説明

漂白工程前に酸処理工程を有するクラフトパルプの製造工程における酸処理工程排水の再利用方法

【課題】漂白工程前に酸処理工程を有するクラフトパルプの製造工程において、酸処理工程から排出される排水を再利用可能とし、酸処理薬品の節減、用水量・排水量の低減に加えて、環境に排出される排水の色度低減を効率的に行う方法を提供する。
【解決手段】漂白工程S7−S13前に酸処理工程S5を有するクラフトパルプの製造工程において、前記酸処理工程の排水を回収し、回収した排水を酸化処理S20して、少なくとも前記酸処理工程前後の洗浄機S6、脱水機S6、酸処理工程S5のいずれかに添加し、酸処理工程排水を再利用する。 その際、前記酸処理工程排水の酸化処理は、少なくともオゾンを含有する気体を用いて行われることが推奨される。その場合において、漂白工程でオゾンを使用する場合においては、排出されるオゾン含有ガスを酸処理排水の酸化に利用することが、オゾンの効率的利用上好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、漂白工程前に酸処理工程を有するクラフトパルプの製造過程で排出された排水の再利用方法に関し、さらに詳しくは、ECF漂白法に代表される元素状塩素や次亜塩素酸塩を使用しないクラフトパルプ製造における、酸処理工程排水の再利用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
漂白クラフトパルプの製造方法は、従来、蒸解・酸素脱リグニン後に、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、酸素、過酸化水素などの酸化剤や還元剤からなる漂白剤を組合わせて漂白していたが、近時では環境問題がクローズアップされ、有機塩素化合物やクロロホルムの発生を防止する方法として、元素状塩素や次亜塩素酸塩を用いない、いわゆるECF漂白方法に代表される無塩素漂白法が採用されてきている。
【0003】
クラフト蒸解過程におけるアルカリ環境下で生成されるヘキセンウロン酸は、ECF漂白で使用される二酸化塩素、オゾンなどの漂白剤を消費してコストアップを来たしたり、精選設備においてスケールを生成する原因になる。さらに、ECF漂白、特に二酸化塩素方法において、漂白後のクラフトパルプが黄変化する問題に対して、ECF漂白工程の前工程で、硫酸などにより酸処理を行い、黄変化の原因物質と考えられているキセンウロン酸を分解、除去する方法が採用されつつある(たとえば、特開2004−339628号公報)。
【0004】
一方、製紙工場では製紙の各工程で水を多量に使用するため、その排水による環境負荷を低減させる事が必要であり、特にCOD、BODを多く排出するクラフトパルプ製造工程を有する工場では法規制もあり、単純沈降分離処理(微細繊維などの汚濁物質除去)、生物処理(曝気層での微生物によるBOD除去)、凝集沈降分離処理(微生物や浮遊懸濁物質を凝集薬品により凝集し分離除去)、砂ろ過などを組合わせ、複数段による処理を行って、COD・BOD・SSなどの汚濁物質等 環境負荷物質の低減を図っている。
【0005】
また、処理後の排水の一部は、製品への影響を及ぼさない範囲で、パルプの洗浄や古紙処理工程などで再利用し、用水量即ち排水量の抑制、環境負荷低減を図っている。
【0006】
以上の方法により、排水中のCOD等の汚濁物質は低減が図られているが、クラフトパルプ製造工程排水の特有の着色成分は除去が困難であり、これらは法規制には服さないものの地域住民や漁業関係者等による工場排水への心情的な問題から着色成分の除去(分解)が要望されている。
【0007】
そこで、クラフトパルプのECF漂白方法への展開と平行して、排水の着色及びCOD負荷の低減の問題を解決する方法として、下記の方法が提案されている。
【0008】
特開2005−219021号公報は、ECF漂白工程の酸排水(二酸化塩素漂白段などの排水)、アルカリ排水(アルカリ抽出段などの排水)あるいはこれらの混合排水に、消石灰、塩化第一鉄を添加し、COD成分とともに着色成分を吸着、分離する方法を提案している。
【0009】
この方法によれば、後の総合排水処理での負荷が軽減され、放流する排水の着色も軽減されるが、消石灰、塩化第一鉄の薬品コストがかかるだけでなく、分離した固形分は製紙スラッジとして通常焼却処理や埋立処理されるものの、焼却処理においては助燃が必要であり、焼却により減容化を図れるものの、焼却後の焼却灰は埋立処分が必要となり、無機物質として再利用を図るにしても、特に内在する塩化第一鉄は白色度の低下を招き、再利用化の妨げとなる、という問題がある。
