説明

漏洩弾性表面波を用いた欠陥検出方法及び欠陥検出装置

【課題】 表面が必ずしも平滑でなく、かつ、表面形状も様々な検査対象に対して欠陥検出を良好に行うことのできる漏洩弾性表面波を用いた欠陥検出方法及び欠陥検出装置を提供する。
【解決手段】 被検体と対向する面に保護膜3dを介して凹面状に設けられた圧電高分子膜3bと、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部4とを備え、被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブ1を用いた欠陥検出方法であって、超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定し、超音波プローブで測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成し、この映像において、振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が線状に存在しているときは被検体にクラックが存在していると判定する欠陥検出方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を用いた表層欠陥の検出技術に係り、特に、漏洩弾性表面波(以下、「漏洩表面波」という。)を用いた欠陥検出方法及び欠陥検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被検体の表面近傍(表層)に存在するクラックなどの欠陥を検出する技術として、超音波の漏洩表面波(Leaky Surface Wave)を用いた検査技術が知られている。
【0003】
超音波プローブから送信された超音波の内、被検体に所定の臨界角で入射した超音波は、漏洩表面波に変換されて表層に沿って進行する。被検体の表層にクラックなどの欠陥が存在した場合は、漏洩表面波の伝搬が妨げられるため、受信した漏洩表面波の強度が低下する。一方、被検体の表層にクラックなどの欠陥が存在しない場合は、強度の強い漏洩表面波が受信される。そこで、受信した漏洩表面波の強度を評価することによって表層の健全性を把握することができる。
【0004】
特許文献1に開示された局部水浸式超音波プローブは、振動子と、当該振動子から送信された超音波を集束して被検体に入射する音響レンズと、当該音響レンズのレンズ曲率面と前記被検体との間に超音波媒体を供給する超音波媒体供給経路とを備え、前記振動子及び音響レンズの中心部に、前記振動子の上面から前記音響レンズのレンズ曲率面まで貫通する透孔を開設し、当該透孔内に超音波媒体供給経路を設定した構成である。
更に、この局部水浸式超音波プローブは、前記振動子及び音響レンズを、前記被検体への漏洩表面波を励起させる斜角入射波の送信と前記被検体からの漏洩波の受信とを行えるようにした構成である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−83123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、この漏洩表面波を用いて精度の良い検査を行う際には、被検体の表面は平滑なものに限られ、さらに、被検体と超音波プローブとは距離が変動しないように高精度で保持される必要があった。
【0007】
一方、機械設備、構造物などの保守検査におけるクラック検出では、クラック発生が懸念される部位の表面を手入れした後にクラック検出を行う。しかし、機械設備等が設置されている現場へ工作機械を持ち込んで表面を平滑に研削することは通常は困難であるため、研磨作業者が手持ちのグラインダー等を使用して表面の研磨を行うことが一般的である。よって、手入れされた表面は粗度が大きく、かつ、小さな凹凸が発生している。
更に、上述の保守検査における表層欠陥の検査では、超音波プローブを手持ちして探傷走査を行うことにより、被検体と超音波プローブとの間の距離変動による感度変化が発生している。
【0008】
