説明

漏れに基づいた流れ制御システム

眼科手術システムが、手術部位から吸引される流体が通過するニードルと、このニードル上に同軸的に支持されるスリーブとを使用し、スリーブとニードルとの間には、手術部位に導かれる流体が通過する流路が画成される。このシステムは、調節可能な注入圧を提供する容器をさらに含む。吸引ポンプが、手術部位からの流体の吸引を促し、そしてセンサが、吸引流の流量を感知する。コントローラは、注入圧と、流れに対する抵抗による圧力低下とに基づいて眼内圧を計算するように構成され、この流れは、検出された流量と、ニードルのサイズ、スリーブのサイズ、そして、ニードルおよびスリーブが配置されるときに通る切開創のサイズに基づいて、ルックアップテーブルから選定された、予測される漏れとを含んだものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科の超微細手術システムに関し、特に、被手術眼に出入りする流体の流れを制御する、眼科の超微細手術システムに関する。
【背景技術】
【0002】
本項での記述は、単に本開示に関連する背景情報を提供するものであり、従来技術を構成するものではない。
【0003】
眼に対する眼科外科手術では、一般に、水晶体超音波吸引術(フェイコ;phaco)用の器具や他の種類の器具を眼の内部に挿入する際に通過させる切開創を、切開および/または作製する必要がある。眼科手術において超微細手術用ニードルやカニューレが使用されることは周知であり、フェイコニードルは典型的には約4mm以下の切開創から挿入される。執刀医は、その部位からの吸引を行うために、眼の手術中に流体の流れを生じさせることがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、眼の崩壊を防ぐこと、または、眼を加圧し過ぎないようにして網膜の障害、すなわち脈絡膜からの網膜剥離、網膜断裂、または眼へのその他の損傷を回避することが重要である。流体の導入、および流体を眼から吸引するための吸引力の適用は、それ相応に一定のリスクをもたらす可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本出願の一態様によれば、眼科手術システムが提供され、このシステムは、スリーブとニードルとの間に流路を画成するようにしてニードル上で同軸的に支持されるスリーブを含み、この流路を通って洗浄流体が手術部位に導かれる。ニードルは中心通路を含み、スリーブおよびニードルが眼内に所定サイズの切開創から挿入された場合、この中心ニードル通路を通じて手術部位から流体が吸引される。このシステムは、手術部位上で調節可能に上昇するよう構成された容器をさらに含み、この容器は、容器内の洗浄流体の流れがスリーブに向かうように促して、これを手術部位に注入させるための、調節可能な注入圧を提供する。ニードル内の通路を通じて手術部位から流体を吸引するのを促すため、このシステムは、真空圧を確立するよう構成された真空源を含む。このシステムは、適用されている真空を表す信号を提供するセンサと、手術部位から吸引されている流体の流量を表す信号を提供する流量検出装置または流量見積り装置とをさらに含む。このシステムは、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるよう構成されている、コントローラを含む。コントローラは、洗浄流に対する所定の抵抗による圧力降下が差し引かれた注入圧に基づいて、眼内圧を見積るように構成されており、この洗浄流とは、検出された流体流量と、切開創から出て行く流体の予測漏れ流量との組合せで判定されたものである。切開創から出て行く予測漏れ流量は、ニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および注入圧の値に基づいて、ルックアップテーブルから選定される。コントローラは予測漏れ流量を総洗浄流の見積りに使用して、より正確な眼内圧の見積りを得る。この見積られた眼内圧を注入圧の制御に使用し、洗浄流を調節して所望の眼内圧を維持することができる。
【0006】
適用範囲のさらなる領域は、本書において提供される説明から明らかになるであろう。その説明および具体例は説明の目的のみを意図したものであり、本開示の範囲を限定することを意図したものではないことを理解されたい。
【0007】
本書において説明される図は、説明のみを目的としたものであり、多少なりとも本開示の範囲を限定することを意図したものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明によるニードルおよび吸引流制御システムの一実施の形態を示す断面斜視図
【図2】本出願の一態様による流れ制御システムに関連する方法の一実施の形態を示す機能ブロック図
【図3】本出願の一態様による流れ制御システムに関連する方法の別の実施形態を示す機能ブロック図
【図4】本発明によるニードルおよび吸引流制御システムの一実施の形態を示す断面斜視図
