説明

漆塗り調金属建材及びその製造方法

【課題】耐候性に優れた実用的な漆塗り金属建材を電気炉のような大形設備を必要とせず、低エネルギーコストで生産可能な漆塗り金属建材を提供する。
【解決手段】金属基材の上面にカシューワニスからなる下地層14、下塗り層15、中塗り層16、および上塗り層17を備えた漆塗り調塗膜(本塗り層13)が形成されてなる漆塗り調金属建材。金属基材11と下地層14との間にシリコーンアクリル系からなるプライマー層12を形成するとともに、下地層14をポリウレタン系とする。さらに、上塗り層17の上に、紫外線カット塗料又はセラミック系塗料でバリア層18を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漆塗り調金属建材及びその製造方法に関する。特に、耐候性と美観が要求されるアルミサッシに好適な発明に係る。ここでは、アルミサッシにつや有り(光沢有り)の花塗(溜塗)を施す場合を、例に採り説明するが、それに限られるものではない。例えば、つや消し(光沢無し)の蝋色塗を施す場合等にも適用可能である。
【背景技術】
【0002】
神社、仏閣等の日本の伝統的建築物;和菓子店、料亭、呉服屋等の和風店舗でアルミサッシが、建付け容易、保全容易である等の見地から多用されるようになってきている。しかし、従来のアルミサッシの外観は、通常、アルマイト加工色が限られていた。このため、アルミサッシで建築物の一部を置き換えると、上記のような和風建物の全体の調和が損なわれることが多かった。
【0003】
そこで、和風建物の全体の調和を損ない難い、アルミサッシの出現が希求されていた。そのようなアルミサッシとして、漆塗りアルミサッシが考えられる。
【0004】
しかし、漆塗りアルミサッシ(漆塗り金属建材)は、文献上に記載されるも(特許文献1・2)、従来、上市されたものは、本発明者は寡聞にして知らない。
【0005】
特許文献1の請求項1には、「金属製基材の表面の一部に漆を塗布し高温硬化させた金属性装飾部材を含み形成された漆塗り装飾具であって、前記金属性装飾部材の基材である金属製基材と、その表面の少なくとも一部に形成された高温硬化漆被膜と、前記高温硬化漆被膜の表面の少なくとも一部にさらに形成された中塗り漆被膜と、前記漆中塗り被膜の表面の少なくとも一部にさらに形成された上塗り漆被膜との少なくとも3層の漆被膜とを有し、金属製基材の表面と、漆皮膜の表面とからなる装飾が外観に施された、金属製漆塗り装飾具」が記載され、また、同請求項3には、「金属製漆塗り装飾具」として「時計、眼鏡、バックル」等の身飾品とともに「建築材料」が例示され、同請求項5には、「金属製基材」として、「アルミニウム」が例示されている。
【0006】
また、特許文献2請求項1には、「金属の表面に漆を塗布し、150〜300℃で焼き付けて下塗り層を形成する工程、さらに漆を塗布し、乾燥した後、120〜300℃で焼しめて上塗り層を形成する工程からなる金属製品の製造方法。」が開示され、また、請求項5に金属として「アルミニウム」が例示されている。また、段落0017に「金属製品としては、特に限定されないが、ライター、自動車のエンブレム、・・・ペンダント等の装身具」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−319717号公報
【特許文献2】特開2006−150728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記1・2に記載の漆塗り調金属建材は、いずれも、基本的には、それ程の耐候性が要求されずかつ身の回り品である装飾具(装身具)のような小形製品を予定しており、アルミサッシのような高度の耐候性(密着性、耐退色性も含めて)が要求されかつ大形製品である装飾建材を予定していない。また、いずれも、漆被膜の高温硬化(例えば、一番低い温度条件で110〜130℃×220〜260min;特許文献1請求項15)を必須とし、建材等の大形製品に適用しようとした場合、大形の電気炉設備等が必要であるとともにエネルギーコストも嵩むと考えられる。
【0009】
本発明は、上記にかんがみて、耐候性に優れた実用的な漆塗り調金属建材を提供すること、さらには、該漆塗り調金属建材を電気炉のような大形設備を必然とせず、及び/又は、低エネルギーコストで製造することができる漆塗り調金属建材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、低温硬化可能なカシューワニスに着目して、鋭意開発に努力をした結果、下記構成の漆塗り調金属建材に想到した。