このように、表面が必ずしも平滑でなく、かつ、表面形状も様々な検査対象に対して、超音波プローブを手持ちして探傷走査を行うことにより表層の欠陥検出を行う場合には、欠陥検出を良好に行えないという問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、表面が必ずしも平滑でなく、かつ、表面形状も様々な検査対象に対して欠陥検出を良好に行うことのできる漏洩弾性表面波を用いた欠陥検出方法及び欠陥検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明は、被検体と対向する面に保護膜を介して凹面状に設けられた圧電高分子膜と、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部とを備え、前記被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、前記被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブを用いた欠陥検出方法であって、前記超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定し、前記超音波プローブで測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成し、この映像において、振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が線状に存在しているときは前記被検体にクラックが存在していると判定する。
【0011】
また本発明は、被検体と対向する面に保護膜を介して凹面状に設けられた圧電高分子膜と、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部とを備え、前記被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、前記被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブからの測定信号を処理する欠陥検出装置であって、前記超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成する映像生成部と、この映像において、振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が線状に存在しているときは前記被検体にクラックが存在していると判定する判定部とを備えた。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、表面が必ずしも平滑でなく、かつ、表面形状も様々な検査対象に対して欠陥検出を良好に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】超音波プローブと被検体との間の超音波の伝搬を示す図。
【図2】超音波プローブと表面に凹凸がある被検体との間の超音波の伝搬を示す図。
【図3】表面に凹凸がある被検体からの漏洩表面波の受波を示す図。
【図4】本発明に係る漏洩表面波による測定方法に用いる超音波プローブの断面図を示す図。
【図5】超音波部材の詳細の構成を示す図。
【図6】本願の超音波プローブを用いた測定装置の構成を示す図。
【図7】本願の超音波プローブによる測定結果と従来プローブによる測定結果を対比して示す図。
【図8】映像上で黒く観察されるクラックの幅が集束ビーム焦点位置によって異なる理由を説明する図。
【図9】本願の超音波プローブを用いて疲労クラックサンプルを測定して得られた測定結果(2次元走査映像)を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1の実施の形態]
本願発明について説明する前に、表面に凹凸が発生している被検体のクラック検出において、従来技術を適用することの問題点を詳しく説明する。
【0015】
(1)被検体と超音波プローブとの距離を高精度に保つ必要がある問題
図1は、超音波プローブと被検体との間の超音波の伝搬を示す図である。
被検体を鋼とすると、超音波伝達媒体である水から鋼へ超音波が入射する場合に、漏洩表面波励起の入射角(臨界角)θは約30°である。この角度は大きなものであるため、音響レンズを用いた超音波プローブで漏洩表面波を励起させるためには、音響レンズとして縦波速度が大きな材料を用いる必要がある。音響レンズは、超音波の屈折を利用して超音波ビームの集束を行うため、縦波速度が小さい材料を用いるとビームの屈折の効果が小さくなって超音波集束ビームの焦点距離が長くなる結果、鋼の表面に対して大きな入射角で超音波を入射させることが困難となるからである。
【0016】
このようなことから、音響レンズとして縦波速度の大きいアルミニウムなどが用いられている。しかし、アルミニウムと水とではその音響インピーダンスが大きく異なるため、アルミニウム→水および水→アルミニウムの超音波伝達において音圧通過率が小さな値となる。従って、音響レンズを用いて漏洩表面波を励起し、被検体表面を伝搬した漏洩表面波を受波する場合には、小さな振幅の漏洩表面波しか受波することができない。
【0017】
