説明

漏れ検査装置および漏れ検査方法

【課題】漏れ検査時におけるトレーサガス(He)の検出を安定させて、比較的短時間でガス漏れの有無を正確に判定可能な漏れ検査装置および漏れ検査方法を提供する。
【解決手段】漏れ検査装置10は、検査対象物Tを覆うことで当該検査対象物の外側隣接領域に気密な監視空間Sを画成可能なフード12と、検査対象物Tへのトレーサガス供給手段14と、トレーサガスの濃度を検出するガス検出器21と、監視空間S内のガスをガス検出器21に導くべくフード12に装着されたスニッファープローブ22とを備える。フード12には、監視空間Sを当該フードから離れた大気開放領域(外部領域)に連通させるための大気開放ライン31が併設されている。ライン31を介して監視空間Sを大気開放領域に連通させた状態を保ちながら、監視空間Sからガス検出器21に導かれるガス中のトレーサガス濃度を測定することで、トレーサガスの検出が安定化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレーサガス(例えばヘリウムガス)を用いて検査対象物からのガス漏れを検査するための漏れ検査装置および漏れ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物(試験体)からのガス漏れを検査する方法として、日本工業規格(JIS)はヘリウム漏れ試験方法を定めている(非特許文献1及び2参照)。このヘリウム漏れ試験方法は、真空法と加圧法とに大別される。真空法では、試験体内を予め真空にしておき、外部から試験体内へのヘリウムガスの漏れ(侵入)を検出することでガス漏れの有無を判定する。これに対し加圧法では、試験体内にヘリウムガスを予め封入しておき、試験体内から外部に漏れてきたヘリウムガスを検出することでガス漏れの有無を判定する。但し、漏れ検査を行いたい製品は一般に、その内部を加圧した状態での使用がほとんどであるため、一般的には加圧法が用いられることが多い。
【0003】
加圧法の中でも特に一般的なのが「真空容器法」である。真空容器法では、試験体から真空状態のフード内に漏れ出てくるヘリウムガスを検知するため、微量なHeをも検出できるという利点がある。ただし、大掛かりな真空設備を必要とし、その設備費用が高額になるという欠点がある。それ故、高額な真空設備を必要としない、加圧積分法や吸盤法による漏れ検査を採用したいというニーズがある。
【0004】
例えば、加圧積分法では、試験体内にヘリウムガスを封入すると共に、試験体をフードで覆って試験体の外側隣接領域に気密な空間を作り出す。そして、当該フード内において試験体の外側へ漏れてきたヘリウムガスを一定時間フード中にため込み、スニッファープローブを介して採取したガス中におけるヘリウムガス(He)の濃度を測定し、そのHe濃度の時間的変化に基づいてガス漏れの有無を判定している(非特許文献2参照)。
【0005】
例えば図3に示すように、検査開始後、20秒で0.2ppmのペース(又はそれ以上のペース)でヘリウムガスの濃度変化が観測された場合には、明らかに「漏れあり」と判定する。他方で、検査開始から20秒を経過してもヘリウムガスの濃度変化が0.1ppmにも満たない場合には、「漏れなし」と判定する。なお、ヘリウムガスの濃度が若干増大した場合であっても「漏れなし」と判定するのは、自然界の大気中には5ppm程度のヘリウムが含まれており、それがフードの外側から内側に侵入してHe濃度を撹乱する可能性があることを考慮したものである。
【0006】
なお、加圧法による漏れ検査装置及び方法に関する技術を開示した特許文献としては、例えば特許文献1があげられる。
【非特許文献1】JIS−Z2330(ヘリウム漏れ試験方法の種類)
【非特許文献2】JIS−Z2331(2006)(ヘリウム漏れ試験方法)の附属書4(加圧積分法)および附属書5(吸盤法(サクションカップ法))
【特許文献1】特開2004−163223号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来の加圧積分法では、試験体からのガス漏れの有無を短時間のうちに正確に判定することが難しかった。具体的には、後ほど比較例として示すように、ガス検出器によるHe濃度の検出値が測定回ごとに大きくバラついて安定しないという難点があった。このため、漏れの有無を正確に判定するためには、検査時間をある程度長くして、He濃度の時間的変化の傾向性(漏れなしの傾向に近いか、それとも漏れありの傾向に近いか)を見極める必要があった。即ち、He濃度検出の不安定さが、試験体1個あたりに要する検査時間を長引かせていた。
