説明

潜在的硬化性組成物、無機粉末ペースト組成物及びセラミックスラリー組成物

【課題】機械的強度が高く、耐溶剤性及び熱分解性に優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂を作製することでき、かつ、貯蔵安定性に優れる潜在的硬化性組成物を提供する。また、本発明は、該潜在的硬化性組成物を用いた無機粉末ペースト組成物及びセラミックスラリー組成物を提供する。
【解決手段】特定の4つの化学構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂(A)、多官能アミン化合物(b1)と有機酸(b2)との塩からなるブロック化多官能アミン化合物(B)、及び、有機溶剤(C)を含有する潜在的硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度が高く、耐溶剤性及び熱分解性に優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂を作製することでき、かつ、貯蔵安定性に優れる潜在的硬化性組成物に関する。また、本発明は、該潜在的硬化性組成物を用いた無機粉末ペースト組成物及びセラミックスラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリビニルアセタール樹脂は、強靭性、造膜性、顔料等の無機粉体や有機粉体の分散性、塗布面への接着性等に優れていることから、種々の用途に利用されている。
具体的なポリビニルアセタール樹脂の用途としては、例えば、コンデンサ、圧電素子、サーミスタ、バリスタ等が知られており、なかでも、積層セラミックコンデンサ等の積層電子部品の材料として多く用いられている。
【0003】
このような積層電子部品は、一般に次のような工程を経て製造されている。
まず、ポリビニルブチラール樹脂やポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂等の有機バインダー樹脂を有機溶剤に溶解した溶液に可塑剤、分散剤等を添加した後、セラミック原料粉末を加え、ボールミル等により均一に混合し、脱泡後に一定粘度を有するセラミックスラリー組成物を得る。このスラリー組成物をドクターブレード、リバースロールコーター等を用いて、離型処理したポリエチレンテレフタレートフィルム又はSUSプレート等の支持体面に流延成形する。これを加熱等により、溶剤等の揮発分を溜去させた後、支持体から剥離してセラミックグリーンシートを得る。
【0004】
次に、得られたセラミックグリーンシート上に、パラジウム、銀、ニッケル等の導電材を含有する電極層用ペーストを所定パターンで印刷する。得られた印刷後のセラミックグリーンシートを複数枚積み重ねて積層し、プレス切断工程を経てセラミックグリーンチップを得る。そして、得られたセラミックグリーンチップ中に含まれるバインダー成分等を熱分解して除去する処理、いわゆる脱脂処理を行った後、焼成して得られるセラミック焼成物の端面に外部電極を形成する工程を経て積層電子部品を製造する。
【0005】
一方で、積層電子部品には、近年更なる小型化、大容量化が求められており、セラミックグリーンシートについても、より一層の多層化、薄膜化が検討されている。
しかしながら、近年の積層セラミックコンデンサの薄層化に伴い、電極層用ペーストを印刷する工程において、電極層用ペーストに含まれる溶剤によって、セラミックグリーンシートが侵食される、いわゆるシートアタックという現象が発生していた。シートアタックが発生すると、セラミックグリーンシートの厚みが薄くなったり、セラミックグリーンシートが破れてしまったりする等の問題が発生していた。
【0006】
このようなシートアタックの問題を改善するため、特許文献1には、セラミックグリーンシート形成用のスラリー組成物に含まれる有機バインダーとして、熱硬化性アクリル樹脂を用いる方法が開示されている。特許文献1では、このような熱硬化性アクリル樹脂を用いることで、加熱後のグリーンシート上に、溶剤を含有する電極層用ペーストを印刷しても、溶剤によるシートアタックの影響を受けにくいとしている。
しかしながら、このような方法では、比較的長時間の加熱が必要となり、効率良くセラミックグリーンシートの硬化を行うことができないという問題があった。
【0007】
また、特許文献2には、セラミック原料及び熱硬化性アクリル樹脂に、熱重合開始剤として第1級アミン及び第2級アミンを添加したセラミック塗料が開示されている。
しかしながら、このような方法でも、熱硬化性アクリル樹脂を使用しているため、未反応残存物の存在によって充分な強度が得られないという問題があった。また、熱重合開始剤の含有量が少ない場合に、所望のシート形状を得られない等の問題があった。
【0008】
これに対して、特許文献3には、バインダー樹脂として、変性ポリビニルアセタール樹脂を用いる方法が開示されており、変性ポリビニルアセタール樹脂が加熱によって自己架橋することが記載されている。しかしながら、このような変性ポリビニルアセタール樹脂の加熱による架橋反応性は非常に低く、シートアタックを充分に防止できるものではなかった。
【0009】
また、特許文献4には、変性ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂及びアミン系架橋剤を含有するコーティング組成物を架橋させる方法が開示されている。しかしながら、このような方法では、アミン系架橋剤の含有量が多くなるため、粘度が上昇しやすい等の問題があった。また、ウォッシュプライマー等の塗料用途では大きな問題は生じないものの、積層セラミックコンデンサ等の用途では、有機バインダーを脱脂する仮焼成工程を行うため、架橋剤の含有量が増えると仮焼成後に残渣が多量に残り、電子部品として使用する際に電気的な不具合が生じる等の問題があった。
更に、アミン系架橋剤を添加した場合、保管時等において架橋が進行し、コーティング組成物の貯蔵安定性が低下するという問題があった。
【特許文献1】特開2006−66852号公報
【特許文献2】特開2007−22829号公報
【特許文献3】特開2007−138115号公報
【特許文献4】特表2006−523754号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、機械的強度が高く、耐溶剤性及び熱分解性に優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂を作製することでき、かつ、貯蔵安定性に優れる潜在的硬化性組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、該潜在的硬化性組成物を用いた無機粉末ペースト組成物及びセラミックスラリー組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂(A)、及び、多官能アミン化合物(b1)と有機酸(b2)との塩からなるブロック化多官能アミン化合物(B)を含有する潜在的硬化性組成物である。
【0012】
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは下記一般式(5)及び/又は(6)で表される官能基を有する基を表す。
【0013】
【化2】