図1に示すように、一般に漏洩表面波を用いた測定では、音響レンズにより集束させる超音波ビームの焦点を被検体内部の深い位置に設定するほど、漏洩表面波の伝搬距離が長くなる。従って、焦点を被検体内部の深い位置に設定するほど、検出すべきクラックなどの欠陥に対する超音波プローブの位置の許容誤差範囲が大きくなり、有利である。しかし、漏洩表面波の伝搬距離が長くなるほどビームの拡散による漏洩表面波の弱まりが大きくなるため、設定可能な焦点位置の深さには限界がある。
【0018】
上述のように、従来の音響レンズを用いた漏洩表面波の励起および受波の場合には、小さな振幅の漏洩表面波しか受波することができないために、設定可能な焦点の深さ位置は被検体の表面近くに限定せざるを得なかった。換言すれば、従来の技術では、設定可能な焦点の深さ位置の範囲が狭いことを意味する。
【0019】
(2)被検体の凹凸によって誤検出が発生する問題
図2は、超音波プローブと表面に凹凸がある被検体との間の超音波の伝搬を示す図である。図2に示すように、表面に凹凸がある被検体に対して漏洩表面波を励起し、受波する場合には、超音波プローブからみたときの漏洩表面波の臨界角(見掛け上の臨界角)が変化する。
【0020】
図3は、表面に凹凸がある被検体からの漏洩表面波の受波を示す図である。図3に示すように、被検体表面に凹凸がある場合の漏洩表面波→水中縦波→音響レンズ内縦波の伝搬パス(以下、伝搬パス)と、被検体が平坦な場合の伝搬パスとではずれが生じている。このずれが発生する原因は、被検体の凹凸のために、漏洩表面波からモード変換された水中縦波の進行方向が被検体の表面の傾きに応じた分だけ変化するためである。
【0021】
この水中縦波が音響レンズへ到達し、屈折により音響レンズ内へ伝搬する。すると、音響レンズ内を伝搬する縦波の進行方向は超音波振動子の法線方向からずれてしまうため、最終的に超音波振動子によって受波される漏洩表面波の振幅は小さくなる。
【0022】
このような理由から、表面に凹凸がある被検体に対して、従来の音響レンズを用いた超音波プローブを適用した場合、凹凸の程度に依存して受波される漏洩表面波の振幅には変動が発生し、変動の程度が大きな場合には誤検出が発生するのである。
【0023】
続いて、本発明に係る漏洩表面波による測定方法およびこれに用いる超音波プローブの実施形態例を、図を参照しつつ説明する。
【0024】
図4は、本願に係る漏洩表面波による測定方法に用いる超音波プローブの断面図を示す図である。
超音波プローブ1は、球面に形成された(断面図では円弧)バッキング材2の内表面に薄層をなす超音波部材3を設けた構成である。そして、球表面の中央部には貫通孔4が設けられ、この貫通孔4より超音波伝達媒体である水が供給される。なお、超音波プローブの内面形状は、球面に限られず、楕円面であっても良い。一般に、超音波プローブ1の用途に応じた曲面を用いれば良い。
【0025】
図5は超音波部材3の詳細の構成を示す図である。超音波部材3は、バッキング材2と接する金または銅の薄膜からなる第1の電極3a、超音波振動子3b、金または銅の薄膜からなる第2の電極3c及び超音波伝達媒体である水に接するポリイミド樹脂膜からなる保護膜3dが積層された構造を有している。
【0026】
超音波振動子3bとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体P(VDF-TrFE)などのいわゆる圧電高分子膜が好適である。
【0027】
ポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体Pの膜厚は、使用する周波数に依存する。本実施の形態では、10〜100MHzの使用周波数に対応して5〜50μmの膜厚を採用する。また、ポリイミド樹脂膜の厚さが5μm以上であれば、超音波振動子には十分な耐久性が得られることを確認している。
【0028】
このように構成された超音波プローブ1は以下の特性を有している。
【0029】
(1)従来の超音波プローブと異なり、音響レンズを用いていないため、音響レンズに起因する音圧通過率の低下がない。保護膜による音圧通過率の低下が考えられるが、音響レンズと比較するとその低下の影響は大幅に改善されている。
【0030】
(2)また、高分子圧電体の音響インピーダンスは水の音響インピーダンスと近いため、超音波振動子3bに励起された音響的勢力を効率よく被検体表面へ入射させ、大きな振幅の漏洩表面波を励起することができる。漏洩表面波からモード変換された水中縦波の受波の効率も同様に高い。したがって、漏洩表面波の伝搬距離を長くしても、伝達した漏洩表面波の受波が可能であるため、超音波ビームの焦点を被検体内部の深い位置に設定することが可能である。即ち、被検体と超音波プローブとの距離設定における自由度が高い。
