説明

滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材、及びそれを用いた滅菌バッグ

【課題】滅菌バッグに収容した被滅菌物への転写及び退色の抑制材を提供する。
【解決手段】滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材15は、被滅菌物18を挿入する滅菌バッグ10の内壁を形成し、滅菌バッグ内に進入して被滅菌物を滅菌する高圧蒸気及びエチレンオキサイドガスを透過する被覆フィルム12cと、滅菌バッグの外壁を形成する基材フィルム12aとの間に積層され、基材フィルムの一面側に併設した水蒸気滅菌検知インジケータインキ層及びエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層16と、これらインキ層を覆い被覆フィルムに接着するラミネート層12bとから構成され、エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層に、退色を抑制する


のモノアゾ染料が含有され、モノアゾ染料の被滅菌物への転写を抑制するポリウレタンをラミネート層に含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療用機器等を高圧蒸気又はエチレンオキサイドガスで、滅菌処理したことを示す滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材及び前記抑制材が配設された滅菌バッグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
診療等に用いられる医療用機器等は、予め高圧蒸気又はエチレンオキサイドガスで滅菌処理を施して無菌状態で使用されるものが多い。かかる滅菌処理の際に、被滅菌物は、その取り扱いの便宜等を図るため、例えば下記特許文献1に記載されているように、袋状の滅菌バッグ内に収納される。また、この滅菌バッグに、高圧蒸気によって変色する水蒸気滅菌検知成分とエチレンオキサイドガスによって変色するエチレンオキサイドガス滅菌検知成分とが混在する滅菌インジケータが設けられている。このため、被滅菌物が高圧蒸気と接触して滅菌されたとき、滅菌インジケータの水蒸気滅菌検知成分が変色して滅菌処理されたことを示す。また、被滅菌物がエチレンオキサイドガスと接触して滅菌されたとき、滅菌インジケータのエチレンオキサイドガス滅菌検知成分が変色して滅菌処理されたことを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3161751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
かかる滅菌インジケータが取り付けられた滅菌バッグは、高圧蒸気とエチレンオキサイドガスとのいずれでも使用できる。しかし、この滅菌バッグを使用する際に、使用者は、予め水蒸気滅菌検知成分とエチレンオキサイドガス滅菌検知成分とによる変色の違いを熟知しておくことが必要である。本発明者は、使用者が水蒸気滅菌検知成分とエチレンオキサイドガス滅菌検知成分とによる変色の違いを熟知しなくても滅菌が施されたことを明確に判別できるように、高圧蒸気で変色する水蒸気滅菌検知インジケータとエチレンオキサイドガスで変色するエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータとを併設した滅菌バッグを検討した。しかし、本発明者の検討によれば、かかる滅菌バッグを用いて、高圧蒸気で滅菌処理した際に、被滅菌物へのエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータの色相の転写が認められることがあった。更に、エチレンオキサイドガスで滅菌処理して変色したエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータが蛍光灯の光によって短期間で退色することもあった。
【0005】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、水蒸気滅菌検知インジケータとエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータとを併設した滅菌バッグの色相の被滅菌物への転写を防止でき、且つエチレンオキサイドガスで変色したエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータの色調が蛍光灯の光で退色し難くできるように、滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材及びそれを用いた滅菌バッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材は、被滅菌物が挿入される滅菌バッグの内壁の少なくとも一部を形成し、前記滅菌バッグ内に進入して前記被滅菌物を滅菌する高圧蒸気及びエチレンオキサイドガスを透過する被覆フィルムと、前記滅菌バッグの外壁の少なくとも一部を形成する基材フィルムとの間に積層され、前記基材フィルムの一面側に併設され色調変化で検知可能な水蒸気滅菌検知インジケータインキ層及びエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層と、前記滅菌検知インジケータインキ層の各々を覆って前記被覆フィルムに接着するラミネート層とから構成される抑制材であって、前記滅菌バッグごと被滅菌物を前記エチレンオキサイドガスで滅菌処理したとき、前記エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層の前記色調変化の退色を抑制する下記化学式
【化1】

