説明

溶融金属の連続鋳造方法

【課題】電磁力によって鋳片表面性状を改善しつつ、鋳片内部に捕捉される非金属介在物や気泡を低減することのできる溶融金属の連続鋳造方法を提供する。
【解決手段】鋳型1の周囲に鋳造空間8を取り囲むように配設した電磁コイル4に交流電流を流してメニスカス形状を制御して鋳片表面性状を改善しつつ、浸漬ノズル5の吐出口6を上向きとし、さらに吐出口6からの吐出流14の方向が鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かうようにする。これにより、吐出流中の非金属介在物や気泡はメニスカス到達部においてメニスカス11の連続鋳造パウダーに吸収される。また、吐出流14は電磁コイル4に起因する電磁力を受けて鋳片厚み方向の吐出流の広がりが抑制され、吐出流14は長辺シェル12に接触しないので、吐出流14から長辺シェル12への非金属介在物や気泡の捕捉も抑止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属の連続鋳造方法に関するものであって、鋳型内における溶融金属流れの改善に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶融金属の連続鋳造方法においては、鋳片を形成する鋳造空間の四周を水冷銅板で取り囲んだ鋳型を用い、鋳型内に溶融金属を注入し、鋳型に接する溶融金属部分が凝固してシェルを形成し、シェルが成長しつつ鋳型下部から引き抜かれ、最終的に凝固が完了して連続鋳造鋳片が形成される。
【0003】
鋳片形状が扁平形状であるスラブの連続鋳造においては、鋳型内の鋳造空間も長方形断面である。断面長方形の長辺に面する鋳型面を長辺面、長方形の短辺に面する鋳型面を短辺面という。溶融金属は浸漬ノズルを介して鋳型内に供給される。浸漬ノズルは底部を有する円筒状であり、浸漬ノズル下端付近に鋳造空間の長手方向両方向に向かう吐出口が開口され、吐出口から溶融金属が鋳型内に吐出する。浸漬ノズル吐出口からの吐出流は、鋳型内溶融金属プール内を進み、鋳型短辺に衝突し、上向き流と下向き流に分かれる。
【0004】
鋳型内に形成された溶融金属プールの表面には、連続鋳造パウダーが供給されて層をなし、溶融金属の熱で溶融し、鋳型とシェルとの間隙に流入してパウダーフィルムを形成し、鋳型とシェルとの間の潤滑剤として機能する。鋳型は常時上下方向に振動し(オッシレーションという)、パウダーフィルムの流入を促進し、鋳片の引抜きを容易にしている。一方、鋳片表面には、鋳型オッシレーションに起因してオッシレーションマークと呼ばれる凹凸が形成される。
【0005】
鋳型の周囲に鋳造空間を取り囲む電流流路を有する電磁コイルを配してこの電磁コイルに交流電流を流すと、鋳型内の溶融金属にピンチ力が作用する。特許文献1には、溶融金属のメニスカス近傍にこの電磁力を作用させ、これによって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属が鋳型壁から引き離す方向に力を受け、メニスカスを強く湾曲させると同時に、鋳型とシェルの間のギャップを拡大してパウダー流入を促進し、オッシレーションマークを軽減して鋳片表面形状を改善する発明が記載されている。
【0006】
一方、このように作用する電磁力は、同時に鋳型内の溶融金属プールに電磁誘導流れを形成する。電磁誘導流れは、電磁コイルの高さ方向中心においてシェルから溶融金属プール中心に向かう流れが発生し、プール中心において上向き流と下向き流に分流する。電磁コイルの上半分に対応する部位では、プール中心で上向き流、メニスカス部で外向き流、シェル付近で下向き流となる回動流れが形成される。電磁コイルの下半分に対応する部位では、プール中心で下向き流、電磁コイル下端部付近で外向き流、シェル付近で上向き流となる回動流れが形成される。
【0007】
特許文献2においては、円形または角状の鋳造断面を有するビレットを鋳造する例において、下向き方向に開口した吐出口を有する溶融金属注入ノズルを、吐出口が電磁コイルの中心より下方に位置するように配設し、溶融金属を溶融金属注入ノズルの吐出口から鋳型内に注入する連続鋳造方法が記載されている。特許文献2に記載のものはこれにより、溶融金属プール中心で上向きに流れる回動流れに対し、溶融金属注入ノズルからの吐出流が影響を及ぼさないので、表面性状の優れた鋳片が鋳造されるとしている。
【0008】