【0031】
(3)図2に示すように、被検体の表面に凹凸が存在し、超音波プローブからみたときの漏洩表面波の臨界角が変化する(見掛け上の臨界角変化)現象が発生しても、球面超音波振動子3bのいずれかの位置から送波された超音波により、音響レンズを介さずに直接、漏洩表面波を励起でき、また、漏洩表面波がモード変換された水中縦波を球面超音波振動子3bのいずれかの位置により音響レンズを介さずに直接受波することができる。このように、本願の超音波プローブ1では、音響レンズを用いる場合にみられた(図3で説明した)音響レンズ内での縦波の進行方向変化のような受波漏洩表面波の振幅を変化させる現象は発生しない。従って、受波される漏洩表面波の振幅に、被検体の表面凹凸の影響が表れにくい。
【0032】
図6は、本願の超音波プローブを用いた測定装置の構成を示す図である。
超音波プローブ1は図示を略した2次元走査装置に取り付けられている。2次元走査装置は、超音波プローブ1を搭載して被検体表面を走査する。
【0033】
超音波プローブ1は超音波送受信器10に接続され、超音波送受信器10から一定の繰返し周期にて印加される高電圧パルスにより超音波パルスを水中へ送波する。前記超音波パルスにより被検体表面に漏洩表面波が励起される。被検体表面を伝搬した漏洩表面波は、モード変換により水中縦波となって超音波プローブ1に受波され、電気信号に変換される。
【0034】
受波され電気信号に変換された信号を超音波送受信器10が適当な振幅に増幅する。増幅後の超音波信号はゲート回路11へ送られる。ゲート回路11は、漏洩表面波による信号のみを抽出してピーク値検出回路12へ送信する。ピーク値検出回路12では入力された漏洩表面波信号の振幅値(ピーク値)が検出され、制御表示装置13へ送られる。
【0035】
制御表示装置13は、走査制御、データ処理、画像表示の各機能を兼ねている。制御表示装置13は図示を略した2次元走査装置の動きを制御しつつ、超音波プローブ1の位置と対応付けて漏洩表面波による信号の振幅値を収集し、この結果に基づいて、漏洩表面波による2次元走査映像を作製し、表示する。漏洩表面波による2次元走査映像の作成においては、映像輝度を受波した漏洩表面波の振幅に応じて設定する。即ち、受波した漏洩表面波の振幅が大きい場合には明るく、受波した漏洩表面波の振幅が小さい場合には暗く表示がなされる。
【0036】
また、超音波プローブ1には図示を略した給水装置から給水チューブ5を通して水が供給され、超音波プローブ1の中央に設けられた給水孔から水が流れ出ることにより局部水浸法による超音波測定が可能になっている。
【0037】
続いて、上述の測定装置を用いた欠陥検出結果について説明する。
本願の超音波プローブ1として、振動子材質:P(VDF−TrFE)、周波数50MHz、振動子直径8mm、水中焦点距離6mmの仕様の超音波プローブを用いた。また、対比のため、従来技術による超音波プローブ(以下従来プローブ)として、振動子材質:メタニオブ酸鉛、周波数20MHz、振動子直径12mm、音響レンズ:アルミニウム製、水中焦点距離8mmの超音波プローブを用いた。
【0038】
被検体として、肉厚8mmの厚鋼板からなる部材に発生した疲労クラックサンプルを用い、被検体に対して超音波プローブ1を2次元走査することにより測定した漏洩表面波を用いて映像化した。なお、疲労クラックサンプルの表面には錆やたくさんの腐食ピットによる凹凸が存在していた。
【0039】
図7は、超音波プローブと被検体との間の距離を変えながら、本願の超音波プローブ1による測定結果(2次元走査映像)と従来プローブによる測定結果(2次元走査映像)を対比して示す図である。
図中Zで表示されている値は、被検体の深さ方向において超音波プローブによる集束ビームの焦点を設定したみかけ上の位置を示しており、例えばZ=−2mmとは、表面焦点(Z=0mm)の状態から超音波プローブを2mm被検体へ近づけ、被検体の深さ2mmの位置に集束ビームの焦点(図4)を設定したことを表している。もちろん、被検体中での真の焦点距離は音速の違いによる屈折の変化のため、見かけ上の焦点距離とは異なる。−符号は被検体の内部にあることを示している。
【0040】
画像の中央に弓なりに発生している黒い部分が、クラックによって受波漏洩表面波の振幅が低下した部分である。本願の超音波プローブ1ではZ=−3mmまで疲労クラックの明瞭な検出が可能であるが、従来プローブではZ=−1mm程度が限界であることが図7からわかる。
【0041】