【0008】
また、従来の加圧積分法や吸盤法では、自然界の大気中に5ppm程度含まれているヘリウムや前回漏れ検査の終了後に拡散したヘリウムが撹乱要因となって、これらのヘリウムと、検査時に試験体から漏れた微量のヘリウムとの区別が難しいという問題があった。以上のような事情から、加圧積分法や吸盤法はその存在にもかかわらず、現実にはあまり利用されていない。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、加圧積分法又は吸盤法に基づく漏れ検査時において、トレーサガスの検出を安定させ、比較的短時間でガス漏れの有無を正確に判定可能な漏れ検査装置および漏れ検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願の発明者は、従来の加圧法による漏れ検査手法を再検討した結果、検査対象物を覆うフード等の被覆部材で画成された空間(監視空間)の気密性を高めるほど、ガス検出器によるトレーサガスの検出が却って不安定化するとの意外な知見を得た。その原因としては、監視空間からガス検出器へのガスの吸い出しに際し、監視空間の気密性ゆえに吸引負圧が生じることが考えられる。そこで、基準ガスで満たされた連通路を介して監視空間を外部領域と連通させることにより、漏れ検査時における監視空間の気密性を意図的に破って、ガス検出器によるトレーサガスの検出を安定化させる、との着想のもとに生み出されたのが本発明である。
【0011】
本発明は、検査対象物からのガス漏れを検査するための漏れ検査装置に関するものである。この漏れ検査装置は、検査対象物の全部又は一部を覆うことにより当該検査対象物の外側隣接領域に気密な監視空間を画成可能な被覆部材と、前記検査対象物の内部にトレーサガスを供給するためのトレーサガス供給手段と、前記トレーサガスの濃度を検出するためのガス検出器と、前記被覆部材によって画成される前記監視空間内のガスを前記ガス検出器に導くべく前記被覆部材に装着されたスニッファープローブと、前記スニッファープローブを介して前記監視空間から吸い出されたガスを補うために、前記監視空間をそれ以外の外部領域に連通させるように設けられた連通路と、漏れ検査開始前に、前記監視空間および前記連通路に基準ガス供給源から基準ガスを供給して前記監視空間内および前記連通路内を基準ガスでパージするためのガスパージ手段とを備えることを特徴とする。
【0012】
本発明はまた、上記漏れ検査装置を用いた、検査対象物からのガス漏れを検査する漏れ検査方法に関するものである。この漏れ検査方法は、被覆部材で検査対象物の全部又は一部を覆うことにより、当該検査対象物の外側隣接領域に気密な監視空間を画成する被覆工程と、トレーサガス供給手段により、前記検査対象物の内部にトレーサガスを予め供給するトレーサガス供給工程と、検査開始前にガスパージ手段により、前記被覆部材によって画成された前記監視空間および前記被覆部材に設けられた連通路に対し基準ガス供給源から基準ガスを供給して前記監視空間内および前記連通路内を基準ガスでパージするガスパージ工程と、前記連通路を介して前記監視空間をそれ以外の前記外部領域に連通させた状態を保ちながら、前記被覆部材に装着されたスニッファープローブを通じて前記監視空間からガス検出器に導かれるガス中のトレーサガス濃度を所定の検査時間にわたって測定する測定工程とを備え、前記測定工程で得られたトレーサガス濃度の時間的変化に基づいて、前記検査対象物からのガス漏れの有無を判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の漏れ検査装置及び漏れ検査方法によれば、検査対象物の全部又は一部を覆うことにより当該検査対象物の外側隣接領域に気密な監視空間を画成可能な被覆部材として、スニッファープローブを介して前記監視空間から吸い出されたガスを補うために前記監視空間をそれ以外の外部領域に連通させる連通路を備えた被覆部材を用いている。それ故、連通路を介して監視空間を外部領域に連通させた状態を保ちながら、監視空間からガス検出器に導かれるガス中のトレーサガス濃度を測定することができる。このため、監視空間からガス検出器へのガス導入に際して当該導入経路での過大な負圧発生が回避され、その結果、監視空間とガス検出器との間のガス連通が非常に安定化する。従って、漏れ検査時におけるトレーサガスの検出も安定化し、従来よりも短時間でガス漏れの有無を正確に判定することが可能になる。
