説明

潤滑性チューブ

【課題】潤滑性コーティングの湿潤度を随時把握することができる潤滑性チューブを提供する。
【解決手段】本発明の潤滑性チューブ1は、樹脂からなるチューブ本体2と、チューブ本体2の表面の少なくとも一部に設けられ、湿潤時に潤滑性を発揮する潤滑性コーティング3と、チューブ本体2の表面及び潤滑性コーティング3の少なくとも一方に接触して設けられた湿潤度表示部5とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に潤滑性が付与された潤滑性チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療分野における非開腹処置技術の進歩に伴い、処置に使用される医療用チューブの需要が高まっている。これらのチューブは目的部位にスムーズに挿入できることが求められるため、低摩擦材料を基材の表面に配置したり、材料表面の摩擦を小さくするために、潤滑剤、低摩擦性樹脂、親水性ポリマー等をコーティングしたりする等の手法が採用されている。その一例として、イソシアネートを利用してポリエチレンオキシドを基材の表面にコーティングし、湿潤時に潤滑性を得る方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特公平3−39753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載の方法で作製された潤滑性コーティングは、水ベースの液体で濡らされたときに潤滑性を発揮するため、チューブの使用中に水分が蒸発して湿潤度が低下すると、チューブの潤滑性がそれに伴って低下する。一方、水分が過度に供給されると、使用初期段階で潤滑性が過剰に付与される。
上記のような潤滑性の変化は、外見上顕著には現れないため、ユーザは使用時における潤滑性をチューブの外観のみから的確に判断することは困難である。そのため、使用時の潤滑性に応じて操作を微調整するということが難しく、チューブの操作性が安定しないという問題がある。
【0004】
本発明は上記事情に鑑みて成されたものであり、潤滑性コーティングの湿潤度を随時把握することができる潤滑性チューブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の潤滑性チューブは、樹脂からなるチューブ本体と、前記チューブ本体の表面の少なくとも一部に設けられ、湿潤時に潤滑性を発揮する潤滑性コーティングと、前記チューブ本体の表面及び前記潤滑性コーティングの少なくとも一方に接触して設けられた湿潤度表示部とを備えることを特徴とする。
【0006】
本発明の潤滑性チューブによれば、チューブ本体の表面又は潤滑性コーティングの湿潤度が湿潤度表示部を見ることにより把握できるため、水分添加や乾燥によって湿潤度を制御したり、湿潤度に応じて操作を微調整したりすることができる。
【0007】
前記湿潤度表示部は、湿潤度に応じて色彩が変化する色彩変化材料を含んで構成されてもよい。この場合、湿潤度を色彩変化材料の色彩の変化によって容易に把握することができる。
【0008】
前記湿潤度表示部は、前記色彩変化材料を前記潤滑性コーティングに混合することによって前記潤滑性コーティングの内部に設けられてもよい。この場合、潤滑性コーティング全体の色彩が湿潤度に応じて変化するので、湿潤度をさらに容易に把握することができる。
【0009】
前記色彩変化材料は、コバルト化合物を含む材料でもよい。この場合、色彩変化材料が湿潤度に応じて、青〜紫〜赤と段階的に変化するので、湿潤度をさらに容易に把握することができる。
【0010】
前記色彩変化材料は、コバルト化合物とアルカリ土類金属塩との混合物を含む材料でもよい。この場合、検出できる湿潤度の範囲が広くなると共に、色彩変化材料の色彩変化速度を上げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の潤滑性チューブによれば、潤滑性コーティングの湿潤度を随時把握することができる潤滑性チューブを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の一実施形態について、図1から図4を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態の潤滑性チューブ1の斜視図である。潤滑性チューブ1は、樹脂等で形成された管状のチューブ本体2と、チューブ本体2の外周面に設けられた潤滑性コーティング(以下、単に「コーティング」と称する。)3とを備えて構成されている。
【0013】
チューブ本体2を形成する材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ナイロン、塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリブデン、シリコーン等を採用することができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の各種フッ素系材料等も採用可能である。チューブ本体2の径や長さは、使用目的に応じて自由に設定されてよい。
【0014】
図2は、チューブ本体2の拡大断面図である。チューブ本体2の表面には、水分と接触して湿潤となることによって潤滑性を発揮するコーティング3が、塗布や浸漬等の方法によって設けられている。コーティング3の材料としては、親水性高分子であるメチルビニルエーテル−無水マレイン酸共重合体(VEMA)や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸等を含む材料を採用することができる。
