説明

滅菌組成物の製造方法

【課題】食品などの各種製品組成物の腐敗に関与する耐熱性有芽胞菌の耐熱性を低減する方法を提供する。密封包装して加熱殺菌することによって常温で長期保存が可能な滅菌組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】耐熱性有芽胞菌に過酸化水素を作用させることによって耐熱性有芽胞菌の耐熱性を低減する。また、滅菌組成物の製造は、被験組成物を密封包装状態で滅菌処理する工程を有する滅菌組成物の製造方法において、当該滅菌処理を、被験組成物に過酸化水素を作用させてからカタラーゼを作用させる工程の過酸化水素の作用中または作用後に行うことによって実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品などの各種製品組成物の腐敗に関与する耐熱性有芽胞菌の耐熱性を低減する方法に関する。また本発明は、密封包装して加熱滅菌するか、或いは加熱滅菌後無菌充填してから密封包装することによって常温で長期保存が可能な滅菌組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
常温で流通させる密封包装製品、特に食品については、クロストリジウム、ボツリヌス、腸炎ビブリオ、サルモネラ等の細菌の増殖による変敗を防ぐため、実質的に無菌状態であることが必要である。特に水分含量が多かったり、pHが中性域にあるものは変敗菌が成育しやすいため、例えばpH5.5を越え、かつ水分活性値が0.85を越える密封包装食品については、中心部分を121℃で4 分以上加熱するか、或いはそれと同等以上の効果を有する方法で加熱殺菌することが義務づけられている。この温度及び時間(121℃4分以上)は包装食品の中心部分において達成されることが必要であるため、熱伝導率が低い場合など、対象物の内容物によっては高温または長時間の加熱が必要となる場合がある。
【0003】
また、Bacillus stearothermopHilusやDesulfotomaculum nigrificansなどの菌は121℃4分程度の加熱では完全に死滅させることができずに保存中に製品が変敗する事態も多数発生している。更に、pH5.5を下まわる酸性飲料等においてはAlicyclobacillus acidoterrestris が、変敗の原因となっている。
【0004】
しかし、加熱滅菌処理が高温または長時間に及ぶにつれて、食品であれば栄養分、味、風味または色調等の品質の劣化が、また医薬品や化粧品などの製品であれば有効成分の活性低下や色調変化など問題が生じる。このため、加熱滅菌処理をより緩和した条件(例えば、短時間またはより低い温度での加熱滅菌処理)で行いながらも、細菌を残存させることなく所望の滅菌効果が得られる方法が求められている。
【0005】
一方、グルコースオキシダーゼは、抗菌力のある酵素系保存剤であり、従来よりカタラーゼと一緒に使用することが知られている。
【0006】
例えば、特許文献1には、タンパク質を含む食品を、ブドウ糖、グルコースオキシダーゼ、およびペルオキシダーゼ若しくはカタラーゼと接触させて食品の腐敗を防止する方法が;特許文献2には、蛋白分解酵素、グルコース、グルコースオキシダーゼ、及びパーオキシダーゼ及び/又はカタラーゼを食品に配合して食品を保存する方法が;特許文献3には、グルコースオキシダーゼ、カタラーゼおよびグルコースを含む水溶液をゲル化するか、或いは担体に吸収させた酸素吸収ユニットを用いて食品を保存する方法が記載されている。
【0007】
一般に、グルコースオキシダーゼは、下記に示す反応により、グルコースをグルコン酸へ酸化触媒する作用を有し、その際に過酸化水素が発生する。この反応で生じた過酸化水素は、カタラーゼの作用により水と酸素に分解される。
【0008】
【化1】

【0009】
この反応図に示す通り、上記の反応により酸素量が1/2に低減するため、グルコースオキシダーゼとカタラーゼを組み合わせて、脱酸素剤または酸素除去剤としての用途も知られている(例えば、特許文献4〜6などを参照)。
【0010】
しかしながら、これらの文献にはいずれも、過酸化水素によって耐熱菌の耐熱性が低下することについて記載はもちろん示唆する記載はない。また、これらの文献にはいずれもグルコースオキシダーゼとカタラーゼとを単純に混ぜた混合物が開示されているにすぎない。
【特許文献1】特公昭55−23071号公報
【特許文献2】特開昭57−74076号公報
【特許文献3】特開昭47−29545号公報
【特許文献4】特開昭61−271959号公報
【特許文献5】特開平1−171466号公報
【特許文献6】特開昭49−80260号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、加熱処理に対して耐性のある耐熱性有芽胞菌の耐熱性を低減するために有効な方法を提供することを目的とする。また本発明は、実質的に防腐剤を含まない状態で常温流通させることができる滅菌組成物を製造する方法、特に、より緩和した加熱条件を採用することで品質低下などの悪影響を抑えながらも有効に耐熱性有芽胞菌を死滅除去することのできる、滅菌組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題の解決を目的として鋭意研究を重ねていたところ、耐熱性有芽胞菌などの耐熱性に優れた細菌に過酸化水素を作用させることによってその耐熱性を低減させることができ、その結果、より緩和な加熱条件で処理することで当該耐熱性有芽胞菌を有効に死滅除去することができることを見出した。かかる知見に基づいて、本発明者らは、滅菌処理が必要とされる各種組成物の製造において、当該過酸化水素による処理後に滅菌処理を行うことによって、より緩和な加熱条件で所望の滅菌効果を得ることができること、しかも滅菌処理によって生じる風味低下などの品質劣化を有意に防止できることを確認した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の態様を有する。