以下に本発明を詳述する。
【0014】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定の構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂、ブロック化多官能アミン化合物及び有機溶剤を含有する潜在的硬化性組成物は、必要に応じて、ブロック化多官能アミン化合物から有機酸を脱離させて、多官能アミン化合物を生じさせることができ、硬化性と貯蔵安定性とを両立させることが可能となることを見出した。また、このような潜在的硬化性組成物を用いて得られる架橋ポリビニルアセタール樹脂は、シートアタック、強度不足等の問題を解決することでき、かつ、仮焼成工程等を行う用途に使用する場合における分解残渣を大幅に低減できることを見出し、本発明に至った。
【0015】
本発明の潜在的硬化性組成物は、ポリビニルアセタール樹脂(A)を含有する。
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)は、少なくとも下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有する。
【0016】
【化3】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは下記一般式(5)及び/又は(6)で表される官能基を有する基を表す。
【0017】
【化4】

【0018】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)において、上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量の好ましい下限は17モル%、好ましい上限は40モル%である。上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量が17モル%未満であると、溶解時に使用する有機溶剤(C)に対する溶解性が低下することがある。上記一般式(1)で表されるビニルアルコール単位の含有量が40モル%を超えると、吸湿しやすくなるため、バインダー樹脂として用いた場合に保存安定性が悪くなることがある。
【0019】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)において、上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量の好ましい下限は35モル%、好ましい上限は80モル%である。上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量が35モル%未満であると、溶解時に使用する有機溶剤(C)に不溶となることがある。上記一般式(2)で表されるアセタール単位の含有量が80モル%を超えると、残存水酸基量が少なくなって得られる架橋ポリビニルアセタール樹脂の強度が低下することがある。
なお、本明細書において、アセタール化度の計算方法としては、ポリビニルアセタール樹脂(A)のアセタール基が2個の水酸基をアセタール化して得られたものであることから、アセタール化された2個の水酸基を数える方法を採用してアセタール化度のモル%を計算する。
【0020】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)において、上記一般式(3)で表されるアセチル単位の含有量の好ましい下限は0.1モル%、好ましい上限は25モル%である。上記範囲を超えると、原料のポリビニルアルコールの溶解性が低下し、アセタール化反応が困難となる。好ましい上限は15モル%である。
【0021】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)において、上記一般式(4)で表される構造単位は、架橋性を有しており、加熱を行うことで、他の分子中の官能基と架橋構造を形成する。このため、硬化後の架橋ポリビニルアセタール樹脂は、高い機械的強度を有しつつ、適度な弾性を有するものとなる。
【0022】
上記一般式(4)で表される構造単位において、Rは、下記一般式(5)及び/又は(6)で表される官能基を有する基であることが好ましい。
【0023】
【化5】