精錬炉で脱炭のための酸素精錬を行った溶融金属にはフリー酸素が含まれるので、精錬炉から取鍋に溶融金属を移注するに際し、溶融金属中に酸化力の強い脱酸剤を添加し、フリー酸素を酸化物とする。生成した非金属酸化物は大部分が溶融金属中から浮上分離するが、一部は溶融金属中に浮遊したままタンディッシュに移注される。そのため、タンディッシュから浸漬ノズルを経由して鋳型内に供給される溶融金属中には、非金属介在物が含まれている。また、溶融金属中の非金属介在物が浸漬ノズルの内壁に付着することを防止するため、浸漬ノズル内に非酸化性ガスの吹き込みが行われる。吹き込まれた非酸化性ガスは溶融金属中に取り込まれて気泡となり、溶融金属とともに移動する。溶融金属中のこれら非金属介在物や気泡は、浸漬ノズルの吐出口から吐出流とともに鋳型内に供給される。非金属介在物や気泡が鋳片に取り込まれると品質欠陥となるので、できるかぎり鋳型内の溶融金属中を浮上させ、メニスカスを覆う連続鋳造パウダー中に取り込んで分離することが好ましい。
【0009】
最近の連続鋳造においては、メニスカス直下に垂直部を設けた垂直曲げ型とし、この垂直部で非金属介在物や気泡の浮上分離の促進を図っている。また、浸漬ノズルの吐出口からの吐出流が鋳型短辺に衝突したあと、鋳型短辺に沿って下方に流れる流れが強すぎると、この流れに乗って非金属介在物や気泡が鋳片の深部に達し、凝固鋳片に取り込まれることになる。この場合、連続鋳造水平部における鋳片上面側の1/4厚付近に非金属介在物や気泡が捕捉される。そこで、下方流が少なくなるように吐出流を制御することが行われている。
【0010】
【特許文献1】特開昭52−32824号公報
【特許文献2】特開平11−188460号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
鋳型の周囲に鋳造空間を取り囲むように配設した電磁コイルに交流電流を流すことにより、メニスカス形状を制御して鋳片表面性状を改善することができる。しかし、特許文献2に記載のように、下向き方向に開口した吐出口を有する溶融金属注入ノズルを、吐出口が電磁コイルの中心より下方に位置するように配設して鋳造を行うと、鋳片表面性状の改善は得られるものの、鋳片の内部に捕捉される非金属介在物や気泡については十分に低減することができない。
【0012】
本発明は、電磁力によって鋳片表面性状を改善しつつ、鋳片内部に捕捉される非金属介在物や気泡を低減することのできる溶融金属の連続鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
特許文献2に記載の下向き方向に開口した吐出口6を有する浸漬ノズル5を用いた場合(図2(c))はもちろん、水平方向、あるいは図2(b)に示すように若干の上向き方向に開口した吐出口6を有する浸漬ノズル5であっても、吐出口6からの吐出流14が鋳片の短辺シェル13に衝突する方向で吐出される限り、吐出流14が衝突した短辺シェル13の付近に非金属介在物や気泡が捕捉されることが判明した。また、吐出口からの吐出流14は、図4(c)(d)に示すように吐出口6から離れるにつれて鋳片の厚み方向に広がり、短辺に衝突する以前に両サイドの長辺シェル12に接するようになる。そして吐出流14が長辺シェル12に接触すると、その部位で非金属介在物や気泡が長辺シェル12に捕捉されることが判明した。
【0014】
それに対し、図3に示すように、鋳型1の周囲に鋳造空間8を取り囲むように配設した電磁コイル4に交流電流を流してメニスカス形状を制御して鋳片表面性状を改善しつつ、図1(a)に示すように浸漬ノズル5の吐出口6を上向きとし、さらに吐出口6からの吐出流14の方向が鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かうようにすると、吐出流14は短辺シェル13に衝突する前にメニスカス11に到達することとなる。その結果、吐出流中の非金属介在物や気泡はメニスカス到達部においてメニスカス11の連続鋳造パウダーに吸収される。また、吐出口6からメニスカス11までの吐出流14には、電磁コイル4に起因する電磁力を受けて長辺シェルから鋳片中心に向かう力がかかるので、鋳片厚み方向の吐出流の広がりが抑制され、図1(b)、図4(a)(b)に示すように、吐出流14は長辺シェル12に接触することなくメニスカス11に到達することができる。従って、吐出流14から長辺シェル12への非金属介在物や気泡の捕捉も抑止することができる。その結果、電磁力によってメニスカス形状を制御して鋳片表面性状を改善すると同時に、鋳片への非金属介在物や気泡の捕捉を抑制し、表面性状と内部品質がともに良好な鋳片を製造することが可能となる。
【0015】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨とするところは以下のとおりである。