【0011】
金属基材の上面にカシューワニスを用いて形成された複層構成の本塗り層を備えた漆塗り調塗膜が形成されてなる漆塗り調金属建材において、
前記金属基材と前記本塗り層との間にプライマー層を備え、
該プライマー層がシリコーンアクリル系プライマーで形成されるとともに、前記本塗り層の前記プライマー層と接する最下層がポリウレタン系塗料で形成され、
さらに、前記本塗り層の上に、耐擦傷性/耐候性を有するバリア層が形成されてなることを特徴とする。
【0012】
上記の如く、本塗り層の最下層をウレタン系とし、本塗り層と金属基材との間のプライマー層をシリコーンアクリル系とする組合わせにより、アルミサッシ等の金属基材と本塗り層(カシューワニス塗膜)との間に実用的な耐候性を付与可能となった。従来は、アルミサッシ等の金属基材上に、カシューワニスにより実用的な耐候性を有する漆塗り調塗膜を形成することは、当業者に困難視されていた。
【0013】
さらに、本塗り層の上に、耐擦傷性/耐候性を有するバリア層を形成することにより、サッシ等の建材に実用化可能な耐擦傷性/耐候性を付与可能となった。
【0014】
本塗り層の複層構成は、通常の漆塗りと同様、下地層、下塗り層、中塗り層および上塗り層からなるものとする。これにより、本漆による花塗(溜塗)等の色付け乃至模様付けと区別の付かない外観意匠をサッシ等の建材に付与可能となる。これにより、本発明の漆塗り調サッシを和風建物に建て付けても、従来の如く、和風建物全体の調和が損なわれることがない。
【0015】
上記バリア層としては、例えば、紫外線カット塗料又はセラミック系塗料で形成することが望ましい。
【0016】
また、上記紫外線カット塗料を、ヒンダードアミン系とすることが耐退色性等に優れて望ましい。
【0017】
さらに、バリア層の塗膜厚は、10μm以下とすることが望ましい。漆塗り調の意匠性を低下させないためである。
【0018】
本発明の漆塗り調建材の金属基材は、アルミサッシとすることが望ましい。本発明の効果が顕著となる。
【0019】
そして、上記各構成の漆塗り調金属建材の製造方法であって、前記本塗り層、前記プライマー層及び前記バリア層の乾燥硬化を、常温乃至100℃以下の条件で行なうことが望ましい。
【0020】
特別な電気炉等の大形の焼付け設備が不要で、設備費が少なくてすみ、少量生産にも適している。さらには、低エネルギーコスト化が容易となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の漆塗り調金属建材の製造方法の一例を示す流れ図である。
【図2】同じく漆塗り調金属建材のモデル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の一実施形態について、図1に基づいて、説明する。
【0023】
本発明の漆塗り調金属建材は、下記工程にしたがって、製造する。なお、各塗り工程後の塗膜乾燥(硬化)は、通常、常温乾燥とするが、適宜(特に冬場において)、100℃以下の温風乃至熱風で硬化促進させることもできる。なお、各塗膜は、通常、乾燥硬化後、研磨紙等を用いて、平滑になるように研ぎ工程を入れる。
【0024】
(1)サッシ基材調製:
アルミサッシ用型材を、裁断後、穴あけ、面取り等の後機械加工をしてサッシ基材の調製をする。
【0025】
(2)基材研磨:
上記調製後のサッシ基材を研磨処理する。プライマー接着性を改善するためである。研磨処理は、例えば、研磨紙(#200〜500)のもので行なうことが望ましい。必要により、エッチング処理してもよい。
【0026】
(3)脱脂処理:
上記研磨処理後のサッシ基材を脱脂処理する。プライマーの接着性を改善するためである。脱脂処理剤としては、市販の汎用の有機溶剤系(トリクロロエチレン、メチルエチルケトン、エチルアルコール等)のものを使用可能である。
【0027】
(4)プライマー塗布:
上記脱脂処理後のサッシ基材11の表面にプライマー層12を形成する。このプライマー層12は、サッシ基材11と後述の複層の本塗り層13との密着性の見地から形成するものである。塗布方法は、特に限定されないが、吹付け又は刷毛塗りとする。塗膜厚は、10〜30μm(乾燥膜厚)とする。
【0028】