〔但し、X:原子団が付加されていない窒素原子を含むピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であって、電子供与性の置換基を有する。
Y:カップリング成分であって、水酸基、スルホ基、アミノ基及びフッ素原子含有基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する。〕
で示されるエチレンオキサイドガス変色性のモノアゾ染料が前記エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層に含有されており、且つ前記滅菌バッグごと被滅菌物を前記高圧蒸気で滅菌処理したとき、前記モノアゾ染料が前記ラミネート層から滲出して前記被滅菌物に転写されることを抑制するポリウレタンが前記ラミネート層に含まれていることを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載された滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材は、請求項1に記載されたものであって、前記モノアゾ染料の複素環式化合物残基が、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載された滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材は、請求項1又は請求項2に記載されたものであって、前記モノアゾ染料のカップリング成分の置換基が水酸基であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載された滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材は、請求項1〜3のいずれか一項に記載されたものであって、前記モノアゾ染料が、下記化学式
【化2】

〔式中、Xは、原子団が付加されていない窒素原子を含むピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であって、電子供与性の置換基を有する。R、Rは同一又は異なり主鎖炭素数が1〜4のアルキル基であって、且つ前記アルキル基の少なくとも一方が水酸基で置換されたものであり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアシルアミノ基である。〕で示されものであることを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載された滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材は、請求項1〜4のいずれか一項に記載されたものであって、前記モノアゾ染料中の電子供与性の置換基が、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基又はジメチルアミノ基であることを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載された滅菌バッグは、挿入された被滅菌物を滅菌する滅菌バッグであって、前記滅菌バッグの内壁の少なくとも一部を形成し、前記滅菌バッグ内に進入して前記被滅菌物を滅菌する高圧蒸気及びエチレンオキサイドガスを透過する被膜フィルムと、前記滅菌バッグの外壁の少なくとも一部を形成する基材フィルムとの間に、請求項1〜5のいずれか一項に記載の滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材が挟まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材が用いられた滅菌バッグによれば、滅菌バッグ内に収容した被滅菌物を高圧蒸気で滅菌処理したとき、エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層内のモノアゾ染料の色相が被滅菌物に転写されることを抑制できる。このため、高圧蒸気で滅菌処理を施した被滅菌物の外観を良好に保持できる。また、エチレンオキサイドガスで被滅菌物を滅菌処理したとき、エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層内で変色したアゾ染料の色調変化の退色を抑制でき、滅菌処理を施した滅菌バッグを長期間保存しても、被滅菌物の滅菌処理済みであることの確実な表示を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材を用いた滅菌バッグの一例を示す斜視図である。
【図2】図1に示す滅菌バッグに用いた滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材の部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0015】
本発明に係る滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材を用いた滅菌バッグの一例を図1に示す。図1に示す滅菌バッグ10は、シート状の滅菌インジケータ12と滅菌紙14とが周縁部で熱融着された袋状体である。滅菌インジケータ12には、その略中央部の開口部側にリング状に形成されたエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層16(以下、EOG滅菌検知インジケータインキ層16と称することがある)が形成され、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の下方側に水蒸気滅菌検知インジケータインキ層20(以下、AC滅菌検知インジケータインキ層20と称することがある)が形成されている。図1に示す滅菌バッグ10に用いた滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材を、図2に抑制材15として示す。抑制材15は、図2に示すように、滅菌バッグ10の外壁面を形成する基材フィルム12aと滅菌バッグ10の内壁面を形成する被覆フィルム12cとの間にAC滅菌検知インジケータインキ層20と併設されているEOG滅菌検知インジケータインキ層16と、基材フィルム12aと被覆フィルム12cとを接着すると共に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20とを覆って被覆フィルム12cに密着して両者を接着するラミネート層12bとから構成されている。
【0016】
抑制材15を構成するラミネート層12bに、ポリウレタンが含まれている。ポリウレタンは、ウレタン化ポリエーテル、ウレタン化ポリエステル及びウレタン化ポリエステルポリエーテルから選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。これらのポリウレタンは、耐熱性を有し、エチレンオキサイドガスを透過するドライラミネート材である。ポリウレタンは、ウレタン化ポリエステルが特に好ましい。かかるラミネート層12bは、ポリウレタンを主剤として、他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、シリコン樹脂を加えてもよい。
【0017】
かかるラミネート層12bで接着される基材フィルム12aは、厚さ5〜20μm、更に好ましくは8〜15μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを好適に用いることができる。
【0018】
また、被覆フィルム12cは、滅菌バッグ10内に進入した高圧蒸気及びエチレンオキサイドガスを透過するフィルムであればよく、例えば厚さ15〜100μm、更に好ましくは20〜40μmの透明な無延伸ポリプロピレンフィルムを用いることが好ましい。かかる厚さに調整することによって、エチレンオキサイドガスを透過させることができる。尚、被覆フィルム12cは、複数枚のフィルムを積層したものであってもよい。
【0019】
ラミネート層12bと密着して、抑制材15を構成するEOG滅菌検知インジケータインキ層16には、エチレンオキサイドガス変色性であって、エチレンオキサイドガスで変色した色調変化の退色を抑制する下記化学式
【化3】

