面図である。
【図3】Aは溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図である。
【図4】Aは溶融塩電池の蓋体の平面図、Bは同蓋体の縦断面図である。
【図5】セパレータの厚さと圧縮荷重に対する強度との関係の一例を示す図表である。
【図6】セパレータを構成する材料の特性の一例を示す図表である。
【図7】セパレータに対する圧縮荷重と溶融塩電池の放電容量との関係の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて詳述する。
図1は本発明の実施の形態に係る溶融塩電池の要部構成を模式的に示す斜視図、図2は積層した発電要素の構成を模式的に示す横断面図、図3のAは溶融塩電池の構成を模式的に示す上面図、Bは同溶融塩電池の構成を模式的に示す縦断面図、図4のAは溶融塩電池の蓋体の平面図、Bは同蓋体の縦断面図である。
【0019】
本発明の溶融塩電池では、複数(図では6つ)の矩形平板状の負極21,21,・・21と、複数(図では5つ)の矩形平板状の正極41,41,・・41とが、矩形平板状のセパレータ31,31,・・31(図1では図示せず)の夫々を介して1つずつ交互に相対向するように横方向に積層されている。1組の負極21、セパレータ31及び正極41が1つの発電要素を構成し、本実施の形態では5つの発電要素及び1つの負極21が積層されて、直方体状のアルミニウム(以下、単にアルミという)合金からなる電池容器10内に収容されている。電池容器10の内側は、フッ素樹脂コーティングによって絶縁処理が施されている。
【0020】
電池容器10は、上面に開口部1Eを有する容器本体1と、容器本体1の開口部1Eの内周に形成された段部1Gに内嵌されて開口部1Eを塞ぐ矩形平板状の蓋体7とを有している。容器本体1は、平面視で短辺側に位置する2つの側壁1A,1Bと、長辺側に位置する2つの側壁1C,1Dと、底壁1Fとを備えている。容器本体1の4つの側壁1A,1B,1C,1Dの上端部の内側には、全周に亘って上下寸法が蓋体7の板厚に等しい段部1Gが形成してある。蓋体7は直方体状の板体であり、平面視での外形寸法が容器本体1の段部1Gの内周寸法と略同一又は少し小さくしてある。蓋体7を上方から容器本体1の段部1Gに落とし込むことにより、蓋体7が容器本体1の開口部1Eに内嵌される。
【0021】
側壁1Dと最前側の負極21との間には、アルミ合金からなる平板状の押え板9が配されており、更に、側壁1Dと押え板9との間には、波板状のアルミ合金からなる板バネ8が挿設されている。板バネ8は、押え板9を後方に付勢しており、付勢された押え板9が最前側の負極21を後方に略均等に押圧する。そして、その反作用で、最後側の負極21が側壁1Cの内側から前方に略均等に押圧されるようになっている。
【0022】
負極21,21,・・21の上端部には、容器本体1の短辺側に位置する一方の側壁1Aに近い側に、電流を取り出すための矩形のアルミ合金からなる接続タブ22,22,・・22の下端部が接合されている。接続タブ22,22,22及び22,22,22の上部は、平面視が側壁1B側に開いたコの字状をなす接続部材23が有する2つの腕部231及び231の相対向する2面に夫々溶接されている。接続部材23は、面方向が腕部231,231と平行な矩形の接続板部232を有し、該接続板部232の上部中央には、側壁1Aに開設された貫通孔1Hと対向する取付孔233が設けられている。
【0023】
正極41,41,・・41の上端部には、容器本体1の短辺側に位置する他方の側壁1Bに近い側に、電流を取り出すための矩形のアルミ合金からなる接続タブ42,42,・・42の下端部が接合されている。接続タブ42,42及び42,42,42の上部は、平面視が側壁1A側に開いたコの字状をなす接続部材43が有する2つの腕部431及び431の相対向する2面に夫々溶接されている。接続部材43は、面方向が腕部431,431と平行な矩形の接続板部432を有し、該接続板部432の上部中央には、側壁1Bに開設された貫通孔1Hと対向する取付孔433が設けられている。
【0024】
接続部材23及び43の夫々は、負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と外部の電気回路とを接続するための外部電極の役割を果たすものであり、溶融塩6の液面より上側に位置するようにしてある。溶融塩6は、FSA(ビスフルオロスルフォニルアミド)又はTFSA(ビストリフルオロメチルスルフォニルアミド)系アニオンと、ナトリウム及び/又はカリウムのカチオンとからなるが、これに限定されるものではない。