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明は、本質的に単なる例示的なものであり、本発明の開示、出願、または使途を限定することを意図したものではない。種々の実施形態およびその利点は、図面の図1から4を参照することで最も良く理解され、これらの図面の同様の対応する部分には、同様の数字を使用する。
【0010】
図1は眼科手術システム100の一実施の形態を示したものである。このシステムでは、切開創112を通じて眼110に出入りする流体流を調整または制御して、眼110の眼内圧を制御する。システム100は、フェイコニードルなどのニードル128上に同軸的に支持されるスリーブ122を備えた眼科装置120を含む。図1に示した眼科装置120は、スリーブ122とニードル128との間に流路126を画成するようにしてニードル128上で同軸的に支持されるスリーブ122を含み、この流路を通って洗浄流体が手術部位(眼110)に導かれる。ニードルは中心ニードル通路129を含み、スリーブ122およびニードル128が眼などの媒体内に所定サイズの切開創112から挿入された場合、この中心ニードル通路129を通じて手術部位から流体が吸引される。
【0011】
システム100は、手術部位上で調節可能に上昇するよう構成された容器130をさらに含み、この容器130は、容器130内の洗浄流体の流れがスリーブ122に向かうように促して、これを手術部位に注入させるための、調節可能な注入圧を提供する。ニードル128内の通路を通じて手術部位から流体を吸引するのを促すため、このシステムは、真空圧を確立するよう構成された真空源140を含む。
【0012】
このシステムは、適用されている真空を表す信号を提供するセンサ160と、手術部位から吸引されている流体の流量を表す信号を提供する流量検出装置162とをさらに含む。このシステムは、少なくとも、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるよう構成されている、コントローラ200を含む。これらの入力は、例えば執刀医が提供してもよい。コントローラ200は、洗浄流に対する所定の抵抗による圧力降下が差し引かれた注入圧に基づいて、眼内圧を見積るよう構成されている。容器130での注入圧は、単に眼110上方の容器130の高さによって、または注入圧を表す値(容器高さなど)を測定する装置によって、あるいは圧力センサによって、判定し得ることに留意されたい。眼の中に入っていく洗浄流は、検出された流体流量(センサ160により判定される)と切開創112から出て行く流体の予測される漏れ流量との組合せで判定される。切開創112から出て行く予測漏れ流量は、ニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および注入圧の値に基づいて、ルックアップテーブルから選定することができる。眼の中に入っていく総流体流量は、眼から出て行く吸引流量および漏れ流量と等しいため、コントローラは予測漏れ流量を総洗浄流の見積りに使用して、より正確な眼内圧の見積りを得る。この見積られた眼内圧を注入圧の制御に使用し、洗浄流を調節して所望の眼内圧を維持することができる。明らかであるが、妨げられていない流れを想定しているため、洗浄流量は典型的には、漏れを計上しなかった所望の流量よりも高く設定されるであろう。
【0013】
洗浄流と注入圧との間の関係は、以下の説明を考えると理解することができる。ベルヌーイの定理の下、特定の流体系について全圧は流線に沿って一定である。流体の全圧はベルヌーイの方程式、
ρv2/2+ρgh+p=C
で与えることができる。ここで、ρv2/2は動圧、ρghは基準からの高さhより自由落下する流体に関連する水頭圧、そしてpは静圧すなわち定常流体の所与の点での圧力である。図1に示されているが、流速vは流線に沿った2つの区域の異なる断面積(AiおよびAs)に影響され得る。例えば、流体部分132を、洗浄ボトル130から出て流れている洗浄流体が流速viを示すものとしてもよく、そして流体部分134を、同軸的に配置されたスリーブ122とニードル128との間に流れている洗浄流体が流速vsを示すものとしてもよい。同様に、流体部分136を、吸引ライン139を通る流体が流速vaを示すものとしてもよい。流体流量が保存されると仮定すると、この種々の流速を以下の方程式、例えば、
ρviii2/2+ρviighi=ρvsss2/2+ρvssghs
で関連付けることができる。ここで、ρviii2/2は運動エネルギーに関連し、そしてρviighiは位置エネルギーに関連する。
【0014】
上記のことから、ボトル130内にある洗浄流体が確立する流速は、高さhiとhsとの差によって、この流体が洗浄ライン138を通りスリーブ122に向かって落下するにつれて増加するようなものとなるであろうと推定することができる。同様に、注入ライン内の2点間の断面積の減少も、この2点間の流体流速に影響を与え得る。上記のことから、流線に沿った2以上の区域における流速または流圧は、上記の基本方程式を用いて判定し得ることを理解されたい。
【0015】
