説明

溶融炭酸塩形燃料電池の電極及びその製造方法並びに溶融炭酸塩形燃料電池

【課題】 最適な条件で炭酸塩をプレ含浸させたMCFCの電極の製造方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル板11を下敷きとして多孔質の導電体の板で形成したアノード6及びカソード4の表面に炭酸塩10の粉末を散布し、400℃までは空気雰囲気で昇温する一方、400℃以上では窒素雰囲気で昇温するとともに、650℃で60分以上加熱することによりアノード6及びカソード4の細孔の全容積の80%を上限とする量の炭酸塩10をアノード6及びカソード4の細孔に仕込むようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶融炭酸塩形燃料電池の電極及びその製造方法並びに溶融炭酸塩形燃料電池に関し、特に電極に対する炭酸塩のプレ含浸の際に適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
溶融炭酸塩形燃料電池(以下,MCFCと略称する。)における炭酸塩の含浸方法として、予め炭酸塩シートを作製しておき、当該MCFCの立ち上げ時にin−situによる含浸を実施する方法がある(特許文献1参照)。
【0003】
この方法では昇温中に、炭酸塩シートの厚み分だけMCFCの高さ減少が生じるためスタック締め付け分布のばらつきが大きく、電解質板の破損の原因ともなっている。電解質板の破損はガスリークにつながるので可及的に回避しなければならない。
【0004】
一方では炭酸塩を予め電極に仕込む方法(以下、プレ含浸方法と称する。)も提案されている(特許文献2参照)。かかる方法によれば、MCFCの立ち上げ時の高さ減少が生じないばかりでなく、炭酸塩シート作製の工程がないことから低コスト化を実現し得るという利点がある。
【0005】
【特許文献1】特開平06−267570号公報
【特許文献2】特開平11−329453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の如きプレ含浸方法においては電極になるべく多くの炭酸塩を含浸させたいが、含浸量が多くなるとガスの透過性が問題となる。すなわち、多孔質板である電極の細孔のすべてに炭酸塩が充填されてしまうとガスの流通が阻害される結果、MCFCの立ち上げ時に必要な電解質板の脱脂ができなくなる。
【0007】
しかしながら、従来技術に係るプレ含浸方法においては、具体的にどのような条件で炭酸塩の含浸を行わせれば最適であるかについては検討されていなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、最適な条件で炭酸塩をプレ含浸させたMCFCの電極を提供すること、及び最適な条件で炭酸塩をプレ含浸させることができるMCFCの電極の製造方法を提供すること、並びに前記電極を有するMCFCを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、電極への炭酸塩の仕込み方法について検討するに当たり、プレ含浸に使用する器具の材質について検討した。電極へ炭酸塩を仕込むこと自体は容易に可能であることは予備実験で明らかになっていたが、溶融した炭酸塩が固化した際に電極以外の部材と剥離が困難となることも明らかになったためである。炭酸塩との剥離性を考慮する場合には濡れ性が関係する。炭酸塩との濡れ角については主に電極のアクティブコンポーネント(アノード、カソード)に対するデータであるが、還元雰囲気における金属ニッケル(アノード)の濡れ性が最も小さいことが知られている。
【0010】
そこで、電極の下敷きとしては還元雰囲気中でニッケル板を使用すれば比較的剥離し易いことが予想される。しかしながら、炭酸塩を含浸する電極自体は多孔質のニッケル板であり、炭酸塩を含浸し難い傾向になる。したがって、多孔質のニッケル板中へは炭酸塩を吸い込み易い反面、ニッケル板には炭酸塩が付着し難い条件を割り出すことが肝要である。
【0011】
これまでに取得したAir 雰囲気中におけるニッケルの示差熱天秤の熱重量変化(TGデータ)によるとニッケルは約400℃から重量増加が始まる。これは酸化が開始される温度を意味する。そこで、比表面積が圧倒的に多い電極は400℃において表面がやや酸化され、炭酸塩を吸い込み易くなるが、ニッケル板はそれほどは酸化されないため、炭酸塩は付着し難い環境となっているはずである。つまり、400℃まで空気雰囲気で昇温し、400℃以上では還元雰囲気もしくは不活性雰囲気で炭酸塩の含浸工程を行えば良いと考えられる。また、400℃という温度を考えた場合、カーボン板もその候補となる。カーボン板は炭酸塩を比較的はじき易く、この温度までは熱分解しないためである。
【0012】
