説明

滅菌装置

【課題】低エネルギーの電子線によっても、被滅菌物を効率的に滅菌することができる滅菌装置を提供する。
【解決手段】電子線照射装置11を用い、チャンバー2内に収容された被滅菌物を滅菌する滅菌装置1において、チャンバー2内に設けられ、電子線の衝突により原子中の電子が二次電子として飛び出す二次電子発生部材12と、二次電子発生部材12から被滅菌物に至るチャンバー2内の領域に、過酸化水素を導入する過酸化水素導入装置16とを備え、電子線照射装置11より二次電子発生部材12の被滅菌物側の面に電子線を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば医療器具や実験器具等の被滅菌物を、電子線を用いて滅菌する滅菌装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より低エネルギーの電子線を用いてペットボトル等の飲料容器を殺菌する技術は知られており、更に、過酸化水素(H22)ガスを導入することにより、電子線が行き渡らない部分の殺菌を行うものも開発されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
これらの従来技術では、チャンバー内にペットボトル等を収容した状態で、電子線照射装置にて発生した電子線(一次電子)を直接ペットボトルに照射することにより殺菌を行っており、過酸化水素はガス状又はミスト状でチャンバー内に導入され、それ自体が殺菌に寄与すると共に、電子線にて過酸化水素がOHラジカルなどのより強力な活性酸素となり、これらによる殺菌作用も得られるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2009−538787号公報
【特許文献2】特表2010−524784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、医療器具のように対象物の「滅菌」が必要となる場合には、更なる効果の向上を達成しなければならず、そのために従来では反射板を用いて電子線を反射させ、この反射電子を対象物に照射し、或いは、磁場を用いて電子線(一次電子)を対象物方向に偏向させていたが、滅菌を行うためには尚も課題が残されていた。
【0006】
一方、電子線(一次電子)が金属等に照射された場合、二次電子が発生する。この二次電子は、金属等に電子線(一次電子)を衝突させたときに、当該金属を構成する原子中の電子が飛び出したものである。この二次電子は一次電子に比してエネルギーが低く、飛程も短いことから従来では殆ど無視されて来たが、例えば100keVの一次電子の衝突に対して約1000個というレベルの多数の二次電子が発生するため、この二次電子を有効に活用できれば、効率的な滅菌を実現できる。
【0007】
本発明は、係る従来の技術課題を解決するために成されたものであり、低エネルギーの電子線によっても、被滅菌物を効率的に滅菌することができる滅菌装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の滅菌装置は、電子線照射装置を用い、チャンバー内に収容された被滅菌物を滅菌するものであって、チャンバー内に設けられ、電子線の衝突により原子中の電子が二次電子として飛び出す二次電子発生手段と、この二次電子発生手段から被滅菌物に至るチャンバー内の領域に、過酸化水素を導入する過酸化水素導入手段とを備えており、電子線照射装置より二次電子発生手段の被滅菌物側の面に電子線を照射することを特徴とする。
【0009】
請求項2の発明の滅菌装置は、上記において電子線照射装置からの電子線を二次電子発生手段に向かわせる磁場を発生する偏向手段を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明の滅菌装置は、上記各発明において過酸化水素導入手段は、二次電子発生手段の被滅菌物側の面に過酸化水素を導入することを特徴とする。
【0011】
請求項4の発明の滅菌装置は、上記各発明において二次電子発生手段の被滅菌物側の面に対する電子線照射装置からの電子線の入射角度が鋭角となるよう構成したことを特徴とする。
【0012】