上記プライマーとしては、シリコーンアクリル系を用いる。具体的には、シリコーン樹脂をアクリル変性させた二液反応型塗料であり、ナトコ株式会社から「アルコSP」の商品名で上市されているものを使用できる。一液型も使用可能である。
【0029】
(5)前本塗り(下地層14・下塗り層15・中塗り層16形成):
本塗り層13は、カシューワニスを使用して形成する。塗布方法は、刷毛塗り又は吹付け(スプレー)とする。各層の塗膜厚は、10〜30μm(乾燥膜厚)とする。
【0030】
ここで、本塗り層13は、通常の漆塗りと同様、下地層14、下塗り層15、中塗り層16及び上塗り層17とからなるものとする。
【0031】
上記のうち、プライマー層12でサッシ基材11の下地が下塗り層15の表面に色調及び平滑性(レベリング)に影響を与えない程度に仕上がっている場合は、下地層14は必然的ではない。
【0032】
ここで、カシューワニスとは、カシューナット殻液を材料として、アルデヒド(ホルマリンを含む。)で縮重合させたものを骨格とし、上記縮重合に際して、ヘキサメチレンテトラミン、メラミン、ウレタン等で変性させたものをいう。カシューワニスは本漆を違って、アルデヒド縮合しているためカブレのおそれがなく、また、塗料の硬化は、乾性油と同様、酸化重合であるため、本漆と異なり湿度を必要とせず、自然乾燥乃至100℃以下の熱風で加熱乾燥が可能である。
【0033】
なお、カシューナット殻液としては、通常、精製した下記化学式で示されるカルドールからなるものを使用するが、カルドールを主成分とし、アナカルド酸、カルダノールを含有するものであってもよい。
【0034】
【化1】

【0035】
具体的には、カシュー株式会社から、カルドール100%を原料として「カシューTLX」(下地層用)、「カシュー漆PT」(下塗り層、中塗り層、上塗り層用)の商品名で上市されている各種グレードの溶剤型塗料を使用可能である。それらのうちで、プライマー層12に接する下地層14はポリウレタン系塗料を用いる。なお、ポリウレタン塗料には、上市されている合成樹脂系のものの他に、カシューワニスをポリイソシアナート変性したもの(以下、「ウレタン系カシューワニス」という。)も含む。この他の下塗り層15および中塗り層16、上塗り層17層をウレタン系カシューワニスで形成することが相互密着性の見地から望ましい。
【0036】
模様出し(研ぎ出し)のために形成する下塗り層15および中塗り層16の、色の組み合わせは、特に限定されないが、例えば、地色は黒色系乃至グレー系を用い、上色は朱色等を使用する。適宜、重ね塗りをしてもよい。
【0037】
なお、模様出しをせず、単色の場合は、下塗り層15を省略して、中塗り層16を重ね塗りにより形成してもよい。
【0038】
(6)模様出し:
慣用の方法で模様出し(研ぎ出し)を行なう。即ち、下塗り層15を出したい色の着色カシューワニスで形成後、該下塗り層15の上に中塗り層16を組合わせたい下塗り層15とは異なる色の着色カシューワニスで形成する。そして、中塗り層16の硬化後、研磨紙等を用いて手作業にて、中塗り層16を研ぎ出して好みの模様を顕出させる。
【0039】
(7)後本塗り(上塗り層17形成):
光沢色(溜め色)を出すためのもので、いわゆる「透き」といわれるもののうち各種レベルの透明度を有するカシューワニスを使用できる。
【0040】
具体的には、カシュー株式会社から「カシュー漆PT透き」の商品名で上市されている各種グレードのものを使用可能である。
【0041】
(8)バリア層18形成
バリア層18は、カシューワニスで形成された本塗り層13に耐擦傷性および耐候性を付与するためのもので、透明で硬度の高い紫外線カット塗料又はセラミック塗料を使用する。この塗膜厚は、10μm以下で可及的に薄い方が望ましく、望ましくは5μm前後とする。
【0042】
上記紫外線カット塗料としては、例えば、ヒンダードアミン系等の紫外線吸収剤を含有させたアクリルウレタン系(一液型又は二液型)のものを使用できる。
【0043】
セラミック塗料としては、Al23およびSiO2を水又はアルコールに希釈分散させて、低温加熱硬化できる上市品を使用できる。
【0044】
本発明は、アルミサッシに限らず、鋼、マグネシウム、チタン等の各種合金からなる金属建材(壁板等)に、適用可能である。
【0045】
また、仕上げ方法も、花塗に限られず蝋色塗にしたり、上塗り層に各種金属粉を分散させた斑点模様のものにしたりすることも可能である。