図1のシステムに上記の方程式を適用する場合、眼110内の絶対圧力は、洗浄ライン138を通過する際の圧力降下を差し引いて、大気圧po、ボトル高さによる洗浄流体の水頭圧から、判定することができる。洗浄ライン138内の流れは、水頭圧に反対に作用して注入流量Q(すなわちρvii)を妨げる、洗浄ラインにおける流量制限Ωiに影響され得ることに留意されたい。
【0016】
洗浄ライン138を出て行く流体の圧力は、洗浄ボトルの圧力pibから洗浄ラインに沿った圧力変化Δpiを差し引いて判定することができ、
i=pib−Δpi
と表現することができる。
【0017】
同様に、吸引されている流体の圧力は、吸引ラインに沿った圧力変化Δpaが差し引かれた回収容器150での圧力po(例えば、真空ポンプ装置140に関連したセンサ160により測定された圧力)から判定することができ、
P=Δpa+po
と表現することができる。
【0018】
切開創を通して眼から出て行く流体の漏れがないものと仮定すると、図1のシステムに関連する眼の眼内圧(peye)は、方程式、
ib−Δpi=peye=Δpa+po
で示すことができる。ここで、pibは洗浄ボトル130内の流体の圧力であり、Δpiは、
Δpi=(Q・Ωi
と等しく、さらにpoは回収容器150での圧力または真空であり、Δpaは吸引ラインにおける抵抗Ωaと関連付けて、
Δpa=(Q・Ωa
で与えられる。
【0019】
ボトル高さ(またはボトル130での注入圧)、ニードルカニューレ128の内径および外径、スリーブ122の内径およびスリーブ面積126が分かると、流量および真空に基づいて眼内圧を予測することができる。特に、洗浄流に対する抵抗Ωiおよび吸引流に対する抵抗Ωaは、眼科の外科手術において典型的に採用される洗浄流ラインおよび吸引流ラインに関連する、所定の流れ抵抗の見積りを開発する実験データを使用して、あらかじめ判定することができる。吸引流量Q、ボトルでの注入圧pib、および吸引/真空圧力pvは測定することができる。したがって、(ボトル高さを調節することにより、またはボトルの圧力を調節することにより)ボトル130内の洗浄流体の注入圧pibを調節して一定の眼内圧を維持するために、眼から吸引された流体の流量Qを監視すること、そしてボトルでの注入圧pibおよび/または真空圧pvを制御することが可能である。上記のデータから、眼内圧を見積って、手術パラメータとして使用することができる。
【0020】
眼内圧の予測は、例えば図2のフローチャートに示した方法で達成することができ、眼内の絶対圧力Peyeは洗浄流に基づいて以下のように計算される。
【0021】
eye=Po+Pib−(Q・Ωi) 方程式(1)
ここで、Poは大気圧、Pibは注入ボトル130の高さによる水頭圧、Qは洗浄流量(漏れがないと仮定すると、吸引流量と等しい)、そしてΩiは管を通る洗浄流に対する抵抗である。
【0022】
ステップ310では、執刀医すなわちユーザが、装置構造をコントローラ200に入力する。この装置構造は、ニードルおよびスリーブのサイズを入力することができる、バーコードや他の類似の方法を用いて感知させてもよい。切開創のサイズも、同様に執刀医が入力してもよい。洗浄流に対する所定の抵抗Ωiを、例えば、コントローラ200の中にルックアップテーブルの一部として初期値として保存してもよいし、あるいはこの特定の装置の形状に関連した流れ抵抗を、バーコードまたはユーザによって入力してもよいことに留意されたい。その後、洗浄ボトル130内の洗浄流体の圧力Pibが、ボトル高さの調節、または注入ボトルの加圧などによって設定される。システムはその後、容積式ポンプ、流量センサ、電磁流量技術、または他の類似の流量検出または流量見積り技術を使用して、流体流量を監視する。ルックアップテーブルで識別された、洗浄流に対する抵抗Ωiと、そしてボトルでの注入圧Pibとから、眼の眼内圧Peyeが、例えば上記方程式1で概要を述べたように判定される。眼内圧Peyeを、グラフィカルユーザインタフェース(図示なし)上に表示してもよい。一旦眼内圧Peyeが判定されると、注入圧Pib、真空Pv、または流量Qを調節して、一定の所望の眼内圧Peyeを維持することができる。
【0023】
しかしながら、上記の判定は、切開創を通じて眼から流体が漏れていないと仮定したものである。切開創112のサイズとフェイコニードルのニードル128および/またはスリーブ122のサイズとの間に差がある場合には、流体の漏れがいくらか生じる可能性がある。一例として、執刀医が使用する切開具が切開創を長さ4mmとするように構成され、一方ニードルおよび/またはスリーブの直径は1.8mmである可能性がある。
【0024】
流体のいくらかが吸引中に切開創から漏れる可能性があるならば、この漏れ流量を計上して、眼を崩壊させたり眼を加圧し過ぎたりしないよう、より正確に吸引流および洗浄流を制御することが望ましい。
【0025】
