説明

潤滑化フィルムを調製するための方法、こうして得られた固体支持体、および、調製キット

本発明は、ポリマーゲルをグラフト化させることによって固体表面を潤滑化するための方法、および、潤滑化組成物を含浸させる方法、ならびに、ポリマーゲルで潤滑化された表面を含む固体を調製するためのキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に摩擦に対する固体基材表面の潤滑化の分野に関する。本発明は、特に表面をコーティング、噴霧または浸漬することによって適用可能な潤滑化手段に関する。本発明は、より詳細には、表面コーティング、噴霧または浸漬による簡便で再現可能な潤滑化(または潤滑剤)フィルムの形成を可能とするように適切に選択された溶液の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、互いに接触した部分の潤滑化を可能にするいくつかの技術が存在し、これらの技術を以下に簡単に記載する。
「スピンコーティング」として既知の被膜を形成するための方法は、堆積される潤滑化分子と対象とする基材との間に特定の親和性を必要としない。これはまた、浸漬コーティングまたはスプレーコーティングによって被膜を形成する関連技術にもあてはまる。堆積されたフィルムの結合は、本質的に、その構成要素間の相互作用に基づく。フィルムは、例えば、その安定性を改善するために、堆積させた後に架橋されてもよい。これらの技術は、最も多目的であり、コーティングされるべきあらゆるタイプの表面に適用可能であり、非常に再現性が高い。しかし、それらは、フィルムと基材との間に有効なグラフト化を生じさせず(単なる物理的吸着が関与するので)、生じる厚さ、特に最も薄い被覆(20ナノメートル未満)は制御が困難である。加えて、スピンコーティング技術だけが、コーティングされるべき表面が本質的に平坦である場合に均一な堆積が可能である。
【0003】
溶液での堆積も可能であるが、堆積物の抵抗性が低いために、いずれにしても満足のいくものではない。
プラズマ堆積は、コーティングされるべき表面付近に不安定形態の前駆体を生じさせる原理に基づき、これらの形態は基材上にフィルムが形成される方向に進行する。このタイプの方法は、特にポリマー材料の表面上に潤滑化層を生成するために使用された[Satyanarayana,N.et al.Applied Physics Letters 2008,93,261906]。全ての基材が、特に最も感受性の高い基材は、このタイプの処理に適しているとは限らない。
【0004】
表面電荷を変更可能にする、または中性の疎水性表面を得ることを可能にする化合物の吸着も、潤滑化のための基本構造として提案されている。この場合ポリマーブラシが、溶液中に堆積され、それらは表面に吸着される化合物の静電性または疎水性の性質の観点から選択される。例えば、雲母は、このようにして、潤滑層(すなわち、ラブリシン)の堆積の前に、ポリリシンを堆積させることによって変性されている[Zappone,B.et al. Biophysical Journal 2007,92,1693−1708]。ここでも同様に潤滑化フィルムの堆積は緩い。
一部の提案された方法では、潤滑化フィルムの耐用性のある抵抗を確保することはできない。これまでのところ、事実上、フィルムが環境に拡散するという危険性があることが多い。加えて、一部の方法は、非常に攻撃性であるので、いずれのタイプの基材にも適用できない。
【0005】
医薬、食品および化粧品産業に頻繁に使用される潤滑化化合物は、それらの適用状態に拘わらず、シリコンオイル、例えばジメチコン(ポリジメチルシロキサン(PDMS))またはシクロジメチコン(オクタメチルシクロテトラシロキサン)、または、異なるタイプのグリースに対応する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これらの産業において、使用される潤滑剤は、法律によって定められた品質および耐用基準を満たすことが重要である。シロキサンは、相対的に無害であり、それ故にこれらの産業で、対象とするトライボロジー特性を有するシステムを提供できることが望ましく、その潤滑化手段は毒性ではなく、潤滑化された材料の環境に潤滑化手段自体を顕著に放出しない。
また、潤滑化手段の分解生成物は、使用時、材料環境に相当量では生じず、毒性でもないことが望ましい。潤滑化手段は水性環境に適合性であるべきことが推奨される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、先行技術の方法およびコーティングの不利益を解決できる。本発明は、潤滑化手段の抵抗を保証しながら、とりわけ医療、食品、化粧品分野および精密機械に使用される材料のトライボロジー特性における実質的な改善を可能にするという点で先行技術とは区別される。加えて、本発明は、様々な潤滑化組成物に適合できる。そのため、提案される方法は、多用なタイプの表面上において潤滑化フィルムのグラフト化を可能にする。
【0008】
本発明は、コロイド状材料、より詳細にはポリマーゲルの共有結合グラフト化による固体表面の潤滑化方法に関する。
コロイド状材料は2つの別個の相を含み、一方の不連続相における粒子が相当小さく、他方の相に分散している。ゲルは、固相を有するコロイドに対応し、その相中には液体分散相が存在する。そのため、国際純正応用化学連合(IUPAC)によれば、ポリマーゲルは、連続相がポリマーネットワークから形成されるゲルとして規定される。
【0009】
故に、本発明は、固体表面を潤滑化するための方法に関し、この方法は:
a)上記表面に、ポリマー有機フィルムをグラフト化させ、このフィルムの第1のユニットが接着プライマーから誘導され、このフィルムの少なくとも1つの他のユニットはラジカル重合性の親水性モノマーから誘導される工程、および場合により
b)工程(a)のポリマー有機フィルムに潤滑化組成物を含浸する工程
からなる工程を含む。
【0010】
本発明において「接着プライマー」とは、任意の有機分子を意味し、この分子は、特定の非電気化学的または電気化学的条件下で、ラジカルまたはイオン、とりわけカチオン、のいずれかを形成可能であり、そのため化学反応に関与できる。上記化学反応は、とりわけ化学吸着、特に化学グラフト化、または電気グラフト化(electrografting)に関連し得る。そのため、上記接着プライマーは、非電気化学的または電気化学的条件下で、特にラジカル反応によって表面での化学吸着が可能であり、この化学吸着の後に別のラジカルに関して別の反応性官能基を有することもできる。接着プライマーは、開裂可能なアリール塩である。