【実施例】
【0046】
次に、本発明の一実施例について、説明する。上記各工程に対応させて具体的内容を記す。なお、いずれの塗料もシンナー等の有機溶剤で希釈してスプレー塗布をした。
【0047】
(1)サッシ基材調製:
市販の定尺サッシ用アルミ型材(6000mm)を裁断後、穴あけ、面取り等の後機械加工をして、2000mmのサッシ基材を調製した。
【0048】
(2)基材研磨:
上記調製後のサッシ基材を研磨紙(#400)で手研磨した。
【0049】
(3)脱脂処理:
上記研磨処理後のサッシ基材をアルコールで脱脂処理をした。
【0050】
(4)プライマー塗り:
上記脱脂処理後のサッシ基材表面に、「アルコSP」(シリコーンアクリル樹脂塗料)でプライマー層を形成した。
【0051】
(5)前本塗り:
上記プライマー層の形成後に、「カシューTLX2800」(カシュー漆用ウレタン系塗料)を用いて、下地層を形成し、続いて、「カシュー漆PT黒色」(ウレタン系)で下塗り層を、「カシュー漆PT根来朱」(ウレタン系)で中塗り層を形成した。
【0052】
(6)模様出し(研ぎ出し):
中塗り層を十分に乾燥させた後、慣用の方法で模様の研ぎ出しを行なった。
【0053】
(7)後本塗り(上塗り層形成):
上記模様出し後、「カシュー漆PT透き」を塗布して、100℃×60minの条件で加熱乾燥させた。
【0054】
(8)バリア層形成
バリア層は、「ハルスハイブリッドUVG」(紫外線カット塗料;ヒンダードアミン含有アクリル樹脂系)を塗布して、乾燥させた。
【0055】
上記アルミ基材上に形成させた塗膜の合計厚は約100μmであった。こうして製造した「漆塗り調サッシ」は、漆塗りの木製枠と見分けが付かない質感・色調と光沢を有し、漆の香りまでした。また、当該「漆塗り調サッシ」は、表面硬度(JISK5400):4H以上、密着性(1mm碁盤目テープ剥離試験):100/100であって、十分実用に耐える耐擦傷性及び密着性を有していた。
【符号の説明】
【0056】
11:サッシ基材(金属基材)
12:プライマー層
13:本塗り層
14:下地層
15:下塗り層
16:中塗り層
17:上塗り層(透き層)
18:バリア層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の上面にカシューワニスを用いて形成された複層構成の本塗り層を備えた漆塗り調塗膜が形成されてなる漆塗り調金属建材において、
前記金属基材と前記本塗り層との間にプライマー層を備え、
該プライマー層がシリコーンアクリル系プライマーで形成されるとともに、前記本塗り層の前記プライマー層と接する最下層がポリウレタン系塗料で形成され、
さらに、前記本塗り層の上に、耐擦傷性/耐候性を有するバリア層が形成されてなることを特徴とする漆塗り調金属建材。
【請求項2】
前記本塗り層の複層構成が、下地層、下塗り層、中塗り層および上塗り層からなることを特徴とする請求項1記載の漆塗り調金属建材。
【請求項3】
前記バリア層が、紫外線カット塗料又はセラミック系塗料で形成されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の漆塗り調金属建材。
【請求項4】
前記紫外線カット塗料がヒンダードアミン系であることを特徴とする請求項3記載の漆塗り調金属建材。
【請求項5】
前記バリア層の塗膜厚が10μm以下であることを特徴とする1、2又は3記載の漆塗り調金属建材。
【請求項6】
金属基材がアルミサッシであることを特徴とする請求項1〜6いずれか一記載の漆塗り調金属建材。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一記載の漆塗り調金属建材の製造方法であって、前記プライマー層、前記本塗り層及び前記バリア層の乾燥硬化を、常温乃至100℃以下の条件で行なうことを特徴とする漆塗り調金属建材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−26899(P2011−26899A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175832(P2009−175832)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【出願人】(509199812)有限会社とみじ (1)
【Fターム(参考)】