請求項5の発明の滅菌装置は、上記各発明において二次電子発生手段にて発生した二次電子を被滅菌物に向かわせる磁場を発生する偏向手段を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項6の発明の滅菌装置は、上記各発明において二次電子発生手段は被滅菌物の周囲を囲繞するよう設けられ、且つ、内径が変更可能とされていることを特徴とする。
【0014】
請求項7の発明の滅菌装置は、請求項1乃至請求項5のうちの何れかにおいてチャンバー内で二次電子発生手段の角度及び位置を変更する手段を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項8の発明の滅菌装置は、上記各発明において被滅菌物を、少なくとも電子線及びガスに対して暴露された状態で保持し、チャンバー内で移動させる保持手段を備えたことを特徴とする。
【0016】
請求項9の発明の滅菌装置は、上記各発明においてチャンバー内に滅菌空気を導入する給気手段と、チャンバー内の空気を排出する排気手段とを備え、この排気手段は、過酸化水素など種々の活性酸素を分解する手段を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電子線照射装置を用い、チャンバー内に収容された被滅菌物を滅菌する滅菌装置において、チャンバー内に設けられ、電子線の衝突により原子中の電子が二次電子として飛び出す二次電子発生手段と、この二次電子発生手段から被滅菌物に至るチャンバー内の領域に、過酸化水素を導入する過酸化水素導入手段とを備えており、電子線照射装置より二次電子発生手段の被滅菌物側の面に電子線を照射するようにしたので、電子線照射装置から二次電子発生手段に電子線(一次電子)を照射して多数の二次電子を発生させ、この二次電子を被滅菌物に照射して滅菌することができるようになる。
【0018】
また、過酸化水素導入手段により導入した過酸化水素が直接被滅菌物に作用すると共に、過酸化水素が多数の二次電子によりOHラジカルなどのより強力な活性酸素に効果的に変化し、これらが被滅菌物に作用する。これらにより、本発明によれば電子線照射装置から照射される電子線(一次電子)が低エネルギーの電子線であっても、チャンバー内の被滅菌物を極めて効果的且つ効率的に滅菌することが可能となるものである。
【0019】
この場合、請求項2の発明の如く電子線照射装置からの電子線(一次電子)を二次電子発生手段に向かわせる磁場を発生する偏向手段を設ければ、電子線照射装置からの電子線(一次電子)を効果的に二次電子発生手段に照射し、効率的に二次電子を発生させて滅菌効果を向上させることができるようになる。
【0020】
また、請求項3の発明の如く過酸化水素導入手段により、二次電子発生手段の被滅菌物側の面に過酸化水素を導入するようにすれば、二次電子発生手段にて発生した二次電子により過酸化水素を効率的にOHラジカルなどのより強力な活性酸素に変化させ、これらによる滅菌効果を向上させることができるようになる。
【0021】
更に、請求項4の発明の如く二次電子発生手段の被滅菌物側の面に対する電子線照射装置からの電子線の入射角度が鋭角とすることで、二次電子発生手段における二次電子の放出効率を向上させて、より多量の二次電子を発生させることができるようになる。
【0022】
また、請求項5の発明の如く二次電子発生手段にて発生した二次電子を被滅菌物に向かわせる磁場を発生する偏向手段を設ければ、二次電子発生手段にて発生した二次電子を効率的に被滅菌物に作用させ、滅菌効果を更に向上させることができるようになる。
【0023】
また、請求項6の発明の如く二次電子発生手段を、被滅菌物の周囲を囲繞するよう設け、且つ、その内径を変更可能とすれば、被滅菌物に周囲から二次電子を作用させ、且つ、被滅菌物の寸法に応じて二次電子発生手段と被滅菌物間の距離が短くなるように二次電子発生手段の内径を変更することで、飛程の短い二次電子を一層効果的に被滅菌物に作用させることができるようになる。
【0024】
他方、請求項7の発明の如くチャンバー内で二次電子発生手段の角度及び位置を変更する手段を設ければ、被滅菌物の形状や寸法に応じて二次電子発生手段の角度や位置を変更し、飛程の短い二次電子を効果的に、且つ、満遍なく被滅菌物に照射することができるようになる。
【0025】
また、請求項8の発明の如く被滅菌物を、少なくとも電子線及びガスに対して暴露された状態で保持し、チャンバー内で移動させる保持手段を設ければ、被滅菌物に満遍なく二次電子や過酸化水素、OHラジカルなどの活性酸素を作用させることができるようになる。