かかる検討結果に基づき上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
多孔質の導電体の板で形成したアノード及びカソードであって、
ニッケル板又はカーボン板を下敷きとして前記アノード及びカソードの表面に炭酸塩の粉末を散布し、400℃までは空気雰囲気で昇温する一方、400℃以上では窒素雰囲気で昇温するとともに、650℃で60分以上加熱することにより前記アノード及びカソードの細孔の全容積の80%を上限とする量の炭酸塩を前記アノード及びカソードの細孔に仕込んで構成したことを特徴とするMCFCの電極にある。
【0013】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載するMCFCの電極において、
前記アノード及びカソードに散布した前記炭酸塩の粉末の上に別のニッケル板又はカーボン板を載置するとともに上方から加圧して前記昇温及び加熱を行って構成したことを特徴とするMCFCの電極にある。
【0014】
本発明の第3の態様は、
第1又は第2の態様に記載するMCFCの電極において、
前記アノード及びカソードはニッケル板で形成したことを特徴とするMCFCの電極にある。
【0015】
さらに、本発明者等は、多孔質ニッケル板で形成したアノード及び多孔質酸化ニッケル板で形成したカソードの体積に占めるそれぞれの孔の割合である細孔率が、MCFCの出力電圧特性に大きく影響することをつきとめた。すなわち、アノードの細孔率よりもカソードの細孔率が大きくなるように構成した場合により高い出力電圧が得られることが分った。これは、次のように考えられる。アノード、カソード及び電解質板にそれぞれ分散して保持されている溶融炭酸塩は、電解質板に最も多く保持されており、次にカソード、アノードの順で保持される傾向にある。これは、各部材と炭酸塩との濡れ性に起因する毛細管現象に基づくものである。すなわち、アノードとカソードにおける溶融炭酸塩の引張り合いにより溶融炭酸塩の保持量が決定されているからであると考えられる。そこで、アノードとカソードの細孔率のバランスを最適化してやることによりMCFCの出力電圧の向上を図ることに思い至った。
【0016】
かかる知見をも考慮した本発明の第4の態様は、
第1乃至第3の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
前記アノード及び前記カソードの体積に占める前記細孔の割合である細孔率を、前記アノードと前記カソードとで同じにするか、又は前記アノードの細孔率よりも前記カソードの細孔率が大きくなるように構成したことを特徴とするMCFCの電極にある。
【0017】
本発明の第5の態様は、
第1乃至第4の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率と前記アノードの細孔率との差が0乃至13%であることを特徴とするMCFCの電極にある。
【0018】
本発明の第6の態様は、
第1乃至第5の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率が80%以下であることを特徴とするMCFCの電極にある。
【0019】
本発明の第7の態様は、
第1乃至第6の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記カソードの細孔に含まれる炭酸塩の体積を前記細孔の体積で除した値である炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値としたことを特徴とするMCFCの電極にある。
【0020】
本発明の第8の態様は、
第1乃至第7の態様の何れか一つに記載するMCFCの電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値よりも前記炭酸塩仕込み量が多くなるような値としたことを特徴とするMCFCの電極にある。
【0021】
本発明の第9の態様は、
第1乃至第8の態様に記載する何れか一つの電極を有することを特徴とするMCFCにある。
【0022】
本発明の第10の態様は、
ニッケル板又はカーボン板を下敷きとして多孔質の導電体の板で形成したアノード及びカソードの表面に炭酸塩の粉末を散布し、400℃までは空気雰囲気で昇温する一方、400℃以上では窒素雰囲気で昇温するとともに、650℃で60分以上加熱することにより前記アノード及びカソードの細孔の全容積の80%を上限とする量の炭酸塩を前記アノード及びカソードの細孔に仕込むようにしたことを特徴とするMCFCの電極の製造方法にある。
【0023】
本発明の第11の態様は、
第10の態様に記載するMCFCの電極の製造方法において、
