説明

溶銑の脱硫方法

【課題】機械撹拌式溶銑脱硫装置を用いて溶銑の脱硫を行うに際し、脱硫速度を高め、生産性向上につなげる。
【解決手段】溶銑鍋1が待機中に、溶銑鍋1に保持された溶銑8に、脱硫スラグ9をホッパ10から投入シュート6を介して上置き添加して、予め脱硫スラグの昇温処理を行う。その後、予め脱硫スラグ9の昇温処理を施された溶銑8に、回転シャフト4に取り付けられたインペラ羽根3を浸漬して回転させることで、溶銑8の機械撹拌を開始し、しかる後、溶銑8に、石灰11を上吹きランス7を介して搬送ガスとともに上吹き添加して脱硫処理を行う。なお、溶銑に、石灰を上吹き添加して脱硫処理を行うのに替えて、石灰を上吹きと上置きの両方の方法で添加して脱硫処理を行うようにしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械撹拌式溶銑脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法に関し、特に脱硫処理の生産性向上を図ろうとするものである。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑には鋼の品質に悪影響を及ぼす燐(P)や硫黄(S)等の不純物が高い濃度で含まれているため、これらを除去する必要がある。今日の精錬プロセスでは、転炉での脱炭精錬に先立って、溶銑に含まれるPやSを除去するための処理、すなわち溶銑の予備処理が一般的に行われている。
このうち、溶銑の脱硫処理においては、溶銑鍋に溶銑を保持し、脱硫剤を溶銑上に添加し、羽根を有するインペラと称する回転子を溶銑内に浸漬して回転させ、溶銑を撹拌することにより脱硫反応を促進する方法(機械撹拌式溶銑脱硫法)が知られている。このとき使用する脱硫剤としては、石灰(CaO)粉を主成分とする脱硫剤やカルシウムカーバイド(CaC2)などが挙げられるが、処理コストの面からCaO粉を主成分とする脱硫剤が多く用いられてきた。
【0003】
このCaOによる脱硫反応は一般的に次式で表される。
〔S〕+CaO=(CaS)+〔O〕
ここで、〔S〕は溶銑中の硫黄、(CaS)はスラグ中のCaS、〔O〕は溶銑中の酸素を示す。
機械撹拌式溶銑脱硫法において、脱硫剤の溶銑内での分散と脱硫反応の促進を実現する方法の一つとして、例えば、特許文献1には、溶銑鍋に収納した溶銑に脱硫剤を添加し、インペラで回転撹拌し、かつ撹拌流を鍋内壁面もしくは鍋内壁面近傍に設けた整流体に衝突させ、鍋内壁面を下降しかつ鍋中心部に回流する溶銑流に脱硫剤を巻き込んで脱硫する溶銑の脱硫方法が記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、インペラによる回転撹拌力が非常に強いため、整流体として強靱な材質のものを用い、鍋内壁に強固に設置する必要がある。そのため、整流体の製作、メンテナンスに多くの労力、費用を要する不利がある。
また、特許文献2には、脱硫剤を分割して添加するものとし、脱硫剤の一部を溶銑浴面上に上置き添加し、残りを撹拌羽根によって撹拌されている溶銑浴面上に上吹きランスを介して搬送ガスとともに上吹き添加する溶銑の脱硫方法が記載されている。特許文献2に記載された技術によれば、フッ素を使用しない脱硫剤を用いても脱硫反応を促進することができるとしている。
【0005】
なお、特許文献2に記載された技術では、脱硫反応の促進のために溶銑浴面上に上置き添加する脱硫剤は製銑工程で副次的に生成する石灰(CaO)含有物質、または機械撹拌式溶銑脱硫処理で生成した脱硫スラグ(再利用脱硫スラグ)とすることが好ましいとしている。この技術によれば、再利用脱硫スラグを投入時、及び、撹拌開始時に、粒状のスラグが一部分断され、脈石分が微細な状態で溶銑に混入して、上吹き添加された微細なCaO粒が浴中で再利用脱硫スラグからの脈石分と結びつき、CaO粒の一部が脈石粒に溶融し、これにより、CaO粒の周囲に比較的脱硫能の高位な溶融スラグ相が形成され、脱硫反応が促進するとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭51−112416号公報