【0010】
特開2005−334873号公報は、前記の方法による排水処理薬品のコストアップを解決する方法として、ECF漂白工程の排水に工場内で発生した焼却灰を利用する方法を提案している。
【0011】
しかし、焼却灰は、製紙各工程における変動、例えば抄紙される製品品種の変更により品質が安定せず、更に、灰中の金属物質の溶出を防止するために、処理する排水のpHを8以上に調整しなければならず、また最終的に灰を分離するために、脱水、燃焼処理量が増加し、また灰が繰返し燃焼によって溶融化するなど、処理コスト、再利用の点で問題がある。
【0012】
特開2004−50124号公報(日本製紙)では、次の方法が提案、示唆されている。
【0013】
1.KP漂白工程のオゾン漂白段から排出されるオゾン排ガスを利用する。
【0014】
2.KP漂白工程の排水を含有する排水に、オゾン排ガスを添加し処理する。KP漂白工程の排水を含有する排水とは、チップヤード排水や抄紙工程排水等の他の工程排水とが混合した排水のことである。
【0015】
3.オゾン注入率×滞留時間が500〜2000mg/分/Lの条件で処理する。
【0016】
4.反応層は1層以上で、上部から排水を注入し、下部からオゾン排ガスを散気する処理装置。
【0017】
5.排水にはアルカリ抽出段の排水が含まれていることが好ましい。
【0018】
(排水がpH10.4〜11.3のアルカリ性であると、オゾンの吸収効率が良くなるからである。)
pHが低い場合は、苛性ソーダなどのアルカリ剤を添加し、調整する。
【0019】
6.オゾン排ガス中のオゾン濃度は、1000〜10000ppmが好ましい、1000ppm未満だと効率が悪く、10000ppm以上ではオゾン漂白が不適切になっている。
【0020】
7.オゾン排ガスを排水に通じる時は、水中エアレータなどで曝気することが、接触を促進する上で好ましい。
【0021】
この方法によれば、オゾン漂白工程の排ガス中のオゾンを分解処理する装置の負荷を低減、もしくは停止することができ、さらには、廃棄物の増加がないといった点においては効果があるが、一方、pH管理およびpH調整薬品の使用による工程管理、経済性、色度低減効率および排水の再利用用途の面で十分とはいえない。
【0022】
すなわち、前述したとおり、ECF漂白薬品である二酸化塩素、オゾンなどのコストアップ、及び精選設備でのスケール生成の抑制、さらに二酸化塩素によるECF漂白方法における漂白後のクラフトパルプの黄変化問題の原因物質とされているヘキセンウロン酸を選択的に分解するために、漂白前の工程で硫酸などの酸による前処理方法が採用されてきている。
【0023】
酸処理を行ったパルプスラリーは、次工程である漂白工程に送られるが、その前に酸処理で分解された物質を除去するために、置換プレス装置などにより洗浄・脱水される。
【0024】
この排水は、酸処理工程で添加された酸性薬品が含まれ、pHが2〜4程度の酸性を呈しており、前述の特開2004−50124号公報に示されている方法によれば、オゾン漂白工程で排出されるオゾン含有排ガスを活用するには、アルカリ薬品あるいはアルカリ抽出段のアルカリ排水を添加してpHをアルカリ側まで調整しなければ効果的ではない。
【0025】
しかし、アルカリ薬品を添加してpHを調整することは、工程管理を繁雑にするだけでなく、薬品費用の増加になるため、酸処理排水だけを選択的に処理することができず、排出して他の排水と混合してオゾン含有ガスなどの処理を行い、沈降分離・生物処理、凝集沈殿処理などにより総合排水処理が行われているのが実態であり、処理した排水は、従来と同様程度の用途にしか再利用されていない。
【0026】
【特許文献1】特開2005−219021号公報
【特許文献2】特開2005−334873号公報
【特許文献3】特開2004−50124号公報 本願発明者は、クラフトパルプ製造工程における酸処理工程の排水を回収し、含有している酸性物質を酸処理工程で繰り返して利用する方法を課題とし、鋭意研究の結果、本願発明をするに至った。
【0027】
すなわち、アルカリ抽出工程排水を主体とする漂白工程の排水と、酸処理工程の排水について、汚濁物質を分析した結果、前者の排水は分子量<3000程度のCOD成分が主体であるのに対し、後者は分子量<150程度の成分が主体となっていることを知見した。
【0028】
さらに詳しく調査した結果、前者の成分はリグニンが分解されたもので、後者の成分は、ヘキセンウロン酸が分解された蟻酸、2−フロン酸、5−フォルミル−2−フロン酸であることを知見した。
【0029】
