説明

潜堤の施工法及び潜堤

【課題】低コストで且つ高い波浪安定性を有する堅牢な潜堤を構築する。
【解決手段】海水又は汽水域の水底に潜堤材を積み上げることにより、少なくとも外層部が粒状又は塊状のCa含有物を主体とする潜堤材からなる堤構造体を構築し、この堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させる。粒状又は塊状のCa含有物を主体とした潜堤材を用いるため安価に施工でき、且つ殻状皮膜により堤構造体が覆われるようにしたので、高い波浪安定性を有する潜堤を構築できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海岸保全や浅場造成などを目的として設置される潜堤の施工法及び潜堤に関する。
【背景技術】
【0002】
海岸保全(海岸侵食の防止)、浅場造成、人工リーフ、海域の消波などを目的として、主として沿岸海域の水底に潜堤が設置される。このような潜堤は、水底に捨石やコンクリートブロックを積み上げることにより構築されるのが一般的である。また、水底に捨石基礎を設置し、その上にコンクリートブロックなどを積み上げて潜堤を構築する場合もある。
【0003】
しかし、捨石として用いられる天然砕石は年々調達が難しくなっている。一般に、海域工事では波に対する抵抗の大きい大きな石が必要とされるが、このような天然石の調達は特に難しくなりつつある。さらに、最近では天然石の採取による自然破壊も問題視されるようになってきた。また、コンクリートブロックはコストが高い難点があり、さらに、ブロック表面が緻密で隙間がないため初期の生物親和性が劣り、このため一時的に設置海域の環境が劣化するという問題もある。
一方、従来、路盤材等の土木用資材として粒径が20〜50mm程度の塊状の製鋼スラグが製造されており、特許文献1には、このような塊状の製鋼スラグを用いて潜堤を構築することが示されている。製鋼スラグは鉄鋼製造プロセスで発生するスラグであり、安価に且つ大量に調達できる利点がある。
【特許文献1】特開2002−238401号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1のように潜堤材として粒径20〜50mm程度の塊状製鋼スラグを用いた場合、大きな波浪などによって潜堤材が流失し、潜堤が大きく損傷したり、酷い場合には潜堤そのものが崩壊・消失してしまう。すなわち、塊状の製鋼スラグで構築された潜堤は、波浪安定性が低いという問題がある。
したがって本発明の目的は、低コストで且つ大量の天然石を用いることなく、高い波浪安定性を有する堅牢な潜堤を構築することができる潜堤の施工法及び構築された潜堤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく、使用する潜堤材と施工法の両面から検討を行い、その結果、海水又は汽水域の水底に鉄鋼スラグなどのような粒状・塊状Ca含有物を主体とする潜堤材を用いて堤構造体を構築するとともに、この堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させ、この殻状皮膜で堤構造体が覆われるようにすることにより、高い波浪安定性を有する堅牢な潜堤を低コストで施工できることを見出した。
さらに、構築された堤構造体が固結するまでの間の潜堤材の流出防止対策としては、(1)堤構造体を流出防止用の被覆体で覆う方法、(2)堤構造体を、流出防止用であって且つ水中で経時的に分解又は腐蝕する被覆体で覆い、堤構造体の表層に殻状皮膜が生成した後に被覆体を分解又は腐蝕により自然消失させる方法、などの方法が好ましいことが判明した。
【0006】
本発明は、以上述べたような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]海水又は汽水域の水底に潜堤材を積み上げることにより、少なくとも外層部が粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする潜堤材A(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる潜堤材の場合を含む)からなる堤構造体を構築し、該堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させることを特徴とする潜堤の施工法。
[2]上記[1]の施工法において、粒状又は/及び塊状のCa含有物が鉄鋼製造プロセスで発生したスラグであることを特徴とする潜堤の施工法。
【0007】
