説明

漂白助剤組成物および故紙漂白処理方法

【課題】故紙の漂白に優れた漂白助剤組成物および故紙漂白処理方法の提供。
【解決手段】過酸化水素と併用され、故紙の漂白に使用される漂白助剤組成物において、遷移金属を含む水溶性塩(A)と、特定のアミノカルボン酸(B)とを含有することを特徴とする漂白助剤組成物、および当該漂白助剤組成物を使用する故紙漂白処理方法。前記遷移金属を含む水溶性塩(A)は、コバルト、銅、マンガン、又は鉄を含む水溶性塩であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漂白助剤組成物、および該漂白助剤組成物を使用した故紙漂白処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
故紙の漂白は、使用済みの紙や新聞紙などの故紙、脱墨剤、アルカリ剤、および水等を混ぜて離解を行い、その後、漂白処理を施し、インク等の汚れを洗い流す方法により行われている。
漂白処理には、塩素の代替として過酸化水素が使用されるようになってきている。
過酸化水素は、それ単独では塩素に比べて、故紙に対する漂白作用が弱いため、漂白力の向上が課題であった。
【0003】
この漂白力の向上への対策としては、たとえば、過酸化水素とともに酵素を使用して、故紙の漂白を行う方法が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特表平9−503257号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法においては、故紙をかかる方法により漂白処理して作られた再生紙の白色度は未だ充分ではなく、さらなる白色度の向上が求められていた。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、故紙の漂白に優れた漂白助剤組成物および故紙漂白処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
すなわち、本発明は、過酸化水素と併用され、故紙の漂白に使用される漂白助剤組成物において、遷移金属を含む水溶性塩(A)と、下記一般式(I)〜(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノカルボン酸(B)とを含有することを特徴とする漂白助剤組成物である。
【0006】
【化1】

[式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を表す。pは1又は2の整数を表す。式(II)中、X〜Xは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はカチオン性アンモニウム基を表す。Rは水素原子又は水酸基を表し、Qは水素原子又はアルキル基を表し、nは0又は1の整数を表す。式(III)中、Yはアルキル基、水酸基、又は水素原子を表す。X〜Xは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はカチオン性アンモニウム基を表す。nは0〜5の整数を表す。]
【0007】
本発明の漂白助剤組成物においては、前記遷移金属を含む水溶性塩(A)が、コバルト、銅、マンガン、又は鉄を含む水溶性塩であることが好ましい。
また、本発明の漂白助剤組成物においては、前記一般式(II)で表される化合物が、2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩、又は3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩であることが好ましい。
また、本発明の漂白助剤組成物においては、前記一般式(III)で表される化合物が、メチルグリシンジ酢酸又はその塩であることが好ましい。
また、本発明の漂白助剤組成物においては、前記一般式(I)で表される化合物が、2−ピリジンカルボン酸若しくはその塩、又は2,6−ピリジンジカルボン酸若しくはその塩であることが好ましい。
【0008】
本発明の故紙漂白処理方法は、上記本発明の漂白助剤組成物を使用することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の漂白助剤組成物によれば、故紙の漂白に優れる。
また、本発明の故紙漂白処理方法により、故紙から作られる再生紙の白色度を高くできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
≪漂白助剤組成物≫
本発明の漂白助剤組成物は、過酸化水素と併用され、故紙の漂白に使用されるものであり、遷移金属を含む水溶性塩(A)と、前記一般式(I)〜(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノカルボン酸(B)とを含有する。
【0011】
[遷移金属を含む水溶性塩(A)]
遷移金属を含む水溶性塩(A)(以下「(A)成分」という。)は、水に溶解する遷移金属化合物であり、水に溶解した際に遷移金属イオンを放出するものであればよい。