このことから、引用文献に示された従来の方法では、排水の着色物質であるヘキセンウロン酸由来の汚濁物質を選択的に処理することができず、排水の色度低減が効率的に行われないだけでなく、未反応の酸処理薬品を含む酸処理用水の活用がなされず、排水量の低減もなされないことがわかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本願発明は、上記のような知見にもとづいてなされたもので、少なくとも漂白工程前に酸処理工程を有するクラフトパルプの製造工程において、酸処理工程から排出される排水を再利用可能とし、酸処理薬品の節減、用水量・排水量の低減に加えて、環境に排出される排水の色度低減を効率的に行う方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0031】
本願発明は、上記の課題を達成するための手段として、漂白工程前に酸処理工程を有するクラフトパルプの製造工程において、前記酸処理工程の排水を回収し、回収した排水を酸化処理して、少なくとも前記酸処理工程前後の洗浄機、脱水機、酸処理工程のいずれかに添加し、もって酸処理工程排水を再利用することを基本的特徴とするものである。
【0032】
その際、前記酸処理工程排水の酸化処理は、少なくともオゾンを含有する気体を用いて行われることが推奨される。その場合において、漂白工程でオゾンを使用する場合においては、排出されるオゾン含有ガスを酸処理排水の酸化に利用することが、オゾンの効率的利用上好ましい。この場合、漂白工程で漂白に寄与せず排出され、酸処理排水の酸化に利用するオゾン含有ガスのオゾン濃度は100〜1000ppmが好ましい、100ppm未満では酸処理排水の酸化処理効率が低くなり、1000ppm超の場合はオゾン漂白工程でオゾンが有効に働いていないことを示している。オゾン濃度が100〜1000ppm程度で十分である。理由は、酸処理排水中に含まれている銅・マンガンといった微量の金属が、触媒的に働き、オゾンを分解し活性酸素を有効に生み出し、着色物質との反応を促すことによると推測される。
【0033】
特開2004−50124号公報でのECF漂白アルカリ排水のためのオゾン注入率×滞留時間の積の500〜2000mg・min/Lに対して、本願発明で実施される場合の、酸処理排水のためのオゾン注入率×滞留時間の積は、300〜1300mg・min/Lと低くてよく、経済的な処理方法である。
【0034】
なお、上記オゾンは、漂白工程から排出されるオゾン含有ガスに限らず、他のオゾン発生器で製造されるオゾンガスであってもよいことはもちろんである。そのようなオゾンガスまたはオゾン含有排出ガスは、気液接触反応槽の下部から供給し、酸処理排水を上部から供給して、酸化反応を生じさせるのがよい。
【0035】
さらに、上記の方法によって酸化処理される排水量は酸処理工程排水量の25〜95%とするのが好適である。
【0036】
その理由は酸処理工程の排水を酸化処理して、酸処理工程の前後工程及び/または酸処理自工程に使用することについて、25%未満では洗浄水/希釈水の使用量が不十分で、放流排水の量は増加し、95%を超えると、酸化処理中の鉄・銅・マンガンなどの金属物質が増加して酸処理工程周りの配管・スクリーンなどでのスケールは生成する恐れがあり、生産性に悪影響を与えるからである。
【0037】
好ましくは、40〜90%である。
【発明の効果】
【0038】
本願発明によれば、酸処理工程の排水を単独処理することにより、その排水が少なくとも酸処理工程で再利用可能となり、新たに添加する酸および用水量を低減でき、かつその他の排水処理における排水量、負荷量を軽減でき、さらに処理後の排水の色度を低減できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
次に、添付の図面を参照して本願発明を実施するための最良の形態を説明すると、図1には二酸化塩素ECF漂白法によるパルプ製造工程が示され、図2にはオゾンECF漂白法によるパルプ製造工程が示されている。
【0040】
先ず、図1及び図2に示す各パルプ製造工程の共通部分について説明すると、これらのパルプ製造工程では、製紙原料(リグノセルロース物質)の蒸解工程S1,S41、洗浄工程S2,S42、アルカリ酸素リグニン工程S3,S43、洗浄工程S4,S44を経て未晒パルプが生成され、さらにこの未晒パルプが酸処理(これらの実施例では硫酸処理)工程S5,S45及び洗浄又は脱水段S6,S46を経て次工程の漂白工程へ送られる。酸処理された排水は別に設けたストックタンクに回収される。
【0041】
