説明

溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法

【課題】 少ない薬剤使用量で溶解性マンガンを除去することの可能な溶解性マンガン含有水中からマンガンを膜分離する方法を提供する。
【解決手段】 溶解性マンガンを含有する原水に塩素系酸化剤を添加して分離膜により膜濾過を行い、前記溶解性マンガンの一部を酸化マンガンとして前記分離膜表面に析出させ、この処理水及び濃縮水を循環させることにより、前記酸化マンガンとの接触反応により残存する溶解性マンガンを析出・除去する。前記塩素系酸化剤の添加量が50〜150mg/Lであり、前記処理水及び濃縮水の循環時間が3時間以上であるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密濾過膜又は限外濾過膜等の透過膜を用いて、溶解性マンガンを含有する原水に対し濾過操作を行うことにより溶解性マンガンを除去する膜分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
膜分離装置は、河川水や湖沼水などの表流水に凝集沈殿処理等の浄水処理を施して得られる工業用水や上水中の懸濁物や溶存物を分離して高度な浄水を得る場合や、あるいは工場や家庭、下水処理場から排出される排水中の懸濁物や溶存物を分離して再利用を図る浄化設備等の分野において、広く用いられている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したような膜分離装置においては、工業用水や上水などに凝集剤を添加して、凝集・沈殿・濾過等の固液分離処理を施して得られる分離水を原水として処理を行うが、これらの原水にはマンガンが含まれている。一般に自然界の水中に残存するマンガンは溶解性マンガンとなっており、透過膜は、原水中の濁質を始めとする懸濁性物質やコロイド状物質のほとんどを除去できるが、溶解性マンガンは特別に強い酸化力で析出させなければ溶解性のままであり、透過膜では除去できない。このため塩素系酸化剤では、場合によってはNaClOを800ppm以上も注入しなければならない上にそれでも十分にマンガンを除去できるとはいえず実用性に欠けるという問題点があった。
【0004】
一方、マンガンは過マンガン酸カリウムのように強力な酸化力を持った酸化剤と反応させれば酸化析出し膜濾過により除去できるが、過マンガン酸カリウムを溶解性マンガンの析出に対し必要量注入すると、色度など処理水の水質を悪化させるという欠点がある。逆に必要量以下の注入量であるとマンガンの全量を酸化析出させることができず、さらに原水中にはマンガン以外に鉄や有機物などの被酸化物を含むことが多く、これらの被酸化物はマンガンより酸化されやすくかつ含有量が時間変動することがあるので、過マンガン酸カリウムを用いる場合には過剰注入にならないような注入量のコントロ−ルが難しいという問題がある。
【0005】
そこで、このような問題点を解決するものとして特開平7−214075号公報には、塩素系酸化剤と過マンガン酸カリウムを原水中に注入してマンガンを析出させ、精密濾過膜もしくは限外濾過膜で濾過する溶解性マンガン含有水中のマンガンの濾過方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、この方法は塩素系酸化剤と過マンガン酸カリウムの両方を併用するものであるため、薬剤使用量が多くならざるをえない。もし、必要最小量の薬剤添加量で溶解性マンガンを除去することができれば経済的にも環境負荷的にも好ましい。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、少ない薬剤使用量で溶解性マンガンを除去することの可能な溶解性マンガン含有水中からマンガンを膜分離する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1に本発明は、溶解性マンガンを含有する原水に塩素系酸化剤を添加して分離膜により膜濾過を行い、前記溶解性マンガンの一部を酸化マンガンとして前記分離膜表面に析出させ、この処理水及び濃縮水を循環させることにより、前記酸化マンガンとの接触反応により残存する溶解性マンガンを析出・除去する溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法を提供する(請求項1)。これにより塩素系酸化剤により原水中の溶解性マンガンを全て酸化させない状態で濾過膜に通すと膜表面に一部がマンガン酸化物として析出し、そしてこの処理水及び濃縮水を循環させると膜表面に析出したマンガン酸化物と、残存する溶解性マンガンとの接触酸化作用により溶解性マンガンが析出し、これにより塩素系酸化剤等の酸化剤の添加量が少なくても溶解性マンガンを高い除去率で除去することができる。
【0009】
また、第2に本発明は、前記塩素系酸化剤の添加量が50〜150mg/Lである溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法を提供する(請求項2)。これにより従来は最高800mg/Lの添加が必要とされた塩素系酸化剤の添加量を大幅に減少することができる。
【0010】
第3に本発明は、前記処理水及び濃縮水の循環時間が3時間以上である溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法を提供する(請求項3)。3時間以上処理水及び濃縮水を循環させることで、前述した膜表面に析出したマンガン酸化物と、残存する溶解性マンガンとの接触酸化作用による溶解性マンガンの析出・除去効率を十分に高めることができる。
【0011】
さらに、第4に本発明は、前記塩素系酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムである溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法を提供する(請求項4)。