【0026】
更に、請求項9の発明の如くチャンバー内に滅菌空気を導入する給気手段と、チャンバー内の空気を排出する排気手段とを備え、この排気手段に、過酸化水素など種々の活性酸素を分解する手段を設けることにより、被滅菌物の滅菌後に、被滅菌物の更なる汚染を回避しながら、チャンバー内の空気中の過酸化水素などの種々の活性酸素が外部に排出される不都合を防止することができるようになる
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明を適用した一実施例の滅菌装置の正面図である。
【図2】図1の滅菌装置の概略構成図である。
【図3】図1の滅菌装置の動作を説明する側面図である。
【図4】図1の滅菌装置の動作を説明する平面図である。
【図5】図1の滅菌装置の動作を説明するもう一つの平面図である。
【図6】図4の二次電子発生部材の他の実施例の側面図である。
【図7】図4の二次電子発生部材のもう一つの他の実施例の側面図である。
【図8】図7の二次電子発生部材の平面図である。
【図9】図5の二次電子発生部材の他の実施例の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。実施例の滅菌装置1は、例えば病院において医療器具を滅菌し、或いは、実験施設において実験器具等の被滅菌物(図3にPで示す)を滅菌するための装置であり、被滅菌物を内部に収容するチャンバー2を本体内に備え、前面には制御装置3の操作パネル4を臨み、更に、チャンバー2の前面開口を開閉自在に閉塞するチャンバードア6が設けられている。
【0029】
前記チャンバー2は、ステンレス等の酸化に強い素材から構成されており、このチャンバー2の例えば上面には照射窓7が設けられ、この照射窓7は電子線が透過可能な透明な樹脂等の薄膜から成る照射窓保護材8にて被覆されている。そして、この照射窓7に照射ホーン(走査ホーン)9を介して電子線照射装置11が接続されている。照射窓7は照射窓保護材8にて閉塞されているので、後述する如くチャンバー2内に導入され、或いは、発生する過酸化水素やOHラジカル等の活性酸素による破損や劣化等の悪影響を及ぼす不都合が防止される。
【0030】
この電子線照射装置11は、加速器にて1MeV未満の低エネルギーの加速電子線束(電子線)を発生させるもので、発生した電子線(一次電子)は、照射ホーン9を経て照射窓7よりチャンバー2内に照射される。このチャンバー2内には二次電子発生手段としての二次電子発生部材12が設けられている。この二次電子発生部材12は、電子線(一次電子)が衝突した場合に、原子中の電子が二次電子として飛び出しやすい、仕事関数の大きい金属等(例えば、Au、Ag、Fe、Mo、Cu、Ta、Cd、Zr等)の板材から構成されており、全体としては上下が開放し、上側が細くなる円錐形状(図4)、又は、多角錐形状(図5)を呈し、上側の開口が照射窓7の下方に対応している(図2は縦断面を示し、図4及び図5は下から見上げた状態を平面図で示している)。この二次電子発生部材12の具体的な構造については後述する。
【0031】
電子線照射装置11からチャンバー2内に照射された電子線(一次電子)は、二次電子発生部材12の上側の開口から二次電子発生部材12の内側に照射される(図5に破線矢印で示す)。この場合、電子線照射装置11にて発生した電子線(一次電子)は、当該電子線照射装置11が有する偏向器(永久磁石、若しくは、電磁石から成る)、若しくは、チャンバー2や照射ホーン9内に設けた偏向器により生成される磁場(磁力線)によって、被滅菌物(後述する保持装置14)の方向では無く、二次電子発生装置12の内側の面(後述する被滅菌物側の面)に向かうように偏向される。
【0032】
また、前述した如く二次電子発生部材12は上側が細くなる円錐又は多角錐形状を呈しているため、電子線照射装置11からの電子線(一次電子)は、二次電子発生部材12の内側の面、即ち、後述する如く内側に保持される被滅菌物側の面に対して入射角度Xが90°未満、望ましくは60°以下、実施例では30°以下の鋭角となる状態で照射されることになる。
【0033】
ここで、二次電子発生部材12における二次電子の放出効率δは、二次電子発生部材12の被滅菌物側の面と、その面に直交する線とが成す角度をθとした場合、1/cosθに比例する。従って、θの補角に相当する入射角度Xが小さい方が、二次電子の放出効率δは大きくなるので、上述した如く入射角度Xを30°以下の鋭角とすることで、同一のエネルギーの電子線(一次電子)に対する二次電子発生部材12における二次電子の発生量がより増大されることになる。