以上のステップS1〜S6及びS41〜S46までは、図1及び図2に示すパルプ製造工程において共通部分であり、続いて図1及び図2に示す各パルプ製造工程ごとに以後の工程を説明する。
【0042】
先ず図1に示す二酸化塩素ECF漂白によるパルプ製造工程について説明すると、図1に示すパルプ製造工程では未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S5と洗浄又は脱水段S6のあと、二酸化塩素ECF漂白法によるパルプの漂白が行われる。
【0043】
この二酸化塩素ECF漂白法によるパルプの漂白工程を順次説明すると、図1に示す実施例では、D0段(二酸化塩素の初段)S7、洗浄段S8、E0段(酸素を含むアルカリ抽出段)S9、洗浄段S10、P段又はD1段(過酸化酸素のP段又は二酸化塩素のD1段)S11、洗浄段S12、D2段又はP段(二酸化塩素のD2段又は過酸化水素のP段)S13、洗浄段S14を経て漂白パルプが製造される。そして、この図1の実施例では、未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S5後に行われる洗浄又は脱水段S6の排水を酸化処理(オゾン処理)する工程S20が行われ、その酸化処理された排水(酸化処理排水)が、未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S5前後に行われるいくつかの工程に対する洗浄水又は希釈水として供給されるものであるが、具体的には、図1の実施例では、排水の酸化処理(オゾン処理)工程S20で酸化処理された排水(酸化処理排水)W0は、未晒パルプの酸処理工程S5における酸処理の希釈水W1、同酸処理工程S5後の洗浄又は脱水段S6における洗浄機の洗浄水W2、D0段S7における稀釈水W3、同D0段S7後の洗浄段S8における洗浄水W4、E0段S9における稀釈水W5、同E0段S9後の洗浄段S10における洗浄水W6、P段又はD1段S11における稀釈水W7、同P段又はD1段S11後の洗浄段S12における洗浄水W8、D2段又はP段S13における稀釈水W9等として利用している。
【0044】
一方、図2に示す実施例(オゾンECF漂白法によるパルプ製造工程)における漂白シーケンスを説明すると、図2示す実施例では、未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S45と洗浄又は脱水段S46のあと、オゾンECF漂白法によるパルプの漂白が行われる。
【0045】
このオゾンECF漂白法によるパルプの漂白工程を順次説明すると、図2に示す実施例では、Z段(オゾンの初段)S47、洗浄段S48(省略される場合もある)、E0段(酸素を含むアルカリ抽出段)S49、洗浄段S50、P段又はD1段(過酸化水素のP段又は二酸化塩素のD1段)S51、洗浄段S52、D2段又はP段(二酸化塩素のD2段又は過酸化水素のP段)S53、洗浄段S54を経て漂白パルプが製造される。
【0046】
そして、この図2の実施例では、未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S45後に行われる洗浄又は脱水段S46の排水を酸化処理(オゾン処理)する工程S60が行われ、その酸化処理された排水(酸化処理排水)が、未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S45前後に行われるいくつかの工程に対する洗浄水又は希釈水として供給されるものであるが、具体的には、図2の実施例では、排水の酸化処理(オゾン処理)工程S60で酸化処理された排水(酸化処理排水)W40は、未晒パルプの酸処理工程S45における酸処理の希釈水W41、同酸処理工程S45後の洗浄又は脱水段S46における洗浄機の洗浄水W42、D0段S47における稀釈水W43、同Z段(オゾンの初段)S47後の洗浄段S48における洗浄水W44(洗浄段S48は省略される場合もある)、E0段S9における稀釈水W45、同E0段S49後の洗浄段S50における洗浄水W46、P段又はD1段S51における稀釈水W47、同P段又はD1段S51後の洗浄段S52における稀釈水W48、D2段又はP段S53における稀釈水W49等として利用している。
【0047】
なお、上記の図1、図2の各実施例においては、排水の酸化処理(オゾン処理)工程S20、S60において使用するオゾンは適宜のオゾン発生装置によって生成されるオゾンガスを使用してもよいが、上記のようなオゾン発生装置で生成されるオゾンガスにかえて(又はそのようなオゾンガスと併用して)、パルプの漂白工程(S47〜S51)から回収される未反応オゾン含有ガスを使用することもできる。
【0048】