【0013】
(1)耐熱性有芽胞菌の耐熱性低減方法
項1.耐熱性有芽胞菌に過酸化水素を作用させることを特徴とする、耐熱性有芽胞菌の耐熱性低減方法。なお、当該方法は、実際は、耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物を過酸化水素で処理することによって行うことができる。
項2.過酸化水素の作用を、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることによって行う項1に記載する方法。当該方法は、実際は、耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物に対して、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることによって行うことができる。
【0014】
(2)滅菌組成物の製造方法
項3.被験組成物を密封包装状態で滅菌処理する工程を有する滅菌組成物の製造方法であって、当該滅菌処理を、被験組成物に過酸化水素を作用させてからカタラーゼを作用させる工程の、過酸化水素の作用中または作用後に行うことを特徴とする方法。
項4.被験組成物を滅菌処理後、無菌充填してから密封包装する工程を有する滅菌組成物の製造方法であって、当該滅菌処理を、被験組成物に過酸化水素を作用させてからカタラーゼを作用させる工程の、過酸化水素の作用中または作用後に行うことを特徴とする方法。
【0015】
項5.被験組成物に対する過酸化水素の作用を、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることによって行う項3又は4に記載する方法。なお、当該方法は、「被験組成物を密封包装状態で滅菌処理する工程を有する滅菌組成物の製造方法、或いは、被験組成物を滅菌処理後、無菌充填してから密封包装する工程を有する滅菌組成物の製造方法であって、当該滅菌処理を、被験組成物にグルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させてからカタラーゼを作用させる工程の、グルコースオキシダーゼの作用中または作用後に行うことを特徴とする方法」と言い換えることができる。
項6.滅菌処理を、被験組成物にグルコースの存在下、グルコースオキシダーゼ及び徐放化したカタラーゼを含む殺菌剤を添加した後に行うことを特徴とする、項5に記載する方法。
項7.徐放化したカタラーゼが、カタラーゼと油脂を混合して製剤化してなるものである、項6に記載の方法。
項8.油脂が、高級脂肪酸、ショ糖脂肪酸エステル、及びモノグリセライドからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、項7に記載の方法。なお、ここで高級脂肪酸としては、ステアリン酸やパルミチン酸を含む炭素数6〜18の飽和または不飽和の高級脂肪酸を、モノグリセライドとしては炭素数8〜18のグリセリン脂肪酸エステルを好適に挙げることができる。
項9.項3乃至8のいずれかに記載する製造方法によって得られた滅菌組成物。
項10.滅菌組成物が、加工食品、医薬品、または化粧品である項9に記載する滅菌組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐熱性低減方法によれば、耐熱性有芽胞菌の耐熱性を低減することができ、より緩和した加熱条件で当該細菌を死滅除去することが可能となる。従って、当該方法は、耐熱性有芽胞菌を死滅除去する滅菌処理の条件を緩和するために有効に利用することができる。また本発明の滅菌組成物の製造方法によれば、滅菌組成物を通常の加熱滅菌処理よりも緩和な条件で製造することができるため、加熱滅菌処理による品質劣化などの悪影響を回避することができる。このため、本発明の製造方法は、従来品質劣化が生じるため加熱滅菌処理ができなかった被験物に対しても広く適用することができる。特に、本発明の製造方法によれば、栄養分、風味や味、色調などの品質劣化が有意に抑制された状態で、常温流通可能な加工食品を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(1)耐熱性有芽胞菌の耐熱性低減方法
本発明は耐熱性有芽胞菌の耐熱性低減方法を提供する。当該方法は、耐熱性有芽胞菌に対して過酸化水素を作用することによって行うことができる。
【0018】
なお、本発明の方法が対象とする耐熱性有芽胞菌は、80℃20分での加熱処理によって死滅しない耐熱性菌である。かかる耐熱性菌は、例えば加工食品などの各種製品の製造において一般的な加熱処理(80℃、20分)では死滅せずに残存し、保存中に増殖して、製品にpH低下、異臭発生、または外観変化などの腐敗をもたらす細菌である。かかる耐熱性有芽胞菌には、バシラス属に属する細菌(B.stearothermopHilus、B.subtilis、B.cereus、B.coagulansなど)、クロストリジウム属に属する細菌(Cl.thermoaceticum、Cl.thermosulfricum、Cl.sporogenesなど)、およびDesulfotomaculum nigrificans、Alicyclobacillus acidocaldariusなどが含まれる。
【0019】
かかる耐熱性有芽胞菌の耐熱性低減に有効な過酸化水素の濃度としては、制限されないが、通常0.00001〜10%を挙げることができる。好ましくは0.0001〜1%、より好ましくは0.001〜0.1%である。
【0020】
耐熱性有芽胞菌に過酸化水素を作用させる方法として、具体的には、耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物に過酸化水素を直接添加する方法を挙げることができる。またこれ以外に、酵素反応等によって過酸化水素を発生させる方法を用いることもできる。かかる方法として、耐熱性有芽胞菌に、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させる方法を挙げることができる。当該方法は、実際には耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物に、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることによって行われる。
