説明

溶融塩電解法による白金族金属の回収・精製方法

【解決課題】溶融塩を用いた貴金属の回収方法において、処理対象物からの貴金属の溶解速度を上昇させ、貴金属の回収を効率的に行なうことのできる方法、装置を提供することを目的とする。
【解決手段】溶融塩10を収容するグラファイト製の内容器20と、内容器20を収容するグラファイト製のコンテナ30、更に、コンテナ30を収容するステンレス製の外容器40、を有する溶融塩電解装置1を用いた。内容器20はグラファイト製の遮蔽版21により密閉されており、更に、外容器40及び遮蔽版21を貫通する塩素導入管50と排気管51が設けられている。そして、内容器20の底部には陽極60が敷設され、陽極60に対向するように陰極61が浸漬されている。外容器40には外容器内をアルゴンガスで充満させるため、不活性ガス導入管52が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融塩電解法により、ルテニウム、イリジウム等の白金族金属を含む廃棄物等から、白金族金属を回収するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム、イリジウム等の白金族の貴金属(以下、貴金属と称するときがある。)は、高耐熱性、高耐食性を有することから各種無機材料融解用のるつぼ等の構造材料の他、電気的特性にも優れることから電子部品の電極材料等にも使用されている。一方、これら貴金属は、希少性が高く高価な金属であることから、無駄のない有効な利用・消費が必要であり、リサイクル技術の発展が求められる。
【0003】
本願出願人は、貴金属の回収・精製技術において溶融塩による処理技術を有しており、例えば、下記のような方法を開示している。
【特許文献1】特開2004−99975号公報
【0004】
本願出願人による、廃棄物からの白金族金属回収法は、イリジウム等の貴金属を含む廃棄物をセシウム塩を含む塩化物溶融塩中に溶解させ、廃棄物中の貴金属を、塩化イリジウム酸塩セシウム等とし、反応後の溶融塩と水とを混合して塩化イリジウム酸塩セシウム等を分離回収する工程を含むものである。この溶融塩を用いた技術は、比較的少工程で白金族金属を回収することができる。
【0005】
また、本願出願人は、上記のように、塩化物溶融塩中の貴金属を化合物の形態で回収する技術の他、塩化物溶融塩を電解し、貴金属を析出させる方法も開示している。
【特許文献1】特開2001−089890号公報
【特許文献2】特開2001−152381号公報
【0006】
このような溶融塩電解法による貴金属回収においては、処理対象となる廃棄物等を陽極とし、カーボン等の不溶性電極を陰極とし、これらを塩化物溶融塩(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウム等のアルカリ金属の塩化物の単独塩又は混合塩が良く用いられている。)中に浸漬し、両極を通電する。これにより、陽極中の貴金属が溶融塩中に溶出すると共に、陰極表面に析出し回収可能な状態となる。かかる溶融塩電解法は、貴金属を直接回収することができ、その純度も高いという利点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶融塩を利用した貴金属の回収効率は、溶融塩に溶解した貴金属の含有量、即ち、貴金属を含む処理対象物の溶融塩への溶解量により変化する。
【0008】
しかし、処理対象物中の貴金属の溶解速度は、溶融塩の温度等によりある程度は調整可能であるが、その範囲には限界がある。また、調整可能であっても溶解速度に限界があり、同一条件でより効率的に溶解を行なう方法が求められる。
【0009】
本発明は、以上のような背景の下になされたものであり、塩化物溶融塩を用いた貴金属の回収方法において、処理対象物からの貴金属の溶解速度を上昇させ、貴金属の回収を効率的に行なうことのできる方法、及び、そのための装置を提供とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、塩化物溶融塩中に、白金族金属を含む処理対象物を浸漬し、前記白金族金属を前記塩化物溶融塩に溶解させる溶解工程を含む白金族金属の回収・精製方法であって、前記溶解工程は、前記塩化物溶融塩に塩素を吹き込みながら電解するものである白金族金属の回収・精製方法である。
【0011】