また、従来プローブを用いて測定した漏洩表面波によるクラック映像(2次元走査映像)では、クラック以外の部分に大きな濃淡変化がある。この濃淡変化は、上述の錆び、腐食ピットによる凹凸の影響と考えられる。そして、このノイズ成分である濃淡変化は、クラックによる濃淡変化と同程度のものもあることがわかる。これに対し、本願の超音波プローブ1を用いて測定した漏洩表面波によるクラック映像(2次元走査映像)では、クラック以外の部分の映像濃淡変化が少ない。
【0042】
本発明の超音波プローブ1の周波数が50MHzであり、従来のプローブの周波数20MHzと比べると漏洩表面波の表面近くへの局在の度合いが高いため、表面のピットや錆により敏感であると考えられるにも拘らず上述のように良好な測定結果が得られている。同様に、本発明の超音波プローブ1の水中焦点距離が6mmであり、従来のプローブの水中焦点距離8mmと比べると表面の凹凸の焦点距離に対する比率が高いために、焦点距離の観点でも表面の凹凸に対してより敏感であると考えられるにも拘らずノイズの少ない良好な測定結果が得られている。これらのことは、本願発明の優位性を示している。
【0043】
続いて、本願の超音波プローブ1を用いたクラック検出方法について説明する。
図7に示す本願の超音波プローブ1を用いて測定した3枚のクラック映像では、集束ビームの焦点位置が深くなるほどクラックによって生じた黒い部分の幅が広くなっている。
【0044】
図8は、映像上で黒く観察されるクラックの幅が集束ビーム焦点位置によって異なる理由を説明する図である。
超音波プローブ1から被検体に入射する超音波によって被検体表面に励起された漏洩表面波は、被検体表面を距離Lだけ伝搬し、モード変換により縦波となって超音波プローブ1で受波される。伝搬経路中の被検体にクラックが存在していた場合は、そのクラックによって伝搬する漏洩表面波の強度が弱められ、これが黒く観察される。
そうとすれば、原理的に図8のクラックの位置の左側では、距離Lよりも短い位置に超音波が入射したときは励起された漏洩表面波の強度が弱められる。超音波の入射がクラックの右側である場合も考慮すると、クラック位置を中心とした2Lの範囲で漏洩表面波の強度が弱められ黒く観察される。
【0045】
また、上述のように、超音波ビームの焦点を被検体内部の深い位置に設定するほど、漏洩表面波の伝搬距離Lが長くなる。従って、集束ビームの焦点位置が深くなるほどクラックによって生じた黒い部分の幅が広く測定されるのである。
このことから、本願の超音波プローブ1を用いて測定した映像中に線状に延びた黒い領域が存在している場合は、クラックがあると判定することができる。さらに、超音波ビームの焦点位置を変更して測定した映像を取得し、その映像中の同じ位置にも幅が異なる線状に延びた黒い領域が存在している場合は、クラックがあると判定することもできる。
【0046】
さらに、本願の超音波プローブ1を用いる場合は、クラックの存在をより信頼性高く判定し、腐食ピットなどの凹凸を識別することが可能である。
【0047】
図9は、本願の超音波プローブ1を用いて疲労クラックサンプルを測定して得られた測定結果(2次元走査映像)を示す図である。図9(a)は疲労クラックが存在する部分の漏洩表面波による映像(2次元走査映像)であり、図9(b)は腐食ピットが極めて大量に存在している部分の漏洩表面波による映像(2次元走査映像)である。
図中Zで表示されている値は、被検材の深さ方向において超音波プローブ1による集束ビームの焦点を設定した位置を示しており、Z=−3mmとは、みかけ上、被検材の深さ3mmの位置に焦点を設定したことを表している。−符号は、焦点位置が被検材の内部にあることを示している。
【0048】
図9(b)に示すように、腐食ピットのみが存在する領域では、漏洩表面波の腐食ピットによる弱まりが発生するだけであるため、腐食ピットが大量に発生している場合は、本願の超音波プローブ1を用いた場合であっても、漏洩表面波の弱まりによる黒い画像だけが観察される。従ってもし、クラックがこのような腐食ピット内に発生していた場合は、クラックの検出が困難となる。
【0049】
これに対し、図9(a)では、疲労クラックによる漏洩表面波の弱まりを表す黒い画像の中にクラックに沿って延びている明るい線が発生している。この明るい線は、疲労クラックによる漏洩表面波の反射波を映像化したものであると考えられる。
【0050】
被検体表面を伝搬する漏洩表面波は、クラックによってその進行が妨げられて、一部が反射波として超音波プローブ1に受波される。ここで反射波がどのような経路で超音波プローブ1に受波されるかは問題ではない。ゲート回路11によって許容された時間内に超音波プローブ1に受波された、反射波とクラックを通過した漏洩表面波とが重畳することで振幅の大きな信号として明るい表示がされていると考えられる。