[3]上記[1]又は[2]の施工法において、堤構造体の表層に生成した殻状皮膜の平均厚みが0.5mm以上であることを特徴とする潜堤の施工法。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかの施工法において、潜堤材Aは、粒径2mm以下の製鋼スラグを10mass%以上含むことを特徴とする潜堤の施工法。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかの施工法において、潜堤材Aは、粒径1mm以下の高炉水砕スラグを20mass%以上含むことを特徴とする潜堤の施工法。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかの施工法において、構築された堤構造体の少なくとも一部を、潜堤材Aの流失を防止するための被覆体で覆うことを特徴とする潜堤の施工法。
【0008】
[7]上記[1]〜[6]のいずれかの施工法において、構築された堤構造体の少なくとも一部を、潜堤材Aの流失を防止するための被覆体であって且つ水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する被覆体で覆い、該被覆体で覆われた堤構造体の表層に殻状皮膜が生成した後に、被覆体の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失させることを特徴とする潜堤の施工法。
[8]海水又は汽水域の水底に潜堤材を積み上げることにより構築される、少なくとも外層部が粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする潜堤材A(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる潜堤材の場合を含む)からなる堤構造体であって、該堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜が生成したことを特徴とする潜堤。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、粒状・塊状Ca含有物を主体とした潜堤材を用いるため、潜堤を安価に施工することができ、しかも、堤構造体表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させ、この殻状皮膜により堤構造体が覆われるようにしたので、高い波浪安定性を有する堅牢な潜堤を構築することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は潜堤の設置形態例(縦断面)を示すもので、図1(A)は海岸保全用(海岸侵食防止用)の潜堤であり、図1(B)は浅場造成用の潜堤である。この浅場造成用の潜堤の内側(海岸側)には、一般に覆砂又は中詰め材の投入+覆砂がなされる。また、潜堤は、上記以外に人工リーフ造成、海岸の消波、水質浄化など様々な目的で設置される。
【0011】
本発明の潜堤の施工法では、海水又は汽水域において、潜堤材を運搬船などから水中に投入して水底に積み上げることにより堤構造体を構築する。この堤構造体は、少なくとも外層部が粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする潜堤材Aで構成される(堤構造体の外層部・内層部については図4を参照)。そして、この堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させ、この殻状皮膜で堤構造体が覆われる構造とすることにより、高い波浪安定性が得られるようにする。
粒状又は/及び塊状のCa含有物としては、例えば、鉄鋼製造プロセスで発生したスラグ(以下、鉄鋼スラグという)や廃コンクリートなどが挙げられ、これらの1種以上を用いることができる。
以下、粒状・塊状Ca含有物として鉄鋼スラグを用いる場合を例に、本発明を説明するが、以下の説明は鉄鋼スラグに代えて、或いは鉄鋼スラグとともに他の粒状・塊状Ca含有物(例えば、廃コンクリートなど)を用いる場合にも妥当する。
【0012】
外層部が鉄鋼スラグを主体とする潜堤材Aで構成される堤構造体の表層に、水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜が生成する機構は、以下のとおりである。すなわち、鉄鋼スラグは比較的多量のCaOを含有しており、このような鉄鋼スラグを水中に置くとCaイオンが溶出して堤構造体周囲の水のpHを上昇させる。このpH上昇により水のイオン溶解度が変化し、水中(海水又は汽水中)のMgイオンが水酸化物(水酸化マグネシウム)として堤構造体(潜堤材Aで構成される堤構造体の外層部)の表層に析出し、比較的固い皮膜(析出物層)が生成される。