説明

溶銑の脱硫方法

【課題】 機械攪拌式脱硫装置で攪拌されている溶銑に脱硫剤を搬送用ガスとともに上吹き添加して溶銑を脱硫するにあたり、反応性に優れる細粒の脱硫剤の飛散を抑制して、少ない脱硫剤使用量で効率良く溶銑を脱硫する。
【解決手段】 機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑3の脱硫方法において、インペラー4によって攪拌されている溶銑の浴面上に、軸心が鉛直方向を向き且つ鉛直方向に移動可能に配置された上吹きランス5であって、その先端の面が水平面に対して前記インペラー側に向いて傾斜している上吹きランスを介して搬送用ガスとともに粉状のCaO系脱硫剤を上吹き添加して脱硫処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械攪拌式脱硫装置で攪拌されている溶銑に脱硫剤を搬送用ガスとともに上吹き添加して溶銑を脱硫する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高炉から出銑された溶銑には、鋼の品質に悪影響を及ぼす硫黄(元素記号:S)が高濃度に含有されており、この溶銑を主原料として溶製される鋼中の硫黄含有量を低減させることを目的として、脱硫反応効率の高い溶銑段階で脱硫処理が施されている。この脱硫処理は、Arガスなどの不活性ガスとともに脱硫剤を溶銑中に吹き込んで行う脱硫剤吹き込み法、予め溶銑浴面上に脱硫剤を添加しておき、溶銑中にArガスなどの不活性ガスを吹き込んで溶銑と脱硫剤とを攪拌して行うガス吹き込み攪拌法、或いは、インペラー(「攪拌羽根」、「攪拌翼」とも呼ぶ)と称する、羽根を有する回転子を溶銑内に浸漬して回転させ、この回転によって溶銑及び脱硫剤を攪拌する機械攪拌式脱硫装置を用いて脱硫する機械攪拌式脱硫法が一般的であり、特に、安価なCaO系の脱硫剤を使用した場合でも高い脱硫効率が得られることから、近年では、機械攪拌式脱硫法が主流になっている。
【0003】
CaO系脱硫剤を用いた機械攪拌式脱硫法において、脱硫反応効率を向上させるためには、反応界面積を増大させることが効果的であり、従って、添加する脱硫剤の粒径を細粒化すると脱硫反応効率は向上する。しかし、シュートなどを用いて溶銑浴面に脱硫剤を上置き添加する方法では、脱硫剤を細粒化すると、飛散する脱硫剤や上昇気流によって舞い上がる脱硫剤が多くなり、溶銑表面に到達する脱硫剤の量が減少して効率的な脱硫処理ができない。
【0004】
そこで、この問題を解決することを目的として、特許文献1には、インペラーによって攪拌されている溶銑の浴面上に、多重管構造である上吹きランスの先端部から搬送用ガスとともに脱硫剤を上吹き添加するとともに、脱硫剤を上吹きする部位の外周に設けた前記上吹きランス先端部の部位から、還元性ガス、不活性ガス、非酸化性ガスの内の何れか1種または2種以上のガスを溶銑浴面に向けて同時に吹き付けて溶銑を脱硫する方法が提案されている。
【0005】
特許文献1では、脱硫剤の吹き付け部位よりも外周の上吹きランス先端の部位からガスを溶銑浴面に向けて吹き付けるので、このガスによるガスカーテン効果によって、内側から吹き付けられる反応性に優れた細粒脱硫剤の飛散が抑制され、脱硫剤の添加歩留まりが向上して脱硫反応が促進され、少ない脱硫剤で所望する脱硫処理が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−117015号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1によって溶銑の脱硫処理は効率化され、機械攪拌式脱硫法における生産性が大幅に向上した。しかしながら、特許文献1は、多重管構造である上吹きランスを使用しており、多重管構造の上吹きランスは製作費が高価であるという欠点があり、また、多重管構造であることから上吹きランスの自重が増加し、上吹きランスを支持する装置も負荷荷重の大きな設備が必要となり、設備コストが高くなるという問題点がある。更に、脱硫剤の外周に吹き込むための還元性ガス、不活性ガス、非酸化性ガスの何れかが必要であり、運転コストも上昇するという問題点がある。