【0024】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)において、上記一般式(4)で表される構造単位の含有量の好ましい下限は0.01モル%、好ましい上限は50モル%である。上記一般式(4)で表される構造単位の含有量が0.01モル%未満であると、架橋構造が形成されることによる効果が充分に得られず、機械的強度の低下を招くことがある。上記一般式(4)で表される構造単位の含有量が50モル%を超えると、得られる架橋体の架橋度が高くなりすぎ、可とう性が低下することがある。
【0025】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)の重合度の好ましい下限は200、好ましい上限は4000である。重合度を上記範囲内とすることにより、得られる架橋体が機械的強度等に優れるものとなる。
【0026】
上記ポリビニルアセタール樹脂(A)を製造する方法としては、例えば、上記Rが一般式(5)で表される基であるポリビニルアセタール樹脂(A)を製造する場合、β−ジカルボニル基を有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法、未変性のポリビニルアルコールをアセタール化した後、β−ジカルボニル基を付加させる方法等が挙げられる。好ましくは、β−ジカルボニル基を有する変性ポリビニルアルコールをアセタール化する方法である。
上記β−ジカルボニル基の付加方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に4−メチレン−2−オキセタノン等を添加する方法等が挙げられる。
【0027】
上記アセタール化の方法としては特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、例えば、酸触媒の存在下で変性ポリビニルアルコールの水溶液、アルコール溶液、水/アルコール混合溶液、ジメチルスルホキシド(DMSO)溶液中に各種アルデヒドを添加する方法等が挙げられる。
【0028】
上記アセタール化に用いるアルデヒドとしては特に限定されず、例えば、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、アミルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、ヘプチルアルデヒド、2−エチルヘキシルアルデヒド、シクロヘキシルアルデヒド、フルフラール、グリオキザール、グルタルアルデヒド、ベンズアルデヒド、2−メチルベンズアルデヒド、3−メチルベンズアルデヒド、4−メチルベンズアルデヒド、p−ヒドロキシベンズアルデヒド、m−ヒドロキシベンズアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、β−フェニルプロピオンアルデヒド等が挙げられる。なかでも、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとをそれぞれ単独で用いるか、又は、アセトアルデヒドとブチルアルデヒドとを併用することが好ましい。
【0029】
上記酸触媒としては特に限定されず、有機酸、無機酸のどちらでも使用可能であり、例えば、酢酸、パラトルエンスルホン酸、硝酸、硫酸、塩酸等が挙げられる。
【0030】
上記アセタール化の反応を停止するために、アルカリによる中和を行うことが好ましい。上記アルカリとしては特に限定されず、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。
また、上記中和工程の前後に、水等を用いて得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を洗浄することが好ましい。なお、洗浄水中に含まれる不純物の混入を防ぐため、洗浄は純水で行うことがより好ましい。
【0031】
本発明の潜在的硬化性組成物は、多官能アミン化合物(b1)と有機酸(b2)との塩からなるブロック化多官能アミン化合物(B)を含有する。
上記ブロック化多官能アミン化合物(B)は、光又は熱等によって有機酸(b2)を脱離させ、多官能アミン化合物(b1)を生じさせることができる。これにより、潜在的硬化性組成物の保管時には、ブロック化多官能アミン化合物(B)の状態で含有させ、架橋工程の直前に多官能アミン化合物(b1)を生じさせることが可能となり、潜在的硬化性組成物の貯蔵安定性を飛躍的に向上させることが可能となる。
また、光の照射量や光の照射時間を調製したり、加熱温度や加熱時間を調製したりすることで、発生させる多官能アミン化合物(b1)の量を調製することができ、その結果、得られる硬化物の架橋の程度を制御することが可能となる。
【0032】
上記多官能アミン化合物(b1)は、2つ以上の反応性のアミノ基を有するアミン化合物であり、例えば、一級アミン、二級アミン等が挙げられる。上記多官能アミン化合物(b1)を用いることで、速やかに架橋が進行し、高い架橋性を実現することができ、耐溶剤性に優れた硬化物を得ることができる。
【0033】
上記多官能アミン化合物(b1)のうち、上記一級アミンとしては、例えば、エチレジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,2−ジアミノ−2−メチルプロパン、1,5−ジアミノペンタン、1,3−ジアミノペンタン、1,5−ジアミノ−2−メチルペンタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,12−ジアミノドデカン、2−ブチル−2−エチル−1,5−ペンタンジアミン、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)、1,2−ジアミノシクロヘキサン、2,2’−オキシビス(エチレンアミン)、2,2’−(エチレンジオキシ)ビス(エチルアミン)、4,9−ジオキサ−1,12−ドデカンジアミン、4,7,10−トリオキサ−1,13−トリデカンジアミン、1,3−ジアミノ−2−ヒドロキシプロパン、2,2’−エチレンジアニリン、4,4’−エチレンジアニリン、3,3’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンジアニリン、4,4’−メチレンビス(3−クロロ−2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−ジアミノスチルベン、4,4’−オキシジアニリン、4,4’−チオジアニリン、4’’,4’’’’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)−ビス−(4−フェニルアニリン)、2,3−ジアミノフェノール、4’−アミノベンゾ−15−クラウン−5、2,4−ジメトキシアニリン、4,4’−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジイソプロピルアニリン)、4,4’−ジアミノオクタフルオロビフェニル、1,2−フェニレンジアミン、2,3−ジアミノトルエン、3,4−ジアミノトルエン、3,3’−ジアミノベンジジン、4−クロロ−1,2−フェニレンジアミン、4−メトキシ−1,2−フェニレンジアミン、4,5−ジメチル−1,2−フェニレンジアミン、1,2,4,5−ベンゼンテトラミン、4,5−ジクロロ−1,2−フェニレンジアミン、1,3−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノトルエン、2,4−ジアミノトルエン、2,4,6−トリメチル−1,3−フェニレンジアミン、4−メトキシ−1,3−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノフェノール、4−(2−ヒドロキシエチルチオ)−1,3−フェニレンジアミン、1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジアミノトルエン、2,5−ジメチル−1,4−フェニレンジアミン、2−クロロ−1,4−フェニレンジアミン、2,5−ジクロロ−1,4−フェニレンジアミン、2−メトキシ−1,4−フェニレンジアミン、2,3,5,6−テトラメチル−1,4−フェニレンジアミン、1,2−ジフェニルエチレンジアミン、1,2−ビス(4−メトキシフェニル)エチレンジアミン、メタキシレンジアミン、パラキシレンジアミン、α,ω−ジアミノポリエチレングリコール、α,ω−ジアミノポリプロピレングリコール、α,ω−ジアミノポリジメチルシロキサン、ポリアリルアミン等が挙げられる。
【0034】
上記二級アミンとしては、例えば、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジエチル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジイソプロピル−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、N,N’−ビス(3,3−ジメチルブチル)−1,2−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)、N,N’−ジエチル−2−ブチレン−1,4−ジアミン、N,N’−ビス(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、1,3−ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン、4,4’−ビピペリジン、4,4’−エチレンビピペリジン、4,4’−トリメチレンビピペリジン、ピペラジン、2,6−ジメチルピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、1,4,7−トリアザシクロノナン、1,5,9−トリアザシクロドデカン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、1,4,8,12−テトラアザシクロペンタデカン、スパルテイン、1,4,10,13−テトラキサ−7,16−ジアザシクロオクタデカン、1,2−ジアニリノエタン、N,N’−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニルベンジジン、3,3’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、2,3−ジアミノナフタレン、1,5−ジアミノナフタレン、1,8−ジアミノナフタレン、1,1’−ビナフチル−2,2’−ジアミン、2,7−ジアミノフルレン、N,N’−ジベンジルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0035】
その他使用可能な多官能アミン化合物(b1)としては、例えば、N−メチルエチレンジアミン、N−エチルエチレンジアミン、N−プロピルエチレンジアミン、N−イソプロピルエチレンジアミン、N,N−ジメチルエチレンジアミン、N,N−ジエチルエチレンジアミン、N,N−ジブチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリメチルエチレンジアミン、N,N−ジメチル−N’−エチルエチレンジアミン、N,N−ジエチル−N’−メチルエチレンジアミン、N,N,N’−トリエチルエチレンジアミン、N−メチル−1,3−プロパンジアミン、N−エチル−1,3−プロパンジアミン、N−プロピル−1,3−プロパンジアミン、N−イソプロピル−1,3−プロパンジアミン、N,N,2,2−テトラエチル−1,3−プロパンジアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミン、N,N’,N”−トリメチルビス(ヘキサメチレン)トリアミン、4−(アミノメチル)−1,8−オクタンジアミン、トリエチレンテトラミン、1,1,4,7,10,10−ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’−ビス(2−アミノエチル)−1,3−プロパンジアミン、N,N’−ビス(3−アミノプロピル)−1,3−プロパンジアミン、SPERMINE、トリス(2−アミノエチル)アミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、N−シクロヘキシル−1,3−プロパンジアミン等が挙げられる。
【0036】
上記多官能アミン化合物(b1)としては、上記アミンに加えて、多官能アミンオリゴマーや多官能アミンポリマーを用いることができる。上記多官能アミンオリゴマーや多官能アミンポリマーを用いることで、得られる架橋ポリビニルアセタール樹脂の分子量が増加して、耐溶剤性を向上するため、耐シートアタック性に優れたセラミックグリーンシート等を得ることが可能となる。
【0037】
上記多官能アミンポリマーとしては 例えば、ポリエチレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン、ポリオルニチン、ポリリジン、ポリジアリルアミン等が挙げられる。なかでも、下記一般式(14)に示す多官能アミンポリマーや下記一般式(15)に示す多官能アミンポリマーを用いることが好ましい。
なお、これらの多官能アミンポリマーはホモポリマーであってもよく、コポリマーであってもよい。
【0038】
【化6】