【0011】
本発明は、特に固体表面を潤滑化するための方法に関し、この方法は:
a)上記表面にグラフト化されるポリマーからなるポリマー有機フィルムを上記表面にグラフト化させ、各ポリマーが開裂可能なアリール塩から誘導された、上記表面に直接結合した第1のユニット、およびラジカル重合性親水性モノマーから誘導されたポリマー鎖の少なくとも1つの他のユニットを有する工程、および場合により
b)工程(a)のポリマー有機フィルムに潤滑化組成物を含浸する工程
からなる工程を含む。
【0012】
変形例として、本発明に準じた潤滑化方法は、潤滑化組成物を用いる必須の含浸工程を有する。そのため、本発明はまた、固体表面を潤滑化するための方法に関し、この方法は:
a)上記表面にグラフト化されるポリマーからなるポリマー有機フィルムを上記表面にグラフト化させ、各ポリマーが開裂可能なアリール塩から誘導された、上記表面に直接結合した第1のユニット、およびラジカル重合性親水性モノマーから誘導されたポリマー鎖の少なくとも1つの他のユニットを有する工程、および
b)工程(a)のポリマー有機フィルムに潤滑化組成物を含浸する工程
からなる工程を含む。
【0013】
有利なことには、開裂可能なアリール塩が、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールヨードニウムアリール塩およびアリールスルホニウム塩からなる群から選択される。これらの塩において、アリール基は、以下に規定されるようなRによって表すことができるアリール基である。
開裂可能なアリール塩のうち、特に、次の式(I)の化合物を挙げることができる:
R−N,A (I)
式中:
−Aは一価のアニオンであり、
−Rは、アリール基である。
【0014】
開裂可能なアリール塩および特に上記式(I)の化合物のアリール基として、有利なものとしては、1つ以上の芳香族またはヘテロ芳香族環からなる芳香族またはヘテロ芳香族炭素構造、場合により一置換または多置換のものを挙げることができ、それぞれの環が3〜8個の原子を含み、このヘテロ原子は、場合によりN、O、PまたはSである。置換基は、1つ以上のヘテロ原子、例えばとりわけN、O、F、Cl、P、Si、BrまたはS、およびC−Cアルキル基またはC−C12チオアルキル基を含有してもよい。
【0015】
開裂可能なアリール塩および特に上記の式(I)の化合物において、Rは好ましくは電子求引基、例えばNO、COH、ケトン、CN、COH、NH(NH形態)、エステルおよびハロゲンによって置換されたアリール基から選択される。特に好ましいアリール型のR基は、場合により置換されたベンゼンおよびニトロベンゼンラジカルである。
上記式(I)の化合物のうち、Aは特に無機アニオン、例えばハロゲン化物、例えばI、BrおよびCl、ハロゲノボレート、例えばテトラフルオロボレート、ペルクロレート、およびスルホネートから選択されてもよく、有機アニオン、例えばアルコラートおよびカルボキシレートから選択されてもよい。
【0016】
式(I)の化合物として、4−ニトロベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、トリデシルフルオロオクチルスルファミルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、フェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ニトロフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−ブロモフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アミノフェニルジアゾニウムクロライド、2−メチル−4−クロロフェニルジアゾニウムクロライド、4−ベンゾイルベンゼンジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−シアノフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−カルボキシフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−アセトアミドフェニルジアゾニウムテトラフルオロボレート、4−フェニル酢酸ジアゾニウム酸テトラフルオロボレート、2−メチル−4−[(2−メチルフェニル)ジアゼニル]ベンゼンジアゾニウムスルフェート、9,10−ジオキソ−9,10−ジヒドロ−1−アントラセンジアゾニウムクロライド、4−ニトロナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートおよびナフタレンジアゾニウムテトラフルオロボレートからなる群から選択される化合物を使用するのが特に有利である。
【0017】
「ラジカル重合性の親水性モノマー」とは、接着プライマーとは異なるエチレン結合を含む親水性化合物を意味する。上記化合物は、有利なことには、少なくとも1つの極性官能基、例えばアルコール、エーテル、エステルまたはカルボン酸を含む。本発明の意味において、親水性化合物は、通常、いずれかの割合で水溶性化合物に対応し、より詳細にはその溶解度は、標準温度および圧力条件(NTP)下で0.1Mを超える。本発明によれば、特に指示しない限り、NTP条件は25℃の温度および1.10Paの圧力に関する。
本発明にしたがって、次の式(II)に適合した親水性モノマーを使用できる:
【化1】

式中、基R〜Rは同一または異なって、非金属性の一価原子、例えばハロゲン原子、水素原子、飽和または不飽和化学基、例えばアルキル基またはアリール基、親水性ポリマー鎖、ニトリル、カルボニル、アミン、アミド、−COOR基(式中、Rは水素原子またはC−C12アルキル基、好ましくはC−Cである)を表し、
基は、カルボン酸、親水性ポリマー鎖または−COOR基(式中、Rは親水性ポリマー鎖である)を表す。
【0018】
有利なことには、基R〜Rは好ましくは水性媒体中にてイオン化形態で1つ以上の酸素または窒素原子を含み、特にアルコール、エーテル、エステル、カルボン酸またはアミン官能基を含む。
【0019】