(A)成分における遷移金属は、長周期型周期表における3〜11族の金属元素がつくる単体が挙げられる。具体的には、過酸化水素を活性化する効果が高いことから、マンガン、銅、鉄、銀、コバルト、ニッケル、モリブデンが挙げられる。なかでも、過酸化水素を活性化する効果がより高いことから、コバルト、銅、マンガン、鉄が好ましく、銅、マンガンがより好ましい。
水溶性塩としては、硝酸金属塩、硫酸金属塩、塩化金属塩、過塩素酸金属塩、塩化アンモニウム金属塩、シアン化金属塩等の無機金属化合物;酢酸金属塩、アセチルアセトナート金属塩、グルコン酸金属塩、シュウ酸金属塩、酒石酸金属塩等の有機金属化合物が挙げられる。なかでも、水溶性が良好で、かつ、経済性や使用性の点で有利なことから、硫酸金属塩、塩化金属塩、グルコン酸金属塩が好ましく、硫酸金属塩がより好ましい。
(A)成分として具体的には、硫酸銅、硫酸マンガン、硫酸コバルト、塩化銅、塩化マンガン、塩化鉄、グルコン酸銅等が挙げられる。
また、(A)成分としては、上記遷移金属化合物の水和物も用いることができる。
(A)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0012】
[アミノカルボン酸(B)]
本発明におけるアミノカルボン酸(B)(以下「(B)成分」という。)は、前記一般式(I)〜(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のものである。
(B)成分は、(A)成分に含まれる遷移金属へ配位可能な部位を有する。
【0013】
前記一般式(I)中、Xは、水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を表す。
アルカリ金属原子としては、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
アルカリ土類金属としては、カルシウム、マグネシウム等が挙げられる。たとえばカルシウム(Ca)の場合、式(I)中の「−(COOX)」は「−(COOCa1/2」と表される。
なかでも、Xは、水素原子であることが好ましい。
【0014】
pは、1又は2の整数を表し、1であることが好ましい。
pが2の場合、複数のXは、互いに、同一であっても異なっていてもよい。
pが1のとき、「−COOX」基のピリジン環への結合位置は、窒素原子に対してα位であることが好ましい。pが2のときも、少なくとも1つの「−COOX」基は、α位に結合していることが好ましい。残りの「−COOX」基は、β位又はγ位のいずれに結合していてもよい。
【0015】
前記一般式(I)で表される化合物を、後述する故紙パルプが分散した液中に投入すると、「−(COOX)」の一部又は全部が「−COO」となり、(A)成分から放出される遷移金属イオンとの錯体の形成が可能となる。
本明細書において「故紙パルプ」とは、後述する≪故紙漂白処理方法≫についての説明における脱水工程で得られるものをいう(以下同じ)。
【0016】
前記一般式(I)で表される化合物のなかで好適なものとしては、(A)成分と錯体を良好に形成でき、過酸化水素を活性化する効果がより高まることから、下記化学式(1)で表される化合物(2−ピリジンカルボン酸)若しくはその塩、又は下記化学式(2)で表される化合物(2,6−ピリジンジカルボン酸(ジピコリン酸))若しくはその塩が挙げられる。
【0017】
【化2】

【0018】
前記一般式(II)中、X〜Xは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はカチオン性アンモニウム基を表す。
〜Xにおいて、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子としては、前記式(I)中のXにおけるアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子といずれも同じものが挙げられる。
なお、X〜Xのいずれかがアルカリ土類金属原子である場合、たとえばXがカルシウム(Ca)の場合、式(II)中の「−COOX」は「−COOCa1/2」と表される。
カチオン性アンモニウム基としては、たとえば、「(R11)(R12)(R13)(R14)N」(ただし、R11〜R14は、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はフェニル基である。)等が挙げられる。
上記のなかでも、X〜Xは、いずれもアルカリ金属原子であることが好ましく、ナトリウム又はカリウムであることがより好ましい。
〜Xは、互いに、同一であっても異なっていてもよい。
【0019】
前記一般式(II)中、Rは、水素原子又は水酸基を表し、水酸基であることが好ましい。
Qは、水素原子又はアルキル基を表す。
Qにおいて、アルキル基としては、炭素数1〜4であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
は、0又は1の整数を表し、1であることが好ましい。
【0020】
前記一般式(II)で表される化合物を、故紙パルプが分散した液中に投入すると、−COOX、−COOX、−COOX、および−COOXの一部又は全部が「−COO」となり、(A)成分から放出される遷移金属イオンとの錯体の形成が可能となる。