【0034】
そして、この二次電子発生部材12の内側に、被滅菌物を保持する保持手段としての保持装置14が設けられる(図3)。この保持装置14は、電子線の照射を妨げないよう少なくとも電子線及びガスが通過可能なネット状の支持体15を備えており、被滅菌物はこの支持体15内に収容される。また、この支持体15はチャンバー2内において中空に吊されるように設けられている。これにより、保持装置14の支持体15に保持された被滅菌物は、チャンバー2内において電子線及びガスに暴露された状態となる。尚、被滅菌物は電子線及び過酸化水素その他のガスが透過可能な樹脂等の薄膜から成る袋等の容器で密封された状態で保持装置14の支持体15内に保持される。
【0035】
また、保持装置14は支持体15をチャンバー2内で実施例の場合、上下方向に移動可能とされている。図3中の向かって左側が保持装置14の支持体15が降下した状態、右側が上昇した状態を示している。そして、この保持装置14の支持体15は被滅菌物の寸法(全体量)に合わせてできるだけ小さいものを採用する(後述する如く被滅菌物と二次電子発生部材12間の距離を縮めるため)と共に、この支持体15に被滅菌物が保持された状態で(上下何れの状態においても)、二次電子発生部材12は被滅菌物(支持体15)の周囲を囲繞する。
【0036】
更に、チャンバー2内の二次電子発生部材12の内側であって保持装置14の支持体15の外側には、磁場(磁力線)を生成することで、二次電子発生手段12にて発生した二次電子を図3及び図5に実線矢印で示すように保持装置14の支持体15に保持された被滅菌物に向かわせる偏向手段としての偏向器13(永久磁石、若しくは、電磁石。実施例の場合電磁石)が複数設けられている(図4)。
【0037】
そして、図2中16はチャンバー2内に過酸化水素を導入する過酸化水素導入手段としての過酸化水素導入装置である。過酸化水素導入装置16は、加熱蒸発、超音波霧化、静電霧化等の方式にてガス状、若しくは、ミスト状の過酸化水素を生成し、送風機、若しくは、ポンプにてチューブ17を介し、過酸化水素噴出口18に過酸化水素(ガス若しくはミスト状)を送給するものである。
【0038】
この場合、過酸化水素噴出口18は二次電子発生部材12からその内側に保持装置14の支持体15で保持された被滅菌物に至るチャンバー2内の領域に過酸化水素(ガス、ミスト)を噴出させるためのもので、実施例では二次電子発生部材12の内側面(被滅菌物側の面)に過酸化水素(ガス、ミスト)を噴出させるように二次電子発生部材12近傍のチャンバー2内に配置されている。
【0039】
また、チャンバー2には給気手段としての給気装置21と、排気手段としての排気装置22がチャンバー2内に連通して配管接続されている。給気装置21はHEPAフィルタ23と、送風機24、電磁弁26等を備えており、送風機24が運転され、電磁弁26が開放されることで、HEPAフィルタ23で濾過された滅菌空気がチャンバー2内に供給される。
【0040】
他方、排気装置22は過酸化水素やOHラジカル等の活性酸素を分解する触媒7と、送風機28、電磁弁29等を備えており、送風機28が運転され、電磁弁29が開放されると、チャンバー2内の空気が触媒27を経て外部に排出されるよう構成されている。
【0041】
ここで、前述した二次電子発生部材12の構成例を図6〜図9に示す。電子線(一次電子)の衝突により二次電子発生部材12の原子中から飛び出す電子(二次電子)は、前述した如く一次電子に比べて極めて多数であるものの、その飛程は短い。そこで、二次電子発生部材12にて発生した二次電子を被滅菌物に有効に照射するためには、二次電子発生部材12と被滅菌物との間の距離をできるだけ短くする必要がある。
【0042】
しかしながら、被滅菌物の寸法(全体量)は場合によって異なるため、二次電子発生部材12の形状や寸法は一意的に決定することは難しい。そこで、例えば図6に示す如く二次電子発生部材12を内径が異なり、上下寸法が小さい複数の環状板材12Aから構成し、図6の向かって左側に示すように各板材12A〜12Dを上下に連結した状態と、右側に示すように重合した状態とに変更可能とする。これにより、左側の状態では、下部において二次電子発生部材12の内径は大きくなり、右側の状態では逆に小さくなる。