前記アノード及びカソードに散布した前記炭酸塩の粉末の上に別のニッケル板又はカーボン板を載置するとともに上方から加圧して前記昇温及び加熱を行うことを特徴とするMCFCの電極の製造方法にある。
【0024】
本発明の第12の態様は、
第10又は第11の態様に記載するMCFCの電極の製造方法において、
前記アノード及びカソードはニッケル板で形成したものであることを特徴とするMCFCの電極の製造方法にある。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、セルの立ち上げ時の脱脂工程を良好に行いうる範囲で可及的に多くの炭酸塩を電極に含浸させることができる。
【0026】
さらに、アノード及びカソードの細孔率を調整することによりアノード側により多くの炭酸塩が残るような構成としてMCFCとしての出力電圧を上昇させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の実施の形態に係るMCFCを示す分解斜視図である。同図に示すように、本形態に係るMCFCは、カソードガスホルダ1、流路板2、SUSメッシュ板3、カソード4、電解質板5、アノード6、流路板7及びアノードガスホルダ8を有している。ここで、カソードガスホールダ1には空気(O)と二酸化炭素(CO)が供給される。また、アノードガスホルダ8には燃料としての水素(H)と一酸化炭素(CO)とが供給される。カソード4は多孔質の導電体の板である酸化ニッケル板で形成されており、SUSメッシュ板3及び流路板2を介してカソードガスホルダ1内に収納してある。ここで、SUSメッシュ板3は脆い酸化ニッケル板であるカソード4の機械的な補強を行うとともに、カソード4に作用する面圧分布を均一化するためのものである。また、アノード6は多孔質の導電体の板であるニッケル板で形成されており、流路板7を介してアノードガスホルダ8内に収納してある。電解質板5は炭酸塩を浸漬させたセラミック多孔質板で形成してあり、アノード6とカソード4との間に挟持してある。
【0029】
かかるMCFCにおけるカソード側では、カソードガスホルダ1を介して供給された空気(O)と二酸化炭素(CO)が流路板2及びSUSメッシュ板3を介してカソード4に接触する。この結果、カソード4では外部回路から供給された電子と反応して炭酸イオンが生成され、この炭酸イオンが電解質板5を移動してアノード側に至る。
【0030】
一方、アノード側では、アノードガスホルダ1を介して供給された燃料としての水素(H)と一酸化炭素(CO)とが流路板7を介してアノード6に接触する。この結果、アノード6では電解質板5を移動してきた電子と水素が反応して二酸化炭素、水及び電子を生成する。かくして生成された電子が外部回路を介してカソード側へ移動して同様の反応が繰り返されることにより外部回路には連続的に電流を流すことができる。
【0031】
本形態におけるアノード6及びカソード4にはプレ含浸法により予め炭酸塩を仕込んである。ここで、アノード6及びカソード4に含浸させる炭酸塩は、ガスの透過性を考慮してアノード6及びカソード4の各細孔体積の75%に含浸し、残りの必要な炭酸塩はカソード側の流路に仕込んである。具体的には、溶剤(例えば、エタノール乃至水)に溶かし込んだ炭酸塩をカソード側の流路板2に塗布している。
【0032】
ここで、アノード6及びカソード4に対するプレ含浸の具体的な方法を説明する。図2に示すように、ニッケル板11を下敷きとして使用し、多孔質のニッケル板であるアノード6又はカソード4の表面に炭酸塩10の粉末を散布するとともに、炭酸塩10の粉末の上に別のニッケル板12を載置して所定の荷重を付与する。このように荷重を付与することにより降温時のアノード6及びカソード4の反りを防止した。
【0033】
かかる状態で、400℃までは空気雰囲気で昇温する一方、400℃以上では窒素雰囲気で昇温するとともに、650℃で60分維持した。
【0034】
図3は炭酸塩のプレ含浸後のアノード6及びカソード4を9分割して各分割エリア毎の重量増加量から炭酸塩含浸量の分布を計測した結果を示す説明図である。ちなみに、初期重量はアノード6及びカソード4の重量が42.5g、炭酸塩の重量が9.88gで、含浸後は全体で34.42g(2%程度の酸化を含む)であった。なお、図中の各分割エリアの数字は当該エリアに含浸されている炭酸塩の重量(g)である。
【0035】
上述の如きプレ含浸によれば、アノード6及びカソード4には炭酸塩10量のほぼ100%が含浸されており、図3に示すように、極端な分布もないことが分かった。また、重量増加は102%となっており、アノード6及びカソード4の酸化も2%程度発生していることが明らかになった。
【0036】
そこで、炭酸塩10の含浸方法として炭酸塩仕込み量(炭酸塩体積/電極中の細孔体積)と設定温度および保持時間をパラメータとして、含浸試験を実施した。試験結果は表1に示す通りである。