【0051】
この明るい線は、本願の超音波プローブ1が、従来の超音波プローブよりも高い感度を持つために明瞭に検出できたものである。従って、本願の超音波プローブ1を用いて漏洩表面波の反射波の有無を検出することにより、漏洩表面波の弱まりがクラックによるものであるかをより確度高く判定し、また腐食ピット等の表面凹凸によるものであるかを明瞭に識別することが可能である。
【0052】
例えば、本願の超音波プローブ1を用いて測定した映像中に線状に延びた黒い領域の中に輝度の高い領域が存在し、その輝度の高い領域が黒い領域に沿って線状に延びている場合は、クラックがあると判定することができる。
【0053】
また、本願の超音波プローブ1を用いて測定した映像中の黒い領域の中に輝度の高い領域が存在し、その輝度の高い領域が線状に延びている場合は、クラックがあると判定することができる。従って、被検体の凹凸によって、受波漏洩表面波の振幅に変動が発生しても、クラックのみを識別検出することができる。
【0054】
上述のクラックの検出は自動化することができる。例えば、図6の制御表示装置13からの映像信号を取得した、図示しない欠陥検出部が上述のクラック検出アルゴリズムを実行すれば良い。
【0055】
[実施の形態の効果]
(1)本願の超音波プローブは、被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と前記被検体からの漏洩波の受波とを行えるようにした超音波プローブである。このプローブは、音響レンズを備えておらず、そのプローブの被検体と対向する内面には保護膜を介して凹面状に整形した圧電高分子膜を超音波部材として設けている。そして、その圧電高分子膜の中央部に、超音波伝達媒体を供給するための開口部を設けている。この構成の超音波プローブによれば、プローブ走査における被検体と超音波プローブとの距離を大きくすることができるので、超音波ビームの焦点を被検体内部の深い位置に設定することができる。その結果、漏洩表面波の伝搬距離を長くするができ、漏洩表面波を用いたクラックなどの欠陥測定を容易に、かつ、信頼度高く行える。加えて、被検体の凹凸による受波漏洩表面波の振幅変動が発生しにくいため、被検体の凹凸による誤検出も発生しにくい。従って、漏洩表面波によるクラック検出を有利に達成できる。
【0056】
(2)本願の超音波プローブを用いることで、クラックの反射波をより明瞭に把握することができる。このクラックの反射波による映像を利用することによってクラックをより確度高く検出することができ、腐食ピット等の表面凹凸とクラックとを識別検出することができる。
【0057】
なお、上述の実施の形態で説明した各機能は、ハードウエアを用いて構成しても良く、また、ソフトウエアを用いて各機能を記載したプログラムをコンピュータに読み込ませて実現しても良い。また、各機能は、適宜ソフトウエア、ハードウエアのいずれかを選択して構成するものであっても良い。
【0058】
更に、各機能は図示しない記録媒体に格納したプログラムをコンピュータに読み込ませることで実現させることもできる。ここで本実施の形態における記録媒体は、プログラムを記録でき、かつコンピュータが読み取り可能な記録媒体であれば、その記録形式は何れの形態であってもよい。
【0059】
尚、本発明は、上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合せにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。更に、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合せてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…超音波プローブ、2…バッキング材、3…超音波部材、3a…第1の電極、3b…超音波振動子、3c…第2の電極、3d…保護膜、4…貫通孔、5…給水チューブ、10…超音波送受信器、11…ゲート回路、12…ピーク値検出回路、13…制御表示装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体と対向する面に保護膜を介して凹面状に設けられた圧電高分子膜と、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部とを備え、前記被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、前記被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブを用いた欠陥検出方法であって、