また、このようにして水酸化マグネシウムが析出する際に、浮泥や堆積物(アルミナ、珪酸、有機物などを含んでいる)、スラグ粒子(潜堤材Aの一部)などを巻き込む場合があり、この場合にはそれらも殻状皮膜の一部となる。さらに、堤構造体の表層に水酸化マグネシウムが層状に析出して堤構造体内の間隙水の海水交換が少なくなると、潜堤材Aの間隙水のpHが上昇し、水酸化マグネシウム析出層の内側や同析出層内に形成された空洞部内面などに水酸化カルシウムが析出することがある。この場合には、水酸化カルシウムの析出物も殻状皮膜の一部となる。また、水酸化マグネシウムや水酸化カルシウム以外に、珪酸やアルミナなどを含む水和物が殻状皮膜の一部として少量析出する場合もある。したがって、堤構造体の表層に生成する殻状皮膜とは、上記のようにして生成した水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とし(すなわち、これら析出物を50mass%以上含む)、場合により珪酸やアルミナを含む水和物の析出物、浮泥・堆積物、スラグ粒子(潜堤材Aの一部)などに由来する成分の非析出物を含む皮膜である。
【0013】
水酸化マグネシウムは、最初に堤構造体の外層部を構成する潜堤材Aの材料粒子間に析出した後、粒子間を埋めるように生成し、最終的に堤構造体全体を覆うようにして殻状皮膜が形成される。図2は、この殻状皮膜の断面を模式的に示したものであり、xは殻状皮膜、yは潜堤材Aの材料粒子である。また、図3は、海水中に設置した潜堤材A(スラグ)の表層に生成した殻状皮膜の断面のSEM画像と、SEMを用いてMg及びCaの面分析を行った画像である。この各面分析画像において白っぽく写っているのが、それぞれMg主体の部位、Ca主体の部位である。この殻状皮膜は、製鋼スラグ(脱燐スラグ)と高炉水砕スラグを質量比7:3で混合した材料を海中に置いて1ヶ月間で生成したものである。
【0014】
上記殻状皮膜は、析出物主体で構成されるため、比較的緻密で固く且つある程度の強度を有しており、このような殻状皮膜で覆われた堤構造体は波浪などの水流に対する高い安定性が得られる。
殻状皮膜は、堤構造体を被覆してこれを一体的に保持できるような状態に生成すればよく、したがって皮膜の厚さなどに特別な制限はないが、厚さが薄いと波浪などの外力に対する強度が不足する場合があるので、平均厚みは0.5mm以上であることが好ましい。殻状皮膜の平均厚みtは、例えば、図8に示すように所定長さ範囲Lにおける厚み方向での皮膜断面積Sを測定し、[平均厚みt=皮膜断面積S/長さL]で求めることができる。一般に長さLは、300mm以上であることが好ましい。
【0015】
本発明の施工方法では、堤構造体の波浪などに対する安定性は、基本的には殻状皮膜で堤構造体の表層を覆うことによって確保されるが、鉄鋼スラグの種類や組成によっては、殻状皮膜の生成後、スラグの水硬作用により堤構造体自体が固結する場合がある。すなわち、上述したような機構によって堤構造体の表層に殻状皮膜が形成されると、堤構造体の外層部内の間隙水の海水交換がなくなるためpHが上昇し、スラグ成分に由来してSiO−CaO−HOゲルが生成し、これが材料粒子間を埋めるため、堤構造体の外層部全体が固結(水和硬化)する。このような水和硬化は特に高炉水砕スラグを含む場合に生じやすく、殻状皮膜の生成に加えて堤構造体内部(少なくとも外層部)も固結するため、より高い波浪安定性が得られる。
【0016】
潜堤材Aを構成する鉄鋼スラグとしては、高炉水砕スラグ、高炉徐冷スラグ(但し、この高炉徐冷スラグは水中でSが溶出しないようにするため、十分にエージング処理したものが好ましい)、製鋼スラグ、鉱石還元スラグなどの各種スラグを用いることができる。また、製鋼スラグとしては、脱燐スラグ・脱硫スラグ・脱珪スラグ等の溶銑予備処理スラグ、脱炭スラグ、鋳造スラグ、電気炉スラグ等が挙げられる。製鋼スラグとしては、特に脱炭スラグと脱燐スラグが好適である。
上記潜堤材Aは、粒状又は/及び塊状の形態を有するものであり、粒度としては、通常100mm程度以下のものが使用可能である。通常使用する製鋼スラグの粒度は85mm以下、高炉水砕スラグの粒度は5mm以下であるが、既に固結しているような場合には、それ以上の粒度のものを用いることもできる。
【0017】
潜堤材Aは、上記鉄鋼スラグのみで構成してもよいが、鉄鋼スラグ以外の粒状物や塊状物、例えば、天然砂、天然砕石、天然砕石を加工した人工砂等の1種以上を、スラグによる皮膜生成能を阻害しない範囲で含むことができる。但し、本発明は鉄鋼スラグからのCaイオンの溶出を利用して堤構造体表層に殻状皮膜を生成させるものであるため、潜堤材Aは鉄鋼スラグを主体とするものであること、すなわち鉄鋼スラグの割合が50mass%以上、好ましく70mass%以上であることが必要である。
【0018】
