説明

滅菌紙

【課題】医療器材の滅菌に使われる滅菌包装材料、特に紙とフィルムを組み合わせたコンビネーションタイプの滅菌袋に好適な、良好な通気性、耐水性を有し、高圧蒸気滅菌時の滅菌袋の破袋が無く、優れたヒートシール性とピール性を兼ね備えた、滅菌紙及び該滅菌紙に使用される滅菌紙用原紙を提供する。
【解決手段】パルプ繊維100重量部に対して水溶性炭酸ジルコニウム塩0.01〜1重量部を含有してなる滅菌紙用原紙に、アクリル系共重合体を主成分とした含浸剤を含浸させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医療器材の滅菌に使われる滅菌包装材料に関し、特に紙とフィルムを組み合わせたコンビネーションタイプの滅菌袋に好適な滅菌紙及び該滅菌紙に用いられる滅菌紙用原紙に関する。
【背景技術】
【0002】
滅菌袋の種類としては、一般的に、紙単独のものと、紙とフィルムのコンビネーションタイプに大別される。紙とフィルムのコンビネーションタイプは、内包された医療器具の種類やサイズなどが見える点で便利さがあり、最近ではこのタイプの滅菌袋が増えてきている。また、滅菌袋の大きさも様々であるが、滅菌処理量の効率を向上させるためにサイズが大型化されてきている。
この様な滅菌袋を用いた医療用滅菌方法は、ガス滅菌法、高圧蒸気滅菌法、放射線滅菌法の3つに大別される。ガス滅菌法は、包装物を真空容器中に入れて容器内を減圧し、包装物内部の空気を排出させた後、エチレンオキサイドガスなどを容器内に満たして包装物内部にガスを浸透させて滅菌する。高圧蒸気滅菌法は、オートクレーブなどを用いて包装物を高温の蒸気に曝し、減圧と加圧を繰り返して滅菌する。放射線滅菌法は、放射線を照射して滅菌する。このうち、コスト及び安全性の面から高圧蒸気滅菌及びガス滅菌が多く用いられている。
【0003】
このため滅菌袋に使われる滅菌紙に要求される特性としては、特に、(1)ガス及び蒸気の通気性が良好であること、(2)ピンホールがないこと、(3)サイズ度及び湿潤強度が高く耐水性が良好なこと、(4)滅菌後に医療器材を取り出すため紙とフィルムを剥離したときに紙粉が発生しないこと(ピール性)、(5)ヒートシールができること、などである。
【0004】
従来の滅菌紙用原紙において、含浸後の通気性やヒートシール強度を良好にするためにパルプの叩解度を下げ低透気度の原紙を抄造してきたが、パルプ叩解度が低いと繊維間結合が弱くなり、また薬品の歩留まりも低下するため、原紙としてもある程度良好な耐水性やピール性を出すには、紙力増強剤の添加量を多くしなければならない。紙力増強剤を多量に添加して抄造すると、コストアップ、濾水性低下になる他、抄造時にプレスロールへ湿紙の表面の一部が取られてしまい、最悪の場合は湿紙がロールに付着して剥離しなくなることもある。
【0005】
このような欠点を改善するために、例えば、特許文献1には、アルミン酸塩を含有する基紙にアクリル系共重合体を塗工する滅菌紙が提案されている。アルミン酸塩を用いることにより紙力増強剤の効果を高めることができるが、pHが高いため、滅菌紙として要求される中性を維持するには性能が不十分であっても添加量を抑えなくてはならない。
【0006】
一方、水溶性のジルコニウム化合物を使用した紙も報告があり、例えば特許文献2には、両性あるいはカチオン性の紙力増強剤と併用した、ピッキング強度、濾水性、歩留効果等の優れた紙が報告されているが、主として炭酸カルシウム等の填料を含有した紙であり、滅菌紙に関する報告はない。
【特許文献1】特許第3238861号
【特許文献2】特開平3−167392号公報、特開平6−57685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点を解決することにあり、大型の滅菌袋でも高圧蒸気滅菌時の破袋がなく、優れたヒートシール性を有し、ピール性も損なわず、かつ濾水性やプレスロール剥離性が良好で中性で抄紙できる滅菌紙を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、滅菌紙抄造の際、水溶性炭酸ジルコニウム塩を使用することによりかかる課題が解決できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)パルプ繊維に対して水溶性炭酸ジルコニウム塩を含有した、紙とフィルムを組み合わせたコンビネーションタイプ用の滅菌紙用原紙、