【0021】
ここでグルコースは、耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物に含まれていればそれを用いることができ、また被験組成物に含まれていなければ別途添加すればよい。耐熱性有芽胞菌にグルコースオキシダーゼを作用させるにあたり、耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物中のグルコースの量または被験組成物に添加配合するグルコースの量としては、被験組成物100gあたり最小量として0.001gを挙げることができる。
【0022】
またグルコースオキシダーゼの量は、耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物100gに対して、グルコースオキシダーゼの活性(U)に換算して通常0.001〜1000U/100g、好ましくは0.01〜500U/100gを挙げることができる。なお、ここでグルコースオキシダーゼの活性(1U)は、1分当たり1μモルのぶどう糖を酸化する能力を意味する。
【0023】
耐熱性有芽胞菌を含む被験組成物にグルコースオキシダーゼを作用させる条件は、グルコースオキシダーゼがグルコースをグルコン酸に分解して過酸化水素を発生しえる条件であれば特に制限されない。制限されないが、グルコースオキシダーゼによる作用は、通常pH2.5〜10、好ましくはpH2.5〜8、更に好ましくは4〜7.5、温度0〜90℃、好ましくは0〜80℃の条件下で行うことが好ましい。
【0024】
なお、上記グルコースオキシダーゼによる作用は、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩の存在で行うこともできる。カルシウム塩として具体的には酸化カルシウム、炭酸カルシウム、貝殻カルシウム、骨カルシウムを、マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムを挙げることができる。かかるアルカリ土類金属塩をグルコースオキシダーゼと組み合わせて使用することによって、耐熱性芽胞菌に対する殺菌作用が増強して、その耐熱性をより減弱することが可能になる。
【0025】
斯くして耐熱性有芽胞菌は、過酸化水素の作用により耐熱性が減弱されて、通常滅菌に用いられる加熱条件よりもより緩和された条件で死滅除去させることが可能となる。ここで通常滅菌に用いられる加熱処理としては、乾熱滅菌処理、プレート式滅菌処理、蒸気滅菌処理、加圧加熱滅菌処理(オートクレーブ処理、レトルト処理など)、電磁波を利用した滅菌処理(ジュール熱加熱滅菌処理、マイクロ波加熱滅菌処理)、赤外線加熱滅菌処理を挙げることができる。
【0026】
(2)滅菌組成物の製造方法
本発明は、被験組成物を密封包装状態で滅菌処理する工程を有する滅菌組成物の製造方法、或いは、被験組成物を滅菌処理後、無菌充填してから密封包装する工程を有する滅菌組成物の製造方法を提供する。
【0027】
当該方法は、上記の滅菌処理を、被験組成物に過酸化水素を作用させてからカタラーゼを作用させ、当該過酸化水素の作用中または作用後に行うことによって実施することができる。
【0028】
ここで被験組成物としては、細菌、特に耐熱性有芽胞菌の増殖によって生じる毒性発現や変質(腐敗や悪臭発生を含む)を防止する上から無菌状態であることが求められるものを広く挙げることができる。好ましくは、さらに加熱による滅菌処理が許容される組成物である。なお、ここで無菌状態とは、通常の培養方法では生菌を検出できない状態であるか、若しくは通常の保存状態では全く影響のでない程度のわずかな生菌を含んだ実用的な無菌状態をいう。かかる組成物としては、具体的には加工食品、医薬品、医薬部外品、培地などの研究・試験材料、化粧品、日用品、飼料、ペットフードなど、無菌状態であることが求められる各種の密封包装製品を挙げることができる。好ましくは加工食品、医薬品、研究試験材料、および化粧品であり、より好ましくは加工食品、医薬品および化粧品である。なお、加工食品として、具体的に、レトルト食品(レトルトのカレー、パスタソース、丼物の具、おかゆ、炊飯米、チャーシュー、など)、缶詰食品(トマト、トウモロコシ、あさり、魚、肉など各種缶詰)、瓶詰め食品、袋詰め食品(煮物、煮豆、うどん、パスタ、ラーメン、そば、おでん、漬物など二次殺菌を伴う食品)、各種飲料(缶コーヒー、ココア、しるこ、果汁飲料、炭酸飲料、トマトジュース、お茶、スポーツドリンク酸乳飲料など)、調味料類(めんつゆ、だしの素)などの密封包装食品を挙げることができる。
【0029】
本発明の製造方法によれば、上記各種組成物の製造工程において、被験組成物に対してまず過酸化水素を作用させ、この作用中または作用後に滅菌処理を行うことにより、過酸化水素を作用させないで滅菌処理する場合に比して、より緩和な条件で有効な滅菌効果(細菌の死滅除去効果)を得ることができる。カタラーゼは、被験組成物に過酸化水素を作用させた後、時間差をもって作用するように用いればよい。好ましくは、被験組成物に過酸化水素を作用させた後、加熱しながら或いは加熱処理を行った後にカタラーゼを作用させる方法を挙げることができる。
【0030】
なお、上記の限りにおいて、カタラーゼによる処理は滅菌処理の前後を問わないが、通常は滅菌処理前にカタラーゼが作用するように処理される。
【0031】
被験組成物100gに対して用いられる過酸化水素の量としては、0.00001〜10g、好ましくは0.0001〜1g、より好ましくは0.001〜0.1gを挙げることができる。
【0032】