また、チューブ本体2とコーティング3との密着性が弱い場合は、必要に応じてテトラエッチ処理、コロナ放電等の表面処理をチューブ本体2に施してからコーティング3を配置してもよい。
【0015】
図2に示すように、コーティング3内には、湿潤度によって色彩が変化する色彩変化材料4が分散配置されており、これによってコーティング3に接触した状態で湿潤度表示部5が設けられている。
色彩変化材料4は、コバルト化合物4Aと、アルカリ土類金属塩4Bとの混合物を含んで構成されている。
なお、図2においては、各構成を見やすく示すために、各構成が実際の寸法と異なる寸法で表現されている。
【0016】
コバルト化合物4Aとしては、塩化コバルト、臭化コバルト、硫酸コバルト、炭酸コバルト等を採用することができる。これらのコバルト化合物は、湿潤度に応じて色彩が青から紫、そして赤へと変化するため、色彩を見ることによって大まかな湿潤度を判断することができる。また、コバルト化合物4Aは、潤滑性チューブを好適に操作できる程度の湿潤度80パーセント前後で特定の色彩(紫)となるので、ユーザはこの色彩を指標として、湿潤度の調整を行うことが可能である。
なお、本発明における湿潤度の定義については、後の記載においてその一例を示す。
【0017】
アルカリ土類金属塩4Bとしては、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウム等の塩酸塩や硝酸塩等を採用することができる。コバルト化合物4Aにアルカリ土類金属塩4Bを添加することにより、検出できる湿潤度の範囲が広がるとともに、色変化速度を上げることが可能となる。
【0018】
コーティング3に色彩変化材料4を配合する場合は、コーティングの材料100重量パーセント(wt%)に対し、5〜40wt%のコバルト化合物4Aを混合するのが好ましい。コバルト化合物4Aが5wt%未満であると、鮮明な色変化が得にくい。また、コバルト化合物4Aが40wt%より多くなると、コーティング3の性能に影響を及ぼすほか、アルカリ土類金属塩4Bの添加量が制限されて色変化速度が遅延しやすくなる。
【0019】
また、アルカリ土類金属塩4Bに関しては、コーティングの材料100wt%に対し、0.5〜5wt%の量を混合するのが好ましい。アルカリ土類金属塩4Bが0.5wt%未満であると、色変化速度が遅延しやすい。また、アルカリ土類金属塩4Bが5wt%より多くなると、コーティング3の性能に影響を及ぼすほか、コバルト化合物4Aの添加量が制限されて鮮明な色変化が得にくくなる。
【0020】
以下、実施例を用いて本実施形態の潤滑性チューブ1についてさらに説明する。
〔実施例〕
チューブ本体2として、外径5ミリメートル(mm)、内径3mm、長さ500mmのウレタンチューブ(商品名 ジュロンU:(株)潤工社製)を用意した。親水性高分子であるVEMA(ダイセル化学工業(株)製)の5wt%メチルエチルケトン(MEK)溶液を作製し、この溶液に、塩化コバルト及び塩化カルシウムをそれぞれ含有比率が30wt%、5wt%となるように攪拌混合させてコーティング3の材料を作製した。
【0021】
次に、チューブ本体2を上記のコーティング材料に浸漬(室温、60分)してから乾燥させた(60℃、1時間)。その後さらに、60℃の温水中に1時間保持したあと乾燥させて(60℃、12時間)湿潤度表示部5を備えたコーティング3を形成し、潤滑性チューブ1Aを得た。
【0022】
潤滑性チューブ1Aに対して以下に説明する方法で評価を行った。
潤滑性チューブ1Aは、図3に示すように、フォースゲージ100(商品名DPS−2:(株)イマダ製)に接続されてガイドチューブ101内に挿入され、ガイドチューブ101内を挿脱する際にかかる力量をフォースゲージ100によって測定することにより評価した。ガイドチューブ101の内径は8mmのものを使用し、内部を水で濡らさず乾燥環境とした。結果を表1に示す
【0023】
【表1】

【0024】
これまでの検討によって、上記のサイズの潤滑性チューブとガイドチューブとの関係においては、挿脱時の力量が350グラム重(gf)より大きいと、挿脱時に引っかかりが発生しやすく、180gfより小さいと滑りすぎて潤滑性チューブの位置ずれが発生しやすいことがわかっている。したがって、操作性が良好となる挿脱時の力量の範囲の一例として、180gf以上350gf以下という値を目安とすることができる。
【0025】
潤滑性チューブ1Aを水に濡らした状態で図3に示すようにガイドチューブ101内にセットし、1回目の挿脱力量を測定したところ、表1に示すように、約160gfであった。このとき、潤滑性チューブ1Aの湿潤度は約100%であり、外観色は赤色であった。なお、本実施形態においては、湿潤度は以下の式によって算出した。
(測定時の潤滑性チューブ質量―乾燥時の潤滑性チューブ質量)/(水添加直後の潤滑性チューブ質量―乾燥時の潤滑性チューブ質量)
【0026】
ガイドチューブ101内における挿脱を繰り返し、30回挿脱操作を行ったところで挿脱時にかかる力量を測定したところ、約230gfであった。このとき、潤滑性チューブ1Aの湿潤度は約80%であり、外観色は紫色であった。
【0027】
さらに挿脱操作を繰り返したところ、50回挿脱操作を行ったところで挿脱操作に伴う抵抗が大きくなり、挿脱時にかかる力量が約500gfとなった。このとき、潤滑性チューブ1Aの湿潤度は約30%であり、外観色は淡青色であった。