溶融塩中における貴金属の溶解は、貴金属のイオン化、及び、発生した貴金属イオンと塩素イオンとが反応して塩化物を形成することに基づくものである。これらの反応は、平衡関係にあることから、貴金属の溶解を促進するためには、貴金属イオンの増加及び塩素イオンの濃度上昇を図ることが求められる。本発明では、溶融塩の電解による貴金属イオン及び塩素イオンの濃度上昇と、塩素ガスの吹き込みによる塩素イオン源の増加により、前記平衡関係を塩化物生成側へシフトさせるものである。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明において、貴金属を含む処理対象物は、陽極として作用するが、貴金属の含有量は特に限定されない。その形状についても陽極として通電可能なものであれば特に限定はない。また、貴金属を含有するスクラップを一旦溶解鋳造したものを用いても良い。また、陰極は、不溶性電極の適用が好ましく、カーボン製が好ましい。尚、本発明において対象となる白金族金属に属するものとして、白金、イリジウム、ルテニウム、ロジウム、オスミウムの回収、精製が可能である。
【0013】
電解質となる塩化物溶融塩の組成は、アルカリ金属塩化物の溶融塩が好ましく、取扱性の観点から特に好ましいのは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化セシウムの少なくともいずれかを含むものである。また、これらを混合した混合塩も適用でき、混合比を調整することで混合塩を溶融させるための融点の調整が可能である。3種の混合塩を用いる場合の好ましい組成は、塩化ナトリウム:塩化カリウム:塩化セシウム=25〜35mol%:20〜30mol%:40〜50mol%である。溶融塩の温度は、490〜540℃とするのが好ましい。
【0014】
そして、貴金属の溶解工程における条件は、まず、電解条件としては、陰極電流密度を5〜40mA/cm、好ましくは、20〜30mA/cmとするのが好ましい。また、溶融塩に吹き込む塩素ガスは、純度がほぼ100%のものを用いるのが好ましい。塩素ガスの吹き込み量については、電極面積及び陰極電流密度に依存し、これらに基づいて換算される電気化学当量相当量の当倍量以上で2倍量以下の塩素ガスを吹き込むことが好ましい。電気化学当量の2倍を超える塩素ガスを吹き込むと、反応容器中の塩素分圧が上昇し、反応容器の腐食進行が早まるおそれがあるからである。また、電気化学当量未満の塩素ガスを吹き込んでも、溶解は進行するが、その速度は遅いものとなる。このとき、陰極電流密度を上昇させても貴金属の陰極側での析出を伴い、溶解速度の上昇が見込めない。従って、電気当量以上の塩素ガスの吹込みが好ましい。
【0015】
溶解工程において、上記条件により塩素吹き込み及び電解を行なう時間の目安としては、8〜24時間とするのが好ましい。また、その後の貴金属の回収効率を考慮すると、溶融塩中の貴金属濃度が溶融塩に対し0.1〜0.4mol%となるまで溶解工程を行なうのが好ましい。
【0016】
本発明においては、貴金属を溶融塩に溶解させた後に、塩素の吹き込みを停止し、溶融塩から貴金属を回収する。この回収工程については、溶解工程後の溶融塩を溶解処理して貴金属化合物の形態で回収しても良いが、好ましいのは、溶解工程後の溶融塩を電解して貴金属を析出させるものである。溶解工程で使用した電解のための装置をそのまま使用することができ、溶解工程から速やかに回収工程へ移行することができるからである。また、電解析出を行うことで、高純度の貴金属を回収することができ、回収と同時に精製が可能となるからである。
【0017】
この電解析出による回収工程の電解条件は、10〜50mA/cm、好ましくは、30〜50mA/cmとするのが好ましい。貴金属溶解の際の電流密度より高めの範囲となっているのは、この段階における電解が析出の促進を目的としているからである。
【0018】
電解析出により回収される貴金属は、溶解工程における陰極上に析出する。析出した金属は、陰極から剥がした後、洗浄等して回収する。必要に応じて溶解処理等をしても良い。また、溶融塩電解法により析出する貴金属は高純度であり、洗浄、成形加工により、そのまま製品(例えば、スパッタリング用のターゲット)とすることができる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、ルテニウム、イリジウム等の貴金属を含むスクラップ等の処理対象物中の貴金属を、溶融塩に高い溶解速度で溶解させることができる。これにより、効率的な貴金属の回収・精製が可能となる。
【0020】
また、上記により貴金属を溶解させた溶融塩を電解することで高純度の貴金属を効率的に回収することができる。このような溶解工程と電解析出との組合わせにより、廃棄物から製品を少工程で製造することができる。本発明によれば、資源の有効利用を図ると共に、貴金属を使用する製品のコスト低下を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に本発明の好適な実施例を示す。本実施形態では、所定の溶融塩電解装置を使用し、貴金属を含有する廃棄物を処理対象物とし、溶解工程及び析出工程を経て貴金属回収を行った。