具体的には、オゾン段で発生する未反応オゾンを含むガスをファンで回収する。また、アルカリ抽出段の前に、フィルターを介してパルプスラリー中の未反応オゾンを含む排水を回収するとよい。
【0049】
この場合、酸化処理槽は、容器の下部に散気ノズルまたはバブラーを付けるセントラルパイプを設けて、前記の未反応オゾンを含む回収ガスを排液中に供給する。
【0050】
前記の未反応オゾンを含む回収排水は、酸処理排水を酸化処理槽に送るポンプのサクション側に通じ、酸処理排水中に混合し、酸化処理槽の上部から供給する。
【0051】
酸化した酸処理排水は、酸化処理槽底部からポンプで抜き出し、酸処理工程前後の洗浄機・脱水機の洗浄水または酸処理工程への稀釈水として使用する。
【0052】
なお、酸化処理槽で酸化する酸処理排水のpHは管理しないようにする。
【0053】
以上のように、図1および図2に示す各実施例のパルプ製造工程では、未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S5,S45後に行われる洗浄又は脱水段S6,S46の排水を酸化処理(オゾン処理)する工程S20,S60が行われ、その酸化処理された排水(酸化処理排水)が未晒パルプの酸処理(硫酸処理)工程S5,S45前後に行われるいくつかの工程に対する洗浄水又は稀釈水として供給されるものであり、そのことにより新たに添加する酸および用水量を低減でき、かつその他のいくつかの排水処理工程における排水量、負荷量を軽減でき、さらに処理後の排水の色度を低減できるものである。
【0054】
[実施例]
以下に本願発明の実施例を説明するが、本願発明はこれら実施例に何ら限定されるのではない。
【0055】
COD測定
JISK−0102「100℃における過マンガン酸カリウムによる酸素消費量(CODMn)」測定方法に準拠して行った。また、COD低減率は、以下の式1で算出した。
【0056】
低減率(%)=100×[(処理前−処理後)/処理前]・・・・・(式1)
色度の測定
次の論文文献を基に排水色度の測定を行った。色度の低減率は、COD低減率同様(式1)で算出した。
【0057】
[論文文献]
著名者:李宣縞、近藤隆一郎、坂井克己、西田智明、高原義昌
論文名:リグニン分解菌によるクラフトパルプ漂白廃液の処理(第1報)
リグニン分解菌、IZU−154株によるクラフトパルプ漂白廃液の脱色
資料名:木材学会誌第39巻第4号470〜478ページ 1993年発行
パルプのサンプル
酸素脱リグニン後の未晒広葉樹クラフトパルプ(LUKP)は実生産現場でサンプルを採取し、洗浄を行わず、試験を実施するまで5℃の冷蔵庫で保管した。(パルプ濃度:32%;カッパー価10.2)
排水の作成
1.酸処理(A段)の排水
200g(絶乾量)のLUKPは、イオン交換水で11%濃度スラリーに稀釈した後、4N硫酸でpH3.0になるまで調製を行い、再度、イオン交換水でパルプ濃度10%に調製した。90℃、5時間の条件の下で酸処理を実施し、ろ紙にてパルプと酸処理排水を分離し、酸処理排水は、オゾンで処理する。
【0058】
酸処理後のパルプは、イオン交換水(2L)で洗浄した。酸処理は2バッチを行ない、洗浄後のパルプを混合し、D0−E−P−D1のECF漂白シーケンスで漂白を行いD0段およびE段のそれぞれの排水を作成した。(D0:二酸化塩素の初段;E:アルカリ抽出段;P:過酸化水素段;D1:二酸化塩素の終段)
2.ECF漂白の酸(D0段)排水
酸処理後のLUKP(350g、絶乾量;カッパー価:5.4)は、次の条件下でD0段を行った。パルプ濃度:4%;温度:60℃;反応時間:25分;二酸化塩素添加率:0.67%。
【0059】
0段のパルプは、ろ紙にてパルプとD0段の排水を分離し、排水は、オゾンで処理する。D0段後のパルプは、イオン交換水(2L)で洗浄し、次のアルカリ抽出段を行った。
【0060】
3.ECF漂白のアルカリ(E段)排水
0段後のパルプは、パルプ濃度:12%;温度:75℃;反応時間:55分;苛性ソーダ添加率:1.3%の条件下でアルカリ抽出を行った。
【0061】
E段のパルプは、ろ紙でパルプとE段と排水を分離し、排水は、オゾンで処理する。E段後のパルプは、イオン交換水(2L)で洗浄し、次のP段とD1段で漂白をした。
【0062】
4.P段とD1段の漂白実施
E段のパルプは、パルプ濃度:12%;温度:75℃;反応時間:65分;過酸化水素添加率:0.3%;苛性ソーダ添加率:0.4%の条件下でP段を行った。P段のパルプはビフネルロートでイオン交換水(2L)で洗浄した。その後、パルプ濃度:12%;温度:72℃;反応時間:105分;過酸化水素添加率:0.24%のD1段を行い、イオン交換水(2L)で洗浄した。最終ISO白色度は86.0%であった。なお、P段とD1段の排水は採取しなかった。