【0021】
前記一般式(II)で表される化合物のなかで好適なものとしては、(A)成分と錯体を良好に形成でき、過酸化水素を活性化する効果がより高まることから、下記化学式(3)で表される化合物(2,2’−イミノジコハク酸)若しくはその塩、又は下記化学式(4)で表される化合物(3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸)若しくはその塩が挙げられる。
【0022】
【化3】

【0023】
前記一般式(III)中、Yは、アルキル基、水酸基、又は水素原子を表す。
Yにおいて、アルキル基としては、炭素数1〜4であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基等が挙げられる。
【0024】
〜Xは、同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はカチオン性アンモニウム基を表す。
〜Xにおいて、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、およびカチオン性アンモニウム基としては、前記式(II)中のX〜Xにおけるアルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、およびカチオン性アンモニウム基といずれも同じものが挙げられる。
なお、X〜Xのいずれかがアルカリ土類金属原子である場合、たとえばXがカルシウム(Ca)の場合、式(III)中の「−COOX」は「−COOCa1/2」と表される。
上記のなかでも、X〜Xは、いずれもアルカリ金属原子であることが好ましく、ナトリウム又はカリウムであることがより好ましい。
〜Xは、互いに、同一であっても異なっていてもよい。
【0025】
は、0〜5の整数を表し、0〜2であることが好ましい。
【0026】
前記一般式(III)で表される化合物を、故紙パルプが分散した液中に投入すると、−COOX、−COOX、−COOXの一部又は全部が「−COO」となり、(A)成分から放出される遷移金属イオンとの錯体の形成が可能となる。
【0027】
前記一般式(III)で表される化合物のなかで好適なものとしては、(A)成分と錯体を良好に形成でき、過酸化水素を活性化する効果がより高まることから、下記化学式(5)で表される化合物(ニトリロトリ酢酸)、下記化学式(6)で表される化合物(メチルグリシンジ酢酸(MGDA))、下記化学式(7)で表される化合物(セリン二酢酸)、又はそれらの塩が挙げられる。なかでも、メチルグリシンジ酢酸又はその塩がより好ましい。
【0028】
【化4】

【0029】
上述した一般式(I)〜(III)で表される化合物のなかでも、(B)成分は、(A)成分と組み合わせて故紙の漂白に特に優れることから、2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩、メチルグリシンジ酢酸若しくはその塩、2−ピリジンカルボン酸若しくはその塩、および2,6−ピリジンジカルボン酸若しくはその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましく、2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩、3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩、およびメチルグリシンジ酢酸若しくはその塩からなる群から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
(B)成分は、1種単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。
【0030】
本発明の漂白助剤組成物において、前記(A)成分と前記(B)成分との混合割合は、モル比[(A)成分/(B)成分]で1/10〜3/1が好ましく、1/5〜2/1がより好ましい。(B)成分に対する(A)成分の割合が下限値以上であると、過酸化水素を活性化する効果がより向上し、上限値以下であると、単独で溶存する(A)成分の量が低減され、(B)成分とのバランスをとることができる。また、過酸化水素の分解が抑制され、充分な漂白力が得られて再生紙の白色度が高まる。
【0031】
[その他の成分]
本発明の漂白助剤組成物においては、必要に応じて、上記の(A)成分および(B)成分以外のその他の成分を併用してもよい。
その他の成分としては、アルカリ剤、界面活性剤等が挙げられる。
アルカリ剤としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メタケイ酸ナトリウム、メタケイ酸カリウム等が挙げられる。
界面活性剤としては、脱墨剤として用いられている非イオン性界面活性剤;アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤などのイオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0032】