【発明の効果】
【0012】
本発明の溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法によれば、溶解性マンガンを不完全にしか酸化できない程度の少ない酸化剤の添加量で膜濾過により溶解性マンガンを除去することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法の一実施形態について添付図面を参照して詳細に説明する。図1は本実施形態の膜分離方法を示す概略図であり、精密濾過膜や限外濾過膜などの分離膜による膜処理装置によりイオン状マンガンを含む原水を処理する方法を示す。まず、図1(a)に示すように原水に次亜塩素酸ソーダ(NaClO)などの塩素系酸化剤を添加し膜分離装置により濾過を行う。前記塩素系酸化剤の添加量は特に制限はないが50〜150mg/Lであり、従来溶解性マンガンの除去には500mg/L程度添加していたことと比較して大幅に少ない量でよい。このとき濃縮水を原水に戻すとともに処理水も原水に戻して循環させる(循環工程)。
【0014】
この循環時間は、処理対象となる原水中の溶解性マンガンの濃度によっても変動するが、後述する通水工程での処理水のマンガン濃度を十分に低いものとするには3時間以上循環させるのが好ましい。一方、循環時間の上限については長い方が通水工程での処理水のマンガン濃度が低減するが6時間を超えても顕著な低減効果が得られないばかりか処理効率が低下することから3〜6時間とすればよく、特に約5時間とすればよい。
【0015】
この循環工程により、まず、塩素系酸化物により溶解性マンガンの一部が酸化されて二酸化マンガンとして膜表面に付着し、これに続く循環工程において、溶存マンガンは残留塩素さえあれば、この二酸化マンガンを触媒としてさらに析出し成長する。
【0016】
次に図1(b)に示すように濃縮水は原水に戻す一方、処理水はそのまま通水させる(通水工程)。これにより、膜表面に析出し成長した二酸化マンガンとの接触酸化作用によりさらに溶存酸素を除去しつつ、膜濾過を行うことにより溶解性マンガンを除去することができる。
【実施例】
【0017】
以下の具体的実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
〔実施例1〕
溶解性マンガン濃度が1.5mg/Lの原水に塩素系酸化剤として次亜塩素酸ソーダ(NaClO)90ppmを添加し、pH8.7に調節し30分滞留させた後精密濾過膜により濾過したところ、処理水のマンガン濃度は0.45mg/Lであり約70%を除去できた。そこで、この処理水を濃縮水とともにさらに所定時間循環させた後の処理水のマンガン濃度を測定した。結果を図2に示す。
【0018】
図2から明らかなとおり、次亜塩素酸ソーダ90ppm添加の条件下であっても循環時間とともに処理水中のマンガン濃度が低下していき約5時間の循環でほとんどマンガンを除去できたことがわかる。さらに循環させない場合の0.45mg/Lと比較して3時間の循環の処理水のマンガン濃度は約0.10mg/Lであり、塩素系酸化剤を加えて循環させない時と比べて75%以上マンガンを除去できていることがわかる。
【0019】
さらに通常は、溶解性マンガン濃度が1.5mg/Lでは次亜塩素酸ソーダは、約700ppm添加していることから次亜塩素酸ソーダの添加量は大幅に少なくて済むこともわかった。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の溶解性マンガンを除去する膜分離方法によれば、少ない塩素系酸化剤の添加量でも濾過膜により従来は除去の困難であった溶解性マンガンを除去できるので、マンガンを含有する有機排水などの処理に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の膜分離方法の一実施形態による工程を示す概略図である。
【図2】実施例1における循環時間と処理水マンガン濃度とを示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解性マンガンを含有する原水に塩素系酸化剤を添加して分離膜により膜濾過を行い、前記溶解性マンガンの一部を酸化マンガンとして前記分離膜表面に析出させ、この処理水及び濃縮水を循環させることにより、前記酸化マンガンとの接触反応により残存する溶解性マンガンを析出・除去することを特徴とする溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法。
【請求項2】
前記塩素系酸化剤の添加量が50〜150mg/Lであることを特徴とする請求項1記載の溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法。
【請求項3】
前記処理水及び濃縮水の循環時間が3時間以上であることを特徴とする請求項1又は2記載の溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法。
【請求項4】
前記塩素系酸化剤が次亜塩素酸ナトリウムであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の溶解性マンガン含有水中のマンガンの膜分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−255671(P2006−255671A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80512(P2005−80512)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】