で示されるエチレンオキサイドガス変色性のモノアゾ染料が含有されている。
【0020】
ここで、式中、Xは、原子団が付加されていない窒素原子を含むピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であって、電子供与性の置換基を有するものである。かかる複素環式化合物残基は、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基が好ましい。また、Yは、カップリング成分であって、水酸基、スルホ基、アミノ基及びフッ素原子含有基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するものである。
【0021】
かかるカップリング成分は、例えば、水酸基、スルホ基、アミノ基、フッ素原子含有基を含有するもので、芳香族アミン類、フェノール類、ナフトール類、アミノフェノール類、又はアミノナフトール類から誘導されて脱水素残基となった1価基である。このカップリング成分として好ましいものは、芳香族アミン類では、アミノベンゼン、ジメチルアミノベンゼン、ジエタノールアミノベンゼン、1−アミノ−2−メチルベンゼン、1−アミノ−3−メチルベンゼン、1−アミノ−2,5−ジメチルベンゼン、1−アミノ−2−メトキシ−5−メチルベンゼン、1,3−ジアミノベンゼン、1,3−ジアミノ−4−クロロベンゼン、1,3−ジアミノ−4−ニトロベンゼン、2,4−ジアミノベンゼンスルホン酸、4,6−ジアミノ−1,3−ベンゼンジスルホン酸等を挙げることができる。フェノール類では、フェノール、p−クレゾール、レゾルシン、1,3,5−ベンゼントリオール、サリチル酸、3−メチルサリチル酸等を挙げることができる。ナフトール類では、α−ナフトール、β−ナフトール、1,5−ナフタレンジオール、1−ヒドロキシ−3−ナフタレンスルホン酸、1−ヒドロキシ−4−ナフタレンスルホン酸、1−ヒドロキシ−5−ナフタレンスルホン酸、1−ヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸、2−ヒドロキシ−6,8−ナフタレンジスルホン酸、1,8−ジヒドロキシ−4−ナフタレンスルホン酸、1,8−ジヒドロキシ−3,6−ナフタレンジスルホン酸等を挙げることができる。アミノフェノール類では、1−アミノ−2−ヒドロキシベンゼン、1−アミノ−2−ヒドロキシ−5−メチルベンゼン、1−アミノ−2,5−ジヒドロキシベンゼンなどを挙げることができる。アミノナフトール類では、1−アミノ−3−ナフタレンスルホン酸、1−アミノ−2−ナフタレンスルホン酸、1−アニリド−7−ナフタレンスルホン酸、2−アミノ−3,6−ナフタレンジスルホン酸、2−アミノ−3−ナフタレンカルボン酸、1−ヒドロキシ−6−アミノ−3−ナフタレンスルホン酸、1−アミノ−8−ヒドロキシ−4−ナフタレンスルホン酸、1−アミノ−8−ヒドロキシ−2,4−ナフタレンジスルホン酸、1−アミノ−5−ヒドロキシ−7−ナフタレンスルホン酸、1−アミノ−2−エトキシ−6−ナフタレンスルホン酸、3−ヒドロキシ−2−ナフトアニリド等を挙げることができる。フッ素原子含有基を有するものは、前掲の化合物の側鎖にフッ素原子含有基、例えばパーフルオロアルキル基、パーシャルフルオロアルキル基、パーフルオロアルコキシ基、パーシャルフルオロアルコキシ基、パーフルオロアラルキル基、パーシャルフルオロアラルキル基を有するものを挙げることができる。また、前掲の化合物の芳香環の一部がフッ素原子で置換されているものであってもよい。尚、かかるカップリング成分の置換基は、水酸基が好ましい。
【0022】
本発明で用いるモノアゾ染料は、下記化学式
【化4】