(2)水溶性炭酸ジルコニウム塩の含有量が、パルプ繊維100重量部に対して0.01〜1重量部である、上記(1)記載の滅菌紙用原紙、
(3)上記(1)乃至(2)のいずれか一に記載の滅菌紙用原紙に、アクリル系共重合体を主成分とした含浸剤を含浸させた滅菌紙、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の滅菌紙は、良好な通気性及び耐水性と、良好なヒートシール性及びピール性を兼ね備えた、優れた特性を有するものである。特に、炭酸ジルコニウム塩を用いることによりヒートシール強度に優れるため高圧蒸気滅菌時の破袋がなく、表面強度のみならず層間強度を高めることができ、含浸の効果と相乗して優れたピール性が得られる。しかもアルミン酸塩を使用する方法と比べ、炭酸ジルコニウム使用量が少量で紙力や耐水性が増強する。また、プレスロール剥離性も良好になるという効果も認められる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の滅菌紙用原紙(以下、単に原紙ともいう。)は、パルプ繊維を主体としたJISP8117による透気度が20秒以下、好ましくは5秒〜15秒のものが望ましい。このような原紙を得るためには、パルプ原料としてN材を50%以上、好ましくは70〜95%配合した木材パルプを用いて、叩解度を500〜700mlCSF、好ましくは550〜650mlCSFに叩解することが望ましい。叩解度が500mlCSF以下になると透気度が高くなりすぎる可能性がある。
【0011】
原紙には、水溶性炭酸ジルコニウム塩が添加される。水溶性炭酸ジルコニウム塩としては、水溶性を示す限り、塩の種類や該粉末の粒子径、製法などは特に限定はされず、公知のものを採用できる。具体的には、炭酸ジルコニウムのアルカリ金属塩、炭酸ジルコニウムのアミン塩、炭酸ジルコニウムのアンモニウム塩、等が例示でき、市販品としては、例えば日本軽金属(株)製のベイコート20、等を挙げることができる。
添加量は、パルプ繊維(固形分)に対して、通常、0.01〜1重量%程度、好ましくは0.1〜1重量%、更に好ましくは0.2〜1重量%である。これ未満であると、十分な効果を発現せず、これを越えて用いると通気度が低くなりすぎる可能性がある。
水溶性炭酸ジルコニウム塩は、パルプスラリー中に直接添加する場合の他、該塩をあらかじめ水で希釈溶解しておき、該水溶液をパルプスラリー中に添加することもできる。
【0012】
本発明の滅菌紙用原紙は、水溶性炭酸ジルコニウム塩のほかに、乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤等の添加剤を用いて抄紙されたものが好適である。
乾燥紙力増強剤は含浸後の表面強度、層間剥離強度及び引張り強度等の乾燥強度を十分に得るためのものである。湿潤紙力増強剤は、滅菌紙に必要な高い湿潤強度を得るためのものである。サイズ剤は滅菌紙として良好なサイズ性を付与するためのものである。
原紙に添加する乾燥紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、サイズ剤としては、それぞれ目的の物性が得られるものであれば問題なく、公知のもので、添加量も公知の条件で十分である。
【0013】
本発明の滅菌紙用原紙は、パルプ繊維に水溶性炭酸ジルコニウム塩、及び必要に応じて各種添加剤(薬品)を添加し、それ自体公知の湿式抄紙法で得ることができる。なお、抄紙系のPHは、滅菌紙として要求される中性を維持するために、pH6〜8.5程度の、いわゆる弱酸性〜アルカリ性で適用するのが好ましい。
【0014】
本発明では、更に、滅菌紙用原紙にアクリル系共重合体を主成分とした含浸剤を含浸した、滅菌紙が提供される。
アクリル系共重合体を主成分とした含浸剤としては、特に良好な耐水性を得るために、エマルジョンフィルムの接触角(対水)が65°以上、且つエマルジョンの機械的安定性が0.1%以下であるワックス含有コアシェル型アクリルワックス共重合体を主成分、少なくとも30重量%以上を含む、とした含浸剤の使用が好ましい。