式(II)の親水性モノマーのうち、高分子量の分子に対応し、その構造が相対的に低分子量の分子から実際に誘導されるまたは概念的に誘導される、複数の繰り返し単位で本質的に形成される「ビニル末端親水性マクロ分子」を区別できる。これは、特に、Rが親水性ポリマー鎖、例えばポリエーテルを含む化合物にあてはまり、ここで親水性ユニットは、通常、10〜100回繰り返され、とりわけ10〜40回繰り返される。親水性ユニットは、通常、場合によりイオンの形態である1つ以上の酸素または窒素原子を含む炭素ユニットに対応する。
本発明に従って使用できる親水性モノマーとしては、特に、アクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびビニル末端親水性マクロ分子、例えばポリエチレングリコールメタクリレート(PEGm)を挙げることができる。
【0020】
有利なことには、親水性モノマーは潤滑化特性を有する。そのため、通常1つの同じ表面に関して、堆積またはグラフト化される場合、それらは従来のシリコンオイル、特にDM1000タイプの場合と少なくとも等しい潤滑化を確保する。この場合、一部のユニットが上記親水性モノマーから誘導されるグラフト化されたポリマー有機フィルムの含浸は任意である。換言すれば、この場合、本発明に従う方法の工程(b)は任意である。
本発明はまた、先行して記載されたモノマーのうちから選択された2つ、3つ、4つまたはそれ以上のモノマーの混合物に適用される。この場合、フィルムは異なるタイプのモノマーから誘導されるユニットを含有するので、「不均質」であると言われる。単一タイプのモノマーから誘導されるユニットだけを含有するフィルムは、「均質」と呼ばれる。
【0021】
通常、本発明の方法において、少なくとも1つのモノマーは、ビニル末端親水性マクロ分子である。モノマーの1つがビニル末端マクロ分子に対応する場合、これらの割合は、好ましくは他のモノマーの割合以下であるのが好ましい。
1つの特定実施形態によれば、フィルムは、ビニル末端親水性マクロ分子タイプの第1のモノマーから誘導されるユニット、およびビニル末端マクロ分子ではない第2のモノマーから誘導されるユニットを含有する。
【0022】
より詳細には、第1のラジカル重合性の親水性モノマーから誘導されるユニット、および、ラジカル重合性の疎水性タイプの第2のモノマーから誘導されるユニットを含有する不均質フィルムを製造できる。ラジカル重合性疎水性モノマーは、接着プライマーとは異なるエチレン結合を含む疎水性化合物に対応する。上記化合物は、非極性官能基、例えばアルキル基、芳香族残基、フルオロアルキル基、ポリマー鎖、例えば、ポリアルキルシロキサンまたはポリプロピレングリコール(PPG)を含む。それは、例えば、プロピレングリコールメタクリレート(PPGm)であってもよい。本発明の意味において、疎水性化合物は、通常、水不溶性であると考えられる化合物に対応し、より詳細にはその溶解度は、標準温度および圧力条件(NTP)下、0.1M未満である。
【0023】
そのため、本発明の下で使用される有機フィルムは、本質的に、同一または異なる化学種のいくつかのモノマーユニットおよび接着プライマー分子から誘導されるポリマーまたはコポリマーである。本発明の方法を用いて得られるフィルムは、フィルムがまた存在するモノマーからだけでなく接着プライマーから誘導される種を組み込む限り、「本質的に」ポリマータイプである。本発明の有機フィルムは、第1のユニットが接着プライマーの誘導体からなり、または接着プライマーから生じるモノマーユニットの配列を有し、他のユニットは、無差別に接着プライマーからおよび/またはモノマー、例えば、先行して規定されたモノマーからの誘導体またはそれから得られるものである。そのため、後者からの有機フィルムのユニットは、接着プライマーおよび接着プライマーとは異なるラジカル重合性モノマーから選択され、存在する元素の重合、特にラジカル重合から得られる。
【0024】
通常、本発明の方法の工程(a)に使用されるグラフト化は化学グラフト化である。
「化学グラフト化」という用語は、特に、対象とする表面(すなわち、固体表面)との共有結合型の結合を形成できる極めて反応性がある(通常、ラジカル)分子実体の使用を指し、該分子実体は表面に独立して生じ、この表面においてそれらがグラフト化されることを意図する。故に、グラフト化反応は、有機フィルムでコーティングされるべき表面と接着プライマーの誘導体との共有結合の形成を導く。
【0025】
本発明の下で、「接着プライマー誘導体」は、接着プライマーが化学グラフト化によって表面と反応した、および、場合によりラジカル反応を介して別の化合物と反応した後の接着プライマーから生じる化学ユニットを意味し、該他の化合物は有機フィルムの第2のユニットを与える。そのため、有機フィルムの第1のユニットは、表面および別の化合物と反応した接着プライマーの誘導体である。
【0026】
有利なことには、グラフト化工程(a)は:
)少なくとも1つの接着プライマーおよび少なくとも1つのラジカル重合性親水性モノマーを含む溶液Sと上記表面とを接触させる工程;
)該溶液Sを非電気化学条件に供し、上記接着プライマーからのラジカル実体の形成を可能にする工程
からなる工程を含む。
【0027】
無機または有機にかかわらず、ラジカル付加または置換反応に関与し得る1つ以上の原子または原子群、例えば、CH、カルボニル(ケトン、エステル、酸、アルデヒド)、−OH、エーテル、アミン、ハロゲン、例えば、F、Cl、Brを有する任意の表面が特に本発明に関連する。
無機タイプの表面は、特に導電性材料、例えば金属、貴金属、酸化された金属、遷移金属、金属合金、および、例えば、Ni、Zn、Au、Pt、Tiまたは鋼から選択できる。それらはまた、Si、SiC、AsGa、Gaなどの半導体材料であってもよい。非導電性表面、例えば、非導電性酸化物、例えば、SiO、AlおよびMgOにこの方法を適用することも可能である。より一般的には、無機表面は、例えば、非晶質材料、例えば、一般にケイ酸塩を含有するガラス、またはセラミック、結晶、例えば、ダイヤモンド、可能性としてグラフェンのように多かれ少なかれ組織化されたグラファイト、高配向性熱分解黒鉛(HOPG)、またはカーボンナノチューブで形成できる。
【0028】