(1)長方形断面の鋳造空間8を有する鋳型1内に浸漬ノズル5を介して溶融金属10を注入し、鋳型1の周囲に鋳造空間8を取り囲む電流流路を有する電磁コイル4を配してこの電磁コイル4に交流電流を流し、交流電流によって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属10が鋳型壁から引き離す方向に力を受け、浸漬ノズル5は鋳造空間8の幅方向に向きかつ水平よりも上方に向いた溶融金属の吐出口6を有し、吐出口6からの吐出流14の方向は、鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かっていることを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
(2)長方形断面の鋳造空間8を有する鋳型1内に浸漬ノズル5を介して溶融金属10を注入し、鋳型1の周囲に鋳造空間8を取り囲む電流流路を有する電磁コイル4を配してこの電磁コイル4に交流電流を流し、交流電流によって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属10が鋳型壁から引き離す方向に力を受け、浸漬ノズル5は鋳造空間の幅方向に向きかつ水平よりも上方に向いた溶融金属の吐出口6を有し、吐出口6の開口の方向Xは、鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かっていることを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
(3)前記吐出口の開口方向Xと水平方向との間の角度の0.8倍が、吐出口中心Cから鋳型短辺とメニスカスとの交点Aへ向かう方向と水平方向との間の角度よりも大きいことを特徴とする上記(2)に記載の溶融金属の連続鋳造方法。
(4)電磁コイル4の鋳造方向長さをLとし、吐出口6の中心Cは、電磁コイル4の下端から1/4・Lよりも上方に位置することを特徴とする上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の溶融金属の連続鋳造方法。
(5)上下方向に2以上の吐出口が並列していることを特徴とする上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の溶融金属の連続鋳造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、浸漬ノズル吐出口からの吐出流が短辺シェルに衝突せず、長辺シェルにも接触せずにメニスカスに到達するので、短辺シェル、長辺シェルに非金属介在物や気泡が捕捉されることを抑制し、鋳片の内部品質を向上することができる。併せて、鋳型の周囲に鋳造空間を取り囲むように配設した電磁コイルに交流電流を流してメニスカス形状を制御することにより、鋳片表面性状を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明は、溶融金属の連続鋳造方法に関するものであり、図3(a)、図1(a)に示すように、長方形断面の鋳造空間8を有する鋳型1内に浸漬ノズル5を介して溶融金属10を注入する。長方形断面である鋳造空間8の長辺に位置する鋳型を鋳型長辺2、鋳造空間8の短辺に位置する鋳型を鋳型短辺3と呼ぶ。
【0018】
本発明はまた、図3に示すように、鋳型1の周囲に鋳造空間8を取り囲む電流流路を有する電磁コイル4を配置する。このような配置のコイルはソレノイドと呼ばれる。この電磁コイル4に交流電流を流すことにより、鋳型内の溶融金属及び凝固シェルはコイルの中心方向へ向かうピンチ力を受ける。電磁コイル4は、鋳型内メニスカス近傍の溶融金属が鋳型壁から引き離す方向に力を受けるような位置に配置される。これによって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属が鋳型壁から引き離す方向に力を受け、メニスカスを強く湾曲させると同時に、鋳型とシェルの間のギャップを拡大してパウダー流入を促進し、オッシレーションマークを軽減して鋳片表面形状を改善することができる。
【0019】
電磁コイル4に交流電流を流すことにより、上記ピンチ力が働くと同時に、鋳型内の溶融金属プールに電磁誘導流れが形成される。電磁誘導流れは、図3(c)に示すように、電磁コイル4の高さ方向中心においてシェルから溶融金属プール中心に向かう流れが発生し、プール中心において上向き流と下向き流に分流する。電磁コイル4の上半分に対応する部位では、プール中心で上向き流、メニスカス部で外向き流、シェル付近で下向き流となる回動流15が形成される。電磁コイル4の下半分に対応する部位では、プール中心で下向き流、電磁コイル下端部付近で外向き流、シェル付近で上向き流となる回動流15が形成される。
【0020】