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、機械攪拌式脱硫装置で攪拌されている溶銑に脱硫剤を搬送用ガスとともに上吹き添加して溶銑を脱硫するにあたり、脱硫剤の外周に吹き込むガスによるガスカーテンを形成しなくても、つまり、上吹きランスが単管構造であっても、反応性に優れる細粒の脱硫剤の飛散を抑制することができ、少ない脱硫剤使用量で効率良く溶銑を脱硫することのできる、溶銑の脱硫方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、インペラーによって攪拌されている溶銑の浴面上に、軸心が鉛直方向を向き且つ鉛直方向に移動可能に配置された上吹きランスであって、その先端の面が水平面に対して前記インペラー側に向いて傾斜している上吹きランスを介して搬送用ガスとともに粉状のCaO系脱硫剤を上吹き添加して脱硫処理することを特徴とする、溶銑の脱硫方法。
[2]前記上吹きランスは単管構造であり、且つ、前記上吹きランスの先端の面は、水平面に対して20〜70°の範囲で傾斜していることを特徴とする、上記[1]に記載の溶銑の脱硫方法。
[3]前記CaO系脱硫剤は、粒径が0.065〜0.800mmの生石灰であることを特徴とする、上記[1]または上記[2]に記載の溶銑の脱硫方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、先端の面が水平面に対してインペラー側に向いて傾斜している上吹きランスを介して粉状のCaO系脱硫剤を搬送用ガスとともに溶銑浴面に吹き付けるので、粉状脱硫剤は溶銑を収容する処理容器の中心側に向いて噴出され、処理容器と該処理容器の上方に配置される昇降式集塵フードとの隙間から飛散する脱硫剤が減少し、少ない脱硫剤の使用量で効率良く溶銑を脱硫することが実現される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】機械攪拌式脱硫装置を用いて本発明に係る溶銑の脱硫処理を実施している状態を示す側面概略図である。
【図2】本発明で使用する上吹きランスの先端部の構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明を具体的に説明する。
【0013】
図1は、機械攪拌式脱硫装置を用いて本発明に係る溶銑の脱硫処理を実施している状態を示す側面概略図であり、図1は、溶銑を収容する処理容器として取鍋型の溶銑鍋2を使用した例を示している。処理容器の形状については、機械攪拌式脱硫装置で脱硫処理を行うことから、図1に示すように取鍋型の処理容器が最適であり、以下、処理容器として溶銑鍋2を使用した例で説明する。
【0014】
高炉から出銑された溶銑3を台車1に搭載された溶銑鍋2或いは混銑車で受銑し、受銑した溶銑3を機械攪拌式脱硫装置に搬送する。混銑車で受銑した場合には、脱硫処理に先立ち、取鍋型の処理容器に移し替える。本発明による脱硫処理の対象となる溶銑3は、どのような成分であっても構わず、例えば、予め脱珪処理や脱燐処理が施されていてもよい。脱珪処理とは、脱燐処理を効率良く行うために脱燐処理に先立ち、溶銑3に酸素ガスや鉄鉱石などの酸素源を添加して主に溶銑中の珪素を酸化・除去する処理である。
【0015】
機械攪拌式脱硫装置は、溶銑鍋2に収容された溶銑3に浸漬・埋没し、旋回して溶銑3を攪拌するための耐火物製のインペラー4を備えており、このインペラー4は、昇降装置(図示せず)によってほぼ鉛直方向に昇降し、且つ、回転装置(図示せず)によって軸4aを回転軸として旋回するようになっている。また、機械攪拌式脱硫装置には、粉状のCaO系脱硫剤を溶銑鍋内の溶銑3に向けて搬送用ガスとともに上吹きして添加するための上吹きランス5が設置されている。更に、溶銑鍋2の上方位置には、集塵機(図示せず)に接続する排気ダクト7と接続する昇降式集塵フード6が備えられ、脱硫処理中に発生するガスやダストが昇降式集塵フード6を介して集塵されるようになっている。軸4a及び上吹きランス5は昇降式集塵フード6を貫通して配置されている。
【0016】