本発明の漂白助剤組成物は、(A)成分と(B)成分とを混合した混合物であってもよく、故紙を漂白処理する際に(A)成分および(B)成分をそれぞれ別個に配合するものであってもよい。
(A)成分と(B)成分との混合物は、たとえば水溶媒中にて、(A)成分と(B)成分とを室温で撹拌し、水溶媒を留去することにより調製できる。
【0033】
以上説明した、本発明の漂白助剤組成物は故紙の漂白に優れる。かかる効果が得られる理由としては、定かではないが以下のように推測される。
本発明の漂白助剤組成物は、遷移金属を含む水溶性塩(A)と、前記一般式(I)〜(III)で表される化合物から選ばれる特定のアミノカルボン酸(B)とを含有する。
(A)成分と(B)成分は、上記のように両成分同士を混合することにより、又は故紙を漂白処理する際にそれぞれ別個に配合することにより、金属錯体を形成する。当該金属錯体は、併用される過酸化水素をより活性化する。これにより、故紙に対する漂白作用が強まり、故紙の漂白に優れると推測される。
【0034】
また、本発明の漂白助剤組成物は、少ない使用量で、故紙に対する漂白力が格段に向上する。
【0035】
≪故紙漂白処理方法≫
上記本発明の漂白助剤組成物を、過酸化水素と併用して、故紙を漂白処理する方法としては、具体的には以下の方法が挙げられる。
図1は、本発明の故紙漂白処理方法の一実施形態を示す概略工程図である。
本実施形態の故紙漂白処理方法では、離解工程、脱水工程、漂白工程、熟成工程、および抄紙工程を行うことにより故紙を漂白処理し、再生紙の白色度の向上が図られる。
以下、各工程について詳細に説明する。
【0036】
[離解工程]
離解機(パルパー)に、水(好ましくは30〜80℃の温水)、脱墨剤、アルカリ剤、および故紙などの材料を入れ、撹拌し、離解を行う(ここで得られたものを「分散液」という)。
故紙としては、再生紙の原料となり得るものであれば限定されず、たとえば、使用済みの紙、裁断屑、新聞紙、折り込みチラシ、雑誌などが挙げられる。
脱墨剤としては、非イオン性界面活性剤又はイオン性界面活性剤等を使用できる。
アルカリ剤は、上記本発明の漂白助剤組成物についての説明におけるアルカリ剤と同じものを使用できる。
温水の使用量は、絶乾パルプ100質量部に対して400〜9900質量部が好ましく、700〜1900質量部がより好ましい。
脱墨剤の使用量は、絶乾パルプ100質量部に対して0.005〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
アルカリ剤の使用量は、絶乾パルプ100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.3〜2質量部がより好ましい。
なお、離解工程でいう「絶乾パルプ100質量部に対して」とは、故紙に含まれる絶乾パルプ濃度を100質量部とすることを意味する。
離解機の撹拌時間は5〜120分間が好ましく、10〜30分間がより好ましい。
【0037】
[脱水工程]
離解工程後に得られる分散液を脱水処理し、絶乾パルプ濃度を調整する(ここで得られたものを「故紙パルプ」という)。
脱水処理の後、絶乾パルプ濃度は5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がより好ましい。
【0038】
[漂白工程]
脱水工程後に得られる故紙パルプを、好ましくは30〜80℃に加温し、好ましくは5〜20分間保持した後、ミキサー内に入れる。その際、ミキサーを撹拌しながら、少しずつ入れていくことが好ましい。
次に、該ミキサー内に、アルカリ剤と、過酸化水素と、漂白助剤組成物と、必要に応じて脱墨剤とを入れて撹拌し、漂白処理を行う。その際、ミキサーを撹拌しながら、これら材料を1〜20分間で入れることが好ましく、2〜10分間で入れることがより好ましい。
材料を全て入れた後の撹拌時間は1〜60分間が好ましく、2〜20分間がより好ましい。
材料のミキサーへの投入順序は、特に限定されず、過酸化水素の分解がより抑制されることから、アルカリ剤と、過酸化水素と、漂白助剤組成物とをこの順序で入れることが好ましい。
なお、通常、過酸化水素の漂白性能はアルカリ性条件下で向上するため、漂白工程でアルカリ剤を併用し、アルカリ性条件下で、過酸化水素とともに漂白助剤組成物を使用することが好ましい。
漂白助剤組成物は、上述したように、(A)成分と(B)成分とを予め混合して調製した混合物を配合してもよく、(A)成分および(B)成分をそれぞれ別個に配合してもよい。
(A)成分および(B)成分をそれぞれ別個に配合する場合、それぞれの成分の水溶液を用いて配合することができる。
ここで用いるアルカリ剤、脱墨剤は、離解工程におけるアルカリ剤、脱墨剤と同じものを用いることができる。
【0039】
過酸化水素の使用量は、絶乾パルプ100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.1〜5質量部がより好ましい。過酸化水素の使用量が0.01質量部以上であると、故紙パルプに対する漂白力がより向上し、5質量部以下であれば、漂白助剤組成物との併用により充分な漂白力が得られる。
なお、漂白工程でいう「絶乾パルプ100質量部に対して」とは、脱水工程における脱水処理後の絶乾パルプ濃度を100質量部とすることを意味する(以下同じ)。