本発明において、図1(a)に示すように、浸漬ノズル5は鋳造空間の幅方向に向きかつ水平よりも上方に向いた溶融金属の吐出口6を有し、吐出口6からの吐出流14の方向は、鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かっていることを特徴とする。これにより、吐出流14は短辺シェル13に衝突する前にメニスカス11に到達することとなる。その結果、吐出流中の非金属介在物や気泡はメニスカス到達部においてメニスカスの連続鋳造パウダーに吸収されるので、図2(b)(c)に示す従来技術のように、吐出流14が衝突した短辺シェル13に非金属介在物や気泡が捕捉されることがない。また、吐出口6からメニスカス11までの吐出流14には、電磁コイル4に起因する電磁力を受けて長辺シェルから鋳片中心に向かう力がかかるので、鋳片厚み方向の吐出流14の広がりが抑制され、図1(b)、図4(a)(b)に示すように、吐出流14は長辺シェル12に接触することなくメニスカス11に到達することができる。従って、吐出流14から長辺シェル12への非金属介在物や気泡の捕捉も抑止することができる。その結果、電磁力によってメニスカス形状を制御して鋳片表面性状を改善すると同時に、鋳片への非金属介在物や気泡の捕捉を抑制し、表面性状と内部品質がともに良好な鋳片を製造することが可能となる。
【0021】
本発明において、図5(a)に示すように、吐出口6の開口の方向Xが、鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かっていることによって、上記本発明の効果を発揮することができる。吐出口の開口の方向Xとは、吐出口6の中心Cから発し、吐出口の内周壁7と平行な方向Wをいう。内周壁が円筒状のような形状を有している場合は内周壁と平行な方向を定義することができる。吐出口の内周壁がテーパー状をなしているような場合には、テーパー形状の対称軸の方向を採用すればよい。
【0022】
以上のように吐出口の開口の方向Xを定めることにより、本発明の効果を発揮することができる。一方、実際の連続鋳造においては、吐出口の開口の方向Xと吐出流14の吐出方向とが一致しない場合がある。そこで、実機において、電磁力を印加した鋼の連続鋳造中に、浸漬ノズルの吐出口の吐出角を種々変更させ、吐出口の開口の方向Xと実際の吐出流14の方向との関係について調査した。具体的には、吐出口からの吐出流の線速度が0.5〜2m/秒の範囲において、吐出流がメニスカスに直接当たっているか、それとも鋳型短辺のシェル等にあたっているかを、Sをトレーサとして確認を行った。鋳造後の鋳片にSが検出された場合、吐出流が鋳型短辺のシェル等に当たっていると判断でき、鋳造後の鋳片にSが検出されなかった場合、吐出流がメニスカスに直接当たっていると判断できる。その結果、上向き吐出口を有する場合において、実際の吐出流の方向と水平方向との間の角度は、吐出口の開口の方向Xと水平方向との間の角度の80%程度となることが分かった。
【0023】
そこで、図5(b)に示すように直線Yを定義する。直線Yは吐出口6の中心Cをとおり、直線Yと水平方向との間の角度φは、吐出口の開口方向Xと水平方向との間の角度θの0.8倍となっている場合を例示している。実際の連続鋳造では、通常、吐出流の方向が吐出口の開口方向Xと水平方向との間の角度θの0.8〜1倍の範囲となっている。本発明において、図5(b)に示すように、直線Yが、鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かっていることとすれば、吐出流14の方向を確実に鋳型短辺とメニスカスとの交点Aよりも上方に向かわせることができるので、より好ましい結果を得ることができる。このとき、吐出口の開口方向Xと水平方向との間の角度の0.8倍が、吐出口中心Cから鋳型短辺とメニスカスとの交点Aへ向かう方向と水平方向との間の角度よりも大きい。
【0024】
鋳型の周囲に鋳造空間8を取り囲む電流流路を有する電磁コイル4について、電磁コイル4の鋳造方向長さをLとする。電磁コイル4に流す交流電流によって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属が鋳型壁から引き離す方向に力を受けることが必要なので、電磁コイル4の上端位置は鋳型内メニスカス11近傍位置となる。
【0025】
本発明の浸漬ノズル5の吐出口6の位置は、吐出口6から吐出された吐出流14がメニスカス11に到達するまでの間、継続して吐出流14が電磁コイル4からピンチ力を受け、吐出流14の鋳片厚み方向への広がりを抑えることが好ましい。従って、吐出口6の中心の鋳造方向位置は、電磁コイル4の下端位置よりも上にあることが好ましい。