殻状皮膜は、水中において比較的短期間に生成することが好ましく、例えば、潜堤材Aを水中に設置してから6ヶ月以内、望ましくは3ヶ月以内に所定の厚さの殻状皮膜が形成されることが好ましい。
殻状皮膜を比較的短期間で適切に生成させるには、鉄鋼スラグからのCaイオンの溶出性が十分確保される必要がある。Caイオンの溶出性は鉄鋼スラグの種類や粒度によって異なり、スラグの粒径が小さいほどCaイオンは溶出しやすく、また、高炉水砕スラグに較べて製鋼スラグの方がCaイオンは溶出しやすい。このため、製鋼スラグを用いる場合には、潜堤材Aは粒径2mm以下の製鋼スラグを10mass%以上含むことが好ましく、また、高炉水砕スラグを用いる場合には、潜堤材Aは粒径1mm以下の高炉水砕スラグを20mass%以上含むことが好ましい。また、製鋼スラグと高炉水砕スラグを混合してもよく、この場合には、上記条件のいずれかを満足することが好ましい。
【0019】
本発明により構築される潜堤は、堤構造体の全部を潜堤材Aで構成してもよいが、外層部を潜堤材Aで構成し、内層部については他の潜堤材Bで構成してもよい。図4は、そのような形態の潜堤(縦断面)を示している。堤構造体の内層部を構成する潜堤材Bとしては、建設残土、浚渫土、塊状の製鋼スラグなどの任意の材料の1種以上を用いることができる。
【0020】
また、本発明法では、堤構造体を構築した後、堤構造体表層に殻状皮膜が生成するまでは、波浪などによって潜堤材が流出する恐れがある。このような潜堤材の流出の防止策としては、以下のような方法の1つ以上を採ることができる。
(i)構築された堤構造体の少なくとも一部を、潜堤材流失防止用の被覆体で覆い、この被覆体で覆われた堤構造体の表層に殻状皮膜が生成した後、被覆体を取り外す方法。
(ii)構築された堤構造体の少なくとも一部を、潜堤材流失防止用であって且つ水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する被覆体で覆い、この被覆体で覆われた堤構造体の表層に殻状皮膜が生成した後に、被覆体の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失(自然消失)させる方法。
(iii)潜堤材Aを透水性があり且つ水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器に入れ、この容器を積み上げることにより少なくとも堤構造体外層部の一部を構築し、容器内の潜堤材(=堤構造体の外層部)の表層に殻状皮膜が生成した後に、容器の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失(自然消失)させる方法。
【0021】
図5は、上記(i)及び(ii)の方法の実施形態(潜堤縦断面)を示しており、3は潜堤材流失防止用の被覆体である。上記(i)及び(ii)のいずれの方法でも、被覆体3は網やシートで構成することができるが、網の場合には潜堤材が流出しないような目開きのものを用いる。一方、堤構造体の表層に殻状皮膜を生成させるには、堤構造体の表層にMgイオンが潤沢に供給されることが必要であり、このため被覆体3は透水性を有し、被覆体3内外での海水交換が適切に行われるようなものであることが好ましい。
被覆体3は、潜堤材の流失が防止できるような形態で堤構造体1の全部又は一部を被覆すればよい。また、被覆体3の固定方法も任意であり、例えば、適当なアンカー手段で水底に固定すればよい。
【0022】
上記(i)の方法では、堤構造体1の表層に殻状皮膜が生成した後に、ダイバーの水中作業などによって被覆体3を取り外し、回収する。
一方、上記(ii)の方法では、水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する被覆体3を用いることで、被覆体3で覆われた堤構造体1の表層に殻状皮膜が生成した後に、被覆体3の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失(自然消失)させるようにする。このように被覆体3を水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する材料で構成し、最終的に自然消失させるのは、被覆体3がゴミ化するなどして環境汚染を生じさせるのを防止すること、潜堤を生物(水中動植物)の生息・生育に好適な環境とするには、潜堤面に潜堤材Aが露出した状態(岩肌の状態)となることが必要であること、などのためである。
【0023】