【特許文献2】特開2009−79261号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、上置き添加する再利用脱硫スラグと、上吹き添加する石灰(CaO)含有物質とを分割して添加しているが、いずれも攪拌開始後に添加するため、再利用脱硫スラグの温度が十分に上昇しないうちにCaO粒と混合攪拌する結果、分断された粒状のスラグが微細な状態で溶銑に混入する効果が比較的少なく、十分に脱硫反応が進行しない場合があり、さらなる脱硫反応の促進と生産性向上が求められていた。
【0008】
本発明は、従来技術のこのような問題を解決するためになされたものであり、機械撹拌式溶銑脱硫装置を用いて溶銑の脱硫を行うに際し、脱硫速度を高め、さらなる生産性向上が可能となる溶銑の脱硫方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは、上記した課題を解決するため、溶銑鍋に保持した溶銑の脱硫処理状況を鋭意観察した。その結果、ある一つの溶銑鍋で内部の溶銑を撹拌して脱硫処理を行っている最中に、次に脱硫すべき溶銑鍋が待機位置に来る場合が数多くあり、待機時間を脱硫速度向上に利用することに思い至った。
発明者らは、この待機時間中に、予め、CaO系再利用脱硫スラグ(脱硫スラグ)を上置き添加しておくようにすることで、攪拌処理前に脱硫スラグの温度が上昇することにより攪拌時の脱硫スラグの微細化を助け、実質的に反応速度の向上、さらには生産性向上につなげられることに想到し、本発明をなすに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の通りである。
(1)溶銑鍋に保持した溶銑に石灰と脱硫スラグとを添加して脱硫処理を行う溶銑の脱硫方法において、
前記溶銑鍋が待機中に、該溶銑鍋の溶銑に、前記脱硫スラグを上置き添加して、予め前記脱硫スラグの昇温処理を行った後、前記溶銑の機械撹拌を開始し、しかる後、前記溶銑に、前記石灰を上吹き添加して脱硫処理を行うことを特徴とする溶銑の脱硫方法。
(2)前記溶銑に、前記石灰を上吹き添加して脱硫処理を行うのに替えて、前記石灰を上吹きと上置きの両方の方法で添加して脱硫処理を行うことを特徴とする(1)に記載の溶銑の脱硫方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、機械撹拌式溶銑脱硫装置を用いて溶銑の脱硫を行うに際し、脱硫速度を高め、さらなる生産性向上が可能となり、産業上格段の効果を奏する。さらに、再利用脱硫スラグの比率を向上させ、脱硫剤の原単位を低減できるという効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の溶銑の脱硫方法の一例を模式的に示す説明図である。
【図2】本発明の他の溶銑の脱硫方法の例を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明では、溶銑鍋に保持した溶銑に、脱硫スラグ、石灰を添加して溶銑の脱硫処理を行う。本発明では、図1に示すように、溶銑鍋1が待機中に、溶銑鍋1に保持された溶銑8に、脱硫スラグ9をホッパ10から投入シュート6を介して上置き添加して、予め脱硫スラグの昇温処理を行う。その後、予め脱硫スラグ9の昇温処理を施された溶銑8に、回転シャフト4に取り付けられたインペラ羽根3を浸漬して回転させることで、溶銑8の機械撹拌を開始し、しかる後、溶銑8に、石灰11を上吹きランス7を介して搬送ガスとともに上吹き添加して脱硫処理を行う。
【0014】
これにより、待機時間中に、脱硫スラグ9が昇温すると攪拌時の脱硫スラグの微細化が助けられるので、脱硫の生産性向上につなげることができる。また、待機時間中の溶銑に、脱硫スラグ9を上置き添加することで、機械撹拌時までに予備脱硫される効果もあると考えられる。
上置き添加する脱硫スラグ9は、CaO/SiO2が質量比で2以上、CaO含有量が40質量%以上、Al2O3含有量が10質量%以下、S含有量が5.0質量%以下であるのが好ましい。また、上吹き添加する石灰11は、CaOを50質量%以上含有するものが好ましい。なお、その他の成分として必要に応じてAl2O3、MgOなどの滓化促進剤を含有してもよいことは言うまでもない。