有機タイプの表面は、特に、天然ポリマー、例えば、ラテックスまたはゴム、あるいは合成ポリマー、例えば、ポリアミドまたはポリエチレンの誘導体、および特にπ型の結合を有するポリマー、例えば、エチレン結合、カルボニル基、イミン基を保持するポリマーを挙げることができる。また、より複雑な有機表面、例えば、多糖類、例えば、木材または紙のセルロースを含有する皮の表面、合成または天然繊維、例えば、綿またはフェルト、およびフッ素化ポリマー、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、または塩基性基、例えば、三級または二級アミン、例えば、ピリジンを保持するポリマー、例えば、ポリ−4およびポリ−2−ビニルピリジン(P4VPおよびP2VP)またはより一般的には、芳香族基および窒素芳香族基を保持するポリマーにこの方法を適用することもできる。
【0029】
より詳細には、この方法は、生体適合性ポリマー表面、熱ポリマー、エラストマー、例えば、「ニトリル」[ブタジエンおよびアクリロニトリルのコポリマー(NBR)]または「水素化ニトリル」(HNBR)、プラスチック、例えば、ポリアセタール(POM)またはポリブチレンテレフタレート(PBT)に適用する。
溶液Sはさらに、溶媒を含んでいてもよい。これは、プロトン性溶媒であっても非プロトン性溶媒であってもよい。使用される接着プライマーは、溶液Sの溶媒中に可溶性であることが好ましい。
【0030】
本発明の下で「プロトン性溶媒」とは、プロトン形態にて放出されることができる少なくとも1つの水素原子を含む溶媒を意味する。
プロトン性溶媒は、水、脱イオン水、蒸留水、酸性化された、または、酸性化されていない酢酸、ヒドロキシル化溶媒、例えば、メタノールおよびエタノール、低分子量の液体グリコール、例えば、エチレングリコール、およびこれらの混合物からなる群から選択されるのが有利である。第1の変形例において、本発明の下で使用されるプロトン性溶媒は、1つのプロトン性溶媒、または異なるプロトン性溶媒の混合物のみからなる。別の変形例において、プロトン性溶媒またはプロトン性溶媒の混合物は、得られた混合物がプロトン性溶媒の特徴を有するものと理解した上で、少なくとも1つの非プロトン性溶媒との混合物として使用できる。
【0031】
本発明の下での「非プロトン性溶媒」は、プロトン性であるとは考えられない溶媒を意味する。上記溶媒は、非極限条件下でプロトンを放出すること、または、プロトンを受容することができない。
非プロトン性溶媒は、有利なことには、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、ジクロロメタン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびそれらの混合物から選択される。
【0032】
溶媒がプロトン性溶媒である場合、および有利なことには接着プライマーがアリールジアゾニウム塩である場合、溶液のpHは通常7未満である。接着プライマーがグラフト化媒体と同じ媒体中で調製される場合、0〜3のpHにて作業されることが推奨される。必要により、溶液のpHは当業者に周知の1つ以上の酸性化剤を用いて、例えば、鉱酸または有機酸、例えば塩酸、硫酸などを用いて所望の値に調節できる。
【0033】
接着プライマーは先行して規定されるような溶液Sにそれ自体を添加してもよく、または接着プライマーは溶液中でインサイチュで調製してもよい。そのため、1つの特定実施形態において、本発明の方法は、特に接着プライマーがアリールジアゾニウム塩である場合、接着プライマーを調製する工程を含む。上記化合物は、一般に、酸性媒体中でNaNOを用いる反応、または、有機媒体中でNOBFを用いる反応によって、いくつかのアミン置換基を含有し得るアリールアミンから調製される。上記インサイチュ調製のために使用できる実験方法の詳細な記載については、当業者はBelanger et al等による2006年の文献(Chem.Mater.,vol.18,pages 4755−4763)を参照できる。好ましくは、その後のグラフト化は、アリールジアゾニウム塩が調製される溶液中で直接行われる。
【0034】
溶液Sは、特にそこに含有される成分の溶解度を改善するために、さらに少なくとも1つの界面活性剤を含有してもよい。本発明の下で使用できる界面活性剤の正確な記載は特許出願FR 2 897 876に公表されており、当業者はこれを参照し得る。単独の界面活性剤またはいくつかの界面活性剤の混合物が使用され得る。
本発明に準じた方法の工程(b)にて使用される、および、本発明の意味において「非電気化学的条件」とは、電圧のない状態を意味する。故に、本発明に従う方法の工程(b)にて使用される非電気化学的条件は、有機フィルムがグラフト化された表面に電圧を適用することなく、接着プライマーからのラジカル実体の形成を可能にする条件である。これらの条件は、温度、溶媒の種類、特定添加剤の存在、撹拌、圧力のようなパラメータを暗示する一方で、電流は、ラジカル実体の形成中に関与しない。ラジカル実体の形成を可能にする非電気化学的条件は、非常に多く、この種類の反応は既知であり、先行技術において詳細に試験される(Rempp&Merrill,Polymer Synthesis,1991,65−86,Huthig&Wepf)。
【0035】
故に、例えば、接着プライマーの熱的、動力学的、化学的、光化学的または放射化学的環境に対する作用により、ラジカル実体を形成するような脱安定化を生じることが可能である。これらのパラメータのいくつかは同時に作用可能であることは明らかである。
本発明の下で、ラジカル実体の形成を可能にする非電気化学的条件は、通常、熱的、動力学的、化学的、光化学的、放射化学的条件およびこれらの組み合わせからなる群から選択される。有利なことには、非電気化学条件は、熱的、化学的、光化学的、放射化学的条件、およびそれらのいずれかの組み合せおよび/または動力学的条件との組み合わせからなる群から選択される。本発明の下で使用される非電気化学的条件は、より詳細には化学的条件である。
【0036】
熱的環境は、温度の機能である。熱的環境は、当業者が通常使用する加熱手段を適用することによって容易に制御できる。制御された温度を有する環境の使用は、反応条件にわたって精密に制御できるので、特に興味深い。
動力学的環境は、本質的に、システムの撹拌および摩擦応力に対応する。それは、ここで考慮される分子の内部での撹拌(結合の伸長など)ではなく、分子の全体的な運動である。圧力の適用により特に、接着プライマーが脱安定化され、反応種、特にラジカル種を形成できるように、エネルギーがシステムに提供される。
【0037】