漏れが生じる場合、切開創112からの洗浄流体の漏れ流量は、本発明の眼科手術システム100によって見積ることができる。このシステムは漏れを、ある程度はニードル128のサイズ、スリーブ122のサイズ、および切開創112のサイズに基づいて予測することができる。執刀医が手続きの最初にこれらの手術パラメータを入力すると、これらのパラメータに基づいて予測される漏れを見積ることができ、さらに現在の注入圧に基づいてルックアップテーブルから予測される漏れを識別することができる。あるいは、ニードル、スリーブ、切開創のサイズと、そして漏れがないと仮定し方程式(1)を用いて計算された見積りの眼内圧(peye)とに基づいて、予測される漏れを見積ることができ、またはルックアップテーブルから予測される漏れを選定することができる。
【0026】
次に漏れを計上するため、図1のシステムに対する眼内圧peyeは、方程式、
ib−Δpi=peye=Δpa+pv
で示される。ここで、pibはボトル130内の洗浄流体の圧力であり、そしてΔpiは、漏れQwおよび注入ラインにおける抵抗Ωiと関連付けて、
Δpi=(Q+Qw)Ωi
で与えられる。
【0027】
同様に、pvは回収容器150での圧力または真空であり、Δpaは吸引ラインにおける抵抗Ωaと関連付けて、
Δpa=(Q・Ωa
で与えられる。
【0028】
切開創サイズ、ニードルカニューレ128の内径および外径、スリーブ122すなわちスリーブ径または断面積126、およびボトル高さが分かると、予測される創部の漏れが見積られ、そして眼の眼内圧をよりよく制御するためにこれを使用する。
【0029】
この予測因子を、例えば図2および3のフローチャートに示した方法で説明しているように眼内圧の制御に利用することができ、これにより吸引流に基づいて、眼内の絶対圧力Peyeから吸引抵抗Ωaが以下の方程式(2)に示すように計算される。
【0030】
v=Peye−(Q・Ωa)、すなわちΩa=(Peye−Pv)/Q 方程式(2)
眼から吸引された流量Qは、眼の中への流量から漏れの流量を差し引いたものを示す。回収容器150で測定された真空圧pv(例えば、真空ポンプ装置140に関連したトランスデューサまたはセンサ160により測定された圧力)は、眼内の圧力(Peye)から吸引ラインでの圧力降下Δpaを差し引いたものに等しく、ここでΔpaは流量Q×吸引抵抗Ωaに等しい。ただしΩaは、閉塞、流体密度、および吸引系のコンプライアンスに基づく動的変数である。
【0031】
漏れがある場合の眼内圧の予測に対する本発明の解決策は、創部サイズ、ニードル、および見積られた眼内圧に基づき、テーブルを使用して流量損失を見積るものである。最初に見積られる眼内圧の初期値は、流量損失がないと仮定したものとなる。このシステムでは次に、眼から出る流量を測定し、例えば吸引流量Qと、(ルックアップテーブルから得られた)予測または見積りの損失Qwとを組み合わせて総流量に到達し、この総流量が、眼に入る洗浄流量と等しいものとなる。これにより、方程式1においてより正確なQを使用することで、Peyeのより優れた見積りを確立することができる。
【0032】
方程式(1)によるこの最初のPeyeの見積りは、検出された圧力の読込データPvと方程式(2)とを使用して吸引抵抗Ωaを計算するのに使用することができる。この計算されたΩaを用いて、粘度変化および閉塞を監視することができる。Peyeの最初の見積りは、ルックアップテーブルを用いた漏れ流量の予測値を改善するためにも使用することができる。漏れ流量を改善することによって眼の中への注入流量を再び判定することができ、そしてこれを方程式(1)で使用して、正確な眼内圧Peyeを判定し、さらにこの正確な眼内圧Peyeを使用して、引続き一定の所望の圧力Peyeを維持するよう洗浄流を制御することができる。
【0033】
この目的のため、図2および3の方法は、漏れを計上してより正確な流量Qを判定し、これを方程式(1)で使用して、漏れを計上した眼内圧Peyeの最初の見積りに到達する。図3を参照すると、ステップ410で方程式(1)を使用して眼内圧Peyeが見積られると、切開創サイズ、ニードルサイズ、およびスリーブサイズ、さらに眼内圧Peyeの最初の見積りまたは測定値に基づき、創部からの予測される漏れQwがルックアップテーブルで識別される。システムはその後、容積式ポンプ、流量センサ、電磁流量技術、または他の類似の流量検出技術を使用し、ステップ430で吸引流体流量を監視する。ステップ440でこの方法は、測定された吸引流量と、予測される流量損失(漏れ)すなわち損失流量とに基づいて、眼110に入る注入流量を計算する。
【0034】
次にこの方法では、計算された注入流量Qiをステップ440から受け取り、そしてステップ450では、より正確な眼内圧Peyeを見積るために、これを方程式(1)で使用する。漏れを含むより正確なQの判定を使用して計算されたこの正確なPeyeは、Peyeのより優れた見積りを提供する。正確なPeyeにより、コントローラ200はステップ460で、この圧力Peye、圧力Po、および測定された流量Qを使用し、方程式(2)から吸引流抵抗Ωaを計算することができる。ステップ470でこの方法は、ルックアップテーブルから再び漏れQwを見積りまたは検索し、そしてステップ480で新たな注入流量を計算し、さらにこの注入流量を使用して、ステップ490ではさらに別のより正確な眼内圧Peyeを計算する。一旦眼内圧Peyeが判定されると、吸引流の真空Po、流量Q、または注入圧Pibを調節して、一定の眼内圧Peyeを維持することができる。