また被験組成物100gに対して用いられるカタラーゼの量としては、その活性に換算して通常0.001〜1000U/100g、好ましくは0.01〜500U/100gの割合を挙げることができる。なお、ここでカタラーゼの活性(1U)は、1分当たり1μモルの過酸化水素を分解する能力をいう。
【0033】
被験組成物に対する過酸化水素による作用は、特に条件を選ばず行うことができるが、例えば、通常pH2.5〜10、温度0〜90℃の条件下で行うことができる。また、カタラーゼによる作用は、過酸化水素を分解しえる条件であれば特に特に制限されないが、通常pH2.5〜10,好ましくはpH2.5〜9、更に好ましくはpH4〜8、温度0〜90℃、好ましくは30〜80℃の条件下で行うことが好ましい。
【0034】
被験組成物に過酸化水素を作用させる方法としては、被験組成物に過酸化水素を直接添加する方法を挙げることができるが、それ以外に酵素反応等によって過酸化水素を発生させる方法を用いることもできる。
【0035】
かかる方法として、被験組成物に、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させる方法を挙げることができる。ここでグルコースは、被験組成物に含まれていればそれを用いることができ、また被験組成物に含まれていなければ別途添加すればよい。被験組成物にグルコースオキシダーゼを作用させるにあたって必要なグルコースの量(被験組成物中のグルコースの量またはそれに添加配合するグルコースの量)としては、含まれるグルコースの最小量として被験組成物100gあたり0.001gを挙げることができる。
【0036】
また、グルコースオキシダーゼの量は、被験組成物100gに対して、グルコースオキシダーゼの活性に換算して通常0.001〜1000U/100g、好ましくは0.01〜500U/100gの割合を挙げることができる。
【0037】
簡便には、本発明の殺菌組成物の製造方法は、殺菌処理前に、被験組成物にグルコースオキシダーゼおよびカタラーゼを含む殺菌剤を添加することによって行うことができる。なお、この場合も滅菌菌対象とする被験組成物中にグルコースが含まれていなければ、グルコースを前述する割合で別途添加すればよい。
【0038】
当該殺菌剤は、被験組成物に添加配合した時に、グルコースオキシダーゼが作用してからカタラーゼが作用するように構成されていることが好ましい。かかる殺菌剤としては、グルコースオキシダーゼに加えて、カタラーゼが徐放化された形態で含まれているものを挙げることができる。カタラーゼの徐放化方法は特に制限されない。一般的な徐放化方法を任意に用いることができる。例えば、油脂、多糖類、ガム質などによるコーティング、サイクロデキストリンによる包接化、酵母カプセル中への封入、マイクロカプセル化などを挙げることができる。好適にはカタラーゼと油脂とを混合して製剤化する方法を挙げることができる。
【0039】
カタラーゼの徐放化に用いられる油脂には、室温条件下(25℃程度)で固体或いはペースト状を呈するものであれば特に制限されず、例えば、高級脂肪酸、ショ糖脂肪酸エステル、モノグリセライド等が包含される。好適には融点が40〜80℃程度で、また疎水性の油脂を例示することができる。
【0040】
ここで、高級脂肪酸は、一般に動植物油脂又はその硬化油脂を加水分解又は酵素により分解精製して得られたものであり、常温(25℃程度)で固体のもの、例えばカプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の炭素数6〜18の飽和または不飽和の高級脂肪酸を好適なものとして挙げることができる。
【0041】
またショ糖脂肪酸エステルとしては、前述の融点を有し、室温でほとんど水に溶けない油脂であればいずれのものも使用可能であるが、例えば、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖ジカプリン酸エステル等を例示することができる。またモノグリセライドとして好適には動物又は植物硬化油脂に由来するもので、炭素数8〜18のグリセリン脂肪酸エステル、例えば、コハク酸、酢酸、酒石酸、クエン酸などの有機酸モノグリライドやモノグリセリン脂肪酸エステルなどを挙げることができる。
【0042】
カタラーゼと油脂との配合割合は、特に制限されないが、例えば、酵素活性が50000U/gであるカタラーゼを使用する場合、通常、カタラーゼ:油脂=1000:1〜1:1(重量比)の範囲から適宜選択使用することができる。好ましくは100:1〜1:1(重量比)、より好ましくは10:1〜1:1(重量比)の範囲である。なお、この配合割合に特に制限されることはなく、上記割合を目安として、使用するカタラーゼの活性に応じて適宜調整することができる。
【0043】
カタラーゼと油脂を混合して製剤化する方法としては、例えばカタラーゼと油脂の粉末同士を合わせて攪拌機で混合する方法や、油脂を加熱溶融させたところにカタラーゼを投入し、混合後、これを微細化して、粉末状、フレーク状(薄片状)、微粒子状、顆粒状或いは細粒状とする方法などを挙げることができる。
【0044】
上記で用いられる殺菌剤は、斯くして調製される徐放化されたカタラーゼ(徐放性カタラーゼ)とグルコースオキシダーゼを含有するものであればよく、その形状は特に問わない。好ましくは、上記徐放性カタラーゼの形状と同様に、粉末状、フレーク状(薄片状)、微粒子状、顆粒状或いは細粒状を挙げることができる。
【0045】
本発明の殺菌剤に配合するグルコースオキシダーゼおよび徐放性カタラーゼの量は、特に制限されない。これらの配合比としては、グルコースオキシダーゼの活性を1分間当り1μモルのぶどう糖を酸化する能力を1Uとし、カタラーゼの活性を1分間当り1μモルの過酸化水素を分解する能力を1Uと定義した場合に、活性比の割合に換算して、グルコースオキシダーゼ:カタラーゼ=1:10〜10:1を挙げることができる。好ましくは1:5〜5:1、より好ましくは1:3〜3:1である。
【0046】