【0028】
さらに挿脱操作を繰り返した結果、70回挿脱操作を行ったところで挿脱操作に伴う抵抗がさらに大きくなり、挿脱時にかかる力量が約800gfとなった。このとき、潤滑性チューブ1Aの湿潤度は約10%であり、外観色は鮮明な青色となった。
【0029】
ここで、潤滑性チューブ1Aの表面に霧吹きによって水分を供給し、表面の外観色が紫色となるように調整した。この状態で挿脱時にかかる力量を測定したところ、約230gfであった。このとき、潤滑性チューブ1Aの湿潤度は約80%であった。
こうして、潤滑性チューブ1Aにおいては、湿潤度80%前後で操作性が良好であり、当該湿潤度に対応する湿潤度表示部5の色彩は紫色であることが確認できた。
【0030】
本実施形態の潤滑性チューブ1によれば、表面のコーティング3と接触するように色彩変化材料4が配合されて湿潤度表示部5が設けられているので、コーティング3の湿潤度の変化に伴って色彩変化材料4の色彩が変化する。したがって、湿潤度表示部5によって潤滑性チューブ1の湿潤度を的確に把握して湿潤度や操作時の力量調整等の指標とすることができる。
【0031】
また、色彩変化材料4がコーティング3全体に配合されているので、湿潤度の変化に伴って潤滑性チューブ1の表面に設けられたコーティング3全体の色彩が変化するため、色彩の変化を容易に把握することができる。
さらに、色彩変化材料4がコバルト化合物4Aを含んで構成されているので、湿潤度に応じて色彩が青〜紫〜赤と変化し、湿潤度をより容易に判断することができる。
【0032】
さらに、操作性の良好な湿潤度の範囲である80%前後と、コバルト化合物4Aが紫色を示す範囲とが概ね対応するので、ユーザは、湿潤度表示部5の色彩が紫色になるように、潤滑性チューブ1に水分を供給したり、乾燥させたりして湿潤度を調整することができる。したがって、常に好適に操作が行える湿潤度にするための調整を容易に行うことができる。なお、調整対象の色彩は紫色に限られず、ユーザが所望の湿潤度に調整するために任意の色彩を指標とすることが可能である。
【0033】
加えて、色彩変化材料4がアルカリ土類金属塩4Bを含んで構成されているので、色彩変化材料4の検出できる湿潤度の範囲が広がるとともに、色変化速度を上げることができる。したがって、湿潤度の変化が迅速に反映されるように色彩変化材料4を構成することができる。
【0034】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述の実施例においては、色彩変化材料4がコーティング3に配合される例を説明したが、これに代えて、色彩変化材料4をチューブ本体2の外面に塗布等によって直接固定して湿潤度表示部5を設け、その上からコーティング3を配置してもよい。
【0035】
また、図4に示す変形例のように、チューブ本体2の外周面の一部にコーティング3を設けず、チューブ本体2とのみ接触するように色彩変化材料4のみを配置して湿潤度表示部5とし、チューブ本体2表面の湿潤度を湿潤度表示部5によって表示させ、色彩変化材料4の色彩によってコーティング3の湿潤度を間接的に推測することができるように潤滑性チューブを構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態の潤滑性チューブを示す斜視図である。
【図2】同潤滑性チューブの拡大断面図である。
【図3】同潤滑性チューブの評価系を示す図である。
【図4】同潤滑性チューブの変形例を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0037】
1 潤滑性チューブ
2 チューブ本体
3 潤滑性コーティング
4 色彩変化材料
4A コバルト化合物
4B アルカリ土類金属塩
5 湿潤度表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂からなるチューブ本体と、
前記チューブ本体の表面の少なくとも一部に設けられ、湿潤時に潤滑性を発揮する潤滑性コーティングと、
前記チューブ本体の表面及び前記潤滑性コーティングの少なくとも一方に接触して設けられた湿潤度表示部と、
を備えることを特徴とする潤滑性チューブ。
【請求項2】
前記湿潤度表示部は、湿潤度に応じて色彩が変化する色彩変化材料を含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑性チューブ。
【請求項3】
前記湿潤度表示部は、前記色彩変化材料を前記潤滑性コーティングに混合することによって前記潤滑性コーティングの内部に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の潤滑性チューブ。
【請求項4】
前記色彩変化材料は、コバルト化合物を含む材料であることを特徴とする請求項2又は3に記載の潤滑性チューブ。
【請求項5】
前記色彩変化材料は、コバルト化合物とアルカリ土類金属塩との混合物を含む材料であることを特徴とする請求項4に記載の潤滑性チューブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−131808(P2009−131808A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−311269(P2007−311269)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】