【0025】
負極21,21,・・21は、負極活物質である錫がメッキされたアルミ箔からなる。アルミは、正/負各電極の集電体に適した材料であり、且つ溶融塩6に対して耐腐食性を有する。負極21,21,・・21は活物質を含めた厚さが約0.15mmであり、縦方向及び横方向夫々の寸法が、100mm及び120mmである。
【0026】
正極41,41,・・41は、アルミ合金の多孔質体を集電体とし、該集電体にバインダと導電助剤と正極活物質であるNaCrO2 とを含む合剤を充填して、約1mmの板厚に形成してある。正極41,41,・・41の縦方向及び横方向夫々の寸法は、デンドライトの発生を防止するために、負極21,21,・・21の縦方向及び横方向の寸法より小さくしてあり、正極41,41,・・41夫々の外縁が、セパレータ31,31,・・31を介して負極21,21,・・21の周縁部に対向するようになっている。尚、正極41,41,・・41の集電体は、例えば、繊維状のアルミからなる不織布であってもよい。
【0027】
セパレータ31,31,・・31は、溶融塩電池が動作する温度で溶融塩6に対する耐性を有する多孔質のPTFEの膜又はガラスの不織布からなる。セパレータ31,31,・・31は、負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と共に、直方体状の電池容器10内に満たされた溶融塩6の液面下約10mmの位置から下側に浸漬されている。これにより、多少の液面低下が許容される。
【0028】
溶融塩電池が組み立てられる場合、接続部材23,43によって電気的に並列接続された5つの発電要素及び1つの負極21と、溶融塩6とが、容器本体1内に投入される。その後、貫通孔1H,1Hに対し、側壁1A,1B夫々の両側から、テフロン(登録商標)からなる絶縁性のブッシングの対が嵌入される。そして、各ブッシングの対と取付孔233及び433の夫々とに対して、ボルトが挿通され、各ボルトがナットに螺嵌される(以上のブッシング、ボルト及びナットは図示せず)。更に、容器本体1の開口部1Eに蓋体7が内嵌され、例えば上方からレーザー光が照射されて蓋体7の周縁部7Aが容器本体1に溶接される。
【0029】
このようにして組み立てられた溶融塩電池にあっては、側壁1A,1Bの夫々と、接続部材23及び43とが電気的に絶縁されて締結されている。上記各ボルトは、側壁1A,1Bから電気的に絶縁されているのに対して、接続部材23及び43の夫々と、接続タブ22,22,・・22及び接続タブ42,42,・・42の夫々とを介して負極21,21,・・21及び正極41,41,・・41と電気的に接続されている。従って、各ボルトが、夫々正極端子及び負極端子となる。
【0030】
上述した構成において、図示しない外部の加熱手段を用いて電池容器10全体を85℃〜95℃に加熱することにより、溶融塩6が融解して、溶融塩電池としての充電及び放電が可能となる。外部より、負極端子に対して正極端子に正の電圧を印加して充電した場合、ナトリウムイオンが正極41,41,・・41からセパレータ31,31,・・31を介して負極21,21,・・21に移動し、その結果、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が共に膨脹する。
【0031】
一方、正極端子及び負極端子間に外部の負荷を接続して放電させた場合、ナトリウムイオンが負極21,21,・・21から正極41,41,・・41に移動し、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が共に収縮する。このため、正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21は、充放電に伴って体積が変化し、厚さ方向についても伸縮することになる。
【0032】
このように、充放電に伴って正極41,41,・・41及び負極21,21,・・21が厚さ方向(積層方向)に伸縮する場合であっても、最前側の負極21が押え板9に及ぼす前後方向の変位が、板バネ8の前後方向の伸縮によって吸収されるため、板バネ8が押え板9を介して最前側の負極21を押圧する押圧力の変化が抑制される。
【0033】
以下では、各セパレータ31の諸元について詳述する。