なお、本発明の殺菌剤は、適用する被験組成物100gに対して、グルコースオキシダーゼの活性に換算して通常0.001〜1000U/100g、好ましくは0.01〜500U/100gの割合で、また、カタラーゼの活性に換算して通常0.001〜1000U/100g、好ましくは0.01〜500U/100gの割合で用いることができる。このような、徐放性カタラーゼとグルコースオキシダーゼを配合した殺菌剤は、容易に製造することもできるが、商業上入手可能であり、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のアートフレッシュ[登録商標] NO.500を挙げることができる。
【0047】
被験組成物にグルコースオキシダーゼを作用する条件は、グルコースオキシダーゼがグルコースをグルコン酸に分解して過酸化水素を発生しえる条件であれば特に制限されない。制限されないが、グルコースオキシダーゼによる作用は、通常pH2.5〜10、好ましくはpH2.5〜8、更に好ましくはpH4〜7.5、温度0〜90℃、好ましくは0〜80℃の条件下で行うことが好ましい。また被験組成物にカタラーゼを作用させる条件は、カタラーゼが過酸化水素を分解しえる条件であれば特に制限されないが、通常pH2.5〜10、好ましくはpH2.5〜9、更に好ましくはpH4〜8、温度0〜90℃、好ましくは30〜80℃の条件下で行うことが好ましい。
【0048】
またかかる殺菌剤には、上記グルコースオキシダーゼおよび徐放性カタラーゼに加えて、カルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩を配合することができる。カルシウム塩として具体的には酸化カルシウム、炭酸カルシウム、貝殻カルシウム、骨カルシムを、マグネシウム塩として具体的には、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウムを挙げることができる。かかるアルカリ土類金属塩をグルコースオキシダーゼと組み合わせて配合することによって、殺菌剤の耐熱性有芽胞菌に対する殺菌作用を増強することができ、結果としてその後の滅菌処理の条件をより緩和することが可能になる。
【0049】
滅菌処理は、上記過酸化水素の作用中若しくは作用後、またはグルコースオキシダーゼの作用中若しくは作用後に行われる。
【0050】
被験組成物を密封包装するのに使用される容器は、被験組成物を密封包装した状態で滅菌処理を行う場合は加熱滅菌処理に耐性のものであれば特に制限されず、例えば缶詰食品に使用される缶、耐熱性のガラス瓶、アルミニウム箔を積層した遮光性プラスチックフィルムまたは酸素透過性の低い透明プラスチックフィルムで製造した袋状または成形された容器(レトルトパウチ)などを挙げることができる。また、被験組成物を滅菌処理後、無菌充填してから密封包装する場合に使用される容器は、前記の無菌容器に加え、無菌のペットボトル、紙パック、プラスティックカップなどを挙げることができる。
【0051】
本発明で採用される滅菌処理は、加熱による滅菌処理である。詳細には、熱を利用して、被験組成物を食品衛生上または医薬衛生上安全な無菌状態にする処理をいう。すなわち、本発明が対象とする滅菌処理には、熱を利用して、通常の培養方法では生菌を検出できない状態にする処理のみならず、わずかな生菌を含んでいても通常の保存状態では全く影響のでない程度にまで殺菌する処理が含まれる。更に、被験組成物を滅菌処理後、無菌充填してから密封包装する工程を有する滅菌組成物の製造方法の場合は、プレート殺菌機及び無菌充填用クリーンベンチを使用するなど、通常の装置を使用して製造することができる。
【0052】
本発明で採用される滅菌処理は、上記効果を奏する方法であればよく、製造する滅菌組成物の種類に応じて適宜選択することができる。具体的には、酸性飲料であれば、90℃達温、密封容器に入れ二次殺菌する方法;おでんであれば、110℃で20分処理する方法;レトルトカレーであれば121℃で30分処理する方法;缶コーヒーであれば、121℃で20分処理する方法;缶ココアであれば121℃で40分処理する方法;野菜の水煮缶詰であれば121℃で20分処理する方法;加圧殺菌したウインナーソーセージであれば121℃で20分処理する方法;密封容器に充填しためんつゆであれば90℃で30分処理する方法;ミルクコーヒーであれば、145℃で1分処理する方法;ホイップクリームであれば130℃で30秒処理する方法を例示することができる。
【0053】
本発明の製造方法によれば、過酸化水素の作用によって耐熱性菌の耐熱性が減弱しているため、過酸化水素を作用させない場合と比べて、滅菌処理をより緩和させた条件で行うことが可能となる。このため、被験組成物の滅菌処理による品質劣化(栄養素や有効成分の分解、風味や味の低下、臭気発生、色調変化など)を抑制した状態で、同一の滅菌効果を得ることができる。緩和される条件としては、加熱温度、加熱時間、圧力を挙げることができる。すなわち、本発明の製造方法によれば、通常滅菌に必要とされる加熱温度よりも低い温度で;通常滅菌に必要とされる加熱時間よりも短い時間で;または通常滅菌に必要とされる圧力よりも低い圧力で滅菌組成物を製造することができる。
【0054】
なお、滅菌処理条件が緩和されたか否かの評価には、レトルト食品分野で用いられるF値を用いることができる。F値とは、食品をある温度である時間加熱したときの微生物の死滅効果を、121℃で加熱した場合の時間に換算した値(単位は分)である。すなわち、121℃で4分間の加熱処理(F値4)が必要な滅菌組成物について、過酸化水素による作用を併用することでその加熱時間が3分(F値3)となれば、滅菌処理条件が緩和されたと判断することができる。なお、F値については、「レトルト食品の基礎と応用(1995年6月10日)、pp.73-78、(株)幸書房発行」に詳細に記載されている。
【実施例】
【0055】
以下、本発明の内容を以下の実験例、実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。なお、文中、「部」は「重量部」および「%」は「重量%」を意味する。また、実施例中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製であることを示す。