式中、nは1以上の整数を表す。
【0039】
【化7】

式中、l、m及びnは1以上の整数を表す。
【0040】
本発明において上記多官能アミンポリマーは、2つ以上の反応性のアミノ基を有するポリマーであればよく、上記アミノ基は1級アミノ基であってもよく、2級アミノ基であってもよいが、1級アミノ基を有することが好ましい。なお、上記多官能アミンポリマーは、これらのアミノ基が混在していてもよい。
【0041】
上記多官能アミンポリマーの重量平均分子量(Mw)は、ポリマーの種類によって異なるが、好ましい上限は100000である。重量平均分子量が100000を超えると、粘度調整が困難となったり、多官能アミンポリマーとポリビニルアセタール樹脂(A)との相溶性が低下したりして、本発明の効果が充分に得られない等の不具合が生じることがある。
【0042】
上記多官能アミン化合物(b1)は、炭素数1〜10の炭化水素基を有することが好ましい。このような多官能アミン化合物(b1)を用いた場合、少ない添加量で高い架橋性を実現することができ、耐シートアタック性に優れたセラミックグリーンシートを得ることが可能となる。
【0043】
上記有機酸(b2)は、上記多官能アミン化合物(b1)と塩を作ることができ、かつ、光又は熱等によって脱離させることが可能な化合物である必要がある。
上記有機酸(b2)は、芳香族カルボン酸であることが好ましく、特に下記式(7)で表される化合物であることが好ましい。
【0044】
【化8】