前記超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定し、
前記超音波プローブで測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成し、
この映像において、振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が線状に存在しているときは前記被検体にクラックが存在していると判定すること
を特徴とする欠陥検出方法。
【請求項2】
被検体と対向する面に保護膜を介して凹面状に設けられた圧電高分子膜と、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部とを備え、前記被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、前記被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブを用いた欠陥検出方法であって、
前記超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定し、
前記超音波プローブで測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成し、
この映像において、線状に延びた振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が前記振幅の小さい輝度の表示領域に沿って線状に存在しているときは前記被検体にクラックが存在していると判定すること
を特徴とする欠陥検出方法。
【請求項3】
前記圧電高分子膜は膜厚5〜50μmのポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体P(VDF-TrFE)であり、前記保護膜は膜厚5μm以上のポリイミド樹脂膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の欠陥検出方法。
【請求項4】
被検体と対向する面に保護膜を介して凹面状に設けられた圧電高分子膜と、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部とを備え、前記被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、前記被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブからの測定信号を処理する欠陥検出装置であって、
前記超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成する映像生成部と、
この映像において、振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が線状に存在しているときは前記被検体にクラックが存在していると判定する判定部と
を備えたことを特徴とする欠陥検出装置。
【請求項5】
被検体と対向する面に保護膜を介して凹面状に設けられた圧電高分子膜と、この圧電高分子膜の中央部に超音波伝達媒体を供給する開口部とを備え、前記被検体へ漏洩弾性表面波を励起させる斜角入射波の送波と、前記被検体からの漏洩弾性表面波からモード変換によって生成された縦波である漏洩波の受波とを行う超音波プローブからの測定信号を処理する欠陥検出装置であって、
前記超音波プローブで被検体の表面を走査しつつ測定した受波信号の振幅に応じた輝度で映像を生成する映像生成部と、
この映像において、線状に延びた振幅の小さい輝度の表示領域内に振幅の大きい輝度の表示領域が前記振幅の小さい輝度の表示領域に沿って線状に存在しているときは前記被検体にクラックが存在していると判定する判定部と
を備えたことを特徴とする欠陥検出装置。
【請求項6】
前記圧電高分子膜は膜厚5〜50μmのポリフッ化ビニリデン三フッ化エチレン共重合体P(VDF-TrFE)であり、前記保護膜は膜厚5μm以上のポリイミド樹脂膜であることを特徴とする請求項4又は5に記載の欠陥検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−93247(P2012−93247A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241081(P2010−241081)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】