【0040】
漂白助剤組成物の使用量は、(A)成分((A)成分を無水和物として用いる際)の使用量として、絶乾パルプ100質量部に対して0.1ppm質量部以上100ppm質量部以下が好ましく、1ppm質量部以上100ppm質量部以下がより好ましい。
かかる(A)成分の使用量の下限値以上であると、過酸化水素を活性化する効果がより向上し、上限値以下であると、過酸化水素の分解が抑制され、充分な漂白力が得られて再生紙の白色度が高まる。
【0041】
アルカリ剤の使用量は、絶乾パルプ100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、0.3〜2質量部がより好ましい。
脱墨剤の使用量は、絶乾パルプ100質量部に対して0.005〜5質量部が好ましく、0.1〜3質量部がより好ましい。
【0042】
[熟成工程]
漂白処理された故紙パルプを、ビニール袋などに詰めて密封し、熟成を行う。
熟成の温度条件は、30〜90℃が好ましく、50〜70℃がより好ましく、熟成時間は10〜180分間が好ましく、30〜120分間がより好ましい。
【0043】
[抄紙工程]
熟成工程後の故紙パルプを、ビニール袋などから取り出し、水(好ましくは30〜80℃の温水)を加えて、絶乾パルプ濃度を調整する。
この絶乾パルプ濃度は0.1〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
次いで、故紙パルプを水で洗浄し、遊離したインク等の汚れを取り除き、その後、抄紙を行い製紙する。
【0044】
以上説明した、本実施形態の故紙漂白処理方法によれば、故紙の漂白に優れ、故紙から作られる再生紙の白色度を高くできる。
【実施例】
【0045】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
以下に示す実施例において、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
表1に示す、(A)成分、(B)成分、および(A)成分と(B)成分との混合物の配合割合は、絶乾パルプ100質量部に対する割合(ppm質量部)をそれぞれ表す。
(A)成分および(B)成分の配合割合は、以下に示す原料自体の配合量(有り姿の量;(A)成分は水和物としての量)をそれぞれ表す。
表1に示す、錯体1および錯体2は、後述するように、錯体1が2,2’−イミノジコハク酸銅錯体、錯体2が2,2’−イミノジコハク酸マンガン錯体を示す。
(A)成分と(B)成分との混合物の配合割合として、実施例12は錯体1の配合割合、実施例13は錯体2の配合割合について記載した。
【0046】
本実施例において使用した原料は下記の通りである。
【0047】
[遷移金属を含む水溶性塩(A)]
硫酸銅(II)5水和物(関東化学製、試薬特級)。
硫酸マンガン(II)5水和物(関東化学製、試薬特級)。
[アミノカルボン酸(B)]
2,2’−イミノジコハク酸4Na(ランクセス(株)製、商品名:Baypure CX−100;純度 約80質量%)。
3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸4Na((株)日本触媒製、HIDS)。
メチルグリシンジ酢酸3Na(BASF製、商品名:trilon M)。
2−ピリジンカルボン酸(東京化成工業(株)製、ピコリン酸)。
2,6−ピリジンジカルボン酸(MERCK製、試薬)。
[その他の成分]
水酸化ナトリウム(関東化学製、試薬特級)。
メタ珪酸ナトリウム(関東化学製、試薬特級)。
【0048】
故紙:印刷故紙[オフセット印刷古紙/チラシ=6/4(質量比)]。
脱墨剤:ライオン(株)製、商品名「リプトールS−8000」;固形分(AI)10%。
過酸化水素:30%過酸化水素水(関東化学製)。
【0049】
[(A)成分と(B)成分との混合物の調製方法]
実施例12の混合物の調製:
イオン交換水20mlに、2,2’−イミノジコハク酸4Naの1.43gと、硫酸銅(II)5水和物0.84gとを添加し、室温で10分間撹拌した。その後、150℃に保持された油浴上で、イオン交換水を減圧(4kPa)留去し、乾燥した固体を回収することにより、2,2’−イミノジコハク酸銅錯体(錯体1)を含む混合物を得た。
【0050】
実施例13の混合物の調製:
硫酸銅(II)5水和物0.84gの代わりに、硫酸マンガン(II)5水和物0.82gを使用した以外は、実施例12の混合物の調製方法と同様にして、2,2’−イミノジコハク酸マンガン錯体(錯体2)を含む混合物を得た。
【0051】
<故紙漂白処理方法>
表1に示す配合組成に従って、各例の組成物を使用して、以下に示す方法により故紙の漂白処理を行った。
[離解工程]
離解機(熊谷理機工業(株)製、製品名:2L標準パルプ離解機No.2530)に、5cm×10cmの大きさに裁断した故紙153g(絶乾パルプ量138g)、40℃の水道水2115g、10%水酸化ナトリウム水溶液8.3g、4%メタ珪酸ナトリウム水溶液20.7g、および脱墨剤2.48gを加えた。そして、離解機を回転数1000rpmの撹拌速度で操作し、約10分間撹拌し、離解を行った(ここで得られたものを「分散液」という)。