【0026】
一方、電磁コイル4の下端付近においては、溶融金属に対して鋳片厚み中心方向へ向かうピンチ力は働いているものの、図3(c)に示すように、電磁力に起因する溶融金属の回動流15は鋳片厚み中心から表層へ向かう流れとなっている。従って、吐出流14の広がりを防止するためには、この表層へ向かう回動流を避けた方が好ましく、吐出口6の中心Cは、電磁コイルの下端から1/4・Lよりも上方に位置することが好ましい。これにより、図1(b)、図4(a)(b)に示すように、吐出口6から吐出されメニスカス11に到達するまでの吐出流14について、鋳片厚み方向での広がりを抑え、メニスカス11に到達するまで吐出流14が長辺シェル12に接触することを確実に防止することができる。吐出口6の中心Cは、電磁コイルの下端から1/2・Lよりも上方に位置することとするとさらに好ましい。
【0027】
本発明においては、図6に示すように、上下方向(鋳造方向)に2以上の吐出口(6a、6b)が並列していることとすると好ましい。これにより、ひとつひとつの吐出口の開口断面積を小さくすることができるため、同じ鋳造速度の場合、吐出口からの溶鋼の線速度を大きくすることができるため、吐出流の方向を吐出口の開口方向により近づけることができる。このため、より確実に吐出流をメニスカスに到達させることができる。
【実施例】
【0028】
幅1200mm、厚さ250mmの断面形状の鋳片を鋳造する連続鋳造装置において、本発明を適用した。鋳型の高さは900mm、鋳型直下に2.5mの垂直部を有し、さらに曲げ半径7.5mの曲げ部、曲げ戻し水平部を有する。
【0029】
図3に示すように、鋳型1の周囲に鋳造空間8を取り囲む電流流路を有する電磁コイル4を配してこの電磁コイル4に交流電流を流す。電磁コイル4の鋳造方向長さLは300mmであり、電磁コイル4の上端位置をメニスカス11位置に一致させる。
【0030】
浸漬ノズル5は外径150mm、内径90mmであり、図1(a)に示すように浸漬ノズル下端付近に鋳造空間の幅方向に向く吐出口6を有し、吐出口6の内径(円相当直径)は60mm、メニスカス11から吐出口中心Cまでの距離が150mmである。吐出口6の数は2口である。吐出口6の開口方向Xは、下向き30度、上向き10度、上向き20度、上向き30度の4種類を準備した。
【0031】
吐出口6の開口方向Xを上記4種類で変化させ、さらに電磁コイル4の電磁力ありとなしとで変化させ、低炭アルミキルド鋼を鋳造速度1.5m/分で鋳造し、鋳片の品質を評価した。電磁力なし、吐出口下向き30度の水準を基準条件とした。
【0032】
吐出口上向き30度については、吐出口の開口方向X、直線Yの方向、実際の吐出流14の方向のいずれも、短辺シェル13に衝突する前にメニスカス11に到達した。上向き20度については、吐出口の開口方向Xは直接メニスカス11に到達し、直線Yの方向は鋳型短辺とメニスカスとの交点Aのごく近く、ほんのわずか上に到達する方向であったが、実際の吐出流14の方向は、電磁力ありの本発明例では直接メニスカス11に到達し、電磁力なしの比較例では短辺シェル13に衝突した。一方、吐出口上向き10度及び下向き30度については、吐出口の開口方向X、直線Yの方向、実際の吐出流14の方向のいずれも、直接短辺シェル13に衝突した。
【0033】
鋳片表面性状については、表面の粗さをレーザー変位計によって測定した。鋳片の幅に対し両短辺から50mm位置及び1/4幅、1/2幅、3/4幅の合計5ラインを選択し、鋳造方向に200mmの長さにわたり、スポット径0.2mmのレーザー変位計を0.2mmピッチで移動させながら鋳片表面の凹凸を測定する。各ライン上の10mm長さ毎の最大変位と最小変位の差をとり、これを全長にわたり比較して最大値を粗度と定義する。さらに基準となる製造条件のサンプルの粗度を1として相対的な粗度を最終的な定義とする。
【0034】
非金属介在物や気泡に起因する内部品質については、表層介在物・気泡欠陥、内部介在物・気泡欠陥の発生状況によって評価した。表層とは鋳片表面から20mm深さまでであり、およそ鋳型内で凝固する厚さに相当する。内部とは鋳片表層20mm〜50mm深さまでであり、およそ垂直曲げ連続鋳造機において集積帯と呼ばれる欠陥体を形成する湾曲部の部分を含む領域である。表層については、鋳片の全幅で鋳造方向200mm長さについて厚み方向に1mmピッチでフライス加工し、介在物・気泡個数を目視カウントし、内部については、全幅で鋳造方向1m長さについて厚み方向に5mmピッチでフライス加工し、介在物・気泡個数を目視カウントしたものを使用する。ともに基準となる製造条件のサンプルの個数指数を1として相対的な個数指数を最終的な定義とする。
【0035】
【表1】

【0036】