ここで、水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する被覆体3としては、例えば、生分解性プラスチック製のシートや網、植物又は植物繊維製のシートや網(例えば、筵、麻織布など)、鋼製などの金属箔、金属網などを用いることができるが、これに限定されるものではない。水中(特に海水中)において例えば数ヶ月〜1年位の間に、少なくとも主要な部分が徐々に分解又は/及び腐蝕して最終的に自然消失するものであって、且つその分解・腐蝕が水中の環境に悪影響を与えないようなものが好ましい。
被覆体3は、堤構造体1の表層に殻状皮膜が生成しないうちは消失せず、必要な流失防止機能を果たすようにするため、その種類・組成や厚さなどを選択すればよい。なお、生分解性プラスチックについては後に詳述する。
【0024】
図6は、上記(iii)の方法の実施形態(潜堤縦断面)を示しており、4は潜堤材Aを入れた容器(袋体)である。上記(iii)の方法では、透水性があり且つ水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器4内に潜堤材Aを入れ、この容器4を積み上げることにより少なくとも堤構造体外層部の一部を構築するが、通常、容器4内に潜堤材Aを入れる作業は陸上又は船上で行われる。
容器4としては、後述するような理由により袋体が特に好ましいが、ある程度の剛性を有する容器(例えば、箱、篭など)であってもよい。
【0025】
この方法でも、水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する容器4を用い、容器4内の潜堤材A(=堤構造体の外層部)の表層に殻状皮膜が生成した後に、容器4の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失(自然消失)させるようにする。このように容器4を水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する材料で構成し、最終的に自然消失させるのは、容器4がゴミ化するなどして環境汚染を生じさせるのを防止すること、潜堤を生物(水中動植物)の生息・生育に好適な環境とするには、潜堤面に潜堤材Aが露出した状態(岩肌の状態)となることが必要であること、などのためである。
【0026】
容器4の材質は上記(ii)の方法の被覆体3と同様である。すなわち、容器4は、例えば、生分解性プラスチック製のシートや網、植物又は植物繊維製のシートや網(例えば、筵、麻織布など)、鋼製などの金属箔、金属網などを用いることができるが、これに限定されるものではない。水中(特に海水中)において例えば数ヶ月〜1年位の間に、少なくとも主要な部分が徐々に分解又は/及び腐蝕して最終的に自然消失するものであって、且つその分解・腐蝕が水中の環境に悪影響を与えないようなものが好ましい。
【0027】
容器内の潜堤材Aの表層に殻状皮膜を生成させるには、潜堤材表層にMgイオンが適切に供給されることが必要であり、このため容器は透水性(水浸透性)を有し、材料表層に対する海水交換が適切に行われることが必要である。ここで、透水性を有する容器とは、容器を構成する素材自体が透水性を有するものの他に、容器を構成する素材は非透水性であるが、容器内に水を浸透させることができる隙間や孔を有する容器も含まれる。このような容器は、上記隙間や孔から容器内に水が浸透する。
【0028】
また、水底などの形状に合わせて容器を積み上げて構造体などを構築するためには、材料Aを入れた容器は変形できることが好ましく、この観点からは、容器は袋体であることが好ましいが、ある程度の剛性を有する容器(例えば、箱、篭など)であってもよい。
また、水底などの形状に合わせて容器4を積み上げて堤構造体を構築するためには、潜堤材Aを入れた容器4は変形できることが好ましく、この観点からは、容器4は袋体であることが好ましいが、ある程度の剛性を有する容器(例えば、箱、篭など)であってもよい。
以上の点からして、容器としては布袋や網袋などが特に好ましい。布袋としては、例えば、一般にフレコンバッグ(好ましくは、防水処理を施していないもの)と呼ばれるものなどを利用できる。
【0029】
また、容器4についても、その内部の潜堤材の表層に殻状皮膜が生成しないうちは消失せず、必要な流失防止機能を果たすようにするため、その種類・組成や厚さなどを選択すればよい。
また、図7は、上記(iii)の方法の他の実施形態(潜堤縦断面)を示しており、堤構造体1の外層部を潜堤材Aを入れた容器4(特に袋体が好ましい)で構成し、内層部を潜堤材Aを積み上げて構成したものである。また、図4と同様に、内層部には潜堤材A以外の潜堤材Bを用いてもよい。
【0030】
上記(ii)の方法の被覆体3や上記(iii)の方法の容器4に用いる生分解性プラスチックとは、土中または海水中などの環境に置かれた際に微生物により分解され、最終的に水と二酸化炭素になるプラスチックを指す。この種のプラスチックは、通常の使用状態では他の一般的なプラスチックと同等の機能(強度など)を有する。