【0043】
そして、被滅菌物の寸法が大きい場合には図6の左側のような状態としてその下部の内径の比較的大きい板材12Aの内側に被滅菌物が配置されるようにし、逆に小さい場合には右側のような状態として最も内径の小さい板材12Dの内側に被滅菌物が配置されるようにすれば、被滅菌物の寸法に応じて二次電子発生部材12の内径を変更し、被滅菌物と二次電子発生部材12間の距離を必要最小限の値とすることが可能となる。
【0044】
また、他の例として、板材から成る二次電子発生部材12を円錐状とする場合には、図7に示すように軸31に対して二次電子発生部材12を巻き取れるようにし、引き出された部分だけを円錐状として被滅菌物(保持装置14の支持体15)を囲繞するようにしても、被滅菌物の寸法に応じて二次電子発生部材12の内径を変更し、被滅菌物と二次電子発生部材12間の距離を必要最小限の値とすることが可能となる。尚、過酸化水素導入装置16の過酸化水素噴出口18も、二次電子発生部材12の変更に応じて位置を変更できるように構成されている。
【0045】
更に他の例としては、円錐状の場合、図8に示すように円錐状とされた部分に連続する残余部分をストッパー32にて固定できるようにしておき、この残余部分の寸法を調整することで、内径を縮小/拡大できるようにしてもよい。この場合にも被滅菌物の寸法に応じて二次電子発生部材12の内径を変更し、被滅菌物と二次電子発生部材12間の距離を必要最小限の値とすることが可能となる。
【0046】
また、多角錐の場合には、図9に示すように多角錐を構成する各辺を相互に重合可能な複数(実施例では2枚)の板材12Fにて構成し、これら板材12Fの重なり代を変更できるようにしてもよい。この場合にも被滅菌物の寸法に応じて二次電子発生部材12の内径を変更し、被滅菌物と二次電子発生部材12間の距離を必要最小限の値とすることが可能となる。
【0047】
そして、滅菌装置1の電子線照射装置11、偏向器13、保持装置14、過酸化水素導入装置16、給気装置21及び排気装置22は、制御装置3により制御される。
【0048】
以上の構成で次に実施例の滅菌装置1の動作を説明する。被滅菌物の滅菌を行う場合、チャンバードア6を開け、前述した如く電子線及び過酸化水素その他のガスが透過可能な袋等(タイベック(登録商標))の容器で密封された状態で保持装置14の支持体15内に被滅菌物を収納する。この場合、前述した如く被滅菌物の寸法(全体量)に応じて支持体15の寸法も最小限のものに変更しておく。また、前述した如く保持装置14による支持体15の移動によっても二次電子発生部材12に衝突しない範囲で、二次電子発生部材12の内径を小さくし、被滅菌物と二次電子発生部材12間の距離が必要最小限となるように調整する(過酸化水素噴出口18の位置も調整する)。
【0049】
そして、チャンバードア6を閉め、制御装置3の操作パネル4を操作して滅菌運転を開始する。制御装置3は滅菌運転の開始が指令されると、電子線照射装置11を起動し、前述した如く電子線(一次電子)を二次電子発生部材12の内側、被滅菌物側の面に前述した入射角度で照射する。また、過酸化水素導入装置16を起動し、過酸化水素噴出口18より過酸化水素(ガス、ミスト)を二次電子発生部材12の被滅菌物側の面に噴出させる。更に、保持装置14を動作させて支持体15を二次電子発生部材12の内側で上下動させる。
【0050】
前述した如く二次電子発生部材12の被滅菌物側の面では、電子線照射装置11からの電子線(一次電子)が衝突することで、二次電子発生部材12を構成する原子中の電子が多数飛び出してくる。この二次電子は偏向器13にて被滅菌物方向に偏向され、被滅菌物に照射され、被滅菌物表面に付着した細菌やチャンバー2内を浮遊する細菌等を滅菌する。また、過酸化水素噴出口18から二次電子発生部材12の被滅菌物側の面に噴出された過酸化水素(ガス、ミスト)は、そこで発生した二次電子によりOHラジカル等のより強力な活性酸素に変化し、この活性酸素が被滅菌物表面やチャンバー2内の浮遊細菌等を滅菌する。また、変化しなかった過酸化水素はそれ自体でも被滅菌物表面やチャンバー2内の細菌に作用して、滅菌に寄与する。
【0051】