【0056】
実験例1
耐熱性有芽胞菌の一種であるBacillus coagulansを、過酸化水素の存在下で加熱滅菌処理し、滅菌効果(耐熱性有芽胞菌の耐熱性)を評価した。
【0057】
具体的には、滅菌水に、B.coagulans(NBRC 12583)を1.0×104 CFU/mlとなるよう添加し十分に混合し、これを試験管に10mlずつ分注して、各試験管の溶液中に過酸化水素を40ppmになるように添加し、60℃まで加熱して、60℃に達温後5分間反応させた。反応後、過酸化水素を除去するためにカタラーゼを50ppmになるよう添加し、直ちに、82℃に設定した湯浴に移し、5分間加熱処理した(80℃達温まで2分、達温後3分加熱)。次いで、オートクレーブにより、(1) 105℃5分間、(2)110℃5分間、の滅菌処理条件にて殺菌を行った。なお、比較のため、上記操作において過酸化水素およびカタラーゼを添加せず、それ以外は同様に処理した検体を用意した(過酸化水素無添加区)。
【0058】
各検体について、オートクレーブ(滅菌処理)の前後で、試料中のB.coagulans菌数を測定した。なお、菌数の測定は、採取した試料を標準寒天培地(日水製薬製、pH7.0)に植菌して、35℃で48時間培養して菌数をカウントすることで行った。
【0059】
(1) 105℃5分間で滅菌した結果を図1(A)に、(2)110℃5分間で滅菌した結果を図1(B)に示す。図1(A)及び(B)からわかるように、過酸化水素無添加区と比較して、過酸化水素40ppm添加区では、オートクレーブ処理後の菌数が有意に減少することが確認された。特に110℃5分のオートクレーブ処理の場合、過酸化水素無添加区では菌が残存していたの対して、過酸化水素40ppm添加区では菌が全て死滅することが確認された。この試験より、レトルト殺菌時に、極僅かな過酸化水素(40ppm)が共存することで、耐熱性有芽胞菌、B.coagulansの耐熱性が減少し、レトルト殺菌時の殺菌温度、および殺菌時間の緩和が可能であることが判明した。
【0060】
実験例2
耐熱性有芽胞菌の一種であるBacillus coagulansを、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させた後に加熱滅菌処理し、滅菌効果(耐熱性有芽胞菌の耐熱性)を評価した。
【0061】
(1)殺菌剤の調製
カタラーゼ(5500U/g)5部とグリセリン脂肪酸エステル2部とを合わせて溶融混合し、これを粉末化して徐放性カタラーゼを調製した。なお、この徐放性カタラーゼは、カタラーゼがグリセリン脂肪酸エステルでコーティングされている。この徐放性カタラーゼに、粉末状のグルコースオキシダーゼ(2000U/g)とデキストリンと混合して、グルコースオキシダーゼ(GO)9%、カタラーゼ(CT)0.8%、グリセリン脂肪酸エステル2%、及びデキストリン88.2%からなる粉末状の殺菌剤1(GO粉末+徐放性CT粉末混合品)を調製した。
(2)滅菌効果(耐熱性有芽胞菌の耐熱性)の評価
1%グルコース水溶液に、B.coagulans(NBRC 12583)を 1.0×104 CFU/mlとなるよう添加し十分に混合し、これを試験管に10mlずつ分注して、各試験管の溶液中に上記調製した殺菌剤1を0.05%(GO:0.0045%、CT:0.0004%含有)添加し、直ちに90℃に設定した湯浴に移し、80℃に達温を確認した後、2分間加熱処理した。次いで、オートクレーブにより、(1)95℃5分間、(2)100℃5分間、(3) 105℃5分間、の滅菌処理条件にて殺菌を行った。なお、比較のため、上記操作において殺菌剤1を添加せず、それ以外は同様に処理した検体を用意した(殺菌剤無添加区)。
【0062】
各検体について、オートクレーブ(滅菌処理)の前後で、試料中のB.coagulans菌数を測定した。なお、菌数の測定は、採取した試料を標準寒天培地(日水製薬製、pH7.0)に植菌して、35℃で48時間培養して菌数をカウントすることで行った。
【0063】
(1) 95℃5分間で滅菌した結果を図2(A)に、(2)100℃5分間で滅菌した結果を図2(B)に、(3)105℃5分間で滅菌した結果を図2(C)に示す。図2(A)〜(C)からわかるように、殺菌剤無添加区と比較して、殺菌剤添加区では、オートクレーブ処理後の菌数が有意に減少することが確認された。特に105℃5分のオートクレーブ処理の場合、殺菌剤無添加区では菌が残存していたの対して、殺菌剤添加区では菌が全て死滅することが確認された。この試験より、レトルト殺菌前に、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを反応させることで、耐熱性有芽胞菌 B.coagulansの耐熱性が減少し、レトルト殺菌時の殺菌温度、および殺菌時間の緩和が可能であることが判明した。
【0064】
実験例3
ぶどう糖0.5%を含む蒸留水に、グルコースオキシダーゼ0.0045%単独、または実験例2(1)で調製した殺菌剤10.05%(GO:0.0045%、CT:0.0004%含有)を添加し、80℃まで加熱したときの過酸化水素の発生量を下記の方法に従って調べた。
【0065】
<過酸化水素量の測定>
試料を5g秤量し、45ml抽出用溶液(リン酸一カリウム、リン酸二ナトリウム、臭素酸カリウム、蒸留水)を加え、試料をストマッカー(30 sec)により破砕、ろ過後、試料とする。なお、一連の操作は氷冷しながら行う。続いて調製した試料について、高感度過酸化水素計(SUPER ORITECTOR MODEL 5:オリエンタル酵母工業株式会社)にて、過酸化水素量の測定を行う。
【0066】
結果を図3に示す。図3中、左縦軸には温度(℃)、右縦軸には過酸化水素量(ppm)、横軸に反応時間(min)を示す。図3に示すように、グルコースオキシダーゼのみを添加した場合には、80℃加熱後も過酸化水素が残存したが、グルコースオキシダーゼに徐放性カタラーゼを併用した殺菌剤1を用いた場合は、80℃加熱後には過酸化水素は検出限界(定量限界1ppm、検出限界0.1ppm)以下に低減していた。この結果から、グルコースオキシダーゼに徐放性カタラーゼを併用することによって、グルコースオキシダーゼとグルコースとの反応によって生じた過酸化水素が十分に除去できることが確認された。