【0063】
採取排水の特性
各排水の特性を表1に示す。使用排水中でECF漂白アルカリ排水はpHと色度が高く、酸排水はpHは、COD、色度全てが低く、酸処理排水のCODが最も高い値であった。
【0064】
【表1】

【0065】
排水のオゾン処理
実操業の残留オゾンガスがないため、ラボテストでは、住友精密工業製PSA Ozonizer SGA-01A-PSA4 のオゾン発生器により8%オゾンガスを製造し、排水のオゾン化を行った。即ち、45℃の恒温槽の中にガス洗浄瓶(1L)を置いて、排水(250ml)を入れ、オゾンを注入した。オゾン処理時間30秒、1分、2分、3分、4分の時点で排水のサンプルを採取し、COD及び色度を測定した。オゾンは10%ヨウ化カリウムに吸収され、0.1Nチオ硫酸で滴定し、オゾン濃度をもとめた。
【0066】
[結果]
各排水のオゾン処理によるCOD低減率を図3に示す。X軸に記載したオゾン濃度はオゾン処理時間0秒、30秒、1分、2分、3分、4分に相当する。処理時間1分間(オゾン濃度:200mg/L)以下の場合では、A段排水、D0段排水、D0段とE段の混合排水のCOD低減率がほぼ同等であるが、処理時間は1〜4分(オゾン濃度:200〜1050mg/L)の間でのどの処理時間(オゾン濃度)でもA段排水のCOD低減率が優れており、オゾン処理時間4分の時点でのCOD低減率は23%の高い値であった。一方、ECF漂白アルカリ(E段)排水のオゾン処理によるCOD低減率は劣った。
【0067】
各排水のオゾン処理による色度低減率を図4に示す。COD低減率と同様にA段排水の色度低減率は優れた。オゾン処理時間4分では、ECF漂白D0段排水、E段排水、D0段とE段の混合排水のそれぞれの色度低減率46%、37%、41%に対し、A段排水の色度低減率は70%と最も高い値であった。
【0068】
酸処理排水はオゾン処理後のCODと色度が充分に改善されるため、酸処理系内で(工程前後の洗浄・脱水機の洗浄水またはA段反応機への稀釈水)再利用可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本願発明の第1の実施形態にかかるパルプ製造工程(二酸化塩素ECF漂白法によるパルプ製造工程)における工程フロー図である。
【図2】本願発明の第2の実施形態にかかるパルプ製造工程(オゾンECF漂白法によるパルプ製造工程)における工程フロー図である。
【図3】本願発明の実施例にかかるパルプ製造工程における、各排水のオゾン処理によるCOD低減率を示すグラフである。
【図4】本願発明の実施例にかかるパルプ製造工程における、各排水のオゾン処理による各排水の色度低減率を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
漂白工程前に酸処理工程を有するクラフトパルプの製造工程において、
前記酸処理工程の排水を回収し、回収した排水を酸化処理して、少なくとも前記酸処理工程前後の洗浄機、脱水機、酸処理工程の少なくともいずれかに添加することを特徴とするクラフトパルプの製造工程における酸処理工程排水の再利用方法。
【請求項2】
前記酸処理工程排水の酸化処理を、少なくともオゾンを含有する気体を用いて行うことを特徴とする請求項1に記載のクラフトパルプの製造工程における酸処理工程排水の再利用方法。
【請求項3】
前記酸化処理を、クラフトパルプのオゾン漂白工程で排出される排出ガス及び/またはオゾン発生器からの発生オゾンガスを用いて行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載のクラフトパルプの製造工程における酸処理工程排水の再利用方法。
【請求項4】
酸処理工程排水量の25〜100%の排水量を酸化処理することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクラフトパルプの製造工程における酸処理工程排水の再利用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−184719(P2008−184719A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−20665(P2007−20665)
【出願日】平成19年1月31日(2007.1.31)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】