【0015】
上置き添加する脱硫スラグ9は、単位溶銑質量あたり、CaO換算で2.0kg/t以上とすると脱硫速度の向上がはっきりと認められるため好ましい。上限は特に限定しないが、3.5kg/tを超えて添加しても脱硫速度向上の効果が飽和するため、3.5kg/t以下とするのが好ましい。
また、脱硫スラグ9の粒径は、10mm篩下とするのが好ましい。さらに、上吹き添加する石灰11の粒径は、1mm篩下とするのが好ましい。
【0016】
待機時間中に行った脱硫スラグ9の昇温処理を施された溶銑8を、機械撹拌するとともに、溶銑8に上吹きランス7から石灰11を上吹き添加する。なお、上吹きランス7は溶銑中に浸漬させなくてもさせてもよい。
上吹き添加する石灰11は、上置き添加する脱硫スラグ9との合計で、単位溶銑質量あたり、CaO換算で5.0kg/t以上とすると脱硫速度の向上がはっきりと認められるため好ましい。上限は特に限定しないが、12.0kg/tを超えて添加しても脱硫速度向上の効果が飽和するため、12.0kg/t以下とするのが好ましい。
【0017】
上吹きランス7から石灰11を上吹き添加する際に使用する搬送ガスは、不活性ガス、非酸化性ガスおよび還元性ガスのいずれか一種類以上とすることができ、Nガスなどが使用できる。しかし、酸化性ガスは溶銑中の酸素ポテンシャルを上昇させ、脱硫に不利になるため適当でない。但し、溶銑中の酸素ポテンシャルの上昇が許容限度以下であれば、不活性ガス、非酸化性ガスおよび還元性ガスに微量に含まれていてもよい。
【0018】
なお、本発明では、溶銑に、石灰を上吹き添加して脱硫処理を行うのに替えて、石灰を上吹きと上置きの両方の方法で添加して脱硫処理を行うようにしてもよい。
図2では、脱硫剤投入設備として、石灰12を上置き添加するためのホッパ10と投入シュート6を追設している。すなわち、溶銑8に、回転シャフト4に取り付けられたインペラ羽根3を浸漬して回転させることで、溶銑8を機械撹拌し、溶銑8に石灰11を上吹きランス7を介して上吹き添加する方法に加え、溶銑8に石灰12をホッパ10から投入シュート6を介して上置き添加する。
【0019】
石灰11を上吹きランス7を介して上吹き添加する方法に加え、石灰12をホッパ10から投入シュート6を介して上置き添加することにより、生産性が向上する。
なお、上置き添加する石灰12の粒径は、10mm篩下とするのが好ましい。
石灰を上吹きと上置きの両方の方法で添加することにより、高炉から出銑される溶銑中のS含有量と、目標とする脱硫後のS含有量との差に応じて、CaOの添加量を多くすることができるため好ましい。
【0020】
上吹き添加する石灰11と上置き添加する石灰12は、上置き添加する脱硫スラグ9との合計で、単位溶銑質量あたり、CaO換算で5.0kg/t以上12.0kg/t以下とするのが好ましい。これも石灰を上吹き添加するだけの場合と同様の理由による。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
溶銑鍋1に、質量%で、C:4.2〜4.6%、Si:0.1〜0.4%、S:0.008〜0.013%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる、1250〜1350℃の溶銑275〜315tを用意し、脱硫スラグ9と石灰11の添加量をさまざまに変化させ、脱硫速度の変化について調査した。その際、脱硫スラグ9をホッパ10から投入シュート6を介して上置き添加してから10分経過後に機械撹拌を開始し、石灰11を上吹きランス7を介して上吹き添加した。ここで、脱硫剤である脱硫スラグ9と石灰11の合計が、単位溶銑質量あたりCaO換算で6.8kg/tとなるように調整した。また、上記10分は実際操業での待機時間を模したものである。実際は待機時間は1〜40分の範囲で変動しうるが、本発明の適用に際しては、10分以上の待機時間があった場合がより効果的である。しかしながら、待機時間を10分未満とすることを妨げるものではない。