【0014】
また、本発明の漏れ検査装置及び漏れ検査方法では、前記監視空間内のみならず前記連通路内をも、漏れ検査開始前に基準ガス供給源から基準ガスを供給してパージ可能としている。それゆえ、漏れ検査時、監視空間からガス検出器へのガス導入に伴って、連通路から監視空間へのガス移動が生じたとしても、連通路から監視空間に進入するガスは基準ガスそのものであるため、このことが、検査対象物から監視空間内に漏洩したトレーサガスの濃度を撹乱する要因とはなり得ない。従って、上記ガスパージ手段を備えた本発明の漏れ検査装置およびその装置を用いた漏れ検査方法によれば、ガス漏れの有無を正確に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明に従う漏れ検査装置及びその装置を用いた漏れ検査方法(加圧積分法による漏れ検査)の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態の漏れ検査装置10は、工場F1の一角に設けられた検査室R内に設置されている。この漏れ検査装置10は、検査室Rの床に設置される基台11と、その基台11上に載置される被覆部材としてのフード12とを備えている。フード12は概ね、直径35cm×高さ40cmの有天円筒状の筒体として形成されており、図示しないフード昇降機構によって垂直方向に移動可能となっている。
【0017】
待機時(即ち非検査時)、フード12は基台11の載置面11aから離れた上方待機位置に浮上保持されている。そのとき、検査対象物Tは、基台11上に設置された搬送機構13(本例では手動式搬送ローラ)により水平搬送されて所定の検査位置(即ち上方待機位置にあるフード12の直下位置)にセット可能となっている。
【0018】
他方、検査対象物Tのセット後にフード12を下降させることで、フード12は、その下端部が基台の載置面11aに接触する下方検査位置(図1に示す位置)に切替え配置される。その結果、フード12によって検査対象物Tの全体が覆われ、基台の載置面11aとフード12とによって検査対象物Tの外側隣接領域に監視空間Sが画成される。この監視空間Sは、後述する各種ラインを介しての外部との連通を例外として、基本的に気密な空間である。
【0019】
漏れ検査装置10は、検査対象物Tの内部にトレーサガスとしてのヘリウムガスを供給するためのトレーサガス供給手段14を備えている。このトレーサガス供給手段14は、ヘリウムガスボンベ15と、カップラー16(結合具)と、両者を連結すると共に開閉弁17を具備したガス供給路18と、前記カップラー16を昇降させるカップラー昇降機構(図示略)とから構成されている。
【0020】
漏れ検査装置10は更に、トレーサガス(Heガス)の濃度を検出するためのガス検出器21を備えている。このガス検出器21は、フード12の外に設置されており、フード12の天井部に装着されたスニッファープローブ22を介してフード12に連結されている。つまり、スニッファープローブ22は、フード12によって画成された監視空間S内のガスをガス検出器21に導くための「ガス吸込み口」である。
【0021】
図1に示すように、フード12の側壁部及び天井壁部には、複数種のエアー供給ライン(配管類)が接続されている。具体的には、フード内エアーブローライン23と、フード内大気開放ライン31と、ライン内エアーブローライン26とが設けられている。
【0022】
フード内エアーブローライン23は、フード12と基準ガス供給源(本例では、工場F1外の他の工場F2内の雰囲気)とを連通させる連通路であって、開閉弁24と、基準ガス供給源(F2)のエアーを当該ライン23に強制供給するコンプレッサー25(強制圧送手段)とを具備している。このエアーブローライン23は、フード12内に基準ガスとしてのエアーを供給して前記監視空間Sをエアーでパージするための第1のガスパージ手段として機能する。
【0023】