図5は、セパレータ31の厚さと圧縮荷重に対する強度との関係の一例を示す図表である。図5では、セパレータ31の材料として、繊維状のガラスからなる不織布と、PTFE及びアルミナからなるシートとを用いた場合について、厚さの違いに対する圧縮強度の変化を示す。但し、アルミナのシートは、溶融塩6が分解した場合に生成されるフッ酸に対する耐性が高いものの高価であるため、参考値として示す。
【0034】
ここでの圧縮強度は、正極41及び負極21の両側からセパレータ31を圧縮した場合に、正極41及び負極21間で短絡が生じるときの圧縮荷重の大きさで表される。セパレータ31と対向する正極41は、表面粗さRaが22〜25μmのものを用いた。負極21の表面粗さRaの値は、これより小さく、圧縮強度の測定に影響を与えるものではない。
【0035】
図5において、ガラスの不織布からなるセパレータ31の厚さが80、200及び320μmである場合、圧縮強度が1、8及び19MPaと変化する。つまり、セパレータ31がガラスからなる場合の圧縮強度は、厚さの略2.2乗に比例すると言える。また、PTFEのシートからなるセパレータ31の厚さが30、60及び100μmである場合、圧縮強度が14、18及び24MPaと変化する。つまり、セパレータ31がPTFEからなる場合の圧縮強度は、厚さの略0.4乗に比例すると言える。セパレータ31がアルミナからなる場合の圧縮強度は、ガラスからなる場合の圧縮強度よりやや小さい。
【0036】
さて、セパレータ31の圧縮強度は、セパレータ31が有する隙間や目の粗さによっても変化することが考えられる。
図6は、セパレータ31を構成する材料の特性の一例を示す図表である。図6では、代表的な厚さを有するガラスの不織布及びPTFEのシートの夫々について、気孔率及び平均孔径を示す。密度は参考値である。ガラスの不織布からなるセパレータ31の厚さが80μmの場合は、厚さが200μmの場合とは異なり、無機質からなるバインダを用いてガラス繊維が保持されている。但し、バインダの存在が溶融塩電池の性能に影響を与えるものではない。
【0037】
図6において、ガラスの不織布の平均孔径が2〜6μmであるのに対し、PTFEのシートの平均孔径は0.56μmである。上述したように、図5に示す圧縮強度を測定したときの正極41の表面粗さRaは22〜25μmであった。この値に対して、PTFEのシートの平均孔径が1桁以上小さいため、PTFEからなるセパレータ31の厚さが、正極41の表面粗さRaの値と同程度の30μmの場合であっても、大きな圧縮強度が得られたものと推察される。
【0038】
次に、溶融塩電池で必要とされる圧縮荷重の大きさについて説明する。
図7は、セパレータ31に対する圧縮荷重と溶融塩電池の放電容量との関係の一例を示す図表である。図7では、ガラスの不織布からなるセパレータ31の厚さが80及び200μmの場合について、セパレータ31に印加される圧縮荷重の違いに対する溶融塩電池としての放電容量の変化を示す。測定時の充放電のレートは0.1Cである。
【0039】
図7において、セパレータ31の厚さが80及び200μmの何れの場合であっても、圧縮荷重の大きさを0.5MPa以上とすることにより、放電容量の値が76〜77mAh/gで一定になる。つまり、セパレータ31の厚さに拘わらず、セパレータ31に印加される圧縮荷重の大きさを0.5MPa以上とすれば、充電容量に対する放電容量の低下、即ちエネルギー効率の低下が抑えられることが示される。また、セパレータ31の厚さが80μmの場合と200μmの場合とで、エネルギー効率の低下に差がないことが示される。
【0040】
このように、セパレータ31に印加される圧縮荷重を大きくすることにより、エネルギー効率の低下が抑えられるのは、正極41及び負極21に対する溶融塩6の濡れ性が良好に保持されるためと推察される。但し、セパレータ31、正極41、負極21、及び容器本体1が破損しない範囲値で、セパレータ31に印加される圧縮荷重の大きさを0.5MPa以上に高めた場合であっても、溶融塩6の濡れ性の大幅な向上は期待できないと推察される。
【0041】
図5に戻り、ガラスの不織布及びPTFEのシートの夫々について、0.5MPaの圧縮強度が得られる厚さを考察する。上述したように、ガラスの不織布からなるセパレータ31の圧縮強度は、厚さの略2.2乗に比例する。このことから逆算すれば、圧縮強度が0.5MPaとなるときのガラスの不織布の厚さは、58μmとなる(図5の数値に基づく計算例を省略する)。従って、本実施の形態では、ガラスの不織布からなるセパレータ31に必要とされる厚さの下限を60μmとする。この場合、例えば厚さの上限を200μmとすれば、正極41及び負極21夫々の厚さが約1000μm及び150μmであることから、エネルギー密度の低下が15%(≒200/1350)より小さく抑えられる。