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すように、550℃ 、30分保持の条件ではいずれの炭酸塩仕込み量においても炭酸塩10のすべてをアノード6及びカソード4に含浸させることはできず、下敷きのニッケル板11などに炭酸塩10が粉末状で付着する結果となった。これは炭酸塩組成としてLiCO/NaCO=60/40%の非共晶塩であるため、炭酸塩10の融点には至らなかったためと考えられる。そこで、温度を650℃ まで上げたところ、炭酸塩仕込み率75%ではすべ含浸された。ところが、仕込率100%ではすべては含浸されず、溶融した炭酸塩10が下敷きのニッケル板11に付着する結果となった。さらに、650℃で1時間保持したところ、仕込率85%まで含浸できることが明らかになった。ただし、炭酸塩含浸率を85%に設定すると、プレ含浸されたアノード6及びカソード4の細孔率は理屈上15%となり、ガス透過性がない状態となることも明らかになった。セルの立ち上げ時、電解質板5の脱脂工程があるため、アノード6及びカソード4にはガスの透過性が要求される。このため、アノード6及びカソード4のいずれかは80以下の炭酸塩仕込み率に設定しなければならない。したがって、最短のアノード6及びカソード4へのプレ含浸条件としては650℃ 、60分を必要とし、仕込量は80パーセントを上限とすることが必要である。
【0039】
上述したアノード6及びカソード4への炭酸塩プレ含浸方法からアノード6及びカソード4に仕込むことが可能な炭酸塩量の上限は決定される。一方、アノード6及びカソード4の細孔率は電池性能の観点から、また厚みについては集電板の厚みとの兼ね合いにより決定される。そこで、アノード6及びカソード4へのプレ含浸のみでセルに必要な炭酸塩量を賄うためには、電解質板5の厚みをある値以下にする必要がある。表2に示した実際の部材の仕様を基に電解質板5の厚み上限を計算すると、0.04cmとなり、アノード6及びカソード4へのプレ含浸だけではかなり薄い電解質板5しか使用できない結果となる。
【0040】
【表2】

【0041】
電解質板5の割れに対する耐久性や、ニッケル短絡抑制といった観点からみると、現状では0.037cmの電解質板5の2枚構成による0.075cmが妥当な厚みと考えられる。0.075cmの厚みの電解質板5を使用する場合、アノード6、カソード4及び電解質板5に必要なセル全体の炭酸塩量の約10%は別の場所に仕込まなくてはならない。そこで、残りの必要炭酸塩は、前述の如くカソード側の流路に仕込んでいる。カソード側に仕込む理由は内部改質型のMCFCの場合にはアノード流路板に内部改質触媒を充填するためである。
【0042】
炭酸塩10を流路に仕込む方法としては溶媒としてエタノールまたは純水が考えられるが、本形態ではエタノールを選定した。これは、流路に刷毛塗りした後の乾燥時間を短縮するためであること、また単セルの解体分析結果から純水よりもエタノールで溶いた炭酸塩の場合の方が、カソード流路に炭酸塩が残存せず、きれいにカソードに含浸されている傾向が認められたためである。一方、純水を溶媒とした場合には乾燥に時間を要する点を除いては、接着力が良く、ハンドリング性が良いため、低コスト化を考える場合には、純水による炭酸塩塗布に置き換える方法も検討に値する。
【0043】
次に、MCFCの昇温方法について説明する。セルの昇温に対する基本的な工程は以下の通りである。まず、はじめに1)電解質板5とアノード6及びカソード4とのホットプレス(高温状態での一軸型の加圧プレス)による密着性の向上、2)電解質板5中の脱脂工程、3)炭酸塩10の電解質板5への含浸工程、4)カソード集電板の酸化被膜の形成、5)カソード4の酸化および酸化カソード(酸化ニッケル)に導電性を付与するために微量のリチウムをドープさせる(リチエーション)、6)発電の工程となる。
【0044】
さらに詳言すると、
1) 電解質板5とアノード6及びカソード4とのホットプレス温度については電解質板5に使用しているバインダー(結合剤)に依存する。本形態で使用している電解質板用バインダー(SM15メチルセルロース)は100℃前後で十分柔らかくなり、固いアノード6及びカソード4が柔らかくなった電解質板5に食い込む形で密着性が向上する。このため、常温時にセルに十分な荷重(2.0〜2.8kg/cm)を加えておくことが必要である。
【0045】