最後に、異なる放射線、例えば、電磁放射線、γ放射線、UV放射線、電子ビームまたはイオンビームの作用はまた、接着プライマーがラジカルおよび/またはイオンを形成するのに十分な程度にそれらを脱安定化され得る。適用される波長は、使用されるプライマーに関連して選択される。例えば、約306nmの波長は、保持された4−ヘキシルベンゼンジアゾニウムに関して使用される。
化学的条件に関して、1つ以上の化学開始剤が、反応媒体中で使用される。化学開始剤の存在は、例えば、上記で記載されたような非化学的環境条件と組み合わせられることが多い。通常、化学開始剤は、接着プライマーに作用し、接着プライマーからラジカル実体の形成を生じる。また、その作用が本質的に環境条件に関連せず、熱またはさらには動力学的条件の非常に広範囲に作用し得る化学開始剤も使用可能である。開始剤は、好ましくは反応の環境に適合され、例えば溶媒に適合される。
【0038】
多くの化学開始剤が存在する。一般に、使用される環境条件に関連して3つのタイプに区別される:
−ペルオキシドまたはアゾ化合物が最も一般的である熱開始剤。熱の作用の下で、これらの化合物は、フリーラジカルに解離する。この場合、反応は、開始剤からのラジカルの形成に必要とされる温度に対応する最小温度で行われる。一般に、これらのタイプの化学開始剤は厳密には分解反応速度に関連して特定温度範囲内で使用される;
−放射により誘発される放射線(最も頻繁には、UVによってであるが、これだけでなくγ線または電子ビーム)によって励起される光化学または放射化学開始剤であって、多少複雑な機構を介してラジカルを生じる開始剤;BuSnHおよびIは、光化学または放射化学開始剤に属する;
−本質的に化学開始剤であって、これらのタイプの開始剤は、標準温度および圧力条件下で、接着プライマーに迅速に作用し、ラジカルおよび/またはイオンの形成を可能にする開始剤。これらの開始剤は、一般に、反応条件下で使用される接着プライマーの還元電位より低いレドックス電位を有する。開始剤のタイプに依存して、それは、例えば、還元性金属、例えば、鉄、亜鉛、ニッケル;メタロセン、例えば、フェロセン;有機還元剤、例えば次亜リン酸(HPO)またはアスコルビン酸;接着プライマーの脱安定化を可能にするのに十分な割合での有機または無機塩基であってもよい。有利なことには、化学開始剤として使用される還元性金属は、微細に分割された形態、例えば、金属ウール、または、金属のやすり屑(metal fillings)である。一般に、有機または無機塩基が、化学開始剤として使用される場合、4以上のpHであれば足りる。先行して記載された電子ビームまたは重イオンビームおよび/またはあらゆる放射手段によって放射されるラジカル蓄積タイプの構造、例えば、ポリマー性マトリックスも化学開始剤として使用でき、接着プライマーを脱安定化して、とりわけこのプライマーからのラジカル実体の形成を導く。
活性種の形成に関するMevellec等による2007年の文献(Chem.Mater.,vol.19,pages 6323−6330)を参照するのが有利である。
【0039】
有機フィルムの厚さは、上記で説明されたように、適用される本発明の方法の変形例に関わらず、容易に制御できる。工程(b)の期間のようなパラメータそれぞれについて、使用される試薬に依存して、当業者は、反復により、所与の厚さのフィルムを得るために最適な条件を決定できる。
【0040】
有利なことには、本発明の方法は、グラフト化の前に、特にサンド加工および/または研磨によって有機フィルムを形成することが所望される表面を洗浄する追加工程を含んでいてもよい。有機溶媒、例えば、エタノール、アセトンまたはジメチルホルムアミド(DMF)と共に超音波を用いる追加の処理もさらに推奨される。
同様に、本発明の方法は、グラフト化された有機フィルムを熱処理に供することからなるグラフト化後の追加工程を含み得る。有利なことには、この熱処理はこのグラフト化フィルムを60〜180℃、特に90〜150℃、および、とりわけ120℃のオーダー(すなわち120℃±10℃)の温度に、1時間から3日間、特に6時間から2日間、とりわけ12から24時間グラフト化フィルムを供することからなる。この熱処理工程は、乾燥チャンバーまたはオーブンで適用できる。
【0041】
本発明に従う方法の工程(b)は、工程(a)にてグラフト化されたポリマー有機フィルムを含浸することからなる。本発明の下では、「含浸」という用語は、フィルム、例えば、先行して規定されたフィルムを潤滑化組成物と接触させることに対応する。
潤滑化組成物は、少なくとも1つの潤滑化分子を含む。潤滑化分子は、通常、天然または合成マクロ分子、鉱物、動物油または植物油に対応する。潤滑化分子は、合成分子から選択されるのが好ましい。
【0042】
マクロ分子のうち、ポリシロキサン、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリジメチルシロキサンメタクリレート(PDMSm)およびオクタメチルシクロテトラシロキサン、またはポリエーテル、例えば、ポリアルキレングルコール(PAG)、およびとりわけポリエチレングリコール(POE)、ポリプロピレングリコール(PPG)およびポリテトラメチレングリコール(PTMG)を挙げることができる。有利なことには、潤滑化分子は、ビニル末端親水性マクロ分子、例えば、先行して規定されたような分子、またはビニル末端を有していない分子から選択される。
【0043】
組成物はまた、潤滑化分子のフィルムへの浸透を促進するフィルム膨潤溶媒、および特に医薬、食品または化粧品産業において使用される添加剤を含んでいてもよい。
液体タイプの潤滑化組成物が好ましい。接触は、組成物に表面を浸漬することによって、または表面に組成物を噴霧することによって達成されてもよい。含浸は、一般にフィルムの飽和、すなわち潤滑化組成物をもはや吸収できない状態まで行われる。組成物が膨潤溶媒を含む場合、フィルムの飽和濃度に到達するように数回、含浸工程を行うことが推奨される。
【0044】
本発明に従う方法の工程(b)の後、グラフト化されたポリマーゲルが得られる。本発明の意味において、「グラフト化されたポリマーゲル」は、先行して規定されるような表面にグラフト化された有機フィルムによって形成され、先行して規定されるような潤滑化組成物で含浸された構造に対応する。
方法はさらに、フィルム表面に直接存在する潤滑化分子を除去するために含浸後にすすぎ工程を含んでいてもよい。好ましくは、ポリマーフィルムを膨潤させない溶媒が使用される。
【0045】
本発明はまた、固体表面を潤滑化するための潤滑化キットおよびそれらの使用に関し、このキットは:
−第1の区画において、少なくとも1つの接着プライマー、特に先行して規定されるようなもの;
−第2の区画において、少なくとも1つのラジカル重合性親水性モノマー、特に先行して規定されるようなもの;
−場合により、第3の区画において、重合のための化学開始剤、特に先行して規定されるようなもの;
−場合により、第4の区画において、潤滑化組成物、例えば、先行して規定されるようなもの
を含む。
【0046】
本発明のキットにおいて、第1の区画の接着プライマーおよび第2の区画の元素は溶液状態であってもよい。この溶液は、より詳細には、開始剤および親水性モノマー、特に先行して規定されるようなものを含有する溶液Sに対応する。第3の区画における化学開始剤も溶液状態であってもよい。有利なことには、同一または異なる溶媒が、第1および第2の区画の溶液それぞれにおいて含有され、場合により第3の区画の溶液において含有される。
【0047】
本発明に従うキットの変形例において、第1の区画は、有利なことには溶液中に接着プライマーを含有しないが、接着プライマーの少なくとも1つの前駆体を、有利なことには溶液中に含有する。本発明の意味において、「接着プライマー前駆体」は、実施が容易な単一操作工程によってプライマーから分離される分子を指定することを意味する。この場合、キットは、場合により、プライマーをその前駆体から調製するのに必要な少なくとも1つの要素が存在する少なくとも1つの他の区画を含む。そのため、キットは、例えば、アリールアミン、すなわち接着プライマー前駆体を有利なことには溶液中に含有してもよく、同様にNaNO溶液またはNOBFの溶液中に添加され、アリールジアゾニウム塩、すなわち接着プライマーの形成を可能にする。当業者は、前駆体の使用が、化学的に反応性の種の貯蔵または輸送を避けることができることを意味することを理解する。
【0048】
異なる区画の溶液は、同一または異なる他の試薬、例えば、安定化剤または界面活性剤を含有できることは明らかである。キットの使用は、潤滑化されるべきサンプルの表面を、第4の区画中の溶液(潤滑化組成物)を除いて異なる区画の溶液を、好ましくは攪拌下で特に超音波を用いて混合することによって即時に調製される溶液の混合物と接触させるようにサンプルを配置するだけでよいので、簡単であることが判る。有利なことには、モノマーを含有する溶液、すなわち第2の区画における溶液だけが、前駆体から即時に調製されるまたは第1の区画に存在する接着プライマーを含有する溶液と混合する前に、超音波に供される。
【0049】
本発明はまた、潤滑化方法で処理された固体基材、および特に相互作用表面を有する固体要素対に関し、この表面の少なくとも1つはこの方法で潤滑化される。故に、本発明は、先行して規定されたような方法に従って表面が潤滑化された固体に関し、ここで潤滑化組成物でグラフト化された有機フィルムを含浸する工程は任意ではない。そのため、本発明の固体は、先行して規定されたようなその表面にグラフトされたポリマーゲルを有する。
本発明は、特に固体、および本発明に従って使用される機械的システム、および、より詳細には、特に飽和水蒸気を有する加湿空気環境、水性液体または生物学的媒体中での相互作用表面に適合される。
【0050】
とりわけ、本発明は、本発明の方法を用いて処理されたまたは潤滑化された、あるいは本発明に従う固体を含む機械的システム、特にそれらがとりわけミリメートルまたはセンチメートルサイズのシステム;マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS);スプレー機構、カテーテル表面;精密機構(時計のムーブメント);人工器官;ポリマー系代替血管;インビボで埋め込まれているかどうかに拘わらないバイオチップ;粉末分配システム;液体分配システム、とりわけ生物学的流体、例えば、血液、血漿、リンパ;吸入器を含有する摩擦下での様々な要素に関する。本発明に従う機械的システムおよび特にそれらを含有する摩擦下での異なる要素は、先行して規定されるグラフト化ポリマーまたはグラフト化ポリマーゲルをそれらの表面に有していてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0051】
次の実施例は、ガラス容器中にて行われた。特に指示しない限り、実施例は、周囲空気中、標準温度および圧力条件(約1atmにて約25℃)で行われた。特に記載しない限り、使用される試薬は、追加の精製なしで直接使用された市販の試薬であった。使用された金、プラスチックおよびガラススライドは、1cmの表面積を有していた。
【0052】
I−化学グラフト化による均質フィルムのグラフト化
実施例1.1−化学グラフト化によるpHEMAフィルムのグラフト化
4−アミノ安息香酸(0.672g、4.9 10−3mol)を、塩酸溶液(0.5Mにて50mL)中に溶解させた。この溶液に、50mLのNaNO水溶液(0.338g、4.9 10−3mol)を添加した。このジアゾニウム塩溶液に、1.6mLの2−ヒドロキシエチルメチルメタクリレート(HEMA)(1.3 10−2mol)を添加し、続いて6.5mLの次亜リン酸溶液(HPO)(63 10−3mol)を添加した。
3分の反応時間後、プラスチックサンプルおよび浴の有効性のIR検証のための参照金スライドを、15分間反応媒体中に配置した。異なるサンプルを、乾燥前にミリQ水、エタノール、次いで金スライドに関してはアセトンで順にすすいだ。
【0053】
金スライドのIR分光分析により、グラフト化浴が活性であることを確認した。3423cm−1(OH変形)、1729cm−1(C=O変形)および1163cm−1(C−O変形)にてpHEMAに特異なバンドが存在した。
【0054】
実施例1.2−ポリ(アクリル酸)(PAA)フィルムの化学グラフト化によるグラフト化
操作方法は、実施例1.1の方法と同一である。2−ヒドロキシエチルメチルメタクリレートを、アクリル酸(AA)(0.91mL、1.3 10−2mol)に置き換えた。
金スライドのIR分光分析により、グラフト化浴が活性であることを確認した。3356cm−1(COOH変形)、1710cm−1(C=O変形)および1265cm−1(C−O変形)にてPAAフィルムに特異なバンドが存在した。
【0055】
実施例1.3−化学グラフト化によるポリプロピレングリコール(PPG)フィルムのグラフト化