【0045】
上記式(7)で表される化合物は、Rがメチル基であることが好ましい。これにより、光又は熱によって脱離させる際のエネルギー効率が改善されるようになる。
【0046】
上記有機酸(b2)が、上記式(7)で表される化合物である場合、上記R、R、R、R及びRからなる群より選択される少なくとも1種が下記式(8)で表される官能基であることが好ましい。これにより、光又は熱によって脱離させる際のエネルギー量が更に低減可能となる。
【0047】
【化9】

【0048】
上記有機酸(b2)は、下記式(9)で表される化合物、下記式(10)で表される化合物、下記式(11)で表される化合物、下記式(12)で表される化合物、及び、下記式(13)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
これらの化合物を用いた場合、光又は熱によって脱離させる際のエネルギー量が更に低減可能となったり、同エネルギー量であってもより効率的に脱離するようになったりするため、優れた硬化性を発揮するようになる。
【0049】
【化10】

【0050】
上記ブロック化多官能アミン化合物(B)の含有量の好ましい下限は、ポリビニルアセタール樹脂(A)100重量部に対して、0.0001重量部、好ましい上限は10重量部である。上記ブロック化多官能アミン化合物(B)の含有量が0.0001重量部未満であると、耐シートアタック性が不充分となることがあり、上記ブロック化多官能アミン化合物(B)の含有量が10重量部を超えると、分散性や強度が低下したり、熱分解性に劣ったりすることがある。
【0051】
本発明の潜在的硬化性組成物は、有機溶剤(C)を含有する。
上記有機溶剤(C)としては特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂(A)を溶解できるものであれば特に限定されず、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、ブタン酸メチル、ブタン酸エチル、ブタン酸ブチル、ペンタン酸メチル、ペンタン酸エチル、ペンタン酸ブチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘキサン酸ブチル、酢酸2−エチルヘキシル、酪酸2−エチルヘキシル等のエステル類、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ、テルピネオール、ジヒドロテルピネオール、ブチルセルソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テルピネオールアセテート、ジヒドロテルピネオールアセテート等が挙げられる。特に、アルコール類、ケトン類、芳香族炭化水素類及びこれらの混合溶剤が塗工性、乾燥性の面から見て好ましい。
【0052】
本発明の潜在的硬化性組成物には、必要に応じて、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、界面活性剤、充填剤、アミン増殖剤、光増感剤等を適宜添加してもよい。
【0053】
上記アミン増殖剤としては、例えば、二官能型、球状多官能オリゴマー型、直鎖高分子型、シロキサン型の9−フルオレニルカルバメート誘導体等が挙げられる。上記アミン増殖剤としては、下記式(16)で表される塩基増殖性基を有する塩基増殖剤等が好ましい。
【0054】
【化11】

