説明

滑動部材

本発明は、内燃機関の滑動部材、特にピストンリングに関する。本発明の滑動部材は、ta-CタイプのDLCコーティングを含み、少なくともひとつの残留応力勾配を含み、前記コーティングの外側から内側を見て、負の応力勾配が前記コーティングの中心領域(II)に形成され、前記勾配が好ましくは内部領域(III)での前記勾配よりも小さく、かつ前記内部領域(III)が前記中心領域(II)よりも小さい層厚さを有することを特徴とする、滑動部材に関する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の滑動部材、特にピストンリングに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関での二酸化炭素を削減する場合、燃料消費が本質的な役割を果たす。これは、本質的にエンジン内の摩擦損失によるものであり、特にピストン領域、例えばピストンリングでそうである。従って、内燃機関の滑動部材、特にピストンリングについての要求、ピストンリングの使用寿命に亘る最善の可能な摩擦特性を持つ、という要求が存在する。全使用寿命に関しては、慣らし運転中特性について、摩擦学的性質を変更し得るあらゆる可能な潤滑性血管及び焼き付き形成などが考慮されねばならなない。
【0003】
当該技術分野においては、硬質基材料上にPVDコーティングすることで、良好な磨耗耐性を持つことは知られている一方で該摩擦係数につき一層改良することが望まれている。
【0004】
DE102005063123B3による、外側から内側への層構造は、慣らし運転層、接着層及び磨耗抵抗層を有する。しかしながら、全寿命に亘る摩擦特性はなお改良されねばならない。
【0005】
US65281156は、sp2/sp3比率を変える炭素コーティングを持つ滑動部材に関し、特にこの比率が基材から外側に向かって減少し、コーティングの外側に向かって再び増加するものに関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、内燃機関の滑動部材、特にピストンリングを提供することであり、前記滑動部材は、使用可能な最大期間に亘る好ましい摩擦特性を安定して発揮することができるものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題は、請求項1に記載の通りの滑動部材1の手段により解決される。
【0008】
従って、前記滑動部材は、ta-CタイプのDLCコーティングを有し、その厚さに対して変化する残留応力を有する。言い換えれば、少なくともひとつの残留応力勾配が前記コーティング上の厚さに対し形成されている。「DLC」は既知のようにダイヤモンド状炭素(Diamond-like
Carbon)の略語である。ta-Cタイプは、四面体構造により特徴付けられ、水素を含まず、例えばVDIガイドライン2840に定義されるものである。このタイプの層は、良好な摩擦特性を持つと同時にさらに、つぎの理由により特に長寿命を持つ。
【0009】
第一に、前記層の厚さに対し残留応力を変化させることで、大きい層厚さを作成することができ(例えば10μm)、しかも前記層の接着性又は壊れ易さに関してなんら問題を生じることもない。この理由は、前記層中の底残留応力の領域は、層全組成物(即ち多層コーティング)に局所的緩和又は応力緩和を与えるからである。このようにして、内燃機関で使用されるような高いシェア応力がある場合でも、DLCコーティングの弾性限界は超えられることはない。従って、これは、前記コーティングの磨耗を限定するために効果的である。
【0010】
前記コーティングの中心付近(すなわち、外側でもなく内側でもない)の領域については、負の残留応力勾配が、好ましくは、前記コーティングの内側領域、即ち基材に到達する領域での負の残留応力勾配よりは小さい勾配が効果的であることが示された。この方法で、最大のレベルを持つ残留応力は前記コーティングの比較的外側に存在し、これにより好ましい特性を達成することができる。
【0011】
本発明において、中心領域は内部領域よりもより大きい層厚を持ち、好ましくは、非常に大きく3倍程度の大きさである。
【0012】
本発明の滑動部材の好ましい実施態様は以下の従属請求項に記載される。
【0013】
前記滑動部材の基材とコーティングの境界については、この中(即ち外側から内側を見て、内側の滑動部材のコーティングの領域)の負の残留応力勾配は有利であることが示される。言い換えると残留応力は基材へ向かって低い値へと減少し、それにより基材へ好ましい応力変化を与え前記層への良好な接着性を達成する。
【0014】
特に非常に高い表面圧力が予想される滑動部材の場合については、最も内側の領域(即ち、基材に直接対面する)に一定の低い残留応力性があることは好ましい。
【0015】
さらに、同様の一定の比較的低い残留応力性(しかし好ましくは最も内側野領域よりも高いレベルであり)であって、前記コーティングの外側に与えられる残留応力性により、慣らし運転特性がさらに改良される。
【0016】
ここで記載される他の実施態様では、前記コーティングのクラックの拡がりを防止するために、中央領域の広い範囲に亘って変化する残留応力が有利であることが示された。これに関連して、低残留応力を持つ領域の寸法は、高い残留応力を持つ領域の寸法よりも小さいか、同じ程度か、又は大きくてもよい。
【0017】
繰り返しのため、即ち、低残留応力を持つ層の始まりと高い残留応力を持つ領域を渡り低い残留応力を持つ次の領域の間の厚さは、0.1〜1μmであり得る。
【0018】
すなわち、ここで説明された方法により、10μm以上の厚さを持つコーティングが生成され、これにより好ましい慣らし運転特性が達成されるのみならず、十分な層厚さを持つことから、避けることのできない磨耗の後の前記コーティングの好ましい摩擦特性を持つ長寿命が保証される。
【0019】
異なる残留応力を生成させるために、例えば、sp及びsp混成炭素原子の比率を変えることが有利である。特に圧力残留応力は、sp部分が増えると増加され、このことは全体として残残留応力勾配の形成を可能にする。
【0020】
これは同様に密度を増加することで適用され、コーティング層の厚さに亘り層の密度を変化させることで、前記コーティング層に亘る残留応力の変化を好ましく生成することができる。
【0021】
最後に、前記コーティング層の厚さに亘る層の硬度を変化させることが考えられ、より高い硬度はより大きい圧力残留応力を生じる結果となり、この方法で望ましい残留応力勾配が設定され得る。
【0022】