また、保持装置14は被滅菌物を上下に移動させるので、被滅菌物全体が満遍なく滅菌されることになる。そして、所定の滅菌時間が終了した場合、制御装置3は電子線照射装置11、保持装置14、過酸化水素導入装置16の運転を停止し、排気装置22と給気装置21の送風機28、24を動作させ、電磁弁29、26を開放する。チャンバー2内の空気が排気装置22から外部に排出され、それに代わって給気装置21から外部の空気がチャンバー2内に吸引される。
【0052】
この場合、過酸化水素やOHラジカル等の活性酸素を含むチャンバー2内の空気は、排気装置22の触媒27を通過する過程で分解されるので、これらが外部に排出されることも無い。また、給気装置21から吸引される空気は、HEPAフィルタ23にて濾過された滅菌空気であるので、外気によって被滅菌物が再度汚染されることも無い。
【0053】
尚、滅菌終了後に上記チャンバー2内の空気の入れ換えを行う以前に、或いは、それに代えて、被滅菌物(支持体15)を電子線から隔離する手段をチャンバー2内に設け、隔離した状態で電子線照射装置11からチャンバー2内に電子線を照射し、チャンバー2内の過酸化水素などの活性酸素を分解する工程を制御装置3が行うようにしてもよい。
【0054】
そして、このような滅菌終了後の運転が終了した後、制御装置3は操作パネル4にて所定の終了告知(LEDランプの点灯やブザーの鳴動等)を行う。作業者はこれを確認してチャンバードア6を開け、チャンバー2内から被滅菌物を取り出すものである。
【0055】
このように、チャンバー2内に電子線の衝突により原子中の電子が二次電子として飛び出す二次電子発生部材12と、この二次電子発生部材12から被滅菌物に至るチャンバー2内の領域に、過酸化水素を導入する過酸化水素導入装置16とを設け、電子線照射装置11より二次電子発生部材12の被滅菌物側の面に電子線を照射することにより、電子線照射装置11から二次電子発生部材12に電子線(一次電子)を照射して多数の二次電子を発生させるようにしたので、この二次電子を被滅菌物に照射して滅菌することができるようになる。
【0056】
また、過酸化水素導入装置16により導入した過酸化水素が直接被滅菌物に作用すると共に、過酸化水素が多数のOHラジカル等のより強力な活性酸素に効果的に変化し、これらが被滅菌物に作用する。これらにより、本発明によれば電子線照射装置11から照射される電子線(一次電子)が低エネルギーの電子線であっても、チャンバー2内の被滅菌物を極めて効果的且つ効率的に滅菌することが可能となる。
【0057】
この場合、電子線照射装置11からの電子線(一次電子)を二次電子発生部材12に向かわせる磁場を発生する偏向器を電子線照射装置11自体、或いは、チャンバー2内に設けているので、電子線照射装置11からの電子線(一次電子)を効果的に二次電子発生部材12に照射し、効率的に二次電子を発生させて滅菌効果を向上させることができるようになる。
【0058】
また、過酸化水素導入装置16により、二次電子発生部材12の被滅菌物側の面に過酸化水素を導入するようにしているので、二次電子発生部材12にて発生した二次電子により過酸化水素を効率的にOHラジカル等のより強力な活性酸素に変化させ、これらによる滅菌効果を向上させることができるようになる。
【0059】
更に、二次電子発生部材12の被滅菌物側の面に対する電子線照射装置11からの電子線の入射角度を鋭角としているので、二次電子発生部材12における二次電子の放出効率を向上させて、より多量の二次電子を発生させることができるようになる。
【0060】
また、二次電子発生部材12にて発生した二次電子を被滅菌物に向かわせる磁場を発生する偏向器13を設けているので、二次電子発生部材12にて発生した二次電子を効率的に被滅菌物に作用させ、滅菌効果を更に向上させることができる。
【0061】
また、二次電子発生部材12を、被滅菌物の周囲を囲繞するよう設け、且つ、その内径を変更可能としているので、被滅菌物に周囲から二次電子を作用させ、且つ、被滅菌物の寸法に応じて二次電子発生部材12と被滅菌物間の距離が短くなるように二次電子発生部材12の内径を変更し、飛程の短い二次電子を一層効果的に被滅菌物に作用させることができるようになる。
【0062】
また、被滅菌物を保持装置14の支持体15により、少なくとも電子線及びガスに対して暴露された状態で保持し、チャンバー2内で移動させるので、被滅菌物に満遍なく二次電子や過酸化水素、OHラジカル等の活性酸素を作用させることができるようになる。
【0063】