なお、「基準ガス」とは、漏れ検査の開始時にフード12の内部を満たしているガスであって、検査対象物Tからのトレーサガスの漏れを検知可能な雰囲気を形成するためのガスをいう。基準ガスとしては、トレーサガス以外のガスを使用可能であるが、基準ガスには少量のトレーサガス(好ましくは10ppm以下)が予め含まれていてもよい。本実施形態では、基準ガスとして、エアー、即ち自然界における通常の大気(一般に5ppm程度のHeを含む)を使用している。
【0024】
フード内大気開放ライン31は、フード12と、当該フード12の側壁部から所定距離(本例では約3.3m)だけ離れた大気開放領域(外部領域)とを連通させる連通路である。本実施形態では、その大気開放領域は同じ検査室R内にある。この大気開放ライン31は、フード側開口端32、大気側開口端33およびライン分岐点34を有している。
【0025】
ライン内エアーブローライン26は、前記ライン分岐点34と前記基準ガス供給源(外部工場F2)とを連通させる連通路であって、開閉弁27と、前記基準ガス供給源のエアーを当該ライン26に強制供給するコンプレッサー28(強制圧送手段)とを具備している。このエアーブローライン26は、フード内大気開放ライン31に基準ガスとしてのエアーを供給して当該ライン31の内部をエアーでパージするための第2のガスパージ手段として機能する。
【0026】
本実施形態のフード内大気開放ライン31にあっては、ライン分岐点34からフード側開口端32までの距離L1と、ライン分岐点34から大気側開口端33までの距離L2との比(L1/L2)が所定の比率に設定されると共に、フード側開口端32とライン分岐点34との間には絞り35が設けられている。前記L1/L2の比率及び前記絞り35の内径は、ライン内エアーブローライン26を介してライン分岐点34に供給されるエアーを二つの開口端32,33のそれぞれに同程度に供給すべく設定されている。
【0027】
尚、本実施形態では、フード内大気開放ライン31はホース状又はチューブ状の配管により形成されている。そして、この大気開放ライン31は、その全長にわたる内容積が所定の検査時間内に前記スニッファープローブ22によって監視空間Sからガス検出器21へ導かれるガスの体積に等しいか又はそれを超えるように形成されている。
【0028】
更に図1に示すように、基台11の下側には、開閉弁42の付いた排気管41が設けられている。この排気管41は、その一端(図では上端)がフード12内の監視空間Sに開口すると共に、他端(図では下端)が検査室R内に開口しており、開閉弁42の開弁時には監視空間Sから外部へのガス排出を許容する。
【0029】
また、フード12の内部上域には、複数の撹拌ファン43が配設されている。これらの撹拌ファン43は、フード12内の気体を対流させて監視空間S内における気相の均一性を保つための撹拌手段である。
【0030】
次に、上記漏れ検査装置10を用いた漏れ検査方法について説明する。なお、本実施形態における検査対象物Tとしては、建設機械用の油圧ポンプモータを想定しているが、これに限定されるものではない。
【0031】
検査開始前の準備として、図1に示すように、基台11上の所定の検査位置に検査対象物Tをセットすると共に、フード12を下方検査位置(図1に示す位置)に配置する。こうして検査対象物Tの全体をフード12で覆うことにより、検査対象物Tの外側隣接領域に監視空間Sを画成する。
【0032】
監視空間Sの画成後に(又はその前に)、トレーサガス供給手段14のカップラー16を検査対象物Tに連結させ、ヘリウムガスボンベ15からガス供給路18を介して検査対象物T内にHeガス(トレーサガス)を加圧供給する。そして、大気圧を超える所定の圧力(例えば0.3MPa=約3気圧)のHeガスで検査対象物Tの内部を満たす。検査対象物Tの内圧が前記所定圧に達したら開閉弁17を閉じる。
【0033】
続いて、排気管41の開閉弁42を開き、監視空間Sからのガスの逃げ道を確保した状況下で、フード内エアーブローライン23の開閉弁24およびライン内エアーブローライン26の開閉弁27の両方を開弁し、外部工場F2からのエアーをフード12および大気開放ライン31に強制供給する。これにより、基準ガスとしてのエアーで、監視空間S内及び大気開放ライン31内をガスパージ(気相置換)する。
【0034】