4−アミノ安息香酸(0.336g、2.4 10−3mol)を、塩酸(0.5Mにて25mL)の溶液中に溶解した。この溶液に、25mLのNaNO水溶液(0.169g、2.4 10−3mol)を添加した。このジアゾニウム塩溶液に、2.5mLのポリプロピレングリコールメタクリレート(PPGm)(6.7 10−3mol)を添加し、次いで3.2mLの次亜リン酸溶液(HPO)(32 10−3mol)を添加した。
【0056】
3分の反応時間後、プラスチックサンプルおよび浴の有効性のIR検証のための参照金スライドを、15分間反応媒体中に配置した。異なるサンプルは、乾燥前にミリQ水、エタノール、次いで金スライドについてはアセトンで順にすすいだ。
金スライドのIR分光分析により、グラフト化浴が活性であることを確認した。3451cm−1(OH変形)、1720cm−1(C=O変形)および1112cm−1(C−O変形)にてPPGフィルムに特異なバンドが存在した。
【0057】
II−化学グラフト化による不均質フィルムのグラフト化
実施例2.1−化学グラフト化によるpHEMA/PPGコポリマーフィルムのグラフト化
操作方法は、実施例1.4の方法と同一である。ポリプロピレングリコールメタクリレート(PPGm)を、2−ヒドロキシエチルメチルメタクリレート(HEMA)(0.8mL、6.7 10−3mol)およびポリプロピレングリコールメタクリレート(PPGm)(2.5mL、6.7 10−3mol)の混合物に置き換えた。
金スライドのIR分光分析により、グラフト化浴が活性であることを確認した。3438cm−1(OH変形)、1729cm−1(C=O変形)および1156cm−1(C−O変形)にてpHEMA/PPGフィルムに特異なバンドが存在した。
【0058】
実施例2.2−化学グラフト化によるPPG/PEGのコポリマーフィルムのグラフト化
操作方法は、実施例1.1の方法と同一である。2−ヒドロキシエチルメチルメタクリレートを、PPGm(5.0mL、1.3 10−2mol)およびポリエチレングリコールメタクリレート(PEGm)(4.4mL、1.4 10−2mol)の混合物に置き換えた。
金スライドのIR分光分析により、グラフト化浴が活性であることを確認した。3443cm−1(OH変形)、1725cm−1(C=O変形)および1097cm−1(C−O変形)にてPPG/PEGフィルムに特異なバンドが存在した。
【0059】
実施例2.3−化学グラフト化によるPAA/PPGコポリマーフィルムのグラフト化
操作方法は、実施例1.1の方法と同一である。2−ヒドロキシエチルメチルメタクリレートを、AA(0.91mL、1.3 10−2mol)およびPPGm(5.0mL、1.3 10−2mol)の混合物に置き換えた。
金スライドのIR分光分析により、グラフト化浴が活性であることを確認した。3442cm−1(OH変形)、1728cm−1(C=O変形)および1109cm−1(C−O変形)でPAA/PPGフィルムに特異なバンドが存在した。
【0060】
III−化学グラフト化+含浸による均質フィルムのグラフト化
実施例3.1−pHEMA+シリコンオイル含浸の化学的にグラフト化されたフィルム
実施例は、pHEMAフィルムを創製するための実施例1.1に記載される条件に従って行った。次いで、こうして調製されたサンプルは、15分間シリコンオイル浴中に配置した。異なるサンプルを、乾燥前にミリQ水、次いでエタノールで順にすすいだ。
【0061】
実施例3.2−化学的にグラフト化されたpHEMAフィルム+PDMSm含浸
実施例は、pHEMAフィルムを創製するために実施例1.1に記載される条件に従って行った。次いで、こうして調製されたサンプルを、PDMSm浴に15分間配置した。異なるサンプルは、乾燥前に、ミリQ水、次いでエタノールで順にすすいだ。
【0062】
実施例3.3−化学的にグラフト化されたpHEMAフィルム+PPGm含浸
実施例は、pHEMAフィルムを創製するために、実施例1.1に記載の条件に従って行った。次いで、こうして調製されたサンプルを、PPGm浴中に15分間配置した。異なるサンプルを、乾燥前にミリQ水、次いでエタノールで順にすすいだ。
【0063】
実施例3.4−化学グラフト化PAAフィルム+PPGm含浸
実施例は、PAAフィルムを創製するために実施例1.2に記載される条件に従って行った。次いでこうして調製されたサンプルを、15分間PPGm浴に配置した。異なるサンプルを、乾燥前にミリQ水、次いでエタノールで順にすすいだ。
【0064】
IV−潤滑化特性を有するフィルム
潤滑化測定は、シリンジおよびピストンを用いて行った。シリンジおよびピストンは、組み立てる前にわずかに加湿された。ピストンは、測定を開始する前にシリンジ内に一回差し込んだ。シリンジは、固定されたブロックに配置した。ピストンを、3.8mm/分の一定速度にて、1cmにわたって推力に供した。推力を、ひずみゲージを用いて測定した。この装置にて読み取られた応力値をビデオ記録した。時間の関数として適用された推力のダイアグラムを以下に記載する。
【0065】
分析後、方法に従って処理された表面について水性媒体中にて含浸された潤滑化組成物による環境の汚染および分解生成物は、観察されなかった。シリコンオイルについて、油による媒体のわずかな汚染を観察可能であった。
比較により、同様の条件下、特に水性環境中にて、この方法でサンプルを処理することにより、シリコンオイル処理の場合よりも潤滑の観点で良好な結果を導くことが確かめられた(ケイ素を含浸したpHEMAフィルムについては10倍まで)。同等の移動に必要な推力は、本発明の方法に従って処理した場合よりもシリコンオイル処理での場合の方が大きい。
試験中に得られた結果は、この方法を用いた潤滑化は、潤滑化分子または分解生成物の実質的な分配なしで処理された表面のトライボロジー特性を実質的に改善することを示す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体表面を潤滑化するための方法であって、該方法が:
a)該表面にグラフト化されるポリマーからなるポリマー有機フィルムを該表面にグラフト化させる工程であって、各ポリマーが、該表面に直接結合し、開裂可能なアリール塩から誘導される第1のユニット、および、ラジカル重合性親水性モノマーから誘導されるポリマー鎖の少なくとも1つの他のユニットを有する工程、および、場合により、
b)工程(a)のポリマー有機フィルムに潤滑化組成物を含浸する工程
からなる工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項2】