【0067】
実験例4
(1)実験
グルコースを0.1%の割合で含有する焼豚ピックル液を調製し、これを3つ((1)製剤無添加区、(2)抗菌剤添加区、(3)殺菌剤1+抗菌剤添加区)に分け、これらのうち(2)および(3)に対して下記の製剤を添加した:
試験区(1):製剤無添加
試験区(2):抗菌剤(無水酢酸ナトリウム85.6%、フマル酸一ナトリウム5.3%、L-酒石酸ナトリウム2.3%、氷酢酸2.2%、DL-リンゴ酸ナトリウム1.2%、デキストリン3.4%)
試験区(3):殺菌剤1(実験例2参照)+抗菌剤(上記組成と同じ)。
【0068】
調製したピックル液を、豚バラブロック肉内部にインジェクションした(豚バラブロック肉:ピックル液=100:30)。具体的には試験区(2)のピックル液は、豚バラブロック肉100%に対して抗菌剤が0.5%となるような割合で、試験区(3)のピックル液は、豚バラブロック肉100%に対して殺菌剤が0.05%(GO:0.0045%、CT:0.0004%含有)および抗菌剤が0.5%となるような割合でインジェクションした。これをタンブリング(真空、60分)した後、冷蔵庫にて一晩寝かせ、ケーシングした後、燻製(80℃、2時間)(中心温度72℃)した。次いで、冷却させた後、冷蔵保存(2日間)した。
【0069】
これを約4mmにスライスし、レトルトパウチに詰めてヒートシール(15cm×12cm)したものを複数作成し、レトルト殺菌((1)105℃で90秒、(2)110℃で90秒、(3)105℃で90秒)した。次いで37℃で保存して、保存後1日目、7日目、および14日目に開封して10g採取して、菌数を測定した。菌数の測定には、標準寒天培地(日水製薬製)を用いて、35℃で48時間培養した後の菌数をカウントして行った。
【0070】
また14日目には菌数の測定とともにチャーシューに残存している過酸化水素量を実験例3の方法に従って測定した。また、チャーシューの外観並びに味を評価した。
【0071】
(2)結果
レトルト殺菌処理後、37℃保存(1日〜14日)における菌発生状況を表1に示す。保存日数1日目は1検体、7日目は3検体、14日目は5検体について試験を行い、「菌が発生した検体数/測定を行った全検体数」で示す。
【0072】
【表1】

【0073】
レトルト殺菌処理後、37℃で保存14日目にチャーシューに残存している過酸化水素量と、滅菌水90%とチャーシューの試料を10%混合した試料の10%懸濁液のpHを、表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
上記の結果からわかるように滅菌処理前にグルコースオキシダーゼで処理することによって、より緩和された条件(低温)で滅菌することができることが確認された。また、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させても、カタラーゼを併用することで残存過酸化水素量の問題は解消されることが確認された。チャーシューの食味に関して、殺菌剤添加による味への影響はほとんどみられなかった。なお、レトルト殺菌温度105℃<110℃<115℃の順で脂の溶出が認められ、またこの順で肉のパサツキが感じられた。このことから、滅菌処理前にグルコースオキシダーゼで処理することによって(過酸化水素作用)、レトルト殺菌の条件(温度、時間)の緩和が可能であり、その結果、レトルト殺菌処理によるチャーシューの味や食感などの品質低下を防止することができることが確認された。
【0076】
実施例1:プリン飲料(中性ドリンクゼリー)
実験例2で調製した粉末状の殺菌剤1(GO粉末+徐放性CT粉末混合品)を用いて、プリン飲料に対する効果を調べた。下記の処方に従ってプリン飲料を調製した。
【0077】
<処方>
(1)牛乳 20.0 部
(2)砂糖 8.0
(3)脱脂粉乳 1.5
(4)全脂粉乳 1.0
(5)ゲル化剤(ゲルアップ〔登録商標〕K−S*) 0.25
(6)乳化剤(ホモゲン〔登録商標〕NO.1855*)0.5
(7)実験例2で調製した粉末状の殺菌剤 0.01
(8)色素(カロチンベース NO.9400−SV*)0.1
(9)香料(カスタードフレーバーNO.70387*)0.1
水にて 合計 100.00部。
【0078】
具体的には、水と(1)を撹拌機で撹拌しながら、(2)〜(7)の粉体混合物を添加し、80℃、10分間加熱溶解した後、(8)、(9)を添加し、蒸発水を補正し、その後、均質機(14700kPa=150kgf/cm)に通し、プレート型UHT滅菌装置にて140℃で30秒殺菌し、その後、無菌的に容器に充填、冷却、固化させて、プリン飲料を調製した。
【0079】
調製したプリン飲料を35℃の恒温器にて3週間保存したが、腐敗は認められなかった。なお、通常の殺菌条件としては140℃60秒程度要していたが、本実施例では140℃30秒の殺菌条件でも腐敗が認められなかったことにより、加熱滅菌処理による品質劣化などの悪影響を回避することができ、香味劣化が少なく、風味が良好なプリン飲料を調製することができた。
【0080】
実施例2:酸乳飲料
実験例2で調製した粉末状の殺菌剤1(GO粉末+徐放性CT粉末混合品)を用いて、酸乳飲料に対する効果を調べた。
【0081】
<処方>
(1)脱脂粉乳 1.10 部
(2)砂糖 2.00
(3)果糖ブドウ糖液糖 8.00
(4)ピーチ5倍濃縮透明果汁 0.80
(5)大豆多糖類(SM−1200*) 0.30
(6)色素(SRレッドK−6*) 0.02
(7)クエン酸* pH3.8に調製
(8)香料(ピーチフレーバーNO.60212) 0.12
(9)サンアロマ FAM NO.9603(N) 0.03
(10)実験例2で調製した粉末状の殺菌剤 0.01
水にて 合計 100.00 部。
【0082】