このガスパージ操作により、フード12内(監視空間S内)のHe濃度は図2のグラフのように変化する。即ち、ガスパージ開始時t1以前においては、前回までの漏れ検査の名残で検査室R内には12ppmを超えるHeが滞留しており、その影響でフード12内にもそれと同程度のHeが不可避的に残留している。この汚れた状況を解消して監視空間Sを初期状態に戻すことがガスパージの目的である。所定時間t1〜t2(本例では約20秒間)のガスパージ操作により、ガスパージ終了時t2におけるフード12内のHe濃度は、自然界に存在する大気中のHe濃度と同程度まで低下する。本実施形態ではこの約5ppmのHeを含むエアーを「基準ガス」とみなしている。
【0035】
ガスパージ終了時t2には、前記二つのエアーブローライン23,26の開閉弁24,27を共に閉弁してエアー供給を遮断すると共に、排気管41の開閉弁42を閉じて排気管41経由での外部連通を遮断する。その結果、監視空間Sは、大気開放ライン31のみを介して大気開放領域と連通した状態となる。
【0036】
本実施形態では、開閉弁24,27及び42が同時に閉弁されたガスパージ終了時t2から所定時間Tの経過後を漏れ検査の開始時t3とした。この時間T(T=t3−t2)は、ガスパージ終了後においてフード12内のHeガス濃度を均一化又は安定化させるための猶予時間であり、本実施形態ではTを5秒間とした。そして本実施形態では、漏れ検査開始時t3から約60秒の間、スニッファープローブ22を介して監視空間Sからガスを取り込み、ガス検出器21にてガス中のHe濃度を測定した。その測定値に基づいて得られたHe濃度の変化量を図4のグラフに実線で示す。
【0037】
本実施形態では、同一の検査対象物Tについて、上記基台11上の所定の検査位置への検査対象物Tのセットから、Heガスの加圧供給、ガスパージ操作及び約60秒間の漏れ測定までを1サイクル(1回)として、合計5回の測定実験を行った。その結果、5回とも図4のグラフに実線で示すような結果となり、測定回ごとのHe濃度変化は極めて安定していた。なお、図4に実線で示す測定結果は、検査対象物Tが「漏れなし」であることを示している。
【0038】
[比較例]
比較例の漏れ検査装置として、上記実施形態の漏れ検査装置10から大気開放ライン31を取り除いた装置(図示略)を準備した。そして、その装置を用いて、上記実施形態とほぼ同様の手順で同一の検査対象物Tについて5回の測定実験を行った。この比較例では漏れ検査中に監視空間Sが密封状態に保たれる(但し、スニッファープローブ22による連通を除く)ことから、比較例の装置及び方法は、従来の加圧積分法に準拠するものである。
【0039】
比較例における5回の測定結果を図4のグラフに破線(5本)で示す。図4からわかるように、5回の測定結果はどれ一つとして同じではなく、He濃度の変化量には測定回ごとにバラつきが観察された。それに加えて、5回の測定のうちの1回は、検査開始から最初の20秒間の変化が「漏れあり判定線」にすり寄った変化傾向をみせており、その測定結果に基づいて「漏れなし」の判定を下すためには、少なくとも40秒以上にわたって濃度変化を観察し続ける必要があった。また、5回の測定のうちの3回は、漏れなし判定の理想線(つまり、ゼロppm水平ライン)から大きく外れた変化ラインを描いているため、これらについても「漏れなし」の判定を下すためには、相応の時間を必要とした。
【0040】
以上のように、「漏れなし」と判定すべき検査対象物Tを検査した場合であっても、比較例では、漏れ検査開始後のHe濃度変化が非常に不安定であるために、「漏れなし」の最終判定を下すまでに、例えば40秒以上というような長めの検査時間(監視時間)を必要とする。これに対し、本実施形態では、漏れ検査開始直後からHe濃度変化が非常に安定しているため、「漏れなし」の最終判定を下すまでの検査時間(監視時間)を比較例の場合よりも大幅に短縮(例えば10秒以下に短縮)することが可能であり、そのような検査時間の短縮を図ったとしても誤判定のおそれはほとんどない。
【0041】
なお、本発明を完成させるまでには、フード12におけるスニッファープローブ22の取付け位置や攪拌ファン43による攪拌能力の大小の影響についても検討した。しかしながら、これらの要素は、ガス検出器21によるHe濃度検出の安定性(又は不安定性)にほとんど影響を及ぼさないことが実験的に確認された。上記実施形態及び比較例の測定結果が示すように、He濃度検出の安定化を図る最大の鍵は、フード12における大気開放ライン31の有無である。
【0042】