【0042】
一方、PTFEのシートからなるセパレータ31の圧縮強度は、厚さの略0.4乗に比例する。このことから逆算すれば、圧縮強度が0.5MPaとなるときのPTFEガラスの不織布の厚さは、明らかに30μmより遙かに薄くなる。しかしながら、PTFEのシートを薄く製造するには限界があり、本実施の形態では、PTFEのシートからなるセパレータ31に必要とされる厚さの下限を20μmとする。この場合、例えば厚さの上限を60μmとすれば、製造及び入手が容易となる上に、材料コストの上昇が抑えられる。また、ガラスの不織布からなるセパレータ31より厚さが薄いため、エネルギー密度の低下が抑えられる。
【0043】
以上のように本実施の形態によれば、セパレータの厚さが20〜200μmであるため、ガラスの不織布又はPTFEのシートを用いて、正極及び負極間の短絡を招かないだけの強度を有するセパレータが得られると共に、セパレータの厚さがエネルギー密度の低下に与える影響が許容範囲内に収まる。また、セパレータの厚さを200μmより薄くすることによって、正極及び負極間のイオンの移動距離が短く抑えられるため、エネルギー効率が低下することもない。
セパレータの厚さが20μmより薄い場合、ガラスの不織布又はPTFEのシートでは、要求される強度が得られなくなるか又は製造が困難となる。セパレータと対向する正極及び負極の厚さの下限を100μm程度とした場合は、セパレータの厚さを20μmまで薄くすることにより、エネルギー密度の低下が17%より小さく抑えられる。
また、本実施の形態では正極及び負極夫々の厚さが約1000μm及び150μmであることから、セパレータの厚さを200μmより薄くすることにより、エネルギー密度の低下が15%より小さく抑えられる。
従って、エネルギー密度及びエネルギー効率の低下を抑えつつ正極及び負極間が短絡する虞をなくした溶融塩電池を提供することが可能となる。
【0044】
また、セパレータが正極及び負極から受ける圧縮荷重を0.5MPa以上とした場合は、正極及び負極に対する溶融塩の濡れ性が良好に保持されることから、エネルギー効率の低下を抑えることが可能となる。
【0045】
更にまた、セパレータがガラスの不織布からなる場合は、気孔率が大きく、正極及び負極に対する溶融塩の濡れ性が良好となる。また、セパレータの厚さが60μmより厚いため、比較的脆い材料でありながら、正極及び負極から受ける荷重によるセパレータの破損を防止することが可能となる。
【0046】
更にまた、セパレータがPTFEからなる場合は、耐薬品性と耐荷重性とに優れたものとなる。また、セパレータの厚さが60μmより薄いため、材料コストが下がると共に、セパレータがガラスの不織布からなる場合よりもエネルギー密度の低下を小さく抑えることが可能となる。
【0047】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0048】
1 容器本体
21 負極
31 セパレータ
41 正極
6 溶融塩
7 蓋体
10 電池容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを正極及び負極間に介装させた溶融塩電池であって、
前記セパレータはシート状をなし、厚さが20〜200μmであること
を特徴とする溶融塩電池。
【請求項2】
前記正極及び負極が前記セパレータを押圧する圧力は、0.5MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の溶融塩電池。
【請求項3】
前記セパレータは、ガラス繊維からなり、厚さが60〜200μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩電池。
【請求項4】
前記セパレータは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)からなり、厚さが20〜60μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶融塩電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−174606(P2012−174606A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−37439(P2011−37439)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】