最後に厚さを横切る層の硬度を変更することが考慮される。というのはより高い硬度はより大きな圧縮応力を生じる結果となり、従ってこれはまた、望ましい残留応力勾配を設定することことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
本発明は以下の実施態様につき例示として、図面を参照して詳細に説明される。
【図1】図1は、第一の実施態様によるDLCコーティングの厚さに亘る残留応力プロフィルを示す。
【図2】図2は、第二の実施態様によるDLCコーティングの厚さに亘る残留応力プロフィルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図において、DLCコーティングの残留応力はそれぞれ前記コーティングの厚さに亘りマークされており、最も外側が図面左側に、最も内側が図面右側に描かれる。言い換えると、基材(例えば鋼又はねずみ鋳鉄)は図面の右に示される残留応力を持つコーティングに隣接する。
【0025】
図1で示される実施態様においては、(外側から内側へ)負の残留応力勾配が、前記コーティングの内側領域又は「前記コーティングの「基材」(領域III)から始まって形成される。言い換えると、前記基材と前記コーティングとの境界での残留応力は、良好な応力変化及び前記コーティングの接着性を達成するために特に低いレベルである。中間領域(II)では、残留応力はさらに徐々に(しかしより低い勾配をもって)最も高いレベルへ増加される。外側(領域I)では、残留応力は大きく減少し、従って、外側から内側へ高い正の残留応力勾配が形成され、これにより好ましい慣らし運転性能の結果となる。中心領域IIは内部領域III及び/又は外側領域Iに比べて非常に大きい。好ましくは、中心領域IIは他の領域I及びIIIよりも大きい。これら2つの領域I及びIIIはほぼ同じ厚さであってよい。中心領域IIの厚さは好ましくは、他の2つの領域よりもずっと大きい、特に他の領域I及びIIIの3倍程度であることが好ましい。
【0026】
図2の実施態様では、最も外側の領域Iの残留応力は初めは一定の低い値であり、その後(領域I.2)大きく増加される。これにより、領域I及び領域IIの間に適当な転移が提供され、残留応力は大きく変わる。特に、一定の高い残留応力はシェア応力が負荷される場合、クラックの恐れがあることが見出された。領域IIでの変化する残留応力はクラックの進展を防止する。例示の方法で、この領域の繰り返し厚さは、例えば0.1及び1μmの間で可能である。図1に実施態様と同様に、強い負の残留応力勾配を持つ隣接する領域III.1が存在し基材(図面の右)に面する。一定の低残留応力の領域III.2が基材へ直接隣接し、前記基材へ良好な応力変化提供し、及び良好な接着性を達成する。具体的に、領域III.2の残留応力レベルは、最も外側の領域I.2よりも低く、及び領域IIの残留応力は、領域Iの完全に最大値と、領域Iのレベルの少し上のレベルの間で変更することができる。
【0027】
追加されるべきことは、両方の図において、点Dから点Cへ伸びる領域Iはほぼお互いに対応するということである。同様に中心領域IIについても適用される。即ち点C及び点Bの間である。さらに対応する領域IIIについても同様である、即ち点B及び点Aである。特に上で説明した厚さの比率は図2にも適用され得る。最後に留意すべきは、上で説明された実施態様のそれぞれの構成はまた矛盾しない限り組み合わされ得るということである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の滑動部材、特にピストンリングであり、ta-CタイプのDLCコーティングを有し、前記コーティングの厚さに亘り残留応力が変化し、従って少なくとも一つの残留応力勾配を含み、前記外側から見て、負の応力勾配は前記コーティングの中心領域(II)に形成され、前記勾配が好ましくは内部領域(III)での前記勾配よりも小さく、かつ前記内部領域(III)が前記中心領域(II)よりも小さい層厚さを有することを特徴とする、滑動部材。
【請求項2】
請求項1に記載の滑動部材であり、前記外側から見て、前記基材に面する領域(III)に、負の応力勾配が形成される、滑動部材。
【請求項3】
請求項1又は2のいずれか一項に記載の滑動部材であり、前記外側から見て、前記外側上に配置される領域(I)において、正の応力勾配が形成される、滑動部材。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の滑動部材であり、前記コーティングの外側から内側を見て、前記コーティングの最も内側(III.2)及び/又は最も外側領域(I.1)の残留応力勾配が実質的に一定である、滑動部材。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の滑動部材であり、前記コーティングの最も内側領域での前記残留応力が、最も外側領域で前記残留応力よりも小さい、滑動部材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の滑動部材であり、前記コーティングが少なくとも10μm厚さである、滑動部材。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の滑動部材であり、残留応力勾配を持つ少なくともひとつの領域が、sp及びsp混成炭素原子間の比率が変化する、滑動部材。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の滑動部材であり、残留応力勾配を持つ少なくともひとつの領域で、前記層の密度が変化する、滑動部材。
【請求項9】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の滑動部材であり、残留応力勾配を持つ少なくともひとつの領域で、前記層の硬度が変化する、滑動部材。


【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−527583(P2012−527583A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511280(P2012−511280)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/EP2010/056885
【国際公開番号】WO2010/133633
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511081750)フェデラル−モーグル ブルシャイド ゲーエムベーハー (5)
【Fターム(参考)】