【0035】
図4を参照すると、眼科手術システムの第2の実施形態が図示されている。このシステム400は、多くの点において図1の実施形態に類似している。システム400は概して、ニードル128を含む眼科装置120を備え、このニードルは、手術部位から吸引される流体が通過するニードル通路129を有する。眼科装置120は、スリーブ122とニードル128との間に流路126を画成するようにしてニードル128上に同軸的に延在するスリーブ122を含み、この流路126を通って洗浄流体が手術部位に導かれる。眼科装置120は、所定サイズの切開創112から媒体(眼110など)内に挿入されるように構成される。
【0036】
システム400は、流体容器130とスリーブ122との間で導かれる洗浄流体が通過する洗浄ライン138を使用して、眼に洗浄流を提供する。流体容器130は、容器130の高さの調節または容器内の圧力の調節のいずれかを用いて、洗浄流体の流れを洗浄ライン138およびスリーブ122から手術部位へと促すための、調節可能な注入圧を提供するように構成される。システム400は、流体容器130での注入圧を表す値を測定する、測定装置180をさらに含んでもよい。容器130での注入圧は、単に、容器高さなどの注入圧を表す値を測定することによって、あるいは圧力を検出する測定装置180によって、判定し得ることに留意されたい。
【0037】
システム400は、吸引ライン139を用いて眼から流体を吸引できるものであり、流体はこの吸引ラインを通って、ニードル128のニードル通路129と吸引ポンプ170との間で導かれる。ポンプ170は、ニードル128と吸引ライン139とを通って手術部位から吸引される流体の流れを促すよう適用される、真空または流量を確立するように構成されて提供される。圧力検出装置160またはトランスデューサが、ポンプ170によって適用された真空のレベルを表す信号を生成するために提供される。同様に、手術部位から吸引されている流体の流量を表す信号を生成するために、流量検出装置を提供してもよい。流量は、容積式ポンプ170によって検出または監視してもよいし、あるいはこれに代えて、流量センサ、電磁流量技術、または他の類似の流量検出技術によって監視してもよいことに留意されたい。
【0038】
システム400は、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創の所定サイズの情報を入力するための、ユーザインタフェース402をさらに含んでもよい。システム400はコントローラ200をさらに含み、このコントローラは、ユーザインタフェース402、圧力検出装置160、真空ポンプおよび/または流量検出装置170、および第2圧力検出装置180と通信している。コントローラ200は、検出された注入圧から洗浄流体流に対する所定の抵抗により生じる圧力降下を差し引いたものに基づいて、眼内圧を計算するように構成され、この洗浄流体流は、検出された流体流量と、切開創から出て行く流体の予測される漏れ流量との組合せで判定される。切開創から出て行く流体の予測漏れ流量は、少なくともニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および注入圧に基づいて、コントローラのルックアップテーブルから選定される。あるいは、ニードルサイズと、スリーブサイズと、切開創サイズと、および漏れがないと仮定し方程式(1)を使用して計算された見積りの眼内圧(peye)とに基づいて、予測される漏れを見積る、またはルックアップテーブルから選定することができる。その後、コントローラ200が、計算された眼内圧に基づいて、注入圧、または真空ポンプ170、または両方を調節し、それにより所望の眼内圧を維持することができる。
【0039】
コントローラ200は、より正確な眼内圧を計算するようにさらに構成してもよい。図3で概要を述べたように、正確な眼内圧の計算は、注入圧から洗浄流に対する所定の抵抗による圧力降下を差し引いたものに基づくものであり、この洗浄流とは、検出された流体流量と、ニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および最初に見積られた眼内圧に基づいてルックアップテーブルから選定された予測漏れ流量との組合せで、判定されたものである。コントローラ200は、判定された眼内圧、真空源により適用された真空圧、および検出された流体流量に基づいて、吸引流抵抗を判定するようにさらに構成してもよく、この吸引流抵抗は、閉塞を監視するためにコントローラが使用する。
【0040】