で示されるものが好ましい。
【0023】
ここで、式中、Xは、原子団が付加されていない窒素原子を含むピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であって、電子供与性の置換基を有する。R、Rは同一又は異なり主鎖炭素数が1〜4のアルキル基であって、且つ前記アルキル基の少なくとも一方が水酸基で置換されたものであり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアシルアミノ基である。Rは、水素原子、メチル基又はエチル基であることが好ましい。このモノアゾ染料は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16に0.01〜3重量部含有されていることが好ましい。かかるモノアゾ染料中の電子供与性の置換基は、ハメット則に基づく電子供与性の置換基、中でも特にメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基又はジメチルアミノ基であるものが好ましい。特に、電子供与性の置換基が、メチル基、エチル基、メトキシ基又はエトキシ基であるものが好ましい。
【0024】
本発明で用いるモノアゾ染料は、下記化学式で示されるものが特に好ましい。
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【0025】
かかるモノアゾ染料とエチレンオキサイドガスとが接触すると、エチレンオキサイドガスがモノアゾ染料のチアゾール基へアルキル化反応して共鳴構造が変化し、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が例えば赤色から青色へ変色する。このモノアゾ染料の適切な含有量は、組成物総量の0.01〜3.5重量部、好ましくは0.1〜1重量部である。モノアゾ染料の含有量が0.01重量部未満の場合には、印刷時の着色力が低下してインジケータそのものの色が薄くなる。3.5重量部を超える場合には変色性が低下し、滅菌処理による色調変化が小さくなる。
【0026】
かかるEOG滅菌検知インジケータインキ層16に、有機酸、有機酸の金属塩が含有されていることが好ましい。有機酸は、例えば、アクリル酸、アジピン酸、L-アスパラギン酸、アゼライン酸、安息香酸、アントラニル酸、イソフタル酸、イタコン酸、ウンデシレン酸、クエン酸、グルタコン酸、クレソチン酸、サリチル酸、シアヌル酸、ジグリコール酸、DL−酒石酸、スルファニル酸、セバシン酸、ソルビン酸、テレフタル酸、ナフテン酸、ニコチン酸、馬尿酸、バルビツール酸、ピバリン酸、ピルビン酸、フタル酸、フマル酸、ベンジル酸、マレイン酸、マロン酸、メタクリル酸、メタニル酸、及びトリメリット酸等の遊離の有機酸やそれらの酸無水物が挙げられる。有機酸の金属塩は、例えば、上記の有機酸のカルシウム塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が挙げられる。中でもクエン酸、マロン酸、フタル酸、アジピン酸、マレイン酸、サリチル酸カルシウム、サリチル酸亜鉛、安息香酸亜鉛及びo-クレソチン酸が好適である。これら有機酸及び有機酸の金属塩の適切な含有量は組成物総量の4〜20重量部、好ましくは4〜12重量部である。有機酸及び有機酸の金属塩の含有量がこの範囲未満の場合は、エチレンオキサイドガスによる変色が悪くなり、検知能力が低下する傾向にある。一方、15重量部を越える場合は、インキ状態での保存安定性が低下する傾向にある。
【0027】
EOG滅菌検知インジケータインキ層16内に、エチレンオキサイド変色性のモノアゾ染料とは別な有色色素や発色増強剤、防錆剤、界面活性剤等の従来の滅菌インジケータに使用されている各種添加剤を加えてもよい。例えば、シリカ、硫酸バリウム、クレイ、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム等を添加すれば、印刷された組成物皮膜へのエチレンオキサイドガスの透過性を向上することができる。また、耐熱性、耐ガス性に優れた色素の添加により、変色前の色調と変色後の色調を調整することもできる。
【0028】
かかるEOG滅菌検知インジケータインキ層16が形成された基材フィルム12aの一面側に、AC滅菌検知インジケータインキ層20が併設されている。このAC滅菌検知インジケータインキ層20中に、高圧蒸気によって変色する成分が配合されている。かかる成分は、例えば、遷移金属化合物、硫黄、硫黄化合物を挙げることができる。遷移金属化合物は、ニッケル、コバルト、銅、鉛、ビスマスの塩基性炭酸塩、水酸化物、酸化物及びステアリン酸化合物が挙げられる。遷移金属化合物の適切な含有量は、組成物総量の2〜15重量部、好ましくは5〜10重量部である。遷移金属化合物の含有量が2重量部未満の場合は、変色前後の色差が小さく、色変化が判り難い。15重量部を越える場合は、インキ化したときの被印刷物への接着性が低下し、滅菌時に被滅菌物を汚染することがある。硫黄化合物は、無機又は有機の硫黄化合物が使用可能である。無機硫黄化合物は、硫化亜鉛が挙げられる。有機硫黄化合物は、チオ尿素、メチルチオ尿素、1−フェニル−2−チオ尿素、1,3−ジフェニル−2−チオ尿素、2,2’−ジトリルチオ尿素及びo−トリルチオ尿素が挙げられる。硫黄や硫黄化合物の適切な含有量は、組成物総量の5〜30重量部、好ましくは8〜15重量部である。硫黄や硫黄化合物の含有量が5重量部未満の場合は、変色前後の色の差が小さく、色変化が判り難い。30重量部を越える場合は、インキ化したときの被印刷物への接着性が低下し、滅菌時に被滅菌物を汚染することがある。
【0029】
EOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20とをラミネート層12bに密着した抑制材15を形成する際に、基材フィルム12aの一面側にEOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20とを別々に形成する。EOG滅菌検知インジケータインキ層16を形成するには、上述したEOG滅菌検知インジケータインキ層16の形成材料とインキ用ビヒクルとをボールミル、ロールミル、サンドミル等の分散機を用いて混合してインキ化し、基材フィルム12aの一面側に印刷することによってEOG滅菌検知インジケータインキ層16を形成できる。更に、AC滅菌検知インジケータインキ層20を形成する際には、上述したAC滅菌検知インジケータインキ層20の形成材料とインキ用ビヒクルとをボールミル、ロールミル、サンドミル等の分散機を用いて混合してインキ化し、基材フィルム12aの一面側で且つEOG滅菌検知インジケータインキ層16と異なる部分に印刷することによってAC滅菌検知インジケータインキ層20を形成できる。次いで、基材フィルム12aのEOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20との形成面にポリウレタンをコーター印刷で塗布してラミネート層12bを形成する。このようにして形成した抑制材15を用いた滅菌インジケータ12は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20と密着したラミネート層12bを、被覆フィルム12cで覆った後、ゴムローラで圧着し、所定時間熟成することによって形成できる。
【0030】
更に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20とを形成した滅菌インジケータ12とクラフト紙等の滅菌紙14とを重ね合わせ、三方をヒートシーラで熱融着させることによって開口部が一方に形成された滅菌バッグ10を得ることができる。この滅菌バッグ10の開口部から被滅菌物18を挿入し、開口部を熱融着して被滅菌物18を封入する。
【0031】
このように被滅菌物18が封入された滅菌バッグ10をオートクレーブに挿入し、高圧蒸気をオートクレーブ内に導入して滅菌処理を施す。オートクレーブ内に導入した高圧蒸気は、滅菌紙14を通過して滅菌バッグ10内に進入し、被滅菌物18に滅菌を施すと共に、AC滅菌検知インジケータインキ層20の成分が変色され、被滅菌物18に滅菌処理が施されたことを示す(この変色が、被滅菌物18の滅菌完了を示すものであってもよい)。かかる高圧蒸気による滅菌の際に、抑制材15を構成するラミネート層12bと密着されているEOG滅菌検知インジケータインキ層16内のモノアゾ染料に、Yが水酸基、スルホ基、アミノ基及びフッ素原子含有基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するカップリング成分のものを用いたとき、モノアゾ染料の色相がラミネート層12bから滲出して被滅菌物18に転写されることを防止できる。これに対し、モノアゾ染料に、Yが上述の置換基を有しないカップリング成分のものを用いたとき、高圧蒸気による滅菌処理後に、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にEOG滅菌検知インジケータインキ層16内のモノアゾ染料の色の転写が認められる。このことから、Yが上述の置換基を有するカップリング成分であるモノアゾ染料は、カップリング成分の置換基がEOG滅菌検知インジケータインキ層16と密着しているラミネート層12bのポリウレタンの窒素原子や酸素原子と水素結合してラミネート層12bから滲出することを防止しているものと推察される。
【0032】
また、被滅菌物18が封入された滅菌バッグ10をオートクレーブに挿入し、エチレンオキサイドガスをオートクレーブ内に導入し滅菌処理を施すと、EOG滅菌検知インジケータインキ層16内のモノアゾ染料がエチレンオキサイドガスと接触して変色され、被滅菌物18に滅菌処理が施されたことを示す(この変色が、被滅菌物18の滅菌完了を示すものであってもよい)。このようにエチレンオキサイドガスで滅菌処理を施した滅菌バッグ10のEOG滅菌検知インジケータインキ層16を蛍光灯の光に連続して曝露し、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色調変化の退色を促進させると、抑制材15を構成するEOG滅菌検知インジケータインキ層16内のモノアゾ染料に、上述したようにXが電子供与性の置換基を有する複素環式化合物残基であるものを用いた場合、変色したモノアゾ染料の色調が少なくとも24月間も保持される。これに対し、モノアゾ染料に、Xが電子供与性の置換基を有しない複素環式化合物残基であるものを用いた場合、エチレンオキサイドガスで滅菌処理を施した滅菌バッグ10のEOG滅菌検知インジケータインキ層16を蛍光灯の光に連続して曝露したとき、変色したモノアゾ染料の色調は1〜3月間で退色が認められる。このことからXが電子供与性の置換基を有する複素環式化合物残基であるモノアゾ染料は、蛍光灯の光に曝されているとき、電子供与性の置換基からアゾ基(−N=N−)に電子が供給されて、変色したモノアゾ染料のアゾ基が切断されることによる退色を防止しているものと推察される。
【0033】
前掲したようにXが電子供与性の置換基を有する複素環式化合物残基で且つYが水酸基、スルホ基、アミノ基及びフッ素原子含有基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有するカップリング成分であるモノアゾ染料が配合されたEOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20とが、ポリウレタンを含有するラミネート層12bに密着された抑制材15で形成された滅菌インジケータ12を具備する滅菌バッグ10によれば、高圧蒸気で滅菌処理の際に、滅菌バッグ10内に封入した被滅菌物18にモノアゾ染料の色相の転写を防止でき、高圧蒸気で滅菌処理を施した被滅菌物18の外観を良好に保持できる。また、エチレンオキサイドガスによる滅菌処理の際に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16内で変色したモノアゾ染料の色調の退色を抑制できる。このため、エチレンオキサイドガスで滅菌処理を施して変色したEOG滅菌検知インジケータインキ層16を有する滅菌バッグ10の長期保存を可能とし、被滅菌物の滅菌処理済みであることの確実な表示を図ることができる。
【0034】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
先ず、ポリエチレンテレフタレート(PET)製で厚さ12μmの透明な基材フィルム12aの一面側に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20とを形成する。EOG滅菌検知インジケータインキ層16は、モノアゾ染料に、下記化学式
【化13】