請求項1に記載の潤滑化方法であって、該方法が:
a)該表面にグラフト化されるポリマーからなるポリマー有機フィルムを該表面にグラフト化させる工程であって、各ポリマーが、該表面に直接結合し、開裂可能なアリール塩から誘導される第1のユニット、および、ラジカル重合性親水性モノマーから誘導されるポリマー鎖の少なくとも1つの他のユニットを有する工程、および
b)工程(a)のポリマー有機フィルムを潤滑化組成物で含浸する工程
からなる工程を含むことを特徴とする、方法。
【請求項3】
前記開裂可能なアリール塩が、アリールジアゾニウム塩、アリールアンモニウム塩、アリールホスホニウム塩、アリールヨードニウム塩およびアリールスルホニウム塩からなる群から選択されることを特徴とする、請求項1または2に記載の潤滑化方法。
【請求項4】
前記開裂可能なアリール塩が、式(I)の化合物であることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の潤滑化方法:
R−N,A (I)
式中:
−Aは一価のアニオンであり、
−Rは芳香族またはヘテロ芳香族炭素構造を表し、場合により一置換または多置換のものであって、それぞれの環が3〜8個の原子を含む1つ以上の芳香族またはヘテロ芳香族環からなり、該ヘテロ原子が、可能性としてN、O、PまたはSであり、該置換基は場合により、1つ以上のヘテロ原子、C−Cアルキル基またはC−C12チオアルキル基を含有する。
【請求項5】
前記親水性モノマーが次の式(II)に適合することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載の潤滑化方法:
【化1】

式中、基R〜Rは、同一または異なって、非金属の一価原子、例えば、ハロゲン原子、水素原子、飽和または不飽和化学基、例えばアルキルまたはアリール基、親水性ポリマー鎖、ニトリル、カルボニル、アミン、アミド、−COOR基(式中、Rは水素原子またはC−C12、好ましくはC−Cアルキル基である)を表し、
式中、R基は、カルボン酸、親水性ポリマー鎖または−COOR基(式中、Rは親水性ポリマー鎖である)を表す。
【請求項6】
前記親水性モノマーが、アクリル酸、ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)およびビニル末端を有するポリアルキレングリコール(PAG)から選択されることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載の潤滑化方法。
【請求項7】
前記フィルムが、ビニル末端親水性マクロ分子タイプの第1のモノマーから誘導されるユニット、およびビニル末端を有するマクロ分子ではない第2のモノマーから誘導されるユニットを含有することを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載の潤滑化方法。
【請求項8】
前記グラフト化が化学グラフト化であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載の潤滑化方法。
【請求項9】
前記方法が:
)少なくとも1つの開裂可能なアリール塩および少なくとも1つのラジカル重合性親水性モノマーを含む溶液Sと前記表面とを接触させる工程;
)該溶液Sを非電気化学条件に供し、該開裂可能なアリール塩からのラジカル実体の形成を可能にする工程
からなる工程を含むことを特徴とする、請求項1から8のいずれかに記載の潤滑化方法。
【請求項10】
グラフト化工程(a)後、グラフト化された有機フィルムを、60〜180℃、特に90〜150℃、およびとりわけ120℃のオーダーの温度に、1時間から3日間、特に6時間から2日間、とりわけ12から24時間供することからなる追加工程があることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載の潤滑化方法。
【請求項11】
前記潤滑化組成物が、天然または合成マクロ分子、鉱物、動物油または植物油から選択される少なくとも1つの潤滑化分子を含むことを特徴とする、請求項1から10のいずれか一項に記載の潤滑化方法。
【請求項12】
前記潤滑化組成物が、ポリシロキサンまたはポリエーテルから選択される少なくとも1つの潤滑化分子を含むことを特徴とする、請求項1から11のいずれかに記載の潤滑化方法。
【請求項13】
固体表面を潤滑化するための潤滑キットであって、このキットが:
−第1の区画において、少なくとも1つの開裂可能なアリール塩;
−第2の区画において、少なくとも1つのラジカル重合性親水性モノマー;
−場合により、第3の区画において、重合のための化学開始剤;
−場合により、第4の区画において、潤滑化組成物
を含むことを特徴とするキット。
【請求項14】
請求項2から12のいずれかに記載の方法に従って潤滑化された表面を有する固体。
【請求項15】
請求項1から12のいずれかに記載の方法に従って潤滑化された、または請求項14に記載の固体を含む機械的システムであって、該システムが、ミリメートルまたはセンチメートルサイズのシステム、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)、スプレー機構、カテーテル表面、精密機構(時計のムーブメント)、人工器官、ポリマー系代替血管、インビボで埋め込まれているかどうかに拘わらないバイオチップ、粉末分配システム、液体分配システム、とりわけ生物学的流体の分配システム、および吸入器から選択されることを特徴とするシステム。
【請求項16】
加湿空気環境中、水性液体中、または、生物学的媒体中での請求項14に記載の基材の使用または請求項15に記載の機械的システムの使用。

【公表番号】特表2012−530831(P2012−530831A)
【公表日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−516727(P2012−516727)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【国際出願番号】PCT/EP2010/058945
【国際公開番号】WO2010/149719
【国際公開日】平成22年12月29日(2010.12.29)
【出願人】(510097644)コミッサリア ア ロンネルジー アトミック エ オ ゾンネルジー ザルテルナティーフ (33)
【Fターム(参考)】