ワックス含有コアシェル型アクリルワックス共重合体を主成分とする含浸剤の含浸量は、含浸後の紙全体の重量に対して1〜10重量%であり、特に好ましくは2〜5重量%である。含浸量が1重量%未満ではヒートシール性及びピール性が十分に得られず、また高圧蒸気滅菌時に滅菌袋が破袋する恐れがあり、10重量%を超えるとヒートシール性が損なわれる恐れがあり好ましくない。
なお、上述したエマルジョンの接触角とは、共重合体を含有したエマルジョンを3ミルアプリケーターでガラス板に塗布し、乾燥機にて140℃×5分熱処理して得られたフィルムと水との接触角を、液滴形成法により求めたものをいう。
また機械的安定性とは、マーロン試験機により、20%濃度に調整したエマルジョン50gに、10kg、1000rpm×10分のシェアーをかけ、その後200メッシュワイヤーで濾過した場合の析出量の固形分比をいう。
【0015】
本発明における含浸は、原紙とフィルムをヒートシールして滅菌袋を作製するとき及び医療器材等を入れて滅菌する際の優れたヒートシール性と、滅菌後に医療器材等を取り出すときの良好なピール性を達成するため、また高圧蒸気滅菌時に滅菌袋を破袋させないために施すものであり、含浸方法としては、ディップ方式やサイズプレス方式を用いることができる。
【0016】
本発明の滅菌紙は、滅菌袋の寸法や滅菌条件に合わせて含浸剤の含浸量と原紙透気度を変化させることにより、適当な透気度に調整することも可能である。
具体的には、滅菌紙として、高圧蒸気滅菌の場合は、透気度(JISP8117)は7〜100秒であり、好ましくは8〜20秒、特に好ましくは9〜15秒である。なお、放射線滅菌に使用する場合は100秒より大きくても問題はない。
本発明の滅菌紙は、紙とフィルムを組み合わせたコンビネーションタイプの滅菌袋に好適であるが、紙単独の滅菌袋に用いても何ら支障はなく、またいずれの滅菌方法にも適用できる。
【0017】
本発明の特徴は、滅菌紙用原紙において水溶性炭酸ジルコニウム塩を含有する点にある。
優れたピール性を得るためには、原紙に紙力増強剤を使用し、更に含浸することが有効であるが、効果を高めるためかかる薬剤を多量に使用すると通気性が損なわれ、高圧蒸気滅菌時に滅菌袋の破袋を起こしやすい。また、紙力増強剤を多量に添加して抄造すると、コストアップ、濾水性低下になる他、抄造時にプレスロールでの湿紙剥離性が悪化する。
本発明者らは、滅菌後に医療器材等を取り出す時に必要な特性であるピール性、高圧蒸気滅菌時の滅菌袋の破袋、抄造時のトラブル等について、ジルコニウムイオンと製紙用紙力増強剤が架橋反応し紙力を向上させ、また耐水性も向上させることに着目し検討したところ、表面強度のみならず層間強度も向上させること、ヒートシール強度も好ましいものであること、を見いだし、かかる知見をもとに課題を解決したものである。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明に関わる実施例及び比較例を記載し、更に詳細に説明する。
実施例1
NBKP60%、LBKP40%のパルプ配合で550mlCSFに叩解し、パルプに対してアクリルアミド紙力増強剤(星光PMC社製ポリアクロンST13)1.0重量%、アルキルケテンダイマー(荒川化学工業社製サイズパインK−287)0.8重量%、エピクロル樹脂湿潤紙力増強剤(星光PMC社製WS−525)1.0重量%、炭酸ジルコニウムアンモニウム(日本軽金属社製ベイコート20)0.1重量%を添加して抄造し、坪量70g/mの本発明の滅菌紙用原紙を作製した。
【0019】
実施例2
NBKP60%、LBKP40%のパルプ配合で550mlCSFに叩解し、パルプに対してアクリルアミド紙力増強剤(星光PMC社製ポリアクロンST13)1.0重量%、アルキルケテンダイマー(荒川化学工業社製サイズパインK−287)0.8重量%、エピクロル樹脂湿潤紙力増強剤(星光PMC社製WS−525)1.0重量%、炭酸ジルコニウムアンモニウム(日本軽金属社製ベイコート20)0.1重量%を添加して、坪量70g/mの滅菌紙用原紙を抄造し、この原紙に、エマルジョンフィルムの接触角(対水)が67°、エマルジョンの機械的安定性が0.0027%のアクリル系共重合体(三井化学社製ボンロンXBS2002−2)50重量%、コアシェル型アクリルワックス共重合体(日本化工塗料社製PW−21B)50重量%、アセチレングリコール系界面活性剤(エアープロダクツジャパン社製サーフィノール485)1.5重量%を配合した含浸剤を、含浸後の重量に対して3重量%になるように含浸して、本発明の滅菌紙を作製した。