結果を表1に示す。吐出口上向き30度、電磁力ありの本発明例は、いずれの比較例と対比しても、鋳片表面粗度、表層気泡欠陥、内部気泡欠陥のすべての指標について最も良好な結果を得ることができた。上向き20度、電磁力ありの本発明例についても、比較例に対比すると良好な結果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】鋳型内の吐出流の状況を示す断面図であり、(a)は電磁力有りの正面断面図、(b)は電磁力有りの側面断面図である。
【図2】鋳型内の吐出流の状況を示す正面断面図であり、吐出口の開口方向が異なる3種類について示している。
【図3】鋳型と電磁コイルの関係を示す図であり、(a)はA−A矢視断面図、(b)は正面図、(c)は電磁力による回動流を示すC−C矢視断面図である。
【図4】吐出流の鋳型内幅方向の広がり状況を示す図であり、(a)(b)は電磁力有りの場合のそれぞれ平面断面図、側面断面図であり、(c)(d)は電磁力なしの場合のそれぞれ平面断面図、側面断面図である。
【図5】浸漬ノズルの吐出口の形状と吐出流との関係について説明する図である。
【図6】鋳造方向に2組の吐出口を有する場合を示す図である。
【符号の説明】
【0038】
1 鋳型
2 鋳型長辺
3 鋳型短辺
4 電磁コイル
5 浸漬ノズル
6 吐出口
7 吐出口の内周壁
8 鋳造空間
10 溶融金属
11 メニスカス
12 長辺シェル
13 短辺シェル
14 吐出流
15 回動流
21 浸漬ノズル内周
22 吐出口上端
23 吐出口下端
A 鋳型短辺とメニスカスとの交点
C 吐出口中心
D 浸漬ノズル内径
d 吐出口の上下方向の内径
W 吐出口の内周壁と平行な方向
X 開口の方向
Y 直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形断面の鋳造空間を有する鋳型内に浸漬ノズルを介して溶融金属を注入し、鋳型の周囲に鋳造空間を取り囲む電流流路を有する電磁コイルを配してこの電磁コイルに交流電流を流し、前記交流電流によって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属が鋳型壁から引き離す方向に力を受け、前記浸漬ノズルは鋳造空間の幅方向に向きかつ水平よりも上方に向いた溶融金属の吐出口を有し、吐出口からの吐出流の方向は、鋳型短辺とメニスカスとの交点よりも上方に向かっていることを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項2】
長方形断面の鋳造空間を有する鋳型内に浸漬ノズルを介して溶融金属を注入し、鋳型の周囲に鋳造空間を取り囲む電流流路を有する電磁コイルを配してこの電磁コイルに交流電流を流し、前記交流電流によって鋳型内メニスカス近傍の溶融金属が鋳型壁から引き離す方向に力を受け、前記浸漬ノズルは鋳造空間の幅方向に向きかつ水平よりも上方に向いた溶融金属の吐出口を有し、吐出口の開口の方向は、鋳型短辺とメニスカスとの交点よりも上方に向かっていることを特徴とする溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項3】
前記吐出口の開口方向と水平方向との間の角度の0.8倍が、吐出口中心から鋳型短辺とメニスカスとの交点へ向かう方向と水平方向との間の角度よりも大きいことを特徴とする請求項2に記載の溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項4】
前記電磁コイルの鋳造方向長さをLとし、前記吐出口の中心は、電磁コイルの下端から1/4・Lよりも上方に位置することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶融金属の連続鋳造方法。
【請求項5】
上下方向に2以上の吐出口が並列していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の溶融金属の連続鋳造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−137056(P2008−137056A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−328273(P2006−328273)
【出願日】平成18年12月5日(2006.12.5)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構エネルギー使用合理化技術戦略的開発に係わる共同研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】