使用する生分解性プラスチックの種類に特別な制限はないが、例えば、トウモロコシなどの植物性のデンプンを主原料としたポリ乳酸、微生物が作るPHB、バクテリアセルロースなどを用いることができる。また、これらを用いる場合、例えば、分解速度が速いバクテリアセルロースと分解速度が遅いポリ乳酸を混合し、それらの混合率を調整することにより、被覆体3や容器4の分解速度を調整することができる。
【0031】
生分解性プラスチック製の被覆体3や容器4は、水中に置かれた後、水中の微生物により経時的に分解され、最終的に消失するが、生分解性プラスチックの種類・組成や被覆の厚さなどを選択することにより、水中での分解・消失期間を設定することができる。
生分解性プラスチックは分解してCOと水になるため、自然環境に悪影響を与える恐れは全くない。
【0032】
また、生分解性プラスチック製の被覆体3や容器4には、全てが生分解性プラスチックで構成されるもの以外に、一部に生分解性プラスチック以外の物質を混合し或いは物理的に組み合わせたもの(すなわち、生分解性プラスチックを主体とした被覆体や容器)も含まれる。主たる構成物質または構成部材である生分解性プラスチックが経時的に分解・消失することで、被覆体3や容器4の主要部が消失できるものが好ましい。
【0033】
なお、上述した(ii)及び(iii)の方法では被覆体3や容器4として分解又は/及び腐食により自然消失するものを用いたが、環境保全上特に大きな問題がない材料や施工場所の場合には、簡単には自然消失しない被覆体3や容器4を用いてもよい。したがって、堤構造体を覆った被覆体3を上記(i)の方法のように取り外すのではなく、堤構造体の表層に殻状皮膜が生成した後もそのままの状態にしておいてもよい。
本発明の潜堤が構築される水域は、港湾や内海などの沿岸海域だけでなく、汽水域の河川、河口、湖沼なども含まれる。
【0034】
以上述べたような施工法により得られる本発明の潜堤は、水底に潜堤材を積み上げることにより構築される、少なくとも外層部が粒状又は/及び塊状のCa含有物(鉄鋼スラグなど)を主体とする潜堤材A(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる潜堤材の場合を含む)からなる堤構造体であって、この堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜が生成した潜堤である。
【実施例】
【0035】
[実施例1]
表1に示す潜堤材(1)〜(10)を用いて、内湾の比較的波浪条件の穏やかな実海域(水深4.0〜4.5m)において、高さ2m、幅5m、長さ5mの潜堤を構築した。潜堤材(1)〜(8)において、製鋼スラグとしては粒径2mm以下の割合が40mass%のものを、高炉水砕スラグとしては粒径1mm以下の割合が80mass%のものを、それぞれ用いた。また、潜堤材(9),(10)については、表1の欄外に記載した粒度の製鋼スラグと高炉水砕スラグを用いた。
潜堤材を積み上げた堤構造体の表面をプラスチック製の被覆網(目開き1mm)で覆い、潜堤を構築してから1ヶ月経過後に被覆網を撤去し、各堤構造体の上面表層に生成した殻状皮膜の厚さを複数箇所で調べ、その平均値を求めた。その結果を表1に示す。
【0036】
なお、殻状皮膜の平均厚みtは、図8に示すように所定長さ範囲Lにおける厚み方向での皮膜断面積Sを測定し、[平均厚みt=皮膜断面積S/長さL]で求めた。すなわち、堤構造体の複数箇所から採取した試料の殻状皮膜断面を研磨し、任意に選択した約500mm〜800mmの長さ範囲Lでの皮膜断面積Sを測定した。この皮膜断面積Sの測定では、10倍に拡大した画像に1mmの方眼トレース紙を当てて殻状皮膜部が含まれる方眼のマス目をカウントし、その数から皮膜断面積Sを求めた。なお、殻状皮膜部とそれ以外部分を含むマス目については1/2個としてカウントした。また、殻状皮膜部中に含まれるスラグ粒子などの非析出物も皮膜の一部としてカウントした(但し、空洞部はカウントせず)。
【0037】
【表1】

【0038】
[実施例2]
製鋼スラグ単独材からなる供試体を透水性を有する麻袋に入れ、潜堤を想定して沿岸海域の水深約10mの海底に複数個設置した。4年半経過した後に設置状態を調査したが、スラグを入れた麻袋は、波に流されることなくほぼ設置ままの状態を維持し、且つ内部のスラグが固結したような状態で保形していた。
一部の麻袋の口を空けて内部を確認したところ、供試体(スラグ)表層に比較的厚い殻状皮膜(数mm以上)が生成し、且つこの殻状皮膜の内側のスラグが約20cm程度の厚さで固結していた。この殻状皮膜+スラグ固結部(20cm×10cm×30cm)を圧縮試験用試料として採取し、一軸圧縮強度の測定を行い、その結果に基づき粘着力を評価した。