本実施形態では、検査対象物Tを覆うことで当該検査対象物Tの外側隣接領域に気密な監視空間Sを画成可能なフード12として、監視空間Sを該フード12から離れた大気開放領域に連通させる大気開放ライン31を備えたフード12を用いた。従って、大気開放ライン31を介して監視空間Sを大気開放領域に連通させた状態を保ちながら、監視空間Sからガス検出器21に導かれるガス中のトレーサガス濃度を測定することができる。その結果、監視空間Sからガス検出器21へのガス導入に際して過大な吸引負圧の発生が回避されて、監視空間Sとガス検出器21との間のガス連通が非常に安定化する。従って、漏れ検査時におけるトレーサガスの検出も安定化し、従来よりも短時間でガス漏れの有無を正確に判定することが可能になる。
【0043】
本実施形態では、フード12の監視空間S内のみならず、大気開放ライン31内をも、漏れ検査開始前に外部工場F2からのエアーを供給してパージ可能としている。このため、漏れ検査時に監視空間Sからガス検出器21へのガス導入に伴って、大気開放ライン31から監視空間Sへのガス移動が生じたとしても、その際に監視空間Sに進入するガスは基準ガスとしてのエアーそのものであるため、このことが、検査対象物Tから監視空間S内に漏洩したHeガスの濃度を撹乱する要因とはなり得ない。
【0044】
特に本実施形態では、大気開放ライン31はホース状又はチューブ状の管材として形成されると共に、当該ラインの全長にわたる内容積が、必要十分な所定の検査時間(例えば10秒)内に前記スニッファープローブ22によって監視空間Sからガス検出器21へ導かれるガスの体積に等しいか又はそれを超えるように設定されている。それ故、ガスパージ操作によって大気開放ライン31内に満たされた基準ガス以外のガスが、漏れ検査時にライン31を介して監視空間S内に混入するおそれがない。従って、本実施形態の漏れ検査装置10及びその装置を用いた漏れ検査方法によれば、監視空間Sが完全気密ではないにもかかわらず、ガス漏れの有無を正確に判定することができる。
【0045】
[変更例]本発明を以下のような態様で変更実施してもよい。
【0046】
トレーサガスとして、ヘリウムガス(He)に代えて、水素ガス、硫化水素ガス、二酸化炭素ガス等を用いてもよい。また、基準ガスとして、エアーに代えて、窒素ガス、アルゴンガス、一酸化炭素ガス、メタンガス等を用いてもよい。
【0047】
上記実施形態では、フード12を単一の壁からなる筒体として構成したが、フード12を多重壁からなる多重構造の筒体として構成しフード自体の機密性を高めてもよい。
【0048】
上記実施形態において、「連通路」としてのライン31の端33をガス検出器21の下流側に接続してもよい。その場合、スニッファープローブ22によって吸引されたガスはライン31を介してフード12内に戻される。つまり、ガス検出器21の下流側領域が「監視空間以外の外部領域」に相当することになる。このように構成しても、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0049】
上記実施形態において、「連通路」としてのライン31の端33に、例えばガスボンベ等からなるガス供給源を接続してもよい。その場合、スニッファープローブ22が吸引したガスの体積分に相当するガスが、当該ガス供給源からライン31を介してフード12内に供給可能となる。つまり、当該ガス供給源が「監視空間以外の外部領域」に相当することになる。このように構成しても、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0050】
本発明は、JIS−Z2331の加圧積分法のみならず、吸盤法(サクションカップ法)にも適用できることは言うまでもない。
【0051】
[付記]その他の技術的思想及び好ましい構成要素について以下に列挙する。
イ.特許請求の範囲(請求項1〜3)における前記連通路は、被覆部材によって画成される監視空間を当該被覆部材から所定距離だけ離れた大気開放領域に連通させるべく被覆部材に設けられた連通路であること。また、請求項3及び4における「監視空間以外の外部領域」は、「被覆部材から所定距離だけ離れた大気開放領域」であること。
ロ.特許請求の範囲(請求項1〜2)に記載した漏れ検査装置において、前記被覆部材は、加圧積分法による検査時に使用するフード、又は、吸盤法による検査時に使用するサクションカップであること。