上吹きランス5は、その軸心(長手方向中心軸)がほぼ鉛直方向を向いて配置され、昇降装置(図示せず)によってほぼ鉛直方向に昇降するように構成されている。この上吹きランス5は粉体供給管8と連結し、一方、粉体供給管8の経路の途中にはディスペンサー9が設置されている。つまり、ディスペンサー9に搬送用ガスを導入することにより、ディスペンサー9に収容された粉状のCaO系脱硫剤が、ディスペンサー内に導入された搬送用ガスとともに粉体供給管8及び上吹きランス5を順に通り、上吹きランス5の先端から溶銑3の浴面に向けて噴出するように構成されている。
【0017】
粉体供給管8はディスペンサー9を経由せずに上吹きランス5に直接接続する供給管8aに分岐しており、粉体供給管8に設置された遮断弁10及び供給管8aに設置された遮断弁11を切り替えることにより、搬送用ガスのみを上吹きランス5に供給することも可能になっている。また、図1では、搬送用ガスとして窒素ガスを使用した例を示しているが、搬送用ガスとしては非酸化性ガス或いは還元性ガスであれば何れのガス種であっても構わず、Arガスなどの希ガスも搬送用ガスとして使用可能である。溶銑3の脱硫反応は還元反応であるので、酸化性ガスは搬送用ガスとして使用することができない。
【0018】
本発明で使用する上吹きランス5の先端部の構造を図2に示す。上吹きランス5はステンレス鋼鋼管からなる単管構造であり、その先端の面5aが水平面に対して角度θで傾斜している。具体的には、角度θで先端部が切断されたステンレス鋼鋼管を上吹きランス5として使用する。角度θは20〜70°の範囲とすることが好ましい。そして、この面5aがインペラー4の方向、つまり、処理容器(溶銑鍋2)の中心を向くように、上吹きランス5が配置されている。尚、本発明において、上吹きランス5を単管構造にすることは必須条件ではなく、内部水冷型の3重管構造、或いは、特許文献1に提案されるような多重管構造(2重管構造または4重管構造)としても構わない。但し、単管構造は極めて安価であり、製造コストの低減に寄与する。
【0019】
先端の面5aが水平面に対して傾斜していない上吹きランスの場合には、上吹きランスからのガス噴流はほぼ鉛直方向に噴出されるが、先端の面5aが水平面に対して傾斜し、且つ、先端の面5aがインペラー4の方向を向いている場合には、上吹きランス5からのガス噴流は、図1に示すようにインペラー4の方向に傾斜して噴出される。即ち、本発明に係る溶銑3の脱硫処理においては、粉状のCaO系脱硫剤が、上吹きランス5からインペラー4の方向を向いて噴出されるように構成されている。角度θが20°未満では、噴流の傾斜角度が小さく、インペラー4の方向を向いて噴出される脱硫剤が少なく、一方、角度θが70°を超えると、上吹きランス5から噴出する噴流の幅が広がることから噴流の流速が低下し、溶銑3への衝突速度が低下して脱硫反応が阻害される。
【0020】
機械攪拌式脱硫装置には、金属AlやAlドロス(JIS G 2402を参照)などの脱酸剤を溶銑3の浴面上に添加するためのホッパーやシュートが更に配置されるが、図1では省略している。
【0021】
このように構成される機械攪拌式脱硫装置において、インペラー4の位置が溶銑鍋2のほぼ中心になるように、溶銑鍋2を搭載した台車1の位置を調整し、次いで、インペラー4を下降させて溶銑3に浸漬させる。インペラー4が溶銑3に浸漬したならば、インペラー4の旋回を開始し、所定の回転数まで昇速する。インペラー4の回転数が所定の回転数に達したならば、ディスペーサー9を経由させて窒素ガスの吹き込みを開始し、ディスペーサー9に収容された粉状のCaO系脱硫剤を、窒素ガスとともに溶銑3の浴面に向けて吹き付けて添加する。このCaO系脱硫剤の上吹き添加と並行して、または、上吹き添加の前後に、若しくは脱硫処理期間の全期間に、脱硫反応を促進させるために、前述した脱酸剤を溶銑鍋内に供給することが好ましい。
【0022】
所定量の脱硫剤を添加完了し、且つ、所定時間の攪拌が行われたなら、インペラー4の回転数を減少させ停止させる。インペラー4の旋回が停止したなら、インペラー4、上吹きランス5及び昇降式集塵フード6を上昇させ、これらを溶銑鍋2の上方に待機させる。生成したスラグが浮上して溶銑表面を覆い、静止した状態で溶銑3の脱硫処理が終了する。脱硫処理後、生成したスラグを溶銑鍋2から排出し、次の精錬工程に溶銑3を収容した溶銑鍋2を搬送する。
【0023】