本出願の別の態様においては、眼内圧を維持するために流体流を制御するよう、眼科手術システムを制御する方法の実施形態が提供される。一実施の形態において、眼科手術システムの眼科装置を通る洗浄流を調整するコントローラの操作を制御する方法は、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるステップと、この眼科装置に関連する洗浄流体流に対する所定の抵抗を識別するステップとを含む。この方法は、上昇させた容器での洗浄流体の注入圧を表す変数を得るステップと、ニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および注入圧に基づいて、切開創から出て行く流体の予測漏れ流量をルックアップテーブルから選定するステップとを実行する。次に、この方法は、洗浄流体の流体流量を流量センサで感知して検出するステップ、および、検出された注入圧から洗浄流体流に対する所定の抵抗により生じる圧力降下を差し引いたものに基づいて、眼内圧を判定するステップを要する。洗浄流体流は、検出された流体流量と切開創から出て行く流体の予測漏れ流量との組合せで判定され、この場合切開創から出て行く流体の予測漏れ流量は、ニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および注入圧に基づいて、ルックアップテーブルから選定される。
【0041】
眼内圧を維持するために流体流を制御するよう、眼科手術システムを制御する方法の別の実施形態が提供される。一実施の形態において、眼科手術システムの眼科装置を通る洗浄流を調整するコントローラの操作を制御する方法は、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるステップと、この眼科装置に関連する洗浄流体流に対する所定の抵抗を識別するステップとを含む。この方法は、上昇させた容器での洗浄流体の注入圧を表す変数を得るステップと、洗浄流体の流体流量を流量センサで感知したものから検出するステップとを実行し、ここで得たものを、検出された注入圧から流体流に対する所定の抵抗により生じる圧力降下を差し引いたものに基づいて眼内圧の値を見積りするために使用する。眼内圧の値の見積りは、流量センサにより感知され検出された流体流量によってのみ判定された流体流に基づくものであり、いかなる予測漏れ流をも含んでいない。次にこの方法は、正確な眼内圧の計算に使用するため、ニードルサイズ、スリーブサイズ、切開創サイズ、および見積りされた眼内圧の値に基づいて、ルックアップテーブルから予測漏れ流量を選定するステップを要する。正確な眼内圧は、検出された注入圧から洗浄流体流に対する所定の抵抗により生じる圧力降下を差し引いたものに基づいて計算され、この洗浄流体流は、検出された流体流量と、ルックアップテーブルから選定された、切開創から出て行く流体の予測漏れ流量との組合せで判定されたものである。いずれの実施形態においても、この方法はその後、判定された眼内圧を使用し、正確な眼内圧に基づいてシステム内の洗浄流体の流れを引き続き制御し、それにより所望の眼内圧を維持することができる。
【0042】
上記のことから、本発明が、硝子体切除術を行うための改善された装置および方法を提供することは明らかであろう。本発明は本書では例を用いて説明されており、通常の当業者は種々の改変を作製することができるであろう。
【0043】
本発明の動作および構造は、前述の説明から明らかであろうと考えられる。上記で図示または説明された装置および方法は、好適なものとして特徴付けられたものであるが、以下の請求項において画成される本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変更および改変を加えることも可能である。
【符号の説明】
【0044】
100 眼科手術システム
112 切開創
120 眼科装置
122 スリーブ
126 流路
128 ニードル
130 流体容器
138 洗浄ライン
139 吸引ライン
140 真空源
160 圧力検出装置
162 流量検出装置
170 吸引ポンプ
180 測定装置
200 コントローラ
402 ユーザインタフェース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼科手術システムにおいて圧力を調整するシステムにおいて、
ニードル上に同軸的に支持されるスリーブであって、該スリーブと前記ニードルとの間に、手術部位に導かれる洗浄流体が通過する流路が画成され、さらに、前記手術部位から吸引される流体が通過するニードル通路、前記スリーブ、および前記ニードルが、媒体内へ挿入される際に所定サイズの切開創を通過する、該スリーブ、
容器であって、該容器内の洗浄流体流を前記スリーブへと促して前記手術部位に注入するために、調節可能な注入圧を提供するよう構成された、該容器、
前記ニードル通路を通じて前記手術部位から流体を吸引するのを促す真空を確立するよう構成された真空源、
適用されている前記真空を表す信号を提供するセンサ、
前記手術部位から吸引されている前記流体の流量を表す信号を提供する、流量検出装置または流量見積り装置、および、
ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるように構成され、さらに、前記注入圧から流体流に対する所定の抵抗による圧力低下を差し引いたものに基づいて、眼内圧を見積るように構成されている、コントローラであって、該流体流は、任意の予測される漏れ流を含んだものではなく、かつこの場合において、前記注入圧、および、前記検出された流体流量と、そして前記ニードルサイズ、前記スリーブサイズ、および前記切開創サイズに基づいてルックアップテーブルから選定された、前記切開創から出て行く流体の予測漏れ流量との組合せ、に基づいて、より正確な眼内圧の見積りを得るように構成され、該正確な見積りを使用して、所望の眼内圧を維持するよう流体流を制御する、該コントローラ、
を備えることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記コントローラが、前記正確な眼内圧、前記真空源により適用された前記真空、および前記検出または見積りされた流体流量に基づいて、吸引流抵抗を判定するようにさらに構成され、該吸引流抵抗を前記コントローラが、閉塞を監視するために使用することを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項3】
前記流体容器と前記スリーブとの間で導かれる洗浄流体が通過する、洗浄ラインをさらに備えていることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項4】
前記ニードルと前記吸引真空源との間で導かれる流体が通過する、吸引ラインをさらに備えていることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項5】
前記手術部位からの流体流の吸引を確立するために前記真空源により適用された真空のレベルを検出する、真空センサをさらに備えていることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項6】
前記真空源が真空ポンプであり、このとき前記コントローラが、前記手術部位から吸引されている流体の前記流量を制御するために、前記真空ポンプによって適用される真空の前記レベルを調節するように制御するよう構成されていることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項7】
前記容器の高さを変化させて、該容器内の前記洗浄流体の前記注入圧を調節し得ることを特徴とする請求項1記載のシステム。
【請求項8】
眼科手術システム内において流体の吸引を制御する制御システムにおいて、
手術部位から吸引される流体が通過するカニューレを内部に有するニードルと、前記手術部位に導かれる洗浄流体が通過する流路を前記ニードルとの間に画成するようにして、該ニードル上に同軸的に延在するスリーブとを含み、所定サイズの切開創を通って媒体内に挿入されるように構成されている、眼科装置、
流体容器と前記スリーブとの間で導かれる洗浄流体が通過する、洗浄ライン、
内部に前記洗浄流体を有し、該洗浄流体の流れを前記洗浄ラインおよびスリーブに通して前記手術部位へと促すための調節可能な注入圧を提供するように構成されている、前記流体容器、
前記流体容器での前記注入圧を表す値を測定する、測定装置、
前記ニードルのカニューレと吸引ポンプとの間で導かれる流体が通過する、吸引ライン、
前記手術部位から吸引された前記流体流を、前記ニードルカニューレおよび吸引ラインに通すよう促すように構成された、前記吸引ポンプ、
前記吸引ポンプにより適用されている圧力のレベルを表す信号を提供する、圧力検出装置、
前記手術部位から吸引されている流体の流量を表す信号を提供する、流量検出装置、
ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創の所定サイズを入力するための、ユーザインタフェース、および
前記ユーザインタフェース、前記測定装置、前記流量検出装置、前記圧力検出装置、および前記吸引ポンプと通信しているコントローラであって、該コントローラが、前記測定された注入圧から洗浄流体流に対する所定の抵抗により生じる圧力降下を差し引いたものに基づいて、眼内圧を計算するように構成されたものであり、該洗浄流体流は、前記検出された流体流量と前記切開創から出て行く流体の予測漏れ流量とを組み合わせたものであり、該予測漏れ流量が、前記ニードルサイズ、前記スリーブサイズ、前記切開創サイズ、および見積られた眼内圧に基づいて、ルックアップテーブルから選定されたものである、該コントローラ、
を含み、
前記コントローラが、所望の眼内圧を維持するよう、前記計算された眼内圧に基づいて、前記注入圧または前記吸引ポンプのいずれかを調節することを特徴とするシステム。
【請求項9】
ルックアップテーブルから予測漏れ流量を選定する際に使用される前記見積られた眼内圧が、前記測定された注入圧から流体流に対する所定の抵抗により生じる前記圧力降下を差し引いて見積られたものであり、該流体流は、前記流量検出装置により感知された、前記検出された流体流量のみから判定され、任意の漏れ流からは判定されていないものであることを特徴とする請求項8記載のシステム。