で示されるC.I.ディスパースレッド58(0.8重量部)、マロン酸(6重量部)、タルク(4重量)、東洋インキ株式会社製のメジウム(70重量部)及びメチルエチルケトン(MEK)(19.2重量部)をボールミルで混合して赤色のインキを、基材フィルム12aの一面側に自走式プルーファーを用いてリング状に印刷して形成した。また、AC滅菌検知インジケータインキ層20は、酸化ビスマス(13重量部)、チオ尿素(20重量部)、タルク(7重量部)、アクリル酸エステル(65重量部)及びメチルエチルケトン(MEK)(17重量部)をボールミルで混合して得たインキを、基材フィルム12aのEOG滅菌検知インジケータインキ層16に隣接した箇所に、自走式プルーファーでリング状に印刷して形成した。
【0036】
次いで、基材フィルム12aのEOG滅菌検知インジケータインキ層16とAC滅菌検知インジケータインキ層20との形成面にポリウレタンをコーター印刷で塗布してラミネート層12bを形成し、EOG滅菌検知インジケータインキ層16及びAC滅菌検知インジケータインキ層20とラミネート層12bとを密着して抑制材15を形成した。形成したラミネート層12bをポリプロピレン(PP)製で厚さ30μmの被覆フィルム12cで覆った後、ゴムローラで圧着し、72時間熟成して滅菌インジケータ12を形成した。
【0037】
更に、滅菌インジケータ12とクラフト紙製の滅菌紙14とを重ね合わせ、三方をヒートシーラで熱融着させることによって開口部が一方に形成された滅菌バッグ10を得た。この滅菌バッグ10の開口部から被滅菌物18である複数枚のガーゼを挿入し、開口部を熱融着した。その後、滅菌バッグ10を挿入したオートクレーブに高圧蒸気を導入して滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10では、AC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた(EOG滅菌検知インジケータインキ層16は何等の変色も見られなかった)。滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色相が転写されておらず、封入前と同一外観であった。
【0038】
また、被滅菌物18である複数枚のガーゼを挿入し、開口部を熱融着した滅菌バッグ10を挿入したオートクレーブに、エチレンオキサイドガスを導入して滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10では、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が赤から青に変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の変色した滅菌インジケータインキ層16に対して退色試験を施した保存安定性を測定した。この退色試験は、青に変色したEOG滅菌検知インジケータインキ層16を、蛍光灯の光に連続して曝露して行った。その際に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16のb値を色差計で測定し、b=0となった日をEOG滅菌検知インジケータインキ層16の退色日とした。変色したEOG滅菌検知インジケータインキ層16の退色日までの蛍光灯曝露日数が長いほど、変色したEOG滅菌検知インジケータインキ層16の保存安定性が良好であることを示す。本実施例の滅菌バッグ10のEOG滅菌検知インジケータインキ層16での蛍光灯曝露日数は、30月間であった。
【0039】
(比較例1)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化14】