【0039】
粘着力は、一般には、三軸圧縮試験(例えば、地盤工学会基準JGS0524)により求めるが、一軸圧縮試験(JIS−A−1216)により求まる圧縮強度の1/4〜1/5相当の値を用いてもよい。本発明者らは、予め実験を行い、この粘着力(一軸圧縮強度の1/4〜1/5相当の値)が20kN/m以上、好ましくは35kN/m以上あれば高い波浪安定性が得られ、潜堤として十分に機能することを確認した。
圧縮試験の結果、上記試料の一軸圧縮強度は390kN/mであった。この結果から、粘着力は約80〜100kN/mであることが推定され、潜堤として高い波浪安定性が得られることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】潜堤の設置形態例(縦断面)を示す説明図
【図2】本発明の施工法において、堤構造体の表層に生成する殻状皮膜の断面を模式的に示す説明図
【図3】海水中に設置した潜堤材(スラグ)の表層に生成した殻状皮膜断面のSEM画像と、SEMを用いたMg及びCaの面分析画像
【図4】本発明法の一実施形態(潜堤縦断面)を示す説明図
【図5】本発明法の他の実施形態(潜堤縦断面)を示す説明図
【図6】本発明法の他の実施形態(潜堤縦断面)を示す説明図
【図7】本発明法の他の実施形態(潜堤縦断面)を示す説明図
【図8】本発明法において生成した殻状皮膜の厚み方向断面を模式的に示す説明図
【符号の説明】
【0041】
1 堤構造体
2 ブロック
3 被覆体
4 容器
x 殻状皮膜
y 材料粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水又は汽水域の水底に潜堤材を積み上げることにより、少なくとも外層部が粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする潜堤材A(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる潜堤材の場合を含む)からなる堤構造体を構築し、該堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜を生成させることを特徴とする潜堤の施工法。
【請求項2】
粒状又は/及び塊状のCa含有物が鉄鋼製造プロセスで発生したスラグであることを特徴とする請求項1に記載の潜堤の施工法。
【請求項3】
堤構造体の表層に生成した殻状皮膜の平均厚みが0.5mm以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の潜堤の施工法。
【請求項4】
潜堤材Aは、粒径2mm以下の製鋼スラグを10mass%以上含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潜堤の施工法。
【請求項5】
潜堤材Aは、粒径1mm以下の高炉水砕スラグを20mass%以上含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潜堤の施工法。
【請求項6】
構築された堤構造体の少なくとも一部を、潜堤材Aの流失を防止するための被覆体で覆うことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の潜堤の施工法。
【請求項7】
構築された堤構造体の少なくとも一部を、潜堤材Aの流失を防止するための被覆体であって且つ水中で経時的に分解又は/及び腐蝕する被覆体で覆い、該被覆体で覆われた堤構造体の表層に殻状皮膜が生成した後に、被覆体の少なくとも主要部を分解又は/及び腐蝕により消失させることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の潜堤の施工法。
【請求項8】
海水又は汽水域の水底に潜堤材を積み上げることにより構築される、少なくとも外層部が粒状又は/及び塊状のCa含有物を主体とする潜堤材A(但し、粒状又は/及び塊状のCa含有物のみからなる潜堤材の場合を含む)からなる堤構造体であって、該堤構造体の表層に水酸化マグネシウムの析出物又は水酸化マグネシウムと水酸化カルシウムの析出物を主体とする殻状皮膜が生成したことを特徴とする潜堤。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−154651(P2007−154651A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−303003(P2006−303003)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】