具体的には、水と果糖ブドウ糖液糖に砂糖と大豆多糖類、粉末状殺菌剤の粉体混合物を投入し、80℃10分間撹拌溶解した後、冷却したものと、水に脱脂粉乳を投入し、60℃10分間撹拌溶解したものとを混合し、果汁を加えた。これを50%W/V クエン酸溶液にてpH3.8に調整後、少量のお湯に溶かした色素を投入した。これを80℃まで加熱して、フレーバーを加え、全量を調整し、14700kPa=150kgf/cmの圧力でホモゲナイズした。プレート型UHT滅菌装置にて95℃、30秒殺菌し、その後、無菌的に容器に充填、冷却して、酸乳飲料を調製した。調製した酸乳飲料を、35℃の恒温器にて3週間保存したが、腐敗は認められなかった。
【0083】
なお、通常の殺菌条件としては98℃30秒程度要していたが、本実施例では95℃30秒の殺菌条件でも腐敗が認められなかったことにより、加熱滅菌処理による品質劣化などの悪影響を回避することができ、色素の退色や香味劣化が少なく、風味が良好な酸乳飲料を調製することができた。
【0084】
実施例3:缶コーヒー
実験例2で調製した粉末状の殺菌剤1(GO粉末+徐放性CT粉末混合品)を用いて、缶コーヒーに対する効果を調べた。下記の方法で缶コーヒーを調製した。
【0085】
(1)粗挽きしたL値23のコーヒー生豆5.5kgに予めカルキを抜いた豆量の5倍量の沸騰水を加えて撹拌し、40分間浸漬後、メッシュ(目開き1.0mm、篩い番号16)とろ紙(ろ過精度12μm)にてろ過し、得られた抽出液を室温まで冷却した。
(2)イオン交換水を撹拌しながら、砂糖5.9kgを添加し、70℃10分間撹拌溶解して、50%(w/w)砂糖水溶液を調製した。
(3)イオン交換水を75℃まで加熱した。
(4)(3)に撹拌しながら、乳化剤(ホモゲン(登録商標)NO.1379*) 0.14kgを少量ずつ添加し、75℃10分間撹拌溶解した後、室温まで冷却した。
(5)上記(2)で調製した砂糖水溶液、(4)で調製した乳化剤含有水溶液、牛乳13kg、(1)で調製したコーヒー抽出液、および殺菌剤1 0.03kgの順番で添加混合し、10%(w/v)重曹水溶液にてpH6.7に調整後、イオン交換水にて全量調整した。
(6)70℃まで加熱し9.8×10Pa/4.9×10Pa(100/50kgf/cm)の圧力でホモゲナイズした。
(7)品温75℃にて缶容器に充填し、121℃にて15分間レトルト殺菌して、缶コーヒーを調製した。
【0086】
調製した缶コーヒーを35℃の恒温器にて3週間保存したが、腐敗は認められなかった。
なお、通常の殺菌条件としては123℃20分間程度要していたが、本実施例では121℃15分の殺菌条件でも腐敗が認められなかったことにより、加熱滅菌処理による品質劣化などの悪影響を回避することができ、風味良好な缶コーヒーを調製することができた。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】オートクレーブ処理による滅菌効果を、過酸化水素存在下と非存在下で比較した実験結果を示す(実験例1)。図(A)は105℃5分のオートクレーブ処理による結果、図(B)は110℃5分のオートクレーブ処理による結果を示す。
【図2】オートクレーブ処理による滅菌効果を、殺菌剤(グルコースオキシダーゼ+徐放性カタラーゼ)存在下と非存在下で比較した実験結果を示す(実験例2)。図(A)は95℃5分のオートクレーブ処理による結果、図(B)は100℃5分のオートクレーブ処理による結果、図(C)は105℃5分のオートクレーブ処理による結果を示す。
【図3】実験例3における時間毎の温度と過酸化水素発生量(残存量)との関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性有芽胞菌に過酸化水素を作用させることを特徴とする、耐熱性有芽胞菌の耐熱性低減方法。
【請求項2】
過酸化水素の作用を、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることによって行う請求項1に記載する方法。
【請求項3】
被験組成物を密封包装状態で滅菌処理する工程を有する滅菌組成物の製造方法であって、当該滅菌処理を、被験組成物に過酸化水素を作用させてからカタラーゼを作用させる工程の過酸化水素の作用中または作用後に行うことを特徴とする方法。
【請求項4】
被験組成物を滅菌処理後、無菌充填してから密封包装する工程を有する滅菌組成物の製造方法であって、当該滅菌処理を、被験組成物に過酸化水素を作用させてからカタラーゼを作用させる工程の過酸化水素の作用中または作用後に行うことを特徴とする方法。
【請求項5】
被験組成物に対する過酸化水素の作用を、グルコースの存在下でグルコースオキシダーゼを作用させることによって行う請求項3又は4に記載する方法。
【請求項6】
滅菌処理を、被験組成物にグルコースの存在下、グルコースオキシダーゼ及び徐放化したカタラーゼを含む殺菌剤を添加した後に行うことを特徴とする、請求項5に記載する方法。
【請求項7】
徐放化したカタラーゼが、カタラーゼと油脂を混合して製剤化してなるものである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
油脂が、高級脂肪酸、ショ糖脂肪酸エステル、及びモノグリセライドからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
請求項3乃至8のいずれかに記載する製造方法によって得られた滅菌組成物。
【請求項10】
滅菌組成物が、加工食品、医薬品、または化粧品である請求項9に記載する滅菌組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−149385(P2006−149385A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−322954(P2005−322954)
【出願日】平成17年11月7日(2005.11.7)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】