【0022】
機械撹拌する際の撹拌時間Tは、
T(分)=脱硫剤の合計添加量(CaO換算)/400+13・・・(1)
とした。なお、実際は、高炉から出銑される溶銑中のSは質量%で0.008〜0.100%の範囲で変動するため、目標とする脱硫後のS含有量との差に応じてCaOの合計添加量を多くして撹拌時間も長くすればよい。
【0023】
上吹きランス7はノズル径が80mmのものを用い、ノズル先端の溶銑表面からの高さを1000mmとして、Nとともに石灰11を吹き込むようにした。溶銑鍋1は満たす溶銑の重量にして300tonの容量のものを用い、4枚羽根のインペラを用いて撹拌した。結果を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
表1中、脱硫速度Vは、
V(1/分)=ln(脱硫前〔S〕/脱硫後〔S〕)÷T(分)・・・(2)
として計算した。
表1から、脱硫スラグ9を上置き添加しなかったケースNo.1や、脱硫スラグ9と石灰11を同時に添加したケースNo.2に比べ、予め、脱硫スラグ9を上置き添加したケースNo.3〜6では、脱硫速度が向上していることがわかる。
【0026】
(実施例2)
溶銑鍋1に、質量%で、C:4.2〜4.6%、Si:0.1〜0.4%、S:0.016〜0.034%を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる、1250〜1350℃の溶銑275〜315tを用意し、脱硫スラグ9をCaOに換算して3.1〜3.3kg/tの範囲で上置き添加した後、上吹き添加する石灰11と、上置き添加する石灰12の添加量をさまざまに変えて脱硫速度を測定した。その際、脱硫剤である脱硫スラグ9と上吹き添加する石灰11と上置き添加する石灰12の合計は、目標とする脱硫後のS含有量との差に応じてCaOの合計添加量を多くして撹拌時間も長くし、その他の条件は上記実施例1と同じにした。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
表2から、予め、脱硫スラグ9を上置き添加しなかったNo.7〜9に比べ、予め、脱硫スラグ9を上置き添加したNo.10〜17では、脱硫速度が向上していることがわかる。
脱硫前の溶銑中のS含有量が比較的多い場合には、前述の様にCaOの合計添加必要量が多くなるが、投入する石灰の一部を石灰12として上置き添加することにより、石灰11の上吹き投入時間の増加による脱硫時間の増加無しに、脱硫することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 容器(溶銑鍋)
3 インペラ羽根
4 回転シャフト
6 投入シュート
7 上吹きランス
8 溶銑
9 CaO系再利用脱硫スラグ(脱硫スラグ)
10 ホッパ
11 上吹き添加する石灰
12 上置き添加する石灰

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶銑鍋に保持した溶銑に石灰と脱硫スラグとを添加して脱硫処理を行う溶銑の脱硫方法において、
前記溶銑鍋が待機中に、該溶銑鍋の溶銑に、前記脱硫スラグを上置き添加して、予め前記脱硫スラグの昇温処理を行った後、前記溶銑の機械撹拌を開始し、しかる後、前記溶銑に、前記石灰を上吹き添加して脱硫処理を行うことを特徴とする溶銑の脱硫方法。
【請求項2】
前記溶銑に、前記石灰を上吹き添加して脱硫処理を行うのに替えて、前記石灰を上吹きと上置きの両方の方法で添加して脱硫処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の溶銑の脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−43994(P2013−43994A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180089(P2011−180089)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】