【0055】
上記式(16)で表される塩基増殖性基を有する塩基増殖剤は、塩基増殖反応によって分解して、新たにアミンを発生する。更に、発生したアミンが新たな触媒として機能し、増殖的に多数のアミンを生成する。上記式(16)で表される塩基増殖性基が分子内に多く存在するほど、分子内での塩基増殖反応が効率的に起こるので、アミノ基の生成効率が高められるようになる。
【0056】
本発明の潜在的硬化性組成物を製造する方法としては、特に限定されず、例えば、上記ポリビニルアセタール樹脂(A)、ブロック化多官能アミン化合物(B)、有機溶剤(C)及び必要に応じて添加する各種添加剤をボールミル、ブレンダーミル、3本ロール等の各種混合機を用いて混合する方法が挙げられる。
【0057】
本発明の潜在的硬化性組成物に無機粉末を添加することで、無機粉末ペースト組成物として用いることができる。このような無機粉末ペースト組成物もまた、本発明の1つである。
【0058】
上記無機粉末としては、例えば、金属粉末、導電粉末、セラミック粉末、ガラス粉末等が挙げられる。
【0059】
本発明の潜在的硬化性組成物に、特にセラミック粉末を添加することで、セラミックスラリー組成物として用いることができる。このようなセラミックスラリー組成物もまた、本発明の1つである。
【0060】
本発明のセラミックスラリー組成物は、セラミック粉末を含有する。
上記セラミック粉末としては特に限定されず、例えば、アルミナ、ジルコニア、ケイ酸アルミニウム、酸化チタン、酸化亜鉛、チタン酸バリウム、マグネシア、サイアロン、スピネムルライト、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0061】
本発明のセラミックスラリー組成物を用いて、積層セラミック電子部品を製造することができる。
具体的には例えば、本発明のセラミックスラリー組成物を塗工する工程と、上記セラミックスラリー組成物を乾燥させ、セラミックグリーンシート前駆体を作製する工程と、本発明のセラミックスラリー組成物に含まれるブロック化多官能アミン化合物(B)の有機酸(b2)を脱離させ、多官能アミン化合物(b1)とする工程と、上記セラミックグリーンシート前駆体を加熱して、硬化させることにより、セラミックグリーンシートを作製する工程と、上記セラミックグリーンシートの表面に電極層用ペーストを塗工する工程とを有する方法を用いることができる。
【0062】
本発明において、積層セラミック電子部品としては特に限定されず、例えば、積層セラミックコンデンサ、積層セラミックインダクタ、キャパシタ、積層圧電アクチュエーター、積層バリスタ、積層サーミスタ等が挙げられる。
【0063】
この積層セラミック電子部品の製造方法では、まず、本発明のセラミックスラリー組成物を塗工する工程、上記セラミックスラリー組成物を乾燥させ、セラミックグリーンシート前駆体を作製する工程を行う。
【0064】
本発明のセラミックスラリー組成物を塗工する場合の方法としては、特に限定されず、例えば、ロールコーター、ダイコーター、スクイズコーター、カーテンコーター等の方法が挙げられる。なお、その他の具体的な方法については、従来公知の方法を用いることができる。
【0065】
この製造方法では、次いで、本発明のセラミックスラリー組成物に含まれるブロック化多官能アミン化合物(B)の有機酸(b2)を脱離させ、多官能アミン化合物(b1)とする工程を行う。この工程を行うことで後の工程において、ポリビニルアセタール樹脂(A)の架橋が可能な状態となる。
【0066】
この製造方法では、次いで、上記セラミックグリーンシート前駆体を加熱して、硬化させることにより、セラミックグリーンシートを作製する工程を行う。
上記工程では、上記セラミックグリーンシート前駆体に硬化処理を行うことにより、上記ポリビニルアセタール樹脂(A)を架橋させる。本発明では、上記ポリビニルアセタール樹脂(A)を架橋させることによって、充分な機械的強度を有し、かつ、耐溶剤性にも優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂が得られる。
【0067】
この製造方法では、このように簡易かつ簡便な方法で優れた特性を有する架橋ポリビニルアセタール樹脂が得られる。また、上記の方法で硬化処理を行うことで、電子線やX線を用いることなく、架橋度の高い架橋ポリビニルアセタール樹脂を得ることができる。これにより、電子線やX線を照射した場合に起こるポリビニルアセタール樹脂(A)の分解を防止できるとともに、簡易な装置でポリビニルアセタール樹脂(A)の架橋、硬化を行うことができる。
【0068】
上記加熱工程における加熱温度の好ましい下限は40℃、好ましい上限は150℃である。加熱温度が40℃未満であると、架橋反応が充分に進行せず、本発明の効果が充分に発揮されないことがあり、加熱温度が150℃を超えると、樹脂の分解が始まったり、可塑剤が揮発してしまったりする等の不具合が生じることがある。
【0069】
この製造方法では、次いで、上記セラミックグリーンシートの表面に電極層用ペーストを塗工する工程を行う。
上記電極層用ペーストとしては、例えば、ポリビニルアセタール樹脂や、ポリビニルアセタール樹脂とエチルセルロースとの混合物をバインダー樹脂として有機溶剤に溶解し、導電粉末等を分散させることで得ることができる。ポリビニルアセタール樹脂や、ポリビニルアセタール樹脂とエチルセルロースとの混合物を含有する電極層用ペーストは、加熱圧着工程において、セラミックグリーンシートに優れた接着性を示すので好ましい。
【0070】
この製造方法では、例えば、上述した工程を行い、電極層が形成されたセラミックグリーンシートを作製した後、同様にして作製した電極層が形成されたセラミックグリーンシートを積層し加熱圧着して得られた積層体を脱脂、焼成することで、シートアタックやクラック等の問題が解決された積層セラミック電子部品が得られる。
この製造方法では、上述した工程を行うことで、架橋させたセラミックグリーンシートを用いた積層体を脱脂、焼成する場合であっても、分解残渣を増やすことなく積層セラミック電子部品を得ることが可能となる。これにより、積層セラミック電子部品のショート率を低減することが可能となり、不良品を低減できる。
なお、上記加熱圧着工程、積層体を脱脂、焼成する工程については特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0071】
本発明によれば、機械的強度が高く、耐溶剤性及び熱分解性に優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂を作製することでき、かつ、貯蔵安定性に優れる潜在的硬化性組成物を提供することができる。また、本発明は、該潜在的硬化性組成物を用いたセラミックスラリー組成物及び無機粉末ペースト組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0072】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに70%硝酸10重量部を加え、更にブチルアルデヒド16重量部を添加した。次に、10℃まで冷却し、ブチルアルデヒド45重量部を加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、硝酸60重量部を加え35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
【0074】
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量(上記一般式(1)で表される構造単位含有量)は30モル%、ブチラール単位含有量(上記一般式(2)で表される構造単位含有量)は67モル%、アセチル単位含有量(上記一般式(3)で表される構造単位含有量)は1モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は2モル%であった。
【0075】
(ブロック化多官能アミン化合物の作製)