2) 電解質板5中の脱脂工程についても使用しているバインダーにより保持すべき温度域を考慮しなければならない。バインダーであるSM15メトローズの熱分解挙動はまず200℃から重量損失が起こりはじめ、280℃〜300℃で炭化が始まり空気中では350℃、窒素雰囲気中では380℃までに急激な重量損失(80%)が起こる。その後、空気中では480℃までに100%の重量損失が起こるが、窒素雰囲気では90%の重量損失にとどまり、1000℃においても10%のバインダーは残存する。以上の特性をもっていることから、まず空気雰囲下において重量損失の始まる210℃(セルの上下にあるヒータ温度でセル温度は200℃を想定)で保持し、急激な重量減少の始まる少し手前の255℃(セル温度245℃)で保持し、バインダーのほぼ80%が損失する410℃(セル温度は400℃ )で保持する脱脂工程とした。400℃以上の温度域ではアノード6の酸化が発生するため、ここで窒素雰囲気に変更する。
【0046】
3) 炭酸塩10の含浸は炭酸塩10の融点である500℃前後から開始するためセル温度で520℃以上になるところで一度温度を保持し十分電解質板5に炭酸塩10が含浸されるのを待つ。この時点で、アノード6及びカソード4間のガスシールが確保されるようになる。
【0047】
4) カソード集電板であるステンレス材はLi/Na系炭酸塩と激しく反応する温度域があるため、その温度域に到達する前に、金属表面に不動態膜をしっかり形成させておく必要がある。このため、セル温度で520℃〜550℃の間にカソード4に水蒸気を供給し、水蒸気によるステンレス表面の酸化被膜を形成させる。
【0048】
5) カソード4に空気/炭酸ガス/窒素の混合ガスを供給し、金属ニッケルから酸化ニッケルへのカソード酸化工程ならびに酸化ニッケルからリチウムのドープされた酸化ニッケルへと変化させる。ここで、いきなり酸素濃度が高いガスを供給すると、急激な酸化反応を生じ、特にスタックや大面積セルの場合にはセル温度の急上昇をもたらす危険があるため、酸素濃度を調整する必要がある。このカソード4でのニッケル酸化反応は550℃〜600℃の温度域で行う。この間、アノード6は金属ニッケルを保つため還元雰囲気ガスを供給する。
【0049】
6) セル温度が600℃以上となれば発電は開始可能となり、初期は馴らし運転の意味合いを込めて、低負荷(50〜100mA/cm)かつセル電圧750mV以上の条件で所定時間運転する。
【0050】
さらに、本形態に係るカソード4とアノード6との細孔率の関係は次の様に調整してある。なお、細孔率とはカソード4及びアノード6の体積に占める孔の割合(%)である。
【0051】
図4はガス組成及びガス温度に基づきネルンスト式で決まる出力電圧の理論値(本例の場合、1060mV)と実際に外部に取出し得た出力電圧との差である電圧降下分の原因を分析評価したもので、図4(a)がアノードの細孔率が62%で、且つアノードの細孔率>カソードの細孔率(従来技術)の場合、図4(b)が図4(a)の場合よりもアノードの細孔率を55%迄緻密化し、この結果アノードの細孔率=カソードの細孔率とした場合、図4(c)が図4(b)の場合よりもさらにカソードの細孔率を61%迄粗孔化し、この結果アノードの細孔率<カソードの細孔率とした場合である。なお、図4(b)の場合のカソードの細孔率は図4(a)の場合と同じになるように形成した(ただし、若干のバラツキは発生する)。また、図4(c)の場合のアノードの細孔率は図4(b)の場合と同じになるように形成した(ただし、若干のバラツキは発生する)。
【0052】
図4を参照すれば(a)から(c)に向かってカソードO反応ロス及び内抵抗が大きく改善され、従来技術を示す(a)で817mVであった出力電圧が、(b)で847mV迄上昇し、さらに(c)では860mV迄上昇していることが分る。
【0053】
さらに、アノード細孔率とカソード細孔率との組み合わせを種々変化させて、各試料の1セル当たりの出力電圧を測定したものが表3である。
【0054】
【表3】

【0055】
表3中の試料1が図4(a)、試料5が図4(b)、試料7が図4(c)の特性を与えるアノード6及びカソード4の組み合わせである。ここで、表3中の酸化時とは、カソード4が酸化された後の細孔率を意味している。例えば多孔質ニッケル板を焼成して形成したカソード4は、これを実際にMCFCに用いた場合には酸化されて、例えば多孔質酸化ニッケル板となるが、焼成直後でカソード4として使用する前のカソードの細孔率は、その使用後のカソード4の細孔率よりも大きい。これは、カソード4がその酸化後には素材の膨張により孔が収縮するからである。したがって、MCFCとしては酸化後のカソード細孔率を基準にその出力電圧との関連を評価している。
【0056】
また、表3の結果に基づきアノード細孔率とカソード細孔率(酸化時)との差に対する出力電圧特性を図5に示す。同図を参照すれば、アノード細孔率とカソード細孔率(酸化時)との差に対する出力電圧特性は前記差がマイナスの値として大きくなればなるほど上昇する傾向にあることが分った。特に、アノード細孔率<カソード細孔率の関係が成立し、両者の差の絶対値が大きい場合ほど高い出力電圧が得られている。
【0057】