更に、チャンバー2内に滅菌空気を導入する給気装置21と、チャンバー2内の空気を排出する排気装置22とを備え、この排気装置22に、過酸化水素など種々の活性酸素を分解する触媒27を設けているので、被滅菌物の滅菌後に、被滅菌物の更なる汚染を回避しながら、チャンバー2内の空気中の種々の活性酸素が外部に排出される不都合を防止することができる。
【0064】
尚、上記実施例では二次電子発生部材12を円錐状、多角錐状とし、被滅菌物の周囲を囲繞するようにしたが、それに限らず、平板状の板材にて二次電子発生部材12を構成し、この二次電子発生部材12をチャンバー2内で角度、位置を変更する装置を設けても本発明は有効である。それによっても被滅菌物の形状や寸法に応じて二次電子発生部材12の角度や位置を変更し、飛程の短い二次電子を効果的に、且つ、満遍なく被滅菌物に照射することができるようになる。
【符号の説明】
【0065】
1 滅菌装置
2 チャンバー
3 制御装置
11 電子線照射装置
12 二次電子発生部材(二次電子発生手段)
13 偏向器(偏向手段)
14 保持装置(保持手段)
15 支持体
16 過酸化水素導入装置(過酸化水素導入手段)
18 過酸化水素噴出口
21 給気装置(給気手段)
22 排気装置(排気手段)
23 HEPAフィルタ
27 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線照射装置を用い、チャンバー内に収容された被滅菌物を滅菌する滅菌装置において、
前記チャンバー内に設けられ、電子線の衝突により原子中の電子が二次電子として飛び出す二次電子発生手段と、
該二次電子発生手段から前記被滅菌物に至る前記チャンバー内の領域に、過酸化水素を導入する過酸化水素導入手段とを備え、
前記電子線照射装置より前記二次電子発生手段の前記被滅菌物側の面に電子線を照射することを特徴とする滅菌装置。
【請求項2】
前記電子線照射装置からの電子線を前記二次電子発生手段に向かわせる磁場を発生する偏向手段を備えたことを特徴とする請求項1に記載の滅菌装置。
【請求項3】
前記過酸化水素導入手段は、前記二次電子発生手段の前記被滅菌物側の面に過酸化水素を導入することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の滅菌装置。
【請求項4】
前記二次電子発生手段の前記被滅菌物側の面に対する前記電子線照射装置からの電子線の入射角度が鋭角となるよう構成したことを特徴とする請求項1乃至請求項3のうちの何れかに記載の滅菌装置。
【請求項5】
前記二次電子発生手段にて発生した二次電子を前記被滅菌物に向かわせる磁場を発生する偏向手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のうちの何れかに記載の滅菌装置。
【請求項6】
前記二次電子発生手段は前記被滅菌物の周囲を囲繞するよう設けられ、且つ、内径が変更可能とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の滅菌装置。
【請求項7】
前記チャンバー内で前記二次電子発生手段の角度及び位置を変更する手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載の滅菌装置。
【請求項8】
前記被滅菌物を、少なくとも電子線及びガスに対して暴露された状態で保持し、前記チャンバー内で移動させる保持手段を備えたことを特徴とする請求項1乃至請求項7のうちの何れかに記載の滅菌装置。
【請求項9】
前記チャンバー内に滅菌空気を導入する給気手段と、前記チャンバー内の空気を排出する排気手段とを備え、該排気手段は、過酸化水素など種々の活性酸素を分解する手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のうちの何れかに記載の滅菌装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−70773(P2012−70773A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−215824(P2010−215824)
【出願日】平成22年9月27日(2010.9.27)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】