【0022】
図1は、本実施形態で用いた溶融塩電解装置の構成を示すものである。溶融塩電解装置1は、溶融塩10を収容するグラファイト製の内容器20と、内容器20を収容するグラファイト製のコンテナ30、更に、コンテナ30を収容するステンレス製の外容器40を有する。内容器20はグラファイト製の遮蔽版21により密閉されており、更に、外容器40及び遮蔽版21を貫通する塩素導入管50と排気管51が設けられている。そして、内容器20の底部には陽極60が敷設され、陽極60に対向するように陰極61が浸漬されている。
【0023】
また、外容器40には外容器内を不活性ガス(本実施形態ではアルゴンを用いた)で充満させるため、不活性ガス導入管52が設けられている。本発明では塩素を取り扱うことから、装置の腐食が懸念される。本発明では、塩素との接触が避けられない溶融塩を保持する内容器20についてはグラファイトで構成すると共に、内容器20を遮蔽板21で密閉している。そして、装置全体を保持する外容器40は、強度・靭性を要することからステンレスで構成すると共に、外容器内を不活性ガスで充満することでその腐食を抑制している。尚、陰極61については、電極間距離調整のため上下駆動可能としても良い、また、電解時の析出物の膜厚を均一なものとするために、回転可能としても良い。
【0024】
塩化物溶融塩としては、以下の組成の混合溶融塩を用いた。また、陽極として、使用済みルテニウムターゲットを用いた。
【0025】
塩化ナトリウム 3140g(53.7mol)
塩化カリウム 3250g(43.6mol)
塩化セシウム 13690g(81.3mol)
温度 520℃
【0026】
本実施形態での溶解工程では、まず、電解を行なうことなく溶融塩に100%塩素ガスを0.2L/min吹き込んだ。その間、アルゴンガス5L/min外容器内へ注入している。この間、所定間隔で溶融塩中のルテニウム濃度を測定した。
【0027】
そして、塩素吹き込み量が約200Lになった時点で、塩素吹き込みをそのまま継続しつつ、溶融塩の電解を行った。電解条件は、電極面積1000cm、陰極電流密度20mA/cm(20A)とした。
【0028】
図2は、上記のような溶解工程において、測定した溶融塩中のルテニウム濃度の変化を示す。図2からわかるように、塩素吹き込みのみの溶融塩中のルテニウム濃度は、緩やかに上昇するものであったが、これに電解を行なうことでルテニウム濃度の著しい上昇がみられた。これは、塩素の吹き込みと電解との双方の作用によりルテニウムの溶解が加速したためである。
【0029】
次に、溶解工程を経た溶融塩について、塩素吹き込みを停止し、電解を行いルテニウムを析出させた。この時の電解条件は、電流密度30mA/cmとし、析出時間については、240時間とした。電解析出後、陰極上の析出物は、塩酸で酸洗いし、グラファイト電極から剥離させた。その結果9028gのルテニウムが得られ、その純度を測定したところ99.99%以上であった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本実施形態で使用した溶融塩電解装置の概略。
【図2】溶解工程における溶融塩中のルテニウム濃度の変化を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物溶融塩中に、白金族金属を含む処理対象物を浸漬し、前記白金族金属を前記塩化物溶融塩に溶解させる溶解工程を含む白金族金属の回収・精製方法であって、
前記溶解工程は、前記塩化物溶融塩に塩素を吹き込みながら電解するものである白金族金属の回収・精製方法。
【請求項2】
溶解工程後、塩素吹き込みを停止し、塩化物溶融塩を電解することにより、塩化物溶融塩中の白金族金属を析出させる析出工程を含む請求項1記載の白金族金属の回収・精製方法。
【請求項3】
溶融塩を収容するグラファイト製の内容器と、前記内容器を収容するステンレス製の外容器と、を備え
前記外容器を貫通して設けられ、前期溶融塩に塩素を供給する塩素導入管、及び、前記外容器を貫通して設けられ、内容器内からの排気を行なう排気管と、
更に、前記外容器を貫通して設けられ、外容器内壁と内容器外壁との空間を不活性ガスで充満させるための不活性ガス導入管と、を備える溶融塩電解装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−202064(P2008−202064A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−36175(P2007−36175)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】