[脱水工程]
次いで、分散液を脱水処理し、余分な水分を取り除き、絶乾パルプ濃度を24質量%まで高めた(ここで得られたものを「故紙パルプ」という)。
[漂白工程]
故紙パルプを、40℃恒温槽にて30分間保持し、故紙パルプの温度を40℃にした。
その後、ミキサー((株)愛工舎製作所製、製品名:ケンミックスアイコーKM−230)を用いて均一になるように撹拌しながら、故紙パルプ400g(絶乾パルプ量96g)を1分間かけて少しずつ入れた。そして、次の1分間で10%水酸化ナトリウム水溶液5.8g、4%メタ珪酸ナトリウム水溶液14.4g、および30%過酸化水素水1.9gを撹拌しながら入れた。その後、続けて(B)成分を投入し、次いで(A)成分を投入(実施例12、13においては、続けて(A)成分と(B)成分との混合物を投入)し、前記ミキサーにより1分間撹拌して漂白処理した。
[熟成工程]
漂白処理された故紙パルプを、ビニール袋に詰め、空気を抜き、シーリングで密閉し、60℃恒温槽にて2時間熟成を行なった。
[抄紙工程]
2時間の熟成後、ビニール袋から取り出し、温水1964gとともにアジパルパー(熊谷理機工業(株)製)を、回転数1900rpmの撹拌速度で操作して3分間撹拌し、絶乾パルプ濃度を4質量%に調整した。次いで、故紙パルプ72gを取り出し、80メッシュの篩上にて、水道水で30秒間洗浄し、遊離したインク等の汚れを取り除き、半径8cmの円形ワイヤー上で抄紙し、一晩乾燥した後、評価用再生紙を得た。
【0052】
<故紙の漂白性の評価>
上記で作製した評価用再生紙上の所定位置3箇所を設定し、色差計(日本電色工業株式会社製) を用いて、所定位置3箇所の白色度を測定し、その平均値を算出した。その結果を表1に示す。
故紙の漂白性の評価は、各例の評価用再生紙の白色度を、比較例1の評価用再生紙の白色度と比較することにより行った。白色度の差が1.0ポイント以上あれば、目視で、白さの相違が明確に分かるレベルである。
【0053】
【表1】

【0054】
以上の結果から、本発明の実施例1〜13の組成物は、比較例1〜4の組成物に比べて、評価用再生紙の白色度が高いことから、故紙の漂白に優れていることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の故紙漂白処理方法の一実施形態を示す概略工程図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
過酸化水素と併用され、故紙の漂白に使用される漂白助剤組成物において、
遷移金属を含む水溶性塩(A)と、
下記一般式(I)〜(III)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも一種のアミノカルボン酸(B)とを含有することを特徴とする漂白助剤組成物。
【化1】

[式(I)中、Xは水素原子、アルカリ金属原子、又はアルカリ土類金属原子を表す。pは1又は2の整数を表す。式(II)中、X〜Xは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はカチオン性アンモニウム基を表す。Rは水素原子又は水酸基を表し、Qは水素原子又はアルキル基を表し、nは0又は1の整数を表す。式(III)中、Yはアルキル基、水酸基、又は水素原子を表す。X〜Xは同一であっても異なっていてもよく、それぞれ水素原子、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、又はカチオン性アンモニウム基を表す。nは0〜5の整数を表す。]
【請求項2】
前記遷移金属を含む水溶性塩(A)が、コバルト、銅、マンガン、又は鉄を含む水溶性塩である請求項1記載の漂白助剤組成物。
【請求項3】
前記一般式(II)で表される化合物が、2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩、又は3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸若しくはその塩である請求項1又は請求項2記載の漂白助剤組成物。
【請求項4】
前記一般式(III)で表される化合物が、メチルグリシンジ酢酸又はその塩である請求項1又は請求項2記載の漂白助剤組成物。
【請求項5】
前記一般式(I)で表される化合物が、2−ピリジンカルボン酸若しくはその塩、又は2,6−ピリジンジカルボン酸若しくはその塩である請求項1又は請求項2記載の漂白助剤組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の漂白助剤組成物を使用することを特徴とする故紙漂白処理方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−235587(P2009−235587A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−79588(P2008−79588)
【出願日】平成20年3月26日(2008.3.26)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】