【0020】
実施例3
実施例2において、炭酸ジルコニウムアンモニウム添加量を0.2重量%とした以外は、実施例2と同様にして本発明の滅菌紙を作製した。
【0021】
実施例4
実施例2において、炭酸ジルコニウムアンモニウム添加量を0.4重量%とした以外は、実施例2と同様にして本発明の滅菌紙を作製した。
【0022】
比較例1
実施例1において、炭酸ジルコニウムアンモニウム添加量を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして滅菌紙用原紙を作製した。
【0023】
比較例2
実施例2において、炭酸ジルコニウムアンモニウム添加量を使用しなかった以外は、実施例2と同様にして滅菌紙を作製した。
【0024】
比較例3
実施例2において、原紙に添加している炭酸ジルコニウムアンモニウムに代えて、アルミン酸ナトリウム(日本軽金属社製液体アルミン酸ソーダ)1.0重量%を用いた以外は実施例2と同様にして滅菌紙を作製した。
【0025】
実施例、比較例で作製した原紙及び滅菌紙を評価した結果を表1に示した。
尚、各特性の評価方法は次の通りである。
(1)坪量:JISP8124による。
(2)透気度:JISP8117による。
(3)サイズ度:JISP8112による。
サイズ度は40秒以上あれば実用上問題ない。
(4)湿潤強度:JISP8135による。
湿潤強度は1.5kN/m以上あれば実用上問題ない。
(5)表面強度:JISP8129による。
【0026】
(6)層間強度:幅15mmの紙片をテンシロン引張試験機で90度剥離して測定した。
(7)ヒートシール性:滅菌紙と、ポリエステルとポリプロピレンの複合フィルムのポリプロピレン面を、ヒートシーラーにより圧力1.5kg/cm、180℃、3秒の条件でヒートシールして、テンシロン引張試験機により、引張り速度100mm/minの条件で、180度剥離強さを測定した。
大袋としては幅350mm、長さ450mmが現在一般的であり、このときのヒートシール性は400〜600N/mが好適である。600N/m以上ではフィルム裂けが生じたり、内容物を取り出す作業が大変になる。
【0027】
(8)ピール性:ヒートシール性評価と同条件でヒートシールし、手で紙とフィルムを一気に剥がし、紙むけの状況を目視により以下の3段階で評価した。
○:良好なもの、△:やや問題を有するもの、×:実用上問題を有するもの
(9)濾水時間:TAPPI T205によって70g/mシートを作成する際、シートマシンの容器(円筒)にある350mmの標線からワイヤーまで排水する間の秒数を測定した。
(10)紙料のPH:原紙を抄紙機で抄造する際の、ヘッドボックス濃度と同じになるよう希釈した紙料のPHを測定した。
(11)プレスロールの湿紙剥離性:TAPPI T205によって70g/mシートを手抄き、クーチングし、湿紙を鏡面板に重ね、吸い取り紙で上下挟み、プレス機のゲージ圧3kgf/cmで3分間保持後湿紙をはがし、鏡面板付着物の重量を測定した。
【0028】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、操業性が良好で、諸要求特性を満足した滅菌紙であるため、医療基材の滅菌に使用される各種滅菌袋、特に紙とフィルムを組み合わせたコンビネーションタイプの滅菌袋に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維に対して水溶性炭酸ジルコニウム塩を含有した、紙とフィルムを組み合わせたコンビネーションタイプ用の滅菌紙用原紙。
【請求項2】
水溶性炭酸ジルコニウム塩の含有量が、パルプ繊維100重量部に対して0.01〜1重量部である、請求項1記載の滅菌紙用原紙。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれか1項記載の滅菌紙用原紙に、アクリル系共重合体を主成分とした含浸剤を含浸させた滅菌紙。

【公開番号】特開2007−197858(P2007−197858A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−16557(P2006−16557)
【出願日】平成18年1月25日(2006.1.25)
【出願人】(000142252)株式会社興人 (182)
【Fターム(参考)】