ハ.特許請求の範囲(請求項1〜4)に記載した漏れ検査装置又は漏れ検査方法において、前記基準ガス供給源の基準ガスは、漏れ検査装置が設置された検査室又は建物内部から隔絶された場所から採取したエアーであって、当該エアー中におけるトレーサガスの濃度が自然界におけるトレーサガス濃度に等しいこと。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】一実施形態に従う漏れ検査装置の概要を示す構成図。
【図2】漏れ検査開始までの準備操作の概要を示すガス濃度の経時変化グラフ。
【図3】漏れの有無の判定基準となるガス濃度の経時的変化を示すグラフ。
【図4】実施例及び比較例におけるガス濃度の経時的変化を示すグラフ。
【符号の説明】
【0053】
10 漏れ検査装置
12 フード(被覆部材)
14 トレーサガス供給手段
21 ガス検出器
22 スニッファープローブ
23 フード内エアーブローライン(第1のガスパージ手段)
26 ライン内エアーブローライン(第2のガスパージ手段)
31 大気開放ライン(連通路)
F2 ガスパージ時の基準ガス供給源
S 監視空間
T 検査対象物
R 検査室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物からのガス漏れを検査するための漏れ検査装置であって、
検査対象物の全部又は一部を覆うことにより当該検査対象物の外側隣接領域に気密な監視空間を画成可能な被覆部材と、
前記検査対象物の内部にトレーサガスを供給するためのトレーサガス供給手段と、
前記トレーサガスの濃度を検出するためのガス検出器と、
前記被覆部材によって画成される前記監視空間内のガスを前記ガス検出器に導くべく前記被覆部材に装着されたスニッファープローブと、
前記スニッファープローブを介して前記監視空間から吸い出されたガスを補うために、前記監視空間をそれ以外の外部領域に連通させるように設けられた連通路と、
漏れ検査開始前に、前記監視空間および前記連通路に基準ガス供給源から基準ガスを供給して前記監視空間内および前記連通路内を基準ガスでパージするためのガスパージ手段と、を備えてなることを特徴とする漏れ検査装置。
【請求項2】
前記連通路はホース状又はチューブ状の管材として形成されると共に、当該連通路の全長にわたる内容積が、所定の検査時間内に前記スニッファープローブによって前記監視空間から前記ガス検出器へ導かれるガスの体積以上となっていることを特徴とする請求項1に記載の漏れ検査装置。
【請求項3】
請求項1に記載の漏れ検査装置を用い、検査対象物からのガス漏れを検査する漏れ検査方法であって、
被覆部材で検査対象物の全部又は一部を覆うことにより、当該検査対象物の外側隣接領域に気密な監視空間を画成する被覆工程と、
トレーサガス供給手段により、前記検査対象物の内部にトレーサガスを予め供給するトレーサガス供給工程と、
検査開始前にガスパージ手段により、前記被覆部材によって画成された前記監視空間および前記被覆部材に設けられた連通路に対し基準ガス供給源から基準ガスを供給して前記監視空間内および前記連通路内を基準ガスでパージするガスパージ工程と、
前記連通路を介して前記監視空間をそれ以外の前記外部領域に連通させた状態を保ちながら、前記被覆部材に装着されたスニッファープローブを通じて前記監視空間からガス検出器に導かれるガス中のトレーサガス濃度を所定の検査時間にわたって測定する測定工程と、を備え、
前記測定工程で得られたトレーサガス濃度の時間的変化に基づいて、前記検査対象物からのガス漏れの有無を判定することを特徴とする漏れ検査方法。
【請求項4】
検査対象物の内部にトレーサガスを予め封入しておき、前記検査対象物を覆う被覆部材によって画成された監視空間におけるトレーサガス濃度の時間的変化に基づいて、前記検査対象物からのガス漏れを検査するところの加圧積分法又は吸盤法に基づく漏れ検査方法であって、
前記被覆部材として、当該被覆部材によって画成される前記監視空間をそれ以外の外部領域に連通させる連通路を備えた被覆部材を用いると共に、
前記連通路を介して前記監視空間を前記外部領域に連通させた状態を保ちながら、前記監視空間からガス検出器に導かれるガス中のトレーサガス濃度を測定することを特徴とする漏れ検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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