図4及び図5の実験結果は、アノード側に炭酸塩がより多くの残るようなアノード6及びカソード4の構成とすることによりMCFCの出力電圧を上昇させることができることを表わしている。
【0058】
そこで、本形態では、前記細孔率を、アノード6とカソード4とで同じにするか、又はアノード6の細孔率よりもカソード4の細孔率が大きくなるように構成した。
【0059】
かかる本形態によればアノード側により多くの炭酸塩が残るような構造となって、大きな出力電圧を得ることができる。
【0060】
さらに、具体的には、表3に試料5,6,7として示すアノード6及びカソード4を有するMCFCは、すべて上記実施の形態の条件を満たしており、従来技術である試料1に比べ何れも高い出力電圧を得ている。したがって、次の3つを本発明の実施例として挙げることができる。なお、次に記載するアノード6及びカソード4は全て上述のプレ含浸法により所定量の炭酸塩10を仕込んである。
【0061】
<実施例1>
アノード6の細孔率が55%で、且つカソード4の細孔率が55%の場合である。本実施例によれば847mVの出力電圧が得られる。
【0062】
<実施例2>
アノード6の細孔率が57%で、且つカソード4の細孔率が59%の場合である。本実施例によれば842mVの出力電圧が得られる。
【0063】
<実施例3>
アノード6の細孔率が58%で、且つカソード4の細孔率が61%の場合である。本実施例によれば860mVの出力電圧が得られる。
【0064】
なお、本形態においては、基本的にはアノード6の細孔率とカソード4の細孔率とが同じか、又はアノード6の細孔率よりもカソード4の細孔率が大きくなっていれば良いが、カソード4の細孔率はその機械的強度により制限される。カソード4の形成部材である酸化ニッケルが酸化により脆くなることとも相俟って細孔率があまりに大きくなると電極として必要な機械的強度を維持し得ないからである。したがって、カソード4の細孔率は酸化前のニッケル板の状態で80%(酸化後では68%)程度が上限であると考えられる。そこで、表3及び図5の結果に基づけばカソード4の細孔率とアノード6の細孔率との差が0乃至13%であることが好ましい。
【0065】
図6はアノード乃至カソードの細孔に含まれる炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性を示す特性図である。同図に示すように、過電圧特性は、アノード6乃至カソード4における炭酸塩の仕込み量に対し極小値Aを持つことが知られている。そして、過電圧が極小の場合がMCFCの出力電圧も最大になると考えられる。そこで、アノード6及びカソード4の細孔率との関係とともに過電圧が極小値Aを持つように炭酸塩の仕込み量を調整することで、さらに容易に高出力電圧を得ることができる。ここで、アノード6及びカソード4に仕込んだ炭酸塩は、MCFCとして発電を継続すると蒸発等によりその量が減少する。したがって、最初は極小値Aを与える仕込み量よりも若干多い仕込み量としておくのが最適である。このように最適値BとすることによりMCFCの使用とともに炭酸塩の量が減少して極小値Aに向かう特性とすることにより使用により過電圧を低減することができるという効果を得る。
【0066】
なお、上述のプレ含浸においては、炭酸塩との濡れ性等を考慮して下敷き及び加圧用の板としてニッケル板11,12を使用したが、これはカーボン板で代替しても同様の効果が得られる。したがって、プレ含浸の下敷き乃至加圧板としてはニッケル板乃至カーボン板が好適である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は電力設備の製造、販売、運用を行う産業界において有効に利用し得る。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の実施の形態に係るMCFCを示す分解斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るプレ含浸の態様を概念的に示す説明図である。
【図3】炭酸塩のプレ含浸後のアノード及びカソードを9分割して各分割エリア毎のの重量増加量から炭酸塩含浸量の分布を計測した結果を示す説明図である。
【図4】ネルンスト式で決まる出力電圧の理論値と実際に外部に取出し得た出力電圧との差である電圧降下分の原因を分析評価した結果を示すグラフである。
【図5】アノード細孔率とカソード細孔率との差に対する出力電圧特性を示す特性図である。
【図6】アノード乃至カソードの細孔に含まれる炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性を示す特性図である。
【符号の説明】
【0069】
4 カソード
5 電解質板
6 アノード
10 炭酸塩