で示されるC.I.ディスパースレッド137を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物18である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた(EOG滅菌検知インジケータインキ層16は何等の変色も見られなかった)。滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色が転写されておらず、封入前と同一外観であった。
【0040】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が赤から青に変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に退色試験を行った。この比較例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は1月間であり、実施例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16に比較して、その保存安定性は劣るものであった。
【0041】
(比較例2)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化15】

で示されるC.I.ディスパースレッド152を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物18である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16の変色はなかったが、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼには、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色相が転写されていた。
【0042】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10では、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が赤から青に変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。この比較例2のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は1.5月間であり、比較例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の保存安定性よりは改善されているものの、実施例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16に比較して、保存安定性は劣るものであった。
【0043】
(比較例3)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化16】

で示されるC.I.ディスパースレッド153を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物16である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16の変色はなかったが、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色相が転写されていた。
【0044】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が赤から青に変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。比較例3のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は1.25月間であり、比較例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16と比較例2のEOG滅菌検知インジケータインキ層16との間にある。この比較例3のEOG滅菌検知インジケータインキ層16も、実施例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16に比較して、その保存安定性は劣るものであった。
【0045】
(実施例2)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化17】

で示されるモノアゾ染料を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物16である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16は変色してなかった。更に、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色が転写されておらず、封入前と同一外観であった。
【0046】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。この実施例2のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は24月間であり、実施例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の保存安定性よりも若干劣るものの、比較例1〜3のEOG滅菌検知インジケータインキ層16よりも保存安定性に優れている。
【0047】
(比較例4)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化18】

で示されるモノアゾ染料を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物16である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16は変色してなかったが、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色相が転写されていた。
【0048】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。この比較例4のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は30月間であり、実施例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の保存安定性と等しい。しかしながら、比較例4の滅菌バッグ10は、高圧蒸気での滅菌処理の際に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色相が被滅菌物18に転写されており、実用に供することはできない。
【0049】
(比較例5)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化19】

で示されるモノアゾ染料を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物16である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16は変色してなかった。更に、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色が転写されておらず、封入前と同一外観であった。
【0050】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が赤から青に変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。この比較例5のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は3月間であり、実施例1及び実施例2のEOG滅菌検知インジケータインキ層16に比較して、その保存安定性は劣る。
【0051】
(比較例5)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記化学式
【化20】