多官能アミン化合物としての1,6−ヘキサメチレンジアミン(和光純薬工業社製)4.57重量部と、上記式(7)で表される有機酸としてのケトプロフェン(東京化成工業社製)25重量部とを、メタノール中で混合し、室温で24時間攪拌、反応させた。その後、エタノールをエバポレータで除去した後、得られた粗生成物をエタノール/ヘキサンを用いて再結晶させてブロック化多官能アミン化合物を得た。
【0076】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、得られたブロック化多官能アミン化合物を0.04重量部、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0077】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工し、常温で10分間風乾した後、250mJ/cmの紫外線を照射し、80℃で30分間加熱することで、セラミックグリーンシートを得た。
【0078】
(実施例2)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量が4モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに70%硝酸10重量部を加え、更にブチルアルデヒド16重量部を添加した。次に、10℃まで冷却し、ブチルアルデヒド45重量部を加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、硝酸60重量部を加え35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
【0079】
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は28モル%、ブチラール単位含有量は67モル%、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(6)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は4モル%であった。
【0080】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、実施例1で得られたブロック化多官能アミン化合物を0.004重量部、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0081】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0082】
(実施例3)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量が2モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、これに70%硝酸76重量部を加え、更にブチルアルデヒド40重量部、アセトアルデヒド15重量部を添加した。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
【0083】
更に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は28モル%、ブチラール単位含有量は38モル%、アセタール単位(R:メチル基)含有量は31モル%、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は2モル%であった。
【0084】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、実施例1で得られたブロック化多官能アミン化合物を0.04重量部、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0085】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックグリーンシートを作製した。
【0086】
(実施例4)
(変性ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量が4モル%の変性ポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、冷却し、これに70%硝酸75重量部を加え、更にブチルアルデヒド20重量部、アセトアルデヒド36重量部を添加した。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。
次に、蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥して変性ポリビニルアセタール樹脂を得た。得られた変性ポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量は27モル%、ブチラール単位含有量は10モル%、アセタール単位(R:メチル基)含有量は58モル%、アセチル単位含有量は1モル%、上記一般式(5)で表されるRを有する構造単位含有量(上記一般式(4)で表される構造単位含有量)は4モル%であった。
【0087】
(セラミックスラリー組成物の作製)
得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、実施例1で得られたブロック化多官能アミン化合物を0.004重量部、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0088】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工し、常温で10分間風乾した後、250mJ/cmの紫外線を照射し、70℃で5分間加熱することで、セラミックグリーンシートを得た。
【0089】
(実施例5)
実施例1で作製した変性ポリビニルアセタール樹脂を用い、下記のブロック化アミン化合物を使用し、下記の手順でセラミックグリーンシートの作製を行った。
【0090】
(ブロック化多官能アミン化合物の作製)
多官能アミン化合物としての1,3−ビス(4−ピペリジル)プロパン(東京化成工業社製)8.2重量部と、上記式(7)で表される有機酸としてのケトプロフェン(東京化成工業社製)25重量部とを、メタノール中で混合し、室温で24時間攪拌、反応させた。その後、エタノールをエバポレータで除去した後、得られた粗生成物をエタノール/ヘキサンを用いて再結晶させてブロック化多官能アミン化合物を得た。
【0091】
(セラミックスラリー組成物の作製)
実施例1で得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、得られたブロック化多官能アミン化合物を0.048重量部、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0092】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工し、常温で10分間風乾した後、250mJ/cmの紫外線を照射し、80℃で30分間加熱することで、セラミックグリーンシートを得た。
【0093】
(実施例6)
実施例1で作製した変性ポリビニルアセタール樹脂を用い、実施例5で得られたブロック化アミンと下記のブロック化アミン化合物を使用し、下記の手順でセラミックグリーンシートの作製を行った。
【0094】
(ブロック化多官能アミン化合物の作製)
多官能アミン化合物としての1,8−ジアザビシクロ−5,4,0−ウンデセン(和光純薬社製)6.0重量部と、上記式(7)で表される有機酸としてのケトプロフェン(東京化成工業社製)25重量部とを、メタノール中で混合し、室温で24時間攪拌、反応させた。その後、エタノールをエバポレータで除去した後、得られた粗生成物をエタノール/ヘキサンを用いて再結晶させてブロック化多官能アミン化合物を得た。
【0095】
(セラミックスラリー組成物の作製)