11、12 ニッケル板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質の導電体の板で形成したアノード及びカソードであって、
ニッケル板又はカーボン板を下敷きとして前記アノード及びカソードの表面に炭酸塩の粉末を散布し、400℃までは空気雰囲気で昇温する一方、400℃以上では窒素雰囲気で昇温するとともに、650℃で60分以上加熱することにより前記アノード及びカソードの細孔の全容積の80%を上限とする量の炭酸塩を前記アノード及びカソードの細孔に仕込んで構成したことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項2】
請求項1に記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード及びカソードに散布した前記炭酸塩の粉末の上に別のニッケル板又はカーボン板を載置するとともに上方から加圧して前記昇温及び加熱を行って構成したことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード及びカソードはニッケル板で形成したことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード及び前記カソードの体積に占める前記細孔の割合である細孔率を、前記アノードと前記カソードとで同じにするか、又は前記アノードの細孔率よりも前記カソードの細孔率が大きくなるように構成したことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率と前記アノードの細孔率との差が0乃至13%であることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
酸化前の前記カソードの細孔率が80%以下であることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記カソードの細孔に含まれる炭酸塩の体積を前記細孔の体積で除した値である炭酸塩仕込み量と電極反応の際に生じる電圧降下分を表わす過電圧との関係を表わす過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値としたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7の何れか一つに記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極において、
前記アノード乃至カソードの細孔率は、前記過電圧特性において前記過電圧が極小値をとるような値よりも前記炭酸塩仕込み量が多くなるような値としたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8に記載する何れか一つの電極を有することを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池。
【請求項10】
ニッケル板又はカーボン板を下敷きとして多孔質の導電体の板で形成したアノード及びカソードの表面に炭酸塩の粉末を散布し、400℃までは空気雰囲気で昇温する一方、400℃以上では窒素雰囲気で昇温するとともに、650℃で60分以上加熱することにより前記アノード及びカソードの細孔の全容積の80%を上限とする量の炭酸塩を前記アノード及びカソードの細孔に仕込むようにしたことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極の製造方法。
【請求項11】
請求項10に記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極の製造方法において、
前記アノード及びカソードに散布した前記炭酸塩の粉末の上に別のニッケル板又はカーボン板を載置するとともに上方から加圧して前記昇温及び加熱を行うことを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極の製造方法。
【請求項12】
請求項10又は請求項11に記載する溶融炭酸塩形燃料電池の電極の製造方法において、
前記アノード及びカソードはニッケル板で形成したものであることを特徴とする溶融炭酸塩形燃料電池の電極の製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−277391(P2009−277391A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125262(P2008−125262)
【出願日】平成20年5月12日(2008.5.12)
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)
【Fターム(参考)】