で示されるモノアゾ染料を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物16である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16は変色してなかった。更に、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼは、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色が転写されておらず、封入前と同一外観であった。
【0052】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が赤から青に変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。この比較例6のEOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数は2月間であり、実施例1及び実施例2のEOG滅菌検知インジケータインキ層16に比較して、その保存安定性は劣る。
【0053】
(実施例3)
実施例1において、モノアゾ染料に、下記表1の化学式で示す種々のモノアゾ染料を使用した他は、実施例1と同様にして滅菌バッグ10を形成し、被滅菌物16である複数枚のガーゼに高圧蒸気で滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、オートクレーブから取り出した滅菌バッグ10は、滅菌インジケータ12のAC滅菌検知インジケータインキ層20が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18に高圧蒸気で滅菌処理が施されたことを示していた。EOG滅菌検知インジケータインキ層16は変色してなかった。更に、滅菌バッグ10の一端を開封して取り出した複数枚のガーゼについて、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色の転写の有無を調査し、その結果を下記表1に併せて示した。
【0054】
また、滅菌バッグ10に挿入した複数枚のガーゼに対し、実施例1と同様にしてエチレンオキサイドガスを用いて滅菌処理を施した。滅菌処理終了後に、滅菌バッグ10は、EOG滅菌検知インジケータインキ層16が変色されており、滅菌バッグ10内の被滅菌物18にエチレンオキサイドガスで滅菌処理が施されたことを示していた(AC滅菌検知インジケータインキ層20は何等の変色も見られなかった)。次いで、複数枚の滅菌済のガーゼを取り出した滅菌バッグ10の滅菌インジケータ12を、実施例1と同様に蛍光灯の光に連続して曝露する退色試験を行った。その結果を表1に蛍光灯曝露日数として示した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1から明らかなように、本実施例は、いずれの水準でも、高圧蒸気での滅菌処理の際に、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の色のガーゼへの転写が発生しなかった。また、EOG滅菌検知インジケータインキ層16の蛍光灯曝露日数も、いずれの水準でも、30月間であり、実施例1のEOG滅菌検知インジケータインキ層16と同等であって、その保存安定性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明に係る退色及び転写の保護材を有する滅菌バッグは、エチレンオキサイドガスと高圧蒸気とのいずれでも用いることができ、高圧蒸気を用いたとき、エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層の色の被滅菌物への転写を防止できる。更に、エチレンオキサイドガスで変色したエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層の色の退色をし難くでき、滅菌処理に用いた滅菌バッグを保管して、被滅菌物の滅菌処理済みであることの確実な表示を図ることができる。
【符号の説明】
【0058】
10は滅菌バッグ、12は滅菌インジケータ、12aは基材フィルム、12bはラミネート層、12cは被覆フィルム、14は滅菌紙、15は抑制材、16はエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層、18は被滅菌物、20は水蒸気滅菌検知インジケータインキ層である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被滅菌物が挿入される滅菌バッグの内壁の少なくとも一部を形成し、前記滅菌バッグ内に進入して前記被滅菌物を滅菌する高圧蒸気及びエチレンオキサイドガスを透過する被覆フィルムと、前記滅菌バッグの外壁の少なくとも一部を形成する基材フィルムとの間に積層され、前記基材フィルムの一面側に併設され色調変化で検知可能な水蒸気滅菌検知インジケータインキ層及びエチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層と、前記滅菌検知インジケータインキ層の各々を覆って前記被覆フィルムに接着するラミネート層とから構成される抑制材であって、
前記滅菌バッグごと被滅菌物を前記エチレンオキサイドガスで滅菌処理したとき、前記エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層の前記色調変化の退色を抑制する下記化学式
【化1】

〔但し、X:原子団が付加されていない窒素原子を含むピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であって、電子供与性の置換基を有する。
Y:カップリング成分であって、水酸基、スルホ基、アミノ基及びフッ素原子含有基からなる群から選ばれた少なくとも一種の置換基を有する。〕
で示されるエチレンオキサイドガス変色性のモノアゾ染料が前記エチレンオキサイドガス滅菌検知インジケータインキ層に含有されており、
且つ前記滅菌バッグごと被滅菌物を前記高圧蒸気で滅菌処理したとき、前記モノアゾ染料が前記ラミネート層から滲出して前記被滅菌物に転写されることを抑制するポリウレタンが前記ラミネート層に含まれていることを特徴とする滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材。
【請求項2】
前記モノアゾ染料の複素環式化合物残基が、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であることを特徴とする請求項1に記載の滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材。
【請求項3】
前記モノアゾ染料のカップリング成分の置換基が、水酸基であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材。
【請求項4】
前記モノアゾ染料が、下記化学式
【化2】

〔式中、Xは、原子団が付加されていない窒素原子を含むピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、トリアゾール環、テトラゾール環、インダゾール環、チアゾール環、ベンゾチアゾール環及びチアジアゾール環からなる群から選ばれた複素環式化合物残基であって、電子供与性の置換基を有する。R、Rは同一又は異なり主鎖炭素数が1〜4のアルキル基であって、且つ前記アルキル基の少なくとも一方が水酸基で置換されたものであり、Rは水素原子、水酸基、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子又はアシルアミノ基である。〕で示されものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材。
【請求項5】
前記モノアゾ染料中の電子供与性の置換基が、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基又はジメチルアミノ基であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材。
【請求項6】
挿入された被滅菌物を滅菌する滅菌バッグであって、前記滅菌バッグの内壁の少なくとも一部を形成し、前記滅菌バッグ内に進入して前記被滅菌物を滅菌する高圧蒸気及びエチレンオキサイドガスを透過する被膜フィルムと、前記滅菌バッグの外壁の少なくとも一部を形成する基材フィルムとの間に、請求項1〜5のいずれか一項に記載の滅菌インジケータの退色及び転写の抑制材が挟まれていることを特徴とする滅菌バッグ。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−245215(P2012−245215A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120242(P2011−120242)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】