CaO系脱硫剤としては、生石灰(CaO)、ドロマイト(MgCO3・CaCO3)、消石灰(Ca(OH)2)、石灰石(CaCO3)、及びこれらの混合物などを使用することができる。また、環境対策や発生するスラグの再利用が容易であることから、蛍石などのフッ素源を併用せずに、CaO系脱硫剤のみを使用することが好ましい。本発明では、CaO系脱硫剤を上吹き添加するので、CaO系脱硫剤は強制的に溶銑3に巻き込まれ、フッ素源を使用しなくても十分に脱硫することができる。但し、フッ素が不純物成分として不可避的に混入した物質については使用しても構わない。
【0024】
使用するCaO系脱硫剤のサイズは、用いる上吹きランス5や溶銑鍋2の寸法などに応じて最適な粒度を選択することができるが、反応界面積を増加させ且つ飛散ロスを少なくする観点から、粒径が0.065〜0.800mmのCaO系脱硫剤を用いることが好ましい。特に好ましくは、粒径が0.065〜0.800mmの生石灰を使用することである。
【0025】
このようにして溶銑3に対して脱硫処理を施すことで、粉状のCaO系脱硫剤は溶銑3を収容する溶銑鍋2の中心側に向いて噴出され、溶銑鍋2と該溶銑鍋2の上方に配置される昇降式集塵フード6との隙間から飛散する脱硫剤が減少し、少ない脱硫剤の使用量で効率良く溶銑3を脱硫することが実現される。
【実施例】
【0026】
溶銑容量が250トンの溶銑鍋に収容された溶銑に対して、図1に示す機械攪拌式脱硫装置を用いて本発明に係る溶銑脱硫を適用した。上吹きランスとしては単管のステンレス鋼鋼管を用い、角度θが45°となるように先端部を切断したものを使用した。インペラーの回転数は1分間あたり130回、脱硫剤の搬送用ガスは窒素ガス、脱硫剤は、粒径が0.065〜0.800mmの生石灰を使用した。
【0027】
脱硫処理中に、溶銑鍋と昇降式集塵フードとの間隙から流出する脱硫剤を集塵機で回収し、昇降式集塵フードを介して回収された脱硫剤との合計量を脱硫剤の飛散量とし、供給した脱硫剤に対する飛散量をダスト発生率(ダスト発生率(%)=飛散量×100/脱硫剤供給量)と定義し、このダスト発生率を調査した。
【0028】
本発明の脱硫処理においては月間のダスト発生量の平均値が21.6%であった。本発明を適用する以前のダスト発生量の月間平均値が27.3%であり、本発明を適用することにより、ダスト発生量が5.7%低減することが確認できた。発生したダストは脱硫剤としてリサイクル使用されることから、本発明の適用前後で、使用する脱硫剤の増減は無いが、ダスト発生量が低下することでダストの回収及びリサイクルに費やす費用が大幅に削減され、本発明を適用することで製造コストが大幅に削減される。
【符号の説明】
【0029】
1 台車
2 溶銑鍋
3 溶銑
4 インペラー
4a 軸
5 上吹きランス
6 昇降式集塵フード
7 排気ダクト
8 粉体供給管
9 ディスペンサー
10 遮断弁
11 遮断弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機械攪拌式脱硫装置を用いた溶銑の脱硫方法において、インペラーによって攪拌されている溶銑の浴面上に、軸心が鉛直方向を向き且つ鉛直方向に移動可能に配置された上吹きランスであって、その先端の面が水平面に対して前記インペラー側に向いて傾斜している上吹きランスを介して搬送用ガスとともに粉状のCaO系脱硫剤を上吹き添加して脱硫処理することを特徴とする、溶銑の脱硫方法。
【請求項2】
前記上吹きランスは単管構造であり、且つ、前記上吹きランスの先端の面は、水平面に対して20〜70°の範囲で傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載の溶銑の脱硫方法。
【請求項3】
前記CaO系脱硫剤は、粒径が0.065〜0.800mmの生石灰であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の溶銑の脱硫方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−95924(P2013−95924A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236609(P2011−236609)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】