【請求項10】
前記コントローラが、前記計算された眼内圧、前記吸引ポンプにより適用された前記圧力、および前記検出された流体流量に基づいて、吸引流抵抗を判定するようにさらに構成され、該吸引流抵抗を前記コントローラが、閉塞を監視するために使用することを特徴とする請求項8記載のシステム。
【請求項11】
前記コントローラが、前記吸引ポンプにより適用される圧力のレベルを調節して、前記手術部位からの前記流体流量を調節するように構成されていることを特徴とする請求項8記載のシステム。
【請求項12】
前記容器の高さを変化させて、該容器内の前記洗浄流体の前記注入圧を調節し得ることを特徴とする請求項8記載のシステム
【請求項13】
前記測定装置が、圧力センサであることを特徴とする請求項8記載のシステム。
【請求項14】
眼内の流体流、および、眼科手術システムの眼科装置を通過する流体流、を調整するコントローラの動作を制御する方法において、
前記コントローラが、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるステップ、
接続されている吸引管および洗浄管を含む前記眼科装置に関連する流体流に対する所定の抵抗を、前記コントローラにおいて識別するステップ、
前記手術システムに接続されている容器での洗浄流体の注入圧を、前記コントローラにおいて得るステップ、
切開創から出て行く流体の予測漏れ流量を、前記ニードルサイズ、前記スリーブサイズ、前記切開創サイズ、および前記注入圧に基づいて、前記手術システムに保存されているルックアップテーブルから選定するステップ、
前記吸引管に配置された流量センサによって、前記流体の流体流量を前記コントローラにおいて検出するステップ、
前記注入圧から洗浄流体流に対する所定の抵抗により生じる圧力降下を差し引いたものに基づいて、眼内圧を判定するステップであって、該洗浄流体流は、検出された流体流量と切開創から出て行く流体の予測漏れ流量とを組み合わせたものである、該ステップ、および、
前記判定された眼内圧に基づいて、所望の眼内圧を維持するよう、前記眼内の流体流を制御するステップ、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
眼内の流体流、および、眼科手術システムの眼科装置を通過する流体流、を調整するコントローラの動作を制御する方法において、
前記コントローラが、ニードルサイズ、スリーブサイズ、および切開創サイズの入力を受けるステップ、
接続されている吸引管および洗浄管を含む前記眼科装置に関連する流体流に対する所定の抵抗を、前記コントローラにおいて識別するステップ、
前記手術システムに接続されている容器での洗浄流体の注入圧を、前記コントローラにおいて得るステップ、
前記吸引管に配置された流量センサによって、前記流体の流体流量を前記コントローラにおいて検出するステップ、
前記注入圧から流体流に対する所定の抵抗により生じる仮の圧力降下を差し引いたものに基づいて、眼内圧の値を見積るステップであって、該流体流は、任意の予測漏れ流を含んでいない、該ステップ、
前記ニードルサイズ、前記スリーブサイズ、前記切開創サイズ、および前記見積りされた眼内圧の値に基づいて、前記手術システムに保存されているルックアップテーブルから予測漏れ流量を選定するステップ、
前記注入圧から流体流に対する所定の抵抗により生じる正確な圧力降下を差し引いたものに基づいて、正確な眼内圧を計算するステップであって、該流体流は、前記検出された流体流量と前記予測漏れ流量との組合せで判定されたものである、該ステップ、および、
前記正確な眼内圧に基づいて、所望の眼内圧を維持するよう、前記システムの流体流を制御するステップ、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
前記正確な眼内圧、吸引ポンプによって適用された圧力、および前記検出された流体流量に基づいて、吸引流抵抗を前記コントローラにおいて判定するステップをさらに備え、該吸引流抵抗を前記コントローラが、閉塞を監視するために使用することを特徴とする請求項15記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−510883(P2012−510883A)
【公表日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−540787(P2011−540787)
【出願日】平成21年12月4日(2009.12.4)
【国際出願番号】PCT/US2009/066683
【国際公開番号】WO2010/077563
【国際公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【出願人】(391008847)ボシュ・アンド・ロム・インコーポレイテッド (137)
【氏名又は名称原語表記】BAUSCH & LOMB INCORPORATED
【Fターム(参考)】