実施例1で得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、実施例5で得られたブロック化多官能アミン化合物を0.048重量部、実施例6で得られたブロック化多官能アミン化合物を0.004重量部、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
【0096】
(セラミックグリーンシートの作製)
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工し、常温で10分間風乾した後、250mJ/cmの紫外線を照射し、70℃で5分間加熱することで、セラミックグリーンシートを得た
【0097】
(比較例1)
(ポリビニルアセタール樹脂の作製)
ケン化度99.5モル%のポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに70%硝酸10重量部を加え、更にブチルアルデヒド16重量部を添加した。次に、10℃まで冷却し、ブチルアルデヒド45重量部を加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、硝酸60重量部を加え35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥してポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂は、残存水酸基量が32モル%、ブチラール単位含有量が67モル%、アセチル単位含有量が1モル%であった。
【0098】
(セラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートの作製)
得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0099】
(比較例2)
ケン化度99.5モル%のポリビニルアルコール100重量部を1200重量部の蒸留水に加温溶解した後、20℃に保ち、これに70%硝酸70重量部を加え、更にブチルアルデヒド35重量部を添加し、アセトアルデヒド20重量部を加えた。樹脂が析出した後、30分間保持し、その後、35℃に昇温して3時間保った。反応終了後、蒸留水にて10時間流水洗浄し、水酸化ナトリウムを添加して溶液のpHを8に調整した。溶液を50℃で6時間保持した後、冷却した。蒸留水により溶液を2時間流水洗浄した後、脱水、乾燥してポリビニルアセタール樹脂を得た。
得られたポリビニルアセタール樹脂の残存水酸基量が28モル%、ブチラール単位含有量は31モル%、アセタール単位(R:メチル基)含有量は40モル%、アセチル単位含有量が1モル%であり、得られたポリビニルアセタール樹脂を用いた以外は実施例1と同様にしてセラミックスラリー組成物及びセラミックグリーンシートを作製した。
【0100】
(比較例3)
実施例1と同様の方法で、変性ポリビニルアセタール樹脂を作製した後、得られた変性ポリビニルアセタール樹脂8重量部を、トルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解し、更に、可塑剤としてジブチルフタレート4重量部を加え、攪拌溶解した。得られた樹脂溶液に、セラミック粉末としてチタン酸バリウム(BT−03、平均粒径0.3μm、堺化学工業社製)100重量部を加え、ボールミルで48時間混合してセラミックスラリー組成物を得た。
得られたセラミックスラリー組成物を、コーターを用いて乾燥後の厚みが2μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工し、常温で10分間風乾した後、80℃で30分間加熱することで、セラミックグリーンシートを得た。
【0101】
(評価)
(1)シートアタックの発生の有無
得られたセラミックグリーンシート上にテルピネオール又はジヒドロテルピネオールをスポイトにて一滴(約0.02g)滴下し、5分後のセラミックグリーンシートの状態を目視にて観察し、以下の基準でシートアタックの発生の有無を評価した。
○:セラミックグリーンシートに、皺や穴は観察されなかった。
×:セラミックグリーンシートに、皺又は穴が観察された。
【0102】
(2)強度評価(溶剤含有時の剥離性)
得られたセラミックグリーンシートの上にテルピネオールをスポイトにて一滴(約0.02g)滴下し、5分後にPETフィルムから剥離し、セラミックグリーンシートの剥離性を評価した。
○:セラミックグリーンシートがきれいに剥離できた。
×:セラミックグリーンシートの一部もしくは全部に、破れが観察された。
【0103】
(3)熱分解性評価
実施例及び比較例で得られた変性ポリビニルアセタール樹脂又はポリビニルアセタール樹脂10重量部をトルエン50重量部とエタノール50重量部との混合溶剤に加え、攪拌溶解した後、コーターを用いて乾燥後の厚みが10μmとなるように離形処理したPETフィルム上に塗工、乾燥することにより樹脂シートを作製した。
得られた樹脂シートから測定サンプル(0.020g)を採取し、空気100ml/分の雰囲気下で、室温(20℃)から500℃まで昇温速度10℃/分で昇温させ、500℃での分解率(重量%)を測定した。
【0104】
(4)貯蔵安定性
実施例及び比較例で作製したセラミックスラリー組成物を25℃で1週間保管しコーンプレート型レオメーターを用いて、粘度上昇率を調べた。
【0105】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、機械的強度が高く、耐溶剤性及び熱分解性に優れる架橋ポリビニルアセタール樹脂を作製することでき、かつ、貯蔵安定性に優れる潜在的硬化性組成物を提供することができる。また、本発明は、該潜在的硬化性組成物を用いた無機粉末ペースト組成物及びセラミックスラリー組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、(2)、(3)及び(4)で表される構造単位を有するポリビニルアセタール樹脂(A)、多官能アミン化合物(b1)と有機酸(b2)との塩からなるブロック化多官能アミン化合物(B)、及び、有機溶剤(C)を含有することを特徴とする潜在的硬化性組成物。
【化1】

式中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を表し、Rは下記一般式(5)、及び/又は(6)で表される官能基を有する基を表す。
【化2】

【請求項2】
有機酸(b2)は、芳香族カルボン酸であることを特徴とする請求項1記載の潜在的硬化性組成物。
【請求項3】
有機酸(b2)は、下記式(7)で表される化合物であることを特徴とする請求項1又は2記載の潜在的硬化性組成物。
【化3】

【請求項4】
がメチル基であることを特徴とする請求項3記載の潜在的硬化性組成物。
【請求項5】
、R、R、R及びRからなる群より選択される少なくとも1種が下記式(8)で表される官能基であることを特徴とする請求項3又は4記載の潜在的硬化性組成物。
【化4】

【請求項6】
有機酸(b2)は、下記式(9)で表される化合物、下記式(10)で表される化合物、下記式(11)で表される化合物、下記式(12)で表される化合物、及び、下記式(13)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の潜在的硬化性組成物。
【化5】

【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の潜在的硬化性組成物及び無機粉末を含有することを無機粉末ペースト組成物。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の潜在的硬化性組成物及びセラミック粉末を含有することを特徴とするセラミックスラリー組成物。

【公開番号】特開2010−31128(P2010−31128A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193907(P2008−193907)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】